三玖と恋するフータロー   作:アランmk-2

10 / 32
さすがのフータローだって恋人にせっつかれたらプレゼント買うよね


宴もたけなわ夜もすがら

「えーそれではこの度の全国模試お疲れ様会と上杉風太郎君ならびに中野五姉妹のお誕生日おめでとう会を……まだだよ…………始めます! かんぱーい!」

「「「「「「乾杯!」」」」」」

 一花の乾杯の音頭で、皆はグラスをかち合わせる。カランというガラス同士がぶつかる音とグラスに入った氷がぶつかる音がした。

「さあ皆食べて食べて。今日は特に腕によりをかけたんだから!」

 二乃はいつになく嬉しそうに笑いながら、料理を小皿に取り分けた。俺は取り分けてくれた骨付きのから揚げ、俗に言うチューリップに口をつけた。カリッとした衣はニンニクやコショウの風味がして、中の肉から溢れた肉汁と絡み合う。文句なしの旨さだ。米が欲しい。

「おいしい! すごい二乃さん! お店で売ってるやつみたい!」

 ちょっとおめかししたらいはも嬉しそうに笑った。

「でも私、誕生日でもないのに、来て良かったのかな」

「いいんですよらいはちゃん。お祝いは皆でした方が楽しいですから!」

 らいはの隣に陣取った四葉はぎゅっと抱きしめて顔をぐりぐりしながら明るく言った。

「四葉さんくるしい~」

「さん、だなんて他人行儀な。違うでしょ~らいはちゃ~ん」

「四葉お姉ちゃん~」

「わはー、思い描いていた事が現実に!」

 なおもらいはへのぐりぐりを止めない四葉を五月が引きはがした。

「四葉、らいはちゃんをぐりぐり死させる気ですか」

 五月の胸に抱かれてらいはは人心地つく。

「あ、そうだ。私、お姉ちゃん達にプレゼント買ってきたの。お守り!」

 背負ってきた鞄をごそごそ漁ると、中から和紙に包まれたお守りを取り出した。

「はい、一花お姉ちゃん。私もお姉ちゃんみたいに綺麗な女の子に頑張ってなりたいな」

「ありがとーらいはちゃん。絶対なれるよ。だってこんなに可愛いんだもん」

 一花はらいはの頭をわしゃわしゃとなでる。

「二乃お姉ちゃん、美味しい料理ありがとう」

「皆らいはちゃんくらい素直だともっと作り甲斐あるのになー。ありがと」

 冷やしていたデザートの様子を見ていた二乃が、らいはにそのデザートを一口食べさせた。美味しい、といって笑ったらいはの額に二乃はキスをした。

「三玖お姉ちゃん、お兄ちゃんをよろしくね」

「うん。お兄ちゃんの事安心して任せられるようなお姉ちゃんになるから」

 三玖はらいはの手をとって微笑みを交わしあう。

「四葉お姉ちゃん、いつも元気なお姉ちゃんに私も元気を貰ってるよ」

「うう~、やっぱりらいはちゃん良い子です。抱きしめて……」

「四葉」

「五月、分かった今日はちょっと我慢するよ」

 そう五月に叱られてつーんと唇を尖らせた四葉を、らいはがそっと頭をなでた。

「はは、どっちが姉なんだか」

「もう、上杉さん」

 飛び掛かる体勢をとった四葉を俺は手で制した。

「五月さん、お姉ちゃんになっても仲良くしてね」

「はい。らいはちゃんは私の大切な友達ですから」

 そう言う五月にらいはは抱き着いた。

「え~ずるい五月~」

「ずるくありません」

 その微笑ましい光景に、皆から笑い声があがった。

「ね、見てみよう」

 一花はそう言って四人に視線を送り、まずは自分のお守りを和紙の包み紙から取り出した。

「えーと、商売繁盛? あはは、そうだね。もっと大きなドラマやCMに出られる女優になるように頑張るよ」

「私ね。これは、千客万来かな? らいはちゃん、私もうちょっと真剣に追いかけてみるわね、お店を出すって夢」

「次は……「あー! 私のお守り無病息災です。これでもっともっと頑張れます!」

「四葉、そんな割り込むみたいに大声ださなくても……三玖?」

 一花は四葉をたしなめるように言うと、しかし三玖が俯いてることに首を傾げた。

「どうしたの三玖?」

