悪いひとたち ~南方深海泊地へようこそ!~ 作:シャブモルヒネ
本編書けよっつー話ですね。申し訳ナース。
深海カラテ部 in 中部海域
中部海域の深海棲艦は暇である。
文化というのものは元を辿れば生活習慣に起因する。その土地特有の気候や食糧事情から始まって、外敵への対処法、自勢力を効率よく律するための因習、あるいは宗教、価値観、生産品……様々なものが生まれ、育まれていく。そういった意味で、中部海域の深海棲艦たちが暇つぶしの手段を模索するようになるのは必然だった。
なんせ、海しか無い。
人は、真っ白い部屋に閉じこめられると数日で発狂するとはいうけれど、それは深海棲艦においても似たようなものだった。
見渡す限りの大海原。
抜けるような青空なんてすぐに飽きる。
どこまで行っても同じ風景。音すらも変わり映えしない波の音だけで、まさに無限ループに陥ってしまったような感覚になってしまう。それに嫌気がさした中部海域の深海棲艦たちは、自然と少ない陸地に集うようになった。その大体がハワイ諸島。かつて人類の一大観光地だったその島々は、いまや深海棲艦たちの楽園となっていた。
……いや、訂正しよう。そこは、監獄と呼んだ方が正しい。
ちょっと想像してみてほしい。
ハワイ諸島には多数の深海棲艦がひしめいていて、そこがたくさんの勢力毎に分割されている。ただでさえ狭い島々が更に狭くなる。無用な争いを避けるために自勢力の領地以外を自由に歩き回れないからだ。一番広いハワイ島でもその面積は東京都の五倍に満たない。それが現状では十五に分断されている。
もう狭い。とにかく狭い。
いつも同じ顔触れ、同じ場所。海原よりはマシといえ、毎日毎日同じ景色を見て同じ生活を送っていれば飽きるというものだ。
更に悪いことに、外からの刺激も少なかった。要するに外敵、艦娘が侵略してきてくれない。なにせここは中部海域、そのほとんどを海が占めている以上、奪還するのも防衛維持するのも難易度が高すぎる。そして資源的価値も戦略的価値も無いときた(どこの国も近海で手一杯)。これでは人類が「別に後回しにしてよくね?」と放置を決め込んでしまっても仕方ないだろう。
……それでも、最初は違ったのだ。
世界の警察を自称する某米帝様が「うちの領地を何勝手に獲ってるんじゃい!」と攻めてきてくれていた。
当時の中部の深海棲艦たちは狂喜した。おらが村にやってきたアイドルたちを一目見ようと押しかける田舎者のごとく目を輝かせて殺到し、主砲をサイリウムがごとく振り回し、攻撃機の爆音で盛り上げて熱狂した挙句、精魂尽き果てるまでボッコボコのベコンベコンにした。死人が出るほど大盛況。まさに一大イベントだった。
そんなことを繰り返していたら二度と来てくれなくなってしまった。
当たり前である。
加減しろ莫迦、と言ったのは誰だろう。それからすぐにハワイ諸島の各陣営トップが集まって対策会議が設けられ、“次から艦娘が来たときは拮抗した戦力までしか出さない”とお触れが出された。
――さて、ここまでが大前提である。
そんな暇で暇で仕方ないハワイ諸島の深海棲艦たちにとっておきの大朗報が飛び込んできた。
『2019年5月中旬、極東の島国に侵攻の気配あり』
三年ぶりの大イベントである。そのニュースは瞬く間にハワイ諸島を駆け巡り、誰もがその話題に夢中になった。
「あの島国は三年でどう変わったのか」
「欧州艦が増えたらしい」
「基地航空隊が強化された」
「あの西方海域に殴りこんだ」
「今度はガチで奪還に来るらしい」
……そして、最後は必ずこう締めくくられた。
「あぁ、うちの艦隊に出撃させてくれないかなぁ」と。
そう。
先日に決まったルールのせいで、出撃できない連中が必ず出てくるのである。所謂、お留守番組というやつ。
偵察部隊の情報によると、敵の勢力は中々の数と戦績を持つが、それでも中部海域全ての深海棲艦を出撃させるには至らない。この一大イベントに参加できるのは、ハワイ諸島のおよそ半数までと決定が下された。
では、どうやって参加できる陣営を決めるのか?
