けものフレンズR 足跡を辿って   作:ナンコツ

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※このお話にはホラー要素が多少含まれています。苦手な方はご注意ください。


第九話 ゆめのなか Aパート

 ねえ、みんなは夢って見るよね?その夢が実は、これから自分に降りかかることの暗示だって話、聞いたことある?新年度の自分の担任教師を夢で知ったとか、歯が抜けた夢と新しいお洋服を作った夢を見たら、現実でお店をやめることになってさらに結婚までしちゃったりとか。

 夢の意味なんてせんもんか?のヒトじゃないと分からないって思うかもしんないけど、案外そうでもないよね。だって、シンボルの意味を知ってたら誰でも夢の意味を「あれかなこれかな」って予想できるもん。

 夢の意味を予想できるようになると、夢を見るのが楽しみになっちゃう!もうずっと寝ちゃっていたいくらい!

 ……ねえ、ところで動物って夢を見るのかな?動物だってヒトだって、いきものなんだから夢くらい見るよね?あっ、そうすると植物も夢を見るのかな?でも、そもそも夢を見てるって他人から見ても分かることなのかな?よく寝てるなーどんな夢見てるのかなーと思ってたら、実は何にも夢を見なかったって子もいるし。うーん、夢ってふしぎ!

 もし、動物がヒトになった世界があったとしたら、どんな夢を見るのかな?お友達と走り回ったり、はねたりとんだりするのかな?もしかして、その夢も未来の暗示だったりするのかな?気になるよね~。

 あっ、なんだか誰かが夢を見てるみたいだよ。ねえ、ちょっとのぞいてみようよ。

 

 G・ロードランナーちゃん、通称ゴマちゃん。元気いっぱいでともえちゃん達一行のムードメーカー。ちょっとトゲのあること言うけど、本当は優しい子なんだよ。

 ゴマちゃんは夢を見たよ。ところどころに木の生えた、草が少し生えてるくらいのサバンナのような原っぱ。周りが白黒な空間に、一人でぽつんと立ってたよ。

 でも、なーんにもないわけじゃないの。ごつごつしてておっきな、黒くてところどころぴかぴか光る岩が、まるでゴマちゃんの前に立ちはだかるようにいっぱい立ってたよ。

 ゴマちゃんは先に進みたいみたいだけど、これじゃ無理だよね?だから、ゴマちゃんは穴を掘って先に進むことにしたみたい。あーあ、慣れないことなんてするもんじゃないのに。

 そこへ、一人の女の子がふらふら飛びながらゴマちゃんに近づいてきたよ。その子は哺乳網コウモリ目チスイコウモリ科チスイコウモリ属のナミチスイコウモリちゃん。黒いボブカットの髪型に黒い耳、おさげみたいな黒い羽をつけたコウモリのフレンズだよ。黒いセーラー服に黒のスカート、黒タイツ、黒いブーツと黒づくしだけど、こわがらないで。ピンクのリボンとかのアクセントがとってもかわいいんだから。

「キヒヒ。変なことしてるね。」

「だ、誰だ?笑うなよ~、苦労してんのに。」

 ゴマちゃん、辺りを見回して探してるよ。鳥なのに上に目がいかないのかな?じゃあ教えてあげよっか。

「上見て上。」

「上?あっ、お前か!」

「キヒヒ。私だよ。私はナミチスイコウモリ。あなたはだあれ?」

「おれはロードランナー様だぞ。プロングホーン様の一番の弟子だ!」

「プロングホーン……プロングホーン……ああ!」

「おっ、知ってんのか~?」

「知らないなぁ……。」

 ゴマちゃん、カクッと肩落としちゃった。あ、これがいわゆる『肩すかし』ってやつ?キヒヒ。

 親切心でコウモリちゃんは言ったよ。「そんなとこ通れるわけない」って。「やってみなきゃ~」とか言い出すかと思ったけど、ゴマちゃんはあっさり認めちゃった。めんどくさがりだねゴマちゃんも。

