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ちょっと、切りのいいところで切っています。
「・・・・・何だろうなあ。」
その日、鞘と呼ばれる妖怪はなんとも言えない顔で目の前の光景を見つめていた。目の前にあるのは、彼が親方様と慕う大妖怪、闘牙王から封印を賜った叢雲牙だ。
それは、下手をすればこの世さえも滅ぼしかねない。
そんな剣の、はずなのだが。
「・・・・いっそ、殺せ。」
「いや、そんなこと言わんでも。」
刀のくせに自害を望むそれは現在、物干し竿になっている。そうして、ばっちりとそこには洗濯物がぶら下がっている。
鞘はそれ相応に大変だった。鞘に宿り、その牙を封じ込めていた自分としては、それがけして善きものでないことは知っている。
だが、目の前のそれを見ると、さすがになんともいえない気分になる。
「鞘よ、貴様に、貴様にわかるか!?我が名は叢雲牙!多くのものがこの身を求めた!あの殺生丸でさえもだ!だというのに!見ろ、この現状を!」
ごてごてとした装飾のされた剣には当たり前のように着物だとかがぶら下がっている。
鞘はさすがに哀れになって来た。それが猛威を振うのは確かに困る。困るのだが、なんとも言えない気分にはなる。
(にしても、風牙の奴、いったいどんな手を使ったんだが。)
叢雲牙は、強力な剣だ。実際、人や力の弱い妖怪が触れればすぐに操られてしまうだろう。けれど、物干し竿にしている時点で洗濯物を干す人間がそれに触れるのだ。だが、それでも人が操られることも無い。
叢雲牙もそれが何故かわからないのだ。
叢雲牙もなんとかしようとしていたが、何故か出来ないまま、物干し竿に甘んじている。
(・・・・だーから、やなんだよなあ。)
別段、風牙は鞘を酷使することは無い。封印の役目が無いのだから、彼自身は気楽な者でのんびりとしている。
正直に言えば風牙はよい主人と言える。酷使されることも無ければ、やりたいことをすればいいと放置してくれる。
ただ、ひどく、気味が悪い。
風牙に懐く者は、彼を誠実だという。嘘をつかず、望みに対して真摯に答えてくれる。
そうして、風牙を厭う者は彼をねじ曲がっているという。言うべきことに口を噤み、真意を理解すれどねじ曲げる。
それは、どこか、ひどくゆがみ、そうしてずれている。
それ故に、救われる者がいるのだろうが。それ以上に、破滅に導かれる者もまた多いのだ。
「風牙め、何故、我を使わん。我以上の牙など、この世にあるはずがないと言うのに。何故、何故だあああああああああ!」
見てみろ、目の前で1匹の妖怪に狂う天下覇道と謳われた剣を。
全てを蔑み、自身を振う存在さえも所詮はと扱っていた剣がだ。
闘牙王が見れば何と言っていただろうか?
驚くか、賞賛するか。いいや、いっそ、笑い転げていたかもしれない。
「鞘?何してんだ?」
「うっおう!?」
考え事をしていた鞘の後ろから声がした。振り返れば、そこには物干し竿を担いだ風牙がいた。
「ふ、風牙か。」
「ああ、俺だが?」
「風牙よ!おい、ようやく現れたか!いつぶりだ!?」
風牙はそのまま叢雲牙にかかった洗濯物を、物干し竿に移していく。その、時折する人間のような仕草が感覚をバグらせるのだろう。
人はそれに親しみを覚え、妖怪は侮りを持つ。
「ふ、風牙よ!なんだ!到頭、我を使う気になったのか!?ふっふっふっ、いいだろう!どのような敵も我と貴様ならば打ち倒すことが出来るだろう!」
「・・・・・やっぱし、使いにくいよなあ。」
風牙は気だるそうにため息を吐くと、そのまま叢雲牙を背中に収めた。
「・・・・自分の牙、取りに行かないとなあ。」
ぼやくようなそれに鞘は驚いた。長い間、叢雲牙とそれの側にいるが、風牙が牙をすでに取得していることを知らなかったのだ。
そうして、次に叢雲牙が叫んだ。
「どういうことだ!?我という者が有りながら、他の剣を使うなど、絶対に許さん!!」
「だって、お前、つまんねえんだもの。」
風牙は淡々とそう言い切った。
「姿が見えない、妖怪、ですか?」
