けものフレンズR 足跡を辿って   作:ナンコツ

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※これは第十話けんきゅうじょBパートの続きです。
まだAパートとBパートを読んでいない方は、先にそちらをお読みください。

※この回はけものフレンズ2と性格が違っているキャラがいます。
そちらが好きな方は注意してお読みください。


第十話 けんきゅうじょ Cパート

 かつてサンドスターRを研究していた研究所。今は廃墟となったこの研究所からともえちゃんの、そしてキュルルちゃんの旅が始まったそうです。

 まずはキュルルちゃんが今までの旅を振り返ります。

 

「まずぼくはあのカプセルで目を覚ました。ぼくが目を覚ました時、研究所はボロボロだった。博士は病気だったから研究を続けるなんて無理だったし、誰も使わないなら放置されても仕方ないのかなって思ったよ。」

 

 キュルルちゃんは研究所を見回します。キュルルちゃんが眠ってからどれほどの時間が経ったか、正確には分かりません。ですが、このさびれ具合からかなりの年月が経っていると察したのでしょう。

 そして、廃墟となったこの研究所で目覚めると同時にカラカルちゃんに出くわしたようです。

 

「私、たまーーにここを寝床にしてたんだけど、いきなり誰かがやってきてビックリしたわ。最初は食べられるかと思ったけど……。」

「食べちゃダメだよ!」

「食べる前に消えるだろぉ~?」

 

 ともえちゃんの冗談めいた発言を受け、ゴマちゃんも冗談っぽく返します。大ウケとまではいかなくても、愛想笑いくらいはしてくれたようです。

 

「ぼくもカラカルも焦っちゃったけど、とりあえず最初に会ったのが話の分かるフレンズでよかったよ。」

「感謝してほしいわね。……でも、正直アンタでよかったわ。食べられたらどうしようって怖かったもの。」

 

 二人の最初の出会いはあまりよくなかったようです。秘密の寝床に使っていた、誰もいないはずの部屋からいきなりヒトが出てきたのだから、驚くのも無理はありません。『食べられる!』と思った二人の反応はぜひ見てみたかったかもしれませんね。

 

「で、カラカルから今のジャパリパークの状況を教えてもらって。かばんと帽子を置いてたのを思い出して取りに行こうとしたんだけど……。」

「あたしが生まれて、どっちも持ってっちゃったんだね。ごめんなさい。」

「何もわからなかったのなら仕方ないよ。」

 

 何も分からない状態だったのだから、自分のものだと勘違いしても仕方がありません。しかし、ともえちゃんはそのせいで『自分は盗人なのかもしれない』と思い詰めてしまったのですから、この謝罪は気持ちの整理をつけるのに必要だったのでしょう。

 とにかくキュルルちゃんは、ともえちゃんは悪くないということを強調しました。ともえちゃんの気持ちを察したのか、はたまた普通に許してくれたかは分かりませんが。

 

「かばんって結局何が入ってたんだよ?」

「いつか目覚めた時のために、スケッチブックと色鉛筆、そしてありったけのサンドスターRを入れておいたんだ。サンドスターRは武器や研究用。スケッチブックは記録や思い出を残すために。」

「その帽子はどうしたんですか?」

「これはスペアだよ。研究所にはいくつか余分に置いてあるんだ。帽子は便利だからね。」

 

 帽子は日差しを防ぎ、頭部を守ってくれる便利な服飾品であるため、サバイバル生活で重宝するものです。いくつか取り置きがあったとしても不思議ではないでしょう。

 また、キュルルちゃんの体質変化がちゃんとできたかどうかは、眠り始めた段階では分かりません。その保険として、またいつでも研究できるサンプルとしてサンドスターRを持っておくのも悪くはない判断でしょう。

 

「じゃ、話を戻して。次に気になったのがアムールトラだった。カラカルはそんなの知らないって言ってたから嫌な予感がしたんだけど、やっぱりオリにはいなかった。」

「私も会ったことないけど、ウワサは聞いてたわ。関わり合いになりたくないなって思ってたけど、今考えると関わるべきだったかもしれないわね。」

 

 カラカルちゃんは、アムールトラちゃんに会えなかったことを残念そうにしていますが、ゴマちゃんとイエイヌちゃんは対照的です。

 

