けものフレンズR 足跡を辿って   作:ナンコツ

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※この回はけものフレンズ2と性格が違っているキャラがいます。
そちらが好きな方は注意してお読みください。


第十話 けんきゅうじょ Aパート

 ここはロッジ『キツネノアリヅカ』。ハイキングコースの途中にある大きめの宿泊施設です。森の中にある静かなこのロッジで、少し騒がしい事件が起ころうとしています。

 ともえちゃん達が出会ったのは、ともえちゃんと同じ羽根つきの帽子をかぶった緑色の髪の子。しかも、ともえちゃんと同じく目の色が左右で違います。服装は半袖の青いベストに黒いインナー。足首が見える程度のグレーの長ズボンに水色のスニーカーを履いています。顔はともかく、格好や髪色など細かい特徴を見ればともえちゃんにそっくりです。

 もう一人は哺乳網ネコ目ネコ科カラカル属のカラカルちゃん。襟足のはねた赤っぽいオレンジの髪に黒い耳。服は白いノースリーブシャツを着込み、赤めのオレンジの尻尾に合わせたロンググローブとスカートとニーソックスと、暖色系でまとめたコーデが印象的なフレンズです。

 

「やっと見つけたよ。ヒトのフレンズ……。」

 

 緑色の髪の子がともえちゃんに近づきます。

 

「やっぱり持ってたんだね。そのかばんを。」

 

 イエイヌちゃんとゴマちゃんは一瞬警戒しますが、ともえちゃんがあわてて制止します。

 

「えっと……あなたは、だれ?」

「ぼくは……。」

 

 そこまで言いかけたところで突然……。

 きゅるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。どこかでお腹の虫が鳴く音がしました。

 

「……キュルル?」

 

 なんと、ともえちゃんは腹の虫の音を名前だと思ってしまったようです。

 緑色の髪の子は恥ずかしそうな様子で訂正しようとしましたが、考えてみればこれ幸いとばかりにうなずきました。

 

「……うん。ぼくはキュルル。よろしくね。」

「そっか。あたしはともえ。こちらこそよろしく!」

「私はイエイヌと申します。」

「おれはロードランナー様だ。よろしくなっ。」

 

 みんなが自己紹介をする中、カラカルちゃんはキュルルちゃんに心配そうに耳打ちします。

 

「……ねえ、それでいいの?」

「いいんだ。今のぼくに名前なんて意味がないから。」

 

 と、キュルルちゃんはぎこちないほほえみを浮かべながら言いますが、その言葉を聞いたカラカルちゃんは、ちょっぴり寂しそうです。

 しかし、ともえちゃんが不思議そうにのぞきこむと、すぐに寂しそうな表情を拭い、努めて明るい顔で自己紹介をします。

 

「ご、ごめんね。私はカラカル。みんなよろしくね。」

「めっちゃかわいいフレンズ!めっちゃ絵になる~!」

 

 初めてのフレンズを目の前にしたともえちゃんは、いつも通りカラカルちゃんに飛びつこうとしますが、そこをゴマちゃんが羽交い締めにして食い止めます。

 

「おっとォ!話がややこしくなりそうだから後でな。」

「んぐぐぐ……。」

 

 動きを封じられたともえちゃん。もはや、悔しさを噛みしめてカラカルちゃんを眺めるしかありませんでした。

 その一方でイエイヌちゃんは、ともえちゃんと似た容姿をしているキュルルちゃんが気になったようです。

 

「キュルルさん。あなたは何かのフレンズさん……なのですか?」

「ぼくは、フレンズじゃないよ。正真正銘のヒト。フレンズは君達。」

「あたしも……?」

「ぼくの着ている服は、今は流行遅れってラッキーさんから聞いた。」

 

 すると、キュルルちゃんの後ろからラッキービーストが出てきました。こちらのボスはキュルルちゃんのパートナーのようです。

 

「流行遅れのぼくと似た服を着た女の子で、緑色の髪で、左右の目の色が違い、ぼくのかばんとスケッチブックを持っている。ひょっとしなくても、キミはぼくを元にして生まれたフレンズ……じゃないかな?」