「じゃあ狩りごっこで遊ぼうよ。ロードランナーちゃんも飛べるんでしょ?」

「おれ、そんなに飛べねーよ。」

「じゃあ、私はふらふら飛んで追いかけるから、ロードランナーちゃんは走って逃げてよ。」

「いいのか?走るのは自信あるんだぜぇ~。」

 そういってゴマちゃんは走り始めた。それをコウモリちゃんが追いかけ始めたところで狩りごっこはスタート。

 走りに自信ありって言葉は全然ウソなんかじゃない、ホントに速かったよ!びゅーんと原っぱを駆け抜けるゴマちゃんに、コウモリちゃんは見失わないようにするだけで精いっぱい。ロードランナーの名前はダテじゃないねー。

 でも、走ってる間に雷が鳴り始めたみたい。ごろごろごろ……。雷って怖いよね。びしゃーん!って当たったら、あの木みたいに黒コゲになっちゃうよねきっと。ちなみに、雷の夢はショッキングな出来事のきざしを意味してるみたいだよ。

 さすがのゴマちゃんも、黒コゲの木を気味悪がったみたいで右向け右。別の方向へ走り始めたよ。うーん、もう少しで追いつけそうだったんだけどなぁ。

「ど~だ~?さすがに追いつけないだろ~?」

 勝ち誇っちゃった顔のゴマちゃん、コウモリちゃんの様子を見ようと後ろを振り返ちゃった。でも、すぐにサーッと真っ青な顔になっちゃったよ。だって、おっきなネズミがものすごい速さで追いかけて来ちゃうんだから。あいつ、ゴマちゃん3人分くらいの大きさはあるね。

 ゴマちゃん、思わず「ヒッ」って叫んじゃったよ。怖かったら当然逃げるよね。全速前進、コウモリちゃんの様子なんて気にしてられなくなっちゃった。

 そういえば、ネズミに追われる夢は、何かにプレッシャーをかけられて解放されたい気持ちや現実から目を背けていることを意味してるみたい。今はないならこれから起こることかも。

 それと、なんだかカラスがたくさん飛んでいてこれまた縁起がワルいね。ちなみに、カラスの大群は予期せぬ悪い知らせを告げる警告夢なんだって。

 無我夢中で逃げ出すゴマちゃん、今度は枯れ木だらけの森に迷い込んじゃった。しかも突然ケムシが、ばらばらばらっ!って降ってきて、ゴマちゃんにまとわりつこうとするんだから大パニック。

「ひっ、ひえぇ~!」

 わーわー叫びながら森を抜けてっちゃった。もうコウモリちゃんのこと忘れてない?

 一応言っておくけど、枯れ木は運気の低迷、ケムシがまとわりついてくる夢はストレスがかなり溜まってることを意味しているみたい。

 ていうか、雷が鳴ったり、ネズミとかが出たり、陰気な森に迷い込んだり。なんかめちゃくちゃな夢だね。そろそろいいことあるといいんだけど。

 半べそかきながら走るゴマちゃんの前に、今度はあの子の見慣れた子が現れたの。誰かなぁ?

「ぷ……プロングホーン様ぁ!」

 えーっ!?運命の再会じゃん!赤いジャージにちょこんとツノを生やした勇ましいフレンズ。あれがプロングホーン様かぁ、かっこいいかも!この懐かしの対面。ゴマちゃん思わずプロングホーン様に抱き着いちゃった。先生や師匠に会う夢は吉夢らしいよ!やったね!

