今回はりんちゃん初登場の回にとなります。あと、鋼牙も。
感想などありましたらよろしくお願いします。
「せーつう?」
間延びした声が辺りに響く。森の中、二人の男と小柄な影がまた二つ歩いて行く。
殺生丸はその声に思わず眉間に皺を寄せた。
先を歩く殺生丸の後ろを、彼にとっては兄にあたる男が歩く。うり二つと言っていいほど容姿をしていた。
銀の髪に、黄金の目。
互いの纏う空気というはそれこそ正反対であった。
弟である殺生丸は月のように鋭く冷たい顔立ちをしている。が、兄である風牙はまるでお日様のように陽気そうで、にこにこと笑っていた。
「何だよ、聞いてるのか?」
「・・・・・刀々斎の話ならば耳にたこができるほど聞いた。犬夜叉のこともだ。」
「えー、何だよ。我らが愛しい末子の成長だぞ。」
「貴様に相当絞られたせいであろうが。」
「えー、なんだよ。一人ででかくなりましたって顔してさあ。お前だって、俺やおやじにぼっこぼっこにされて強くなったくせに。」
長兄である風牙の言葉に殺生丸は眉間に皺を寄せる。
「殆ど家に帰らなかった貴様が何を言う。」
「親父だって似たようなもんじゃんか。」
ぷくっと風牙は頬に空気をためる。それに殺生丸の眉間の皺が深くなった。
それに、邪見はばくばくと心臓をならした。けれど、風牙のお付きである白縫は特別な動揺等もなく歩いていた。
殺生丸はため息を吐きたくなる。
(こいつは。こんなところで油を売るぐらいならばやることなど山ほどあるだろうに。)
頭痛がするような気さえしたが、そんなものはない。
風牙はそれでも忙しいはずなのだ。
部下の指揮に、趣味でしている人間たちの管理。それにプラスして、新しい術などの研究も行っているはずなのだが。
唐突に、ふらっと殺生丸の元を訪れてはくだらない話をしていく。
放っておいて欲しいというのが殺生丸の本音なのだ。だが、そんなことをいって取り扱ってくれるような存在ではない。
どうやって振り払うかと考えていたとき、進んでいた方向から血の臭いがしてくることに気づく。
殺生丸は、戦か何かだろうかと考えるが、人の血の臭いのほかに狼の臭いもしてくることに気づく。
「殺、俺、少し見てくるな。」
好奇心の強い風牙はそう言って、さっさと駆けていく。その後、白縫が続く。殺生丸はようやくいなくなった兄にほっと息をつく。
このままさっさとその場を去るかと考えるが、それ以上にこの先で何があり、そうして兄がどんなことをやらかすかの方が気になってしまう。
殺生丸は額に手を添えて、風牙の後を追った。
殺生丸が後を追った先、風牙は座り込み、何かを見ていた。その横には白縫がおり、同じように何かを見ている。
風牙は殺生丸に気づいたらしく、彼の方を振り返った。
「おお、殺!」
風牙が立ち上がったことで、彼が何を見ていたのか理解した。
それは、黒い髪をした幼子だった。ぼさぼさとした髪に、光のない目。すでに事切れていることを理解した。
「さっき、狼が来ててさ。かみ殺しちまったみたいでな。」
風牙が淡々とそう言った後、殺生丸はその幼子をのぞき込んだ。幼い少女だ。けれど、何故かその表情は夢を見るように、何故か幸福そうで。
「少し前までは意識もあったみたいなんだがな。声をかける暇も無く死んだんだ。」
どうしたもんかなあと言いながら風牙が少女へと手を伸ばす。
「・・・・待て。」
風牙の手が空中で止まる。彼はきょとりとした顔で殺生丸を見上げた。
「私がそれを預かる。」
