けものフレンズR 足跡を辿って   作:ナンコツ

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※これは第九話ゆめのなかの続きです。
まだAパートを読んでいない方は、先にそちらをお読みください。

※このお話にはホラー要素が多少含まれています。苦手な方はご注意ください。


第九話 ゆめのなか Bパート

 みんな~、こんばんはこんばんは~。しょせんは夢だなんてタカをくくってたら、夢が現実になっちゃった、なんてことあるかな~?それが吉夢だったならえびす顔だけど、悪夢凶夢だったらムンクでなくても叫んじゃうよね。

 今回、悪夢が現実になりかけている子はゴマすりクソバードことG・ロードランナーちゃんっ!光る蟻塚から始まって最後にセルリアンに……ごにょごにょされちゃうっていう悪夢を見ちゃった彼女。ど~なっちゃうのかな~?

 待ちきれないよね?さっそく続きを教えてあげちゃうよ!キヒヒッ!

 

 夢だけでなく現実でナミチスイコウモリちゃんと出会っちゃったゴマちゃん。コウモリちゃんの悪夢にうなされたことを思い出してばたーんと気絶しちゃいました。気絶しちゃったゴマちゃんはしばらくして、ようやく目を覚ましたの。目を覚ました先にいたのは……。

「うーん……イエ、イヌ……?」

「あっ、気がつかれましたか?」

 なんとイエイヌちゃんがゴマちゃんの介抱をしてくれてたみたい。あれれ?じゃあともえちゃんはどうしたのかな?まあ光る蟻塚でなんとなく想像つくよね?

 そう、ともえちゃんは思い出していたの。忘れていた自分の記憶、昔ここであった思い出を……。

 

 

――月明りと星明り以外にほとんど何も見えない真っ暗闇。ともえは広いサバンナを当てもなくさまよい、蟻塚群に迷い込んでしまった。ともえは自らのうかつさを呪ったがしかし、目の前に広がる光景を見て感動に打ち震えた。

 黒い岩のように高くそびえる蟻塚、その蟻塚が星のようにピカピカと発光する。それはシロアリ達の作った蟻塚をヒカリコメツキが美しく演出する、自然のイルミネーション。この辺りにあるいくつもの蟻塚にもそれが見られた。

 自然が作り出した神秘的な光景をともえは思わずスケッチしてしまった。周りは暗かったが、不思議と手元のスケッチの構図も色鉛筆の色も間違えなかった。美しいものを見たことによって、集中力が研ぎ澄まされたからだろうか。

 スケッチを終えて一段落つくと、疲れたともえはしばし眠りにつく。だが、しばらくしてその眠りは妨げられた。ナミチスイコウモリと名乗るフレンズが、ともえを叩き起こしてしまったからだ。

「キヒヒ。私はナミチスイコウモリ。よろしくね。」

「わあ!あなたはフレンズなんだね!よろしく!」

 ともえはにっこりと笑いながら、ナミチスイコウモリと握手をかわす。

 だが、その瞬間ともえの笑顔は凍りついた。ナミチスイコウモリの顔は一つ目の黒いセルリアンに挿げ替えられていたのだから。しかも、そのセルリアンはみるみる大きくなっていくのだ。

「たっ……たすけてええええええええええええ!」

 ともえは悲鳴を上げながら夜の闇へと消えていった。セルリアンは満足そうに笑っていた。笑っていたのだ。――

 

 また一つ記憶が戻ったともえちゃん。でも、なんだかぶるぶる震えちゃってるみたい。まるでゴマちゃんみたいだねぇ。気になったイエイヌちゃん、あの子に直接聞いてみた。それによると、なんでもナミチスイコウモリと名乗るフレンズと遊んでいたら、突然セルリアンに変身して襲われて、命からがら逃げ出したとか。

 うーん、これが本当ならフレンズがこわくなっても仕方がないかも?でもこれ、なんだかどっかで聞いた気がしない?そう、ゴマちゃんが見た夢とほぼ一緒なんだよね。それを知ったゴマちゃん、またしても体中が総毛だってゾゾーッと背筋が凍るのを感じたみたい。

