久しぶりです。
今回、風牙さんは出ません。犬夜叉と殺生丸さんの話になります。
「・・・・犬夜叉、少し顔を貸しなさい。」
「へ?」
それは丁度昼食を取るために川辺で休憩している最中のことだった。
唐突に犬夜叉一向に話しかけてきた、銀髪の美丈夫。
白銀の髪に、黄金の瞳。そうして、上物の着物に、変わった形の鎧。
かごめが思わずびくりと体を震わせてしまうほどに、それは風牙に似ていた。
けれど、すぐにそれが風牙でないことを覚った。何故って、その瞳はあんまりにも凪いでいた。
風牙のような楽しみも、喜悦も、ない。ひどく、静まり返った瞳だった。
何よりも、その存在は風牙に比べて幾分か女性のような美と言えるものを持っていた。
「げ!殺生丸!」
「せっしょうまる?」
かごめはそう言って視線を犬夜叉へ向けるが、彼自身がそんな状況ではない。犬夜叉は殺生丸と呼んだ男へ対峙する。その表情には警戒はないが、慌てた色は確かに存在した。
そうして、名前を呼ばれた彼は不機嫌そうな顔で犬夜叉に近寄り、持っていた扇子でぱしりとその額を叩いた。
「兄上と呼ぶように言ったはずだ。」
「だ、だけど・・・・」
「お前も父上の子なのだからそれ相応の態度を持つように言ったはずだ。」
「・・・兄上。」
(あにうえ!?)
その会話を側で聞いていたかごめはその男をじっと見る。
犬夜叉に風牙以外に兄弟がいたことにかごめは驚く。
そんなことを考えていると殺生丸は犬夜叉に足払いを掛けて転ばせて彼を肩に担いだ。
「借りていくぞ。」
「へ?」
そんな台詞の後に、殺生丸は抵抗する犬夜叉を連れてどこかに去っていった。
ぽかんとそれを見送ったかごめの耳に、また声が入る。
「せっしょうまるさまあー!」
つい先ほど認識した名前を連呼する存在にかごめは視線を向けた。そこには、青白い肌をした、子鬼。そうして。
「いぬやしゃさまあー!」
冥加の声だった。
「そうか。もう、殺生丸様は犬夜叉を連れて。」
「まあ、どうせ返しに来るんじゃから待っとればええじゃろ。」
「わあっかとるわ、そんなこと!」
かごめは目の前で起こる、邪見という妖怪と、馴染み深い冥加の会話を聞いていた。その会話の向こう側、殺生丸に犬夜叉が連れていかれた森の奥では明らかな爆発音と絶叫が聞こえる。それにかごめは慌てたものの、冥加が大丈夫だと押し切る為一応は置いている。そうして、かごめが恐る恐る問いかけた。
「ええっと。さっきの銀髪の男の人って犬夜叉のお兄さんの、殺生丸さんで、いいんですか?」
「ふん!人間なんぞに教えることなど・・・・」
「わしは別にかまわんが、お前さん、犬夜叉様の身内にそんなこと言うとったら殺生丸様になんか言われるぞ。というか、果ては風牙様が出てくる可能性も・・・・」
冥加の言葉に邪見は思わずと言う様な形で周りを見回した。そうして、何もいないことを覚り、ほっと息を吐く。
「お、恐ろしいこと言うでないわ!貴様こそ、犬夜叉を助ける様に言われとるくせにぜんっぜんサボりまくっとるじゃないか!」
「そ、それはまあ、風牙様じゃし、御咎めは・・・・・」
冥加はそこまで言った後に、視線をウロウロさせ、顔を青くしたり、赤くしたりと忙しない。
「・・・・見とるかのお。」
「分からんぞ?」
ぼそぼそと言い合っている冥加に対して、かごめはふとずっと気になっていたことを口にした。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「なんですかの、かごめ様?」
「風牙ってどんな人?」
それに冥加たちは、予想通りと言うか見事に固まった。そうして、互いの顔をチラリと見た後に、恐る恐る口を開いた。
「・・・・かごめ様は、その、すでにお会いなられたのでしょ?」
「ならば、分かるじゃろう。あの、あんな感じじゃ。」
非常に、何というか奥歯にものが挟まったような言い方だ。かごめもまた言いたいことはわかる。