それを決めるのが本当に大変だった。
「テメーんとこは三年前も参加しただルルォ!? 今回はウチに譲れよ!」
「は? 普段ろくに哨戒もしないような連中が美味しいところもっていけると思ってンの!? こないだの侵入事件の責任、まだとってないよなぁ!?」
「おいおい偵察の話ならこの六年間あの島国の情報を集めてたのはウチなんですけど! 今回の情報がこれだけ正確なのは誰のおかげだと思ってるんですかねぇ!?」
「うっせーボケやんのかコラ! オォン!?」
「あんだー!? 上等だ、かかってこいやぁ!」
こうなれば勢力間の多少の戦力差など関係ない。普段は犬を散歩させて「生き物と触れ合うのは素晴らしいことデスワ」などと有閑マダムを気取っている穏健派も目の色を変えて参戦を熱望した。
結局、収集がつかなかったため、参戦組を決めるための方法を決める会議になった。
ここでもひと悶着あって、くじ引き等による運否天賦……つまり公平性を重視する派閥と、何らかの勝負によって権利を勝ち取る弱肉強食派閥が舌戦を重ねた。互いの主張をぶつけること三日間。どっちでもいいじゃん、という結論を成立させるためには参加者たちが疲れ果てて投げやりになるまで待たなければならなかった。そうした末になんとか多数決で“弱肉強食派”を採用することができた。
以下はその取り決めである。
一、各陣営から代表者を一人出す。
ニ、総当たり戦。
三、競技種目は、深海カラテ。
「深海カラテってなぁに?」などという寸足らずはハワイ諸島には存在しない。
――説明しよう! 深海カラテとは! ハワイ諸島の深海棲艦で流行っているスポーツ競技である!
……と、これだけではあんまりなのでもう少し説明する。
中部海域がとにかく暇なのは前述の通りで、そのせいでハワイ諸島では様々な暇つぶしが流行していた。それは前述のペット育成だったり、ガーデニングだったり。その中でも2019年現在で一番流行っていたのが、件の深海カラテだった。
それは拉致ってきた人間からもたらされた武術だった。「面白いことをやらなきゃ殺す」と脅されたその男はインターネットでしか知らない中途半端な知識で空手を披露し、それが大ウケしてしまった。元より争いごとが好きな深海棲艦にとって武術の真似事は相性が良い。それに加えて、この競技は素手同士で行われるため轟沈者も出ない。とくれば、暇つぶしに最適だった。入門者はネズミ算式に増えていき、あっという間にルールが定められ、艦種間の階級制度まで出来上がった。月毎のチャンピオンは手製の新聞に載り、勢力の垣根を越えて褒めたたえられた。
そんな深海カラテが、今回の春イベント参戦権を得るための競技に選ばれたのである。
はっきりいって参加者全員がガチである。
参加者は一名までとなれば、階級的に最強である戦艦が選ばれるのは当たり前で、各陣営から腕に覚えのある戦艦娘たちが軒を連ねることになった。
普段は空気を読んで参加しない姫級たちがごろごろ集まっていた。もし艦娘がその場に居たら失禁して逃げ出したに違いない、錚々たる顔触れだった。
その中に一人、姫級ではない者が居た。
戦艦ル級改。
そんじょそこらのル級改ではない。深海カラテ・オアフ流創始者にして十七ヶ月連続チャンピオンという無敵の王者である。
――深海棲艦という生き物は、二つに分けられる。すなわち、姫級とそれ以外。それほどまでにこの二者の間にはスペック差がある。いうなればシャチとサメほどの差が。そう言われても分からぬ者は調べてみるといいだろう。その骨格を見ただけでどちらが強いかがすぐに分かる。絶対に埋められない差がそこには在る。