「や、やっぱりだ……。やっぱりナミチスイコウモリはいるんだよ……。ナミチスイコウモリは実際にいて、おれ達を食べて、サンドスターをいただこうとしてるんだ……。」

「そんなわけないよ~。こわいフレンズなんて今までいなかったじゃない?」

「あいつは別だ!あいつはおかしいんだよ!あいつはおれ達をもてあそんでんだよ!ともえだって思い出したんだろ!?」

 またゴマちゃんがハイキングコースの時みたいな、わけわかめなこと言い始めちゃったよ。とにかくその、ものすごく必死な形相とあまりにも真剣なわめき方に、さすがのともえちゃん達もドン引き。ラモリさんはブルブル震えて「アワワワ……。」なんて言っちゃってる。けっこうこわがり?

 とにかく落ち着かせようと思ったともえちゃんは、スケッチに誘ってあげた。今まではそうすれば落ち着いたのかな?でも、今のゴマちゃんには逆効果で、さらに必死な形相で「早く帰ろう!」なんて言い始めた。光る蟻塚なんて神秘的な光景を前にして「早く帰ろう!」はちょっとひどくな~い?

 全然落ち着いてくれないゴマちゃんをどうするべきかみんなが悩んでいると、ゴマちゃんはしびれを切らして準備体操を始めちゃった。

「もういいよ!あいつの今の狙いはおれだ!おれがオトリになってあいつを引き付けるから!みんなはそこでのんびりしてろよ!」

「ダメですよゴマさん!ばらばらになったら、帰り道が分からなくなっちゃいます!」

 ゴマちゃんのこの穏やかならぬ様子。ともえちゃんはもう、なりふり構わってなんていられなかった。有無を言わさず、ゴマちゃんをそっと抱き寄せた。いつもの無遠慮なハグじゃなくて、やさしくゴマちゃんを抱きしめて落ち着かせてあげたの。

「大丈夫、大丈夫だから。深呼吸して。ほら、落ち着いて?大丈夫大丈夫……あたしに、めっちゃ任せて?ね?」

 とにかくともえちゃんは、ゴマちゃんに落ち着いてほしくて必死だった。

 いつも一歩引いた目で見つつも、たまにおどけてみんなを楽しませるムードメーカー。彼女はそんなあの子が大好きだったから。だから、これ以上あの子がこわれていくのを見てられなかったんだね……。

 でも、ゴマちゃんにはそのやさしさが逆に自分を大きくたきつけちゃったみたい。

『いいかロードランナー。真の勇気というものは、極端な臆病と向こう見ずの中間にいる。お前はちゃんと勇気を持って走れるのか?』

 夢の中に出てきたプロングホーン様の声があの子の頭に鳴り響いた。そして、ばんそうこうの貼られた指を眺めて……ああ、なんて悲しく強い目なの。

「ともえもイエイヌも、ラモリだって……。みんなみんな……みんな、あいつにだまされてる!しっかりしてるのはおれだけだ!だから、みんなはこの、ロードランナー様が護るんだ!」

 ゴマちゃんはともえちゃんを振り払って、どこかへ走って行ってしまったの。ともえちゃんもイエイヌちゃんも、必死で叫んで呼び戻そうとしたけど、ゴマちゃんは聞かなかった。みんなみんな、互いが互いを思いやってるからこんなに必死になっちゃって……。

 もう!全部コウモリちゃんのせいじゃない!からかいすぎだよ、どうしてくれんのこれ!?

 

 みんなをできるだけ遠ざけようと必死で走るゴマちゃん。どこまで走ったんだろう?振り返ろうとしたその時、ぐらぐらぐら~っと地面が揺れ始めた。地震だ地震だ、地震だよ~!

