身長160センチ無いと戦えんわ!って、その前にハードモードすぎて泣いた!!! 作:あるれしあちゃん
さて、昼食を食べ終えた頃に、私は魔法動物飼育学の授業に向けて暴れる教科書を抱えていた。確か背表紙を撫でれば開けるシステムだったので、ちゃんと撫でて開いた。内容としては興味深いものもあったが、何せいつ動き出すかわからない怪物の本。読み込むことはしなかった。
あと、どうせろくな授業にならないし。マルフォイが怪我をした後から裁判だなんだと、森番はびびってレタスなんとかってやつの観察しかしないはずだ。
そう思いながら、私は荷物をまとめて授業場所へと向かった。歩いていく後ろで、マルフォイ御一行の笑い声も聞こえるので、行き先は合っているらしい。
さて、ヒッポグリフみたいな名前の鳥で、マルフォイは怪我というか服だけ鉤爪で裂かれるわけだけどどうしようか。
どうするかも何も、知らんぷりしておくしかないだろう。あの下りが全部あったおかげで、アズカバンの囚人という物語が完成しているわけだし。
そんなことを思いながら、私は授業の場所へと足をすすめた。ハグリッドの小屋へ歩いていくと、そこにはすでに森番であるハグリッドが厚手のオーバーを着込んで立っていた。
「さあ、急げ。早く来いや!」
その声に、段々と集まる生徒たちは小走りに森番の元へとやってくる。私もすみの方で教科書を抱え直して待った。マルフォイはいかにも野蛮そうな人間だと軽蔑する目でハグリッドを見下していた。
「今日はみんなにいいもんがあるぞ!すごい授業だぞ!みんな来たか?よーし。ついてこいや!」
その言葉に、仕方ないとみんなに混じって背中を追いかける。みんなの持っている教科書がベルトなりなんなりでガチガチに固められているのを見て、あーみんな苦労したんだなあなんで思う。
すると、ふと私の隣へと並んだ男子生徒。誰かと思って見てみるとノットだ。
「アルレシア」
「どうかしましたか」
「授業、楽しみかい?」
「...別に、特に楽しみとかはありませんが」
「ふーん。で、君はこの教科書の開け方を知っている?」
そう言われて、私は知りませんという顔で首を横に振っておく。
「そう、君は知らなかったの」
「...そうですね。暴れてしまって困るので、紐で縛りました」
その言葉に、ノットは特に興味なさげにしていた。みんなで柵の周りに集まり、教科書開き方講座が始まる。
私も言われた通り背表紙をなぞった。最初から開き方は知っていたが、大して役には立たないだろうからパラパラとする程度でとどめておく。
「アルレシアは動物が好きかい?」
「...まぁまぁですかね」
「猫は...嫌いだと言っていたよね」
「まぁ、犬派ではありますね。でも、猫が嫌いかというとそれも違いますよ。好きは好きです、でも苦手なだけで。
それから、アレルギーがあるだけです」
犬派と言っても、シリウス・ブラック、わんわんを可愛がる趣味はない。犬といえば柴犬。黒柴が特に好き。この辺では見かけないが。
「結局嫌いなようなものじゃないか。なら、これから来る魔法生物はどうかな」
「どうでしょうかね。見てみないとなんとも」
そんなことを言っていると、甲高い声が上がって、私は人で見えない前の方を見ようと首を振ったりした。
ラベンダー・ブラウンらしき生徒が興奮して指差しているのがチラリと見えた。
「見えないの?」
「ちょっと見えましたから大丈夫です」
そう思っていると、急に生徒が後退り、一番前になった。そこでようやく目にしたのが十数頭の動物だった。
映画通りの動物がそこにはいた。馬みたいな体に顔は鳥。羽もついているし、何より綺麗な毛並みというか羽が美しい。
ハグリッドがみんなに手を振りながら大声を上げた。
「ヒッポグリフだ!美しいかろう、え?」
生徒みんなは後ずさっているけど、ポッターだけは頷いていた。ポッターには美しく見えるのだろう。
「そんじゃ、もうちっとこっちこいや...」
その言葉に誰も柵へと近づかない。でも、ポッター三人組だけが恐々近づいた。友達であるハグリッドの授業だからこそだろうか。私は他の生徒同様に下がっておく。
ハグリッドの説明を聞きながらチラリと別のところを見ると、マルフォイたちはコソコソと会話をしていたりグラップ、ゴイルと共に何かをしでかそうとする顔だった。
「アルレシア、あれ乗ってみたい?」
「ヒッポグリフ、触ってみたくはありますけど...」
