こちらはその予告編となります。ご期待くだされば、幸いです。
ーー並列界壁透過処理、完了
ーー座標特定、固定処理開始
ーー3,2,1……固定、確認
ーー固定座標の安定性……立証
ーー術式安定、執行開始します
ーー並列誤認性転移術式、起動
ーー………………
ーー術式成功、転移完了
「嗚呼ーー永かった」
男が顔を上げる。
神秘が完全に隠匿された、同一に見えて質の違う世界で。
「漸くだーー漸く、私の悲願が叶う」
其れは、童子の願いの様に純粋な想い。
「今度こそ私は、跡形もなく、苛烈に、一切の容赦無く私自身を殺すのだ」
其れは、悪鬼の如き苛烈な殺意。
「何も残さず、全てーーこの
未明の空に、狂った願いが投じられる。
虚ろな目が、悲壮な貌が、いずれ昇るであろう太陽へ憎しみを放っていた。
術式は動き出し、最早全てが手遅れ。
この世界が殺害されるまで、あと2週間。
♢ ♢ ♢
「おっと、それはいただけないな」
♢ ♢ ♢
私ね、普通なの。
何をやっても上手くいかなくて、人に誇れるものも、夢中になれるものも、何もなくて。
そんなーー私の日常に。
「おい、雑種ーーいや、小娘よ。
平凡な私の日常に、突如として舞い降りたーー
「ーーまさか、まさか貴様の様な凡庸極まる小娘が我のマスターとは言うまいな?」
ーーこれは、一体なんだろう?
「魔術を知らない、だと……!? そんな巫山戯た知識の無さで英雄王たる我を呼んだというのか、貴様は!」
「うーん、王様っていうか……ワガママな子供みたいな感じなんだけど」
9人の少女の前に、突如として英霊達が姿を現わす。
「音楽の道を志す者でありながら、作家は作家でも音楽作家ではなく童話作家をーーそれも、戦闘力皆無な最弱のサーヴァントである俺を召喚するとは! マスター、さては貴様日頃の行いが相当に悪いな?」
「サーヴァント、ランサー。カルナだ。助けを求める声が聞こえたので応じたが……呼んだのはお前か?」
「カルナさん、そんなに1人で仕事を抱え込まないで! アンデルセンはもっと働きなさい! もう、足して2で割れたら良いのに……!」
訳も分からないまま争いに巻き込まれていく彼女達を守る為、英霊達は戦いを強いられる。
異例の聖杯戦争に不可解な思いを抱えながら。
「ーーふむ。マスター、君はどうやら思った以上に賢いようだ。もののついでにもう一つ、教授しておこう」
「私、最初に言ったよね? 私のサーヴァントでいる間はその怪しい薬禁止! 本当いい加減にしないと訴えるよ?」
時に、平穏な日々を共に過ごし。
「お下がり下さい、マスター。我が宝具にて突破しますーー!」
「ーーいいえ。誰が何と言おうと、貴方の貌と心根が美しいことは事実ですわ」
時に、死線を潜り抜け。
「おっひょーーーー! 良いですぞー渡辺氏! 程よく鍛えられた眩く白い太ももと巫女衣装の紅が奏でるコントラスト……コイツは拙者のMIRACLE WAVEも全速前進ヨーソローだぜェーーーーッ!!」
「…………すまないねえ、憧れだった海の男がこんなんでさ」
「ーーあのね、2人とも。やっぱり私、船が大好き! 今日は連れてきてくれて、本当にありがとう!」
気付けば、戯れることすら日常になり。
「しっかしよぉ大将。駄菓子って奴ァ……やっぱり最高にうめぇな……」
「金ちゃん、今日のおやつは100円までずら。そのコインチョコは戻すずら」
やがて、その関係は友と呼べる親密さとなる。
「いいかいマスター。不運である事は決して悪いことではない。それだけ不測の事態に対応できるということにもなる」
「うーん……何かアンタって、たまに物凄くパパっぽいのよね……生前に娘でもいたの?」
英霊達は知らない。そうして過ごした日々が、後にどんな意味を持つのかを。
「ケハハハハハハハッ!! 否定するなとーーこの俺の業を知って尚、それを否定するなと宣うか!」
「ーーでもね、ダンテス。それでも、貴方の淹れるコーヒーがこんなに優しいの。理由なんて、私にはそれで十分」
少女達は知らない。自分達が、どれだけ深い絶望に沈められようとしているのかを。
「見るなッ…………! マスター、余を、この姿を、見るなあああぁぁぁぁ!」
「当たり前だよ。だって、おじさんはルビィの大事な友達だもん! 友達が困ってるならルビィは助けてあげたい!」
それでも尚、彼女達は立つ。その瞳は尚も、前を見つめる。
その先に待つモノの昏さを、知りもしないまま。
「貴様らをーー切除する」
「何故魔術を知りもしない人間に召喚されたと思う? それを可笑しいとは思わんのか?」
ーー私は、あの日死んだのだ。
「妙だなーーこの世界、教会が聖杯戦争を認識していない」
ーーだが、私にはただ死ぬことすら許されなかった。
「並行世界への聖遺物搬送ーーという訳か」
ーーだからこそ、死ななければならなかった。
「案ずるな。私がここにいるという事は即ち、解決する手段が存在するということだ」
ーー誰にも阻害されない方法で。
「では、お見せしましょう。呪われたこの貌をーー!」
ーー苛烈極まる方法で。
「なぁに、勝手に人の
ーー貴様らには分かるまい。
「突っ込むよ! しっかり捕まってなァ!!」
ーーただ前を向きさえすれば景色の広がっている、貴様らには。
「ーー悪いな大将。遅くなっちまった」
ーー道が途絶えてしまった者の苦痛など、分かるまい。
「僕は正確にはサーヴァントではないーー守護者という、サーヴァント擬きだ。その僕が召喚されたという事はつまりーー」
ーーだから、せめて貴様らに教えてやろう。
「掴まれ、マスター。我が宝具にて脱出するーー!」
ーー未来の無い視界のその昏さを。
「彼女は、化物となった余を見て尚余を友と呼んでくれたーー最早、余に令呪など要らぬ!」
ーー恐怖に向けて苦痛を重ねる、その地獄を。
ーー貴様らも、味わうがいいーー!!
