三玖と恋するフータロー   作:アランmk-2

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結局原作の話を使ってしまうジレンマ


鍛える刀の折り返し

 全国学力模試がすぐそこまで迫っている。

 俺は机に噛り付いて瞼をこじ開けて勉強し、それでも足りないかもしれない勝負に挑まなければならない。間違えるかもしれないという不安を残すような勉強をしているつもりはないが、啖呵を切った以上やれることは全てやる。

「そこで」

 と、俺は三玖の肩を掴んで言った。

「これから模試までは恋人らしいことは一切してやれない。登下校も勉強に当てるし、いつも繋いでいる手に参考書を持つし、三玖の事を目で追ってやれない」

「うん。大丈夫だよフータロー。全国10位以内だもん、それくらいしなくちゃいけないって私でも分かる」

 三玖はそう言って健気に笑う。

「それで……」

「フータロー?」

 小首をかしげる可愛らしい姿に、ドキリと胸が跳ねた。くそっ、俺はこんなに弱い人間だったか? ……いや、弱くても良い。三玖と一緒にいられるなら、弱いという言葉も甘んじて受け入れよう。

「フータロー、私に出来ることなら何でも言って」

「……キスの貯金がしたい」

「何だそんな……えっ?」

「具体的な数でいうなら30回はしたい」

「さんじゅう……」

 三玖は顔を赤くして、目を白黒させている。

 薄い肌を触れば脈動すら分かりそうな赤い顔にそっと手で触れた。

「三玖、俺に勝利をくれ」

「フータロ……んっ……」

 甘い香りが鼻腔をくすぐる。ケーキに飛びつく子供の様に、俺は三玖に口付けた。温かくて、柔らかくて優しい心地がいっぱいに広がるこれは、なるほど子供にさせたくないのも無理はない。これは麻薬だ。俺は愛に捕らわれた中毒患者なのだろう。

「あと29回」

「……フータロー、ローン組んでもいい?」

「残念、即金しか受け付けてない」

 三玖の組んでくれた金融プランを却下する。今の俺はとにかく現物が欲しいからだ。

「んっ……フータ……ちゅっ……ぁん」

 俺は呆れるほどにキスをする。短く長く、浅く深く、時には舌を絡ませて、柔らかい桃に噛り付くように首筋に。

「ふ、ふう……フータロー……」

 熱病にかかったように真っ赤な三玖は、呂律の回らない口で必死に俺に呼び掛けてくる。

「あ……あと一回」

 三玖は絶え絶えになった息を整える。30回は吹っ掛けたかなと思ったが、すればするほどもっと次がしたくなった。深呼吸して胸いっぱいに空気をため込む。

 さらさらと流れる三玖の髪を指で梳く。後頭部をがっちり掴んで力強く俺の唇に三玖の唇を引き合わせた。

「ぁん……っ……」

 お互いの唾液で濡れた唇が合わさると、何にも代えがたい気持ちよさに全身を貫かれた。俺は三玖の口を舌で開ける。二つの舌が絡み合い、甘くて熱い愛しさの味がした。

「っ……!」

 三玖の体が硬くなる。俺がシャツの下に手を入れたからだ。

 滑らかな腹をなで上げて、へそのくぼみ、みぞおちを通る。固い下着のワイヤーをすり抜け、柔らかい双丘の片方を揉んだ。

「フータロー!」

 三玖に突き飛ばされてしまった。じとりと俺を睨みながら、下着の位置を直している。

「いきなり……えっと……胸を触ってくるなんて、お金とるよ」

「いくらだ?」

「……フータローの一生」

 俺はその答えに嬉しくなって三玖に抱き着いた。

「払うさ、一生をかけて」

「うん……」

 見上げてくる三玖の潤んだ瞳に心がくすぐられる。愛を刻む鼓動のままに、ゆっくりと三玖に近づいて……

  コンコン

「いつから模試の科目にキスが追加されたのかしら?」

 音のした方を向くと、腕を組んだ二乃が憮然とした顔をして立っている。後ろには一花と四葉、そして五月もいた。

 俺は誤魔化しきれない気まずさを、咳払いで振り払う悪あがきをして、固い声を作って無理くり真面目に言った。

「よし、勉強を始めるぞ」

 

