身長160センチ無いと戦えんわ!って、その前にハードモードすぎて泣いた!!! 作:あるれしあちゃん
「エクスペクトパトローナス」
そう言って、私は杖を振った。
頭の中で思い浮かべ続けるのは、スネイプ教授とやった研究だった。意外にも楽しかったのは、材料の下処理。
杖から弱々しく光が溢れ出す。今度こそ行ける、大丈夫だ...そう思ったのに。また光はフワッと消えていく。
トムはまだ起きてこないのか、話しかけてくることも気配を感じさせることもない。
これ幸いにと、私は杖をブンブン振って呪文を唱え続けた。そう、来る9月1日に備えていたのだ。
しかし、いくら振ってもうんともすんともいわない。今日もダメか、なんて思いながらネグリジェを脱いだ。
鏡に映り込むのは、前世でも見慣れた思春期の体だった。私の記憶上では、もう体も成熟しきり、これ以上成長することも退化していくこともない。
自分でちまちま毛先カットをしているおかげか、腰を超えて太ももまで伸びた髪は纏まり、艶を保っていた。前世ではこんなにも伸ばしたことはなかった。不便だったし、学生生活にも支障があったからだ。
「...はぁ..」
理由もなくため息が溢れて、私は適当なワンピースに着替えると部屋を出た。朝食というか昼食に近い食事を摂りに行くことにしたのだ。
適当な席でパンとスープ、そしてオムレツを食べていたその時だった。
「やぁ、お嬢さんこんにちは」
私の前にいる老人と目があった。優しげに細められた瞳と、白銀できちんとセットされた髪がその人の性格を物語っているようだった。
「こんにちは」
「ここ、宜しいかな?」
「勿論です、どうぞ」
その言葉に、老人はローブを翻して席についた。あらためて私を見る老人に、一年前、いや、正確にいうと一年と一月前に、私はこの会話をしたことを思い出した。
「アルレシア嬢、昨年はお手紙をありがとうねぇ」
「...覚えていてくださったんですね。私こそ、昨年は素敵なお洋服をありがとうございました」
私はカトラリーを置いて、老人...ロズワールさんに微笑みかけた。そう、この老人は昨年私に洋服を三セットどころか下着まで買って下さってしまった方だ。このハリポタワールドで唯一、私に優しかった人という認識でいい。
「いいんじゃよ。また今年も会えると思って何度か来てみたんじゃが...ご亭主曰く、パブ以外にも手伝っていると聞いてな」
そう言いながら、ロズワールさんは慣れた様子でトムさんから紅茶を受け取っていた。この席へ来る前に注文していたのだろう。お菓子の乗せられたバスケットを私の前へと置くと、ロズワールさんは慣れた様子で紅茶へミルクをひと回し。
「えぇ、なのであまりここのお手伝いはできていなかったんです」
「そうだったんだねぇ。しかし、ホグワーツに行ってしまう前にもう一度会えて良かったよ」
「私も、ロズワールさんにきちんとお礼を言いたかったので会えて嬉しいです」
優しく目を細めて言うので、私はなんだか照れ臭くなり、引き攣った笑みをこぼした。私へ無条件の優しさをくれるのは、正直嬉しさと同じくらい裏を感じてしまうのはホグワーツで揉まれすぎたからだろう。
「しかし、アルレシア嬢。
昨年の君と、今の君は随分別人のようだねぇ」
「そうですか?」
「もちろん、いい意味で大人の女性へと成長している。しかし...」
そう言ったきり、ロズワールさんは言葉を濁した。私の顔見て、目を閉じる。まるで昔を思い出しているかのようだった。
ゆっくりと目を開けて、私の頬に手を伸ばした。シワがれ始めた、その手はひんやりと冷たい。
老人というにも、老いぼれ過ぎてもなく、かと言っておじさまの年代でもないことが、より一層のことトム・リドルの年代を感じるようだった。
「昨年、アルレシア嬢を見た時は...まるで、この世界の何もかもがつまらんようじゃった。
そう...リドルという儂と同じ年にホグワーツへ入学した秀才。彼の卒業間際、何かに希望を見出し、打ちひしがれ、諦め、しかしそれでも死を恐れ希望を見出そうとした..そんなリドルに、君は似ておった」
「わた...しが?」
「つまらん、実につまらんという思いを巧妙に隠し、笑みを浮かべ、模範や規律を主とするその顔がリドルによく似ておった。
だから儂は、君の昨年のあの顔を見て思わず声をかけてしもうた」
そう..だっただろうか。
私は去年、何を思って生きていただろう。何も思わなかった。友達が一人もできず、大して面白くもない毎日を過ごしていた。そして、手足にしようとしていたクィレル教授を失い、疲れていたような気もする。
かと思えば、最低限笑っておこうとずっと笑っていたような気もする。思い出せない、私はそう思って顔を上げた。
ロズワールさんは、私の顔を見て悲痛にその優しげな表情を崩した。
悲しみにくれたような、それでいて懐かしむような笑みをその上に重ねてくる。その笑みに、私はどこか違和感を感じて首を傾げた。どこかで感じたことのあるような視線だ。
どこだろうか、そう思うが思い浮かばない。
「ロズワール..さん」
(...アルレシア)
(トム、起きたのね)
「今の君を見て、儂は最初声をかけるべきか自分の胸に聞いてしもうた」
(僕はこの老耄を知っている)
トムの声が冷ややかに私の頭に響いた。
そして、ロズワールさんが自身の胸に手を当ててゆっくりとため息をこぼした。
「今のアルレシア嬢は...本当の意味でリドルによく似ておる。
いや...同じ表情をしているだけの他人ではないのじゃ。血縁関係、魂の因縁。
儂には、アルレシア嬢とリドルが重なって見えるのじゃ」
「...でも、赤の他人ですよ」
「わかっておる。しかし、アルレシア嬢の何処かが、昨年とは違うのじゃ。リドルに憧れ、陰で崇拝さえしていた儂が耄碌してなければ...アルレシア嬢は確かにトム・リドルの面影がある」
(だって、言われてるよ)
(...ロズワールはホグワーツで僕のことをコソコソ見ている男だった。
アルレシア、気をつけたほうがいい。ロズワールは今はこんな年寄りだが...ひどく頭の切れる男で、善悪の区別を損得勘定で決めていたよ)
(言ってることが難しすぎてわからないんですが...)