弥勒法師の言葉に、目の前の村人はほとほと困り果てた顔をした。
その日、犬夜叉一行は、とある村でおそらく妖怪の仕業だろう事についての相談を受けていた。
そこで村人がしてきた相談というのが、透明人間がいるというのだ。
食料や金などがなくなってしまう、見張りを付けてもだめという。
「中には怪我をした者もおりまして、ほとほと困っております。」
「なるほど、原因と思うものはありますか?」
「・・・・そうですねえ。」
村の長老は少しだけ考えた後に、ちらりととある方向を見た。
「一つだけ、あるにはあるのですが。」
「本当に獣はおろか、虫さえいないね。」
そう言って珊瑚は周りを見回した。
村長の言っていた原因になりそうだというのが、村近くのとある山だった。
その山は、不思議なことに妖怪も出なければ、獣も、ましては虫さえ見当たらないのだという。おまけに、山の奥を目指してもすぐに麓にまで戻ってしまうのだという。
また、山に入った者の殆どは行方不明になっているのだそうだ。
村としては、少なくとも、妖怪達が寄りつかないため平和な生活を送れているため、土地神か何かがいるのではと祠を作ってまつっているのだという。
「この山におそらく、村に盗みに入っている存在のてがかりがあると思いますが。犬夜叉、どうですか?」
「・・・・おかしい。」
犬夜叉は山に入ってから鼻をすんすんとならしていたが、不機嫌そうに顔をしかめた。
「においがしねえ。」
「鼻が利かなくなったの?」
「ちげえよ、お前らのにおいはわかる。ただ、この山、気味がわりいほど、なんのにおいもしねえ。」
ぼやくようなそれにかごめは首を傾げた。
「なんの?」
「ああ、強いて言うなら、草だとかのにおいはするが。生き物のにおいがしねえ。」
「おかしな話じゃな。」
神というのならば動物さえもいないというのはおかしい。妖怪というのなら、そういった痕跡も見当たらない。
「ふむ、ともかく、奥に向かって見ますか。」
弥勒の言葉に一行はともかくはと山奥に進み始める。
が、歩けども歩けども、頂上にたどり着くことが無い。同じ道をぐるぐると回っていることに気づいたが、元いた道を引き返しても変わらないのだ。
試しに、風の傷や風穴を使ってみたが、周囲の木が吸い込まれるだけで、結局うっそうした景色が広がっているだけだ。
「どうなってんだ!?」
「雲母で飛んでも、いつの間にか、戻ってきてるし。」
「かごめえ、何か感じんのか?」
「妖力も、何も感じない。四魂の欠片の気配もないし。」
「日が傾いている、ということは時間は経っているのでしょうし。幻術にしてはその気配もない、ということですよね。」
「どーなっとんじゃ!」
歩きづめのせいか、また、疲れもあってのことか七宝はその場に座り込んだ。それに犬夜叉たちは顔を見合わせた。このまま歩き続けるのもいいが、確かに日も暮れている。
「今日はひとまず、ここで休みますか。」
「いいの、法師様?」
「ええ、それに、もしかしたら待っていた方が動くこともあるでしょうか。」
それが、暗に相手をおびき寄せる意味合いであることを察して、皆で顔を見合わせて頷いた。
「なら、一旦は野営としましょうか。」
犬夜叉たちはそのまま野営の準備をしていた。かごめは犬夜叉と、そうして七宝と共に川に水を汲みに向かった。
「にしても、けったいな話じゃの。姿も見えず、存在さえもわからんとは。」
「においがしねえのは気になるが。
「そうよね、少なくとも四魂の欠片の気配はないんだけど・・・・」
そう言って川に屈み込んだ。何かがあるわけではない、気配も、音も、何も無かったはずなのに。
かごめの鼻に、なにか、キツい臭いが突き刺さる。それと同時に、意識が薄れていくのを感じた。
「・・・・かごめ?」
頭痛を感じながら、眼を覚ました先に広がる光景にかごめは自分が攫われたことを理解した。ごつごつとした岩肌に、固い地面。起き上がれば、蝋燭の火でなんとか周囲を見回すことが出来た。
そこは、簡素な牢だった。木枠で覆われたそこは、お世辞にも丁寧なものではなかったが、頑丈なものだ。