「アムールトラに会ったことないから、そんなこと言えんだよ~。」

「ともえさんと一緒だといいフレンズさんなんですけどね。」

 

 初めて会った時のことを思い出して怯えるゴマちゃんには申し訳ないのですが、そのこっけいさのおかげで場が和やかになりました。あるいは、笑いを取るためのツッコミだったのかもしれません。

 

「で、その時に今度はラッキーさんに会った。ラッキービーストがまだいたのは助かったよ。」

「ヒトノイナクナッタパークでヒトニ会エテ、ウレシカッタヨ。君達ヒトヲガイドスルノガ、僕達パークガイドノ仕事ダカラネ。」

「でも、なんでラモリさんじゃなかったんだろう。ぼく、ずっとラモリさんがそばにいると思ってたのに。」

 

 キュルルちゃんはラモリさんに質問しました。確かに、目覚めたばかりのキュルルちゃんは一人で心細くなるはずなのに、何故昔の相棒だったラモリさんを置いておかなかったのでしょうか。

 

「僕ハ博士ノ指示デ、ヒトガイナクナッタ後ノパークノ、巡回ヲスルヨウニナッタンダ。愛車ノジャパリバイクニマタガッテネ。」

「博士に会ってるんだね?!博士はどうなったの!?」

 

 キュルルちゃんは博士の行方を聞き出します。大体予想はつきますが、それでも聞かずにはいられなかったようです。

 

「亡クナッタヨ。」

「そっか……。」

 

 ラモリさんから聞きだせたのはこれだけでした。他に何か隠しているかもしれませんが、今は問い詰めている場合ではありません。ともえちゃん達にここまでの旅の内容を教える方が先です。

 

「それからは3人で、かばん探しとアムールトラ探しに出かけた。その途中、『かばんを肩に掛けたヒトを見た』ってウワサを何度か聞いてね。」

「ともえバレてたんじゃん。」

「こそこそ隠れてたつもりだったんだけどな~。」

 

 ゴマちゃんの冷やかしにともえちゃんは乗っかりました。ここまで暗い話題ばかりだったからこそ、こういうちょっとした明るい話題が清涼剤になるのでしょう。

 

「帽子もかぶってたみたいだから、もしぼくの毛か何かがフレンズになったんだとしたら、かばんと帽子が一緒になくなった理由が説明できるなって思って。それからかばん探しはヒト探しになっちゃった。」

「キュルルみたいなフレンズなのかと思ったけど、まさかこんなかわいいフレンズだったなんてね~。」

 

 と、カラカルちゃんはともえちゃんに抱きつきます。ともえちゃんにとっては、まさかそっちから来るとは意外でしたが、渡りに船とばかりにともえちゃんも抱き返し、互いにほほをすり合わせたりしました。その様子を見たイエイヌちゃんがちょっとムッとしてしまったようです。

 

「実際こうしてともえちゃんに会えてよかったよ。ぼくの他にヒトはいないってカラカルとラッキーさんから聞かされてたから。」

「あたしも会えてよかった~!いい人そうだし。」

「ちょっと抜けてるところがあるけどね。」

 

 キュルルちゃんは、からかうような一言を言うカラカルちゃんを少し不服そうににらみつけましたが、ここはがまんしたようです。

 

「ぼくの話はこれでおしまい。」

「今度はあたしの番かな。」

 

 ともえちゃんはスケッチブックをパラパラとめくりながら、今まで辿ってきた足跡を思い返しました。

 

「あたしはまず、この研究所で生まれた。それで、近くに会った帽子とかばんを自分のものだと思って持っていっちゃった。」

「なんで動物じゃないのにフレンズになれたんだろーな?」

「ヒトは何か特別なのかも。よく分からないけど。」

 

 ゴマちゃんの疑問ももっともですが、自分達だけではよく分かりません。ここはあまり考えても仕方がないようです。

 

「それでええと……。次はたぶん、ナミチスイコウモリちゃんに会ったのかな。蟻塚で。」

「ナミチスイコウモリさんがセルリアンに変身した夢でしたよね。」

 

 なにせセルリアンとフレンズを両方怖がるようになるタイミングなのですから、この出来事はきっとかなり早かったはずです。

 しかし、『ナミチスイコウモリ』という名前はキュルルちゃんにとっては引っかかる名前でした。なにしろ昔いっしょに暮らしていたフレンズと同じ名前なのですから。

 

