犬兄弟の適当な長男   作:丸猫

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人でなし感は薄めです。



父の真意

 

ばちりと、自分の手に走った衝撃に殺生丸はじっと刀を見た。

分かっていたことだった。

兄である風牙とて言っていた。

簡単に手に入るはずがない。

それは、不本意ではあるが、確かに血の繋がりがある犬夜叉に贈られたものなのだ。己の手に入るかなど、分かり切ったことだった。

けれど、少なからず衝撃を受けていた、受けてしまった。

明確な、父からの拒絶。

それは、未だに父の喪失への割り切りを済ませていない殺生丸からすれば、言いようのない感情だった。

 

(・・・・何故ですか。)

 

そう、心の中で囁いた。囁かずにはいられなかった。

いつだって、そうありたいと、超えたいと願う父は殺生丸の知らない何処かを見ていた。殺生丸の知らない、どこか。殺生丸の理解できない、何か。

そうして、たった一人だけ。

胡乱な目が、父を殺した女を抱き上げた、そっくりな兄に向けられる。

にこにこと、人間の女に向けられる、微笑み。

いつだって、自分の知らない何かを共有するのは、飄々とした、恥知らずの兄だった。

 

 

殺生丸の原初の記憶とは、父の背中とそれを見送る母の姿だった。

ただ、その記憶だけで、父という存在がどれほど大きなものか理解できた。

父の偉大さと、そうして強さを知った殺生丸の最初の願いはその隣に並び立ちたいというある種、幼子らしいものだった。

そのために努力、強くあることも、賢しくあることへの鍛錬を欠かしたことがなかった。

ああ、なりたい。その背を、ただ、追い続けた。

見事だと、そう微笑む姿は嫌いではなかった。

 

「・・・・お前は、本当にかあいいねえ。」

 

そんな中に放り込まれた、楽しそうで、甘ったるい声。

その時のことを、殺生丸はよくよく覚えている。

父とよく似た男、自分よりもはるかに年上の、兄。

その容姿を見た時、殺生丸はその中身も父にそっくりであることを期待した。けれど、蓋を開ければ中から出てきたのは、享楽的で、刹那的な、一族全てに変わり者と呼ばれる男だった。

殺生丸が生まれたころにはすでに独り立ちしていた彼は、殺生丸が生まれたころにはよく幼子に会いに来るようになった。

父と似た顔で、でれでれと崩れる男のことがあまり好きではなかった。

それでも、幼心に、その強さにだけは兄であることが誇らしかった。

母は、そんな兄を面白いと笑い。父は、呆れたように笑った後に、いつだって兄と肩を並べていた。

幼い殺生丸は、その後を見送るしかなかった。

その背を追いたい。

その願いは、いつしか父を超えたいという願いに変わったが。

 

殺生丸は時折、兄へどんな感情を抱けばいいのか分からなくなった。

嫌いであるのだと思う。けれど、彼の強さを好ましく思っているのも事実だった。

父と同じ顔で、父と同じどこかを見ている兄のことが嫌いで。それでも、父の子らしく、己が兄らしく強者として立つ男を超えたいと願うこと、人が憧れと呼ぶその幼い感情を殺生丸は抱えていた。

認めたくない、知りたくない、それでも殺生丸は幼いころからずっと兄と父が二人だけで笑い合う姿が嫌いだった。

 

守るべきものはあるか、その言葉を何よりも覚えている。

 

分からなかった。どうして、父がそんなことを言うのか。

けれど、たった一つだけ分かることがあった。

兄ならば、きっと、その言葉の意味が分かるのだろう。

きっと、分かるのだろう。

殺生丸には分からない、父の考えが分かるのだろう。

 

(父上、あなたは、風牙と何を見ていたのですか?)