「……い、五月が先に言って……」

 先にと促された五月は、一花と目線を合わせて頭の上にはてなを浮かべたが、特に反論もなく包みからお守りを取り出した。

「学業成就のお守りです。らいはちゃん、このお守りに恥じないような、私が教えた人の学業も成就させるような、そんな先生になってみせます」

「五月さんならできるよ」

「最後に三玖ね。何かしら……縁結び!」と二乃が言い、

「もう結んだんだからいらないでしょ。家内安全じゃない?」一花はそう返して、

「金運は? やっぱり先立つものがないと」四葉は予想を立て、

「長寿祈願というのはどうでしょう。家族には長生きして欲しいですから」五月が締めた。

 皆の視線が三玖に集まると、三玖はもっと俯いて小さくなった。耳まで赤くなったまま、蚊の鳴くような声で言う。

「……の……り」

「聞こえないわよ三玖」

 二乃のその言葉に、三玖は真っ赤な顔を上げた。

「安産祈願のお守り!」

 一息でそう言うと、皆の視線から逃げるように俺の背中にしがみついた。

 皆は三玖のいきなりの大声に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、言葉を理解すると声をあげて笑い出した。

「「「「あははは!」」」」

 その笑い声に、三玖は俺の背中を掴む手の力を強くする。

「ひーひー……十年早いわよ」

「ふふふ、そうですね、せめて成人はしないと」

「あははー、でも一番最初に必要になるのは三玖だろうけどね」

「ししし、三玖、元気な赤ちゃんを産んでね。でもそしたら私達もおばさんか~」

「嫌よ、せめて三十超えるまではお姉さんって呼ばせるわ」

「お前ら気が早いぞ。結婚だってまだなのに」

「フータロー……」

 三玖はしがみついていた手を離して、俺の体に手を回して抱き着いてきた。それを見ていた皆は「ヒューッ」とはやし立てる。

「らいは、何て言ってこのお守りを買ったんだ? 三玖を最後にして言ってみてくれ」

「え? えーと……」

 らいはが指折り数えだした。

「お仕事頑張ってる人と、お店を開きたい人と、いつも元気な人と、先生になりたい人と」

「それで三玖は?」

「これからお姉ちゃんになる人」

 そう言うと二乃の口元がニヤリと歪む。

「なるほど、歳の離れたお兄さんが結婚するからお守りを買いに来たって思われたのね」

 二乃は納得して頷いた。しかし四葉は納得がいかないように顔をしかめる。

「でもだからっていきなり安産祈願のお守りを勧めるかな?」

「どこにでもフータロー君みたいなノーデリカシーさんはいるって事だよ」

「一花お前なかなか酷い事言ってるぞ」

「三玖、笑ってしまった事は謝ります。だから機嫌直してください。せっかく上杉君と一緒に誕生日を祝えるんですから」

 五月が三玖の隣まで来て背中をさする。俺に回されていた手が解かれる。

「うん……」

 どうやら観念したようだ。のそのそ緩慢な動きで三玖は俺の隣に座りなおした。

「さ、続けましょ」

 二乃の一声で皆に話し声が戻る。三玖の顔からも恥ずかしさのこわ張りが解け、皆の会話に楽しそうに混じった。

皆でつついていた料理の山がなくなり、デザートのシャーベットに舌鼓を打つ。

「デザートとケーキで甘い物がダブってないか?」

「文句言うなら私が食べるけど」

「甘い物は別腹」

こんなときは連携が取れている二乃と三玖の、いらないならよこせという視線をかわしながら平らげた。皿を片付ける。三玖が冷蔵庫からケーキの入った箱を持ってきて机の真ん中に置いた。イチゴのショートケーキのホールだ。三玖は細い蝋燭を十八本立てる。一花がマッチでその十八本に火をつけた。

「消しますよー」

 四葉はそう言って部屋の電気を消し、夕方の薄暗闇の中ぼんやりと同じ顔が五つ並ぶ。ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を彼女達の大きな瞳が映し出した。

