犬兄弟の適当な長男   作:丸猫

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短めです。ちょっと、リハビリ用に書いてます。風牙さんを忘れている。


虚像の愛

 

「風牙様。」

「うーん?」

 

しんと静まりかえった屋敷の中で、風牙はごろりと転がっていた。気だるそうに目を細めながら、風牙は自分に話しかけてきた一坊を見た。

 

「どうかしたのか?」

「東の方に構えていた拠点の一つが襲われたとのことです。」

 

それに風牙は少しだけ不思議そうな顔をした後、ゆっくりと起き上がった。そうして、がりがりと頭を掻いた後、あくびをした。

 

「あー・・・・」

 

物珍しそうな顔をした後、立ち上がった。寝起きそのままにはだけた服装のまま、腹を掻く。

そうして、楽しそうに宙を見た。

 

「八つ当たりするぐらいなら、後追いでもすればいいだろうに。」

 

 

 

 

風牙は島中に拠点を構えており、それのほとんどは人間や半妖、または弱い妖怪たちが使用人のように暮らしている。

人間の間でも、妖怪の間でも有名な風牙の庇護に入った者を襲うものなどいない。強者さえも、それのやっかいさを理解してのことだ。

 

「・・・・・やはり、あなたか。」

 

襲われたという知らせに立ち寄った先は、ただの焼け野原が存在していた。ごろごろと転がる死体を見下ろして風牙は疲れたようにため息を吐いた。

そこにいたのは、一人の美しい女だ。

銀のそれは結い上げられ、非常に華やかだ。澄んだ緑の瞳はまるで宝石のように輝いている。

美しい人の姿をしていたが、それの本性がそんなものではないことは理解している。

 

「是露殿、わざわざ我が領域にやってきて、目的は何だ?」

 

その言葉に、その妖怪は、是露は顔をしかめた。

 

「・・・・西側がだいぶ騒がしいようなので。少し、気になりました。」

 

是露のそれに風牙はうろんな瞳でそれを見た。もしも、その場に彼を知る人間がいれば珍しいことだと思っていただろう。

風牙が浮かべるにしては珍しく、不機嫌さを前面に出した顔のせいだ。

 

「人も、妖怪も、跋扈する時代において、騒がしいのは当たり前のはずだ。ああ、そう言うのならば、そちらの一派が静かなせいで余計に騒がしく感じるのやもしれんな。」

 

その様は、皮肉なことにと言おうか。

普段のへらへらとした笑みではなく、泰然自若とした静かな笑みと落ち着いた口調は、是露にとっては忌々しいほどに父親である闘牙王に似ていた。

 

 

 

嫌悪。

それが、是露にとって風牙を表す言葉だった。

 

 

「あなたが、是露殿か!いやはや、聞きしに勝る美しさとはこのことだな!」

 

最初にあったとき、なんとも、父親に似ていながら、それと同時に似ていないのだろうと驚いた。

闘牙王が、静かに、けれど時に激しく燃える焔ならば、それはつかみ所の無い風のような男だった。

いつだってへらへらしていて、のらりくらりとしていた。

弟の麒麟丸は、それでも強く、一見は陽気な男を気に入っていたようだった。是露も、最初はそうだったのだ。

 

それは、明るく、陽気で、ほがらかで。

そのくせ、どこか、甘ったれで、幼子のような顔をしていた。

いいや、何よりも、会うことは滅多になかったが、是露自身、風牙に会えば悪くない気分であったのだ。

 

「是露殿。」

 

淡く笑ったその顔があまりにも似ていたからだ。

ああ、けれど。

 

「是露殿、ああ、そんな顔をされて。」

 

楽しそうに笑っていた。

 

「どうしてそんな顔をされるのか。あなただって知っていたのでしょう?」

親父が死ぬ事なんて。

 

それが、彼の人に似ていないことに自分はずっと気づかなかったことを後悔した。

 

 

 

 

「ああ、本当に・・・・」

 

茫然と呟いた是露がいたのは、それの想い人であった妖怪が死んだ場所だ。

焦土になったその場所は、もう、何の気配もない。死んだという彼の人も埋葬されたようで存在しない。

彼女は茫然とその瓦礫の山を見つめていた。そんなとき、朗らかな声がした。

 

「おお、是露殿。」

 

その声は、あまりにも、愛しい彼の大将そのもので。振り返った先でさえも、そこには、闘牙王が変わること無く佇んでいた。

ああ、嘘だったのだ!

