(勝手な)作者の都合によりヤンデレ成分が含まれております。
あと短編集作りたいけど、キャラ名とか主人公設定書くの面倒で半ば諦めてます。
俺の名前は谷山 光輝。
小中高と地方の出で、大学は東京の中の上程度のところ。
まあ東京で普通の会社に就職して、デスクワークやら出張やら何やらをこなして4年。
26の時に今の嫁である川田 奏と結婚。
それから3年と少し経ったある春の日の話だ。
「光輝、早く起きてもらえる?」
不機嫌そうな嫁の声で目が覚める。
休日だというのに朝9時で起こされてしまう虚しさよ。
「奏…もうちょい寝かせてくれよ…昨日飲み会でムチャ飲みさせられて辛いんだってば…」
すると呆れたように息を吐く音が聞こえた。
いつもと変わらぬ不機嫌そうな顔で、俺と同じ会社に勤める嫁は言った。
「部署は違えど知ってるから……昨日の新人歓迎会は全員参加じゃ無かったんでしょ?」
痛い所を突かれる。
実は欠席可能な酒の席であるところを、嬉々として参加したのには理由があった。
というのも、最近家でご飯を食べつつ酒を飲んでいると、嫁の視線を感じるような気がするからなのだ。
実際振り返ってみても、嫁は特に俺を見ているわけではない。
不機嫌そうな顔はそのまま、俺の肩越しにお気に入りのドラマ「ヤンデレーザー」を(ほんの少しだけ)頬を緩めて鑑賞しているだけだ。
しかし、なぜか背後からの視線は、俺を捉えているように感じてならなかった。
それから逃げるために外で飲んで、新人の子に駅まで引きずってもらったなんて、口が裂けても言えないのである。
「あのな、全員参加しなくてもいい、なんてのはパワハラだって言われないための注意書きってだけだぞ?あんなものは、全員参加が暗黙のルールだ」
「……………あっそ」
本日の姫は非常に不機嫌な模様だ。
結婚当初はもっと無愛想なりに、可愛げのある嫁であるように思えたのだが…。
家ではご飯を作る係というのは、特に決まっていない。
食べたいものがあれば勝手に買って帰る。
作るのならもう一人の分も作る。
こんな感じだ。
たまに意思疎通がうまくいかずに二人分のご飯ができたら、それは次の食事に持ち越す。
こんなグダグダなルールのもと、俺たちの食生活は成り立っている。
「朝飯朝飯…」
冷蔵庫からコンビニで買った焼きそばを出す。
レンジで温めるのも面倒なので、2日ほど前に視線に耐えかねて残したビールを飲みつつ、室温で温める。
ビールがない。
「おーい、ビールどこ行ったか分かるか?」
ソファで新聞を読んでいる嫁は、新聞で顔を隠したまま無愛想に言った。
「飲みかけはお腹壊すよ、もう捨てた」
「…さいですか」
俺は知っている。
こういうことで、下手に彼女に追及や非難をすると実力行使で返されるのだ。
この前は食べていた蕎麦のめんつゆに、からしを大量に投入された。
その前は風呂上がりにパンツが一つも無くなっていた。
さらに前はトイレットペーパーを外されていた。
辛さにのたうち回り、下半身を隠し、謝らなくてはいけなくなるのである。
「今日、ちょっと出かけてくるから」
ぶっきらぼうにそう言う嫁。
ご機嫌斜めな嫁がいなくなるのは、やはり少し嬉しい。
「おう、行ってらっしゃい」
「ん」
嫁が家から出て行って数分。
手持ち無沙汰なので携帯を開いて、メールやメッセージを見てみる。
すると昨日交換した、後輩の女の子の連絡先から「その後大丈夫でしたか?飲みすぎていらしたようでしたので早速連絡させていただきました…」という、非常に優しいメッセージが来ていた。
嫁のドライな態度とは大違いだ。
感涙しつつ「おはよう、心配ありがとう、無事に帰りました」とだけ送っておく。
「ヒマだなぁ…」
ごろりとソファに横になっていると、段々と眠気がやって来た。
せっかくの休日なので、俺はそいつに身を任せた。
私の名前は谷山 奏。
今日も熟睡する旦那の顔を、数分眺めてから起床した。
最高の目覚めだった。
私は感情を表に出すことをなるべく控える。
それはきっと旦那への愛情や劣情の裏返しなのだろう。
結婚当初、旦那は「もっと感情をぶつけてもいい」と言ってくれた。
けれどそんなことはできない。
そんなことをしてしまえば、きっと彼は私を嫌う。
愛情が募れば募るほどに、私は旦那に対して声をかけることもしづらくなったし、無愛想にしか言葉を返せなくなった。
夜の方も、私は毎晩ドキドキして眠れない。
隣にいる旦那がいつ、何をしてくるか。
もちろん旦那は何もしないで眠っている。
もう2年ほどご無沙汰。
私の部屋には見られるとマズいものがある。
目隠し、手錠、結束バンド、ローション、なにかの際どいコスプレ衣装、媚薬、ゴム、地下室、彼の飲んだものの空き缶、飲みかけのものの缶、捨てた下着、服、湿布、絆創膏、包帯、ハンカチ。
全て見られると非常にマズい。
しかし私は同僚の千佳だけには全て話している。
彼女はいい友達だ。
今日も旦那への鬱憤を晴らすべく、千佳と食事をする。