「空をいきなり飛ぶのはちょっとね」
その言葉に、私は少し引っ掛かりを覚えた。飛ぶところは一度も見たことが無い。それに、馬の形状だから走りだけかもしれないし。いきなり飛ぶ、という確信めいた言葉に思わずセオドールさんを見上げた。
「ヒッポグリフをご存知だったんですか」
「うん?まぁね。魔法生物は本にもよく載るし。ニュート・スキャマンダーの本は僕も読んだことがあるし」
へぇと首を縦に振りながら、私は魔法生物なんてほとんどわからんぞ、と心の中で返しておいた。
「よーし、誰が一番乗りだ?」
説明が終わったからか、ハグリッドの言葉に生徒がさらに後ずさった。そして、後ろの方でパーキンソンの声が聞こえて来る。
「穢れた血のジェフィフィーナなら、何かあっても大丈夫なんだからやればいいじゃない」
いや、うん。そうかもだけど!!!!
「そうよね、親も友達もいないんだし」
「誰か背中押しちゃいなさいよ」
私は膝を少しだけ曲げて体制をとった。いや、ちょっと怖いじゃん、ね?
「誰もおらんのか?」
「僕、やるよ」
ポッターの名乗りに、私は膝を伸ばした。さてさて、これでポッターの楽しい空の旅が見られる。
ポッターの近くで女子生徒二人が何か囁いているが大丈夫だろう。恐らく占い学があったから何か言ってるはずだ。女子は占い好き、全くだ。私も前世はよく占いとかやったし。
ポッターとハグリッドが柵の内側で、実演を始める。お辞儀をして返してもらえたら触ってよし、実に簡単な話だ。
「ポッターがちゃんとできるか賭けようよ」
「何を?」
「じゃあアルレシアのホグズミード一日を賭けて」
「かけて欲しいものがないんですけど」
「じゃあ僕が負けたらホグズミードのお菓子屋さんのお菓子五ガリオン分僕が君に買うよ」
「えー...」
「ポッターが失敗、成功、どちらに賭ける?」
「なんでそんな賭けするんですか」
「アルレシアとホグズミードに行こうと思って」
「私お金ないので行きませんけど」
「なら、僕はポッターが成功するに五ガリオン」
「私も成功すると思うので賭けは成立しません」
賭けにならないじゃないか。ということで、私は終了と手をひらひらと振った。
「なら、ポッターが成功したら二人でホグズミード村を回って僕が五ガリオン分君に買うってことで」
「...私にしか徳がないと思うんですが、いや...ホグズミードに行かなければならないのはちょっと、あーうん。はい、賭けません。五ガリオン分のお菓子じゃなくて今は化粧品に魅力がありますし」
ただし、日本人顔に向けての化粧品があるのかはわからないし、ノットには化粧品探しは荷が重いだろう。
そんなことを思っていると、ポッターは無事にヒッポグリフの背に乗り、空へと駆けてゆく。グリフィンドール生は歓声をあげ、スリザリンの生徒は面白くなさそうに目だけが空を追う形となる。
「なんだ、ポッターでもできるなら誰だってできるじゃないか」
「あんなデカブツなら楽勝だろ」
「お辞儀なんてしなくても俺らには魔法があるんだからさ」
スリザリンの言葉に、私はこういうバカが怪我するんだなぁと教科書を抱え直した。ハグリッドはさぞ鼻が高そうにしているが、ここから彼が首切り直前になるのは些か可哀想にも感じてくる。
「ジェフィフィーナ、ヒッポグリフの羽根を毟って羽根ペンを作った方がいいんじゃないか?」
その言葉に横を向くと、ほとんど接点のないなんとかザビニという生徒だった。
「ザビニ、ジェフィフィーナには魔法生物の羽根すら高級なんじゃないかしら?」
「鳩の羽根がお似合いか、パーキンソン」
「そうね、でも...その長ったらしい髪の毛でも編んで東洋の筆にでもしたらお金もかからないんじゃない?」
ちょっとまて、なんでいきなり私攻撃?え、私何かしましたか〜。と思いつつも、私は特に何も答えることなく教科書の背表紙を撫でて開いた。
最初から何も聞いてません、という意思表明である。
「そりゃいい。ドラコ、羽根ペンとどっちが使いやすいか試してみるか?」
「...試さなくてもわかる。羽根ペンとジェフィフィーナの髪じゃ、書きやすさが違うだろう」
「つれない奴だな。ジェフィフィーナ、髪の毛寄越せよ。返事しないと毟るぞ」
その言葉に、私は返事をするか悩んで顔を上げた。ちょっと、私何もしてないよね?なんでそんな当たり強いの??ディメンターがみんな怖いんでちゅか。怖くて眠れなくて寝不足?ストレスでも溜まってんの?えぇ?
