常春頭の忍者道   作:さとる

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19 常春頭の忍者道

 

 

「幕を引く、か。それはお前たちの命の幕か? ククク」

 

 春樹や町人の登場によって多少ざわついたものの、自分たちの優位に変わりはないとガトーは気を取り直す。最大戦力の忍連中は強がってこそいるが、ほとんどぼろぼろ。残りは武器を持ったとはいえ所詮戦い慣れていない町人……ものの数ではない。

 先ほどそのボロボロな忍びの一人である、口元を隠した木の葉の忍者に凄まじい殺気でもって睨まれ失神しかけたが……。

 

(クソクソクソが! ワシに恥をかかせおって……! よくよく見ればあの男もズタボロではないか! 戦力としては確実にこちらが上! 負けるものか!)

 

 ガトーは生暖かい股間を気にしつつも、まずは報復を完遂せねばならないとそこから意識をそらして敵対者たちを睨む。これまでのように思い知らせてやればいいのだと嗜虐的な笑みが浮かんだ。

 しかしその優位は春樹の一言によって崩される。

 

「あ、今からその場所爆発しますよー」

「ハハハハハ! 何を言い出すかと思えば、くだらない嘘をつくものだ! 負け惜しみにしても出来そこないすぎやしないか? なあ!」

 

 ガトーの言葉に用心棒たちも耳障りな声でゲラゲラ笑うが、春樹はにっこり笑って何かを引っ張るような仕草をした。すると。

 

 ドォンと大きく響く音、上がる爆炎。

 橋の一部で起こった凄まじい爆発に、幾名かガトーの手下が巻き込まれ落下した。

 

『………………………………………………』

 

 双方言葉を失う中、春樹は手を持ち上げる。一見何も持っていないように見えたが、よくよく目を凝らせばそこには細いワイヤーが数本収まっていた。その端はどこかへと延びているが、爆破予告発言を顧みるに十中八九爆発のトリガーだろう。

 

「だから何やってるの!?」

「おま、春樹! オッチャン達が頑張って作った橋壊してどうするんだってばよ!?」

「そうじゃぞ! ちょ、おい超マジかお前!」

「そ、そうだぞ! 貴様らの希望の橋だろう!?」

 

 ガトーまでカカシたちに便乗して突っ込み始める始末であったが、春樹はクイクイと親指で金の詰まった麻袋を指す。

 

「修繕費用ならたっぷりあるじゃないですかー。よいしょっと」

「待ッ」

 

 制止の声も虚しく、春樹の手にあったワイヤーは全て引かれた。

 すると先ほどの爆発が各所でおこり、規模こそ大きくなかったが計算された位置で爆ぜたためか見事に橋の一角……ガトー達が乗っていたワンブロックのみを崩落させた。

 落下、爆炎による負傷、水攻め、上から降り注ぐ橋の残骸……などなど。ガトー達は一瞬にして阿鼻叫喚の様相に叩き落されたのだ。

 

「おやまあ、虫みたいですねぇ」

 

 春樹は眼鏡を押し上げながら愉快そうに笑った。その手には何故か開かれた本が一冊収まっている。

 アリの巣に水を流して喜ぶ子供のような無邪気で悪質な笑顔に、カカシは思わずこぼした。

 

 

 「これは酷い」

 

 

 

 

 あの後どうなったかといえば、再不斬は事が終わったと判断したのかいつのまにか白と共に消えていた。

 死んだと思われていたサスケも白が手加減していたため生きており、実質上此度の戦いでの死者はゼロ。それはとても喜ばしい事なのだが、どうにも釈然としないのが周りの素直な感想だ。

 春樹はいい仕事したぜ、とばかりにすっきりした様子だったが……事が終わった後、さんざん周りから説教されるはめになる。それでも笑顔は変わらずだったが、雰囲気だけが少し落ち込んでいた。

 

 ガトーとその仲間達だが、被害を受けつつも船で逃げおおせた。……が、しばらく経っても何故か報復に来る様子はない。

 

「今度こそぶちのめしてやろうと思ってたのに、何で来ないんだろう?」

「フン、うすらトンカチと同じ意見なのは癪だが同感だ」

「いいじゃない平和で! きっと町の人たちが本気で抵抗の意思を見せたから諦めたのよ」

 

 子供たち三人を見ながらカカシは何とも言えない複雑な気持ちで答えてやった。ただし心の中で。

 

(きっとボスが死んだから報復どころじゃないんだろうね~)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは町から離れた森の中。

 春樹は暖かい日差しの中気持ちよさそうにのびをすると、そのまま猫のように丸まって惰眠をむさぼっていた。

 