そうだ、嘘であったのだ!

 

あの人が死ぬはずがないのだ!

あの、強く、情深く、優しい人が死ぬはずなんてないのだ!

是露は、一歩、足を踏み出した。

 

「親父の墓参りだろうか?」

 

その言葉に、是露は今まで感じていた希望が潰えていくのを理解した。それは一抱えもある花を持って是露の隣に立った。

 

「さすがは耳が早いな。麒麟丸殿も知っておられるのか?」

「・・・ええ。」

「そうか。親父は、そのまま駆けて行ってしまったからな。あの人らしい。」

 

しみじみとしたそれに是露の中で、確実に、彼の大将が亡くなったことが事実として浸食していく。

風牙はそのまま花をその場に放り投げた。ばさりと、広がったそれが、花びらが宙を舞う。

 

「・・・・悲しまれているのか?」

「悲しい?」

 

是露はそれに笑った。何せ、それは涙を捨ててしまった身だ。それに失笑さえ浮びそうだった。けれど、それは、柔らかに微笑んだ。

それに、是露は黙り込んでしまう。だって、その様は、あまりにも 父親にそっくりだったのだ。

けれど、それは、違うのだ。

己の焦がれた存在ではないのだ。どんなに似ていても、ああ、その笑みは、狂おしいほど似ていた。

是露はぐらりと、傾ぎそうになる体に急激な喪失を感じた。それを、風牙はそっと支える。

 

「是露殿。」

 

声がする。彼の人と同じ、声がする。

違うとわかるのに。その微笑みは、その優しげな瞳は彼の人と同じで。

縋りたくなった。それに、残された存在に、どうかと。

あの人と同じ、情深き、妖怪に。

是露は男の腕で、少しだけ過ごしたかったのだ。それだけ、だった。

 

風牙は淡く微笑みを浮かべたまま、是露の唇を自分のそれを重ねた。

 

ばしりと、音が響く。

 

是露は茫然と、それを見た。闘牙王によく似た、彼の息子を。

 

「な、にを・・・・」

 

理解が出来なかったのだ。何故、そんなことをしたのか。

それに対して、風牙は不思議そうな顔をした。

 

「何故って、うーん。そう、望んでいたと思ったんだが、違ったか?」

「違うに決まっている!そのようなこと、望んでなどいるはずがない!」

「そうか?いやはや、てっきり、そうだとばかり。」

親父のことを見殺しにして、結局惜しくなったとばかり想っていたんだが。

 

その言葉に是露は固まり、そうして、目の前のそれを見た。

それは、やっぱり笑っていた。

穏やかで、豪傑な、犬の大将と同じような笑みを。

けれど、ああ。

 

「だから、丁度いいだろう?ほら、俺は親父とそっくりだ。なら、親父の代わりの慰めぐらいなら担ってやれると想っていたんだが。」

 

そう言って、風牙は是露の腰を抱き寄せた。抵抗は出来た、振り払うことは出来た。

けれど、是露は、何か腹の底が冷たくなっていくような感覚がした。

視界にあるのは、彼の人と同じ、そのものであるのに。

紡がれる言葉は、どこまでも乖離していて。

 

「ああ、でも、確かにあんたが抱かれたいのは親父だものな。ふむ、できるだけ、似せるようにしようと思うが。」

「何故だ!?」

「何故?」

「貴様とて、父を亡くしたはずだ!そのくせ、恥も知らずにこのようなことを!」

 

確かに妖怪とは情が薄い部分がある。けれど、自分や麒麟丸のようにそれは確かに身内である父を慕っていたはずだ。なのに、男の瞳には欠片だって悲しみなんてものはなかった。

そこにあるのは、不思議そうな、いいや、いっそのことそれは好奇心と言えた。

風牙は是露のことをのぞき込んだ。

 

「何故なあ、皆、それをよく聞きたがるが。俺の方こそ、何故、と言いたい。是露殿こそ、どうして、そんなに怒るんだ?あなたこそ、親父が死ぬのを知っていて、何もしなかったんだろう?」

 

冷や水を被せられた気がした。

何故、それを知っている?