「プロングホーン様ぁ!会いたかったですぅ~!」

「どうしたロードランナー。私がいない間もちゃんと走っているのか?」

「はい!もうバッチリ!さっきもナミチスイコウモリとかネズミとかを振り切って……。」

 自慢げなゴマちゃんだったけど、うぬぼれすぎてるように映ったのか、プロングホーン様はため息を吐いちゃった。あーあ、しかられそう。しかられる夢になったら、改善しなきゃいけないところがあることになるのに。

「いいかロードランナー。真の勇気というものは、極端な臆病と向こう見ずの中間にいる。お前はちゃんと勇気を持って走れるのか?」

「はぁ……。」

 と、懐かしいお友達との再会で油断しているゴマちゃん。そこに、コウモリちゃんが後ろからそっと近づいて……。

「つかまーえた!キヒヒッ。」

「あっ、ずるいぞ!」

 空気の読めないコウモリちゃんに、もちろん抗議するゴマちゃん。思わず首根っこをむんずとひっつかまえちゃった。でも、その手をすぐに離しちゃう。だって、コウモリちゃんがくすくす不気味に笑うと、いきなり口を自分の顔よりも大きく開けたんだもの。食べられる~!って思ったかも。

 ビビったゴマちゃんはプロングホーン様にしがみついちゃった。でも、そのプロングホーン様の顔は……なんと黒いセルリアン!しかもそいつは、みるみるでっかくなっていく。あまりのことにビックリして固まっちゃったゴマちゃんにセルリアンが……。

「うわああああああああああ!」

 

 ゴマちゃんははっと目が覚めたよ。そこは真夜中の森。こんな夜中に散歩でもしてたのかな?まさかね。悪夢にうなされていたゴマちゃんは慌ただしく、がばっと起き上がったよ。すると目の前に……。

「どうしたのゴマちゃん?」

 ゴマちゃんのお友達、帽子がキュートなともえちゃんが突然現れた。

「うわああああああああああ!」

 ゴマちゃん、思わず本当の意味で飛び上がっちゃって木の枝にからまっちゃった。もがいてたら取れたけど、落っこちた時の打ち身のアトがお尻にうっすら残っちゃったし、枝で人差し指を切っちゃったみたい。

「こりゃ大変」と焦るともえちゃん。急いでかばんの中のばんそうこうを取り出して、ゴマちゃんに貼り付けた。うーん、持っててよかったばんそうこう。

「ゴマちゃん大丈夫?痛くない?

「い、いたくない。いた、く、いたくない……。」

 いたくない……。と言いつつ、ゴマちゃんの顔は半べそ。もうガマンの限界とばかりに、半べそ鳥はともえママのお胸に飛び込んでわあわあ泣き始めちゃった。この大騒ぎぶりに、灰色かわいいイエイヌちゃんも気になってのぞきにきたみたい。

「ああああああああん!こ、こわ、こわかったよおおおおおお!」

「ゴマちゃん……。」

「よっぽど、こわい夢みたんですね……。」

 いつまでも泣き止まないゴマちゃん。ともえちゃんとイエイヌちゃんは気の毒に思って、ゴマちゃんを泣かせてあげたの。好きなだけね……。

 

 それからずっと泣き続けていたゴマちゃんは、突然はっと目を覚ました。夢の中で寝ていた自分の見ていた夢を見ていた夢を見てたってことかな。うん、わけわかんないや!

 ここはロッジ『キツネノアリヅカ』。蟻塚を見学したい子はここを拠点にしてプランを考えるみたい。

 そう、ゴマちゃんはロッジの部屋のふかふかベッドで寝ていたんだ。そんなステキな空間であんな変な夢を見てたなんてかわいそう。しかもあの夢、なんだかゴマちゃんの頭にしっかり焼き付いちゃったみたい。しばらく残った悪夢の余韻にぶるぶる震えちゃった。これまたかわいそう。