 

 

「フータローがかまってくれない……」

「ほっほーう。それはそのキスでタラコみたいに腫れた唇を今日のパスタに和えても良いという事かしら?」

 そう意地悪を言ってやれば三玖は手で唇を隠して、広げていたテキストに目を落とした。

(キス)なのにタラコとはこれ如何に」

「うるさい。だいたいあんた達普段からベタベタし過ぎ」

「自覚はある」

「会えない時間が愛を育てるって歌を見習いなさい」

 まったく何で私は負けた恋敵に愛を説いているのかしら。

まあ三玖がうなだれるのも分からない事もない。ここ最近のフータローは暇さえあれば勉強して、勉強の合間に勉強するというもはや修羅の境地に達している。頭の良い奴が勉強しまくって手に掛かるかどうかという世界なのだ、全国模試十位以内というものは。自分の勉強だけでも大変なのに、言ってて悲しいが私達5バカの面倒も見なくちゃいけない。改めて見ると無茶苦茶ね。

あの武田って奴がどれほどすごいのか分からないけど、厳しい戦いであることは変わらない。 

「でも三玖、いつになく勉強してるわね」

「偏差値50から55越えを目標にしてる」

 その三玖の目標設定に驚いた。偏差値55もあれば、有名どころの大学のどこかしらには行けるだろう。学部は選ばなくちゃいけないだろうけど。

「三玖、大学行くの?」

「分からない。これはお父さんに示したい目標だから」

「パパに?」

「うん。フータローを家庭教師にしてくれてありがとう、こんなに成績が伸びたんだって言いたい」

 三玖の言いたい事は分かった。パパは決して良い感情をフータローに抱いてない。その好悪の針を少しでも好に振れさせたい一心からの行動なんだ。……まあ三玖と付き合ってるって知ったら±0、むしろマイナスだろうけど。

「そう、頑張りなさい。三玖のだけちょっと多めにタラコ入れてあげる」

 パッと三玖は掌で唇をガードした。

「あんたの唇の事じゃないわよ!」

 

 

 

 

 全国学力模試当日。

 俺はらいはに行儀が悪いと言われても朝食を済ませながら書き込みだらけの問題集をめくっている。

「お兄ちゃん遅刻しちゃうよ」

 ここまでか。前日に用意していたバッグを手に取り玄関に向かう。

 チャイムが不意に鳴った。らいはがはーいと返事をしながら扉を開ける。

「お兄ちゃん、三玖お姉ちゃんが来てるよ」

 三玖が? という言葉を小さく口の中で転がして、机に置いた問題集を拾って玄関で靴を履く。

 扉を開ければ今の俺には目に毒なほどの、空色のカーディガンを着た三玖が待っていた。

「怒ってるのか? 今日が終わったら好きな所にでも行こう。だからあと少しだけ集中させてくれ」

 今は待ち受ける問題という名の壁を貫くための矢を番えて、心の弓を引き絞っている状態といえる。少しでも力を抜くと、そのまま矢が放たれてしまって頭から覚えたことが飛び立ってしまうような不安が、爪の先ほどではあるがあった。。

何も言わず少し伏せ目がちな三玖をあまり見ないように俺は歩き出した。片手に持った問題集を見ながら、もう片方の手で家から持ってきた牛乳に口をつけようとした。

「え……フータロー待って!」

 そう三玖が言って俺から牛乳を取り上げた。俺はその怪訝さに顔をしかめて三玖を見る。

「何だよ三玖」

「やっぱり……フータロー、この牛乳飲んじゃだめだよ」

 パックの側面の賞味期限日をしげしげと眺めて、それから俺に突きつけて来た。日付は今日から十日ほど前を示している。親父ならまだ飲めると言って躊躇なく飲むだろうが、さすがに俺は遠慮したい。きっと腹を下すだろうから。