(つまり、損得で人付き合いからテストの成績までも、全てを決める男だった)
(なのに、トムを切望してたってこと?)
(ロズワールは、損得で道を選びながら...心の奥では最も魅力的なものを求めていた。
僕は...この男の計算高く、自分の気持ちを無視するようなところが嫌いだ)
「私には、そのトム・リドルが皆目見当もつかないので似ているのかどうかはわかりません。
それでも...ロズワールさんにとって憧れの相手なのであれば...私はそれをいい事だと捉えますよ」
(何が皆目見当もつかないだ。
アルレシア、君と僕の魂はこの体の中で混じり合っている。
だから)
(似ているんでしょう。それくらいわかる。
でも、私とトムは違う。別人。
でももし...いえ、なんでもない)
私が、ハリーポッター同様にヴォルデモートの記憶を見させられたり、色々されたらどうしようか。今更ながらに、私の中にいるトムは将来どうなるのかと不安になった。
(アルレシア?)
(トムと一緒に生まれて来れたら楽しそうだったな、って思っただけ)
(そう?)
私はウンウンと答えておいた。本当は違うが、なんとも言えないしどうしようもない。
「...そうじゃな。儂はリドルの面影が嬉しいんじゃよ。
リドルが今何をしておるかわからんが...魔法省におっても、マグル界におっても...きっと秀才じゃ。儂はそう信じておる」
悲しそうにロズワールさんは笑った。紅茶に口をつけて、ゆっくりと一息つくのだ。私はその姿を見て、途端にパブの騒音が耳に戻ってきたような気がした。
「アルレシア嬢、また会えてよかったわい。
マダムマルキンから聞いておると思うが、儂は服飾の経営をしておってな。
極めて未確定の噂じゃが...トライウィザードトーナメントをやるかもしれないらしいのじゃ。ダンスパーティでドレスが必要になったら...ぜひ儂に一報くれるとありがたいのう」
「トーナメント?
ダンスパーティ、嬉しいですが..私ダンスができないんです。それに...踊ってくれる方もいませんから」
「アルレシア嬢、壁の花でも...その会場で最も美しい花であれば、それは素晴らしいことじゃよ。
誰とも踊ることがなかろうとも、美しい花はただ咲くだけで目を引くものじゃ。リドルに似たアルレシア嬢には...その力があると儂は思うがね」
私は、ロズワールさんの言葉と表情に思わず肩を揺らした。そう、昔を懐かしむように笑うその顔、細められる瞳の奥にあったものに気がついたのだ。
「...過大評価し過ぎです。
でも...私もそんな、トム・リドルさんのようになりたいです」
「儂もアルレシア嬢の未来が楽しみじゃよ」
私は急に冷めてゆく気持ちを落ちかせるようにと笑みを浮かべた。
その笑みを見て、余計にロズワールさんの目は細められる。
「さて、儂はそろそろ行かねばならん。
アルレシア嬢、新学期のホグワーツを気をつけて過ごしておくれ」
「はい、気をつけます」
「ドレスや服は、儂が必ず力になる。
アルレシア嬢は、儂にとって第二のリドルなのかもしれぬな」
そう言って、ロズワールさんはローブを翻して立ち上がった。私に優しく微笑み、歩き去ってしまった。
途端に、私はため息をこぼすのだ。
残された紅茶とお菓子をつまみながら、苛立つような気持ちを抑え込んだ。
(アルレシア、どうしたんだい)
(疲れちゃった。もうじき学校が始まるのにね。...そろそろ部屋に戻りましょう)
私はテーブルの上のものを片付けて、さっさと部屋に戻ることにした。
ロズワールさんが見ていたのはアルレシア・ジェフィフィーナではなかった。間違いなく、違っていた。昨年は確かに私を見ていたのだ。
でも、ロズワールさんは私を通してトムを探していたのだ。いや、まるで生き写しなのだと言わんばかりにトム自身を見ていた。
私のことなんてはなから見ていなかった。
そう、スネイプ教授がポッター越しにリリーさんを探すような、求めるような、あの目と同じものだった。
部屋の扉を乱暴に閉めて、ベッドへと倒れ込む。スプリングの効いたベッドがギシギシと音を立てる。
私はもう一度杖を振った。
「エクスペクトパトローナム」
杖は何も言わなかった。うんともすんとも言わないその杖先に、私は苛立ちを向けるように雑にベッドへ放る。
結局、転生していい特典かと思いきや、トムへの崇拝に変わりない。これは、私へのご褒美でもなんでもない。
(トム、お昼寝しよう)
(ホグワーツが始まる前に寝溜めかい?)
(えぇ、そんなもの。
ディメンターに対して守護霊が出せないんじゃ、死に急ぎ野郎よ。英気を養って挑まなくちゃ)
(実体化して隣にいようか)
(そんなの、寝る前より疲れるじゃん。だったらまだ、トムの意識内とかに入るとかないの?)
(まだアルレシアを僕の内側に入れられるほど、此処が整ってない)
(そっかぁ...)
私はその言葉を最後に、ゆっくりと目を閉じた。ホグワーツの汽車が、私の気持ちをさらに重くしていくのを微睡の中で感じた。