彼の妖怪を怖いと思う。
あの、人ではない何かをまざまざと覚えている。まるで、初夏のような爽やかな、殺意かどうかさえ今でも分からない、あの声を覚えている。
けれど、だからといって風牙という存在を厭うてしまうかと言われれば悩んでしまう。
かごめは確信をもって、彼の妖怪が自分を殺す気があったと断言が出来る。けれど、殺意を向けられること自体は別段今だって慣れたものだ。
少なくとも今の時点では、といっても桔梗と似ていないから、殺されないのなら一旦は置いておく程度にはかごめはずぶとかったりする。
けれど、風牙という存在は、何と言うか今でも分からないのだ。
怖いことには怖い。殺意を向けられたのだから当たり前なのだが。けれど、怖いという一言で片づけてはいけないのだと漠然と感じる。
事実、風牙はその殺意を忘れてしまいそうなほどに、人好きのする性格だった。愛想もよく、ニコニコと笑い、よくよくかごめを気遣った。
だからこそ、かごめはその妖怪からの明確な殺意と呼べるものを忘れてしまいそうになった。元より、犬夜叉とだって出会いなどそういいものではなかったのだ。
だからこそ、かごめはその風牙という存在に、自分とは違うものとしてそれでもそういうものだと割り切ろうとした。
けれど、風牙と別れた後のことだ。
犬夜叉はかごめの前を歩きながら、ぼそりと言った。
風牙のこと、気に入ったのか?
かごめはそれに、また焼きもちか何かかと呆れる。だからこそ、返事を返そうとしたとき、それを遮るように犬夜叉は言った。
「兄上を、心のうちに入れるなよ。」
振り返りはしなかった。いつものように感情をめいっぱいに叫ぶような声ではなかった。淡々と、淡々と、老いた老人のように静かな声だった。
あの人に理解を求めるな。
(私は。)
何一つだって、返事を返すことができなかった。どうしたのよ、なんて犬夜叉の顔を覗き込むことも出来なかった。
それは、その声は、目の前の同い年ほどの半妖が自分よりもずっと、長い時間を生きたことを示しているように聞こえた。
踏みこめば、犬夜叉はまったく違う、見たことも無いような顔をしていることはわかった。それを、どうしたって見ようとは思えなかった。
それから犬夜叉は少ししていつもの騒がしい少年に戻った。かごめはそれにほっとして、同じようにいつものごとく振舞った。けれど、今だってかごめの脳裏にはまざまざとその妖怪のことが脳裏にある。
怖いとは思った。けれど、表面上だけではただ、犬夜叉への過剰は心配があるだけのようだった。今までのような、有無を言わさずに殺しに来る妖怪たちとは違うように見えた。
恐ろしい部分はあっても、話せばわかる妖怪なのだろうと。何よりも、犬夜叉自身の態度からして悪い妖怪ではないのだろうと。
けれど、かごめは犬夜叉の生き疲れたような声音を覚えている。
かごめは、風牙を人ではないと理解した。けれど、距離感さえ間違わなければいいと思った。ちぐはぐとした印象だけが、嫌にこびり付いて離れない。
「・・・・怖いけど。でも、それだけじゃ片づけられなくて。何か知ってないかなって。」
かごめの言葉に、冥加と邪見は顔を見合わせる。けれど、邪見はくいっと顔を背けた。
「なーんでわしが人間の小娘なんぞのためにあの方の関心を買うかもしれん危険なんぞ犯さねばならん!?」
「わしだって、しょーじき、あのお方に関しては出来れば無関係でありたいんですぞ!」
嫌がる二匹を睨み付けてかごめは憎々しげにこう言った。
「いいわよ!そんな風に言うなら、犬夜叉と殺生丸さんに聞くから!」
それに二匹はごくりと喉をならした。
「い、いやあ。それは止めといた方が。」
「その、風牙さまのことは彼の御兄弟にとってはよいものでは。」
「教えてくれないならしかたないでしょ?」
かごめがぴしゃりとそう言うと、二人はこれまた何とも言えない顔で互いの顔を見た。
よほど、風牙のことについて犬夜叉たちを刺激してほしくないようだった。そうして、冥加の方が非常に言いにくそうな顔でかごめを見た。
