放課後こってりこんと———そりゃあもうなりたけのこってりくらいに———今日のあれこれについて雫から説教を受けた俺は心身ともに疲れていた。みんなが周りにいる中で叱られたので少し居心地が悪かった。
家に帰り粗方日常を終えあとは寝るだけとなった時雫に呼び出された。
やだなあ、また怒られるのかなあ。雫のことは好きだけど、積極的に怒られたいと思うほどではない。いや、怒ってる雫も可愛いのは確かなんだけど———結論、雫はかわいい(思考停止)
雫の部屋についてドアの前に立つ。ノックを三回、返事が返ってきたのを確認して中に入る。寝巻きになっていた雫がベッドに腰掛けながらこちらを見てる。身体の向きの先には勉強机に置いてあるモニター。寄ってみてみればそこにケオとほのかの顔が映っていた。やっぱりテレビ通話か。
説教ではないことに心底安心していると雫が右手でベッドをぼふぼふしている。そこに…座れというのか。いつもは雫の勉強机の椅子を引っ張り出しているというのに。
思いがけず現れたそこそこ高いハードルに、心拍数がリミットに近づく。顔を真っ赤にしながらもゆっくり歩いていって恐る恐る座る。俺と雫のあいだに拳三つ分空けて。画面越しに二人が笑った気がした。
軽く今日の話をしたあと、ほのかが神妙な顔つきになった。
『ごめんね八幡、ケオも。学校では取り乱しちゃって』
ほのかが言う。俺たちにしか謝らないということは、俺たちはあとから呼ばれた形になっているんだろう。
取り乱したってのは多分、達也のこと。
『気にすんなよ、いつもの事だ』
「違いないな」
『も、もうっ!酷いよ〜』
「二人ともダメ、ほのかすごく楽しみにしてたんだよ?」
『分かってるって、悪かったな』
「悪い悪い。つい、な?」
『う〜。式の前にも少し言ったけど、すごく魔法が綺麗でまさか二科生だと思わなくて、なんだか裏切られた気がしちゃって』
「そんなに綺麗だったのか?」
『うん、深雪はこう、なんていうのかな…フルパワーでドーンって感じだったんだけど、達也さんの方は逆に最小限しか使ってなくて…魔法式の無駄で出る光波のノイズが全くなかったの』
『ほのかが言うなら相当なんだな』
光のエレメンツであるほのかは、その家系に違わず光に関する適性が高く、使う魔法も特別知覚できるものも光に関するものが多い。そのほのかがいうのだから信頼性はとても高い。
「地元では俺たちだけが内輪で競い合ってる感じだったが、まだまだ世界は広いってことだな」
「うん、これから楽しみ」
『まずは九校戦だな!』
ケオが気合を入れるようにサムズアップする。
九校戦、全国の魔法科高校九校が一同に会して魔法技能を競い合う大会。魔法が普及してから甲子園に代わる夏の定番となっている。
なんかヒロ○カの体育祭みたいな位置づけだと思ってくれればいい。あんまり下手な説明をすると九校戦が大好きな雫に怒られてしまう…去年も北山家と俺ら兄妹総出で観に行った。もちろん、ケオとほのかも一緒だった。
『うんっ!みんなで出れるように頑張ろうね!』
「絶対、出る!」
「…出なきゃダメか?」
やる気のある三人に対してとてもやる気のない人がここに一人。
出来ることなら出たくない。参加するとしても、俺としては競技に出るよか魔工技師としてエンジニアの方に回りたいと思ってしまう。まあそれが将来進みたい道でもあるし…うまくいけば達也とタッグを組んでCADを…だなんてこともあるかもしれない。もしかすると、なんていう超低い確率だけど。もしそうならば、俺にしては珍しく心躍ることだろう。
『『「ダメ!」』』
まあ、ダメらしいが。
「…りょーかーい」
こう言われてしまえば仕方ない…両方、は流石にきついか?一応その時期になったら七草さんに聴いてみるか。
次の日もまた大事なオリエンテーションが多いということで早めに寝ることになった。という訳で雫と一言二言交わしてから雫の部屋から出ようとしたところで、改めて雫に呼び止められる。
「なんだ?」
「えっと…深雪もエリカも美月も美人だったね」
「…まあ、そうだな」
突拍子もなかったが特に否定する理由もなかったので安易に肯定する。
が、すぐ雫の機嫌が悪くなる。なんで?今回は流石に唐突すぎてわからんぞ。
とりあえずなんか言っとけ。
「えっと、早く寝ろよ?寝る子は育つ、な?」
「バカにしないで」
少し頬をふくらませながら言う雫は世界一可愛いと思うが、流石にそれを言うのは無理があるので受け流して部屋を出た。出る時は笑顔で手を振って送り出してくれた天使はやっぱりかわいい。
──春休みの途中から時々行われてきたこのテレビ通話だが、何故か俺の部屋には付けてくれないのだ。俺としては雫の部屋に入る口実になるからいいんだが…。居候の身で潮さんに頼むわけにもいかないし、ずっとこのままだな。
今日は俺史上最高に他人と距離を縮めた一日だった。達也とはCADの話で盛り上がり、深雪とは彼女の兄を慕う姿が我が妹の小町と重なった。エリカたちとも雫たちを橋渡し役に置きながらだが、そこそこ喋ったものだ。
そんなこんなで慌しい日常の始まりもまた慌しいもので、それもいよいよ幕を下ろした。
五話でようやく一日が終わるとかマジ?入学編やり切れるかすら怪しいな。