周囲に気配は無い。
攫われたことを理解し、そうして、縛られていないことに安堵する。さすがに荷物は奪われている。
「・・・・やってやろうじゃない。」
攫われること自体はいつものことだと、かごめは覚悟を決めてそっと周囲を見るがなんの気配も無い。牢屋の格子を見るが、かごめの細腕では到底壊すことは難しそうだ。
「もう、どうすれば・・・・」
「もうし。」
突然かけられたそれに、かごめはびくりを肩をふるわせ、そうして、声の方に振り向いた。自分を攫った存在かと思ったが、その声の主はひどく静かにかごめに声をかけた。
そこにいたのは、ひどく小柄な存在だった。声自体はしわがれており、老人のようだ。
そうして、見据えた先にいたのは、古びた布を被った何かだった。古い布から伸びる手や、そうして顔は包帯で覆われている。
つんと、刺すような薬の匂いがした。
「もしや、かごめ様、でしょうか?」
「あ、あんた、誰!?」
「おお、これはご無礼を。私は、風牙様に仕えております、一坊と申します。」
深々と頭を下げたそれから出てきた、風牙という単語にかごめは固まった。
「ふ、風牙さん?」
「ええ、そうです。かごめ様こそ、何故、ここに?」
「あ、あの。姿の見えない妖怪がいるって、聞いて。」
「ああ、なるほど。そういうことですか。」
一坊と名乗ったそれは一度頷き、そうして、改めて気づいたように頷いた。
「ともかく、ここから出られた方がいいですね。」
「だ、出してくれるの?」
「あなた様に何かあれば、私が叱られてしまうので。」
その言葉と同時に、一坊と名乗ったそれの右腕を差し出した。それと同時に、その手が肥大化し、鋭い爪に覆われていた。
ばきりと、そんな音と共に格子はその手によって破壊された。
「どうぞ、出てこられてください。」
「あ、ありがとう。」
砕けた木片を越えてかごめが廊下に出ていると、一坊の手はまたするすると小さくなる。そうして、かごめは、元に戻った手がぐずぐずに腐敗していることに気づいた。
思わず固まったかごめのそれに一坊は恥じるようにそれを包帯で覆った。
「お見苦しいものを、申し訳ございません。」
「え、あ、あの、そんなことはないです。」
「よいのですよ、気分のよいものではないでしょうから。」
静かなそれにかごめは思わずと言えども、反応してしまったことを恥じた。
「さあ、参りましょうか。ともかく、犬夜叉様たちと合流された方がいいですね。」
「道、わかるんですか?」
「ええ、ここは私の旧知の仲の人間がおりますので。」
「一坊さん、透明な妖怪と知り合いなんですか!?」
「・・・ああ、相手はどう思っているのかしりませんが。」
苦々しい言葉と共に一坊は歩き始めた。
のそのそとした歩き方ではあるが、そこまで遅いというわけでは無く一坊は進んでいく。
(この人、よう、かい?それとも、うーん、でも、人間じゃ無いわよね?)
「あの、一坊さんは、どうしてここに?」
「村で悪事を働いているという存在に風牙様がとあるものを預けておりまして。それを返し、お届けするように使いを命じられているのですよ。」
「あるもの?」
「風牙様の宝、でしょうか?」
かごめは風牙の大事にしているものに興味が出たが、さすがにそれに突っ込む勇気が出ずに、口を開いた。
「その、その、存在ってどんな妖怪なんですか?」
「ここにいるのは、妖怪では無く、人ですよ。」
「え、人間!?」
驚きに満ちあふれたそれに、一坊は軽く首を振った。
「まあ、すでに妖怪になり果てているのでしょうが。」
「人間が妖怪になることなんてあるの?」
「ありますよ。死人の無念が妖怪になるように、生者であれど強力な念を抱えて生きれば、成り果てられるのですよ。私も、同じような者ですので。」
かごめは前を歩く存在の手が大きくなったことを思い出す。
風牙という存在についてかごめは考える。
風牙について、どう思っているかと言われると困る。
確かに、恐ろしいものは恐ろしい。それは、良くも悪くも、人では無いのだから。
けれど、人ではないというのなら、殺生丸はどうだろうか?