「ナミチスイコウモリって、架空のフレンズになってるのね。」

「うん……。でも、そもそも夢のことだし。」

 

 同じフレンズは一人しかいないわけではないそうです。別の場所で生まれていることもあるのだとか。そうだとすると、ともえちゃんとゴマちゃんの夢に出てきたナミチスイコウモリは他人の空似という可能性もあります。

 

「ま、あいつは悪いヤツじゃないんだよな。イタズラ好きなだけで。」

「そうなんだ……。ありがとうロードランナーちゃん。」

 

 悪いヤツではないという一言を聞いてキュルルちゃんは安心しました。そっくりさんかもしれないナミチスイコウモリちゃんに自分の知っているそれのイメージを壊されたら……と心配しましたが、杞憂だったようです。

 

「で、次はジャングルでアムールトラちゃんに会ったのかな。」

「またフレンズさんにひどい目に遭わされたんですね。」

「そりゃフレンズ嫌いにもなるよな。」

 

 ともえちゃんの一人ぼっちの旅は踏んだり蹴ったりだったようです。

 ところでジャングルといえば、最初に他のヒトの存在を知った場所ですね。

 

「私達がジャングルに行った時はいなかったのよね。」

「ゴリラさんが会ったのは、キュルルさんとカラカルさんだったのですね。」

「ゴリラさんは親切だったね。詮索もしなかったし。」

 

 キュルルちゃんもゴリラちゃんを高く評価しているようです。彼女は賢くて空気の読める気のいいフレンズだったので、キュルルちゃんの印象が特によかったようです。

 

「でも、やっぱり一人ぼっちはさびしくて。一人で公園で遊んでたか、荒野でスケッチしてたか。」

「荒野なら私達も行ったけど、あなたには会わなかったわ。」

「すれ違いだろうな。プロングホーン様とおれとチーターも、三人に会ったことないし。」

 

 ともえちゃんの記憶によると誰かが走り去った気がしたそうです。その正体がゴマちゃん達でなかった以上、ともえちゃんが感じた気配はキュルルちゃん達のものだったのかもしれません。ゴマちゃん達はその後でやってきたのでしょう。

 

「そういえばロードランナーちゃん。プロングホーン“様”ってなんなの?」

「よくぞ聞いてくれた!プロングホーン様こそ世界最速にして孤高のトップランナー。美しくしなやか、まるで飛び跳ねるような躍動感のあふれるフォーム。そして飽くなきチャレンジスピリッツ。あの方こそおれの憧れにして最大の目標の……。」

「なるほど。ゴマちゃんってゴマすりって意味だったのね。」

「カラカルちゃん、当たり!」

「私が考えました。」

「少しはおれの話聞けよなー!」

 

 ゴマちゃんの由来で大いに盛り上がり、笑いが生まれました。この調子でどんどん記憶をさかのぼってみましょう。

 

「で、キャベツ畑で……。」

「キャベツ畑で?」

 

 ともえちゃんは突然口をつぐみました。そこであったことを語るには、あの謎に包まれた黒い石について話さなければなりません。

 

「(これ関係あるのかなぁ……?)」

 

 何故か、これについては話さない方がいい気がしていました。これについて話したら、まるで世界が終わってしまうようなそんな予感がしていたのです。

 

「どうした~?」

「あ、ううん。なんでもない。キャベツ畑でかばんの中身に気づいて。それで……イルカショーの時にかばんの中のサンドスターRに触っちゃったみたい。」

 

 と、ともえちゃんはサンドスターRに触った証として自らの爪をみんなに見せます。幸いにも、サンドスターRの影響を受けたのは爪だけだったようですね。

 

「見事なミドリ色だねぇ。」

「こんなきれいなツメは見たことないわね。」

「私も緑色のツメにしたいです。」

「おれは……赤かなぁ。」

「マニキュアあったらみんな塗りたくりそうだね。」

「マニキュアって?」

「いや、なんでも。」

 

 これ以上聞かれるとめんどくさそうなので、キュルルちゃんははぐらかしました。ヒトにとってお化粧は単にオシャレになるものですが、動物にとっては威嚇になりうるものなのです。知らなくても問題はないでしょう。