「奏ー、こっちこっち」
「遅れてごめん」
「いいのいいの、奢ってくれたら」
「分かった」
「冗談よ」
千佳は彼氏はいない。
容姿はいいのだが、どうも本人にその気がないらしい。
千佳は旦那と同じ職場で働いている。
私は家庭の話を聞かせる代わりに、千佳に旦那をスパイしてもらっているのだ。
「で?光輝くんは?昨日はどうだったのよ」
「こっちが聞きたい」
「…奏さ、光輝くんにバレかけてるよ?」
「え?それはないよ」
鈍感な旦那が私の感情に気付くなんてありえない。
「昨日飲み会で聞いたの、奏の視線が気になって、家でうかうかお酒も飲めないって」
「………」
確かに、言われてみればその通りではある。
最近私は実力行使で攻めおとそうと考えていたところだ。
具体的に言えば、旦那の入っているお風呂の前で、ローションのボトルを片手に水着姿で突入しようかどうか5分間迷っていたり。
GPS発信機を旦那のカバンに縫い込んでみたはいいものの、受信機をいつまで監視したら良いものか悩んでいたり。
料理に血を入れすぎて色が変になって結局捨てることになったり。
「…それも光輝くん、少し不気味に思い始めてる、気をつけた方がいいと思うけど?」
「…」
「後輩の女の子にデレデレしてるところもあっt」
「は?」
私の悪い癖だ。
旦那がデレデレしていると、たとえそれが犬猫であっても嫉妬が抑えられなくなる。
しかし、治す気はさらさらない。
「落ち着きなよ、光輝くんのことだから優しい後輩としか思ってないんだろうけどね」
「……」
「報告は以上でーす」
私は決めた。
今日こそ旦那を私の方へゾッコンにしてみせる。
「ん?メールか…?」
携帯の振動で目が覚めた。
2時間ほど寝たことになるだろう。
「よかったです!昨日はお疲れ様でした!また週明けからお仕事よろしくお願いします!」
なんといい目覚めだ。
「ただいま」
携帯を見ていると後ろから奏の声。
凍った心臓のまま携帯を切って振り向く。
「おかえり、早かったな」
「…そう?私、お風呂入るから」
ふいとそっぽを向いて風呂の方へ行ってしまった。
これは見られただろうか、俺の入る風呂が氷水になるかもしれない。
しばらくして嫁が出てきた。
顔が赤く火照って、タオルを巻いただけの肌はつやつやと綺麗だ。
「…なに見てんの?」
「い、いや」
睨みつけると、先ほどまでの美しさはどこへやら。
「あ、それと、私今日早めに寝るから」
「ん?もしかして…具合とか悪いのか?」
普段と違いすぎる嫁に声をかけるが、返ってくるのはやはり冷たい返事だけ。
「別に、関係ないでしょ」
「やっちゃった……」
私は一人、夫婦のベッドの中で丸まっていた。
彼が心配してくれているというのに、私の天邪鬼はありがとうの一言も言えないくらいに悪化していた。
しかししかし、私は秘策を用意している。
夫婦の寝室のテーブルに置いてあるのは、千佳から買った(¥2000)香炉だ。
本人談『これさえ使えばオトコは獣になること確実!ズッコンバッコンで今日は眠れな(ry』である。
効かなければボコボコにして返金してもらうだけ。
裸にバスローブで、香炉を焚いてベッドに座る。
あとは旦那がこの部屋に入れば、このトラップは大成功だ。
それにしてもなんだか今日は疲れた…眠い…。
嫁はもう寝た。
俺もちびちびとあるものをツマんでいたが、俺もさっさと寝るべきなのかもしれない。
おかしかった嫁の様子も気になるし、寝室へと向かう。
「………?」
なんだか寝室の方から変な匂いがする。
きつい香水にごま油を垂らしてガス化したような。
まさかガス漏れだろうか。
「奏!大丈夫か!?」
扉を開くと、そこにはバスローブをはだけて大事なところが見えてしまった嫁が、寝ぼけ眼でこちらを見ていた。
「「………え?」」
「……ということ、です」
「………」
気まずい。
嫁は俺にしていた「隠し事」を話してくれた。
なんだか照れ臭くて面映ゆくて、どうしたらいいのか分からない。
「あの…と、とりあえず、な、服を着よう」
「バスローブ着てるけど…」
「マトモな服で話し合おう、そうすべきだ、うん」
まだ9時だ。
そういうコトは夜が更けてからやるものだろう。
決して俺がチキンとかそういうものではない。
すると、俺の携帯に着信が入った。
「…誰から?」
「ごめん、出てくる」
後輩からの電話に通話ボタンを押した、その直後。
「………いただきます」
ステキな夜だった。
香炉は返金してもらうとして、とりあえず旦那の後輩は着信拒否設定。
絞られた旦那はベッドに手錠で繋いでおく。
そう、旦那の事情など関係ない。
私が養えば、旦那は働きに出る必要すらもない。
名案だと思う。
「ね?光輝」
「……とりあえず寝かせてくれ…」
旦那を閉じ込めて、これまでの有給を使い尽くすまで(イメージトレーニングしたプレイをやり終えるまで)家に二人で引きこもるのは、また別の話。
我ながらお粗末です(直球)。