「え、殺生丸様!?」
邪見が驚いたような声を上げる。が、そんなことを気にするような殺生丸でもない。風牙は殺生丸の台詞を聞いた後、にこりと笑った
「ああ、かまわんさ。俺はこの子が逃げてきた方向に行ってみる。好きにしなさい。白縫はここに残れ。」
「・・・・賜りました。」
風牙はさっさとその場から駆けていく。殺生丸は無言でそれを見送った後、また少女の遺体を見下ろした。
「あの、殺生丸さま?」
見下ろす少女は、特別なところなど一切無い。どこにでもいる、そうだ小汚い子供だ。
けれど、殺生丸の脳裏には、ふと、幼かった頃の末の子供を思い出していた。
風牙の話を聞いていたせいか、やたらと出会った時の愚弟のことを思い出していた。
少女は夢を見るように死んでいた。まるで、ひどく美しい物に焦がれるような、そんな顔をしていた。
殺生丸は己が腰から天生牙を引き抜いた。
(あの世からの使いか。この刀を使うときなど。)
そのままに殺生丸は天生牙を振り切った。ぼろぼろに崩れていくあの世の使いたち。天生牙を収め、彼は少女を抱き上げた。
とくりと、心臓が動き出す。少女は息を吐きながら、ゆっくりと目を見開いた。
「あ・・・・・・」
掠れた声、非力な手足、それはひどく弱い物だ。けれど、それは殺生丸を見て、まるで御仏にでも会ったように、心の底から嬉しげに微笑んだ。
殺生丸にとって、何故それが笑うかなどわかりはしない。けれど、それに目を細めた。
(ましか。)
死の時に笑うのではなく、生ある内に笑うべきだろう。そのほうがよほどましだ。
(あーあ。)
風牙は狼に襲われる村人を見て息を吐いた。たんと、村に降り立った風牙に、村人はもちろん、狼もまた警戒するように固まった。
「狼ねえ。こんな昼間に、堂々と人間の村を襲うはずがないとすれば。」
ゆっくりと目を細めた風牙は、ふむと頷いて懐から笛を取り出した。骨でできているらしい横笛を構えて、ゆっくりと音を出す。それは、まるで夜に鳴り響く何かの咆吼のように甲高く響いた。
狼たちはその声に、ぴたりと動きを止めた。そうして、まるで群れの長に従うように風牙の元に集まり出す。
風牙は笛から口を離した。
「ほら、これでもう大丈夫だ。」
村人たちは唐突に現れたそれに顔を見合わせた。何と言っても、風牙の様相から見てただの人間にはお世辞にも思えない。けれど、その美しい顔がゆるりと慈悲深く微笑む様を見れば、今まで張り詰めた何かが切れるような感触がした。
「あ、ありがとうございます!」
一人がそう言って、祈るように跪けばほかの人間も続いていく。風牙は跪いた人間の肩をそっと叩いた。
「いいや、お前たちも災難だったな。ほかのものは?」
「あ、殆ど、狼にやられてしまって。」
(確かに、見回した感じ生き残ってて数人。こりゃあ、村の再開は厳しいな。なら、一坊に保護させるか。)
にしても、と風牙は考える。狼のおかしな行動や、そうしてにおいからして、妖狼族が村を襲ったのはわかる。ただ、彼らの縄張りからしてそこまで近いとは言えない。
(確か、傘下に加えた極楽鳥から妖狼族への助力に渡した物が。)
風牙はそんなことを考えつつ、先ほど事切れていた少女の特徴を村人に伝える。それに、彼らはりんだとざわつき始めた。
(なら、俺のところで保護するか。殺のあの様子だと天生牙を使う気で。)
そこで風牙は思い立つ。
あの殺生丸が?
わざわざ、あんな状態の、縁もゆかりもない人間に天生牙を使っている?
