身長160センチ無いと戦えんわ!って、その前にハードモードすぎて泣いた!!!   作:あるれしあちゃん

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第101話

「...天気悪すぎる」

 

そう言いながら外を見つめると、かなりの土砂降りだった。今日はクィディッチの日だ。対戦寮はグリフィンドールとハッフルパフらしいが、私は変わらず図書館にいた。徹夜で脱狼薬のデータを纏めていたので、私は何かヒントにならないかと古い書物を引っ張り出していたのだ。

 

(そんなに砂糖入りにしたいのかい)

 

(うーん、単純に美味しくないから味をマシにしたくて)

 

(トリカブトの猛毒もあるからね。味をどうにかするより、少量にする方が簡単そうだ)

 

(でもやっぱり限界があるのかも。マグル式で血液検査とかは?いやでも、トムも私も医療従事者とかじゃないし)

 

そう心の中で返しながら、私はぼんやりと過去のことを思い出した。過去に大学生をしていた私は、それなりに実習の多い職種の国家資格を目指していた。もちろん実習だって行っていたし、実習前のボランティアも参加した。結局この世界に来てしまったからどうにもならないが。

 

(狼人間は狼の細胞が絡みついていると言われているし、狼に変身しなくともそいつに噛まれたり引っ掻かれ、体液などが人間に入れば狼に似た味覚になる。実際のところは付き合っていくしかないのさ)

 

(...現にルーピン先生だって、それは差別とかに繋がってるでしょ?付き合っていける環境を作ることも大切だと思うけど)

 

(君だってアジア人、家柄、差別されてるじやないか。白人主義なんて僕の時代だってあったさ)

 

(そっか、もしかしてトムの時代って)

 

(地位だけじゃない。口を開けばどこの階級かすぐにわかったものさ。話し方、発音、身振り手振り、貴族が堕落したのか、平民がまともになったのか...)

 

最後まで言い切らずに、トムは口を閉じたらしい。雨が降ったり、ジメジメしていると確かに思考もそっちに引っ張られるなぁと周囲を見渡すとあまり人はいない。いつもに比べれば確かにホグワーツの校内に人は残っているが、それでも少ない方だ。

私も魔法薬に必要なものはおおむね集め終えたので、杖を振って本達を元の位置に戻した。

 

(...今日は雨だし、クィディッチだし。人が少ないから実体化の練習でもする?)

 

(実体化か、それはアルレシアが寝ている間に時々練習しているからね)

 

(うん?)

 

(寝ていると楽だからね。そうだ、新しい事を試そう)

 

(いや、そんなには気分が)

 

(早く荷物を全て片付けろ)

 

えーと思いながら荷物を全てまとめ上げる。ついでに言われた通り人避けの魔法をかけて周囲に人がいない事を確認したのだ。

さて、トムは何がしたいのか。

現在はトムの実体化が中心だし、トムはトムで私の魂に隠れて好きにしているようだから新しく何をするというのか。

 

(何をしたいの?)

 

(ジネブラ・ウィーズリー同様に操るのも考えたが、それより僕と君を入れ替えた方が記憶の噛み合わせも楽だと思わないか?)

 

(つまり、体の主導権をトムが握るってこと?)

 

(操るのも魔力を使うからね。物は試しさ)

 

(寮に戻ってやらなくていいの?)

 

(構わない。それから、僕も君の魔力をベースに霊体化したい。観測可能なのは同じ魔力を持つアルレシアだけ)

 

どうやら天才というか秀才は野望が高いらしい。私は何いってるかさっぱりわからなかった。とりあえず私が何かするよりトムが好きにした方がいいだろう。

 

(つまり“僕の好きにするから手伝え”ってことね)

 

(そう、だから答えは一つ“私頑張るわね”ってことさ)

 

(どうすればいいの?)