「ありがとう三玖。気が付かなかった」

 艶めく髪にそっと触れて、三玖の頭をなでた。それはもう反射的にというか、無意識でというか、普段していた恋人としての行動だった。

「ぁ……フータロー」

 三玖の目が驚きに見開いて、そして細められる。白い頬に恥ずかしさと、自惚れだろうか、嬉しさに赤くなる。零れる吐息に熱がこもり、耳から不可避の波動が叩きこまれる。この模試までの勉強期間、三玖とは殊更教師と生徒という立場で心を縛り付けていたが、恋色の吐息はお構いなしにその鎖にヒビを入れてくる。

「行くぞ」

 脈打つ思いから目を離して冷たい調子でそう言った。

 学校の道すがらにいた四人と合流し、分からない所、疑問が残る所をポツリポツリと話しながら正門から入った。

 俺達の前に立ちはだかる様に立っている男がいた。武田だ。その嘘くさいほどの精悍な顔を歪めて感情的に言う。

「逃げずに良く来た。だがしかし、君は後悔することになるだろう! あの時逃げておけばよかったと!」

 二乃はそんな武田の声を聞くと、ファンデーションでも誤魔化しきれないほどの隈に縁どられた瞼をしばたたかせた。

「朝からうるさいわね……」

「上杉さんは負けません!」

「君たちには話してない!」

 二乃と四葉の言葉を、武田はその声優のように通る声で遮る。

 武田は階段を一つ二つと踏み、ワザとなのか知らないが芝居のように熱の増していく調子で一騎討ちという言葉を口の端に乗せる。

「悪いな一騎討ちじゃないんだ」

 俺は後ろの五人に目をやる。

 勉強しかできない馬鹿が、この五人に会って変わったんだ。世界は教科書に載っている事だけで出来ている訳じゃないという当たり前の事や、人との付き合いは面倒だったり時に疎ましく思ったりすることもあるけれど、楽しさや嬉しさに溢れている事。

そして、人を愛する喜びの事。

「こっちは六人いるからな」

「ふふふ……それが君の弱さだ」

 弱いか強いか、それは今日の模試の結果が何よりも雄弁に語ってくれるだろう。

 

「フータロー」

 下足場で靴を履き替えていると、三玖が小さく声をかけて来た。ちょいちょいとこっちに来いと指示する指に従って少し屈んで目線を合わせた。三玖はぽそりとこう囁いてくる。

「勝ったら、私ができる事何でもしてあげる。だから頑張って、フータロー」

 三玖は俺の顔を見て、ぱちぱちと瞬きしてから微笑んだ。体中を巡る倦怠感すら燃料にして燃えてしまうかのように体が熱くなり、まともに三玖が見れなくなる。

「三玖ー?」

「今行く」

 五月に呼ばれて三玖は駈け出して行った。今日の空模様のようなカーディガンが翻る。残された俺は、この血管すら焼き切れそうな熱をどうすればいい。……顔を洗ってこよう。

 

――

 

 昼休憩になると俺は手早く昼食を済ませ、午後からの教科に対しての最後の追い込みとばかりに問題集を繰る。しかし心の目は目の前の文字になかなか焦点を合わせてくれない。

『だから僕は、こんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかない……夢があるから』

 俺は武田の言葉を思い出す。あいつの勉強する理由は、宇宙飛行士というほんの一握りの者しかたどりつけない夢に辿り着くため。対して俺は? 誰かに必要とされるためにと勉強をしてきたが、その中でいつの間にか勉強自体が目的となってしまったのではないだろうか。

 もちろん、だからといって手を抜いたりワザと点を取らないという選択は無いが、武田の言葉は俺の心の水面に石を投げかけて波紋を立たせてきたような、そんな風に思った。

 最後の教科の問題が配られる。泣いても笑っても、これで終わりだ。俺はやけに重たい瞼をつねってこじ開け、かかる号令を待つ。

「始め」

 その声と同時に問題を表に返す音がして、ペンで紙を叩く音が上がる。基礎問題、応用問題と点数の低い箇所を見落としがないか確認しつつ駆け抜けて行く。一つで最初の問題の三か四問分の点数が貰える発展問題の大問に入る。ここが時間のかけ所だ。単純に難しい上に、かかる手間も前半とは段違いなので一つ積み方を間違えると全てが崩れてしまう事もあり得る。

