三玖と恋するフータロー   作:アランmk-2

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盗撮騒動の時「なんだ今の!」ってフータロー女子の所行ってたけど、普通行けないよね


乙女の園へ

 夕食の後は自由時間である。

 ホテルから出なければ、他の宿泊客の迷惑にならなければ、何処に行っても大体許される。多くの生徒はフロントの待合スペースに行くか、友人の部屋に遊びに行く時間として使っている。

「鍵は誰が持とうか?」

 風呂上りのラフな私服に着替えた俺達は、扉の前で一枚のカードキーを巡って話し合いをしていた。

「上杉に渡すのだけは絶対にないな」

「なんだと」

「お前が明日の朝まで帰ってこなくても驚かないぜ、俺は」

「ははは、じゃあ僕が持っておこう。君達と違って愛を語らう天使もいない事だし」

 しばらくの協議の結果、武田が持つことになった。

「しかしお前は女子連合軍の最中に飛び込んでいく訳か。死ぬ気かよ?」

「骨は拾ってくれたまえ」

「骨が残ってるか?」

「墓を建ててやるから成仏してくれ」

「笑えない冗談は罪だよ」

 俺達はそんな事を言いながら部屋を出た。オートロックの扉がかちゃりとカギを締めた。

廊下には俺達のようにどこかに行こうとしている男子に、部屋に遊びの誘いにきた女子が溢れている。他の高校はどうだか知らないが、少なくとも俺達の高校は女子の区画に行くことも特に禁止されていない。しかしこのどこでも行ける自由時間は少ないのでそこで帳尻を合わせているのだろうか。過去にやらかした生徒がいないからこういう事ができるのか、と俺にしては珍しく先輩への感謝を捧げた。

「では皆、先生に怒られない程度の時間には帰ってくるように」

「分かってるっての」

 女子が泊っている階層でエレベーターが止まり扉が開いた。

「じゃあな」

 俺はそこで降りた。エレベーターのすぐ前には教師が立っていて、じろりと見定めるような目を向けてくる。

「変な事してたら分かるからね」

 女教師はそう冷たく言い放つ。大切な子供を預かっている身なのだ、男どもを警戒するのは当然だろう。

 俺は中野姉妹の、珍しい五人部屋のチャイムを鳴らした。室内からパタパタという足音がすると扉の前で止まり、ゆっくりと開かれた。

 少し開いた扉の隙間から恥ずかしそうに三玖が顔を出した。招かれるままに部屋に入ると、後ろの扉が閉まって鍵がかかると同時に三玖が身を寄せて来た。

「待ってた」

「皆は?」

「友達の所で遊んでくるって」

 三玖は俺のシャツの胸元をきゅっと摘まむと、物欲しがるような大きな瞳で見つめてくる。その顔の右側にかかった髪をはらって、顎に手をやり少し持ち上げる。

「ん……」

 三玖はゆっくりと目を閉じると、切ないような吐息を漏らして、俺がしようとしている事を受け止める心を決めた。

 俺はそっと触れるだけのキスをして、三玖の背中に手を回した。

 華奢な体から風呂上りの香りが立ち昇ってきて、その甘い匂いにくらくらと目が回りそうだ。その色っぽい首筋に噛みつくようにキスをすれば、三玖の体が震えて息を切らす。

「何してたんだ?」

 目を開けた三玖から体を離して笑いかけながらそう尋ねると、ベッドに歩いて行った。俺はそれについて行くと、三玖はベッドライトが置いてあるサイドテーブルの上にある京都の観光パンフレットを手に取った。

