まだAパートとBパートを読んでいない方は、先にそちらをお読みください。
ここは「カイジュウエンマエ」。もうすぐイルカ&アシカショーが始まるショーの会場。ショーに使うセットがこわれてあわてふためくフレンズ達。
しかし、ともえちゃんは冷静に金属板を組み立てて箱に仕上げ、そこにボールを落として音を鳴らす実験をしています。ある程度実験を終えたともえちゃんは、やがてカベに立てかけられた大きな板を見ながら自分の考えを言います。
「……ねぇ。あのおっきな板。あれに鐘の絵を描いて、穴を開けるでしょ。その穴に合わせて金属の箱をはり付けるの。それで穴にボールを叩き込めば、きっと鐘の音の代わりになるんじゃないかな?」
ともえちゃんの発想はおどろくべきものでした。確かに金属の箱の中にボールを入れれば、先ほどの実験のように音が鳴りひびいて鐘の音のようになるかもしれません。
しかし、この方法には問題がありました。音質に関してはこの際不問にするとしても、音を出すためには、ボールを穴の中に正確に入れなければなりません。しかもぶっつけ本番です。
「無茶だろ!ジャンプするだけでも大変って言ってたじゃん!」
「うん……。だから、やるかどうかは……イルカちゃん次第だよ。」
「私……。」
バンドウイルカちゃんは少し考え込みます。いきなりこんな高度な芸をやってもし失敗したら……。お客さんをがっかりさせてしまうかもしれません。でも、お客さんには最高のショーを見てもらいたい。それに何より、親友にして最高のパートナーであるカリフォルニアアシカちゃんを助けてあげたいという気持ちがあります。でも失敗したら……。彼女の心はゆらぎます。
彼女が考え込む間、みんなはその様子をかたずをのんで見守ります。
「みんな聞いて。私の考えを言うから。」
やがてバンドウイルカちゃんは、意を決したような面持ちで話し始めます。
「私達のショーは、アシカちゃん、カルガモさん……ううん、それだけじゃない。たくさんのフレンズの“信頼”で成り立ってる。このショーで全力を尽くさないことは、そのフレンズ達に失礼なことだと思う。だから、どんなに難しくても、どんなに大変でも、私はやってみたい。みんなの心からの笑顔が見たいから!」
バンドウイルカちゃんの決意に満ちた演説はみんなの心にひびきました。それまでのみんなの絶望で落ち込んでいた顔は、みるみる希望を取り戻しほころんでゆきます。……ただし、カリフォルニアアシカちゃんを除いて。
それを見届けたともえちゃんは、腹を決めたように拳をにぎり、みんなに指示を出します。
「じゃあいい?あたしが鐘の絵を描くから、ラモリさんはそれをなぞって切って、穴も開けて。その裏側にこの金属の箱をはり付ける。箱もこわれないようにしっかり補強しようね。」
「ともえさん、私達にできることがありましたら……。」
「大丈夫。作業は私とイエイヌちゃんとゴマちゃんでがんばる。だから、二人は他の演技の打ち合わせに集中してて。カルガモさんとアードウルフちゃんも、自分のことを精いっぱいやって。」
「ともえさん……。」
まだ不安そうに顔をうつむかせていたカリフォルニアアシカちゃんも、その言葉を聞いてみんなと同じく腹を決めたようです。
「でも、ともえ……大丈夫かな?」
先ほど決意にあふれた演説をしたバンドウイルカちゃんでしたが、目を伏せて不安な様子です。変更されたプログラムにぶっつけ本番でのぞむのですから、無理もありません。
でも、ともえちゃんは満面の笑顔ではげまします。
「だいじょーぶ!め~っちゃ、まかせて!」
その言葉を聞いたバンドウイルカちゃんは安心したように、そして決意を固めたように無言でうなずきます。
「みんながんばろー!」
「おーっ!」
みんなは拳を振り上げて気合いを入れます。