「・・・・わしから聞いたことは他言しないでいただければ。」
「おい、話すのか!?」
「仕方がなかろうが!これで下手に犬夜叉様に風牙様のことを聞かれる方がわしは怖いわ!それに邪見、お主もあのお方について話すのじゃぞ?」
「は、嫌に決まって!」
「そうでなければ今度風牙様にお会いしたときあることないこといってやるからな!?」
それに邪見はぐうううと苦虫をかみつぶしたような顔をしていたが、それ以上に冥加の鬼気迫る声に覚悟を決めた顔で頷いた。
かごめとしてはいっそのこと、犬夜叉と風牙の間に何があったのかの方が気になっていた。
さて、風牙様がどのようなお方かという話じゃが。わしとて全てを知っているわけではないぞ?あのお方を本当の意味で理解されているのは、御母堂様は分からんが、お館様に出さえ無理であったからな。
わしはあのお方については恐ろしゅうて近寄りたくはなかったしのお。
じゃが、あのお方のお話については幾つか知っておるよ。
そうじゃの、一番古い話としては、わしも屋敷におったときに盗み聞いた話じゃが。
風牙様がさほどお年を召しておらん、幼いころのことじゃ。あのお方にも、恐ろしいことに幼いころがあったんじゃの。
あのお方の元に、何と言うか幾人か、刺客と言うか下剋上を狙った奴らが来たそうじゃった。そやつらがまーた、微妙に知恵が回る奴らでな。
お館様が人に対して甘い所から、幼かった風牙様を弱みになると思ったんじゃろうな。
いや、間違っとるわけじゃないぞ?
お館様も、まあ、いっくら風牙様とはいえ幼いころは可愛がられておられたそうじゃし。
うん?その不届きものたちか?
死んだよ。
当たり前じゃろうさ。自分の欲望に負けた奴らの成れの果てよ。己の実力を見誤ったのじゃ。その程度、当たり前じゃよ。
もちろん、そやつらは風牙様の手によって殺された。
それが、また、むごいことじゃった。
「もちろん、全員が皆殺しになっていたんじゃが。どうも、風牙さまはその刺客の奴らと鬼ごっこをされていたそうで。」
「鬼ごっこ?」
ずっと冥加の語りを聞いていたかごめは不思議そうに言った。それに冥加は非常に言いにくそうに口元をもごもごとさせた。
「わしも、伝え聞いた話じゃから、はっきり言えんが。屋敷の敷地内に結界を張られて、その中で延々と、その、鬼ごっこをされたそうで。捕まったものから一人ずつ、罰だと殺されていったそうなんじゃが。」
かごめは怯えた様に思わず体を摩った。改めて聞く、風牙の持つ幼い残虐性と言うものを字肌で感じて、初めて会った時のことを思い出していた。
けれど、それに反して冥加は首を振った。
「かごめ様は人ゆえにこれだけで恐ろしいでしょうが。我ら妖怪はこの程度の嗜虐心は理解できますぞ。何よりも、風牙さまの本質は山犬ですし、追いかけるうちに興奮していた可能性もありますしの。ただのお、風牙様が、お館様に見つかった時のことなのですが。」
襲って来た謀反者たちと殺しつくした風牙を父たる闘牙王は止めた。闘牙王は確かに妖怪にしては温和で、弱者にも優しくもあるが。それでも彼とて所詮は妖怪だ。自分には向かって来た、そうして己のかわいい盛りの息子を害そうとした妖怪たちに対して慈悲をもつこともなかった。
そこまではよかったのだ。ただ、少々妖怪として正しい息子の強さが証明されただけの話だった。
けれど、風牙は予想に反してこう言った。
あれらを連れて帰りたいと。
闘牙王もこの言葉については不思議に思った。元より、彼の長子は確かに変わり者で、どこかずれた部分は多々あれど、それでも襲って来たそれらを何故連れて帰りたいのかと。
それに、風牙は満面の笑みで答えたのだという。
はい、あの者たちはたくさん遊んでくれたのです。なので、是非ともお礼に食事でも振る舞ってやりたいのです。
たくさん、たくさん、遊んでくれて、僕はとっても嬉しいのです!