 あのサンドスター火山の噴火のせいなのかはわからない。とにかく立っていられないって感じの揺れだった。

 けど、あの子はあわてなかった。あわてずにどうするべきか考えたの。もうさっきまでの、怯え切った鳥ちゃんじゃないんだね。

 周りにある木を見てみると、木はあまり地震に動じていないみたいだった。実はね、しっかりした木にしがみつけば、大抵の地震は切り抜けられるそうだよ。

 ゴマちゃんは安全そうな木の近くに避難しようと考えた。すると近くに、幹が太めの、しっかりした木が立ってたよ。まるで「私につかまって」と言わんばかり。

 ゴマちゃん、迷わずそれに向かった。ぐらぐら揺れてて怖かったけど、必死で手足を動かして木にたどりついた。そしてありったけ力をこめて木にしがみついた。自分を助けるために地震に耐えるそれが、なんだかともえちゃんのように見えてきた……気がしたのかもね。

 やがて地震がおさまると、あの子はほっとしたように力をゆるめてぺたんと座り込んじゃった。

するとその木の上から聞き覚えのある笑い声が聞こえてきたよ。

「キヒヒ。元気そうだね。」

「ナミチスイコウモリ……!」

 ゴマちゃんは厳しい目をして上をにらみつけた。その先には、逆さづりになったナミチスイコウモリちゃんがいた。でも、その様子はちょっと変わっていたの。あの悪夢や追いかけられてた時は真っ黒な格好だったのに、今度は白いセーラー服にグレーのスカート、ピンクのタイツ。白多めな明るいコーデになってたよ。

「まあまあ、そんなにこわい顔しないでよ。私だって反省してるんだからさ。」

「ふん。お前ロードランナー様と遊びたいんだろ?狩りごっこしてやるから、覚悟しろよ。」

 と、ゴマちゃんここぞとばかりに空を飛んでコウモリちゃんを捕まえようとした。ま、そう簡単に捕まりはしないけどね。キヒヒ。コウモリちゃんはひらりとかわして、ふらふらどこかへ飛んでった。ゴマちゃんは迷わず追いかけた。

 あいつをこらしめれば、悪夢に打ち勝ったことになるし、ともえちゃん達も安心させられる。それがここまで勝手なことをしてきた、ゴマちゃんなりのしょく罪のつもりだったの。

 追いすがるゴマちゃん、逃げるコウモリちゃん。二人のデッドヒートは続いたよ。

「ナミチスイコウモリ、お前はかわいそうなやつだよ。こんな形でしか遊べないなんてさ。」

「キヒヒ。ほんと因果なもんだよね。私だってフツーに遊びたいのにさ。」

「おれはもう、お前なんかこわくないからな!」

 そう吐き捨てたゴマちゃん、とうとうコウモリちゃんをほら穴まで追いつめた。

 疲れたコウモリちゃんはほら穴の中へ逃走。まだもう少しだけ余裕のあるゴマちゃんはほら穴の中へ入っていった。もう、あの子に恐怖なんて感情はなくなっちゃったみたい。

 

 真っ暗なほら穴の中に逃げ込んだコウモリちゃん、それを追いかけるゴマちゃん。互いにどんどん先へ進んでいくけど、やがて行き止まりの大部屋に入っちゃった。

 ここは行き止まりのはずだけど、あいつの姿はどこにもない。ゴマちゃんは思わず「しまった!」って舌打ちしちゃう。

 元は夜目の子だけど、精いっぱい周りをキョロキョロ見回したよ。でも、例によって上はお留守だった。だめだよ見逃しちゃあ。上からガバッと襲われちゃうんだから。こんな風に。

「えいっ。つかまえた~。」

「ひっ!」

 コウモリちゃんにしがみつかれて一瞬、ビクッとなるゴマちゃん。でも、コウモリちゃんの様子がちょっと違ったの。彼女はしんみりした様子で、ゴマちゃんのほっぺをペロッとなめてささやいた。