 瞼が重たい。左手にペンを突き立てて無理やり意識を覚醒させる。……問題は解いた。あと……は……かい答よ……う紙……に。

…………

…………三……玖……おれは……

…………

 

「起きろ上杉」

 軽い物で頭を叩かれた感覚にはっとする。顔を上げると紙を丸めた物を持った先生が俺を見下ろしていた。  

「後ろの解答用紙を受け取れ」

 いまいち覚醒しきらない頭を後ろに向かせると、答案用紙の束を持って困った顔をしているクラスメートの姿が見えた。俺はそれを受け取り自分の解答を束にまとめて先生に渡した。

「よし今日は以上だ。お疲れ様」

 その声を合図に、堰を切ったかのように皆の口から話し声があふれ出す。

「フータロー君」

 まだ少しぼうっとした頭で何の気なしに問題用紙を眺めていると、一花が声をかけて来た。

「一花、何だ?」

「模試が終わった事だしさ、皆で甘い物でも食べに行かない? 代金は私達がもつよ」

「俺は……」

 言葉を続けようとしたが、一花は聞く耳をもたないといった風に立ち上がると一歩二歩と教室のドアに向かう。

「場所は三玖が知ってるから、一緒に来てね。図書室にいるから迎えに行ってあげて」

 そう言い切ると、教室の外で待っていた二乃達と合流して去って行った。

 俺は言われた通り図書室に向かった。中に入ると模試を検討しあっているグループが何組かいて、ああでもないこうでもないと答えを言い合っている。三玖は窓側の席に座り、大判の史跡写真集を眺めていた。

「三玖」

 近くまで行き、そう小さく声をかけると三玖は顔を上げてきて、俺の顔を見るとにっこり笑った。

「フータロー、お疲れさま」

 その笑顔が痛いほど胸を突く。ぱっくりと開いた傷口が鼓動に合わせて疼くように、ここ最近三玖と触れ合えなくてぽっかりと開いた心の穴が疼いた。

「皆で甘い物を食べに行くんだろ?」

「うん。行こ、フータロー」

 三玖は分厚い本を棚にしまうと、軽い足取りで下足場に歩を進めた。学校から出ると、溜めてきた想いが溢れてきて、隣を歩く三玖の手を握った。白くて小さくて、柔らかくて滑らかで、温かくて優しいこの手を二度と離さないと思った。

「フータロー、どうだった?」

 俺を見上げる三玖の目が光っている。その光る期待に俺は応えたい。

「負けるつもりはない。が、最後の問題を記入できなかった事だけは悔いが残るかな」

「ごめんね、フータロー。自分の勉強だけでも大変なのに、私達の勉強まで見てくれて」

「三玖、それは違う。お前達がいてくれたから俺はここまで頑張れた」

 握った手に力を込める。

「だから、笑ってくれ。俺は勝つ。俺自身のために、そして皆のために」

 三玖は少し伏せた顔を上げると、花が咲くように笑った。俺はその花に傷をつけないように優しく触れた。今日まで溜めていた想いの一滴を注ぐ。

「好きだ、三玖」

「私も大好き、フータロー」

 久しぶりのキスは痺れる様に刺激的で、陽だまりの様に温かくて、そして花の蜜の様に甘かった。

 

――――

 