何故、それを平然と自分に突きつける?

 

何故、何故、何故、何故!!!

 

「ああ、どうした、そんな顔をして。もしや、親父が死んだのが自分のせいだと思っているのか?ああ、それなら、気にしなくていい。俺も親父が死ぬのは、知っていたからな。」

 

わからない、是露は初めて、そうだ。

 

恐怖を、覚えたのだ。

腹の底から湧き上がってくる不快感。

それのことを知っている。数度だけとは言え、幾度も、会話をしてきた。

弟を可愛がり、父を慕っていた。

そうだ、確かに、彼は二人を愛していた。それは、愛を抱いていた。

なのに、目の前のそれはなんだ?

愛を抱きながら、それは喪失に苦しんでいない。

それは、父を捨て去って。

 

「し、って、いた?」

「ああ、親父の死が近づいていたのは知っていたが。」

「ならば、何故、防ごうとしなかった!?貴様は、父を慕っていたはずだ!ならば、何故!彼の人を見捨てた!?」

 

それに風牙はやはり、不思議そうな顔をした。心底、わからないという顔で。

 

「だって、そっちのほうが面白いだろう?」

 

時が止まった気がした。是露はふらふらと後ろに下がる。これはなんだ?

犬の大将に誰よりも似た、存在。

その笑みも、その声も、その表情も、何もかもが似ていた。なのに、なのに、なのに。

 

「親父がいなくなれば、やっかいな後処理もあるが。それと同時に、抑止力と言えるものがいなくなれば、それ相応に騒がしくもなる。混沌とは、何よりも、愉快なお祭り騒ぎだ。親父が死んだことは、悲しいが。」

 

この悍ましい生き物は、何だろうか?

悲しいと語りながら楽しみを語り、喪失はあれど執着は無く。

何かが、確実に、是露にとって乖離していた。

知っていたはずなのだ。わかっていたはずなのだ。触れていたはずなのだ。

 

なのに、なのに、なのに!

 

「黙れ!悲しいだと!?犬の大将の死を受け入れ、彼を見捨てた貴様が、何をそんな戯れ言を!」

 

狂わんばかりの声音で是露はそれに吐き捨てた。それに、風牙はにたりと、にたにたと、嫌らしく笑った。

 

「ああ、是露殿は、ほんとにかあいいな!」

 

喜悦を含めて、それは、まるで駄々っ子を見るように目を細めて是露の首を掴んだ。

 

「助けられたというのに助けず!知らせられたのに、無視をして!結局、親父の死から目をそらして!自分を棚に上げて、俺を責めて!」

あんたは、やっぱり、かあいいよ!

 

「離せ!」

 

振り払ったそれの後に、一瞬だけ、風牙の表情が髪に隠れて見えなくなる。それに、風牙はまた笑った。

それは、あの、父親が浮かべていたような、静かで穏やかな笑み、そのもので。

 

「是露殿。」

 

声の作り方まで、父親に似せたそれは微笑んだ。

 

「あなたはそれでいい。是露殿のまま、変わらないでいてくれ。」

 

ああ、それは、なんて、気色の悪い、悍ましい生き物なのだと、是露はようやく理解したのだ。

 

 

 

「是露殿、どうされたのか?」

 

是露はまた、それを見た。

その日、男の拠点の一つを焼きはらったのは、ただの気まぐれだ。

西の国で明らかな妖怪達の動きが活発になっていたために探りを入れるためだった。今のところ、穏健派と、一応は言っていい風牙が舵取りをしているため、均衡が保たれている。だが、この頃は弟である殺生丸も活発に動いているのを見るに、何かがあったのは明白だ。

 

「・・・・どうもしません。何もないと言うのなら、それでけっこうです。」

「それにしては、手荒いことをされたのだな。」

「人が亡くなったからといって、なんの問題が?この程度が死んだとして、嘆くなど、まるで人のようですね。」

 