 

幼い子どもが、そこにいた。

 

 

「・・・・なーんで、親父とお袋の血を受け継いであんなに繊細になるんだろ。」

 

十六夜は、恐ろしい得体のしれないものの腕の中にいることさえ忘れて、殺生丸の茫然とした姿に意識を向けた。

それは、確かに置いてきぼりにされた者の末路だったからだ。

 

「よくよく見ておけ、人の子よ。」

 

十六夜は、それに体を震わせた。

その声は、何故か、愛した男の声とひどく似通っているように聞こえた。

風牙の腕に腰かける様な体勢のせいで見下ろすような形になった十六夜は、彼の静かな面持ちを見つめた。

 

(・・・似て、いる。)

 

その顔は、ひどく、彼の父と似ていた。血の繋がり以上に、まるでそこで彼の人が立っているようにさえ思った。

 

「あれが、お前のなしたことだ。」

 

それに十六夜は、恥じる様に顔を伏せた。風牙はその恥を気にした風も無く、ぼんやりと殺生丸を眺めていた。

 

「殺生丸は別段人を軽んじてるわけじゃない。あいつはなあ、弱いものが嫌いなんだ。弱いくせに欲しがって、傲慢に濡れて、自分が強者だと思ってる恥知らずが嫌いなんだよ。」

 

十六夜よ、お前は、弱者として傲慢だなあ。

 

間延びした声音が、それだけが、風牙が彼の人ではないという証であった。

 

「・・・・十六夜よ、お前は弱さによって愛した男を殺したのだ。自分は弱くあるという自負。必ず、強者である父が迎えに来てくれるという思考。庇護されてしかるべきという在り方。それが、親父を殺したんだろうなあ。」

 

それは、責めているわけではなかった。ただ、淡々と、事実だけをうたっていた。風牙はぎょろりと眼球だけを動かして十六夜を見た。

 

「覚えていなさい。己の弱さと、奪った事実を。」

 

目を伏せた十六夜に興味を失ったのか、風牙は軽く息を吐いた。十六夜は、その言葉に、やはり男のことが余計に分からなくなる。

今の風牙は、そんな例え方もなんであるが、どこまでも真面であった。先ほどの、ニタニタとしたあの笑みがまるで夢であったかのようで。

十六夜は、ぶるりと背筋を震わせた。

そんな、母と異母兄のことなど目もくれずに、犬夜叉だけがそんな殺生丸に駆け寄った。そうして、なんの戸惑いも無しに、鉄砕牙を引き抜いて見せた。

 

「抜けた!」

 

はしゃいだような声に、風牙がケラケラと笑った。

 

「お前が抜けないで、誰が抜けるんだか。」

 

そう言った後、風牙は己の着ていた着物を脱ぎ捨て十六夜をその上に置こうとした。それに、さすがに十六夜が戸惑いの声を上げた。それに、風牙はあっさりと言った。

 

「お前はここで待っていろ。この上なら、怪我もせんだろう。」

 

そう言った、風牙の面差しは十六夜の見知った彼の人に良く似ていた。

その顔は、誰かを想っていた、案じる様な願いを持っていた、手を伸ばそうとしていた。

だからこそ、十六夜は、恐ろしかった。

目の前の存在の本当が何なのか。

十六夜はまた分からなくなった。

 

 

「おーおー、抜けたか。」

 

きゃらきゃらと、笑い声が聞こえてきそうな陽気そうな声に殺生丸は今まで犬夜叉に向けていた目を瞬かせた。

 

「これが父上がぼくにくれた刀?」

「ああ、そうだ。鉄砕牙っつってな。親父の刀の中でも使い勝手は抜群さね。ちょいっと貸してみ。」

 

風牙は殺生丸のことになど目もくれず、犬夜叉にそう言った。それに、犬夜叉は素直に刀を差し出した。

それは、風牙は何の支障も無く、受け取った。

それに、殺生丸は目を見開いた。

どうして、と、そう、まるで幼子のように思った。

 