だが、このル級改はただのル級改ではなかった。ルールナシ・武器アリの海上戦ならいざ知らず、深海カラテで戦うとなれば話は違った。柳のように受け流し、槍のように刺す。彼女ならば姫級相手にやってくれるのではないか? そんな期待を抱いたのは彼女が所属する勢力の者だけではない。余所の勢力の一般艦船たちも絶対王者に注目していた。自分たちが今まで磨いてきた深海カラテの技術は、姫級とのスペック差も飛び越えてくれるのではないか……? そんな何百、何千という期待を一身に背負って、そのル級改は出場した。
その結果、
ぐうの音も出ないほどに完敗した。
@
だってどうしようもなかったのだから仕方ない。
姫級の攻撃は重すぎて受け流せず、隙をついて拳を直撃させても全く効き目がなかったのだから。
かつての絶対王者は今や見る影もない。閑散とした道場の真ん中で大の字になってくたばっていた。その目にはもはや何のやる気も残されていない。
今まで積み上げてきた全てが否定された。門下生も一気に減った。残ったのは自分も含めて六人だけ。かつては三桁も越えたというのに、なんという諸行無常。総当たり戦に参加する前は毎日のように届けられた応援のお手紙も今やゼロ。ポストの中も、道場も、心の中もすっからかん。このまま消えてしまいたいと本気で思っていた。
そんな時だ、顔見知りのネ級が訪ねてきたのは。
「ご機嫌よう……ってあらあら、随分と様変わりしていらっしゃいますわねぇ」
ガタガタと引き戸を開いてぴょこんと顔を出したのがそのネ級。
妙ちきりんな口調で喋るその女が、顔見知りのワタリだった。
――ワタリ。単艦で七つの海を渡りゆく深海棲艦。いうなれば渡り鳥のような手合いのことだ。
そいつは、自称では、航巡熊野の生まれ変わりだった。
絶対に嘘だとル級改は思っている。そう名乗り、印象に残る喋り方をして覚えてもらおうとしているだけだ。そんな手合いはたくさんいる。ワタリというやつはそうやって親しい相手を各地に作るのだ。
「……何しに来た」
「あら余所余所しい。半年ぶりに親友が顔を見せたっていうのに」
「誰が親友だ」
「ステップアップをお望みかしら?」
「ほざけ。どうせ私を笑いに来たんだろう。“深海カラテの師範も姫たちには勝てなかった”……余所でウケそうな話だからな」
「卑屈にならないでくださいな。私は貴女が胸を張っている姿が好きなのですよ」
「ふん、おためごかしを」
むくりと身を起こす。確かに腐っていてもしょうがない。
「……北の魔女には会えたのか?」
「ええ、そうはもう。随分と可愛らしい方でした。ようやく外海に出る気になったようで、たくさんの情報が売れました」
「ふぅん、幌筵泊地にこだわるのはやめたのか」
「早速お仕事も受けまして、これから南方海域に引き返すところなのですよ」
「へぇー、南方海域ねぇ」
「……なんだか覇気がありませんわねぇ」
南方に行く深海棲艦は皆無である。イカレ女たちの巣窟で危険だからだ。故に、その情報を伝えれば、この不貞腐れている師範様も少しは反応を見せてくれるとネ級は思っていた。……が、変わらず淀んだ目をしている。思ったよりも重症のようだった。
思わず唇が尖ってしまう。
と、入り口から賑やかな声がした。別の深海棲艦たちが賑々しく道場に入ってくる。
「あっ、クマちゃんじゃん。久しぶり」
「ご機嫌よう」
場が俄かに活気づく。……といっても、先日に大敗北を喫したばかりの集団はやはり明るくなりきれないようで、笑みを浮かべながらもどこか影がある。
「もう、仕方ないですわね。けれどご安心を。そんな貴女たちにうってつけの映像がありますわ」
「まーた始まった。どうせ安くはないんだろう?」
「当たり前ですわ。けれど今なら出血大サービス。格安の資源でお見せできますわ」
そう言って手荷物から小さなビデオカメラを取り出した。きっと余所の海域の珍しい映像でも入っているのだろう、それを売りさばくのが彼女の商売の一つだった。
「なんとぉぉぉ、南方海域の映像ですっ!」