「ごめんなさい。」

 申し訳なさそうにか細い声を出して、彼女はちゅっとキスをしてあげたよ。

 でもゴマちゃんはちょっと複雑な気分みたい。あんなにこわい思いさせておいて、今更謝られても……ちょっと困るかもね~。

 そこでゴマちゃんは、コウモリちゃんと向き合いながら、ちょっとした条件を出したよ。

「……謝るくらいなら、もうあんな夢見せんなよな~。」

「……どうしよっかな~。キヒヒ。」

 いたずらっぽく笑うコウモリちゃん。やれやれな顔して肩をすくめるゴマちゃん。ゴマちゃん的には許せないんだろうけど、コウモリちゃんは遊んでただけなんだよね。一応反省はしてるみたいだし。これ以上誰にも迷惑をかけないなら、許してあげないこともないかな~、とゴマちゃんは思ってた。ま、何とか丸く収まりそうな感じ……かな。

 でも。この空間に割って入るオジャマ虫が、天井を壊して突然現れた。単一の色の無機物のような体に一つ目。その姿は紛れもなくセルリアン。そいつは、球体の奴じゃなくてヘビのように細くて長くておっきくて、黒い姿をしていたよ。

 いちいち戦ってられないから、当然二人は逃げた。そりゃそうだよね。でも、セルリアンの動きは予想以上に速く、だんだん距離が縮まっていく。ピンチ!ゴマちゃんは息も絶え絶え。そのせいか、石にけっつまづいて転んじゃった。もうダメかと目をつむった……その瞬間!

 コウモリちゃんは転んだゴマちゃんをキャッチ!すると、思いきり遠くに向かって放り投げた。なんで……?ゴマちゃんは驚いた。でも、その視線の先にいた彼女は、笑ってた。

「元気でね……また遊んでね。」

 ゴマちゃんには、そんな声が聞こえた気がした。その直後、コウモリちゃんは食べられた。セルリアンの中に取り込まれちゃった。コウモリちゃんは虚ろな顔でセルリアンの中を漂う子になっちゃった……。

 でも、セルリアンはコウモリちゃんを取り込んだ時、少しだけ動きを止めた。ゴマちゃんはこのスキに走り出した。とにかく、走って走って走った。

「(ともえがいれば、きっとなんとかしてくれる!)」

 ゴマちゃんの考えていることはそれだけだった。今ともえはどこにいるのかとか、さっきまで許さないと思ってたのにとか、そんなのは頭から吹っ飛んでた。

 あの子は今、コウモリちゃんを助けることだけ考えて行動している……。それは、向こう見ずではなく、ましてや臆病でもない。自分の勇気を奮い立たせて、精いっぱいやれることをやろうとしていたの。理屈で動いているんじゃない、自分の心に従ってるんだよ。

 ゴマちゃんはほら穴の先の光に向かって、とにかく一生懸命に走った。そしてようやくほら穴を抜け出したと思った、次の瞬間!

 セルリアンが上から降ってきた。セルリアンに回り込まれた。セルリアンの中にはあのコウモリちゃんが漂ってた……。追いつめられたゴマちゃんはそのままセルリアンに……。

「うわああああああああああ!」

 

 ゴマちゃんははっと目が覚めたよ。目の前にはともえちゃんの顔。自分の頭はともえちゃんのヒザの上。どうやら、ともえちゃんにヒザ枕をしてもらってたみたい。うらやましぃ~。

「あれ?ここは……?」

「目が覚めた?ここ、あの迷路のほら穴の前だよ。」

「見てください。あの蟻塚、見覚えありますよね?」

 ゴマちゃん、イエイヌちゃんの指差す方を見てみたよ。確かにあるね、前に見た蟻塚が。スケッチの場所を見つけたかどうか聞いてみたら、まだみたい。ひょっとしたら、バイクを降りて走り去った後、転んで気絶でもしたのかな?そこをともえちゃん達が見つけてくれた。……ってことは、ここまでの流れ全部夢?