風牙はふんとその錆び付いた刀を振るえば、身の丈ほどの大剣に変わった。そうして、くんと鼻を鳴らすとそのまま無作法に大剣を振る。

それと同時に、辺りに突風と衝撃が走った。

ばちばちと、そんな余韻と共に、骨が敷き詰められた床は地面が捲れ、父親の遺骸には傷が入った。

 

「あー・・・・ま、親父なら気にしないだろ!」

 

そう言って、また錆び付いた刀に戻った鉄砕牙を犬夜叉に渡した。犬夜叉と殺生丸は自分たちの目の前で起こったことに目を丸くした。すぐに、犬夜叉のはしゃいだ声が響いた。

 

「すっごーい!!ねえ、ぼくにもできる!?」

「うーん。今はちっと無理だな。もうちっとでっかくなって。鼻が利く様になればいけるぞ。」

 

犬夜叉には、鼻が利く様にという言葉の意味は分からなかったが、それでもいつか自分にも先ほどの業を使える可能性があること自体が嬉しかった。にこにこと笑って、己に遺されたという刀を抱え込んだ。

 

「何故だ。」

 

その光景を茫然と見つめていた殺生丸は叫んだ。

 

「何故だ!風牙!!」

 

咆哮のような声が、響いた。

犬夜叉はびくりと体を震わせて、風牙の後ろに隠れた。風牙は、その口元に淡く微笑みを浮かべてそれを見つめた。

 

「何故、貴様がその刀に触れることができる!?」

「大前提が違うんだ。この刀は、妖怪が触れられないんじゃない。人を蔑んだお前を拒んでいるんだよ。」

「何?」

「この鉄砕牙は、犬夜叉の母親を守るために親父が作ったもんだ。生まれ出でた理由を否定する主人を受け入れる刀も無いだろう。」

 

きゃらきゃらと笑った風牙に、殺生丸はとうとう耐えきれなくなったかのように叫んだ。

 

「何故だ!なぜ、父上も、お前も、人間なんぞに肩入れする!?」

 

それは、何か、きっと、何かが決壊した。

殺生丸がそこまで感情をあらわにすることはひどく珍しい。けれど、それも仕方がないのかもしれない。

彼は、まだ、妖怪の歳からすれば大人でもなく、目指すべき旗を失い、そうして、目の前にいたのが風牙であったから。

その兄の前でだけ、殺生丸は抜き身のような感情を爆発させた。その兄にだけは、剥き出しの遠吠えを叫んだ。

その兄は、憧れと目標を抱くには近く気軽過ぎ、侮蔑を持つにはその強さを知りすぎた。

それでも、その兄だけは、いつだって父のことを理解していた、同じものを見ていた。

いつだって、二人は殺生丸の一番近しい場所にいながら、背を向けて知らない何処かを見ていた。

 

殺生丸には、分からない。どうして、二人が、そんなにも人間などという弱く、愚かで、醜い生き物に手を伸ばすのか、分からなかった。

分からないことが、たまらなく嫌だった。

風牙はそれに目をきょとりと瞬かせた後、不躾に殺生丸に手を伸ばした。その、美しい銀髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を撫でた。

突然の行動に、殺生丸は反応できずにいると、さっさとその手は退けられた。

 

「あのなあ、殺生丸。お前さんはまだ、親父に守ってもらわなくちゃいけない程度に餓鬼なのか?」

「な、にを。」

「親父が犬夜叉にこれを残したのは単純だ。ただ単に、庇護がいる子どもを残して逝くのが忍びなかっただけだろう。お前と俺は、一人でもやっていけるっつう信頼の上でここにいるんだ。」

「・・・・ならば、天生牙でも構わなかったはずだ。」

「天生牙は扱いがむずいんだよ。それにな、お前、勘違いしてるだろ。」

 

天生牙が、癒しだけの刀だと本当に思ってるのか?

