身長160センチ無いと戦えんわ!って、その前にハードモードすぎて泣いた!!! 作:あるれしあちゃん
「アルレシア、今日こそ空いてる?」
私は寝癖のついたままの髪を手櫛で整えながら、その声の主を見上げた。そう、誰とは言わないが某主人公である。
不安げに私を見下ろし、口をぱくぱくとしている彼は、クシャクシャの黒髪をなでつけていた。
エメラルドのような緑の瞳に、なんだか吸い込まれてしまいそうな不安感のようなものが私の頭をよぎった。
ポッターくんのお誘いをお断りしてしまい、教授の家と漏れ鍋のバイトでてんてこ舞いしていたので、ポッターとこんなふうに接客以外で話すのは久しぶりだ。
なかなか時間が取れないのもあって、私自身もポッターをなるべく避けていた。
「えっと...」
(こんな朝一から声かけに来るなんて、ハリーポッターはどんな体内時計をしてるんだ?)
(私が避け過ぎだってことですよ...)
「あ...だ、だめかな?」
「きょ...うは..」
寝不足の頭の中で予定を考えるが、教授の食事も朝昼のブランチと夕食を用意したし、実験に使った器具も全部片付けた。それに、足りなくなった材料もキチンと補充した。昼間っから呼び出されることはないだろうたぶん。
(アルレシア、もう少し寝た方がいいんじゃない?)
(これ以上断るのも申し訳ないし...)
「えっと、午前中なら大丈夫です」
「ほ、ほんと!?じゃあ、課題のわからないところ教えてほしくて」
「いいですよ。私に教えられるといいですが...
じゃあ、一先ず朝食後に空いている席に再集合ということで」
「うん!」
ニコニコと去っていくポッターに、私は今何時だぁああん?と時計を確認した。はい7時。早朝ではないけど、教授と午前3時まで研究室にこもっていた私にとってはだいぶ辛いです察して。
(午後からの仕事に響くんじゃないか?)
(かもね、でもまぁ偶にはね)
仕方なくストレッチを兼ねて伸びをしてシャワーと着替え。トムは不服そうだったけど、主人公に媚を売る方が生き残り率高い気がするから仕方ない。
メイク道具をいい加減買わないと、と思っていても中々重い腰も上がらない。鏡を見ながら、魔法で髪を乾かす。大学生だった頃も似た感じでモダモダしていた。忙しいと色々放棄してしまう。
(アルレシア、そういえば最近この辺を黒い犬がよく走ってるよね)
(黒い犬?)
(あぁ...よくこの宿周辺を彷徨ってるよ)
黒い犬、というとシリウスブラックだろうか。ポッターの様子を見に来ているか何かだろうか。原作にあったかどうかは記憶にございません、というところだが私に害はないので放っておこう。
(犬...グリムかもよ?トムはそういうの信じてるの?)
(別に、僕はもう死んでるじゃないか)
(それもそうね。さて、朝ごはん食べたらポッターと勉強でもしようかな)
身支度を整えると、私は杖を手に意気込む。そうです、パトローナスはまだまだ呼べてません。
「幸せな記憶、幸せな記憶」
目を閉じて、昨日の晩御飯がローストビーフだったことを思い出す。だったというか私が教授の家で作ったんだけどね。
教授も文句無しに食べていたので美味しかったはずだ。
まずは肉を常温に...と、話すと長いのでまた今度。
「肉の塊、ローストビーフ...私は厚切り派」
(もうちょっとマシな記憶ないのかい?)
「エクスペクトパトローナム」
むむむ...と頑張るが、振った杖先から湯気レベルの白い煙が漏れ出す。チョロチョロと出てくる煙をなんとか形成させようとローストビーフのことを思い起こす。
しかし、その瞬間に思い出されたのは母のことだった。
顔も思い出せない、声も思い出せない。しかし、鏡の向こうにいる自分と似たような人を考えれば片鱗を感じる。
(...アルレシア?)
(もっと本当はちゃんと作ってあげたいのに、いつもなんちゃってなのよ。でも、みんなローストビーフ好きね)
(なに?)
私は母の音のない言葉を思い出して、杖先から煙が消えたのを見た。
うんともすんとも言わない杖に、私はため息をこぼす。
「エクスペクトパトローナム」
手のひらを出してそう唱える。制御が難しい呪文だからか、微量な煙が私から出てくるだけだ。
杖がなくても、魔法はある程度使える。だけど、私の技量、能力、全てがそこまでの域に達していない。
(そんなに落ち込まないで。いつかはできるようになるさ)
(それなりに頑張る。まぁ、うん、いつか出来るようになるはず)
やっぱりできないんじゃないのー?と思いつつもできると信じるしかない。なんだかんだホグワーツの生徒たちもできてたわけだから私のポテンシャルが死んでるわけではない限り大丈夫のはずなのに...
(そんなに幸せな思い出はないの?)