 

 ともえちゃんははっと焦りながら、自分の持ち物を見ました。肩に掛けたかばんと手に持ったスケッチブック。これらは長い間自分の持ち物だと思っていました。それが実は盗品だなどとは夢にも思っていなかったのです。

 

「ともえちゃん。キミはぼくのかばんを持ち出したはずだ。それを返してほしい。」

 

 キュルルちゃんは厳しい視線でともえちゃんを見据えます。しかし、中身と言われても入っているのはスケッチブックや色鉛筆の他、ナイフやランプなど取るに足らないものばかり。そこまでにらみつけられるような物を持っていた覚えはありません。……ただ二つを除いては。

 

「ま、待ってください!ともえさんは今、なんにも覚えてないんです!」

「なにも覚えてない?」

「そうだよ!それに、かばんの中身ったって、スケッチブックとかばんそうこうとかナイフとかしか入ってないし。」

 

 イエイヌちゃんとゴマちゃんがともえちゃんをかばいますが、その本人はうしろめたさを感じています。なぜならあのかばんには、二人の知らない、目の前のヒトが怖い顔をしそうな重要そうな物が実際に入っていたのですから。

 

「ちょっと待って。そのかばん、四角いのがいっぱい入ってたはずよ?ね、キュルル?」

 

 キュルルちゃんは無言でうなずきます。『四角いのがいっぱい』という言葉で、ともえちゃんは察しました。自分が取り戻した記憶が正しければ、確かにあのかばんには四角いパステルカラーの物体がたくさん詰まっていたのですから。

 

「ごめんなさい……。確かに入っていました……。」

 

 ともえちゃんは申し訳なさそうに声をしぼりながら白状しました。彼女をかばっていた二人は、ショックと残念な気持ちとが入り混じった複雑な表情をしながらともえちゃんを見ます。

 

「でも、今はもうどこにもありません。どこでなくなったかも覚えてないんです……。」

 

 ともえちゃんはもう訳も分からず泣きたい気持ちでいっぱいでした。自分は大事なものを盗んだかもしれない、しかも中身も紛失しているのです。あのキュルルちゃんの様子を見た感じでは、どう謝っても許してはもらえないかもしれません。ともえちゃんは今、自分は悪い子だったのだという烙印を押され一生を過ごすような、強いショックと罪悪感にさいなまれているのです。

 しかし、ともえちゃんの予想とは裏腹にキュルルちゃんは彼女に視線を合わせ、優しく声をかけます。

 

「ともえちゃん。キミはなにも覚えていないんだっけ?」

 

 ともえちゃんはかたく、ぎこちなく、無言でうなずきます。するとキュルルちゃんはふっと口元をほころばせ、ともえちゃんの肩をぽんと叩きます。その優しい様子にともえちゃんは、少し安心感を覚えました。

 

「……なら、ついてきてほしい。ぼくならたぶん、キミの記憶について色々と話せるかもしれない。」

 

 ともえちゃんは少し戸惑いました。キュルルちゃんの提案は確かに魅力的です。なにせ自分の記憶の手がかりをくれると言っているのですから。でも、かばんを盗んだらしい自分の正体を知ることに不安を感じてもいました。

 すると、先ほどのキュルルちゃんのともえちゃんに対する態度に不満を隠せないゴマちゃんは、ともえちゃんにそっと耳打ちします。

 

「ともえ、いいのか?キュルルって奴、信用すんのか?」

「うん。私、色々知りたい。自分のこととか、かばんの中身のこととか。」

「私はともえさんが行くところならどこへでも。」

「……ま、おれもそうだし。」

 

 本人が行くというのなら、無理に引き止めはしません。ゴマちゃんにも、ともえちゃんが自分の過去に苦しんでいるのがなんとなく伝わっていましたし、全部知ってスッキリしたいというのはゴマちゃんも同じです。