その声は、確かに冥加の口から発せられた言葉のはずだった。けれど、けれどもだ。
かごめは、その無邪気なセリフが、まざまざと風牙の声で耳の中に響いていた。
冥加はひどく神妙なそうな顔でかごめを見た。
「・・・・かごめ様。妖怪というのはもちろん、人よりはずっと残虐であったり、情と言うものが薄かったりしますがの。それでも、我らとて、殺し合いを心の底から遊びや戯れと思ってはおりません。生死の在り方は確かにそれ相応に扱われておりますので。」
それ故にと、冥加は語る。
それ故に、風牙様を恐れる妖怪は多いのですよ。
「・・・・風牙さんにとって、殺すって楽しいっていう事?」
「そうではないのじゃよ。風牙様に殺された存在など、戦などのことが殆どで、私怨で殺されたものなどほとんどおらんじゃろうな。あのお方にとって、殺すという行為自体がどういった意味を持つのか、よくわからんのじゃよ。」
「何よそれ。」
かごめは冥加の言葉の意味が分からずにぼやくように言った。それに冥加は体は震わせて何とも言えない声を出す。
「・・・あのお方は、本当によく分からんくてな。憎しみを持っとるかも曖昧で。怒っとるところなど、犬夜叉様が封印された折に八つ当たりのように戦で敵の妖怪どもを殺しまくっておったぐらいで。それこそ、それを除けばわしだってあのお方の怒りなど見たことがないわい。どんな無礼も、どんな罪も、笑って許されておったよ。」
「それなら、慕われるものなんじゃないの?」
かごめは思わずそう言った。確かに、かごめとて彼の妖怪を恐ろしいと思った
けれど、妖怪であるならばあのぐらいの恐怖位は普通ではないのだろうか。そうして、そこまで寛大ならば舐められることはあっても恐怖されることはないのではないか。
その言葉に、隣りで聞いていた邪見が呆れた様な顔をした。
「ならば聞くが小娘、お前さん、例えばの話じゃが。自分を殺そうとして来る存在がニコニコと笑っておはようと言って来たらどうする?」
「え?」
かごめは唐突に話しかけてきた邪見のそれに戸惑いの声をあげる。
「えっと、助けてとか、止めてとか?」
「その存在は変わることなくニコニコと笑って、可愛い子だねと微笑んで来たら?」
それにかごめは思わずそんな光景を想像する。それに、かごめは思わずぞわりと背筋を震わせた。
はくりと口を開けて、何と言えばいいのか分からない。だって、邪見の言うそれはあまりにも意味の分からない状況だったからだ。
自分は殺されそうになっている。ならば、もっと言うべきことはあるだろう。
例えば、怨みだとか苛立ちだとか、優越だとか。はては、食欲だとか、喜悦だとか。
かごめは今まで知りえた妖怪たちのことを思い出す。
邪見の語るそれらは、どれともかい離していた。かごめの知る何とも違う気がした。
「・・・あのお方の恐ろしいところはな、何が真か分からんところだ。殺生丸様とて、殺すときには何故かと言う目的を見つけられんことはない。じゃが、あのお方は、何もかもが分からん。」
愛らしいと笑いながら苦痛にのたうち回る様を眺め、けなげだと愛でながら滅びる様を見つめ、拒絶を寂しいと言いながら関心を捨て去り、向けられる情を嬉しいと微笑みながらちり芥のように扱う。
邪見の言葉に、かごめは無意識のうちに背筋を震わせた。
自分でも、何を語られているのか分からない。自分でも、いったい何を恐れたのか分からない。
分からないことが、心底、恐ろしいと思った。
「・・・・わしとて、あのお方への、この感覚を言い表すことは出来んが。だが、あのお方の怒りも、喜びも、憎しみも、楽しみも、とんと理解できん。そんな存在に仕えるなど御免こうむるわい。」
「風牙さんは、危険な妖怪?」
それに冥加が間に入る形で返事をする。
「害があるかないかと言われれば困りますなあ。あのお方は怒りを買わねば加害など向けることもありません。あの方の逆鱗は御兄弟のことぐらいなので。」