「これ見てた」

「まだ回り足りないのか?」

 ベッドに腰を落ち着けると俺達は肩が触れ合うほどに身を寄せる。三玖は俺の肩に頭を乗せると、パンフレットを広げながら話し始めた。

「だって、まだまだ見てない所いっぱいあるんだもん」

 上目遣いに俺を見上げながら、楽しそうに笑って言葉を続ける。

「銀閣寺でしょ、東寺に、京都御所も行きたかったな。あ、平等院にもいけばよかった。伏見稲荷の流れで行けたんだし……」

「そこまでだ。そんないっぺんに回れないだろ」

「でも……」

「なあ三玖」

 想像する嬉しさに顔をほころばせる三玖の頭を撫でる。少し濡れた髪を指で丁寧に梳きながら俺は語り掛けた。

「また来ればいい」

「え? でも受験なのにそんな余裕あるの?」

「そうじゃなくて」

 俺は疑問に目を白黒させる三玖の唇を奪った。

「んっ……もう……」

 口では文句を言いつつも、嬉しそうに緩まる口元からは幸せが溢れてくる。三玖は俺に体を預けながら、その潤んだ瞳で見上げてきて捉えて離さない。

「来年でも、再来年でも、もっともっと先の未来でも」

「フータロー……」

「またここに来よう。今度は二人で」

 俺はゆっくりと三玖をベッドに押し倒しながら、被さるようにキスを重ねた。そのまま首筋に手を這わす。

「や……ぁ」

 その立ち昇る色気に自制心を手放しそうになるのをなんとか堪えながら、俺は三玖の隣で体を横たえた。

 その愛しさと慈しみに満ちた笑顔にそっと触れながら、もう一度唇を重ねる。

 薄い肌が触れ合えば、その心も全て触れ合えるような気持ちになる。これが互いを思いやる恋人の特権なんだ。三玖の優しい心が、俺も知らない自らを照らし出してくれる。ずっとこうあれますように、そう思いを込めながら、もう一回、また一回とキスをする。

「でも……」

 くすくすと悪戯っぽく三玖は笑うと、

「大丈夫かな。お金とか。無駄遣いさせてあげないよ?」

 たまに見る機会のあるテレビに出てくる街の奥さんのような事を言う。

「稼げる所に就職するさ。らいはにどこだって受験させてやる。三玖とどこにだって行けるようになろう。そのために勉強するって、あの時約束したんだ」

「あの時?」

「えっ……と」

 しまった。失言だっただろうか。

 京都の出来事だからと口が滑ってしまったのか。こういう状況でも言い出さないんだ、あの子は三玖じゃないのだろう。こんな調子では三玖にも、あの子にも失礼だ。

「もしかして、女の子?」

「あー、いや」

 俺のはっきりとしない答えに、三玖はむっと頬を膨らませると俺の上に馬乗りになってきた。しなやかな足が横腹をぎゅっと挟んできて、下腹のあたりに柔らかいお尻が置かれる。

「妬けちゃうな」

 冷やりと氷のような視線をよこすと、俺の胸板に手を置いて爪でひっかいてきた。その咎めて俺の全てを暴こうという手つきに、弄ばれるままに情けない息を吐いた。

「う……あ……」

「その子はフータローの大切な人かもしれないけど」

 その氷の視線が解けると、微笑ましい物を見るように目を細めた三玖は、ゆっくり俺の胸板に置いた手に体重をかける。三玖はどちらかと言うと嫉妬深い方だが、子供の頃に交わした無邪気な約束に怒る程ではないようだ。だが……

「今、隣にいるのは私だよ」

 そう言うと、そっと俺の頬にキスをしてきた。三玖らしい、密やかに訴えかけるそのいじらしさにやられる。どきりと温かい思いが脈打って、汗でもにじみ出てしまいそうなほど体が熱を帯びた。

「だから、そんな目しちゃ、やだ」

 ゆらゆら揺れる青い瞳が、思いつめるような色を含んで俺を見つめる。

「そんな目って、どんな目だ?」

「悲しいみたいで、懐かしいみたいで、でも……ううん、えっと、そんな目」

「そんなんだったか、俺は。……すまなかった、三玖。楽しい旅行に水を差すような真似をして」

「あの、私も変な事言ってごめん」

「いいんだ。懐かしんでたってのは嘘じゃない。女々しいな、俺は」

「それだけ大切な思い出なんでしょ?」

「確かにそうだ。でも……」

 俺は確かに思い返している。あの子との思い出を、楽しかった記憶を、そしてあの約束を。それは、そうすることで感謝を捧げているような、そんな気持ちからだった。けれどもそんな事をしていたって満たされるのは、自己満足の感情だけであって。

 思い出は大切だが、今目の前にいる女の子ほどじゃない。

「三玖、お前より大切な物なんてない」

 長い三玖の前髪をはらって、その綺麗な顔立ちを見つめる。

 俺は三玖の頭を引き寄せて、唇を触れ合わせた。

「んっ……ふぁ……」

 触れ合い、離れて、そう繰り返すたびに、自分からか相手からなのか、それとも互いからなのかすら分からない溶け合ったような吐息をこぼして、時間を忘れてキスをした。

「ふ、フータロー……はげし……」

 と三玖は声を小さく上げると、体の力が抜けてしまったようで、俺の体にのしかかる。

「フータロー……ちゅっ」

 小さいが確かに響くキスの音を部屋中に残して、三玖はもぞもぞ俺の体をまさぐって来た。

 すぐ目の前に愛している女の子がいて、その子はケーキのように甘い香りをたてて、女の子の柔らかいあちこちが体に触れているなんて状況に、男の俺がどうなるかなんて、分かっていても止められはしない。