 

(取り敢えずこっちに来てよ。君がこっちにいる間に僕が君の体に行く)

 

はいはい、なんだ思いながら私は集中して自分の内側にくる。体にかかる一瞬の浮遊感。そして、地に足がついたような感覚がして目を開けると、ソファに腰掛けていた。

 

「よし」

 

私の目の前にはズボン。そして、頭上では声がしている。顔を開ければ、美しい鼻筋と完璧な形をした鼻の穴、長いまつ毛。

相変わらず未来のヴォルデモートとは思えないほどの美しい顔だ。

 

「此処に来るのは簡単にできるようになった」

 

そう言いながら私の隣にゆっくりと腰掛けるのだ。そして私の肩をそっと抱き寄せ、頭上で鼻を鳴らした。

 

「アルレシアがもう少し僕好みだったら良かったんだけど」

 

「殴られたい?」

 

「僕は身長が高い、泣かし甲斐のある...ゾッとさせてくれるような女が好きなんだ」

 

「いや、そんな百戦錬磨な顔してればわかるけど...」

 

「君だって存外じゃないか」

 

「...それ以上言うと表に戻って、薬草学のテスト対策始めるけど?」

 

「どうせ性根から腐って男をたぶらかせてただろう」

 

「...ポッポーポポポー何言ってるかわからない」

 

トムは肩をすくめて笑った。前世は前世だろ、なんて思いながらソファで項垂れるのだ。

 

「ここ寝心地いいね」

 

「僕が引き篭もるために、分霊箱化する時に作り直したんだ」

 

「え?マートル・ワレンを殺した時にホグワーツ閉鎖を恐れてハグリッドに罪を着せ、記憶として魂の一部を日記に封じたんじゃないの?」

 

「正確には元々あの日記が秘密の部屋についての詳細なデータだった」

 

「すでにトムの記憶が日記に保存されてたってこと?」

 

「記録として日記を残していたんだ。だからマートル・ワレンを殺し、分霊箱を作る際にさらに詳細なものへと作り替えた、という方が正しい答えだろうね」

 

「つまり、元々記録して日記に記憶を保存しておき、分霊箱にする際に魂の一部を入れて作り直したってこと?」

 

「まあ、それが一番正しい説明だ」

 

へぇ〜と納得する。道理で生活しやすいというかここで時を過ごしやすくなっているわけだ。

 

「さて、そろそろやろうか。僕がやるから君はここで僕に干渉するなりのんびりするなり好きにしなよ」

 

そう言ってトムは目を閉じた。次の瞬間、またもや体に何か違和感というか奇妙な感覚が走る。

 

何かと思うと、トムは不自然に消え、私を抱き寄せる腕もなくなっていた。そして現れるのは目の前に鏡のような、テレビのようなものだった。

 

(へぇ...トムってこうやって見てたんだ)

 

(まぁね。もっとも、アルレシアが嫌がるお風呂とかトイレなんかは本人の意識次第でこちらに情報が伝わらなくなる)

 

声が部屋全体に響き渡るようだった。トムの行動をテレビのような画面越しに観ると目で見ている視点と大差ない。一応はスマホのようにいろんな方向から見られなくもないようだけど、そこまで精度も良くないのだろう。

 

(トムはどうやって私が寝ている時とかの外も見ていたの?)

 

(まぁ、背後霊みたいなものさ。寝ていても、外の風景が見られないわけではないからね)

 

心で見てる、みたいな感覚なのだろうか。そう思いながら画面を見るとトムはさっさと私の鞄を肩にかけた。

 

(寮に戻ろうか)

 

(誰かに会っても素知らぬ顔で通ってよ?)

 

(あぁ)

 

まるでゲームのチュートリアルのように勝手に進む。トムは特になんのトラブルもなくさっさと図書館を出て行った。そして、廊下に出ると雨に濡れたホグワーツ生何人ともすれ違った。

何人もの生徒たちがすれ違うたびにトム操る私に道を譲っていくのだ。

 

(ちょっと歩き方が太々しすぎない?)

 

(勝手に避けていっているだけさ)

 

(うーん)

 

そんなことを思っていると、ついにスリザリン生。しかも、マルフォイ御一行とエンカウントしてしまった。

 

「おや、ジェフィフィーナじゃないか。今日も勉強かい」

 

おっと、マルフォイの声が鏡というかテレビというか映像越しから聞こえる。少し小さめで不鮮明なその声は、外見の人が聴いている音を伝えているような感じだ。

 

「...あら、マルフォイさん。雨に濡れて、このままじゃ風邪をひいてしまいますよ」

 

そう言いながらトムは勝手に私の杖を振った。途端にじっとりとしたマルフォイ達の体が乾いていく。トムの声も不鮮明に聞こえたから心の声は部屋全体に響き渡って、外に出した声は聞き取りにくいで違いがわかりやすい。なるほどはいはい。トムの優しい優しい杖振りを受けても、マルフォイ達は興奮隠しきれぬ顔で私を見下ろすのだ。

