身長160センチ無いと戦えんわ!って、その前にハードモードすぎて泣いた!!!   作:あるれしあちゃん

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第105話

「アルレシア、来てくれたんだね」

 

ルーピン先生は、そう言って私の頭を撫でた。キャビネットがガタガタと揺れるのを横目に、私はいつも通りの笑顔を浮かべて頷く。ルーピン先生の自室は、彼らしくものが雑多に置かれながらも、そのどれもがゴミでないことを感じさせた。

 

「はい、私も気になっていたので」

 

「自分の怖いものを知るのは、恐怖でもあり自分自身を知るチャンスだ」

 

どうしてこうなったのだろうか。私はそんなことを思いながらボンヤリと窓の向こうにある夜空を見上げた。

 

ルーピン先生は私の前に一杯の紅茶を魔法で淹れて置いてくれるのだ。私もそれを受け取って二人して椅子に座った。

 

「セブルスが何かとアルレシアの自慢をするからね。私も知識を振り撒きたくて堪らなくて」

 

「本当ですか?教授が言うとは思えません」

 

「セブルスはよく、“アルレシアは他のトロールの世に鈍間で馬鹿な者どもの中でも比較的マシなトロールである”って言うさ」

 

紅茶の中に山ほど砂糖を入れながら、ルーピン先生は言葉を似せて言った。言いそうで言わなそうな絶妙なセリフに、私は笑うのだ。確かにそんな感じだったら言うかもしれない。

 

「結局トロールなんですね」

 

「でもまあ、セブルスなりの自慢なんだ」

 

「普段の教授を見れば最上級の褒め言葉です」

 

「それはそれは」

 

「スネイプ教授、私は褒めた方が伸びるってことをご存知無いんです」

 

私の言葉にルーピン先生は朗らかに笑い、確かにと頷くのだ。紅茶に角砂糖を一つだけ入れてかき混ぜると、それを一口飲んでテーブルに戻す。

さて、行くなと言われたのに来ちゃった。スネイプ教授に怒られなければいいけど...なんて、私は一回ブッチした時のことを思い出したのだ。

 

私の元にちぎれた羊皮紙のカケラが来たのは年が明け、闇の魔術に対する防衛術の授業を終えた日の夜だった。

 

スネイプ教授とエールを飲んでいる時に魔法でやってきたのだ。鳥の形でパタパタと舞うメッセージはご丁寧に私の手のひらに落ちて、紙が開かれる。

 

「貴様にもラブレターが来るのか」

 

「...教授、その辺の学生が魔法でどこにいるかわからない相手まで送れるほど実力があるとお思いですか」

 

「上級生をたらしこんだかもしれぬ」

 

「...今年の私を振り返って...って、今年は始まったばかりでしたね」

 

「内容は?」

 

(こんばんはアルレシア。ハリーがパトローナスの練習をしたいと言っていてね。よければ木曜の夜八時、魔法史の教室で。 R・ルーピン)

 

(いーや、めんどくさいね)

 

私は読むのもめんどくさいのでそのままそれをスネイプ教授に見せた。教授は黙ってそれを読み終えるとそのまま燃やしてしまうのだ。

 

「燃やしちゃうんですか」

 

「何故貴様も行く必要がある」

 

グラスにおかわりを注ぎ、それをスネイプ教授に渡すついでに首を傾げておく。そりゃ理由なんて一つだけだろう。

 

「多分同年代で唯一チャームを呼べるのが私だからじゃないですか?教授が私に教えたので」

 

「使えないことにしておけ」

 

「汽車で使ってしまったみたいなので」

 

「マグレとでも」

 

私のことをバカタレと言わんばかりに睨みながらも教授はエールを一口飲んでテーブルに戻した。最近ホグワーツでも風邪も流行っているので薬の調合をし続けてる。そのせいで教授もかなり疲れているのだ。

 

「そうですね...困りました」

 

「その日はイモリの肝臓が届く故難しいと伝えておけ」

 

「それは教授の予定です」

 

「貴様は材料の在庫確認の仕事がある」

 

「...休みが明ける前にやりましたよね?」

 

「参加したいのか」

 

参加したいといえば参加したい。だけどどっちでもいいと言えばいいのだ。私が興味あるのはボガートなのだから。

 

(トム)

 

(何)

 

(ボガートに興味ある?)

