アイドルマスターシンデレラガールズ 疾走のR 作:ヒロ@美穂担当P
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PM11:50。
谷町JCTから首都高速環状線に乗り、外回りを法定速度で走っている美世の紅いGT-R。路面のわだちや継ぎ目のギャップを拾っては、車体が小さく跳ねる。締め上げられたサスペンションは、巡航速度では硬い。9号線に乗り湾岸方面へ向かう。100km程度の速度は、美世にとってはクルージングとしか感じない。デジタル表示の追加メーターで、マシンのコンディションを確認。
「水温82、油温94、油圧4kgちょっと。ベストコンディション!」
5速、2000rpm。美世の手で組まれたRB26はその正体をまだ表さない。
原田美世は、346プロダクションのアイドルであり、自動車工場でも働く自動車整備士。
そして、首都高ランナーの一人でもある。
自らの手で仕上げたBNR34スカイラインGT-Rで夜な夜な走りに繰り出す。美世が一番気合いを入れているのが、改造車で公道をぶっ飛ばす事である。
アイドルはもちろんのこと、社会人としても失格の行為だ。だが彼女を止める事は誰も出来ない。
首都高速辰巳JCTから、湾岸線へ。川崎方面へ向かう下り線。直後、もう聞き慣れたあのロータリーサウンドが美世の耳に届く。
「蓮君か・・・」
美世は蹴っ飛ばす様にクラッチを切り、右足を連動させてアクセルを煽り、エンジン回転を合わせる。5速から3速にギアを叩き込むと、タコメーターは5500rpmを指している。
アクセル全開と同時に、加速Gが美世の体をバケットシートに押し付ける。マインズ製チタンマフラーから放たれる直列6気筒エンジンの咆哮が、美世の背筋をゾクゾクと震えさせる。
「すごい・・・いいっ!」
トライアンドエラーを重ねたRB26のエキゾーストに全身が包み込まれると、美世の脳からアドレナリンが溢れ出していた。
美世の動きをじっくり見ながら、蓮は5速から3速にシフトダウン。5500rpmにタコメーターが跳ね上がる。
「すごい・・・。美世さん速い・・・!」
R34の丸4灯テールランプを見つめながらそう呟いた。
そして、前に倣ってアクセル全開。タコメーターとスピードメーターが平行して上っていく。
フルチューンの13B-REWを積む蓮のFD3Sは鋭い加速を見せる。
軽量なFDの加速は美世のR34の加速に匹敵していた。
時速100kmのクルージングから、流れる景色は激変していく。
(こうだ・・・。こうじゃないとっ!)
美世の視線の先に見えるのは道路を照らしてる街灯と、先を行く一般車両の赤いテールランプ達。
3速8000rpm。素早く4速にシフトアップ。その瞬間、一気に200kmまで速度が跳ね上がる。美世の後ろにいる蓮も同じように速度を上げていく。
僅かでもステアリング操作をミスすれば、人も車も粉々の残骸になる。狂ったような暴走行為でしか味わえないスリルが、全身を刺激していく。
美世も蓮も、スピードと言う麻薬にどっぷりと浸かっていた。一度体験したらもう、引き返せない。
スピードという麻薬がないと生きていけないという錯覚。本当ならやめた方が全然生きていける。事故で死ぬというリスクもないし、車のメンテなどもいらない。でも、そんな
法定速度で巡航する一般車両を、縫う様に追い抜いて行くR34とFD。超高速のレーンチェンジを繰り返し、アクセルを床まで抜みつける。
「捕まえる・・・!」
蓮はFDのノーズを美世のR34のテールに滑り込ませてロックオン。スリップストリームに入った。
フルチューンとは言え2ローターの13B-REWでは、RB26の絶対的なパワーに敵わない。何せ蓮のFDは最大520馬力に対し、美世のR34は580馬力。100馬力近い差があるのだ。そこで蓮が取った選択。
その埋められない馬力の差は、前走車の後ろにぴったりと張り付いて、空気抵抗を減らす走法。スリップストリームと呼ばれる、レーシングテクニックを駆使する事だ。
蓮がFDで「前に出れない」と判断した時使う手だ。この技でFD以上のパワーを持つハイパワーマシンを仕留めていく。
一度張り付いたら、前に出るまで絶対に離れない。
気づけば勝手に仲間達から付けられていたあだ名は“公道の流星”。首都高を流れ星のように駆け抜けていく黄色のFDはまさに「流星」。
例え、美世でも手は緩めない。
FDのヘッドライトで、パッシングする蓮。
GT-Rのルームミラーに、FDの青白い光が反射する。
(ちょ、蓮君眩しっ!)