何かきっかけかはわからない。ただ、彼にとって先ほどの少女はひどく興味を惹かれているのは事実だろう。
「ですが、これからどうすれば・・・・」
「そうだな、そうしよう。」
「え?」
風牙の言葉に村人たちは思わず、御仏のように優しげな彼を見た。
彼は笑っていた。確かに、笑っていた。耳まで避けたような口で、にたにたと、気分が悪くなるほどに、いやらしく、おぞましい笑みを浮かべていた。
風牙は狼たちに指示を出す。
「殺せ。」
それに狼たちは言われるがままに、先ほどの続きを続行した。
「た、たすけ・・・・」
そんな声もすぐに途絶えてしまう。それを、風牙は悲しそうに見た。申し訳なさそうに、彼は首をかしげた。
「ああ、哀れで、弱くて、かあいいのになあ。だが、すまんな、助けてやろうと思ったんだ。だが、この村は滅んでくれた方がずっと楽しいことが起こりそうなのでな。」
風牙はそう言い放つと、うきうきとした足取りでその場から立ち去った。
「殺!!」
後ろから聞こえてきた声に殺生丸は眉間に皺を寄せた。その声に、殺生丸の腕の中にいた少女がもぞりと動いた。
「おかえりなさいませ。」
「お、おかえりなさいませ。」
「お、やっぱし天生牙使ったのか。」
戻ってきた風牙に、殺生丸の周りにいた白縫と邪見が声をあげる。
風牙はそう言って殺生丸の腕の中にいる少女をのぞき込もうとする。が、殺生丸は己が兄から引き離すように彼に背を向ける。
それに風牙は驚いた顔をした後、にたあああああと楽しそうに笑った。
「ん、なんだ。兄ちゃんにも紹介してくれないのか?ん?」
にたにたと笑いながら己に絡んでくる兄に、殺生丸の眉間の皺が深くなっていく。邪見はだらだらと冷や汗を垂らしてそれを眺める。自分の肩に回った風牙の手を振り落とす。
それに風牙は余計に機嫌がよさそうにぷるぷる震える。
(あああああああ!かあいい!かあいいぞ!殺、なんてかあいいんだろうか!)
口に出せば、絶対に機嫌を損なうとわかっていて、風牙は頭の中でそう思う。
「それで、何があった?」
「うーん?村があったが。全滅だな。」
あっさりと告げたそれに、殺生丸は改めて少女を見た。ゆっくりと目を細めた殺生丸を、少女は不思議そうに見上げた
「・・・・主様。」
「うん、なんだい?」
「この子のことですが。天生牙のおかげで目立った外傷はありません。ただ、汚れておりますし、着物もボロボロなので変えた方がよいかと。あと、衰弱しておりますので、食事と休養も。」
「そうか。ふむ、殺、どうする?」
「しれたこと。人間の村にでもあずければいいだろう。」
「預けんの?」
それに風牙は顎に手をやって首をかしげる。そうして、そのまま足を進めようとした殺生丸の肩に手を回して、耳元に口を寄せる。
「殺、孤児の扱いってわかってる?」
「・・・・どういう意味だ?」
「まあ、村によって扱いは変わるが。後ろ盾もない、非力な子供の扱いは悲惨だぞ。まあ、単純な仕事を任せられれる程度ならいいが。人以下の扱いをすることもあるがな。」
さて、この子はどうなるかな?
殺生丸はぎろりと風牙を睨んだ。それに、彼はにっこりと笑った。
「殺生丸、お前は何故、それを助けた?」
ひどく穏やかな声で、それは言った。
「我らは所詮人でなし。己が欲こそ至高とせん獣に過ぎぬというのなら、それこそ真であるだろう。命の責を語ることこそこれ以上の笑い話であろうが。ただな、殺生丸。お前が、それを生かしたのだ。」
兄が笑っていた。いつもの、子供のような笑みではない。
静かで、飄々とした、古木のような老いた笑み。
それは、ああ、それは。
憎らしいほどに、父に似ていた。
「俺が引き取ってもいいが。お前は、それを生かしたという事実も、生かしていた理由も考えねばならんぞ。」
「何を・・・・」
その時だ、蚊帳の外であった少女が、殺生丸の衣服を掴んだ。それに二人は少女に視線を向けた。
「つ、いて、いく。いっしょ、に、いく。」
掠れた途切れ途切れの声に、殺生丸は目を見開いた。
これは、なんだろうかと、そう思う。