 

「そこからロッジに向かって、そこでスケッチブックに名前をつけたって考えるのが自然かな。」

「ともえかぁ。いい名前だよね。」

「キュルルよりはセンスあるんじゃない?」

 

 カラカルちゃんの指摘どおり、『キュルルとお腹が鳴ったからキュルル』という安易な名前は、確かにセンスを疑われるかもしれません。痛いところを突かれたのかキュルルちゃんは「ちぇっ」とつまらなそうに口をとがらせました。

 

「アヅアエンのパンダさんのスケッチはいつ描いたのでしょうか?」

「名前つけた後かな。あそこからポジティブになったし。」

「セルリアンを一人でやっつけて、自信ついたんだな!おれもプロングホーン様に褒められた時、すっごい自信ついたし!」

 

 今までのスケッチから得た情報は、どうやらここまでのようです。振り返ってみると、色んな所を当てもなく放浪していたようですね。

 

「ともえさんって一人で色んな所を旅してたんですね。」

「うん。そうだね。」

「寂しくなかったか?」

「寂しかった……気がするんだよね。まだ実感ないけど。」

 

 ともえちゃんはスケッチブックをパラパラとめくりながら、再び記憶をさかのぼります。

 確かに一人旅は寂しいものでした。スケッチブックに、感じたままの感動の他に寂しさをぶつけていたため、コンプレックスになっていたことは間違いないでしょう。

 

「でも、今は寂しくない……ですよね?」

「うん!昔は誰も信じられなかったから……だから今のこの時間がすごく好き!イエイヌちゃん、ゴマちゃん、ラモリさん。みんなと一緒に旅をして、色んなフレンズに会ってお話して、お手伝いができて。あたし、すっごく幸せ!」

「わんっ、私も幸せですぅ~!」

 

 イエイヌちゃんはともえちゃんに飛びつきました。ともえちゃんもうれしそうにぎゅーっとイエイヌちゃんを抱きしめます。

 

「おれもまぁ……ともえとイエイヌとラモリと。みんなで旅するの、悪くないかな。」

「ゴマちゃんもおいで~。」

「い、いやいいって……。」

 

 ゴマちゃんを巻き込んで抱っこするともえちゃん。本当に今の時間が幸せそうですね。

 

「でも、不思議だね。」

 

 そこへキュルルちゃんが深刻そうに口を挟みます。

 

「ここまででかなり点と点が線でつながった感じだけど……肝心なことを思い出せてないよね。」

 

 そうです。まだ大事なことが分かっていないのです。ともえちゃんはどこで、どうして、どのようにして記憶を失くしてしまったのでしょうか?

 

「なんで記憶がなくなったんだろ?」

「ラモリさん。記憶ってそんなに突然なくなるの?」

 

 キュルルちゃんの質問に、ラモリさんは機械的に回答を出します。

 

「大マカニ頭部外傷、呼吸困難ナドデ意識ガナクナリカケタ状態、ストレスヤショッキングナ出来事ニヨル、フラッシュバックヲ防グタメノ自衛ナドノ理由デ、部分的ナ記憶障害ガ発生スル時ガアルミタイダヨ。デモ、ココマデ大ゲサナ記憶障害ハ珍シイカモネ。」

 

 この解説だけではさっぱりですが、とにかくこのような記憶喪失は珍しいことであり、よっぽどのことが起こったということのようです。

 

「この、最後のスケッチにその原因があるのかなぁ?」

 

 ともえちゃんは最後のスケッチを開きます。そこには水の中に浮かぶ黒い島が描かれています。多少木が生えていますが、特に特徴のない普通の木なので特定は難しいでしょう。

 

「こんな島、どこで見たのよ?」

「ぼくも分からないなぁ。」

 

 同じく色んな所を旅したであろう、キュルルちゃんとカラカルちゃんにも分からないようです。ラモリさん達ラッキービーストにも分からないようでは、もうお手上げかもしれません。

 

「こういう時はやっぱり……基本に帰るのが一番だと思うんだよね。」

「きほんですか?」

「うん。例えば、あたしがラモリさんに拾われたところに行ってみる、とか。」

「なるほど。最初の現場に戻るってことか。ともえちゃん、いいとこに目をつけたね。」

「でも、そこで見つけたんなら、ラモリが最初に案内するんじゃねーの?」

 