 ふと、降り注いでいた日差しが陰る。春樹は重い瞼を持ち上げると、自分を見下ろす人物に緩く笑いかけた。

 

「お疲れ様です桃地さん。後始末は終了ですか?」

「…………ああ」

「それはよかった! お疲れ様です」

 

 にっこり笑って労うと、春樹は再不斬の後ろに立つ人物に目を向けた。

 

「白さんの顔色、ずいぶんと良くなりましたね~」

「ええ、不思議なほどに回復が早くて驚いています」

 

 そう答えたのは、此度の戦いで重傷を負ったはずの白。

 目を覚ますまで一週間ほどかかったようだが、あれほどの大怪我をしていたのに今は自分の足で立てるまで回復している。顔色はまだよろしくないが、その表情は明るい。

 実は死にかけながらも途中から意識を取り戻していた白は、自分のために涙を流してくれた再不斬を目撃していたのである。そのためかどこか憂いを秘めていた表情は、年相応の明るいものになっていた。加えて苦手としていた春樹とも敵対していない現状が、白の警戒心を緩めている。

 

 何しろ春樹は現在、敵どころか彼らの雇い主なのだ。

 

 白が笑顔で答えると、それと真逆の苦々しい表情をした再不斬が口を開いた。

 

「病み上がりにこき使ってくれたもんだ……」

「お金は支払いましたよ?」

「もともとガトーの金だろう。まったく、とんでもない餓鬼だぜ」

「ガトーもまさか、自分の金で殺されるとは思ってもみなかったでしょうね」

 

 おかしそうに白が笑うが、隣の再不斬は眉間にしわを寄せて春樹を睨んでいる。しかし当然いつもの笑顔は崩れないままで、再不斬は深く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 戦いの後、春樹はカカシに一つ提案をした。

 このままガトーを生かしておいては波の国へ報復に戻ってくるはず。そうなる前に態勢が崩れている今を狙い始末してしまおうと。

 

 そしてその手段として、なんと再不斬への依頼を提案したのだ。

 

 なんの冗談だと思ったカカシだが、春樹の行動は早かった。了承した覚えも無いのにガトーから盗んできた金をごっそり持って消えたかと思えば、さっくり再不斬に話をつけて帰ってきたのである。頭が痛い。

 

「ねえ春樹、春樹さん? 俺に相談した意味ってあったのカナ~? ん?」

「いひゃいれふ」

「うんうん、それはよかった。痛くしてるからね~」

 

 頭痛ついでに春樹のほっぺたを引っ張りながらお説教を決め込んだが、それで決定した事実が変わることは無い。本当になぜ行動前に相談されたのに、是と言わないうちに実行してしまうのか。

 

 再不斬は重症の白を連れているため、遠くに逃げることは出来ないだろうと思っていた。そんな相手のため見つけるだけならまだしも……よくもまあ交渉したものだ。

 春樹の言い分としては、すでにこちらは十分な労力を投入した。これ以上無駄に戦わずとも、使えるものがあるなら使ってしまえ……ということらしい。

 再不斬にしても契約違反をしたガトーに仕返ししたい気持ちはあるだろうし、更に金を払われての依頼ならばプロとして受ける可能性はあった。依頼主を裏切ることは仕事上の信頼を失うため本来ならば断るのだろうが、今回はガトーが先に裏切っている。追われている身としては、自分たちの情報末消のためにも必要な事だったはずだ。

 しかし再不斬とて重症に加えて死にかけている白が居る身。……その彼らに報酬をちらつかせて仕事を押し付けるとは「お前鬼か」と思わず言いたくなったし、実際言った。

 元は敵だが、どうも不憫に思えてならない。

 

 

 

 

 話を聞いたカカシ以上に、当人である再不斬は「笑顔の能面をかぶった鬼が居やがる」と珍しく白に愚痴をこぼしていたが……受ける以外の選択肢は少なかった。それが何故かといえば、春樹は再不斬に金以外の報酬も差し出していたからである。

 

 その報酬とは白と再不斬の治療。

 

 今後の逃亡資金も含め春樹から提示された報酬は、再不斬達のこれからに必要な物だった。断れないと知っていて満身創痍の再不斬に敵の大将首を刈ってこいと依頼した春樹は鬼畜だが、本人としてはかなり本気で親切のつもりである。「白さんの美貌に感謝してください」と、なにやらドヤ顔で胸を張っていた。そこで衝動に任せ春樹の首を切り落そうとしなかった自分を、再不斬は褒めたい。

 