「あ、ゴマちゃん起きたー?おはよー!」

 と、朝から元気な声であいさつしながら部屋に入ってきたのはともえちゃん。イエイヌちゃんとラモリさんも一緒に入ってきた。ゴマちゃんおねぼうさんだったんだね。

「ご、ごめん。みんなもう起きてたのか。」

「こちらこそすみません。私、起こそうと思ったんですけど、あんまり熟睡していましたので。」

 申し訳なさそうなイエイヌちゃん。熟睡した結果あんな夢を見たなんてあんまり言いたくないねぇ。そんな悪夢を振り払うかのように、ゴマちゃんはうーんと一つ伸びをしたよ。

 ま、そんなことより今日の予定についてだね。みんなはラウンジでジャパリまんを食べながら話し合いをしたよ。このロッジの支配人のオオミミギツネちゃんによると、スケッチに描かれていた、光が星のようにぴかぴかまたたく黒い岩は、どうも蟻塚に住み着いたヒカリコメツキっていう虫が夜中に光ったものみたい。

「雨季ノ最初ノ雨ヲ合図ニ、シロアリノオスメスハ結婚飛行ヲ行ウヨ。コレヲオビキ寄セルタメニ、ヒカリコメツキハ、塚カラ頭ヤ胸ヲ出シテ発光スルヨ。コノ絵ハ、ソノ狩リノ様子ヲ描イテイルンダネ。」

 というのはラモリさんの弁。へぇ~、けっこう頭のいい虫っているんだねぇ。で、それを見るためには夜中にその蟻塚に着くようにしなきゃいけないみたい。そのためにオオミミギツネちゃんに頼んであと3日泊めてもらえるようにお願いしたみたいだよ。ジャパリまん8個で。

「昨日は見れなかったから、今日は見れるといいね!」

「昨日……。」

 ゴマちゃんはなんとなく色々思い出したみたい。昨日はあの地下にあった迷路を使って行ってみたけど、とうとう見つけることができなくて、くたびれもうけで帰ってきたってこと。途中で休憩してたらうっかり寝ちゃったこと。びっくりして飛び上がって、手を切っちゃったこと。ともえちゃんにばんそうこうを貼ってもらったこと。

 ゴマちゃんすぐに手を見てみたよ。そうすると確かに、人差し指にばんそうこうが貼ってあった。なるほど、これで間違いないみたい。

 ゴマちゃんはちょっぴり照れながら昨日のことを振り返ったよ。

「いやー、昨日はちょっとどうかしてたよ。ちょっとこわい夢見たくらいで泣いちゃってさ~。」

「夢?」

「泣いてた?」

 不思議そうにたずねるともえちゃんとイエイヌちゃん。二人が言うには、昨日のゴマちゃんは居眠りはしてたけど、泣いてなんていなかったって言うんだ。あれ?じゃあ、あれは夢だったのかな?

 夢で泣いていた可能性について、ラモリさんの分析によると。

「激シク泣ク夢ハ、良イ暗示トサレテイルヨ。君ヲ悩マセテイタ問題ガ解消サレ、状況ガ大キク好転スル前触レカモシレナイネ。タダ、泣イテ起キテイタ場合ハ、強イストレスヲ感ジテイタリ、感受性ガ高マッテ、他ノ誰カノ苦シミヤ悲シミヲ受ケ取ッテシマッタノカモネ。」

「あ、でもでもそれって、今度はちゃんと手がかりが見つかるかもってことだよね?」

「きっと、そうですね。いいことだけ考えましょう。」

「そんな都合よく行くのかよ……。」

 ゴマちゃんは半信半疑。ま、何事もやってみなきゃわかんないよね。ってことで、今夜もがんばってね~。キヒヒ。

 

 この日はジャパリバイクに乗って正攻法のルートで蟻塚群に当たってみるみたい。昨日は歩きで来たせいで、散々迷った挙句見つからなかった上に疲れ放題だったからね。しかもこのバイクは自動で充電してくれるから夜でもスイスイ。こりゃ楽だね。それにラモリさんに運転してもらってる間は、景色を見ながら走れるよ。カイテキカイテキ~。出かけたのは夜がだいぶ近づいて薄暗くなってきた辺り。これなら、光る蟻塚を見つけられるかもね。