 イエイヌちゃんからも特に異議がないのであれば、残るはラモリさんですが、そのラモリさんはキュルルちゃんのボスとじっと見つめ合っていました。

 

「ラモリさんはどう?」

「……。」

「……。」

「ボス同士仲いいんだな、やっぱり。」

 

 二人の無言を肯定ととらえ、見つめ合う二人を引きはがしながら、ともえちゃんキュルルちゃん達7人はロッジの外へ出ます。

 と、その途中でふとキュルルちゃんは、いつの間にか受付に戻っていたオオミミギツネちゃんのところに戻りました。

 

「オオミミギツネさん、ありがとう。これ、少ないけど。」

 

 キュルルちゃんはポケットからジャパリまんを取り出し、オオミミギツネちゃんに差し出しました。

 

「そんな!お泊りいただいてもいないのに。」

「いいんです。お邪魔してしまったお詫びと、ともえちゃんを呼んでくれたお礼ですから。受け取ってください。」

 

 そういうと、キュルルちゃんはにこやかに手を振り、ロッジを後にしました。

 お詫びとお礼を兼ねてジャパリまん。なんというスマートさでしょうか。自分もあやかりたいと、ともえちゃんは新品のスケッチブックを取り出し、その中のスケッチをオオミミギツネちゃんに差し出しました。

 

「じゃああたしも。どうぞ。」

「まあ!私の絵ですか!いつの間に?」

「えへへ。こっそり描かせていただきました。アードウルフちゃんとハブちゃんもついでに。」

「ありがとうございました。皆さん、またいつでもご利用くださいね。」

 

 オオミミギツネちゃんは満面の笑顔でともえちゃんを送り出します。ともえちゃんもまたにこやかに手を振ってロッジを後にしました。

 

 

 外に停められたジャパリバイクを見たキュルルちゃんは興奮していました。どうやら、バイクに大変な興味を持っているようです。

 

「ジャパリバイクかぁ。かっこいいなあ!」

「キュルルさんは乗り物ないの?」

「あるけど、おっきすぎて狭い道に入れなかったんだ。」

 

 キュルルちゃんはがっくりと肩を落とします。大きな乗り物とは何なのでしょうか?ともえちゃんはすごく気になったようで、先を急ぐべくいそいそとバイクに乗り込みます。

 さてこれから出発……というところでカラカルちゃんが呼び止めました。

 

「待って、キュルル。これ食べときなさい。」

 

 カラカルちゃんが取り出したのはジャパリまん。先ほどお腹を空かせていたキュルルちゃんを案じ、気を利かせたようです。

 

「いいよ。まだ余ってるし。」

「いいから食べときなさいって!お腹空いてちゃ力出ないじゃない!」

「わ、分かったよ。ありがとう。」

 

 カラカルちゃんの勢いに押され、キュルルちゃんはジャパリまんを受け取り、口いっぱいにほおばります。

今のやり取りを見るに、カラカルちゃんは世話焼きな子のようですね。ともえちゃん達はその様子をほほえましく見守りました。その一方で、見られていることに気づいたキュルルちゃんは、なんとなく恥ずかしかったのか、先に歩きだしてしまいました。

 

 

 キュルルちゃんは蟻塚方面のハイキングコースからやってきたらしく、みんなは道の先へと進んでいきます。キュルルちゃんに合わせなければならない都合であまりスピードは出せませんでしたが、それでもともえちゃんの話を聞くだけで時間はつぶせました。

 キュルルちゃん達3人は、記憶を失ったこと、これまでの旅のことなどの色んなともえちゃんの話を聞き入っています。すると前方に突然、巨大な球体に半分くらいの大きさのボールが二つくっついた水色のセルリアンが現れます。

 

「セッ、セルリアンッ!?」

「逃げなきゃ!ラモリさんバックバック!」

「アワワワ……バックシマス、バックシマス……。」

 

 突然のセルリアンとの遭遇に焦ったともえちゃん達は後退しようとしますが、キュルルちゃんは冷静に前に出ます。

 

「待って。あの程度のセルリアンならぼくが何とかするよ。」

「ダメだよ、早く逃げなきゃ!」

「まあ見てなさいって。」

 

 カラカルちゃんも涼しい顔をしています。彼女達にはどんな作戦があるのでしょうか?