 つまり

「あっ、フータロー……これ……」

 三玖の、俺を見つめる顔がみるみる赤くなった。居心地が悪いように腰を浮かせるが、体の力が入らないからか、すぐに下ろして密着することになってしまう。

 これは仕方がない、と自分で言い訳しながら、謝罪の気持ちも込めつつ三玖の肩に手を回して力を込めた。

「フータローのえっち」

「……否定はしない」

 俺の体の不届き者は、三玖の体の柔らかさと反比例するように固くなってしまっていた。

 仕方ないだろう。と、誰にも言えない言い訳を心の中で重ねた。

 だって、風呂上りの三玖が色っぽくて、女の子の香りを振りまくんだ。その抜群のスタイルを覆うのは薄い寝間着一枚であって、そんな心許ない布切れ越しに彼女の豊かな胸が当たってしまっては、男なんてしょうもない生き物は反応せざるを得ない。

「ダメだよフータロー」

 三玖はつんと唇を尖らして、可愛らしく怒っている。

「すまない」

 そう言って体を離そうとしたのだが、三玖はあろうことか起き上がる為に俺がベッドについた手をはらってそのまま体重をかけてきた。

「ダメ……だからね」

 そう、咎めるのだ。しかし、言葉とは裏腹に三玖の目は、俺を捉えて離さない。

「ぁ……んぅ……」

 三玖は舐めるようにゆっくりと唇をこすり合わせるキスをすると、その間から舌が覗いて本当に舐めてきた。

「み……んぅ」

 俺の喋る為に開いた口に、そっと舌を忍ばせてくると、そのまま絡まる舌に俺は捕らわれてしまい離されそうにない。しかしそれは、俺自身も望んでいる事なのだ。

 口の中に、自分以外の誰かが入ってくる。それは歪な状況のようでいて、どうしてこんなに幸せなのだろう。恋人の甘い蜜が、自分を塗り替えてしまう行為が、こんなにも甘美な物だとは、この世のどこにもそれを十全に教えてくれる本は無い。

「ちゅっ……んんっ、んっ、あ……」

 あなた以外に何もいらないとばかりに口内を蹂躙してきた三玖は、行動の限界を迎えて息継ぎの為に離れてしまう。

「フータロー」

 息をしていない事による体の救難信号からの涙なのか、それとも心荒ぶる愛のさざめきが瞳から漏れた物なのか、青い湖のような目が波打つように光って揺れている。

 俺の固くなってしまった物に乗っている三玖が身じろぎをした。

「はっ……三玖、本当にダメだ……」

 俺の警告を確かに聞いたはずの三玖は、もう一度身じろぎして、蠱惑的に笑ってこう囁く。

「ダメ……だよ?」

 俺の首に手を回してきて抱き着いて、その大きな胸がぎゅっと押し付けられる。

「この……」

 されるがままの状況に、男としては反撃を試みたい。その場で寝がえりをうつように回って、俺と三玖の上下を入れ替える。

「フータロー……」

「男をからかいやがって」

 組み伏せた彼女の肢体が震える。見上げてくる瞳が期待しているように妖しく光った。その光に照らされて暴かれるのは、俺の中にある三玖と触れ合いたい欲望だ。

「フータ……んっ……」

 すっと首筋に手を這わして顎を少し指で上げさせる。三玖の唇が優しく弧を描いて言葉を紡ぎ出した。

「愛してる」

 その愛の調に聞き入れば、俺の心から溶岩のように愛しさが溢れてくる。痛いほどの鼓動が胸を打つので、俺は盛りのついた動物のように我慢できなくなって、三玖のその白磁みたいな白い肌を俺の指は這いまわり、そうしてキスをする。