「直接危害を加えられないからと言ってよいものではないぞ?」
「どういうこと?」
邪見の方をかごめが見れば、彼は非常に嫌そうな顔をしている。
「あのお方は、時折困ったことに人にも助けを出すのだが。一度、食料不足の村に、とある木の実を分け与えた。その木の実は数日で実をつけるが、七日を過ぎる前に切り倒さねばらならんものでな。」
「切らないとどうなるの?」
「近くにいる人を取り込み始めるのだ。言いつけを守らずに、滅んだ村は数多くある。」
それこそ、何百人と死んだのだろうな。
ぼんやりとした声音で呟かれた声音にかごめは息を飲んだ。軽々しく吐かれた、その夥しい死の数にかごめは少しだけ風牙の甘やかな笑みを思い出す。
「まあ、人であるお前は風牙様には近寄らん方がよいぞ。あのお方の寵愛は呪いであり、あのお方の無関心は平穏なのだ。良くも悪くもな。」
「距離感さえ何ともないなら、まあ得することもないわけではないが。あのお方に寵愛を受けすぎたものは不思議と厄を被るしの。」
そう言って、目の前の妖怪たちはぶるりと体を震わせた。
それにかごめはいつの間にかたっていた鳥肌を摩る。かごめとて、人づてに聞いた話だけで
全てを断じる気はなかった。けれど、かごめの中で、風牙というそれへの恐怖心が湧きたってくる。
笑っていた、己への殺意を思い出す。
(・・・・そうか、風牙さんの、殺意は。)
殺そうとしたい、かごめ自身への悪意など欠片だってなくて。そこにあるのは、ただ、ただ、犬夜叉という弟への関心の結果にあった。
それでも、かごめは、犬夜叉の柔らかで悲しい横顔を覚えている。
恐ろしいのだと、心底思う。けれど、その犬夜叉のことを思い出すと、恐怖だけを抱いていいのか分からなかった。
分からない、分からない、分からない。
かごめの中にある、その妖への恐怖。そうして、犬夜叉の表情の中に見る風牙への慕い。
かごめのなかで、何かが噛みあわない。風牙という存在へ抱くべき感情が、何か、噛みあわない。
人を殺すというそれへの軽やかさを知っている。けれど、犬夜叉に向けられる慈しみの瞳を知っている。
その両方があるのは、妖怪として普通なのだろうか。
かごめは考える。けれど、それだけではないのだ。それだけではないのだろうと、そんな確信は持てるのに、理解が出来ない。
かごめは思わず、重くため息を吐いた。
「・・・・邪見。」
そんな中、かごめの後ろから突然声をかけられた。かごめが振り返ると、そこには白銀の髪をした見目の整った男がいた。そうして、彼は完全に抵抗する気が失せるまでにいたぶられた犬夜叉だった。
「行くぞ。」
「あ、はい!殺生丸様!」
今までかごめが昼食用に焚いていた火に当たっていた邪見は慌てて立ち上がる。そうして、殺生丸は引きずられるままの犬夜叉をかごめの隣りにそっと置いた。
「い、犬夜叉!?」
かごめは慌てて隣りに放られた犬夜叉に話しかける。犬夜叉はぐったりとしていたが気絶しているわけではなく、すぐに殺生丸に対して怒鳴る。
「ってめ!急に来たと思ったら何しやがる、せっ・・・・!」
犬夜叉が名前を呼ぼうとした瞬間、殺生丸はぎろりと瞳に力を入れて睨んだ。それに、犬夜叉はぐっと言葉を飲みこみ、台詞を吐き出した。
「あ、兄上。」
「・・・お前が久方ぶりにようやく起きたと知らされたのでな。様子を見に来たが。」
殺生丸は呆れたようにため息を吐き、その場に蹲る犬夜叉を見た。
「弱いな。なにも変わっていない。素早さ、手数の多さ、打ち込みの強さ、柔軟性。全くと言っていいほど変わっていない。」
「そ、そんなの、眠ってたんだから当たり前だろうが!」
きゃんと犬夜叉が吠えると、殺生丸はちらりとかごめに視線を向けた。
「・・・お前は弱かろうが、風牙が何を代価にしようと守り、生かすだろうがな。その娘は違うぞ。」
その言葉に犬夜叉の顔色が変わる。
「どういう意味だ?」