 

(真似妖怪ボガートか。自分の一番怖いものに変身する...気にならないこともない)

 

(今回ポッターはボガートでディメンターを作り出して練習するの)

 

(なるほど)

 

(でも、チャームがバレちゃうし)

 

(正直リスクはある。辞めておいた方が良さそうだね)

 

私は少し悩むそぶりをしていたのを辞めて首を振った。教授も心なしかウンウンという顔をするのだ。

 

「辞めておきます。いつポッターさんの練習が終われるかわかりませんし」

 

「そうしたまえ」

 

私もウンウンとエールを飲んでソファでくつろいだ。正直方法はいくらでもある。トムに体を貸せばいいのだから。でも、それだってリスクがないわけじゃない。ポッターとトムの繋がりもあるし。おいそれと主人公と関わるのはいいことだけじゃないのだから。

 

「ポッターさんならあっという間に習得しそうですけどね」

 

「貴様に比べたらな」

 

「私はかかりましたね。幸せな思い出ドーンってなかなか無いんですよ」

 

「...ボーイフレンドでも作ったら如何かね」

 

「淑女レディが悲鳴を上げるものをすり潰してるんですよ?」

 

「フム...」

 

教授は気難しそうな顔で私を見下ろしてから生ハムを摘んでいた。美味しいでしょう、私の得意料理!とは言い難いのでエールを飲み切ってグラスをひっくり返した。

 

「今日はあまり飲まぬようだな」

 

「明日ルーピン先生に直接聞かれてもお酒が入ってると正常な判断ができないので」

 

「さようで」

 

教授は私の言葉に納得してテーブルの上を片付けるのだ。どうやら教授ももういいらしい。私たちは何か挨拶を交わすわけでもなくそれぞれの寝室へと引っ込むのだ。

私は特に木曜日の夜八時について、ルーピン先生に何も触れることはなく過ごした。特にアクションのないままにその日は過ぎ去り、もう一度、私の元へ手紙が来たのだ。

 

“アルレシアへ

突然の誘いだったからセブルスからお小言を貰ってしまったよ。すまない。ハリーのパトローナスは私が責任を持ってみる。それとは別でボガートを体験してみないかい?

興味があれば水曜日の夜八時、私の部屋へ

R・ルーピン”

 

この手紙についてはスネイプ教授には言わなかった。二年連続で闇の魔術に対する防衛術の引きが悪いので、その担当教師の部屋にはいかないルールが基本的にはあるのだ。そう、闇の魔術に対する防衛術といえばクィレル教授、ロックハートおじさん。この二名は既に前科ありですアウト。

まあ確かにボガートは興味あるし、脱狼薬の経過や今のシリウス・ブラックに対する心情も気になるから行ってみよっかということで行くことにしたのだ。

だから水曜の夜八時少し前に、私は大広間の食事を終えた足でルーピン先生の自室を訪ねたというわけだ。

 

 

ガタガタと相変わらずキャビネットは揺れていた。ルーピン先生は紅茶をそのままに気になるだろうからと私の前にキャビネットを置くのだ。

 

「さあ、アルレシアの怖いものは?」

 

「私...わかりません」

 

「嫌いな虫や、遭遇すると思わず逃げてしまうものはあるかい?」

 

「今までに経験がなくて...」

 

ルーピン先生は顎に手を置いて悩むが、私も正直思いつかない。自分の怖いもの。なんだろう、ほんとにわからなくてただ苦笑いした。

 

「ルーピン先生...私、自分が何が怖いかわからないんです。だから、何がでてくるのか見当がつかなくて」

 

その言葉に、ルーピン先生はただ何も言わずに頷いた。私の言葉を待つように、ただ静かに佇むのだ。

 

「わがままだってわかってるんです...でも、お願いします。一人にしてくれませんか」

 

「もちろん構わないよ。人それぞれ、知ってほしくないことがある」

 

ルーピン先生だからこそ言葉だった。この人もどれだけ辛い日々を送ったんだろうか。大切な友人たちがみんな死に、アズカバンに入れられ、裏切られた。たった一人で、何を信じたのだろうか。

 

「私は、どうしてルーピン先生の怖いものが月...満月だったか、人に言うつもりはありません」

 

「アルレシアを、私は信用しているよ。もちろん、セブルスも」

 

私はその言葉に、黙って頷いた。スネイプ教授がルーピン先生のことを未来ばらしてしまうことを知っていたからだった。

 

「五分だけ一人にしよう。君なら大丈夫だと思うが、恐怖で打ちひしがれ、怯えることになるかもしれないからね」

 

「充分です」

 

「さぁ杖を構えて。リディクラス」

 

「リディクラス」

 

その言葉に頷くと、ルーピン先生は懐中時計を手に部屋を出ていった。

 

(アルレシアは何になるか、本当に検討もつかないの?)

 

(うん)

 

(なら、僕に先に体験させて。僕も、自分が何を恐れているか気になるからね)

 

(...いいよ)

 

トムはその言葉に礼を言い、私にこんなことを言うのだ。

 

(体を借りても?)