 最初は治療と称してとどめを刺す気かと警戒もしたが、どんな方法を使ったのか春樹の治療によって白の状態が安定した。

 それが依頼を受けた決定打である。気に食わないが。

 

 そして驚くべきことに再不斬は薬で体に無理を強いたものの、戦いの翌日にはガトーの暗殺を終えてきた。タズナの暗殺は失敗したが、サイレントキリングの達人と称される実力を遺憾なく発揮したようである。

 その後は報酬の治療を受けながら、追加依頼である残党の始末やガトーの会社の後始末。それも先ほどすべて終えたところである。

 ガトーが死んだと聞いて混乱した会社の幹部らが波の国へやって来ていたようだが、再不斬がガトーや関係者などに化けてさんざん引っ掻き回したらしい。これでしばらくは会社も混乱、あわよくばガトーの財産を巡って身内同士でつぶし合うことだろう、とは再不斬の報告だ。そうなれば波の国の脅威は、ひとまず去ったことになる。

 この辺の作業に関しては流石プロだと春樹は称賛の言葉を贈ったが、特にうれしくもない誉め言葉である。本来こんな雑務など自分の仕事ではないと、再不斬の眉間の渓谷は深かった。

 

「それでは、これで依頼は全て終了しました。お疲れ様です」

「あの、ボクたちのことは本当に……」

「もちろんはたけ上忍に確認はとっていますのでご安心ください。今度は取りましたとも、ええ」

(今度は?)

 

 何故か春樹は頬をさすりながら念押すような言い回しをしたので、白が首を傾げた。が、春樹が気を取り直すように咳払いしたので疑問はそのまま流される。

 

「……ごほん。えー……わたし達木の葉の忍は、今回の件でこれ以上あなた方へ干渉はいたしません」

 

 再不斬はビンゴブックに載っている抜け忍だ。

 しかし木の葉の里の抜け忍ではないし、これ以上戦っても互いに消耗するだけで利は無い。しかし戦力が低下している今、万が一カカシ達に攻められて苦戦するのは負傷に加え人数で劣っている再不斬達だ。

 そのため彼らはこれ以上互いに関わらないことを条件に、追加依頼を請け負ったのだ。

 

「フン……いつか後悔するぞ。もし次会うことがあれば、また敵だろうからな。」

「ふふっ、その時はまたお相手願います。この間は楽しかったですよ」

 

 いいように使われたままでは気に食わない。ので再不斬が睨みつつ言うが、心底楽しみだという風に笑う春樹に苦虫を噛み潰したようなしかめ面になる。それを見た白は思わず笑いかけ、口元をおさえた。

 

「…………白。何がそんなに可笑しい?」

「ク……いえ、そんな……おかしいなんて、再不斬さん。ふふ」

 

 そうは言うがこらえた分だけ体が小刻みに震えている。口をおさえて噴き出すのを我慢している姿からは、まるで信憑性が無い。

 

「お前……。ここ数日でコイツから変な影響を受けていないだろうな」

「そんなことありませんよ。それに春樹さんは変ですけど、思っていたより面白い人でした」

「白さんとわたしは仲良しですものね!」

「ボクはどちらかというと、次に会っても敵対したくはありませんね。話す分には楽しいですけど、敵にはしたくない人です」

 

 図々しくもどさくさにまぎれて仲良し宣言をした春樹は、さらっと白に無視された。再不斬は今までの白に無い図太さのようなものを感じて、これから少々やりにくくなる予感を感じ頭痛を覚える。

 ……白は頭がいいのだ。そのうえで図太くなっては、こちらがやりこめられかねない。しかもそれが好意から来るものとなれば、やりにくくてしょうがないだろう、と。

 

 その白だが、再不斬が依頼をこなす中……数度にわたって春樹の治療をうけていた。

 最初に施された傷の処置以外はほとんど薬で行われた治療だったが、白は己も薬草の知識を持つ身として春樹の知識量の多さに驚いた。自分の知らない方法で、知っている類の薬草が驚くほどの効能を見せる。木の葉の秘伝の製法だろうかと聞けば「秘密です」とウインクされてしまった。秘伝なら当然だろうと納得はしたが、少々気になる。

 そして白が意識を取り戻してからというもの、春樹は治療の度に取り留めのないお喋りに興じた。何故か好意的な視線に初めは居心地の悪い思いをしていたが、今まで殺伐とした世界で生きてきた白にとって、春樹が話す日常の会話は新鮮だった。

 木の葉の里はずいぶん平和なのだなと思うと少し羨ましかったが、生きている現状だけでも幸せだと首を横に振る。けれど春樹や、あのまっすぐな少年が生まれた里を少し見てみたいとも思った。