 

「ポッター達が負けた。グリフィンドールの負けさ。ディメンターが来てポッターは箒から落ちたのさ。無様だね」

 

「あら...それはさぞ校長がお怒りでしょう?」

 

「さぁな。そんなことよりあいつの箒も壊れたのさ。暴れ柳にぶつかったらしい。これからは掃除ブラシにでも跨がればいい」

 

「...そうなんですか。なら、次はマルフォイさんスリザリンチームはレイブンクローですか?それとも、ハッフルパフ?何処と戦うのかしら」

 

そう言いながらまだ包帯を巻いたままのマルフォイに近づき、そっと腕をなぞるのだ。ギョッとしたマルフォイに、トムはどのような表情をしているのか。

 

「早く腕、綺麗に治るといいですね。マルフォイさん...雨に濡れて風邪でもひいたら大変です。ゆっくりとバスタブにでも浸かってくださいな」

 

私の声のはずなのに、声のトーンも何もかもが違うように聞こえる。何故だろうか。マルフォイは顔を赤くしてぶっきらぼうに頷いた。そして早足に去っていくのだ。

 

(トム、私そんなねっとりした話し方しないんだけど)

 

(あら、そんなことないわ)

 

(うっわ...)

 

(別にいいだろう。アブラクサスと連んでた時に人気だったレディはこんなのが当たり前だったんだぞ)

 

(アブラクサス?)

 

(あのマルフォイの祖父にあたる)

 

(へぇ...)

 

でも、見ているだけでもつまらなくて、私は暇つぶしにトムの残した記録だろう側に置かれた本を開くことにした。

 

(トム、この本読んでもいい?)

 

(いいけど、内容わかっている?)

 

(いや?)

 

(アルレシアの体を使うに至って、アブラクサスが話していた淑女について)

 

(うーん、なんでそんなこと切り取って記憶として保存したの?)

 

トムは答える気がないらしく、ズンズンと歩いている。全くひどい。本を手に取り開いてみると、パッと光が宿って体が吸い込まれるような感覚がある。

 

(え、ちょ、もしかしてこれ映像?)

 

(君が望む形になる)

 

いやいや文章文章。文章でいいよ。イケメンなトムは見飽きたし、アブラクサス誰だかわかんないし。そもそもトムから目を離してダンブルドアでも殴り出したら困る。そう思うと光は消え失せ、ただ文字の羅列の並ぶ文章になった。

 

(これ、本当にどういう仕組みなんだろう)

 

「僕が組んだ魔法がベースだから。秘密の部屋を開けやすくするために作った記録だ)

 

(あぁ...ポッターが入り込む時に映像として見せていたもんね)

 

道理で、そう思いながら文章を目で追うとなるほど昔SNSで見まくった文字の羅列がある。何話し方だとか、身のこなしとか。

 

(控えめな淑女が当時人気だったんだね)

 

(今じゃ男の方が控えめじゃないか。レディの方が勇ましいくらいさ)

 

(確かに...だからトムも童貞なのね)

 

(まて、童貞じゃない。何処でそんな間違いを犯したんだ)

 

トムの声を無視してホグワーツの映像を見ていると、医務室の前を通り過ぎようとしていた。

 

(トム、体調悪いふりをしてポッターを見にいく?)

 

(医務室にいるのか)

 

(クィディッチで箒から落ちてね、まだ寝ているかどうかじゃない?)

 

そう言うとトムは突然歩き方を変えたらしい。きびきびと歩いていたのがゆっくりになった。

 

(優等生がこんなあからさまな体調不良を演じていいの?)

 

(僕の体じゃないから)

 

そんな話をしていると、医務室の扉が開かれてグリフィンドール生がたくさん出てきた。ドロドロの服の選手達だ。そこにグレンジャー達はいない。選手だけが医務室から追い出されたのだろう。

 

「おや、スリザリンの嫌われ者と見た」

 

「今日のクィディッチはさぞ楽しかっただろうなぁジョージ」

 

「そうだなフレッド」

 

「ハリーが箒から落ちるのをスリザリン生と手でも叩きながら見てたか?って、友達いないんだったな!」

 

「...はぁ...」

 

トムは白々しく、また体調の悪さも残るような声色で小さなため息をついた。そしてゆっくりとグリフィンドール生に近づいていくのだ。

 