「いや、でも……夢でよかった。夢でよかったんだあああああ。」

 ゴマちゃんはともえちゃんに抱き着いた。ともえちゃんの胸の中でわあわあ泣いちゃった。でも、ともえちゃんはさっきのゴマちゃんの情緒不安定ぶりを見てたから、ちょっとほっとけなくて。だから、そのまま泣かせてあげたの。

 やさしいともえちゃん。ゴマちゃんといつまでも仲良くしてあげてね。キヒヒ!

 

 

 

 

 ここはロッジ『キツネノアリヅカ』。ハイキングコースは蟻塚群にまで続いており、その途中にあるこのロッジでは、蟻塚を見学したいフレンズがプランを考える拠点となっているようです。

 ゴマちゃんはロッジの部屋のふかふかベッドで眠っていました。窓を見た限りでは少し遅めの朝ですが、どうやら、ようやくお目覚めのようです。

 

「あ、ゴマちゃん起きたー?おはよー!」

 

 と、朝から元気な声であいさつしながら部屋に入ってきたのはともえちゃん。イエイヌちゃんとラモリさんも一緒に入ってきました。

 

「わ、わりぃな。みんなもう起きてたのか。」

「こちらこそすみません。私、起こそうと思ったんですけど、あんまり熟睡していましたので。」

「ごめんごめん。じゃあ、今日こそはスケッチの手がかり見つかるといいな~。」

 

 と、ゴマちゃんが言った途端、場の空気が凍りついてしまいます。何かマズイことを言ってしまったのでしょうか?

 

「ゴマちゃん……。光る蟻塚なら、昨日見たでしょ?」

「ナミチスイコウモリっていうフレンズさんがセルリアンに変身して、それに襲われる夢を見たって言ってましたよ。」

 

 そうだったっけ?ゴマちゃんは混乱してしまいました。なぜか昨日は手がかりが見つからなかった……そんな印象があったのです。そもそもナミチスイコウモリというフレンズは知らないし会ったこともないはずなのに、なぜか自分は詳しく知っている気がしています。

 何やらゴマちゃんの様子がおかしいため、三人は心配そうに見守っています。

 

「あいつは……。」

「?」

「ナミチスイコウモリは……かわいそうなフレンズだったんだ。夢の中でしか遊べなくて……イタズラばかりして……でも、ホントは悪気がなくて。え~と……悪いことした自覚をしたら謝れる、素直なやつで……。」

「え!?ゴマちゃんってナミチスイコウモリちゃんに会ったことあるの!?その子、めっちゃ絵になるフレンズなの!?」

 

 ともえちゃんはがぜん、きらきらと目を輝かせます。記憶の中ではひどい目に遭わされていたはずですが、どこかへ吹っ飛んでしまったようです。

 

「いや、なんとなくそんな印象があるだけだよ。」

「え~?でも、その割にはくわしいじゃない?ラモリさんより。」

 

 というともえちゃんの発言の後、すぐさまラモリさんによる解説が入ります。

 

「ナミチスイコウモリハ、コウモリノ中デモ珍シイ吸血コウモリノ一種ダヨ。哺乳類ヤ家畜ノ血ヲ吸ッテ生活スルヨ。社会性ノアル動物デ、100匹ヲ超エル群レト共ニ暮ラシ、食事ニアリツケナカッタ仲間ニ、血液ヲ分ケテアゲルコトモアルヨ。コレヲシナイト、イツカ食事ニアリツケナカッタ時ニ、誰モ助ケテクレナクナルソウダヨ。」

「コウモリさんって大変なんですね。」

「ふ~ん……。」

 

 ラモリさんの解説によると、ゴマちゃんの言っていた『悪いことをしたら謝れる』は案外当たっていそうな性格のようです。でも、彼女にはそれ以上のことは思い出せません。もやがかかったようにはっきりとしないのです。しかし、それは夢を見た時にありがちなことです。さっき見た夢をはっきり思い出せないのは普通の事なのです。なので、深く考えることはやめたようです。

 ゴマちゃんは気を取り直して、今後の予定についてともえちゃんに聞きます。

 

「なあ、今日はどーすんだ?」

「うーん……。ナミチスイコウモリちゃんのことについて、ちょっと聞いてみたいかな。」

「昨日はすっごく疲れちゃいましたからね。」

「そうそう。でも起きたらスッキリしちゃったもんね~。なんでだろ?」

 

 ともえちゃんもイエイヌちゃんも首をかしげています。どうやら、昨日からみんなの調子がおかしかったようです。これは偶然なのでしょうか?それとも何かの原因で……?