むかつくなぁと思いつつも、私は少しだけ首を傾げた。
(トム、まだ復活しないの?)
返事はない。思ったより長い。そもそもトムはディメンターに吸われて居なくなってしまったのだろうか。
「態々穢れた血の髪に触ろうとするなんて...随分な試みだな」
マルフォイの言葉に、ザビニが一瞬止まった瞬間、グリフィンドールの歓声が上がった。ポッターが戻ってきたのだ。助かった、ポッターを今度たくさんなでなでしよう。
そして、喜ぶグリフィンドール生達の声を聞きながら、こっそりと隣を見る。ノットは何も喋らなかった。
原作でも、たしか内気な一匹狼と言っていたから群れで行動する人間ではない。それでも、中身が日本人なり転生者なら全く同じ行動は取らないと思うのだが。
それに、原作で出たが映画にはいないキャラクターだからキャラ掴みも難しいだろうに。
というか、マルフォイがちょっといい奴だった???ぞ。いいやつか、いやちょっとわかんないけど私の髪の毛が守られた。
なんていい子なんだドラルフォイ。
あとで撫で回したい、髪型変わったの辛い。なんであの髪型じゃなくなったの。ハゲか!ハゲだからか!
「...アルレシア、君はどっちだと思ってる?」
「え?」
突然のノットの言葉に、私は飛ばしていた意識を戻した。そして、マルフォイが声を上げて駆けてゆく。さて、ヒッポグリフに服をやられるシーンだ。
「セオドールさん?」
私の言葉に、ノットは答えなかった。ノットが真っ直ぐとマルフォイを見ている。そして、叫び声が聞こえて、あぁマルフォイが、なんて思った時にノットの目が見開かれたのだ。
何かと思い私は視線をマルフォイに戻す。
目に入ったのは、血に染まったローブだった。
「なっ...」
まさか、腕のローブが切れる程度だったはずじゃ。そう思ったが、マルフォイの腕は血に染まっている。
そして、喚きながらもハグリッドが横抱きで抱えて医務室へと向かっていくのだ。
たしかに映画ではローブだけだった。ウィーズリーも大したことない怪我だと言っていた。そう思ったのに、どう考えたって大したことある。
魔法で応急処置だけでもと駆け出そうとしたその時、私は一歩目の足を出したまま胸を押さえた。
ジクジクと痛むその胸に、思わずネクタイごと服を握りしめた。
「ある..れしあ?」
「うっ...」
原作は怪我をしたのか、私のせいでマルフォイの怪我が悪化したのか。十七年前の本を詳細まで覚えているはずがない、だから答えがわからなかった。
もしかしたら私のせいなのかもしれない。
だからこんなに胸が痛むのか。私はうまく吐き出せない息を少しずつ吐きながら痛みを抑えた。
なぜこんなにも痛むのか。マルフォイを連れたハグリッドの背中が消えた頃に、ようやく私の胸の痛みは治った。