思わず美世は目を細める。その間にも蓮のFDはジリジリと美世のR34のリアバンパーに近づいていく。
二台の車間は、50cmあるかどうか。この距離で美世が少しでも減速したら蓮のFDは即追突。二人ともあの世に葬られるだろう。
これだけの距離で走れるのは、お互いの信頼があるからに違いない。
4速8000rpm。速度は230km越え。2台とも5速にシフトアップ。
R34のマフラーから、アフターファイヤーが噴き出し、FDのフロントバンパーをかすめる。
5速6500rpm。時速250km。湾岸線に合流して1分足らずで有明JCTを通過した。2台は東京湾トンネルに入った。
「前に・・・出るっ・・・!」
蓮はブーストコントローラーのダイアルを2ノッチ捻り、更にブースト圧を上げる。
自ら組んだ13B-REW。クロスポート加工にTD06SH25Gの組み合わせ。ブースト1.2kgで520馬力を発揮する、フルチューンロータリー。
ついに本気を出した蓮のFD3Sは更に加速する。左車線にレーンチェンジして美世のR34を一気にぶち抜く。
ミラーから光が消え、ロータリーのエキゾーストノートが左から耳に飛び込む。
「速い・・・。やっぱり本物じゃん、蓮君・・・」
一瞬だけ左のサイドウインドーから、黄色いFD3Sの姿を見る。
「いやいやスゴすぎだよ・・・」
気がつけば美世は苦笑いを浮かべていた。
トンネルを抜け、緩い左コーナーに差し掛かる。
FD3Sのテールランプが少しずつ離れていくが、美世に焦る様子は無い。
「チャンスは最後まである・・・。どこで使う・・・?」
5速7000rpm。時速250km越え。
まるで自分にぶっ飛んでくる様な一般車のテールランプを次々に避けながら、美世はFD3Sのテールランプを追いかける。
2台は大井JCTを通過。250km台でレーンチェンジを繰り返す中、一般車の流れがここで途絶えた。
蓮の視界に広がるのは、三車線の直線のみ。スロットルを踏み抜いて、FDを前に進ませる。
そして、美世の視界に入る車両は、蓮のFD3Sただ1台。
「お返しだよ、蓮君」
さっきのお返しとばかりに、今度は美世がFD3Sの後方に車体を潜り込ませた。
デジタル表示の追加メーターを、美世はチラリと見る。
「水温97、油温124・・・やれる!」
MOMO製ステアリングに取りつけた噴射スイッチに、美世は親指を伸ばした。
ナイトラス・オキサイド・システム。略称「NOS」。スイッチを押してる間は、亜酸化窒素ガスをエンジン内部に噴射し出力を向上させる。
「ーーーーっ!」
空気の圧縮量の増加によりさらに出力が上がる。更なる加速Gで、美世の体はバケットシートに押し付けられた。
NOSも合わせ650馬力を絞り出すRB26のパワーで空気の壁を無理やり押し返す。
7500rpm。270km。FD3Sのテールに、R34のノーズが迫る。
直後、R34最後のギアである6速にシフトアップ。290km。美世はステアリングを僅かに右に傾ける。
スリップストリームから出た瞬間、空気の壁がR34のボディをドン、と叩いた。
「行ける!このまま!」
美世は叫ぶ。同時に、R34がFDを抜きにかかった。
2台は並んだまま、どちらのスピードメーターも300kmを指している。
だがFDのコックピットでは異変が起きていた。
「水温上昇、油圧低下・・・」
オーバーヒートである。
アクセルを抜くと一気に空気の壁に押し返される。
「美世さんすごいなぁ・・・。全然敵わないや・・・」
湾岸線下り方面、大井パーキング。
今の時間、ここに駐車してるのはR34とFDのみ。とても浮いた光景である。
「あらら・・・」
美世はボンネットを開けた熱気が冷めない蓮のFDのエンジンルームを見ていた。
「美世さんのGT-Rすごいですね・・・。手も足も出なかったですよ」
「いやいや蓮君の走り方もすごいよ。全然レベル違うし」
その後、2台は湾岸線を下って川崎線から横羽線上りへ。クルーズを満喫しながら、都内へと戻るのだった。もちろん、法定速度で。
これが美世と蓮が初めてのバトルをした時の事である。
当然、事務所からはいい顔をされるワケがない。だが、それをわかっていながらもやめれない。
これはスピードに魅入られた二人の物語である。
ネタが出なくて苦労してます(何回目だ)
恒例のネタ解説です。
・スピードという麻薬
この言い回しは湾岸ミッドナイトで平本が言っていた表現。美世の乗機がGT-Rなのもいっしょ。(平本はBNR32、美世はBNR34だけど)
・公道の流星
これは頭〇字Dでの高橋〇介の異名「赤城の白い彗星」のパロディ。RX-7に乗ってるのも共通点。
・美世のR34に積まれてるNOS
そもそもNOSって何よ?という方がいると思うので解説。
亜酸化窒素をエンジン内部に噴射してエンジン冷却と高高度での出力低下を抑えるために用いられているチューニングの手法です。アメリカではよく行われてます。日本ではあまり使われてるイメージがないです。(筆者のイメージ)
日本では映画「ワイルドスピード」シリーズで有名になりました。日本のモータースポーツでは「D1GP」で2014年まで使用が認められてました。(レギュレーションがJAFの規定に沿う形になったため禁止に)
色々な方式などありますが多いので気になる方は調べてください!(また投げるな)
ちなみに美世はどうやってこれを搭載したかというと・・・ロボット設計などを自分でやれる天才アイドル、「池袋晶葉」が持ってきた物を付けてます。美世のチューニングに協力する数少ない協力者です。
今回はバトル1本に絞ったのはいい物の、どんな展開するか迷って短くなってしまいました・・・。改めて小説作りの難しさを思い知らされます・・・。