「私はクィディッチを観に行きませんわ。恐らくこれからも自発的に行くことはないでしょう...体調が悪くて医務室に来たのに、なぜ罵られなければならないのか、悲しくなります」

 

トムはさぞ辛いかのような名演技をかました。グリフィンドール生も女性陣は双子に笑うこともなく、トムの演技に騙されて体調が悪いのかと心配そうな顔だ。流石に双子もバツが悪そうな顔になる。

 

(見たか間抜けどもめ)

 

トムの高笑いが聞こえてきて、心の中の声なのか外に発してる声なのか一瞬心配になる。が、きちんと心の声だけらしい。

 

「フン...ハリー達にちょっかいかけたりすんなよ!」

 

「...私がいつ、ポッターさん達に関わったことがあるのでしょう。自分から話しかけたことすらあったかどうか。やっぱり、スリザリンというだけで、ウィーズリー先輩方は私をそのように見るのですね」

 

「「ウッ...」」

 

もうあんたハリウッドだわ。トムはさぞ辛そうに医務室の扉に手をかけようとする。そんな姿に名前はわからないが女性陣の一人が扉を開けてくれた。

 

「...あの双子は私たちが絞めとくわ。みんながみんな、あぁじゃないのよ。ごめんなさいね。お大事にね」

 

「...ありがとうございます。グリフィンドール生の全員が全員、ウィーズリー先輩のようではないのですよね。先輩のような優しい方もいるんですから...私はグリフィンドール寮の生徒を嫌いになったり、ましてはスリザリン生のように嫌がらせなんてしませんわ」

 

力なく言うトムに、なんかもう映画のワンシーンみたいだからやめてくれと笑いながらソファを叩く。トムはやっぱり高笑いをしていた。

 

そのままトムは医務室に入っていくのだ。

 

(僕の演技を見たか、青二才め)

 

(ウン。なんかもう悲劇のヒロインだった)

 

(アルレシアのような生ぬるい猫かぶりなんて僕の前では黄金虫以下さ)

 

私はもうなんか笑いを堪えきれずに映像を眺めていた。

 

「あら、ジェフィフィーナ!まあまあ、顔色が悪いわ...」

 

直ぐにマダムが私に気づき、近寄ってくる。トムはさぞ体調が悪いと言わんばかりの声色でまた話し始める。

 

「すみませんマダム。今日は天気が悪いからか頭が痛いんです...」

 

「貴方は体が強い方ではないのですから無理してはいけませんよ」

 

「でも今日は、クィディッチだったはずです。選手の皆さんが...」

 

「入院者は一人だけよ。スネイプ教授を呼んだ方がいいかしら」

 

「いえ」

 

マダムはその言葉を聞いて頷き、ポッターの隣のベッドへ通してくれた。

 

「ジェフィフィーナ、顔色がとても悪いわ!大丈夫かしら?」

 

ポッターのベッドにはグレンジャーとウィーズリーが座っていた。ポッター達全員は私の顔を見て少し顔を顰めるのだ。

 

(魔法でも使って病気にでもなったの?)

 

(いいや?もっと簡単さ)

 

(簡単?)

 

(単純に体温調節魔法を掛けて、冷却を強めた。低体温にしておく。簡単だろう?)

 

(あの...私の体ですよね?)

 

トムはそれを無視してグレンジャーの方に向き直った。

 

「雨が降ると体調を崩しやすくて...。でも、ポッターさんも大丈夫ですか」

 

「あ、う...ん。でも、試合には負けちゃったんだ」

 

「そうだったんですね...残念でしたね。こんな天候ですから余計に疲れたでしょう?しっかり休んでくださいね」

 

試合の結果など露も知らぬと言った顔でトムは弱々しく言った。マダムに診察をされている間も、体温は低め、体は冷たい。マダムは貧血か何かだろうと診断していた。もちろん、医務室に泊まる許可もしっかりと得ていた。服を着替えさせられ、ベッドに押し込まれるトムはさぞ体調悪そうに横になるのだ。

 

私もゲーム画面を見ている気分でソファに脚を組んでちょうど良い体勢をとる。手すりの部分に肘をついて顎を乗せる。ポッターの友人達がマダムに言われて出ていくのをのんびりと眺めていた。消灯時間近くになれば、流石にマダムも奥に引っ込み私たちだけになった。カーテンは引かれ、お互いの寝ているシルエットだけが恐らく浮かび上がっていることだろう。

 

「...アルレシア、起きてる?」

 