こうして、ショーを成功させるためのともえちゃん達の挑戦が始まりました。果たしてショーを成功させることはできるのでしょうか。
それからは大忙しでした。ともえちゃん達は新たなセットの制作を急ピッチで進め、カルガモちゃんとアードウルフちゃんは会場の前で会場入りと終わった後に関する打ち合わせ、イルカアシカコンビはスパイクの練習をして本番のクライマックスシーンに備えます。
ぼちぼち日が高くなり始めた頃、ともえちゃん達はついに新たな鐘を完成させました。色鉛筆だからか色合いは優しく、鐘の真ん中辺りには鐘の色に合わせた布がかかっています。この布をめくってみると、穴が空いているのがわかります。ここにボールを入れた後は、布が返しの役割を果たすのでしょう。
このセットにロープを結わえ付け、ステージの天井に吊るして固定します。仕上げに空を飛べるゴマちゃんが、吊り下げられたセットを再確認。しっかりと結わえ付けられていることを確かめます。後は出番が来たらそれを下ろすだけです。
「あとはイルカちゃん次第だよ。」
「私達の思いも込めました。」
「頑張ってくれよな。」
「うん!絶対成功させてみせるよ!みんなの思い、確かに受け取ったから!」
バンドウイルカちゃんは満面の笑顔を見せます。それは不安をはらいのけるためなのか、それともみんなを信頼しているからこそ沸き起こった自信なのか……。それは本番になればわかることでしょう。
会場の外ではショーを見にやってきたフレンズ――お客さん――が続々と集まってきます。アードウルフちゃんはチケットの確認を、カルガモちゃんは会場入りしたお客さんを席に案内します。ともえちゃん達も席の最前列につき、ショーの本番を緊張した面持ちで待ちます。周りはフレンズだらけですが、さすがのともえちゃんも目移りしているヒマはないようです。
並んでいた全てのお客さんが会場に入り、いよいよショーが始まります。
ショーの流れは順調そのものでした。
カルガモちゃんのナレーションに合わせてイルカアシカコンビが演技をし、あるいは芸を見せ、会場を沸かせます。自分の夢に向かうあまりに周りが見えなかったイルカくんに、恋するアシカちゃんの気持ちが届き始め、二人のキョリはどんどん縮んでゆきます。
そしていよいよクライマックスシーンです。
アシカちゃんはステージに備え付けられたベンチに座り、うつむいています。その表情にはやはり不安が見られます。一方でイルカくんは、バレーボールを持ち、ステージ左から登場。落ち込んでいる様子のアシカちゃんを遠くから見ています。
「アシカちゃん……好きだ!ボクも君のことが好きだ!大好きなんだ!ボクは今、やっとこの気持ちに気づいたんだ!でも、どうすれば伝わるんだろう……そうだ!ボクの気持ちを、このボールに込めるんだ!」
と、イルカくんはアシカちゃんの方を向き呼びかけます。
「アシカちゃーん!アシカちゃーん!」
「はっ……。イルカ先輩?イルカせんぱーい!」
「アシカちゃーん!君のことが好きだー!君がもし、ボクを受け入れてくれるなら!このボールをプールに向かってはねとばしてー!」
アシカちゃんはとまどった様子を見せますが、やがて無言でうなずきます。
すると、イルカくんはボールを高く放り、それにジャンプで追いつきます。そしてボールにキスをして押し込み、アシカちゃんに届けます。
ボールを届けたイルカくんはそのままプールに着水。水の中でボールを待ちます。
「私の思い……とどいてっ!」
アシカちゃんは、届けられたボールをレシーブ。それは高々とはねあげられ、宙を舞います。
それを見届けたイルカくんは稲妻のごとき速さで浮上し、ものすごい高さの回転ジャンプ!あっという間にボールに届いてしまいました。ここまでは練習通りです。
「いけーッ!」
かけ声と共にイルカくんのアタック!