彼のことは、確かに人では無いが、けれど、なんだかんだで犬夜叉への不器用な気遣いが見て取れる。
人間については好ましくは思っていないようだが、距離さえ保てば何もしてこない。
けれど、風牙は違う。
遠く、けれど、近しく。
自分を殺すために振り上げた手を、気まぐれで、抱擁に変えるような気まぐれさ。
(恐ろしくは、ないのかしら。)
今日は生きていることが、けして、明日への肯定に繋がらない在り方。
恵みを与え、慈悲深く笑いながら。どこかその牙が自分の首に突き立てられる日を考えてしまう。
「風牙様の元にいる私を、変わっていると思われますか?」
「え、いや、そんなことはないわ!」
「いいえ、よいのです。あの方についてある程度よく知れば、そう想われる方もおられますので。」
こつりと、足音がする。
小さくて、静かな音がする。
「・・・・あの方は月のようなものですので。」
「月?」
「多くのものは日の下を生きるものでしょう。妖怪も、確かに夜に活動する者もおりますが、太陽の下で動けないわけではございません。ただ、日の下ではどうしても、生きづらいものもおるのです。あの方は、夜に生きることを赦してくださった。」
一坊はそう言って包帯に覆われた手をかごめに見せた。
「私は、病魔に冒され、肌は溶け、肉は腐っておりました。寺の軒下に転がり、死を待つだけの身でした。その時、あの方は私を見つけてくださりました。あの方は、そんな私を見て、微笑みかけてくださいました。」
おお、なんともまあ、哀れでかあいいことだ。
一坊の脳裏には、その時の、神様みたいな美しい人のことが鮮明に記録されている。
「あの方は、優しい方ですよ。ただ、それを受け取る側が愚かなだけのことです。」
穏やかな声音に、かごめが何か言おうとしたとき、洞窟のどこかで盛大な爆発音がした。
「な、何!?」
「・・・・・急いだ方がいいですね。」
かごめたちが走った先は、なかなかに開けた場所だった。一坊曰く、かごめたちがいるのは、山をくりぬいた大きな洞窟の中らしい。
そうして、その開けた場所では、犬夜叉と弥勒、そうして、珊瑚が武器を構えている。彼らが何と対峙しているのかとみるが、そこには何故か縄で縛られた七宝が泣きながら転がっているだけだ。
「七宝ちゃん!?」
その言葉に犬夜叉たちはかごめの存在に目を見開いた。
「かごめ、無事か!?」
「私は無事!だけど、いったい・・・・」
「来るな!」
「え?」
かごめが通ってきた通路から犬夜叉たちのほうに駆け寄ろうとしたとき、何かが飛んでくる。
「危のう、ございます。」
強烈な爆発音の後、かごめは自分を庇う一坊の存在に気づいた。そうして、ようやく一坊の存在に気づいた犬夜叉もまた目を見開いた。
「一坊、なぜ、てめえがここにいる・・・・!?」
「風牙様のお使いで来たのですが。はあ、まったく、愚かなことをしたものだ、守番よ。」
一坊は呆れたようにそう言った後、どこからか朱い玉を取り出し、そうして、それを七宝側に放り投げた。
カッ!