 ハイキングコースを楽しくドライブな雰囲気のともえちゃんとイエイヌちゃん。鼻歌まで歌っちゃってる。ふふんふふんふ~ふ~ふふ~ん、ふふふんふふふんふ~ん。

 だけど、でも、ゴマちゃんはなんだかユーウツそう。なぜかと言うと、なんかやたらと夢に見たものが目に入ってきちゃうみたい。たとえばその辺のネズミを見た時なんて。

「な、なあ!あのネズミやけにデカくないか?」

「え~?普通のネズミじゃない?よく見てなかったよ。ラモリさん見た?」

「反応ハアッタヨ。チョッピリ太ッテルネ。野生ノクセニ、イイモノ食ッテルンダロウネ。」

 他にもカラスを見た時なんてこんな感じ。

「おい!あそこにカラスがいたぞ!」

「カラス?声すら聞こえないよ。ね、ラモリさん?」

「カラスハ夜鳴カナイヨ。寝テイルカモシレナイカラ、オトナシクシヨウ。」

 しまいにゃ木を見た時なんて。

「おいおい!あの木なんで枯れてんだよ~!」

「ジャパリパークに枯れた木なんてあるわけない……よね?ラモリさん?」

「サンドスターノ性質ニヨッテ、保存性ヤ生存力ガ高マルシ、天気モコントロールサレルカラ、コノ辺リデ枯レ木ハナカナカ見ラレナイヨ。見ツケタラ逆ニラッキーダネ。」

「ラッキーだってさ、ゴマちゃん!やったね!」

「やったじゃねーよ!ほら、幹にケムシが!」

 もうここまできたら、ただのノイローゼじゃん。ゴマちゃんちょっと落ち着いたら?と言ってもゴマちゃんに聞こえるわけがないけど。

 ゴマちゃんは目を一段と光らせ、周りを落ち着きなくギョロギョロと見て回ってる。あまりにもビンカンすぎて、とうとう木の枝に逆さづりで停まってるとんでもないものを見つけてしまったの。

「ひゃあ~!あ、あ、あのフレンズ……!」

「えっ、えっ、フレンズ!?どこどこ!?めっちゃ絵になる!?」

 目をめっちゃ輝かせるともえちゃん。あなたも落ち着こうね。

 ゴマちゃんが見つけたフレンズはご存知ナミチスイコウモリちゃん。あの夢に出てきた、真っ黒なかわいいフレンズだよ。キヒヒ。

 ナミチスイコウモリちゃんは木の枝を離れると、飛びながら近づいてきたよ。どこに?当然ゴマちゃんに。

「キヒヒ。私はナミチスイコウモリ。あなたはだあれ?」

「な、ナミ、ナミチスイ、コウモリ……。」

 ゴマちゃんからアブラ汗がダラダラ流れてきた。

 あの悪夢に出てきたコウモリちゃんが、バイクを追いかけながらふらふら飛んでるんだから、ゴマちゃんの神経は全く落ち着かなかったみたい。

 あの子は「そこにコウモリのフレンズが!」だの「聞こえるだろ、ほら!」だの言うけど、ともえちゃんの目の前には何にも見当たらないし何も聞こえない。ともえちゃんの視線に入らないようによけながら飛ぶなんて、コウモリちゃんいけず~。あと、コウモリって人間には聞こえない超音波を発することができるらしいよ。

「ずるいぞ!フレンズなら普通にあいさつしろよ!」

「やだね~。私けっこうひねくれてるから。キヒヒ。」

 ゴマちゃんが相変わらずわけわかんないことばかり言うから、ともえちゃんもとうとう本気で心配し始めちゃった。ラモリさんに運転を任せて、まず、熱でもあるのかと手を当ててみる。けど、特に変わった感じはなし。これは、スキンシップを欠かさないともえちゃんならではの判定方法だね。