ともえちゃん達は拳を固くにぎり、かたずをのんで見守ります。叩き込まれたボールの行方は……。
「ガゴン!ゴロン!ゴロン!ゴロン!」
しっかりセットの穴にボールは吸い込まれ、ボールは箱の中をはねかえり独特な音を出します。大技の成功にお客さんは「おーっ」と歓声を上げます。
やがてプールから上がったイルカくんはアシカちゃんの元へやってきます。
「イルカ先輩……。」
「アシカちゃん……。」
見つめ合う二人。
「愛してるよ。」
「私も愛してます。」
二人はキスを交わし、互いに互いを強く抱きしめます。
「……こうして、アシカちゃんの恋は成就し、イルカくんは努力が実を結んでパフォーマーとしてみんなを笑顔にし、二人は夢と幸せを手に入れました。めでたしめでたし。」
カルガモちゃんのナレーションでショーは終了。イルカアシカコンビはステージ中央に立ち、観客席に一礼をします。
それと同時にお客さんは拍手かっさい。精いっぱいの拍手と歓声をイルカくんとアシカちゃんに送ります。
その一方で、ともえちゃん達は感動のあまりに涙を流しています。成功を祝う気持ちと、ここまでの苦労が報われた気持ちが合わさったうれし涙なのでしょう。抱き合うイルカくんとアシカちゃんを観ながら、ラモリさんはともえちゃんに声をかけます。
「コネコチャン……オレ達ニモアンナ頃ガアッタナ。苦ミトコクノ効イタ……ブラックコーヒーノヨウニ熱カッタ日々。」
「ええ……そうね、ラモリ。あなたは、今も同じ気持ち?」
「ドウ思ウ?ベイビー。」
「フフフ。あたしと同じ……だといいな。」
と、ともえちゃんはラモリさんに寄りそい……かけますが、我に返ってラモリさんにツッコミを入れます。
「……って何言わせるのラモリさん!」
「なんか、カンザシ師匠達の影きょう受けてねーか?」
「ラモリさん、からかわないでください。」
ラモリさんの悪ふざけのせいでゴマちゃんは少し涙が引っ込んだようですが、イエイヌちゃんはぷくっとほほをふくらませます。
「みんな!今日はありがとうね~!」
「次の公演は1か月後を予定しておりま~す!皆さん、ぜひまたおいでくださいね~!」
イルカアシカコンビは、手を振りながら退場。拍手と歓声は二人が見えなくなった後もしばらく続きました。
しかしその時、ともえちゃんに異変が生じます。ともえちゃんに、あの記憶がよみがえる感覚が沸き起こってきたのです。
――ここは森の中。ともえは当てもなく一人彷徨い歩く。すると、どこからか拍手と歓声が聞こえてくる。気になったともえは、音の鳴る方へ歩いてゆく。それは森の外のようだ。
森の外へ出ると、そこには廃墟となった施設とショーができそうなステージがある。ステージを見てみると、隣の廃墟と違ってある程度綺麗になっているのが分かる。
ともえは木によじ登り、何が起こっているかを観察する。すると、遠目にイルカとアシカがショーをしているのが見えた。会場にはたくさんのフレンズ。当然、ともえは怯えるが、その一方でショーをしているイルカとアシカには羨望のまなざしを向けている。あんなにたくさんのフレンズを前に物怖じせず、パフォーマンスで観客を沸かせている二人に一種の憧れを抱いたのだった。
「あたしも、いつかあんな風にフレンズと一緒に過ごせたら……。」
おもむろにともえはかばんを開け、スケッチブックを取り出そうとする。すると、かばんの中の立方体が少し減っていることに気づく。その代わり、黒い石は拾った頃よりも少し大きくなったようだ。不思議に思いながら黒い石を手に取ってみる。石は少し熱を持っているようだ。
「――あつッ!」
ともえは思わず石を落としかけるが、なんとか両手で熱を逃がしながらキャッチ。そのままかばんの中に突っ込む。そして両手をかばんから取り出すと、自分の爪が緑色になっていることに気づく。
「……変なの。」
しかし、ともえはさほど気にする様子もなく、スケッチブックを取り出してスケッチに励む。スケッチをしていると、嫌なことを忘れて没頭できるから。――
記憶が戻ったともえちゃんは、すぐさま自分の爪を見ます。記憶によると以前は薄い桃色だったようですが、今は確かに緑色になっています。
「(どういうこと……?)」
またしても発覚した不気味な事実に、ともえちゃんは背筋がぞっとするような恐怖を味わいました。
しかしながら、こんなに清々しい思いをしているというのに、こんな記憶でぶち壊されてはたまらないと、ともえちゃんは強く拍手をしました。まるで不安をかき消そうとするかのように……。
ショーが終わり、お客さんを無事に帰らせた後はみんなで後片付け。フレンズ達はみなお行儀がいいのかゴミはほとんどなく、ショーで使った小道具や大道具の後片付けがほとんどでした。
後片付けが終わって日が暮れ始めた頃、みんなは労いのために宿舎で打ち上げをすることになりました。みんなは食堂に集合し、お茶とジャパリまんを用意して、今日の主役だったバンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんを労います。