その玉は宙で光り、そうして、砕け散る。欠片が辺りに飛び散った。
それに犬夜叉は声を上げる。
「このにおい、まさか、風牙の血?」
光に眩み、目を一瞬だけ庇う。そうして、改めて見た視界の中には今まで存在しなかった一人の男がいた。
痩せ、すさんだ目をしたそれは、犬夜叉たちの視線に気づき、恐れるように七宝を掴んだ。犬夜叉は明瞭に、においも、目も、しっかりと男を認識し始めたことに驚いた。
けれど、犬夜叉たちはすぐに男の存在さえも忘れそうになる。
なぜならば、男の手には、それはそれは美しい刀が握られていたのだ。
それは、白と、それだけで表現が出来そうなほどに白い刀であった。
握る柄も、柄から伸びた燻るような布も、すべてが雪で出来たような白い、刀。
何よりも目を引いたのが、その刀身だ。
鋭く、華奢に見えるそれは、まるで夢幻のように、それこそ光を放っているかと幻視するほどに真白に輝いている。
男はその刀を無作法に振り回し、一坊を睨んだ。
「・・・・愚かなことをしたものだな、守番よ。風牙様の慈悲にすがりながら、なんということを。」
「くそ!化け物の腰巾着が、今更何をしにきた!」
「貴様こそ、何をしている!貴様の目の前におられるのは、風牙様の弟君、犬夜叉様なるぞ!」
その言葉に男は顔を青ざめさせて犬夜叉を見た。犬夜叉はそれに、今回の出来事がまた、己の兄が関わっていることを理解した。
重苦しく、そうして、喉からこみ上げてくるような感覚がした。
愛した兄の、罪が、己を見ている。
男はせせら笑うように犬夜叉を見た。
「は、あの化け物の弟か、ずいぶんと可愛らしいことだ!あいつのせいで、俺は散々だ!」
「・・・・風牙は、いったい、お主に何をした?」
犬夜叉の様子を慮り、弥勒がそう言えば、男は憎々しげに吐き捨てる。
「あいつが、俺のことをここに閉じ込めたんだ!この刀の守番をしろってな!それから、俺は何故か、誰にも認識されなくなりやがった!声を発しても聞こえやしねえ!目の前にいても、誰にもみえねえ!生きていくために盗みだって働かなきゃならなかったんだ!この、刀のせいでな!」
憎しみをたぎらせたその男の言葉に犬夜叉は怯むが、それに一坊は犬夜叉の前に躍り出た。そうして、犬夜叉にかごめが駆け寄る。
「黙るがいい!全て、貴様が望んだことであろうが!」
「話が違う!」
「夜盗として、侍達に追われた果てに、一人でひっそりと暮らしたいと、誰にも見つからないようにしてくれと懇願してきたのは貴様のはずだ!」
「俺は隠れ家を望んだだけだ!」
「ふん、よく言うわ!姿が見えないことに関しても、最初は堂々と盗みが働けると喜んだのであろう!風牙様が、人よけをしてくれていたというのに、山に入ってきた者を襲い、殺し、盗みを働きおって!貴様を哀れんだ、この身の愚かしさを呪うぞ!」
「ああ、最初は感謝していたさ!村が焼け出され、そうして、夜盗に落ちたと懇願すれば、同情したお前にはな!」
「神隠しに会ったって人は、こいつが!?」
「・・・・ええ、盗んだものが堆く、つまれておりましたよ。」
一坊のそれに、犬夜叉たちは男を睨む。けれど、その腕の中で泣きわめく、七宝の姿にどう動くかと考えていたとき。
男はにやつきながら方を掲げた。
「はははあはあは!一坊よ、お前は俺のことをなめているな!?確かに、俺の力は、ちんけな妖術や、札。お前には勝てねえだろう!だがな、俺は誰よりも、この刀の側にいた!力の使い方も、十分にわかってるんだよ!」
その言葉と共に、男は刀を振った。それと同時に、また、男の姿が消えていく。
「あいつ!」
犬夜叉が一歩前に飛び出すが、それに一坊が静止する。
「・・・・犬夜叉様、追う必要はございません。」
「一坊、何言ってやがる!」
「・・・・風牙様が、来られましたので。」
男はそのまま洞窟の中を走り出す。それは、もう、幾年も過ごした、馴染んだ住処だ。入り組んだ、ありの巣のようなそこさえも、男にとっては支障は無い。
「なんでじゃ!犬夜叉!かごめえ、みろくう、さんごお!!わしのことが見えんのか!?」
「黙ってろ!」
男は走る。