(幸せだよ...孤児院も出られた。学校も行ってる。話し相手もいる。ご飯も美味しい。勉強も上手くいってる。人間関係も安定してる。
だけど...パトローナスを呼ぶ練習を始めてから、辛い記憶が多いことに気付いたの。幸せな記憶の終わりは辛いばかり)
(アルレシア)
「この話はもう終わり。いい、もうやめる。
トムがいるなら、私はもっといい思い出ができるし。
今年からホグズミード?にも行けるって書いてあったから好きに出かけられるし」
吹っ切れたような声でそういうと、私は勉強道具を手に部屋を出た。階段を降りて、食堂の方に。
席につけば、魔法で朝食が運ばれてきた。ポッターは少し遠くの方で朝食を終えるところだった。
私がいることに気づいたポッターは手を振りながら私の方へ歩いてくる。
「その、僕もう食べ終わるんだけど居てもいい?」
「いいですよ」
私の前へと座り、手にしていた課題をテーブルのそばに置くと、ポッターは途端に口を開いた。まて、私はまだ食べているんだが!!とは言えないのでパンを飲み込んでおく。
「ねぇアルレシア。その...」
「どうかしました?」
「君は、去年...石になった時、なにを見たの?」
(なにを見たって、バジリスク以外になにがあるんだい?)
(なにを見たって、何越しに見た?ってことなんじゃない?)
「何を見たって、何をですか」
「バジリスク...」
「たしかに、黄色い目を見ましたよ」
「僕、その...何もそばに無いから、君が死んでしまったと」
「生きていますよ。私は、コンタクトレンズをしていたので...コリンさん、でしたっけ?カメラのレンズ越しに見たのと同じようなものですよ」
私の言葉に、ポッターは納得したようなしていないような不思議な顔をしてから、言葉を詰まらせて下を向いた。私はアイスティーで喉を潤しながら食事を続ける。
なんでこう去年の答え合わせみたいなことをしているのか、2回目ですよこの会話ハイ。
「マグル生まれのアルレシアが襲われたって聞いた時、本当は...僕、死んでしまったって思った。
その、ごめん」
「...いいんです。スリザリンのマグル生まれなんて、そう思われて当然ですよ。
ポッターさんが謝ることは何一つありません」
笑って、宥めるようなつもりで言葉を返す。そして、少しだけ席を立つと私は腕を伸ばしてポッターのくしゃくしゃの頭を撫でた。
いい子でちゅねーと、私が過去に誰かにやってもらいたかったことをポッターにする。
「ポッターさんはいい人ですね」
瞬間、ポッターは驚いたように顔を上げた。そして、狼狽えるように目をキョロキョロと動かしてゆっくりと稲妻型の傷に触れるのだ。
(...アルレシア)
(トム?)
(共鳴した)
「ポッターさん?すみません、私何かしてしまいましたか?」
「え、あ...いや、なん、でもない」
傷跡に触れて、ゆっくりと手を離すとポッターはその手をグーパーして首を傾げた。
共鳴したというトム、傷跡を触れたポッター。
あぁー!!なるほど、ハイハイ。ポッターの中にいるヴォルデモートの魂と私の中にいるトムの魂というか概念というか意識のかけらが共鳴したというか反応したのね。
(なんでポッターは反応したんだ?)
「ポッターさん、本当に大丈夫ですか?」
「あ、うん...その」
(アルレシア、もう少し聞き出して)
「すみません、心配になってしまって...傷跡を触れてましたけど...」
私はさぞ心配そうですという顔で上目遣いにポッターを見る。しかし、おそらくポッターとトムの魂が共鳴した。二人はよく似てる。それは、魂が同じだから。
なんかSFじゃーんたぶん。
「えっと...じゃ、じゃあ。アルレシア、お願いがあるんたけど」
突然何?え?と思いながら恐る恐る頷く。あまりに緊張。え、なに。お願いって何?ここから脱走させてくれ、とかじゃないよね?犬殺せとか?
「もう一度、頭を撫でてくれない?」
「....はぁ...え?」
「だめ..かな」
私は頷きながらもう一度頭を撫でた。いい子いい子と頭を撫でながら呟くと、ポッターはまたも稲妻を手で覆う。
「ポッターさん?」
「あのね、アルレシアが頭を撫でると傷がじんわりあったかいんだ」
「そうなんですか?」
「うん。痛くないんだ。僕、傷があったかいなんて初めて」
はにかむように笑うポッターに、私は曖昧に笑みをこぼした。そう言われてもなあ、、、というのが本音だ。
(僕とポッターが共鳴した、ポッターはただ僕に似てるわけではないってことなのかい)
(とりあえず、私はこれどうしたらいいんですかね)
私は頭を撫でてねーという遠回しのデレを感じつつも、勉強モードに入るらしいポッターに勉強を教えることにした。
ポッターの魂のかけらと、私の中にいるトムが共鳴したということは、未来トムが私の中にいることを知られてしまう危険性もある。
「アルレシア、この魔法薬学の記述で...」
「あぁ、それはユニコーンの角の粉末を使うんです。ヒントは教科書の...はい、この辺のページですよ」
私は、たまにはこんな日もあってもいいか、なんて思いながら教科書を指差した。
主人公側に媚を売る限り、死ぬことはないだろうし。
ウンウンと頷くポッターのグリーンの瞳は本当にいつまでも見ていられそうだった。
スネイプ教授の、リリーさんを見る目はそんな気持ちもあったのだろうか。
遅れまして..