「それじゃ……みなさんおつかれさまでしたー!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
カルガモちゃんの乾杯の音頭と共に打ち上げが始まります。
「ともえ!ホントにホントにありがとう!今日のショーが成功したのは、あなたのおかげだよ!」
「ともえさんは私達の恩人です!」
「感動でずぅ~!。みんな本当に立派になっで、もう思い残ずごどはありまぜん~。」
ベタ褒めのイルカアシカコンビと感動のあまり泣き崩れるカルガモちゃん。当のともえちゃんは、ほめられすぎてなんだかくすぐったい気持ちです。
「そんな……あたしなんかよりも二人の方が……。」
「ともえさん、ここは素直にほめられておきましょう。皆さん、こんなに感謝していらっしゃるのですから。」
「……うん。そうだね、イエイヌちゃん。」
イエイヌちゃんのアドバイスを聞き、ともえちゃんは嬉し恥ずかしな笑顔でイルカアシカコンビとカルガモちゃんの称賛を受けます。
すると、アードウルフちゃんがふと、ともえちゃんに質問を投げかけてきました。
「そういえば、ともえさん達ってどうしてここへ来たんですか?ショーを見に来ただけなのですか?」
「えっと……実はね。確かに半分はショーを見るためなんだけど……。」
ともえちゃんはこれまでのことを四人に話しました。記憶を失くしていること、その記憶を探していること、手がかりはスケッチブックの中のスケッチであること。ついでに、ショーの終わりに記憶を少し取り戻したことも伝えました。黒い石絡みのことは当然内緒にして。
「なるほど……そういうことですか。」
「いつ頃見てたのか分かんないけど、前から私達のファンだったんだね!」
「うん!もうホントサイコーだったんだから今日は!」
ともえちゃんは思わずバンドウイルカちゃんに抱き着きます。本人も嬉しそうに抱き返します。今朝の深刻な顔はどこへやら、和気あいあいとしたムードに包まれています。やはり、自分達を不安で押しつぶし、窒息させるかのようなあの緊張感から解き放たれたおかげでしょうか。
こんな調子でみんなが談笑をしているとまた、アードウルフちゃんが質問をします。
「次はどちらへ向かわれる予定ですか?」
「えっとね……。みんな見覚えのある風景ないかな?」
と、ともえちゃんはスケッチブックをみんなに見せます。残っているのはロッジ、光を放つ黒い岩、ぼろぼろの白い箱みたいな建物、そして黒い島です。
すると、アードウルフちゃんは何か覚えのあるものを見つけたようです。
「あっ、これ!このロッジ……『キツネノアリヅカ』!私が働いているところですよ!間違いありません!」
「えっ!ホント!?」
「はい!この近くにありますので、よろしければお立ち寄りください!」
「すげー。偶然ってこわいな~。」
本当に全くの偶然ですが、これでスケッチの手がかりを手に入れたことになります。次の目的地はロッジ『キツネノアリヅカ』に決まりです。
「じゃあ、今日はみんなこれからロッジへ行くの?」
「少しさみしくなりますね。」
「うん……あっ!そうだ!」
ともえちゃんはかばんから、新品の方のスケッチブックと色鉛筆を取り出し、イルカアシカコンビとカルガモちゃんのスケッチを始めました。
「今日のことを忘れないように、絵に描いてみんなにプレゼントしてあげる!辛くなったり、さみしくなった時はこの絵を見て元気になってね!」
「うんっ!じゃあかわいく描いてね!」
「なんだかドキドキしますね。」
「私なんかを描いていただけるなんて……感動でずぅ~!」
「ともえはけっこう絵うまいから、楽しみにしろよ~。」
「せっかくですから、アードウルフさんも。」
「えっ、えっ、私なんてほんとに何もしてないのに~。」
みんなの顔には笑顔があふれていました。この笑顔の理由はきっと、ショーが成功したことだけではないでしょう。みんなが力を合わせて困難を乗り越え、偉業を成し遂げたからこそ、もたらされた笑顔です。仲間同士が信頼し合い、その信頼に応えるために自分の力を最大まで発揮する。それがどういうことでどんなに大切なことであるかを、今日の出来事でともえちゃんは知ることができました。
ともえちゃんはスケッチを描きながら、今のこの尊い時間を噛みしめていたのでした。
なお、スケッチが終わった後、ともえちゃん達4人とアードウルフちゃんは別れを惜しみながらロッジへ向かったのですが、それはまた次のお話。ということでまた次回をお楽しみに。
終わり
過去最長の話になってしまいました。皆さんお疲れ様です。
ところで、アードウルフちゃんを出した辺りでようやく気付きました。仕事してる子多スギィ!
と思ったら、1期でも働いてるフレンズ多いじゃん。よかった~。
※最後の「終わり」を「続く」にしてしまう凡ミスをかましてしまったので修正。ついでにラモリさんの悪ふざけに対するゴマちゃんとイエイヌちゃんの反応も修正