 

(その後の活動に問題がなければ)

 

トムがないというので、私は静かに目を閉じた。いつものソファにいても、私は鏡のようなものを見ることはなかった。トムに失礼だと思ったからだ。ただぼんやりとソファで目を閉じた。体の力が抜けるような感覚の末、私は夢でも見るかのように意識を途切らせた。

 

次に気づいた時には、ボガートはキャビネットにしまわれたままガタガタと揺れていた。

 

(終わった?)

 

(あぁ)

 

(なら、私のをあまり見ないでね)

 

私はそう言うと、杖を振って箱を開く、開かれた先からゆっくりと手が伸びる。唾を飲み込み、私は杖を構えるのだ。

 

ゆっくりと現れるのは、他でもない私だった。私自身だった。今朝鏡で見たばかりの私が、口から血を吐きそのまま床に倒れ込む。そして、その姿は倒れたまま変わり、トムの姿になった。

 

「っ...りっ、リディ..」

 

杖を振ろうとした瞬間、それは瞬く間に変わっていく。スネイプ教授の首から流れる血。マルフォイの青白い、泣きそうな顔。そして、知っている人たちが次々に私へと冷たい視線を投げかける。

 

ポッター、グレンジャー、スネイプ教授、マルフォイ。ノットにトム。ルーピン先生。まるで責め立てられるように、ボロボロの体で睨みつけられるのだ。死んだ体のまま、血を流したまま、虚な瞳のまま、私を見ていた。

 

「わた...し、裏切られるのが...背を向けられるのが怖いの?それとも...」

 

思わず杖を握りしめてしまった。そんなものが怖いなんて、そんなわけがない。だって、この人たちが居なくなって、私は一人で生きていけるだけの力をホグワーツで得てきたはずなのに。そんな、今さらそんなことが怖いわけがない。だって、ハリーポッターという本の世界に来てしまったと気づいた時から、覚悟していたのに。そんなの嫌だ、唇を噛み締めたその瞬間。

 

ボガートは姿を変えた。

箱の前に立つのは、私のよく知る人物だった。そう、その人物はゆっくりと私に美しい笑みを向けた。

 

「...っ..ぁ..」

 

そして、先程とは真逆に私を睨みつけるのだ。美しい顔を歪め、私のことを指差した。そして、ゆっくりと口を開くのだ。

 

音にならない声で、彼女は確かに何かを言った。その言葉がわからなくても、私への恨み言に違いなかった。

私はローブ端を握りしめて震える腕で杖を振った。

 

「り、リディックラス!」

 

途端にボガートの姿はどこにでもあるクマのぬいぐるみになる。杖を振り、それを箱にしまい込むと、私はどっと流れ出る汗をローブの袖で拭った。

 

(怖いものが多すぎるね、君は)

 

(こんなものが怖い?私が?)

 

(...怖いんだよ、君は)

 

トムはそう言ったきり、もう何も言わなかった。私もただ無言で杖を握りしめて座り込む。暖かな部屋なのに、確かに床だけはひんやりと冷たいのがまた自分を嘲笑うようで悔しかった。

 

暫くして、扉がノックされてルーピン先生は入ってきた。座り込む私に駆け寄り、心配そうに背中をさすってくれたのだ。

 

「君は何が見えたんだい?」

 

「...私、わたしは...」

 

背を向けられた、裏切られた、そんなことが怖いんじゃない。ルーピン先生の顔を見て気づいた。そう、私が怖いのは原作を知っている自分が、助けられたかもしれない相手を死なせてしまったと、それに気づかれ、軽蔑されるのを恐れているんだ。

 

自分を見捨てた相手だと気付かれるのが怖くて仕方ない。

 

「...し、死なれるのが、こわ...い」

 

その言葉に、ルーピン先生は口を開き、ゆっくりと閉じるのだ。慰めの言葉を言おうと口を開いたようにも見えたし、なんと言えばいいのかわからなくて閉じてしまったようにも見えた。

 

「...裏切られるよりも、死なれる方がずっと辛いです。恨み言を言われても、背を向けられても...」

 

「その人は...」

 

「死んでません」

 

ルーピン先生は私を椅子まで誘うとゆっくりと座らせてくれた。私も汗を袖で拭うのだ。こんなことが怖いなんて、そんなわけないのに。私が信じるのは自分だけで、他の人にどう思われようが気にもとめないつもりだったのに。

 

私の前に新しく淹れてくれた紅茶を置いて、ルーピン先生はチョコレートをお皿に乗せてくれた。

 

「...食べると、気分が良くなるよ」

 

「パトローナスを呼んでなくてもですか?」

 

「心の栄養だよ」

 

私は納得して、チョコレートを食べた。紅茶を飲んで静かにお互い下を向くのだ。ルーピン先生は何か言いたげに口を開いてを閉じを繰り返していた。

私の汗が引いてきた頃に、ようやくルーピン先生は口を開くのだ。

 

「...アルレシア、君が怖いと思うのは正常なことだ。人に死が怖くない人は...例のあの人くらいだと私は思うよ」

 

(僕をなんだと思っているんだ?)

