身長160センチ無いと戦えんわ!って、その前にハードモードすぎて泣いた!!! 作:あるれしあちゃん
「...どうして、なんで?」
部屋の中で、私はブツブツとそう呟きながらベッドへと横たわった。原作と映画で内容が変わることはよくあるだろうが、映画版ではたしかにローブだけだった。それが原作では実際に怪我をしていたのかもしれない。
それでも、私がいるせいで未来が変わってしまっていたらどうしよう。ただ傍観していただけのつもりだった。主人公にそこまで深く関わったつもりも助言をしたつもりない。はたまた、原作に大きな邪魔をしたわけでもない。
でも、私はマルフォイに自ら関わりすぎていたかもしれない。いや、確実な関わってしまっていた。スネイプ教授はなんの変化もなく、映画で知るセブルス・スネイプだったから油断していた。
思わず手で顔を覆った。どうしたらいいのかわからず、私は逃げるように目を閉じるのだ。思い返してみれば、セオドール・ノットがポッターと話しているところなんて見たことがなかった。マルフォイと親密にしている姿一つない。昨年、ダンブルドアの元に訪れた、あのセオドール・ノットしか私は知らないのだ。
不安のような、重苦しいものが私にのし掛かった気がして、ベッドの中で身体を丸めた。しかし、そんな時だった。スネイプ教授の自室の方の扉からノック音がしたのだ。
返事をして扉を開けると、スネイプ教授が心底ため息を吐きたい顔で私を見下ろしていた。
「どうかしましたか」
「...ドラコが怪我をしたそうだが」
「魔法生物を侮辱したんです」
「らしいな。寮から医務室に泊まるための道具をと言っていたが、召使いなら純血じゃないのがいる、とアルレシアを御指名のようで」
その言葉に、グラップとゴイルがいるんだからその二人に頼めばいいのにと思った。スネイプ教授も遠回しの穢れた血は僕扱いに気づいているらしく眉間に皺を寄せていた。
穢れた血、マルフォイの口から出たわけではないが、遠回しに感じるこの言葉に反応しているのだろう。
「...ドラコの怪我はもう完治した。我輩が治せぬわけがあるまい」
「スネイプ教授ほどの方が治せなければ、もうホグワーツのどの先生方も治せませんよ...ダンブルドア校長先生でも」
「それで、なぜ貴様がドラコよりも酷い顔をしている?」
そう言いながら、スネイプ教授は私を自室の方へ迎えた。すでに泊まる用意はしたらしく、畳まれた服が少し崩れながらテーブルに置かれていた。グラップとゴイルがチェストから引っ張り出しているうちに畳まれていたのが崩れたのだろうか。
「そんなにひどい顔ですか?」
「腕が二、三本は確実に胴体から離れている。我輩が二日酔いを経験した時よりも悪いかも知れぬ」
「じゃあスネイプ教授お得意の魔法薬学で、気つけ薬でも作ってくださいな」
「我輩の薬は安くはないがな」
「本腰を入れて作ると一つ何ガリオンくらいですか」
「ガリオン一桁で足りると思われては心外ですな。生徒価格でも、三十ガリオンは取るほかあるまい」
「学生にはとてもとても払えないです」
「ならば、何価格がお望みかね」
その言葉に、私は少し悩んで首を傾げた。どうやら作ってくれる気があるらしい。教授は私を見下ろしながら、早くしろと煩わしげに両腕を組んだ。
「えーと...あー...」
「いつもはベラベラと喋る割に今日は舌が回らぬようで。余程気つけ薬が必要らしい」
「みたいです。なんだかすごく落ち込んでいて、幸運の液体でも欲しいくらいですよ。過去に戻ってやり直したいです、心底」
「いつぐらいからやり直したいのかね」
「可能なら、孤児院に入る赤ちゃんの頃までですかね」
そう言いながら、私は薬は不必要と言わんばかりにマルフォイの服を両手に抱えた。
「孤児院も悪いことばかりではなかったんですよ」
「その割には、一度も孤児院には行かぬようだがな」
「...私なんてお手伝いさん、保育士さんみたいなものだったんですよ。家族のようなものじゃなくて、卒業したら忘れ去られる存在。ホグワーツの先生っていいですね...きっと、卒業しても教え子であることは変わらずいてくれますし」