 

それに殺生丸は反応した。風牙は困ったように微笑んで、指を一本立てた。

 

「・・・なら、せめて謎解き用の鍵をやろう。いいか、犬にとって牙は武器だ。在り方っつうのは、そうそう変えられねんだ。いいか、所詮武器は武器でしかない。」

 

よーく、考えてみ。殺す刀に、癒すことしか出来ないわけがないだろう?

 

柔らかな声音に、殺生丸は己の腰に差した刀に思わず手をかけた。その時、兄たちの間にあるぴりぴりとした空気を感じ取ったのか、犬夜叉は持っていた刀を殺生丸に差しだした。

 

「あげる。」

 

突飛な言葉に、殺生丸と風牙の目が大きく見開かれた。

殺生丸は自分に鉄砕牙を差し出してきた犬夜叉をじっと見た。

 

「これ、ほしいんでしょう?だから、あげる。」

「・・・・私を、憐れんでいるのか?」

 

平淡で、氷のように冷たい声だった。それは、屈辱に震える声だった。

けれど、犬夜叉はあっけらかんと言ってのけた。

 

「?えっと、分かんないけど。でも、これ、あげるから。その、兄上って、呼んでいい?」

 

はにかみながら、幼子は、殺生丸を見上げた。その眼が、あまりにも似ていた。自分で、分かるのだ。

ずっと、そんな目をしてきたから。

それは、父を見上げた、いつかの自分と同じ目だった。

 

「・・・・面白いだろ?」

 

風牙はそう言って、犬夜叉の頭を撫でた。

殺生丸は、胡乱な目で風牙を見た。

 

「・・・・お前は、よく人間風情がと言うがな。なら聞くが、妖怪なら、お前は気に入るのか?」

「何を言っている?」

「お前が親父を慕っていたのは、親父が妖怪だったからじゃないだろうが。あの人が、お前が超えたいと願うほど強者であったがゆえの話だろう。俺も、親父も似た様なもんだ。ただ、心を震わせる存在に人間が入っていただけのことだ。俺と親父は似ていたよ。何であるのかではなく、どう在るのかを俺たちは求めたからなあ。」

 

まあ、似たようなとこなんざそれぐらいしかなかったが。

 

風牙は犬夜叉の頭から手を離した。

 

「面白いぞお、人間は。短い時間だからこそ、走りぬいて。突拍子もないことをして、自分でも分からん感情に振り回されて、際限のない夢に死んでゆく。」

 

面白いぞ。弱いからこそ、その生き足掻くさまは面白いぞ。

 

甘い声が、殺生丸の耳朶を打つ。

 

「・・・・いらないの?」

「それは、父上が、お前に遺したものだ。」

「うん。でも、ぼく、つかえないし。だからね、あのね、時々ね、刀見せに来て。父上の話、聞かせて。」

 

ねえ、いいでしょ?

 

にこりと、無垢な笑みが殺生丸に向けられる。

理解しがたかった。

鉄砕牙なのだ。そう、殺生丸までも求めてしまう、彼の人の忘れ形見。強さの証、力の象徴。

欲しかった、それが、ずっと欲しかった。

それを手に入れれば、もう、潰えた夢に手が伸ばせるような気がしたから。

けれど、今は、本当に途方に暮れてしまった。

目の前の、わけのわからない、理解しがたい行いをした半分血のつながった半妖を前に、困り果てていた。

その行動で、殺生丸にとって、犬夜叉という存在が憎らしいものでなく、わけのわからない理解できない者になった瞬間だった。

風牙は犬夜叉の持っていた刀を無理やりに殺生丸に持たせた。もう、刀は、殺生丸を拒まなかった。

 

「それはお前が預かっとけ。犬夜叉がそれを持つにはまだ時間がかかるしな。その間はお前が持ってても罰は当たんねえだろ。」

 

黙り込んだ殺生丸に、風牙はなおも続けた。

 