 

(トムって人の死をちゃんと弔えるの?)

 

(少なくとも僕は無駄な殺しはしないさ。あのトムと違ってね)

 

「アルレシア、君は間違ってない」

 

「...はい」

 

私はただ曖昧に笑った。人の死が怖いんじゃない。私が怖いのは人が死ぬとわかっていて助けなかった、非道な人間だと知られることだ。死ぬことなんかより、よっぽど怖い。

 

「...死んだら、死体は喋ってくれません。それでも、その人が死んでしまえば私は...きっと、隠してきたことを知られてしまうと思うんです。誰にも言わずにずっと隠してきても、罪悪感がきっと、重くのしかかる。いつか誰かに言って救われたくなると思うんです」

 

「...セブルスのことかい」

 

どうして突然。スネイプ教授の名前が出るのだろうか。私はわからなくて首を傾げた。

 

「アルレシアとセブルスは恋仲だと思っていたんだけど、私の思い違いかな」

 

「はい。残念ながら、スネイプ教授は意中の方がいますから」

 

「...それって」

 

「私は、会ったことも話したこともありません。もちろん、写真を見たことも」

 

ルーピン先生は黙りこくって紅茶を飲んだ。暖炉の薪が音を立てるのが部屋に響いて、私はちょっと言いすぎたかな、なんて反省するのだ。言わなくてもいいことを言ってしまった気がする。

 

「...アルレシア、君の隠し事を明かす相手はいる?」

 

(トムがいますよー!)

 

(僕に話してないことが多いくせに)

 

(タイミングよタイミング)

 

「...この隠し事は、言っても誰も幸せになりません。それが真実なのか、虚言となるのか、わかりませんから。私はただ、この隠し事を背負って抗うか、そのまま受け入れるかの二択なのだと思います」

 

紅茶をテーブルに置いて、私は窓越しに外を見つめた。雪が降る外はきっと凍えるように寒いだろう。こんな寒い日に、シリウス・ブラックはどうしているだろうか。

 

「私でよければ話を...」

 

「良いんです。私は、嘘を言いたくありません」

 

「誰かに言うことで、スッキリすることがあるかもしれない」

 

むしろその言葉を、貴方に返したい。私はそういう意味を込めてルーピン先生を見つめた。

 

「ルーピン先生こそ...私に何か言いたいことがあって、ここに呼んでくださったんじゃありませんか?」

 

「別にそんなことは...」

 

「私は誰にも言いません。ルーピン先生の知ってほしくないと思うことに深入りもしません。ただ、一人での疑問を、私が傾聴するだけです」

 

ルーピン先生の悩みは、きっとシリウス・ブラックなのだろう。大切な仲間を全員失ってしまった先生に残されたのは誰だったんだろうか。話を聞いてくれる人は?側で手を握ってくれる人は?

私はゆっくりと立ち上がってルーピン先生の隣に腰掛けるのだ。そしてそっと手のひらを差し出した。

 

「ルーピン先生が嫌なのだと思うなら私はこのまま向かいの席に戻るか、寮に帰ります。口に出したいことがあるならば、手を握りますし背中もさすります。話したいけど、向かいで聞いてほしいなら元の席に行きます。

...スネイプ教授も愚痴を誰にも言えないんです。だから時々聞いているんです。スネイプ教授と同じように、ルーピン先生も大切な先生ですから...」

 

正直今後結婚して一児のパパになるおじさんに媚を売るのはあれだけど、今後もお世話になりそうだから愚痴くらいは聞いてあげよう。

親友の一人は裏切られ殺される。たった一人の息子を残して。

親友の一人は例のあの人を崇拝し、親友を裏切り、親友を指一本残して殺す。

親友の一人は裏切った親友を追いかけ、指一本残して殺される。

さて、蚊帳の外だったルーピン先生はどんなことを思っただろうか。

 

「...アルレシア」

 

私の手に、ルーピン先生はゆっくりと自分の掌を重ねた。私はその手を両手で握りしめた後に、そっと背中をさするのだ。そんな私に、ルーピン先生は下を向いたまま掠れた声を上げた。

 

「...少しだけ、少しだけでいいんだ。私の昔話に付き合ってくれるかい?」

「もちろん。聞かせてください」

 

私はほくそ笑みそうになる口を、唇を噛み締めることで止めた。

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