 キュルルちゃんはまずセルリアンに飛びかかり、そのふところに潜り込んでしっかりとそれをつかみます。

 

「えいっ!」

 

 セルリアンをつかんだキュルルちゃんは目を閉じ、しずかに意識を集中しました。すると、さっきまで元気に動き回っていたセルリアンは、突然ピタリと動きを止めてしまいました。

 何が起こっているのか分からぬまま見守るともえちゃん達。しばらく待っていると、セルリアンの体がいきなりケイレンを起こし始めました。一つしかない目の焦点は全く定まらずにぐるぐる回り、苦しそうに見えます。

 

「よし、終わった。」

 

 キュルルちゃんは手を放してともえちゃん達の元へ戻ります。その後ろではセルリアンがぶるぶると震え、最後にはぱっかーんと砕けてしまいました。これにはともえちゃん達もびっくり仰天!

 

「ええぇぇーーっ!?」

「セルリアンが……ぱっかーんしちゃいました……。」

「どうなってんの……?」

 

 ともえちゃん達がひどく驚いた様子でぽかんと口を開けています。無理もありません。今まであれだけ倒すのに苦労したセルリアンが、触っただけで砕け散ってしまったのですから。

 キュルルちゃんは一体、何をしたのでしょうか?得意げな様子のカラカルちゃんが、そのヒントを教えてくれました。

 

「どう?驚いた?あれがキュルルだけが使える力、サンドスターRの力よ。」

「サンドスターR?なにそれ?」

「えっと……たしか、元々サンドスターリディムって言って、人工的に作ったサンドスターなんだって。」

「ジンコウってなんだよ?」

「ヒトの手で作ったってことだよ、ゴマちゃん。」

「サンドスターって作れるんですか?」

「作ろうとしたんだ。失敗したけどね。歩きながら説明するよ。」

 

 キュルルちゃんは歩きながら、サンドスターRについて説明します。 

 サンドスターには触ると動物がフレンズになったり、無機物の保存性をよくしたりと様々な効果があります。ですが、本来サンドスターは不安定で分散しやすく、集めにくいものなのだそうです。それが何かと結合することによって初めて安定し、様々な恩恵をもたらしてくれるそうです。

 しかし、サンドスターRは何かと結合せずとも安定しているので、集めたり留めたりしやすいそうです。さらに、集めたサンドスターRを注入すれば、無機物の欠損部分を埋め合わせて元の形に戻すことができるそうです。

 

「じゃあ、バイクが壊れてもサンドスターRがあれば直せるってこと?」

「うん。一度サンドスターRがくっつくと、他のサンドスターを寄せ付けなくなっちゃうけどね。」

 

 ともえちゃんは何とか着いていけるようですが、イエイヌちゃんとゴマちゃんはちんぷんかんぷんな様子で顔を見合わせています。そんな二人をカラカルちゃんがフォローしてくれました。

 

「気にしないで。私も最初、何言ってんだかよく分からなかったから。」

「要するに、サンドスターRは足りない部分を埋め合わせるモノって考えてくれればいいよ。」

 

 サンドスターRの大体の効果は分かりました。次は、なぜセルリアンに触ると砕けてしまうのかについてです。

 すでにサンドスターが結合した無機物にサンドスターRを触れさせると、無機物によって安定性を保っていたサンドスターと元々安定していて結合しようとするサンドスターRが、互いに干渉を起こすのだそうです。キュルルちゃんはこれを、『サンドスターとサンドスターRがケンカしている』と表現していました。

 そして、干渉し合うこれらをしばらく置いておくと、どちらも消滅してしまいます。するとサンドスターのなくなったセルリアンは存在を維持できず、自壊してしまうそうです。

 

「それでセルリアンをやっつけたんですね!キュルルさん、すごいです!」

「待って。そうとは限らないかもしれないよ。」

 