「せーの」と二乃が合図をする。五人の声がピタリと重なり、すこし外れたらいはの声と一緒にハッピーバースデーを歌いだす。

「ハッピーバースデーディア……」

 そこで歌が一旦途切れ、三玖の隣の一花が小突いた。

「フータロー」

 三玖がそう歌を締めくくる。俺は照れくささにむずがゆくなって少し身じろぎした。

「お兄ちゃん?」

 らいはに言われてはっとし、俺は慌てて蝋燭を吹き消した。一息で全て消えて、皆が拍手してくれる。

「おめでとう!」

 俺は不思議な心持になった。こういうベタな祝われ方をあまりしたことがないからだろうか。……悪い気はしないな。

「さあ次は私達に歌ってよ、フータロー君」

 一花はその大きく開いた目を期待に光らせる。いや、一花だけでなく他の四姉妹も同じか。

「フータロー」

隣にいる三玖が袖をくいと引いてくる。その方向を向くと、上目遣いの三玖が俺にねだるような視線を俺にくれた。その可愛い視線にどうも弱いみたいだ。これが惚れた弱みか。

「分かった」

 蝋燭に火をつけなおして再び状況を作り直した。照れくさいがたまにはこういう労いもあっていいだろう。ハッピーバースデーをらいはと歌った。

「一花、二乃、三玖、四葉、五月、おめでとう」

 五人の息があっという間に蝋燭の火を消す。電気をつけると五人はにっと笑う。隣の三玖が飛びついてきた。

「ありがとうフータロー。一番嬉しい誕生日になったよ」

「三玖、言ったでしょ」

「あ……ごめん」

三玖は申し訳なさそうに引き下がった。どういう事だ?

「フータロー、プレゼント持って来た?」

「ん? ああ、持って来たぞ」

 俺は持って来た鞄を指さす。

姉妹は立ち上がって隣の部屋から小包を持って来た。

「まず私達から渡すね」

 そう三玖が言って五人は漢数字順に並んだ。小さい数から、つまり一花からだ。

「私からはこれ」

 一花の小包からは投資の本だ。……借金があっても投資はできるんだろうか?

「頑張ってお金を増やしてね。最近の学生は投資してる人も結構いるみたいだから、フータロー君もきっとできるよ」

「いや即金で欲しいんだが」

「フータロー君、近道は遠回り、遠回りは一番の近道って言葉知らないの?」

 知らん。が、厚意を無碍にするわけにもいかないし、もしかしたら必要な時が来るかもしれない。

「まあ、ありがとう。金持ちになる道は甘くないって事か」

 うんうんと満足そうに一花は頷いて、横にずれて二乃を呼び込んだ。

「私からはこれよ。アロマキャンドル」

 二乃は赤や青のつるりとした何かが入った箱を渡してきた。

「……どういう物なんだこれは?」

「えー嘘、知らないの? キャンドルは日本語で何?」

 なぜいきなり英語の問題を出されているのだろう。

「蝋燭だ」

「ピンポーン、正解。これは火をつけると香りが広がる蝋燭なの。いい香りに包まれて存分にリラックスしてちょうだい」

 二乃はそう話を終えて、後ろの三玖の肩を軽く叩いて俺の前に来るよう促した。

「私からはこれ」

 三玖は大きな袋を俺に突き出した。お店の名前がでかでかと載ったビニール袋だ。

「ジャージ上下セットとランニングシューズ」

 どうやらその店はスポーツ用品店の物らしい。らしくない三玖の出かけ先に頬が緩む。

「結局のところ走れってことだよな。体力が欲しいなら」

「私もお揃いのジャージを買ったから、一緒に走ろう?」

 しかし体力無しコンビが三日坊主で終わらないだろうか。

「頑張ろうね、フータロー」

 そう言うと三玖は立ち上がってケーキをカットしている二乃の下へ歩いていった。

「次は私です上杉さん。どうぞ!」

 四葉が渡してきた物はがさりと紙の擦れ合う音がした。これは千羽鶴か。千羽いないかもしれないがこういう形のものは千羽鶴だ。ムカデが足が百本もないのに百足と書くのと同じだ。

「お前よくこんなに折れたな」

「はい! 頑張りました」

 力こぶをつくってふんすと誇らしげに息を吐いた。

「ま、これだけ頑張ったんだ、何かしらのご利益はあるかもしれないな」

「きっとあります」

 俺はそっと鶴の束を横に置くと、いつの間にか目の前に来ていた五月を見る。

「私からはこれです。どうぞ」

 五月は大きい箱と小さい箱の二つを渡してきた。開けてみると大きい箱は茶葉のセットで、小さい箱は湯呑だ。

「コーヒーのセットと迷ったのですが、三玖の好みに合わせました。お父様やらいはちゃん、三玖と一緒に味わってください」

「ああ、そうしよう」

 箱を閉じてバッグに収めた。大きめの物を持って来たつもりだが、五人のプレゼントで膨れ上がってチャックが閉まりきらないほどだ。

「皆コーヒーと紅茶どっちにするー?」

 台所から二乃の声がする。コーヒーカップとティーカップをいくつか出して、ケーキを食べる準備をしていた。

 銘々が要望を言うと、二乃は慣れた手つきで手早く人数分のコーヒーと紅茶を用意した。ショートケーキのイチゴは最初に食べるか最後に食べるかというくだらない会話を楽しみながら食べ終え、ケーキのもたらす甘い幸せな余韻までしかと味わった。