「ーー私、分かったんだ! 英雄って呼ばれたあの人達も、ただの人間でしかない私達も、本当はあんまり変わらないんだって!」
「あの人達も、同じように悩んで、すれ違って、失ってーーそれでも今を何とかしようって、がむしゃらに、一生懸命に、理不尽な世界と戦い続けてた! 普通で、怪獣だった私と同じでーー常に足掻き続けてたんだ!」
「だから、私達は戦い続けなきゃダメなんだよ! 足掻き続けなきゃダメなんだよ! そうやって前を向いて足掻き続けて来た人達が守って、作り上げてきた今を生きている以上、私達は!」
「善い人でも、悪いって言われてる人でも! そうやって自分の気持ちに従って一生懸命走り続けて、前を向き続けてきた人達の足跡を無かったことにするなんて私、絶対に許せない! そうやって積み重ねてきたたくさんの人の輝きが、今を生きる私達の世界を作ってくれてるって分かったから!!」
「だから私、あの魔術師を止めたい! この私のまま、普通の人間の私のまま、目の前に立って、一発ぶん殴って、反省させて! あの人達の人生が間違ってなんかなかったって証明したい!!」
「ーーこれが、私の今一番やりたいこと。私の、心からの願い」
「叶えてーーーー
『グランドオーダー案件下の為、人理の判定に従い特例措置ーー願望成就の優先権を入れ替えます』
『ーー願望、承認』
『ーー手を差し出して下さい、高海千歌。私の力を譲渡します』
「ーー何だ、アレは」
「莫迦な、あり得ん……聖杯には確かに我が願望を託した筈だ!」
「アレは、アレは一体ーー」
『ーー異常量の魔力を検知』
「ーー!」
『対象の物的構造を解析ーーーーError』
『対象の魔力構成を解析ーーーーError』
『対象の存在定義を解析ーーーーError』
『対象の存在を特定出来ません』
『例外事象0553に該当、例外処理を開始ーー対象に仮想定義を割り当てます』
『仮想定義処理…………完了』
『対象名、サーヴァント・モンスター。真名、高海千歌』
『警告ーー対象から大聖杯の魔力を検知。戦闘行動は危険です。可及的速やかに退避行動をとって下さい。繰り返します、対象からーー』
「ーーーークソッ!!」
「何故だ!! 何故貴様が私の障害になる!?」
「何故貴様如きが聖杯に選ばれる!?」
「何故ーー何故よりによって貴様が私に立ちはだかるのだ!!」
「ーーっ、ーーはぁ、はぁ、はぁ、ッ!」
ーー我儘な、人だった。
『ふん、想像以上の凡骨振りだな小娘。生きていて恥ずかしくなった記憶は無いか?』
『……まあ、いい。今から貴様を小娘でなく雑種と呼んでやろう! 我の寛大さに平伏するが良い!』
ーー横暴な、人だった。
『ーー何も出来ぬなら下がっていろ、と言ったのだ。足手まといめが』
『その宝剣を貸してやる。万に一つ、傷物にでもしたならーー我が貴様を殺すぞ、雑種』
ーーでも。普通の私を面白い、と笑ってくれた。色んな生き方を教えてくれた。たくさんたくさん、ぶつかってくれた。
『ーーフン。まあ詰まる所、貴様ら雑種にも生き方など腐る程ある、という話だ。下らんことで悩む暇があったらとっとと寝ろ』
『フハハハハハハハハハハハハハハ! この状況を見て尚前進せよ、とな? 気でも狂ったか、雑種!』
『だがーーその愚直、その蛮勇、我の好みだ。今この戦闘に限り、我をサーヴァントとして扱う非礼を許す! 精々振るうがいい、マスター!』
ーーだから、ねえ。王様。
『泣くな、マスター。貴様が勝てば良いだけの話だ。それで全て元に戻る』
『貴様なら可能だとも。案ずるな、そこらの雑種ではなく、英雄王たるこの我のお墨付きだぞ?』
ーー見ててね。
『マスター。否、
『ーー普通であれ貴様は、"怪獣"なのだろう?』
「がおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
ーー深く昏い世界の底で、怪獣の咆哮が木霊する。
ーーそこに宿るは、憤怒か、悲哀か、それとも。
fate/parallel heritage
-星蝕魔障海域 沼津-
ーー光る足跡が、少女を照らす。
※嘘です