自分は人ではなく、そうして、目の前のそれをたやすく殺すことだってできる。
助けたのはそうだろう。けれど、それ以上のことをする気は自分には無い。
けれど、それでも、変わることなくそれは自分に手を伸ばしている。小さな手が、自分に伸ばされる。柔く、脆い手が、自分に向けられる。
振り払えば、飛んでいく。少し、手を動かすだけで殺すことができる。
それでも、その弱いそれは、自分に伸ばされる。
それは、記憶の中の小さな子供を思わせる。
風牙はそれに、やはり穏やかに微笑んで、そうして不躾に殺生丸の頭を乱雑に撫でた。
「お前は強い。傲慢であることも赦されるだろう。ただ、その傲慢のツケを払う時が来る。それは、お前の傲慢の証であり、そうして、お前の知らない己の何かの証でもある。」
殺生丸は乱雑に風牙の手を振り払った。そうして、睨んだ先で、父によく似た男が淡く笑っていた。
「己が力量を高めるのもいいが。今回は己の中の何かと向き合うがいい。殺生丸。守るべき物がないというのは、強いというわけではない。孤高であることはいいが、孤独であるのはただの怠慢だぞ。」
それに何かを言おうとした。何か、その兄に吐き捨ててやろうとした。
けれど、何故か言葉を飲み込んでしまった。
自分の着物を引っ張る感触がした。それにまた、目を向ける。血と泥に塗れた少女がじっと自分を見ていた。
それは、自分が傷つけられるなど欠片だって考えていない、愚かで甘ったれた目だ。
それでも、何の怯えもない、愚直な目だ。強い眼だ。
小さな手が、ただ、強く、自分の着物を掴んでいる。
それは、どこまでも、銀髪の少年と似ていた。
ああ、ああ、弱き人よ、何故笑う。お前をたやすく殺す、獣へ何故笑う。
わかりはしない。けして、わかりはしないのに。それでも、その子供を振り払う気も起きなかった。
抱えた腕の感触が、やけに熱いと感じた。
「・・・・ねえ、一つ聞いてもいい?」
「なんだ、かごめ?」
犬夜叉たちとの旅の途中、狼の群れに襲われた村にたどり着いたかごめは、妖狼族の鋼牙に攫われた。
助けが来るまでの間と、ふと、疑問に思っていたことを口にする。
「風牙って妖怪、知ってる?」
それに鋼牙は顔を大きく歪めた。
(知ってるんだ。)
かごめが何故、そんなことを聞いたかというと、単純な話村に風牙の匂いがすると犬夜叉が言っていたためだ。
(もしも、風牙さんの知り合いならなんとか逃がしてもらえないかな。)
そう、一瞬だけ考えたが、鋼牙の雰囲気にかごめは黙り込む。共に連れてこられた七宝はそれに身を固くして、かごめにしがみついた。
「・・・・かごめ、お前はあいつの何だ?」
「ただの知り合い。」
鋼牙はそれに悩むように髪をかき回した後、口を開く。
「・・・・かごめ、覚えとけ。もしも、お前に使い道が無けりゃ、殺してた。」
「な、何があったんじゃ!?」
「襲ってきた鳥ども、極楽鳥は俺たち妖狼族の天敵だ。あいつらとの小競り合いが続いてたが、あるときから情勢がひっくり返った。あいつらが、白風の傘下に入ってからだ。」
「白風?」
「なんだ、知らねえのか。風牙の野郎のあだ名だ。名前を呼んで縁を深めたくねえ奴らがひそひそ呼んでた名前だよ。話を戻すぞ、風牙の傘下に入ってから、あいつらは格段に勢力を大きくしやがった。誰もが畏れる、なんざうたい文句をしてやがるが。表に碌々出てこねえ腰抜けだ。」
憎々しげにそう吐き捨てた彼に、かごめと七宝はだらだらと冷や汗を流した。
(か、かごめ、どうしよう?)
七宝がこそりとそんなことを小さな声で言うが、かごめだってそう言いたい。自分たちは、よりにもよってあの風牙の傘下と敵対してしまうのだ。
(ど、どうなるの?)
かごめは頭を抱えたくなる。
なんといっても、どんな結果になっても、風牙がどうするかまったく予想がつかない。
例えば、鋼牙と極楽鳥と倒したとして、怒るだろうか、怒らないだろうか。どちらとも言えるし、どちらとも言えない。
かといって、極楽鳥に助けを求めて、自分たちを助けてくれるのか。
風牙への部下からの扱いというのも想像がつかない。
(犬夜叉!早く!)