 確かにゴマちゃんの指摘ももっともです。乗り物のメンテナンスが必要だったと言われても、やろうと思えば歩きでも行けたはずです。

 どういうことかラモリさんに聞いてみると。

 

「スケッチの場所ハナカッタヨ。ゴマスリノ言ウ通リ、実際ニアッタノナラ行ッテタヨ。」

「ロードランナーな。」

 

 ラモリさんが『スケッチの場所はない』と言っている以上、望みは限りなく薄いですが、それでも何か手がかりは残っているかもしれません。わずかな望みをかけて、ともえちゃんはそこへ向かうことに決めました。

 

「ラモリさん、どこであたしを拾ってくれたの?」

「サンドスター火山ノフモトノ、湖ヲ巡回中ニ見ツケタヨ。」

「じゃあ、次の目的地は火山かな。」

 

 こうして、ともえちゃん達の次の目的地が決まりました。一方キュルルちゃんの方はというと、こちらはアムールトラちゃんの手がかりが全くないため、とりあえずともえちゃんの旅について行ってくれるそうです。頼もしい仲間が増えたことになりますね。

 さあ出発というところで、ともえちゃんはキュルルちゃんに話しかけます。

 

「……ところであの、キュルルさん。」

「何?」

「あなたはあたしにとってお兄さんですか?それともお姉さんですか?」

 

 突拍子もないともえちゃんの発言に、イエイヌちゃんもゴマちゃんもカラカルちゃんもキュルルちゃんもみんなビックリ!

 

「どういうことですか、ともえさん!?」

「だって、あたしはキュルルさんから生まれた……んでしょ?だったら、キュルルさんはあたしのパパかママになるんだろうけど、そんな雰囲気じゃないなと思って。」

 

 確かにキュルルちゃんから生まれたのがともえちゃんだとすれば、二人は血がつながった血縁関係、ということになるかもしれません。だとすると、見た目の年齢差からして親子というよりは兄弟の方が近いでしょう。ナレーションの呼び方にも関わるので、性別はハッキリしてもらいたいところです。

 

「まあ……お兄さんの方かな。」

「お兄さんかぁ……。」

 

 キュルルちゃん……いえ、キュルルくんは恥ずかしそうに言いました。それを知ったともえちゃんは顔を赤らめ、もじもじした様子でキュルルくんを見つめます。

 

「あの……あなたのこと、お兄ちゃんって呼んでもいいですか?」

「えっ……えぇっ!?」

 

 またしても飛び出した爆弾発言に、キュルルくんはひどくうろたえてしまいました。

 

「いや、その、えっと……。どうしよう……。」

 

 困ったキュルルくんはカラカルちゃんに助けを求めます。いつになくオロオロとした様子に呆れながら、カラカルちゃんは助け舟を出します。

 

「いいんじゃない?アンタから生まれた子なんでしょ。新しい家族ができるならそれでいいじゃない。」

 

 その一言に、キュルルくんは少し考えこみました。

 キュルルくんは確かに家族のいない天涯孤独の身です。それならこの新たな家族の申し出は喜ばしいことでしょう。でも今はカラカルちゃんとボスがいますし、ともえちゃんの方にもイエイヌちゃんとゴマちゃんとラモリさんという友達がいます。果たしてどちらも、疑似家族を作るほど愛に飢えているのでしょうか?

 でも、ともえちゃんがお兄ちゃんと呼びたい気持ちも分かるのです。彼女だって天涯孤独の身です。フレンズとの絆だけでなく、純粋な家族の絆を欲しがるのも理解できなくはないのです。

 どうするべきか迷うキュルルくん。彼の返事を、ともえちゃんはハラハラした様子で待ちます。

 

「じゃあ……ぼくは、どう呼べば……。」

「ともえでいいよ。」

「じゃあ……いいよ、ともえ。」

「お兄ちゃん!」

 

 ともえちゃんはキュルルくんに抱きつきます。その目に涙をためて。

 この感触は遠い昔……キュルルくんにも覚えがありました。大好きなパパとママに抱っこされ、幸せだった日々。ジャパリパークを一緒に歩き回った日々……。失くしたと思っていた家族の絆が戻ってきたような……そんな不思議な感覚をこうして味わう日が来るなんて。キュルルくんは目にいっぱいの涙をためています。