「それを持って、少し考えてみ。それは、十六夜に会うまでは存在しなかったものだ。親父は、それがなくとも覇道を歩んだ。なら、どうしてお前がそれを求めるのか。その、刀を求める心が何なのか。寂しいという感情をお前はゆっくり考えろ。俺たちは、もう、一人で立っちまってる。俺たちに、守られる意味はない。なぜ、自分に遺されたのが天生牙なのか。もうちっとじっくり考えてみ。」

「・・・・貴様には分かるのか。」

 

蚊の鳴くような声で、殺生丸は応えた。それに、風牙は困ったように首を傾げた。

 

「何となしにな。まあ、それは自分で導き出したほうが良いだろう。ただなあ、殺生丸。」

 

殺し続けるだけが覇道なら、そりゃあちくっと遊びがねえと俺は思うぞ。

 

ゆらりと笑った男の顔は、本当に、父に似ていた。握りしめた、古びた刀の感触がやけに生々しかった。

その時、己の膝に何かが飛びついた。下を見れば、そこには己と同じ月光色の髪がゆらゆらと揺れていた。

そっと、手を伸ばしてみた。

さらさらとしたそれに、まろい頬に笑みを浮かべた幼子がにいいと笑って顔を上げた。

その顔が、どこか、やはり父の顔と似ているような気がした。

 

 

 

(・・・・まあ、殺生丸は大丈夫だろう。)

 

風牙は、父の墓場から脱した後、鉄砕牙を持たせた殺生丸と別れて帰路についていた。どこか、何かを考える様な殺生丸に対して、まあ大丈夫だろうと太鼓判を押した。

きっと、彼は、犬夜叉に関してはもう蔑み、拒絶することはないだろう。

彼は、変わらない自宅の縁側にて、寛ぐように寝転がっていた。

 

「・・・・親父も、面倒なことをやってくれたなあ。」

 

昔から言葉が足りない人ではあったと思う。

父親が、天生牙を殺生丸に遺したのは単純な話だ。殺生丸にも言ったが次男坊は別段一人でも十分に生きていける程度の力があるからだ。

天生牙が鉄砕牙から分かたれた事実に関しては、話してはいないもののいつかは元の形に戻るだろう。

そう言った意味では、天生牙は結局のところ犬夜叉のものと言って良い。

 

(ま、俺の叢雲牙もいつかは処分するように言われてるし。何も残してくれなかった意味では同意なんだがなあ。)

 

結局のところ、父親はすでに独り立ちしている息子たちに関しては信頼を置いてはいたのだ。だからこそ、赤ん坊のまま残して逝く幼子にことさら過保護にしたのだろう。

 

「・・・・ああ、なんでさあ、そんなに親父も殺生丸もかあいんだろうなあ?」

 

突然吐かれた、甘ったるい声音と、ニタニタとした笑み。

もしも、彼と共に行動していた者がいたのならば、恐怖に引きつった声の一つでも吐いていただろう。

 

風牙はにやにやと笑いながら、かあいいなあと、幾度も呟いた。

 

殺生丸はかあいい。

だって、自分の感情を把握できず、自分や弟に嫉妬して駄々をこねているところなんて本当にかあいい。父親のことが好きで、慕っていて、寂しいという感情を処理できずに八つ当たりしているとことなんて本当にかあいいじゃないか。

父であった男のことも、かあいいと風牙は思う。

彼の人は、結局のところ、殺生丸に慈しみの心を持ってほしかったのだろう。殺し続けることの意味を、もっと重く受け止めてほしかったのだろう。

 

(・・・・所詮は、殺すことしか出来なかったくせに、慈しみを求めてるなんて親父はかあいいなあ。)

 

所詮は、殺すしか出来ない者に慈しみの心があるなんて幻想を持った男を、風牙は本当にかあいいと思う。

 

(大体なあ、人間をまるで、清らで、可愛くて、真摯なものみたいに思ってた親父は本当にかあいいよなあ。)

 

「しょせん、妖怪なのか人なのかかなんざ、この世の悪戯にしかすぎんだろ。」

 

人を食べる妖怪は悪であるか?