 ゴマちゃんは正気であることを何度も訴えるけど、ウソばっかり言うから信用してもらえず。

 まるで要領を得ないから、ともえちゃんはついに、ゴマちゃんとイエイヌちゃんの席を変えようとまで言い出しちゃった。でも、ゴマちゃんはイエイヌちゃんでピンときた。イエイヌちゃんの嗅覚に助けられたことがあったのを思い出したんだね。

「そ、そうだ!イエイヌ!ニオイに敏感ならナミチスイコウモリの正体を見破ってくれよ!」

 と、イエイヌちゃんに声をかけるけど、そのイエイヌちゃんはぐーすか寝ていて無関心。あらら、昨日の疲れかしらね。心配したコウモリちゃんは、「大丈夫~?」とばかりにイエイヌちゃんの肩や頭をトントンたたくけど、まったく無反応。ぐっすりおやすみだね。その一方でゴマちゃんは「触るな!」「近づくな!」の一点張り。同じフレンズなんだから心配したっていいでしょ~?

 あまりにもゴマちゃんの奇行が目立つので、ともえちゃんはジャパリバイクを一旦停車。ゴマちゃんの席とイエイヌちゃんの席を入れ替えようとするんだけど、またしてもゴマちゃんが大暴れ。

「もういいよ!チンタラしてられるか!おれはもうこんな森、一秒だっていられないんだ!うわあ~~!」

 なんだかぎゃあぎゃあわめきながら、ゴマちゃんはハイキングコースを走り抜けていっちゃった。ロードランナーってやっぱりすっごい速いんだね。

「ゴマちゃん……。」

「なんだか大変そうだね~。キヒヒ。」

 心配そうにゴマちゃんを見送るともえちゃん。お節介焼きのあなたには、こんなのほっとけないよね。

 かくして、ともえちゃん達はゴマちゃんを追いかけるようにジャパリバイクを走らせるのでした。

 

 必死に逃げてきたゴマちゃんがやってきたのは、サバンナの例の蟻塚群。本来ならスケッチに描かれた蟻塚を探しに行くところだけど、今のあの子にはそれが不気味な小山にしか見えないみたい。コウモリちゃんがまだ追いついていないうちに、落ち着ける場所を探してあっちへばたばた、こっちへばたばた走り出しちゃった。

「あそこ……誰かいる。あそこは……こわい。あそこは……あっ!」

 ゴマちゃんはノドにジャパリまんが詰まったような顔をして青くなっちゃった。どうして?

 答えは……夢の中に出てきたぴかぴか光る黒い岩とご対面してしまったからなのでした~!正確には、ヒカリコメツキが住み着いた蟻塚だっけ?

 あの悪夢がよみがえる……。ショックと恐怖と逃げたい気持ちでふらふらとめまいを起こしちゃうゴマちゃん。さらにそこへ、どこかから聞こえてくる声が追い打ちをかけてくるよ。

「ねえ、遊ぼうよ……。」

「私と遊ぼうよ……キヒヒッ。」

「後ろ向いてよ……。」

 その声はとっくに聞き覚えがある。あのナミチスイコウモリちゃんだ。もう追いつかれちゃってたんだ~。この声がすっかりトラウマになっちゃったゴマちゃんは、自分に逃げ場がないことを悟って、ふらりと倒れこんじゃった。

 ねー。こんなところで寝ちゃだめだよ?まだまだお楽しみはこれからじゃない。ねー早く起きて。起きてコウモリちゃんといっぱい遊んであげてよ、ゴマちゃん!キヒヒ!

 

 

 

続く




最初はもちろんフウチョウコンビにしようとしましたよ。でも、鳥は基本的に幸運のシンボルなのでホラーには向かない気がしました。
そこで、吉凶様々な意味を持っていてイメージにも合うナミチスイコウモリちゃんにスポットを当てることにしたのです。
そして持て余したフウチョウコンビは――。

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