 それが本当ならば確かにイエイヌちゃんの言う通り、すごいと言えるでしょう。ですが、ともえちゃんは先ほどの『失敗した』という言葉が気になったようです。

 

「キュルルさん、さっき『失敗した』って言ってたよね。どうしてこんなすごい力が失敗なの?」

「それはね……。」

 

 と、キュルルちゃんが言いかけた時、開けたサバンナに出てきました。どうやらハイキングコースの出口に着いたようです。

 するとその近くに、茶色の斑点模様のついた黄色い車とそれに繋がれた荷台が見えてきました。車の方は二人乗りのもので、ネコ科の動物のような意匠がかわいらしいです。タイヤも大きく、後輪に至ってはともえちゃんの肩くらいまであります。一方で荷台は二階分の大きさがあり、こんな大きなものを運べるのか少し心配になってきます。

 もしかすると、これがキュルルちゃん達の乗り物でしょうか?

 

「これだよ!これがぼくらの乗ってきたジャパリトラクターだよ!」

 

 キュルルちゃんは目を輝かせてジャパリトラクターに飛びつきます。すると、付着した砂ぼこりなどを丹念にふき取り、掃除を始めました。どうやら、キュルルちゃんはジャパリトラクターをとても大事にしているようです。

 その一方で、ゴマちゃんとカラカルちゃんの反応は冷ややかです。

 

「なんかトロそう。」

「荒野で見つけたヤツだけど、正直トロいわ。」

「なんてことを!」

 

 キュルルちゃんは掃除していた手を止め、鼻息荒くゴマちゃんにこのトラクターのすばらしさを力説します。

 

「いいかい?このジャパリトラクター、見た目はカワイイけど、その馬力は通常のトラクターの10倍以上!500馬力を超えるハイパワーエンジンを搭載していて、その気になれば時速100キロで走ることだってできるんだよ!しかもこんな大きなトレーラーをけん引して走れるくらいのけん引力を持っていて、なおかつ余裕のある走りが可能なパワフルな重機なんだ!さらに環境配慮型車両なので、ジャパリパークの環境を汚さない!しかも使っている動力源は、充電が必要なものの、このトラクターなら連続6時間は動かせるスーパーハイパワーバッテリーで、いずれ未来のスタンダードとなる……。」

 

 まだまだ長くなりそうなので、カラカルちゃんはキュルルちゃんの耳を引っ張り、操縦席に連行してしまいました。

 

「はいはい。そろそろ行きましょうね~。」

「あたた……引っ張らないでよカラカル。」

「……チナミニ、現在コノバッテリーハ、様々ナ大型機械ニ使ワレテイルヨ。安ク生産サレレバ、一般家庭ニ使ワレル日モ近イカモシレナイネ。」

 

 ボスはキュルルちゃんの解説にちょっぴり補足を入れた後、カラカルちゃん達についてジャパリトラクターに乗り込みました。

 

「なんか、ともえさんに似てますね。」

「そうかな?似てないよ。」

「うそつけ。」

 

 ゴマちゃんは冷ややかにツッコミを入れます。確かに車を前にしたキュルルちゃんのこの一連の行動は、フレンズを前にしたともえちゃんとなんとなく似ているかもしれません。

 

「ラッキーさん。よろしく。」

「マカセテ。ジャパリトラクター起動。」

 

 ラモリさんがジャパリバイクを起動させる要領で、ボスはジャパリトラクターを起動させます。駆動音は車体の大きさに見合ったものですが、排気はほとんどないようです。

 

「じゃあぼく達が先行するから、みんなついてきてね。」

「はーい。」

 

 トラクターはゆっくりと旋回し、前進していきますが、それにしてもゆっくりです。いつもバイクで出しているスピードの半分か、それよりも遅いかもしれません。

 

「キュルルー!やっぱり遅いじゃーん!」

「キミ達みんなジャパリバイクに慣れてるからだよ!このトレーラーが重いし、障害物があるからスピードを出すと危ないし……。」

「それにしたって遅いわよ……。」

「現在、時速20キロ……。」

 