 

 

 ロッジのラウンジには、机とイスがたくさん置かれていて、宿泊客以外でもくつろげるようになっています。さらに新鮮なお水も用意されており、おしゃべりにはもってこいです。ここではアードウルフちゃんが休憩をしているようです。

 彼女はハブちゃんの腕をツルで繋いで逃げられなくしています。どうやら、ハブちゃんにおしおきをしている最中のようですね。オオミミギツネちゃんの指示でしょうか。

 ナミチスイコウモリちゃんについて深く知りたいともえちゃんは、アードウルフちゃんに話を聞くことにしました。

 

「ナミチスイコウモリ……ですか?それは、おとぎ話ですね。」

「えぇ?どうして?」

「ナミチスイコウモリは、この辺りでは有名な架空のフレンズですよ。いるかもしれないけど、実際にはいません。」

「どうして実際にはいないのに、有名なのですか?」

 

 イエイヌちゃんの疑問ももっともでしょう。誰も会ったことがないのになぜ有名なのでしょうか?それには理由があるはずです。

 その理由については、ハブちゃんが語ります。どうやら、迷路の道順を忘れちゃうハブちゃんでも知っていることのようですね。

 

「ナミチスイコウモリは悪夢を見せることで有名なんだよ。ものすごい悪夢を見たら、それはナミチスイコウモリのしわざだって言っておどかすんだよ。」

「ここのロッジにある昔の日記帳にも、『ナミチスイコウモリのフレンズが夢に出てきた』って書いてありましたよ。」

「じゃあ、あたしが会ったナミチスイコウモリちゃんはただの夢だったのかなぁ?」

 

 夢に出てくるナミチスイコウモリ、という情報からこのようなことが推測されます。

あの夜、蟻塚をスケッチした後ともえちゃんは眠ってしまいます。その夢でナミチスイコウモリちゃん……フレンズにだまされて襲われる夢を見てしまった。さらに、ともえちゃんはアムールトラちゃんにも襲われています。だから以前のともえちゃんはセルリアンだけでなく、フレンズも怖がっていたのでしょうか?

 事実ならとんでもない不仕合せですが、それなら今までの記憶にも納得がいきそうです。

 

「世の中には、こわいフレンズさんもいるんですね……。」

「なら、ともえさんは何か不幸な出来事に巻き込まれたのかもしれませんね。」

「え?ど、どうして?」

 

 アードウルフちゃんは深刻な顔をしながらおどろおどろしくしゃべります。なるほど、こうしておどろかすのがナミチスイコウモリちゃんの怪談話のミソのようです。

 

「真っ黒なナミチスイコウモリの見せる悪夢は、未来に起こる悪い出来事の暗示と言われています……。あの夢を見たフレンズはみんな、ひどい目に遭っているそうですよ……。だからきっと、ともえさんにも……ぐわーっと!」

「きゃー!」

 

 アードウルフちゃんの迫真の演技にともえちゃんは興奮。悲鳴をあげて反応してあげました。

 そこへ、ハブちゃんが再び横やりを入れます。

 

「でも、たまに白い姿で出てきた時はいいことあるってさ。見たことねーから知らねーけど。」

「白いナミチスイコウモリさんも出てきてくれたらよかったですね。」

 

 四人はナミチスイコウモリちゃんの話題で大盛り上がりのようです。

 しかし、ゴマちゃんにはまだ気になることがありました。指にばんそうこうをつけていたような気がしていたのですが、今朝の手はつるつる。何もついていません。

 