かごめはなんとかそれだけを切に願った。
「鋼牙!てめえ、覚悟しやがれ!」
犬夜叉は怒号と共に立ち上がる。
なんとかかごめたちに追いつき、極楽鳥の住処にやってきた犬夜叉は四魂の欠片を持った一羽が飛び去った後、鋼牙と対峙する。
「俺は、化け鳥なんざどうでもいいんだよ!俺が用があるのはてめえだ!」
「はん。俺に用だと?のこのこやってきたと思やあいったい。」
「てめえは、風牙のなんだ。」
犬夜叉はそれを言う声がひどく、静かで。けれど、何故かやたらとその場に響くような声だった。
鋼牙は聞こえてきた名前に犬夜叉の方に視線を向ける。
犬夜叉は先ほどの感情的な何かが凍り付き、うろんな瞳とそげ落ちた表情がやけに不気味に見える。
鋼牙は何か、それから感じる異様なものに一瞬だけ固まり、口を閉じる。
「な、なんだと!?それは俺の台詞だ!あいつが極楽鳥に肩入れしたせいで迷惑してんだ!」
それに犬夜叉は何故か、ほっとする。
「そうか、あいつが村にいたのは偶然か。そうか。」
よかった。
犬夜叉はまるで安堵するように肩を落とした。鋼牙はその場違いな様子に何をするかと悩んでしまう。
が、すぐに気を取り直す。
「ともかくだ!さっさと失せやがれ!かごめは俺の女だ!」
その言葉に、犬夜叉のがひくりと顔を引きつらせた。
「い、いま、なんて・・・・」
「だから言ってるだろ、かごめはとっくに俺の女だ!」
その後に始まった二人の言い合いは、かごめの言葉も何のそのでどんどん続いていく。
その時だ、二人の頭上から影が来る。
「二人とも、上!」
叫ぶ声に、二人は頭上を見上げた。そうして、片割れの頭を失った極楽鳥は鋼牙を襲う。
四魂の欠片を仕込んだ腕に噛みつかれ、鋼牙は引きずりあげられる。抵抗に牙を蹴り割ったが、そのまま地面にたたき付けられた。
「犬っころ、てめえ。」
「黙って見てろ、痩せ狼!」
そう言った後、犬夜叉は極楽鳥に風の傷を放った。衝撃が、極楽鳥を襲う。
が、その衝撃はまるで鏡に跳ね返る光がごとく、極楽鳥に届かず空に向かって飛んでいく。
「な!?」
犬夜叉たちの反応に極楽鳥はにたりと笑った。
「はっはっは!風牙様に多くの力を授かったこの身にそんなものなど効かんぞ!さあ、四魂の欠片を・・・・」
極楽鳥はそう言った後、鋼牙たちに向かっていく。だが、それよりも先に、極楽鳥をまるで引き裂かれるような痛みが襲う。
「あれは・・・・・」
極楽鳥の首の周りには、複雑な文様が描かれた陣に覆われている。それは、まるで警告を表すかのように赤く点滅し始めた。
(傘下に入るとき、約束したよな?)
「ふ、風牙さま!」
(どんなことでもそりゃあ好きにすりゃあいい。お前が俺の庇護を望むなら、思うがままに愛でてやるってな。たった一つの約束を守れば。)
頭の中で響く風牙の言葉に、極楽鳥は目を見開いた。
「し、知らなかったのです!そんな、あのものがあなた様の弟君であると!!」
必死な命乞いの声に頭の中で、また声がする。
(ふふふ、お前は本当に、かあいくて、そうして愚かだねえ。)
けたりと笑い声が響いた後、極楽鳥の頭が体からちぎれて、落ちた。
「・・・・何だよ。今の。」
犬夜叉は鉄砕牙を鞘に仕舞った。かごめは傷を負った鋼牙に付き添っていたが、一人立った犬夜叉へ慌てて駆け寄った。
「犬夜叉、あれ。」
「風牙だろ。」
どこか、何かを欠いたような顔をしていた犬夜叉に、かごめは慌てる。
「おい、犬っころ!」
鋼牙の声に犬夜叉は振り返ることもしなかった。けれど、鋼牙はぎりぎりと歯を噛みしめる。
「てめえ、どういうことだ。おい、応えろ。」
「さあな。ただ、風牙の手によって死んだのは確かだ。」
「・・・・風牙はてめえの何だ。」
「兄だよ。年の離れた。」
熱のない犬夜叉の言葉に、鋼牙は驚いたような顔をした。そうして、はっと嘲笑混じりの声を上げる。
「はっ!やけに風牙のことを気にしてると思ってたが。そういうことかよ。たかだか怯えてるって事か!」
「怯えちゃいねえさ。」
「はっ、まあいい。俺は犬が嫌いでな。あいつのことも、俺がぶっ殺してやるよ!」
血気盛んな、傲慢たるその言葉に犬夜叉は何も言わない。
「おい、犬っころ!」
「俺にさえ、勝てねえくせにか?」
「あ゛!?」
「今、この場で這いつくばっているお前に何ができる?」
吐き捨てるように犬夜叉はそう言うと、鋼牙は怒りに立ち上がる。が、すぐに体をふらつかせて、その場にへたり込んだ。
「俺が来なきゃ、かごめが死んでた。」
「何を・・・・」
「覚えとけ、立ち上がることもままならねえてめえが。風牙を倒すなんざ夢でも見るな。」
惚れたなんざのたまうなら、守り切る力をつけてから言いやがれ!