 ぐだぐだとした時間が少し流れると、一花はいきなり伸びをして立ち上がり、姉妹に目線を送った。その指令を受け取った四人は一花を先頭にずらりと俺の前に並ぶ。

「ではフータロー君は何を用意してくれたのかなー?」

「三玖は最後ね。お楽しみは後にとっときなさい」

「分かった」

「上杉さんのセンスに期待してますよ」

「男友達からプレゼントを貰うのは初めてなので緊張します」

 五人の同じ顔が向かってくる。その不思議な圧力に後ずさり、しかしいやいやと思い直してまずは一花のプレゼントを取り出した。

「まずは一花。誕生日おめでとう」

 鞄からラッピングされた小ぶりな箱を取り出す。

「ありがとーフータロー君。ね、開けていい?」

「もうお前の物だ、好きにしろ」

「やったー。どれどれ……これは口紅? いやリップかな」

 俺が渡した箱の中には中指ほどの長さの円柱が入っている。一花の言った通りリップだ。

「凄く真っ当なプレゼントでお姉さん驚きを隠せないよ」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「うそうそ、ありがとねフータロー君」

 リップの封を切り、下唇にのせてなじませる。一花の唇がつやつやと艶やかに光って俺に聞いてきた。

「どう?」

「……いいんじゃないか?」

 一花は笑って立ち上がる。遠巻きに見ていたらいはの所に行って自慢していた。

「次は私ね」

「二乃、お前にはこれだ。おめでとう」

 アニメのキャラがあしらわれた箱を渡した。

「ハンドクリームかしら。ディズニーのプリントだなんてすっごい王道じゃない。それくらいの機微はあるのね」

「さっきから当たり強くない? 俺何かしたか?」

「ふふっ冗談よ。ありがと、フータロー」

 ハンドクリームの入った缶を開け、手の甲に少しとり、手全体に塗り広げる。

「いいわねこれ、手触りが優しくて」

「そりゃよかった」

 二乃はリップをつけている様子をらいはに撮ってもらっている一花の下へ行った。

「上杉さん、次は私です」

 わくわくを隠しきれない様子の四葉が俺の方にずいっと詰め寄る。

「近いぞ四葉。ほら、おめでとう。世話してやってくれ」

 俺はラッピングされた花束を渡した。ピンクのバラだ。

「わ、お花ですか?」

「三玖から観葉植物を置いている事を聞いたんだが……もしかして花は嫌だったか?」

「いえいえ、そんな事ありません! 大事にします」

 四葉は花束を胸に抱え、花の香りをいっぱいに吸い込んだ。

「上杉さん、ちなみに花言葉は考えてくれていますか?」

「ピンクのバラの花言葉は、しとやか、上品さだ」

「えぇ~花束でもお説教ですか?」

 ぷくっと四葉はむくれる。元気と快活さが服を着て歩いてるような奴だ。上の二つはあまりにそぐわないかもしれない。しかし花言葉の便利でもあり不便でもある点は、一つ二つではなく、もっと多くの意味を内包していることだろうか。