「貴様が我輩の教員席を狙う発言、忘れたとは言わせぬ。ホグワーツの魔法薬学の席が埋まれば、我輩は晴れて闇の魔術に対する防衛術担当である」
「私、医務室から帰ったら教授が薬を煎じるのが見たいです」
突然の言葉に、スネイプ教授は隠す気のない“は?”という顔をして私を見下ろした。別にいいじゃないか、料理するようなものなんだから。誰かがキビキビと動く姿を見るのは意外と楽しいと、スネイプ教授だって知っているはずだ。
私の料理をする後ろ姿を時々ぼんやりと眺めているのだから。
「スネイプ教授お得意の魔法薬学、みていると楽しいです。師範台でやる繊細な姿も、研究室でやる猫背の姿も...何いってるんですかね、私。マルフォイさんのところに行ってきます」
見ているのが好きだ、なんて言えなくて、私はスネイプ教授の部屋経由で寮を出ることにした。
スネイプ教授の自室、地下牢教室を出て歩いていく。特に誰にも会うことなく、私は医務室へ辿り着いたのだ。
ノックをしてみるが、返事はない。入っていいのだろうかと思いながら、ゆっくりと扉を開けるとマダム・ポンフリーはいなかった。何処かへ席を外しているのだろう。代わりに、1箇所だけカーテンの引かれたベッドを見つける。ゆっくりと近づくと、そのカーテン越しに人影が揺れた。
「パーキンソン、もう来なくていい」
そんな声がして、思わず足を止める。その声は確かにマルフォイだった。先程までパーキンソンがいたのだろうか。そうなると、お邪魔してしまうことになる。
途端に居づらくなってここから逃げ出したくなった。
「パーキンソン?」
気づかれないうちにと背を向けようとした時、カーテンが音を立ててひかれた。そして、息を呑むような音がして、私の背中へと声がかかった。
「ジェフィフィーナか」
「あ...えっと」
「持ってきたのか」
「あ、はい。えっと...スネイプ教授に頼まれて」
そう言いながら、私は諦めるようなマルフォイに近づいた。腕に包帯を巻き、些か顰めっ面のマルフォイに、視線が合わせにくい。マルフォイは私に手招きをし、近くの椅子を指差した。
「服はテーブルでいい」
「他に必要なものはあります?」
「要らない」
テーブルに服を置き、私は指さされる椅子を持ち上げた。そしてベッドのそばに置いて座るのだ。マルフォイは時折腕に触れるなどして、痛いアピールをしているような腕がついているか確認するような不思議な動作をしていた。
「顔色が悪い。今度は何をした」
「何もしていないです」
「なら、なんで僕の目をちゃんと見ない」
その言葉にハッとして顔を上げる。でも、腕のことの申し訳なさで段々と視線が下がっていきそうだった。
「僕を見ろジェフィフィーナ」
重苦しい空気を刺すようなマルフォイの声に、私はローブを両手で握りしめた。それでも、罪悪感で一杯だ。
「ジェフィフィーナ」
「っ..すみ、ません」
「アルレシア」
私の名を呼び、マルフォイは片手で私の頬に触れた。そしてゆっくり、顔を上げさせるのだ。ブルーグレイの瞳に自分の顔が映り込む。
「お前は血が苦手なのか。だから、怪我した僕を見ないのか?もう腕は治っている。
何にそんなに怯えているんだ。怪我か、血か。それともなんだ、僕が何かしたのか。それとも、パーキンソンか、それともザビニか。
気になるなら僕がお前に構うなと言う」
「...なぜ?穢れた血の私をマルフォイさんが庇う理由がないです」
その問いに、マルフォイは答えなかった。私のローブの胸元を掴み、そのままベッドの方へ引っ張るのだ。
「...最近、アイツらは口では言っているが実害はあったか」
「...え?」
「物を隠されたり、陰湿な嫌がらせをされていないか」
「されて...ないです」
「スリザリン生ともあろう者たちが、陰湿な嫌がらせなど恥じる行為だろ。本当に穢れた血に嫌悪するならば、関わることは品格に関わる。有名なマグルの言葉であれば....愛の反対は憎しみではなく無関心である。関心がある間は、何かしらジェフィフィーナのことが気になる、そういうことだ」