「なあ。おれ、ばんそうこうしてなかったっけ?」

「え~?してないよ。ばんそうこうはあたししか持ってないし。」

「一応調べてみますか?」

 

 イエイヌちゃんにうながされて、ともえちゃんはかばんの中身を改めます。そこにあったばんそうこうを取り出して確認しますが、使った形跡はまるで見当たりません。

 

「ほら、まだ一枚も使ってないよ。気のせいじゃない?」

「ダメですよゴマさん。夢と現実をごちゃ混ぜにしては。」

「わりぃ。」

 

 イエイヌちゃんにたしなめられたゴマちゃんは、照れ隠しのように頭を掻きながら謝りました。

 やはり夢と現実がごちゃ混ぜになっていたのでしょうか?でも、今までゴマちゃんが生きてきた中でそんなことは一度たりともありませんでした。それだけリアルな夢を見たということかもしれません。ですが、なぜそんなリアルな夢を見ていたのか?どんな劇的なことが起こればそんな夢を見るのか?ゴマちゃんにはまったく見当もつきませんでした。

 それでも、ゴマちゃんにはかすかに覚えていることがあります。ナミチスイコウモリちゃんがどんなフレンズなのかということ、自分の夢はそれほど悪いものではなかったこと、そして『真の勇気というものは、極端な臆病と向こう見ずの中間にいる。』ということ……。

 でも覚えのない夢のことをいくら考えても仕方がありません。ゴマちゃんは話題を変えようと、今後の予定について再びともえちゃんに聞きます。

 

「で、次はどこ行く?」

「うーん……まだ分からないスケッチが二つあるから、ここで聞き込みかなぁ。」

「四角い箱みたいな所と、黒い島ですよね。」

「……。」

 

 だんまりなラモリさんは放っておいて、イエイヌちゃんはスケッチブックを確認しました。

 どちらも周りにちょっとずつ木があるようですが、木なんてどこにでも生えています。なんならロッジの周りにだって生えています。これだけでは手がかりがつかめずお手上げ状態です。

 ともえちゃん達が大弱りしていたところに、オオミミギツネちゃんがラウンジへやってきました。今は朝なので受付をしていたはずですが、どうしたのでしょうか?

 

「ともえさん、お客様があなたにお会いしたいそうですよ。」

「おきゃくさま?」

「ええ。帽子を被った緑色の髪の方とネコ耳のフレンズの方が……。」

 

 帽子を被った方とネコ耳のフレンズ。この二つにともえちゃんは覚えがあります。そう、ゴリラさんから聞いたヒトの特徴に似ています。

 

「ともえさん、ひょっとして!?」

「うん!ゴリラさんの言ってたヒトかもしれないね!」

「行こうぜ!」

 

 ともえちゃん達は我先にとラウンジを出て受付へと向かいました。

 

 

 受付にやってくると、そこに立っていたのは確かにヒトのフレンズと思しき子と赤いネコ耳のフレンズでした。

 ヒトの方はともえちゃんの被っている帽子と似たものを被っており、しかも髪は緑色です。何も知らない人からしたら間違えられてしまいそうなくらい二人は似ていました。

 

「あっ……?」

 

 ともえちゃんと謎のヒトの二人は目が合います。

 

「やっと会えたね……。」

 

 謎のヒトはともえちゃんに近づきます。

 

「ヒトのフレンズ……。」

 

 その子は迷いなくはっきりと断言しました。

 この子はともえちゃんのことを知っているのでしょうか?ともえちゃんとはどんな関係にあるのでしょうか?そして、なぜともえちゃんに会いたがっていたのでしょうか?

 謎に包まれていたともえちゃんの素性が今、明かされようとしています。

 

 

 

終わり




ホラーのつもりがゴマちゃん成長物語になってしまった……と思ったらやっぱりホラー?という世にも微妙な物語回でした。
あと3話かぁ……。そろそろ伏線を回収しなきゃ。
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