何故だと考えながら。
最初に、かごめと呼ばれる女を攫ったのは、偏に物珍しい衣装が高値で売れそうだったから。
そうして、子狐を攫ったのは、毛皮が目当てであったから。
ばれることなどあり得るはずが無い。この山で、洞窟の出入り口に自分以外がたどり着けるはずが無いのだ。
だというのに、犬夜叉たちはそれを見つけ、そうしてあまつさえ追ってきたのだ。
誰も、男のことを、見ることも、聞くことも、においさえもわかるはずが無いのに。
それ故に、男は見えないことをいいことに術の籠った札などを投げて何をしのいでいたのだ。犬夜叉たちからすれば、目に見えない攻撃が飛んでくるのと同等であった。
(いいや、今度は違う。)
失敗ばかりだ。村が焼け出され、夜盗になり、そこさえも侍達に潰された。けれど、自分には、その刀がある。
この力さえあれば。
別に、山を下りれないわけではない。ただ、ここでなら好き勝手できたから居着いただけだ。
ならば、この刀の力を使って、好きかってするのもいいだろう。
そう思って、男は洞窟から抜け出した。外はすでに朝日が昇っている。
明るさに、目を瞬かせた、その、先で。
「久方ぶりだな、守番よ。」
穏やかに微笑む、人でなしがいた。
「気になるか、狐の小娘よ。」
その言葉に、狐の妖怪である白縫はなんとも言えない顔をした。
どう、応えていいのか、わからなかったのだ。
白縫の目の前には、風牙の母、通称は御母堂と呼ばれる大妖怪がいた。それは、楽しそうに目を細めて、座に座っている。
「・・・・いいえ。」
「嘘を言え。大方、あれが取りに行った牙のことが気になるのであろう。正直に言ってみよ。」
その日、白縫は御母堂への使いに出されていた。ただ、出てくる際に、風牙が牙を取りに行くと言っていたことが気になっていた。
それを言い当てられ、何よりも、御母堂の言葉には素直に従うことを言われていたため、口を開く。
「・・・・あなた方の一族は、己の力の結晶である牙を使うことを主としていると聞き及んでおります。ですので、風牙様が、何故、その牙を手放しているのか、気になっておりまして。」
「素直で良い。そうよなあ。」
御母堂は目を細め、どこともいえない宙を見つめる。
「牙とは、いわば、己の妖力の象徴だ。強い力を持てば、強い牙を持つことになる。だが、風牙の牙は少々特殊でな。戦いには向いておらん。」
「それは、弱い、ということですか?」
御母堂は子どもの素直な言葉にころころと笑った。無礼千万な言葉であるが、その子どもが厄介な長男の気に入りで、よくよく仕えていると知っているため、それを無視する。
「弱いか、ふっふっふ、確かにそうとも言い切れる。だが、あの牙と対峙するのは、叢雲牙よりも厄介やもしれんな。」
御母堂は笑った。
「・・・・・風牙の牙、無牙の力は、簡潔に言えば縁切りと、縁結びなのだ。」
「縁、ですか?」
「久しぶりだな。」
「風牙、の旦那・・・・」
男はがたがたと震えながら、刀を握りしめた。それに、七宝はたんとその場から抜け出した。
犬夜叉たちの方に逃げようとしたが、正直に言おう、腰が抜けて動けなくなる。
けれど、風牙は特別、何も気にならないように言葉を発する。
「はあ、確かに放っておいた自覚はあるが。だからといって、これはどうなんだ?」
「いいえ、何を言っておられるんですか?俺は、ただ、刀を守ろうと。」
「ああ、わかっている。だが、仕方が無いだろう?」
「お、弟君とも、争う意図なんてなかったんです!」
「ふむ、だが、だからといっておいたが過ぎたな。まさか、ここまでのことをするとはな。」
七宝はずるずるとその場から腹ばいになって逃げ出そうとする。
けれど、そこで気づく。
二人の会話は、かみ合っているようで、かみ合っていない。
何か、ちぐはぐに、乖離している。
「わかった、わかった、だから、帰ってくるといい。」
その、風牙の言葉と共に、風牙の刀が鳴った。
「は、なんで!?」
刀はふわりと浮き上がり、そうして、風牙の手元に収まった。それに七宝は風牙が、刀に話しかけていたことを理解する。