片手を腰にあて、ふふんとドヤ顔してみせる。
「……よくもまぁあんな危ない海に何度も行けるもんだ。ほどほどにしておけよ」
「ご心配なく。逃げ足だけは自信がありますの」
ネ級はそう言って振り返り、道場の壁際に歩いていく。そして設置された大型液晶モニターにビデオカメラを繋ぎ始めた。
「おい、勝手に始めるなよ。誰も買うとは言ってないぞ」
「まぁまぁ、体験版とでも思って。始めの半分は無料で結構ですわ」
「そんなことを言っても見ないからな。最近サボってるから資源も余っていないんだ」
「ならツケでも結構。とにかくご覧になって下さいな」
「あのなぁ……」
ル級改たち、深海カラテ部の面々は顔を見合わせて溜め息をついた。この押しの強い航巡を誰が止める? 誰もが面倒くさくて、すぐに諦めた。やれやれ、と腰を下ろす。あぐらをかいて、なし崩し的にモニターを囲んだ。
「ぽちっ、とな」
電源が入れられた。モニターに一瞬、光が走り、見たことのない建物の外観が映し出された。随分とボロい。周囲は薄暗く、夜明け前であるように見えた。
「……なんだ、これ。動かないぞ。一体どこの建物なんだ」
どうにも視点が妙だった。地面に這いつくばっているかのように低く、雑草が端々に貼りついている。きっと隠れて撮影しているに違いない。
「ここはガダルカナル島の泊地施設ですわ」
「ガ島!? お前、よくあんなところまで行ってきたなぁ。南方にとっちゃ砂漠のオアシスみたいなもんだろ、やべー連中がわんさか集まって……」
「どうしました?」
「嫌な奴を思い出した」
「あら、どちら様?」
「ほら、トラック泊地の粘着ババア」
「?」
「自称第三戦隊のあいつだよ」
「ああ、コンゴウさん?」
「そう、そいつだ。私がオアフ流を始めたのも元はといえば……」
ル級改はそこまで言ってからハッとしたように口を噤むが、もう遅い。ネ級が興味津々という顔で覗き込んでいた。こうなったら続きをゲロるまで纏わりつかれる。
ル級改は深々と溜め息をついて、白旗をあげた。
「……あいつ、フラグシップだろ。なのに素手の殴り合いで負けたんだよ」
「あら、あらあら!」
嬉しそうな顔までしやがった。
けれど、気を遣われるよりはずっと気持ちいい。
「あれはまだ、深海カラテが流行る前の話だ。奴の戦い方がなんだったんだかは未だによく分からんが、とにかく素手で戦うための技術だった。目ぇ狙ってくるわ、投げ技で受身とらせてくれないわで、とにかくえげつなかった。あれがホンモノの空手ってやつなのかもしれん。……まぁとにかく負けたってわけだ。それでやり返してやろうと思って、オアフ流を立ち上げた」
「人に歴史ありですわねぇ。でも、どうしてガ島でコンゴウさんを思い出すんですの?」
「あいつ、暫く前にガ島泊地を獲ってくるって遠征したらしいんだよ。……会ってないか?」
「さぁ……大きな戦いがあったみたいですけど、その中には居ませんでしたわ。全滅したのではなくて?」
「ふん、ざまあみろだ」
そう言いながらもル級改は少し淋しそうだった。遠い日のいざこざを思い返しているのかもしれないし、リベンジマッチを果たせなくなって悔しがっているのかもしれない。
ネ級がなんと声をかけようか迷っていると、画面に一人の少女が現れた。
そいつは辺りを伺うように身を屈め、ガ島泊地の建物の外壁で止まった。盗撮者には気付いていない様子だ。
小さな背丈に、巨大な尻尾。その姿は話に聞いたことがある。南方海域特有の戦艦級。艦載機を飛ばせて、雷撃も撃てる反則野郎。大型艦だろうが潜水艦だろうが、誰でもヤっちまうクソビッチ。戦艦レ級のお出ましだ。
「やべー奴が来たなオイ」
レ級ってのはとにかく見境の無い奴ばかりらしい、ともっぱらの噂だった。盗撮しているネ級が見つかっていたらただでは済まなかっただろう。