 道具であろうとした少年が抱いたその感情は、いずれ彼をひとつの運命にいざなうが……それはまた別の話である。

 

「そういえば、まだ護衛任務は続けているのでしたっけ?」

「ええ。わたしとはたけ上忍以外、ガトーが死んだことを知りませんからね」

 

 そう、ナルト達や波の国の人間はまだガトーが死んだことを知らない。そのため現在は橋が完成するまでと期間を設けて、護衛の任務を続行しているのだ。

 もう一度ナルトと話してみたいと思った白だったが、彼らが自分たちの行方を知らないのなら会わない方がいいのだろう。依頼が終わり怪我もある程度回復した今、波の国に用は無くなった。

 再不斬と白は再び霧隠れから逃れて放浪する生活に戻るのだ。

 

「春樹さん、いろいろとお世話になりました」

「世話も何も、これは単なる取引だぞ、白。低姿勢になる必要はない」

「あはは。けどボクの場合は本当に命が危うかったですから……。助かったのが不思議です」

「ふふ、お気になさらないでください。それよりまだ完全に傷が治ったわけではないんですから、無理はしないでくださいね」

「はい、ありがとうございます。……でも、本当に何をしたんですか? 薬草だけにしては、やはり傷の治りが早すぎると思うんですけど……」

 

 そういえばカカシからの攻撃をうけたあの時、何故胸のど真ん中に迫っていた攻撃が逸れたのかもわからない。その疑問を白は何故か、今この瞬間思い出していた。

 白はあの日、偶然手に入れた青い鳥の羽根をお守り代わりに懐に入れていた。それはいつの間にか無くなっていて、もしかするとお守りの加護だったのかもしれない……そう考えてもよかったが、さすがに不自然だ。

 白はあの時確かに死を覚悟した。

 

「……脇とはいえ腹に穴が開いたと思ったが……」

 

 再不斬もそこは気になるらしく、チラと白を見る。

 

「まさか治療忍術の使い手か?」

 

 こんな餓鬼が? と言いたげな再不斬だが、チャクラのコントロールが絶望的な春樹がそんな高度な術を使えるはずがない。

 春樹は少し考えると、人差し指を口の前に持ってきてにっこり笑った。

 

「秘密です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再不斬と白が旅立った数日後、波の国待望の橋が完成した。

 それを見届けたナルト達は、現在タズナ達に見送られている。

 

「一時はどうなるかと思ったが、なんとか無事に完成したわい。橋が爆破された時は超焦ったぞ」

「いやあ、ウチの春樹がすいません」

 

 春樹の頭をがしっと掴んで下げさせたカカシに、タズナは豪快に笑う。

 

「わははは! いや、でも驚いたぞ。本当に綺麗に一部だけを落としおった」

「橋の工事を見学していましたから、そのおかげですよ」

「胸を張って言うことじゃないからね~」

 

 ぐいっとカカシの手ごと頭をあげて「えっへん」と胸を張る春樹を、今度はサクラもカカシと一緒に頭を押す。ぎりぎりぎりと後頭部が地味に痛い。

 

「まったくもう。春樹君が手伝ってる最中そんなもの仕掛けてただなんて、思いもしなかったわよ! ビックリしたんだからね!?」

「本当だってばよ! いきなり現れていいとこだけもってくんだもんなー!」

 

 ぷんすか怒るサクラとナルトに、春樹はえへへと照れ笑いする。

 

「「照れるところじゃない!!」」

「フン、馬鹿め」

 

 スパーンと頭をひっぱたかれる春樹をいい気味だと見るサスケ。タズナ達は最近お馴染みになっていた光景を見るのも今日が最後かと、少々寂しさを覚えた。

 

 数週間前。春樹は工事を行うタズナを狙うなら、一日の大半を過ごす橋に来るだろうと思っていた。

 そのためもしガトーが数に任せて攻めてきた場合は、追い込んで一網打尽に出来るよう数枚所持していた起爆符を橋の各所に張り付けていたのだ。

 大きな建造物でも設置個所を緻密に計算すれば、少ない爆破で解体できる。橋の工事を見学しているときにそういった個所を見つけて設置した春樹は、当日現場に到着してから橋の下を伝って起爆符にワイヤーで着火する仕掛けを施し、それから橋の下から欄干によじ登ってガトーに蹴りをかましたのだった。

 

 あれから二週間ほど経ったのに最後の最後まで怒られた春樹は珍しく落ち込んだように静かになる。それを見たイナリは、流石に可愛そうになって声をかけた。

 

「ま、まあお前も良く頑張ったよ」

 

