俺がマシュなのは間違いである 作:タユリ
とある廃墟群の隅の方、廃れた教会の隠し通路をくぐった先に、ヘスティアファミリアの拠点はあった。
…いや、めっちゃ廃墟です。中も生活感はあるけど完全に廃墟です。はい。
流石ファンタジーというかなんというか。まあ、廃墟は嫌いじゃない…っていうか、廃墟の写真集とか買ってたくらい好きなのでそこまで気にはならないんだけどね。
「そ、そんな顔しないでマシュ!ほら、住めば都というか、ここも悪い場所じゃないというか…ね!?」
俺の顔を見て何を勘違いしたのか、ホームのフォローをし始めたベルに俺は首を振った。
「いえ、私は雨風をしのげる場所さえあれば大丈夫ですので。それに、打ち捨てられた教会というのも中々味があって素敵だと思っていたところです」
「そ、そう?」
あ、逆に気を使わせたと思われたっぽい。一応本音なんだけどなぁ。
「そ、それじゃあ中に――――」
「べっるくううううううううん!」
「ごぁ!?」
扉を開けたと思った瞬間、ベル君が白い塊に吹っ飛ばされた!?
「先輩!?」
慌てて近寄ると、そこには。
「もーベル君!帰ってきてたんなら教えてよ!僕はずっと君の事を待っていたんだぜえへへへへ~」
「か、神様…ちょ、ちょ…!」
そこには、抱き着いて大きな胸を押し付けるロリ巨乳と、顔を真っ赤にして目を回しているベル君の姿があった。
と、ここで問題だ。ロリ巨乳さんはベル君に対して全力で抱き着いたので、今は倒れたベル君の上に馬乗り状態なのだが。このロリ巨乳さん、なんともきわどい恰好をしているのだ。それこそバスタオルを身に着けた状態の方がまだ肌が見えないのではないのかという程のだ。
だから…見えている。真っ白な純白のパンツが、見放題状態なのである。
「パンツ!パンツです先輩!」
「ぱっ!?それはどうでもいいからまずは神様、どいてくれませんか!?」
「どうでもいいってどういう…むっ」
かっと目を見開いた神様?が俺に顔を向けて、目を見開いた。
「べ、ベル君が…ベル君が女の子を連れてきてる!?」
「あはは…」
驚愕して暴れ始めた神様?を何とかベルがなだめて、話はやっと進み始めた。
「なるほど…それでこのファミリアに誘ったんだね、ベル君?」
「は、はい」
「そうか…」
神妙にうなずいた神様に、俺は思わず身構えた。すわ断られるのかと思ったが…。
「…よくやったベル君!これで二人目の団員!現状から考えて二倍の増員だやったー!」
「はい、そうですね神様!」
どうやら歓迎されたようだ。それじゃあさっきの間は一体何だったのか。
「さて、改めて自己紹介だ。僕の名前はヘスティア。このヘスティアファミリアの主神さ!」
「私はマシュ・キリエライトと言います。よろしくお願いします、ヘスティア様」
「…うん!よろしく、マシュ君!」
握手をする。
「それじゃあ、早速面接をしよう。ベル君、君にはちょっと席を外してもらうぜ」
「え?僕の時は面接とかなかった気が…」
「これから入る人全員を素通りで入れたら、よからぬ輩まで入れることになるだろう?まあ、ここで一つ練習でもしておこうかと思って…ね!」
「凄いです神様!」
どや顔をベルに見せつけるヘスティア様に、ベル君は素直な称賛を送り食材を買いに行くという名目の下出て行ってしまった。
「さて…これで二人きりだね?」
「は、はい」
面接とかあるのか。何か緊張するな。俺は促されたままソファに座り、ヘスティア様はベッドに座った。向かい合う形になる。
「さて、じゃあ直球に尋ねるけど…どうして偽名なんか名乗っているんだい?」
「…へ?」
…偽名?
「知らなかったのかい、僕ら神は人の嘘を見抜ける力を持つんだぜ」
「そ、そうなのですか…」
なんだそれ、対人チートかよ。神様凄い。
それにしても、偽名ってなんだ?