苛立つようなそれに殺生丸は呆れたようにため息を吐き、そして、持っていたボロボロの刀を一振り、犬夜叉に放り出した。犬夜叉はそれを受け取り、固まる。
「これ、親父の形見じゃ!」
「元より、お前に父上が残されたものだ。使い方はすでに見せたはずだ。次に会う時まで、戦える程度に使いこなすようにしろ。」
「でも!」
犬夜叉は鉄砕牙を持ったまま激昂する様に殺生丸を見た後、まるで後ろめたいように地面に視線を移した。
「これ、すげえ、欲しがってたじゃねえか。親父だって、あんたに使いこなされた方が、ずっと。」
段々と尻すぼみな言葉に殺生丸は呆れたようにため息を吐いた。
「私はお前と違って父上の庇護は必要ない。せいぜい、守られる程度の強さであることをお前は自覚するがいい、愚弟。」
そう言って殺生丸はそっと、犬夜叉の頭を少しだけ、それこそ一瞬と言える感覚で撫でた。さらりとした、銀の髪を、撫でた。
「強くなりなさい、私の庇護も、父上の庇護も、そして風牙の庇護も必要ない程度にな。でなければ、もう一度失うのはお前だ。」
その時の、犬夜叉の顔を、かごめは覚えている。まるで、子どものように、幼くて、切なくなるほどに拙い、表情で犬夜叉は殺生丸を見上げていた。
犬夜叉の頭から手を離して殺生丸は次にかごめへ視線を向けた。
「娘、お前もこれと共に在るのなら、風牙には気を付けなさい。」
「え?」
「あれはお前が望まずとも手を差し出すが、それをけして取ってはならない。あれは、人が関わるものではない。」
妖怪も同様だろうが。
それだけを言い捨てると、殺生丸は何の未練も無いというように背を向けてその場から去っていく。それに何の戸惑いも無く、振り返る気配も無い。
犬夜叉は思わずという顔で立ち上がり、そうして渡された刀を固く両手で握りしめていた。
犬夜叉は殺生丸に声をかけることはなかった。けれど、何かを言いたいというように、じっとその背を見つめていた。
かごめはなんて声をかければいいのか分からなかった。だって、その顔が、あんまりにも幼くて。
だからこそ、かごめは何となしに言葉を吐いた。
「・・・よく、分かんないけど。あんたのお兄さん?」
「少しの間、一緒に旅をしたんだ。一人で生きていくために、鍛えてもらった。その時、少しだけ、風牙のこととか親父のことを教えてくれたんだ。」
犬夜叉はそう言って、自分の手に持つ刀をじっと見た。
「あいつ、認めてねえけど、親父のこと大好きでさ。よく、親父の武勇伝を聞かせてくれたんだ。この刀だって、すげえ、気に入ってて。」
強い人だったんだって、尊敬してた。
掠れた声に、かごめは思わず声を漏らした。
「風牙さんのことも好きだった?」
犬夜叉の顔色が明らかに変わった。けれど、かごめは何かを言われる前に、言葉をかぶせた。
「風牙さんのこと、怖いって思うけど。あんたを大事にしてくれたっていうなら、優しくてくれたっていうなら。怖いだけじゃないと、思うわよ?」
その言葉に、犬夜叉は心底驚いた顔をした。そうして、まるで泣きそうなほどに、悲しそうで、そうして切なそうな顔をする。
「お前は、風牙は関わるなよ。関わったってろくなことにならねえからな。」
でもな。
犬夜叉はまるで雨だれのような微かな声を出した。
「誰かを大事にしたいと思ってるんだ。こええけどよ。それでも、優しくしてくれたんだ。ただ、大事にするやり方が下手くそで、よくわかってねえだけで。」
かごめはその、掠れた声に、子どものように拙い声に、そうねとこくりと頷いた。
殺生丸を優しくしすぎたかな、と。ただ、殺生丸としては、上の在り方が強烈すぎて、半妖でも又理解が出来る異母弟がまだましに育って対応が甘くなってる感じですかね。
犬夜叉は甘やかされたし、妖怪として放任が過ぎても身内認定はされてるからそれ相応に慕ってる感じです。
番外編のクロスオーバーに関しては少ししたら別枠の番外編専用の連載に移そうと思っているので、この連載からは消そうと思っています。