 上から目線である。世話にはなったが、最後まで春樹に尊敬の念は抱かなかったらしい。

 

「いやしかし、お前さんがとってきた権利書の控えのおかげで不正の証拠も見つかったしな。本物ではないが、それをもとに調査できるじゃろ。あとは波の国のお偉い方たちの頑張りようじゃが、いずれ運搬権も取り戻せる。ありがとよ」

「あ、春樹ちゃん。これお弁当作ったのよ。よかったら皆さんで道中に食べてね」

「わあ、ありがとうございます!」

 

 タズナに頭を撫でられツナミにお弁当をもらった春樹は、慰められてすぐに元気になった。現金なものである。

 ちなみに現金と言えば春樹の戦利品は、再不斬達への報酬以外全て町に寄付されてしまった。橋を壊したのだから当然だとカカシに言われたが、春樹は目に見えて落ち込んで笑顔のまま隅でのの字を書いていた。そういえばそれを見たタズナとツナミが、今のように春樹を慰めていたなとカカシは思い出す。

 

「さて、そろそろ行くか。お世話になりました」

「こちらの台詞じゃて。でもそうか……超寂しくなるのォ……」

「まあまあ! タズナのおっちゃん、また遊びに来るってばよ!」

 

 ナルトが元気に言い放つが、いよいよ別れと知って涙腺を緩めた涙目のイナリを見ると、彼の目にも決壊寸前の涙のダムが出来上がる。

 

「お前ってば寂しいんだろ~! 泣いたっていいってばよォ!」

「泣くもんかぁ! ナルトの兄ちゃんこそ泣いたっていいぞ!」

「あれ、わたしの時となんだか違う……」

 

 そのやり取りを見た春樹が言うが、その肩をぽんと叩いたサクラが言う。

「春樹君。しかたないと思うわ」

「ええー?」

 

 不満げな春樹の声を最後に、第七班は木の葉の里への帰路につく。

 

 こうして初めての里の外で様々な出会いを経て、彼らの任務は終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(さてさて、こうして外へ出て改めて思いましたが……。やはりこの世界、前世とは違った場所のようです)

 

 帰路の途中、仲間たちの背中を見ながら春樹は思案にふけっていた。

 今回初めて『曖昧な境界線(ボーダーライン)』以外の能力を訓練以外で運用した。その手ごたえは上々。……イナリの部屋で作ったばかりの新しい能力も、白で試したところなかなかの効果だった。今後役に立ってくれることだろう。

 この世界には忍術という強力な力が存在する。それに対して自分は念能力でどこまでやれるだろうか……。それを考えると、少し楽しい。

 

 春樹にとって今生は、いわばボーナスステージのようなもの。故に自分の命にすら固執しない。優先すべきは楽しめるか否か。

 

「ふふふ!」

「なに一人で笑ってんだってばよ?」

「……いつものことだろ、あいつの場合」

「そうよね、それが春樹くんよね。ちょっと慣れたけど、頼りになるのかならないのか分からなくて見てて心配になるわ」

「サクラ、同じ女の子だし頼むよ~。しっかり春樹の手綱握ってて」

「同性だからって押し付けないでくださいカカシ先生」

 

 途端に賑やかになる班員たちを見て、春樹は退屈の心配はなさそうだと再び笑う。

 

 

 現を抜けて、死をくぐり、たどり着いた先は別世界。

 ふわふわ花と蝶が飛び交う常春頭にとって、そこは夢も同じ。ならば目いっぱい楽しい夢を見てから再び死のう(ねむろう)と、密かな決意を胸に抱く。

 

 

 

 楽しんで死ぬ。それが桜庭春樹の忍者道。

 

 

 

「みなさ~ん。そんな言い方しなくても~」

 

 呑気に笑いながら、彼女は仲間たちに向けて一歩踏み出した。

 その足はこの先忍者の世界に、良くも悪くも点々と足跡を残していくことになる。

 

 

 

 

 




尻切れトンボ感半端ないですが、以前サイトに掲載していた分の修正・再掲ということで始めたのでこのお話はここで終わりとなります。この後次章に続くものとしてサクラ、ナルト、サスケ、カカシの閑話があったもののそこまで載せると更に中途半端になるのでここで区切らせていただこうかと。波の国までの中編、という形で完結。
思いがけず以前サイトで読んでくださっていた方に見つけていただいたり、過分な評価を頂いてしまったので大変申し訳ないのですが……!


本作に評価や感想、誤字報告(たくさんあって申し訳ない!)をくださった皆様、本当にありがとうございました。至らない点も多かったと思いますが、読んでいただけて嬉しかったです。
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