「やあ上杉君、来たね」

 模試の結果が返却された日に、俺は屋上に来ていた。先客の武田は四つ折りにした結果の紙を弄びながら、こちらを真っすぐに見つめてくる。

「結果はもう見たかい?」

「まだ見ていないが、先生がソワソワしていたからそこそこの結果は出てるんじゃないか?」

「僕も同じさ」

 さあ、と武田は言うと四つ折りの紙の端を持ち、すぐにでも開ける構えだ。俺も二つ折りの結果を摘まみ、そして同時に広げる。

「八位……上杉君、君は?」

 ゆっくりと視線を下ろしていく。教科ごとの点数、志望大学の合格判定、そして……

「二位」

 目標の全国十位以内、そしてこいつの順位よりも上、俺は出された条件を全て成し遂げた。

 負けた武田は、しかしどこか嬉しそうに笑う。

「見事だ。僕は勘違いをしていた。飛び上がるために屈んだ君を、低くなったとなじる愚か者だったようだね」

 その笑いには少し自嘲が混じりながらも、不思議と誇らしそうだ。

「フータロー」

 屋上の扉が開く。そこには風に髪をたなびかせた三玖が立っていた。俺と武田の二人を見ると、バツの悪い顔をした。踵を返して出て行こうとする三玖を俺は呼び止める。

「武田、あいつが俺が勝てた理由の一つだ」

「どういう事だい?」

「勝利の女神ってやつだ」

 武田は俺の言葉にポカンと口を開ける。しかしすぐに可笑しそうに口を歪めて、笑い声をあげた。

「ははは! 勝利の女神か、君からそんな言葉が出てくるとは」

 くくく、と可笑しさが引かないように喉の奥で笑いながらこう続けた。

「上杉くん、君は鋭い抜き身の刃だった。しかし彼女たちと関わるうちに、叩かれ、折り返し、また叩かれ、そうして君は以前よりも強いひと振りの刀になったようだ」

 武田は俺に背を向け歩き出した。

「僕も研鑽を積むことにしよう。負けっぱなしではライバルとは言えないからね」

 三玖とすれ違い、扉を開けて屋上から出て行った。三玖は不思議そうに首をかしげて扉と俺を交互に見やる。そして俺のところまで駆け寄ってきた。

「フータロー、えっと……どうだった?」

 俺は黙って結果を三玖に渡した。眺めている顔がみるみる笑顔になって、勢いよく俺に抱き着いてきた。

「凄い! フータロー、本当に凄いよ!」

 そう喜ぶ三玖を抱きしめ返した。

「ああ。これでお前達の家庭教師を続けられる」

 三玖は背伸びして俺の頬にキスしてくる。照れくさそうに笑って、

「えへへ……おめでとう、フータロー」

 そう祝福をくれた。

「三玖はどうだったんだ?」

「見て」

 三玖はポケットから結果の書かれた紙を取り出し、広げて俺に見せて来た。各教科の点数は平均点付近で、三玖が目標にしていた偏差値は51を示している。このまま勉強を続けていけば、いわゆる普通の大学には問題なく入学できるだろう。

「三玖、凄いじゃないか。進学するには十分な実力があるってことだ」

「フータローのおかげ」

 そう言って三玖は誇らしげに笑うと、照れくさそうに頬を掻いた。

「それでね……」

 と話を切り替えると、さっきまでの笑顔が消えて真剣さを帯びた顔になる。俺は少し浮かれた居住まいを正して、三玖の話に聞き入る事にした。

「打ち明けようと思う」

「何を?」

「私達が付き合ってること」

「誰に?」

「お父さんに」

 俺は冬の寒空に立ち尽くすような、底冷えする心地になった。声を荒げて説教じみた事を言ったり、二乃を迎えに行った時に娘さんを頂いていきますと言った事からくる気まずさのようなものを思い出した。後者の話は三玖も怒るだろうから言わないでおこう……。

「一番私達の事で反対しそうなお父さんを説得できないと、皆が笑ってお祝いしてくれるなんて夢のまた夢だと思う」

「三玖……」

 三玖の決意のこもった瞳がまっすぐ俺を見据える。その生半可ではない想いに、俺の言える事は一つしかない。

「頑張れ三玖。お前ならできる」

「ありがとうフータロー。私、お父さんに会ってくる」

 




模試の結果は恋人がいるという+のおかげで一つ順位を上げれたという事にしました
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