そのレ級は、何か決意めいたものを伺わせる頷きをして、建物から少し離れたかと思ったら再び向き直った。およそ五メートルといったところか。尾を構え、建物に主砲を向ける。
「なんだぁ? 何がしたいんだコイツは?」
ワケが分からない。建物を撃ってどうするというのか。そして、たかが建造物を破壊するのにどうしてそこまで真剣な表情になれるのか。
「……補足しておきますと、この建物の中には敵がいるんです」
「敵だって?」
「そう、このレ級の敵です。ワタクシがこの場に居合わせたのは偶然で、事情はとんと分かりませんが……これから戦いが始まるんですよ」
「ふぅーん?」
聞いてもよく分からない。黙って映像を見ていろということなのだろう。ル級改は腕を組み、仲間たちとモニターを眺めた。
(戦い、ねえ)
そんなものは見飽きている。確かにレ級の映像は珍しいが、わざわざ資源を払ってまで見たいとは思わない。まぁ無料部分だというから見てやってはいるが……
と、そこで画面内のレ級がとうとうその主砲を建物へとぶっ放した。建物は一発で半壊。カメラが盛大に揺れる。中々の威力だ、と思っていたら当人が弾丸のような勢いで前方へ飛び出した。粉塵巻き上がる現場へと突撃し、姿が見えなくなったと思ったら凄まじい音がした。
ずどごん。
そうとしか表現できない音がした。
中に居るという敵に激突でもしたのか、その衝撃で更に木片が飛び散っていく。
(なんだ? 一体、中で何が起こっている?)
そう思っていたのも束の間で、今度は巨大な人影が飛び出してきた。既に半壊していた建物をものの見事に巻き込んでぶっ壊しながら、ゴロンゴロンと転がって動きを止めたように見せて浮き上がったのはその巨体を持ち上げたレ級がいたからで、取っ組み合う二者が断末魔のような雄叫びを上げながら睨みあっている光景で映像がストップした。
「はい、ここまで~♪」
そう告げるネ級の声は、既にこの場の六人のカラテ使いには聞こえていなかった。
何故なら、モニターの中でレ級が零距離格闘戦を仕掛けている相手が姫級だったからだ。そいつは頭に超がつくほどの有名人。南方海域のイカレ野郎どもの親玉で、発生するたびに中部海域の縄張りを侵してくる最悪の女だった。
南方棲戦姫である。
「おいおいおいおい、嘘だろコイツ……!」
レ級がいくら強いといっても、所詮は半人間型の深海棲艦。つまり姫級ではない。どう考えてもスペックで勝てる相手ではないのだ。
百歩譲って、どうしても戦わなくてはならないとしても格闘戦を挑むなんて愚の骨頂。だって、密着したらあの異次元のパワーで殴られる。受けた場所が潰れてしまう。それを、つい先日に姫級たちと殴りあってきたばかりのオアフ流師範は誰よりもよく分かっていた。
人間が熊とスデゴロして勝てるのは漫画の中の話だけであるように、姫級以外が姫級と殴り合った末路は決まっている。だというのに、このレ級は、どうして……。
気がつけば、カラテ使い全員が立ち上がっていた。
画面の中のレ級が何を思って南方棲戦姫と殴り合いをしようと思ったのかは分からない。だが、そこには尋常ではない決意があり、意地と気合と根性が漲っているのが明白だった。
――絶対に勝ってやる!
その叫びが聞こえるようだった。
そして、その執念めいた反逆心こそが自分たちの源泉だったとカラテ使いたちは思い出す。ル級改は、なぜオアフ流を立ち上げようと思ったのか? けして門下生に讃えられるためじゃない。自分を打ち負かしたあの気に食わない粘着ババアを殴り返してやるためだ。
「……続き、見ます?」
ネ級の問いに全員が即決する。
「当たり前だろォ!?」
ネ級はにやりと笑い、再生ボタンを押した。
死闘が再開される。
その結末は、まだ決まっていない。
本編が暗めな感じが続いていたので反動でこんなんなりました。