「はあ、やっぱり、わけのわからん奴だな。さて、守番よ。お前は、どうする?」
七宝は、振り返ることが出来なかった。だって、その声音があんまりにも普通であるためだ。
七宝は、これでも妖怪だ。
だから、力を持った妖怪達の、傲慢さだとか、人への蔑みだとか、理解している。
だからこそ、恐ろしい。
だって、風牙の声には、欠片だって怒りだって、なんにも存在しなかった。
人に、高々、人に好き勝手にされて、何にも感じていない声音。
「お、お許しください!」
「ふむ、ゆるす、か。どうして欲しいんだ?お前は、ここの生活に満足していなかったみたいだが。」
「死にたくない!いやだ、死にたくない!もう、誰にも認識されずに、一人でいるのは嫌だ!痛いのも、嫌だ!」
震えるそれに、風牙は笑った。
「そうかい、ああ、わかった。お前の願いを、叶えてやろう。」
それと同時に、かちゃりと、刀の音がした。それに七宝は目を白黒させた。何故って、視界に唐突に多くの糸らしきものが映り込んでいたのだ。
それは、自分の周りであったり、そうして、遠くに伸びていたりと様々だ。
見れば、男の周りにも、自分よりも少なくあるが糸がいくつか、漂っている。
それを、風牙は振りかぶった刀で、切った。
「へ、う、ああくぁあああああああああああああだだあさあだふぁああぎゃあうぇああ!!??」
意味のわからない言葉を男が発した、それと同時に、それの、肌が、ぐずぐずに腐っていくのを、七宝は見た。
「お゛れの、おれ゛の゛、か、がら、だ!?」
腐臭がする、死の臭いがする、どろどろに体が溶けていく。なのに、七宝は理解する。それは、死ぬことも無く。のたうち回り、そうして、山の中に消えていく。
「・・・・・変だなあ。望むようにしてやったのに。」
風牙はそう言った後、すっと七宝に微笑みかけた。
「やあ、狐の坊主。どうした、迷子か?」
柔らかなそれは、まるで、七宝の喉に牙を突き立てるがごとく、恐ろしかった。
「そうだ。」
御母堂は笑った。
「この世には、多くの縁がある。それは、わかるな?」
「はい、それは、わかります。」
「だがな、あの愚息曰く、縁とは単に人や妖怪同士だけでのものではないそうだ。」
「人や、妖怪以外の縁、ですか?」
白縫ははてりと首を傾げた。それに御母堂はころころと笑った。
「ああ、武器や物にも縁があるそうだ。そうして、因果や運命にも縁というものは存在する。」
それは婚姻などの出会いに関するもの、良縁と悪縁といっても、それは個々人に限らず、金や地位などもまた縁というものは存在する。
そうして、死や、病魔もまた、破滅さえも、それぞれに縁が存在する。
「あれの牙である無牙はその運命さえも、縁を切ることが出来るのだ。」
「そ、それは、不死が可能と言うことでしょうか?」
「・・・・そう、都合のいいものではない。死ねなくなると言うことは、どんな状態でも生きてしまうと言うことだ。下手をすれば、永劫の苦しみを味わうはめになる。」
何よりも、と御母堂は笑った。
「あれの牙は、切り捨てる刃というのはあくまで一側面。あれの牙の本質は、どんな縁をも縫い付けることに本質があるのだ。」
「・・・・それは。」
「ああ、そうだ。」
御母堂は、ころころと楽しそうに笑った。長男のまったくといっていいほど奇怪な牙を思い出し、そうして、その運命さえも理解できる力を持つことを退屈だと言い切って放っておいたそれに笑いが起こる。
「あれの牙は、刃であり、そうして、針なのだ。死ぬ運命を、崩壊する因果を、あれは他人の運命を容易くいじれる力がある。」
退屈な力だろう?
そう言って、御母堂は美しい顔をほころばせて、幼い狐に言ってのけた。
参考までになんですが風牙さんのヒロインていると思いますか?もしも、具体的なこの人がいいなっていうのがあるなら活動報告の方に言っていただけると嬉しいです。
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いる
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いらない