何を突然...。私は思わずマルフォイの顔を見上げた。ようやく目が合ったからか、マルフォイは少しだけ目を細めて私の髪に触れた。髪の手触りを楽しむように手櫛を通しながら、マルフォイは小さく息を吐くのだ。
「ジェフィフィーナ、僕はお前が」
映画同様にマルフォイ達はアズカバンの囚人編から突然のように成長した。たった十三歳のお子様のはずなのに、本当に子供から青年になる中間まで来たのだ。
次に繋がる言葉はなんだろうか。正直言って、聞きたくなかった。私はマルフォイの言葉を遮るように、怪我をした腕に触れた。肩の方から二の腕、そして肘から下へ。滑らせるように指先を添えていく。
「ジェフィフィーナ?」
「マルフォイさんのこと、とても心配しました。あんな怪我になると思ってなかったんです。だから...とても怖かった」
自分のせいで怪我が酷くなったのだったら。私の存在が、マルフォイにとって悪い方向に進んでしまったのだとしたら。私は本当に申し訳なかった。
心の中では原作はこうだったかもしれないと言い訳しながらも、同じ転生、憑依あるいは成り代わりと予想していたセオドールさんすらもあの驚き方に不安で一杯だったのだ。
「私...わた、し...マルフォイさん、不安で仕方なくて」
自分で言葉にしながら不安が溢れるようだった。医務室でこんなことをしていれば、マダムポンフリーが来た時にどう言い訳すればいいのか。私は熱くなった目を手で押さえた。
「それは、僕のことを」
「もう寮へ帰ります」
私は急いでベッドから降りようと、マルフォイの腕から逃れた。ベッドへ足をつけ、開かれたカーテンをつかむのだ。
「マルフォイさん、お大事になさってください」
マルフォイはただ満足げに私を見るだけだった。マルフォイが何を言いたいか知らないが、純血主義の筆頭なのだろう御子息がとっていい行動ではないし、思春期のよくある行動に過ぎないはずだ。
カーテンを閉じて、私は医務室の出口へと向かっていく。扉を開けて廊下へ出ると、角からマダムポンフリーが歩いてくるのが見えた。
「ジェフィフィーナ、具合が悪いのかしら」
「いえ、マルフォイさんの服を届けるようにスネイプ教授から頼まれたんです」
「そうだったのね、ありがとう」
「いえ、同じ寮ですから。
マダム、マルフォイさんのことお願いします」
「えぇえぇ勿論。怪我なんて薬ですぐ治りましたからね。彼は怪我をした事実にショックを受けたみたいだけど」
「...あんなに血が出ていましたから、私だってパニックになります。腕と体が離れなくてよかったです」
マダムはその言葉に頷き、少し笑いながら医務室の中へ入っていった。私ももう寮へ帰ろうと歩き出す。地下牢教室から、スネイプ教授の自室へ戻ると、私の前に現れたのはゴブレットだった。
「気つけ薬ですか」
「どう思うかね」
「私には避妊薬に見えますね」
「ドラコの様子は。態々貴様をご指名だったのだ」
「...特別何かは無かったので、ただ腕と体が繋がっていてよかったですって所ですかね」
曖昧に笑うと、スネイプ教授はため息をこぼしながら薬を指差した。
「気つけといえばいいのか、避妊薬と仕組みはそう変わりまい。女性の体に関すれば、ホルモンの抑制をすることが一番精神安定に繋がる」
そう言われて納得した。たしかに私たち女性は生理になると体に変化が起こる。ホルモンを抑制すれば、たしかに妊娠はしにくいが生理にもなりにくいから心は安定する。今の医療というか研究だとこんなものか。
「わざわざ、ありがとうございます」
「構わん。薬は明日煎じる。放課後十七時。
今日はルーピンが来る予定だったが、貴様はよい。そのような顔色で同席されるのは迷惑である。明日の軽食を忘れるな」
ただそれだけ言うと、スネイプ教授はさっさと研究室へ引っ込んでしまった。私もゴブレットの中身を飲み干し、自室へ帰る。
マルフォイのことがまた一つ気がかりになってしまい、私もため息をこぼしながらシャワー室へ向かった。