「やっ……あっ、は……」

 三玖の赤く染まった顔から桃色の吐息がふわふわと零されると、その桃色の唇に吸い寄せられた。

 燃えるような恋と愛の熱さに動かされて、俺の手は三玖のその大きな膨らみに伸ばされようとしていた。

「だ、ダメだよ……フータロー」

「ああ、ダメ、だからな」

 そう言いつつも、俺の手は止まる事無く三玖の胸に指を沈めた。

「あっ……やぁ……もう」

 真っ赤に照れた顔が、喘ぐような囁きをかすかにそよがせる。この手に掴んだ三玖の胸の温かさと柔らかさと相まって、俺の自制心なんてものは遥か彼方へと飛んで行ってしまう。

「三玖、愛してる」

 震える心のままにキスをして、そのまま、そのまま……

  カチッ

「おーいお二人さん。もう時間だよー」

 扉の方から聞こえてくる一花の声に、俺は弾かれるように飛び起きた。夢中になっていて時間の感覚がなくなっていたようだ。

「四十秒で支度しなー」

「あっ! それテレビでやってるの忘れてた。ねえ二乃、録画予約してくれた?」

「いいじゃない何回も見てるんだから」

「不純です……不純ですけど、恋人同士としては健全なのでしょうか……」

 どんどん増えてくる姉妹の声に急かされて、俺は身だしなみを整え、三玖の少し乱れた髪を直してやった。

「フータロー……」

 切なげに呼ぶ声は、なんとも離れがたい気持ちを芽生えさせる。

「また明日な」

 おやすみのキスを交わしても、離れがたい気持ちは無くなってくれないが、何とか意思を振り絞って体を離した。三玖のその俺を捉えて離さない視線の糸が、絡みついて動けなくなる錯覚を覚える。

「また明日……フータロー」

 微笑む三玖の頭を撫でて、部屋を後にしようと立ち上がって扉に歩き出した。待っていた姉妹がニヤニヤとからかう色味を増した顔をしてくる。

「あなた達、大人気ね」

「なんだそれは」

 先鋒の端を発するのは二乃だ。その覚えのない言葉に思わず首をかしげる。我がクラスの大人気の代名詞といえば武田祐輔ではないのか。

「出て見たら分かりますよ上杉さん。ししし」

「はあ? お前らもまた明日な。早く寝ろよ」

 そう言って部屋を出ると、不自然に壁に寄りかかる女子が何人か立っていた。見覚えのある人もちらほら。

 俺はわざとらしく口笛を吹いている一人の女子に話かけた。武田を狙う急先鋒だったはずの彼女がどうしてここにいるのか、顔を反らした茶髪の彼女に尋ねてみた。

「お前らと会ってくると武田は言っていたんだが、そうじゃないのか」

「武田君は次の戦場に旅立って行ったよ」

「歴戦の傭兵かよあいつは。じゃあお前らは何してたんだこんな所で」

「べ、勉強をしに……」

 気まずそうに彼女は友人と顔を見合わせて、頬を掻いて苦笑いをした。

「勉強? 何の」

「いやー……我がクラス公認カップルはどんな風に部屋で過ごしているのかと、後学のために」

 つまりこいつらは部屋の真ん前まで来て、聞き耳を立てていやがったのか。

「散れ」

「あー酷い」

 冷たく言い放って彼女達を散らせた。まったく女子高生という生き物は、どうしてこう恋のあれこれに興味津々なのだろうか。

 重苦しい視線を感じたのでその方向を向くと、教師がこちらを見ていた。まだ自由時間が残っているので表立って文句は言えないが、さっさと男部屋に帰れと言いたいのは痛いほどに伝わって来る。

 俺は帰って来た名も知らぬ女子達と入れ違いにエレベーターに入り、男部屋の階に戻った。

 エレベーターに一人静かに乗っていると先ほどの行為の残滓が漂う。服に残った三玖の香りが、甘い余韻をじりじりと脳内に呼び起こして体が熱くなった。

 こういう事が出来る距離というのはとりあえず横に置いても、こんな夜にすぐ近くに三玖がいるこの状況は何だか不思議と嬉しい。

 三玖の柔らかさを思い出しそうになる頭を軽く振って部屋に戻った。

 やはり先に帰っていた武田に迎えられて部屋に入りベッドに横になる。

 京都のあちこちを歩き回った事で体はくたくただ。ベッドや枕が違うから寝付けない、なんてことは無い俺はたちまち夢の中へと落ちていく。

 明日は清水寺に行く予定だ。はっきりあの子と向かい合って言えないのは残念な気持ちもあるが、あの思い出の地で俺は彼女にこう言葉を捧げよう。

 

 ありがとう、と。

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