その声と共に、影がゆらめいた。

 

「さて、ポッターのお手並み拝見といこうか」

 

「童貞を食う女の発言やめて」

 

「僕を童貞呼ばわりしたバツだ。君を百戦錬磨のビッチにしてやる」

 

「...ウィーズリーの末っ子でよかったのでは?」

 

体なんて貸すんじゃなかった、やっちゃったわ〜と思いつつも、トムは静かに起き上がってポッターのカーテンをひいた。

 

「ポッターさん、呼びました?」

 

「あ、えっと、その」

 

「...眠れないんですか?」

 

「その、アルレシア」

 

「...どうしました?」

 

「体調が悪そうな時にごめんね。その、アルレシアは占いを信じる?」

 

私の声とトムの心のうちであろう声が重なった。は?である。突然何を言うのか。

 

(アルレシア、占いを信じてる?)

 

(アタイ占い大好き。特に茶葉のやつなんかね、反吐が出るくらい好きよ)

 

トムはポッターを見下ろし、ゆっくりと後手でカーテンを閉めるのだ。ポッターの座るベッドに腰掛け、そっと近づくのだ。

 

「占い...正直に言えば、予言は信じています」

 

え、トムってその手の信じてんの!?えぇ...なんて思っているとよくよく考える。そういえばヴォルデモートも予言の子供のためにロングボトム、ポッターの両家を襲ったんだっけ。それに神秘部?だかでポッターの水晶玉を取ろうとしてたし。

 

「そっ...か」

 

「ポッターさん、どうしたんですか?ほら、何か不安なことがあれば私に言ってみるのはどうでしょう?」

 

「でも...」

 

「私、友達が少ないんです。だから、私に言っても力になれることは少ないかもしれませんが、きっと人に広まることもありませんよ」

 

友達いないって言うな、少ないだけだぞ!というツッコミが喉まで出かかって止まった。トムは本当に言葉巧みにポッターを説得しているのだ。

これが主席だった秀才の圧倒的な実力だ。私の顔面がついておらず、まあまあの好感度がきちんとあればこのホグワーツを牛耳ることも層難しくはないだろう。いや、私の魔力なんかも足りないからそこは欠点になるだろうが。

 

トムの優しい声がけにポッターはゆっくりと口を開いた。下を向きながら、言いにくそうにするので一体何のことだと私はソファで身構えながら聞くのだ。

 

「...前も、グリムについて話したこと覚えてる?」

 

グリム、グリム...あーん。聞き覚えがあるようなないような。

 

(あー、トムある?)

 

(いいや全く)

 

言われたような気もするし言われなかったような気もするし。正直覚えてない。仕方なくトムは曖昧に頷くことにしたようだった。

 

「...グリムについて、また何かあったんですか?」

 

「うん。僕、また見たかもしれなくて」

 

「何処で?」

 

「スニッチを掴む前に。犬を見て箒から落ちた。ロンにもハーマイオニーにも言えなくて、ロンはノイローゼになるほど心配するだろうし、ハーマイオニーはきっと鼻で笑うと思うんだ」

 

「...それは大変でしたね。でも、ポッターさんにとって不安なことがもう一つあるのでしょう?」

 

「...ディメンター」

 

「ディメンターは地上で最も忌まわしい生き物。貴方が不安に思っても仕方ありません」

 

「僕だけなんだ。みんな怖いって言うよ。でも、ディメンターが近づくたびに僕だけ気を失うんだ。そして、頭の中で叫び声がして...両親の声がずっと響いてる」

 

「...」

 

「きっとあれは、母さんと...ヴォルデモートの笑う声だ」

 

「...ポッターさん...」

 

「アルレシアは強いのに、なんで僕はこんなに弱いんだろう」

 

(そんなの僕が知るわけないだろうが)

 

(優しい声くらいかけてあげてよ)

 

「ポッターさんは充分頑張っていますよ。クィディッチだって...ディメンターがいなければ勝てた、そうでしょう?」

 

「...そうかな」

 

「えぇ。だって、ポッターさんはとても上手だって聞きますよ。それに、貴方が経験したことは決して覆りはしません。私にはなくてポッターさんにあるもの、沢山ありますよ。優しい仲間に囲まれた貴方は強くなくてもいい。誰かと支え合って生きていけばいい、そう思いませんか?」

 

 

(漫画の主人公並みにいいこと言うねダウト)