今の俺は身体はマシュだし名前もマシュの筈だ。嘘をついた気も全くなく、本名のつもりで名乗った筈だ。
…って、そうか。そもそも前提が違ったのか。本当の俺の身体は男で、名前も普通に漢字を使った上は二文字下は三文字の日本の名前だったのだ。
つまり、俺はそこら辺を意識せずに自己紹介してしまったため、嘘だと思われた、と。
「…嘘をついたつもりは、ありませんでした。これは本当です」
今度は偽りのないように言葉を選ぶことにする。
「…それは本当らしいね。うん、そっか…」
「あの…ごめんなさい…」
「いや、それが聞けただけで良かったよ。それに、どうしても悪人には見えないしね。偽名を使わなければならない事情があるのだろう?」
うーん、まあ確かにその通りっちゃその通りなのだが。
「偽名っていうか…貰った名前というか。これからは、それが私の本名です」
そうだ。前世の俺はもう死んだ。そして新しく生まれたのが今の俺なのだ。まあ…見た目とか全部借り物の身体なんだが。そこは深く考えないでおこう。
「そうかい。うん、分かった。僕は君の事を歓迎するよ。ようこそ、ヘスティアファミリアへ!マシュ君、君はもう僕の家族だ!」
俺はその言葉に安堵の息を漏らした。ここでやっぱりダメとか言われてたら、下手したら路頭に迷うところだった。
「さて、それじゃ早速ファルナを授けようじゃないか。マシュ君、服を脱いでベッドに仰向けに寝るんだ!」
「…はい?」
ファルナ…神の恩恵は、背中に刻まなければならない。だから服を脱いでベッドに仰向けに寝ろ、という話だった。
俺は自分が着ていた、カルデア内で着ていたマシュの私服の上だけを脱いでベッドに寝転がった。
「さてさて、それじゃあ失礼してっと。ちょっとくすぐったいかもしれないけど、そこは勘弁してくれよ?」
「は、はい。よろしくお願いします!」
女の子に馬乗りされてしまった。それも痴女っぽい恰好をしている神様にだ。ちょっと恥ずかしい。
その後、背中を指でつつかれまくり、つつがなく俺にステイタスが付与された――――。
「な、な、な…なんだこれえええええ!?」
うん。付与自体は、つつがなく。
マシュ・キリエライト
Lv1
力︰0 I
耐久:0 I
器用:0 I
敏捷:0 I
魔力:0 I
《魔法》
【雪花の盾】
・召喚魔法
・詠唱式【出でよ、今は亡き円卓の盾】
・円卓の盾の召喚。円卓の盾のスキルの自由行使権付与
《宝具》
【
・防御魔法
・発動条件:雪花の盾装備状態
・心の純白さにより強度の増減
・詠唱式【真名、開帳───私は災厄の席に立つ。それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ】
《スキル》
【
・魔力に対する高域抵抗
・パーティーメンバーへの無条件の耐久アビリティアップ
・パーティーメンバーへの状態異常の高域抵抗
・ステイタスへの書き加え
【
・自由な魔力の放出による防御実行権付与
【星見の少女】
・モンスター討伐時、中~低確率で『叡智の種火』~『叡智の業火』ドロップ
「初めから、魔法が二つ…っていうかスキルなんて三つも…!?それに、宝具って欄は一体…!?な、な、なんなんだこれ…!?」
「何かおかしいのですか?」
「おかしいよ!普通魔法は一つあるだけでも珍しいし、スキルだって最初はゼロが当たり前なんだよ!?宝具に至っては前代未聞だよ…!?」
なんと、そうだったのか。いや、俺にとってはマシュとしての能力は手に入るもんだとばかり思ってたから、これが当然だと思ってたんだが…まあ、最初から能力が完成してたらそりゃ怪しまれるか。
っていうかそもそも宝具という欄がステイタスに含まれている時点でおかしいらしい。普通に考えて、この【■■の盾】っていうスキルが関係しているっぽいけど…異常、なんだろうな、うん。
それと最後の【星見の少女】に関しては俺もツッコミ入れたい。現実でも俺に種火周回しろというのだろうか。俺を過労死させるつもりか。
「はー…いいかいマシュ君。このステイタスははっきり言って異常だ。君がどんな人生を送ってきたかについては、君の口から聞くまで僕からは尋ねないけど…それでも、レベル1…それも、たった今ステイタスが刻まれた初心者にはありえないようなステイタスなんだ」
「はあ…」
あまり実感できずにあいまいにうなずく俺に、ヘスティア様は続ける。
「という訳で、他の冒険者やギルドの職員はもちろん、同じ団員のベル君にもこのステイタスは決して見せないようにしてくれ。特に僕以外の神には絶対に見せないように。奴らは娯楽に飢えているから、こんなステイタスを持った美少女が現れたら…きっと、僕じゃ守り切れない」
「そ、そんな大ごとだったのですね…」
「大ごとなのさ…自覚を持つように、ね?」
「わ、分かりました!」
まあ、確かにこのファミリアは何も知らない俺から見ても零細だ。他のファミリアと軋轢が生まれでもしたら、すぐに崩されてしまうだろう。
ベル君とヘスティア様の仲の良さを見てしまった後なのである。それで自分の所為でファミリアが消滅してしまうとかなったら、俺は多分罪悪感に押しつぶされてしまうだろう。
俺はシールダー。ならば、この小さなぬくもり、守らねば。頑張ろう。
「ヘスティア様。このマシュ・キリエライト…先輩とヘスティア様を守れるよう、精進します!」
「そうか…うん、そうだね!きっと君にならできるよ!マシュ君、期待してるぜ!」
ヘスティア様がいつもの調子に戻り、俺に横から抱き着いてきた。柔らかいものが俺の二の腕にあががががががが!
神様はその後、ベッドから飛び降りた。
「それじゃあ、いつまでも半裸だと寒いだろう。そろそろベル君も帰ってくる頃だし、服を―――」
「神様!マシュ!今帰りまし…た…」
ナイスタイミングでドアを開けて中に入ってくる、買い物袋を腕に抱いたベル・クラネルの姿がそこにはあった。
当然、俺は現在半裸。さらにベッドに腰かけていた状態だったから、ちょうどベル君に身体の真正面を向けていた状態だった。さらには右手にステイタスの紙を持っていたので、胸は片手でしか隠していない。
「…~っ!?!?!?!?」
声にならない悲鳴を上げたのは、俺――――だけでなくベル君の方もだった。顔を真っ赤にして口を大きく開き、その後買い物袋ごと超スピードで踵を返して、
「すみませんでしたあああああああああ!」
「ベル君!君ってやつは、君ってやつはー!」
その後、なんやかんやあってベル君は神様に捕まり、浮気者と迫られたりして涙目になっていたのだった。
俺?俺はベル君を許したよ。
「ほ、本当にごめん…」
「いえ…男の人に身体を見られたのは、これが初めてですが…気に、してないので…」
「がふっ」
という、ダメージ付だったが。さらに顔を真っ赤に固まらせたベル君に対し、ヘスティア様の追撃が加えられた。
まあ、うん。ぶっちゃけ狙ってなかったんだが…身体が勝手に反応したのか、どうにも恥ずかしくてな…。すまない、ベル君を追い込んでしまって本当にすまない…。