 ノロノロとした運転にしびれを切らしそうなゴマちゃんですが、ともえちゃんはなんとかなだめます。

 

「いいよ。ゆっくり行こう。いつも通り、ね。」

「そうそう。ともえちゃんの言う通り。」

 

 キュルルちゃんは支持者を得て喜んだようです。でもカラカルちゃんはやれやれと言わんばかりに肩をすくめていました。

 

 

 しばらく走っていると、やがて緑の草原地帯にたどり着きました。それでもまだまだ目的地ではないらしく、景色を楽しみながら走ります。

 さらに車を走らせると、ようやく目的地が見えてきたようです。

 

「着いたよ。ここがサンドスター研究所だ。」

 

 キュルルちゃんの言う研究所を見て、ともえちゃんは「あっ」と短く叫びます。なぜなら、スケッチブックに描かれたぼろぼろの四角い箱にそっくりな見た目だったからです。白い箱とは建物だったのです。

 最初はきれいかと思いましたが、近づけば近づくほど、その建物はボロっちく見えてきます。草木はボーボーに伸び放題、ところどころ壁が崩れていて雨をしのげるかも怪しいです。スケッチでも伸びた草木が描かれていますが、これよりもさらにひどくなった可能性があります。

 キュルルちゃんはジャパリトラクターを降りると、外の発電機にトラクターのバッテリーを置き、充電を始めました。その間、カラカルちゃんはともえちゃんに一枚の板切れを見せます。

 

「ほら見て。この看板、見覚えない?」

「かんばん……?」

 

 ともえちゃんはまじまじと看板の字を見ます。『ようこそジャパリパークへ』と書かれているようです。

 すると、頭の中から何かが湧き上がる感覚が再びやってきます。しかし、今度は頭痛を伴うようで、ともえちゃんは苦しそうに頭を抱えています。みんなが心配そうに見守る中、ともえちゃんの記憶が今、呼び覚まされます。

 

――草木の生えるに任せ、風の吹くに任せ、打ち捨てられた廃墟のような研究所。

 暗闇の中に日の光が無遠慮に入り込むこの部屋でふと目を覚ますと、ともえはテーブルの上に立っていた。何がなんだか分からないが、とりあえず周りにあるものを見てみる。

 まず頭の異物感を感じて触ってみると、自分は何かを被っているようだ。それは帽子だった。自分は羽根付きの探検帽を被っているのだ。

 次にかばん……青色のショルダーバッグを手に取る。その中にはきらきらと光るパステルカラーの立方体がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

 さらに、色鉛筆とスケッチブックに気づいた。これらはかばんよりも小さいようだ。ともえはかばんの中にそれらを入れてみると、ちょっと抵抗はあったがしっかりとしまうことができた。

 思い通りに行って喜んだともえは、今度はテーブルから下を覗き込む。あまり高さはないようなので、普通に降りることができそうだ。おずおずと足を差し出しながらゆっくりとテーブルから降りた。

 その後、しばらく研究所をさまよう。誰かいないかと大声を出してみるが、返事はない。しばらく歩くと出入り口に辿り着く。研究所を出るとそこには見たこともない世界が広がっていた。

 自分は何者なのか?自分は何をすべきなのか?自分の居場所はどこなのか?何も分からないが、ともえはとりあえず心の声に従うことにした。

 絵……スケッチブックにはモノを擦り付けることで、字を書いたり絵を描いたりできる。何故そんなことを覚えているのかは分からないが、ともえは心の声に従い、絵を描いてみることにした。モデルは先ほど出てきた研究所だ。

 それは素晴らしい体験だった。時間も忘れ、何も考えずに没頭し、一つの作品を作る。インスピレーションが湧き、それをスケッチブックにぶつけることで、何もなかった自分に高揚感と陶酔感、没入感をもたらす。これはやめられない。ともえは夢中で絵を描き上げた。