「それと、感謝と幸福だ」

 むくれていた四葉の顔がきょとんとし、ぽかんと口を開けて、最後に笑顔に変わった。

「ありがとうございます上杉さん、大事にお世話しますね」

 立ち上がった四葉は手頃な花瓶はないかと部屋中の捜索にのりだした。

「正直驚いています」

 五月は目をすっと細めて、真贋を見分けるように睨んでくる。

「お前もらしくないとか言いたいのか」

「それもありますが……いえ、止めておきましょう。こういうものは素直に貰った方が可愛げがありますから」

 さあ、と言って両掌を前にだしてくる。そう準備万端だと渡しづらいのはなぜだろうか。

「おめでとう五月。人前に出る仕事を目指すなら、これも少しは勉強しておくんだな」

 五月が出してきた手を越えて、プレゼントで軽く額を叩く。もうとぶつくさ文句を言いながら受け取った。

「これは……化粧品ですか?」

「一花や二乃に少しづつ教わったらどうだ? 学校じゃ化粧の授業はしてくれないぞ」

 五月はメイクパレットを開いてそこについてる鏡としばらく睨めっこする。満足したのかパタンと音を立てて閉じて小脇に抱えた。

「ありがとうございます上杉君。これをきっかけに少し化粧を勉強しようと思います」

「ああ。自分で送っておいてなんだが、本来の勉強に影響が出ない範囲で頑張れ」

「分かっています」

 五月は小さく一礼すると、なにやら激論を交わしている一花と二乃の輪に入って行った。

 さて、最後は……

「フータロー」

 その囁くような優しい声が俺のすぐ目の前でした。

「三玖、近い」

 顔を少し動かしたらキスしそうなほど近くに来ていた三玖に少し距離を取らせる。離れて三玖の顔を見ると、大きな目が爛々と輝き、体全体から期待のオーラが立ち昇っていた。

「フータロー、私すごいドキドキしてる。今までのプレゼントの中で一番」

「俺も今までのどんな買い物よりも緊張したよ。三玖に喜んでもらえると良いんだが……」

「フータローから貰う物だったら、どんなものでも嬉しい」

 そう言って笑う三玖は、どんな宝石よりも輝いて見えて、思わずキスしたくなる気持ちを抑えて俺はプレゼントを差し出した。

「受け取ってくれ、三玖。誕生日おめでとう」

 三玖はゆっくりとラッピングを解いて、箱を開けて中を確かめた。

「これ……ネックレス?」

 中に入っていたネックレスのチェーンを摘まんで持ち上げる。ゆらゆらと緑色の石が光って存在を主張していた。

「綺麗……ねえフータロー、これって何て石?」

「翡翠。5月の誕生石で、幸福の意味を持つ石だ」

 幸運、と三玖は小さく呟く。くすぐったそうに笑いながら俺の首に抱き着いてきた。

「ありがとう、フータロー。私幸せだよ」

 キラキラと輝く世界で一番綺麗な宝石が、上目遣いに見上げてくる。暴れまわるような思いを抑えきれず、そっと短く唇を重ねた。

「えへへ……嬉しい」

 さっと赤の照れ化粧をさした三玖は、少し距離をとって俺に背中を向けてこういった。

「つけて」

 後ろ髪をまとめて上げて、三玖はその白い首筋を晒す。絹の様な滑らかなうなじに指でそっと触れると、「んっ……」と色っぽい声が聞こえる。邪な考えを頭から振り払ってチェーンをくぐらせ、留め金を止めた。

「どう?」

 三玖の胸元に翡翠の石が控えめに光っている。その刺々しさのない柔らかな輝きと、理知的にも見える深い緑色に、俺はこの石で良かったなと思う。それを見て笑顔になった三玖に俺はこう言った。

「似合ってる」

 散々勉強して、数える事も億劫なほどの言葉を覚えたはずなのに、こういう時に出てくる言葉の何と素っ気ないことか。しかし、この女の子にゴテゴテと言葉を飾り立てるのも野暮なような気がして、俺は想いよ届けとばかりに三玖の手を握った。三玖は俺の手を握り返して、蕾がほころぶように笑った。

「三玖、おめでとう」

「フータロー、誕生日おめでとう」

 輝きを秘めた瞳を閉じた三玖に、ゆっくりと口付けた。

「あー! もう、目を離すとすぐこれなんだから!」

 突然の叫びに弾かれるように俺と三玖は離れた。声のした方を見ると、仁王立ちした二乃が威圧感たっぷりに見下ろしてきていた。一花は苦笑い、四葉が目を見開いて、五月は赤くなって俯き、らいはが無邪気に笑っていた。

「ほんとに仲良しだね、お兄ちゃんとお姉ちゃん」

「らいはちゃん、あれは仲良しっていうよりバカップルっていうんだよ」

「一花……変な言葉を教えるなよ」

「変な言葉を使って形容される行為をしてたのは何処の誰かなー?」

 俺は降参とばかりに両手を上げて皆の下へ歩いて行った。

「三玖も来てよー。皆でゲームしよう」

「分かった。何するの?」

 普段できないゲームに喜びながらプレイするらいはに微笑ましさを感じながら皆でゲームをした。協力し合い、競い合い、ときに蹴落としたり蹴落とされたり、そういう一つ一つが新鮮で喜びに満ちていた。

「あ、もうこんな時間」

 四葉がふと時計を見てそういった。たしかに時計は八時近くを指していた。明日も休みとはいえ、らいはを遅くまで起こしておきたくはないな。

「よしらいは、帰るか」

「うん」

「私達も見送りましょう」

 二乃の言葉に促されて皆が立ち上がった。忘れ物がないからいはと確認して、先に玄関に行き靴を履いて待ってた四人の下に行く。……四人?