否々、それならば獣を食らう人とて悪だ。

人を貶める妖怪は悪か?

否々、人が人を貶めることとて星の数ほどあるだろう。

 

所詮は、敵対し合う相いれなさと、捕食関係にある連鎖が並んでいるにすぎないのだ。

だからこそ、風牙は面白くてたまらないのだ。

人も、妖怪のことも、面白くてかあいくて仕方がないのだ。

自分たちを清くて妖怪をけがれたものだと思っている人間のことも、人を弱者と蔑んで自分たちを強者と思い込む妖怪のことも、愚かでかあいくて仕方がない。

 

愚か者は好きだ、かあいいから。賢いものは好きだ、滑稽だから。醜いものは好きだ、撫でまわしたくなる。美しいものは好きだ、衰えていく様が愛いからだ。清らなものは好きだ、濁っていくから。けがれた者は好きだ、哀れだから。可愛がられた者は好きだ、潰したくなる。蔑まれた者は好きだ、強かだから。

 

ああ、好きだ。人も、妖怪も、かあいくてしかたがないから、好きだ。

 

「ああ。おやじい、本当に面白いことをしてくれたよなあ。」

 

殺生丸はこれからどうするだろうか?自分でその感情に決着をつけるのだろうか。天生牙の秘密にたどり着けるだろうか?父親の望んだとおり、慈しむということを覚えるのだろうか。

手がかりはやったが、それ以上のことをする気はない。父親の真意を話す気はない。

だって、殺生丸自身で答えを引き出したほうが、ずっと面白い。絶対に、楽しいに決まっている。だから、風牙は何もしない。その過程を楽しもうと思っている。

そこで、殺生丸が人を愛しても面白いし、人を蔑むことになっても面白い。

いく人死んでも、風牙はさほど興味はない。自分のお気にいりが殺されぬように気は配っている。それ以外が死んでも、さほど興味はない。

どうなっても、面白い。

 

(・・・・・少ししたら、適当に十六夜と犬夜叉を迎えに行こう。)

 

風牙は愛らしい弟が気に入ってしまった。かあいくて、かあいくて、仕方がない。

寂しい所も、自分に父親を見出しているところも、餓えているところも、本当にかあいい。

 

「かあいいなあ!かあいいなあああああああ!」

 

漏れ出た歓喜に、風牙はけたけたと笑う。

かあいくて仕方がない、何も知らぬ幼子と、怯えた美しい女が気に入った。

 

美しい、箱庭を用意しよう。

 

彼らが永遠に、そこに捕らわれる様な、美しい安寧を用意しよう。

殺生丸の時は、失敗してしまった。つんと澄ました態度もかあいいのだが、あの、素直ならうたしさには心が惹かれる。

変わることがないように、美しい箱庭を用意しよう。大人になどならぬように、かあいいままであるように、柔らかな揺り籠を用意しよう。

 

殺生丸の顔を見た、十六夜のあの顔。

きっと、彼女はそれを拒まない。拒めない。そう思わせるために、責めたのだ。

風牙は、ゆっくりと起き上がった。

彼らが心地よく住めるよう、綺麗な着物を用意しよう、楽しいおもちゃを用意しよう。

風牙はにたにたと笑って、ゆっくりと立ち上がった。

 




かあいいはただ単に可愛いが舌っ足らずな感じになってるだけです。
かわいいよりも、かあいいのほうが、こう、ねっとりしてる感がありませんか?

ちなみに、この後、犬夜叉が箱庭を抜け出す理由である事件が起こったりして出奔ルートに入ります。

感想、ありがとうございます。何よりの糧ですので、貰えればうれしいです。

次回の話について

  • 翁sとの話
  • 殺生丸との話
  • 犬夜叉やらの旅仲間との話
  • 奈落との話
  • 桔梗との話
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