 ようやく絵を描き終えたともえ。ふと、草やぶの中に板切れが転がっていることに気づく。拾い上げてみると、何やら文字が書かれている。ともえにはその内容を読むことができた。

「ジャパリパークへようこそ。」

 ここはジャパリパークというのだろうか。ともえはその響きだけで気分が高揚するのを感じた。何故かは分からないが、なんだかワクワクしてくる。理由なんていらない、とにかく歩きたい。

「なんか、いいことありそう。」

 ともえは希望を胸に、研究所を後にする。――

 

 

「そう……そうだ!あたし、ここで生まれたんだ!」

「ホントですか!?」

「ともえ、こんな寂しいところで生まれたのかよ~……。」

 

 ゴマちゃんはきょろきょろと周りを見回します。確かに何の動物の気配もなく、建物は無機質そのもので誰も寄せ付けない印象を受けます。

 

「ともえちゃん。今なら、この中にも見覚えがあるんじゃないかな?」

 

 戻ってきたキュルルちゃんは、みんなを中へ入るようにうながしました。果たしてこの中で待つものとは一体?

 

 

 研究所の中は荒れ果てていて、すきま風が吹きすさび、フラスコやアンプルも散乱しています。昔はここで何かの実験をしていたのでしょうか?

 そんな中で、お日様の光が入るテーブルの上を、ともえちゃんは懐かしそうに見入っています。

 

「そう、この辺であたしは生まれて……スケッチブックもかばんも自分のものだと思って……。」

 

 ともえちゃんは、自分が肩から提げているかばんを見やりました。どうやらこのテーブルの上にキュルルちゃんの帽子とかばんが置かれていたようです。

 

「ぼくが目覚めた時に使おうと思ってたものが置いてあったんだ。」

「そうだったんだ……。」

 

 ここに来ることで、今まで不思議に思っていたことの合点がいくようになってきました。

 まず、自分はこの研究所で生まれたヒトのフレンズであり、キュルルちゃんを元にして生まれたということです。以前ラモリさんの映像で見た子どもは、自分ではなくキュルルちゃんのことだったのです。自分ではないのだから、この頃の記憶がないのは当然です。

 自分が生まれた原因は恐らく、キュルルちゃんの髪の毛か何かにサンドスターが当たったことで生まれたのではないかとキュルルちゃんは付け加えていました。それなら、ともえちゃんとキュルルちゃんが似ている理由にも説明がつくでしょう。お日様の光がテーブルの上に当たっていることから、噴火したサンドスターが当たる可能性はあります。

 でも、ともえちゃんがここで生まれたのならば新たな疑問が生まれます。なぜキュルルちゃんは、こんなところに身の回りのものを置いていたのでしょうか。そもそも、キュルルちゃんはこのジャパリパークで何をしていたのでしょうか。

 ところで、イエイヌちゃんはふと気になったことがあるようで、キュルルちゃんに質問をします。

 

「あのぉ。そもそもキュルルさんって、どちらからいらっしゃったのでしょうか。ひょっとして私のご主人様だったりしますか?」

「それについては……キミ達のラッキーさんが知ってるんじゃないかな?」

 

 キュルルちゃんの言葉を聞き、みんながラモリさんを注目します。サングラスを光らせ、みんなの視線を集めながら、ラモリさんはキュルルちゃんの目の前にやってきます。二人は懐かしむように見つめ合いました。

 

「シャレタコトガ言エルヨウニナッタネ、ベイビー。」

「ぼくにも、色々あったから。」

「……トモエノスケッチヲ解析シタ時、60%クライノ確率デ、コウイウコトニナルト予想シテイタヨ。」

 

 そういうとラモリさんは、ジャングルと図書館で見せたような映像を映し出しました。カラカルちゃんも初めて知ったらしく、ビックリしたようです。

 果たして、ラモリさんが見せるこの映像には一体どんなものが映っているのでしょうか?

 

 

 

続く




仮にも主人公だし、あまりいじくっちゃいけないかも→キュルルについて調べよう→キュルルの大百科→罵詈雑言、そっ閉じ
開き直ることに決めました。
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