それに風牙は首を傾げて、不思議そうな顔をした。

 

「是露殿。」

あなたは、変わりませんね。

 

是露はそれに風牙を睨んだ。それは、くつくつと喉の奥で笑った。

 

「あなたには、私が人のように見えるのですね。相も変わらず、かあいいままだ。」

 

心底、楽しそうに吐かれたそれは、変わること無く悍ましいままだった。

 

 

 

 

「・・・・よろしかったのですか?」

「何がだ?」

 

隠れていた一坊のそれに、風牙は女が去って行ったはずの方向を見つめながら答えた。

 

「彼の君を帰して。」

「いいさ。是露殿の言うとおり、この頃西の国は騒がしかったからな。大方、殺生丸が後を継ぐための準備じゃないかって疑われたんだろう。俺のとこを狙ったのは、反応を見たかったのと、どうせ、ここを焼いたのは八つ当たりだからな。」

「八つ当たり?」

「そうそう。自分の強さや、誇り高さにつけ込まれて己の本当に大事なものを亡くしてな。ああいや、本当にかあいいだろう?」

 

風牙は立ち上がり、そうして、首を傾げた。

父が死ぬのは知っていた。それ故に、風牙は父に問うたことがある。

 

親父よ、死期が近いが、どうするか?

 

それに彼の父は笑ったのだ。死ぬとしても、その時はその時だと、

何故だろうかと、風牙は考える。

 

妖怪も、人も、終わりが来る。それは当たり前の話だ。散々に対策を立てることも、覚悟を決めるための時間もあるはずだ。

父のように、母のように、置いていく存在も、置いていかれる存在も、ああであるべきなのだ。

けれど、何故だろうか。

麒麟丸も、是露も、そうなることぐらい予想が付いたのに、結末を迎えてようやくこんなはずではなかったと嘆くのだ。

彼らは人を、半妖を蔑んでいる。それは、多くの要因があってのことだ。

けれど、風牙は思う。

そうやって、人を蔑んで、結局後悔を抱えた彼らの方がずっと人間のようにしか見えない。

 

麒麟丸も、そうして、是露も、本当にかあいいと思うのだ。

だって、自分で手を離しておいて、惜しくなって駄々をこねるその様はまるで幼子のようではないか?

その様が、かあいく、そうして、哀れなものだから。

 

(だめだな、是露殿を前にすると、どうしてもいたぶりたくなる。)

 

その女が、まるで、自分を前にすると幼い子どものような顔をするものだから。

だから、父のまねをしてしまうのだ。

せめて、その女の心が少しでも慰められるように。いたぶりたくなる気持ちを抑えるために。

 

(でも、うれしがってくれないんだよなあ。やっぱし、似てないのかね?)

 

かあいいのだ、たまらなく、かあいいのだ。

自分のことを、父を見捨てたのだと蔑みながら、そのくせ、この顔に惑わされて。自分を見るたびに、遠い昔の何かを懐かしんでしまう、哀れな女。

かあいい、たまらなく、かあいくて仕方が無い。

だが、風牙にはそれを慰める手段は無い。

いらないと、おんなはそれをきりすててしまったのだから。ならば、風牙は女に出来ることは無い。

 

風牙はそんなことを考えつつ、上を見上げた。

 

「・・・・でも、犬夜叉も起きたし。やっかいな、縁が繋がってるのも事実だよなあ。」

 

麒麟丸が眠っている間は、自分や殺生丸に対して敵対行動を取ることはないが、それはそれとして今後のことは考えておいた方がいいだろうか?

 

「・・・・・出来れば、あれは使いたくないんだがなあ。」

「何をされるので?」

「俺の牙、取りに行こうと思ってな。」

 

気だるそうにため息を吐いたそれは、あーあと、心底嫌そうな顔をした。一坊はそれを見た後に、周りを見回した。

風牙は、周りの惨状にも、そうして、是露にさえも興味を失っていた。

 

参考までになんですが風牙さんのヒロインていると思いますか?もしも、具体的なこの人がいいなっていうのがあるなら活動報告の方に言っていただけると嬉しいです。

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