黄金の瞳が、氷のように冷たく、鋭く光っていた。
「失せろ!」
たたき付けるような言葉に、鋼牙の子分たちは彼を引きずるほどの勢いで背負って逃げていく。
極楽鳥の相手をしていた弥勒や珊瑚もとぼとぼと近寄ってくる。
「大丈夫か、犬夜叉。」
沈んだ表情の犬夜叉に、弥勒が声をかける。
「・・・・風牙と、あの村は無関係だったんだろう。」
「ああ。」
掠れた声で返事をする。それに、かごめがそっと犬夜叉のことを抱きしめた。
「大丈夫よ、犬夜叉。あんたの兄さんは何にもしてない。そりゃあ、妖怪同士のことは別だけど。でも、何にもしてなかったのよ。だから、大丈夫。」
それに犬夜叉は抱きしめられたかごめの腕の中、こくりと頷いた。こくりと、子供のように頷いた。
「・・・・あー死んだなあ。」
「例の極楽鳥ですか?」
風牙は酒を飲みながら、一坊の言葉に頷いた。
彼は丁度、自分の持つ屋敷の一つの縁側でくつろいでいた。その傍らに一坊が控えている。
「傘下に加えて欲しいと言われてな。望まれるならば愛でてやるかと思ってなあ。丁度、四魂の欠片の威力について試したかったからやったんだが。」
極楽鳥に渡した四魂の欠片は、風牙の部下たちが必死にかき集めた分の幾つかに当たる。
「思った以上の成果を出されなかったので?」
「いいや、成果なんぞどうでいいんだ。ただなあ、犬夜叉に手を出したからな。契約に従って殺した。」
風牙は少々つまらなそうにこともなげにそういった。
犬夜叉には基本的に監視の目をつけているものの、万が一を考えて部下たちには枷をつけている。得に、近しい時期に部下になった物には必要につけている。
ただ、基本的に風牙の気まぐれでも無い限りは、弟たちに危害を加えでもしない限りは咎めはそうそう受けない。極楽鳥は運が悪かったと言える。
「妖狼族はどうされるので?潰しますか?」
「いいや。犬夜叉には丁度良い刺激になるだろうし。何より、恋に試練はつきものらしいぞ!!」
「・・・・そうですか。」
一坊はそれに妖狼族を監視対象の枠組みに入れておく。
「ま、そんなことより。ついに、殺が人間を気に入るなんてことがあったんだしな。りんちゃんに土産は持たせたか?」
「はい、着替え用の着物と、保存食や薬も、妖術の込められた袋に入れて渡しておきました。」
「そうか!いや、これで殺が人間のかあいさに気づいてくれればいいんだがな!」
風牙はウキウキとしていた。だって、あの人間嫌いの妖怪の弟が人間の命を助け、あまつさえ旅に同行させることにしたのだから。
(ああ!殺のやつ。りんちゃんのことどうするんだろうなあ!わかるぞ、わかる。幼い子は無垢でかあいいからなあ。無垢で、無邪気で、非力で、哀れで、かあいいよなあ!)
風牙はうっとりとした顔で酒をまた、一口すすった。
前回の投票やご意見ありがとうございました。
一応、ヒロインについては考えていきます。あと、またヒロインについて候補があれば言っていただければと思います。
あと、絡んで欲しい妖怪とかも。
また、素朴な疑問なんですが風牙に神楽さんとかを幸せにできる甲斐性ってありますかね。
参考までになんですが風牙さんのヒロインていると思いますか?もしも、具体的なこの人がいいなっていうのがあるなら活動報告の方に言っていただけると嬉しいです。
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いる
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いらない