「ん~、こんなに遊んだのは久しぶりだね」とは一花、

「たまにはいいじゃない」そう二乃が言い、

「らいはちゃん、今日は楽しんでくれましたか?」四葉はらいはに語り掛け、

「今度はらいはちゃんの誕生日を私達にお祝いさせてください」これは五月。

「あれ、三玖はどこ行った?」

 俺がそう尋ねると、四人の顔に隠しきれない可笑しさの色がにじみ、薄く笑いながら五月が言ってきた。

「上杉君、実はあなたにもう一つプレゼントがあるんです」

「は?」

「隣の部屋に行ってください。らいはちゃんは責任もって私達が送りますから」

 俺は二三言い返そうと思ったが、有無を言わさぬ強い力が四人の目から放たれ、思わず黙ってしまった。

「よろしい。じゃ、私達の事は気にしないで楽しんでね」

 その二乃の言葉を皮切りに、四人とらいはが玄関から出て行った。

 どういうつもりだろうか。自分たちの部屋に男一人ほったらかして出かけるなんて、普通考えられない。

「隣の部屋だったか?」

 それに三玖も見当たらない。三玖を探すついでにそのプレゼントやらを確かめておこう。

 隣の部屋に足を踏み入れる。電気をつけると部屋の端にうずくまる人がいた。

「三玖? どうした」

 そう声をかけても三玖はじっとして動かない。

「三玖、どこか体調でも悪いのか?」

 俺は近づいて三玖の肩を叩いた。三玖は意を決したように立ち上がり、その手には何か赤い布を持っていた。

 その布はところどころ緑色を差す、クリスマスのラッピングの様な赤いチェックのストールだ。三玖はそれを肩にかけ、赤い顔をして潤んだ瞳で俺を見てくる。よく見ると首にシルバーのハートがあしらわれた赤いチョーカーをつけて、頭にピンクのリボンをつけている。

「ふ、フータロー。えっと……その……」

 三玖はもごもごと口の中で言葉をしばらく転がすと、睨むように俺を見て言った。

 

「フータロー。ぷ……プレゼントは私。私をあげる」

 

 そこまで言うと、三玖は湯気が出そうなほど真っ赤になった顔を俯かせて、もじもじと可愛らしく身をよじる。

「くっ……あはは」

 俺はその可愛らしさと可笑しさに、思わず笑い声をあげてしまった。

「笑わないで……だから止めておこうって言ったのに……」

「いや、今までで一番のプレゼントだ」

 二乃が言ったでしょと三玖を止めたのはこれが理由か。後で時間をあげるから、今くらいは我慢しなさいという事だろう。

 俯いている三玖の肩を掴み抱き寄せた。腰に手を回して、ぴったりと体をくっつけた。どきりと三玖の鼓動が聞こえてきそうなほど近くで触れ合い、髪から匂い立つ女の子の甘い香りが、俺に狂おしいほど好きの感情を湧き立たせる。

「フータロー……返品しちゃやだよ」

「三玖こそ、俺から離れるなよ」

 少し離れて三玖と見つめ合う。頭に巻いたリボンをそっと外した。肩にかけたストールはぱさっと床に落ちて、俺はゆっくりと包装を一枚ずつ剥がしていく。

「大好き、フータロー。世界で一番愛してる」

 嬉しい愛の調べが囁かれると、好きの気持ちが抑えきれなくなり、思わずキスをしてしまった。にっこりと三玖は笑うと、

「もっとして、フータロー」

 猫のように甘えた声をして俺にしなだれかかってくる。

「愛してる、三玖」

「うん……」

 二人して布団にへたりこみ、俺は三玖を押し倒す。覆いかぶさるように三玖の上に行き、ゆっくりと重さをかけてキスをする。その二人が一人になるような深く繋がったキスに、体が熱を帯びて、燃える様に三玖の事しか考えられない。

 夜もすがら、俺たちは愛を交わしあう。心の繋がる人としての喜びと、体が繋がる男としての喜びに打ち震えて、その永遠の様な一瞬は、宝石の如く光り輝いて心の中に大切にしまわれた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。