 

(フン、支え合い、馴れ合うことでしか生きていけない弱者どもめ)

 

(ブーメラン刺さってます)

 

「今日のアルレシアは、いつもよりずっと大人みたいだ。母さんが生きていれば、アルレシアみたいに言ってくれたのかな」

 

悲しそうに笑ったポッターに、私は少しだけ悲しくなった。私の今世に両親はいない。けど、前世で沢山愛情を注いでもらった。ハリーポッターと呪いの子でポッターが毒親になる理由もわかる気がする。

だって、わからないのだから。親になることを、母親も父親もわからないまま大人になるのだ。周囲の両親像ですらあやふやのまま。

 

(トム、ポッターのこと抱きしめて)

 

(...はぁ...)

 

「ポッターさん、私は貴方の母親にはなれません。でも、貴方が辛い時や苦しい時に少しだけ息をつけるところはなります」

 

そう言ってトムはポッターを抱きしめた。頭を撫で、そして笑う。私とトムではまるで別人のようだった。器は同じなのに全くの別人。トムの操る私は聖母マリア様の象徴のようだ。

 

「アルレシア、ありがとう。僕...」

 

「今日は疲れたでしょう。ゆっくりと休みましょうか。寝付くまで隣にいなくて大丈夫ですか?」

 

「え、あ...うん。ありがとう、大丈夫」

 

トムはにっこりと笑ってポッターの体を倒してタオルケットを被せた。また後ろ手でカーテンを開くのだ。

 

「ポッターさん、おやすみなさい」

 

「うん、おやすみアルレシア」

 

トムは特別後ろ髪を引かれることなく自分のベッドへと戻った。ベッドに仰向けになると、杖を振るのだ。柔らかく振られた杖の先端から噴き出るのは美しい銀色の煙。

 

(僕のパトローナスは蛇だった)

 

(だった?)

 

銀色の光が形を作らずに舞っている。トムはわざと形を作らないようにしているのだろうか。

 

(僕にとって必要ない魔法だった。吸い取られるべき幸福な記憶など僕にはなかったからさ。ディメンターに屈することない僕が、わざわざ対処法を学ぶ必要がないと思ったからね)

 

(でも、トムはパトローナスを呼べるよね?それは幸福な記憶があったってことじゃないの?)

 

(...何が幸福かは僕が決めることだ。例え人の死がその人にとっては幸福になるだろう。人によっては不幸となる。そう、ディメンターが不幸と決めつけようが、僕は幸福だ)

 

何を言っているんだ、そう思っていると私の座るソファに一冊の本がいつの間にか置かれていた。こんなところに置いていないはずなのに。そう思って本を手に取ってテーブルに置くと、トムの声が響くのだ。

 

(ポッターに開心術を掛けた。今回のクィディッチの詳細だ。読みたければ読めばいい)

 

いつのまに開心術なんてかけたんだ。そう思いつつも、私はありがたく本を開いた。ディメンターが沢山現れること、そしてグリムを見てしまったというポッターの記憶。母親の叫び声、ヴォルデモートの笑い声。なるほど、これはグレンジャー達には言いにくいだろう。

大体は知ってる内容通りのポッターの記憶に、私は何処かほっとするような気持ちになりながら本を閉じた。

 

(トム、まだ起きてる?)

 

(あぁ。そろそろ交代しよう。僕も今回の感覚を覚えておかなければならない)

 

その声が響いたと思うと、トムは私の前に立っていた。特別疲労したような感じもないし、トムの予想通りだったのだろう。納得した様子で私の隣に腰掛けた。

 

「...ホグワーツの汽車の中でアルレシアの体を勝手に借りた」

 

「パトローナスを呼んだ時?」

 

「あぁ。その時のパトローナスは蛇だった。しかし、君のチャームは狸だ。怪しまれる可能性もあるから気をつけろ」

 

「わかった」

 

トムはそれだけ言うと用はないと言わんばかりに私の持っていたポッターの記憶の本を取り上げて読み始めるのだ。

私も自分の体に戻ることにした。戻るだけなら感覚も掴めているし簡単だと。すぐにベッドに横たわった感触。柔らかなベッドが背中に触れた。消毒液の匂いや光、トムが五十年間も味わえなかったとおもうと私なら狂ってしまいそうだ。

 

ポッターが寝ているのを寝返りを打って確認すると、私もゆっくりと目を閉じるのだ。

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