 

「ともえ……!」

 

 キュルルくんも感極まって抱き返しました。二人に言葉はありませんが、それでも言葉以上の思いが伝わってきます。

 イエイヌちゃんもゴマちゃんも、カラカルちゃんもみな、熱くなる目頭を抑えきれず涙がぽたりと流れ落ちました。キュルルくんは長い時を越えてようやく家族の絆を取り戻したのです。もう一人の自分の足跡を辿って……。

 すると、抱き合う二人の隣に、イエイヌちゃんがやってきました。

 

「ともえさん、言ってくれましたよね。私達の目は同じだからお揃いだと。」

「うん。」

「なら、キュルルさんも私とお揃いなのでしょうか。」

「うん……そうだね。」

 

 三人の目を見比べてみると、キュルルくんとともえちゃんは左右の瞳の色が違いますが、イエイヌちゃんもまた左右で目の色が違っています。キュルルくんとともえちゃんは右が赤、左が青。イエイヌちゃんは右が青、左がオレンジ。色は違いますが、左右で色が違うという点で見れば三人はお揃いです。

 それを踏まえてイエイヌちゃんは、恥ずかしそうにもじもじしながら、お願いをしました。

 

「私も……お二人の家族になってもいいですか?」

「もちろん!」

「そもそもあたし達、最初から家族みたいなものだよ!」

「わんっ!」

 

 ともえちゃんとキュルルくんは共にイエイヌちゃんを抱きしめました。イエイヌちゃんは満足そうに尻尾を振りながら抱き返します。

 

「ずるいぞ、イエイヌ!おれだってともえの友達なんだからな!」

「キュルルの妹なら、私の妹。いいでしょ?ともえ?」

 

 イエイヌちゃんに続いてゴマちゃんとカラカルちゃんも名乗りを上げます。

 もう面倒なのでみんなで抱き合ってしまいました。互いの体温をじんわりと感じ、そのぬくもりを味わいました。ただ、キュルルくんはうっかりサンドスターRを放出しないように気を遣うので精いっぱいだったようですが。

 

 

 しかし、幸せな時間も長くは続きません。突如地面が震え、研究所がグラグラと揺れ始めたのです。

 

「じ、地震ですっ!」

「あわわわ……大きいぞこれ!」

 

 あまりの揺れに誰も立ってはいられませんでした。

 

「アワワワ……。キケン、キケン。地震デス、地震デス。タダチニ建物カラ避難スルカ、テーブルノ下ナドノ安全ナ場所ニ避難シテクダサイ。」

「アワワワ……。キケン、キケン。地震デス、地震デス。タダチニ建物カラ避難スルカ、テーブルノ下ナドノ安全ナ場所ニ避難シテクダサイ。」

 

 ラッキービースト達もこわれたように警報を出します。

 混乱する場にカラカルちゃんの一喝が飛びます。

 

「みんな落ち着くのよ!キュルル!外に出ましょ!」

「う、うん!ここにいたら危ない!」

「イエイヌちゃん、ゴマちゃん!がんばろ!」

 

 幸い、出口の近くにいたため、建物からの避難は可能なようです。

 みんなは素早く、少しずつ、地べたを這って歩き、研究所から避難します。石やガラスを避けながら這っている間も、天井からはガレキが崩れ落ちてゆき、何度も肝の冷える思いをしました。ともえちゃん達はかろうじて全員避難することができましたが、その後も地震と研究所の崩壊は止まらず、その様子を見ていることしかできませんでした。

 

 

 しばらくしてようやく地震が止みました。空は夕焼けが近づいて茜色に染まり始め、吹き抜ける風は完全に崩れてしまった研究所のガレキをふっとなでてゆきます。このひどい有様を見ていると、こうしてみんな生きているのが不思議なくらいです。

 

「研究所……めちゃくちゃね。」

 

 カラカルちゃんの一言に、ともえちゃんははっと気づきます。

 

「あっ、お兄ちゃん!サンドスターRは……。」

 

 サンドスターRのキューブは、キュルルくんの眠っていたカプセルの中に入ったままです。研究に使うならあれが最後のサンドスターRだったはずですが、それは研究所と共に地面の中に埋まってしまったのでしょうか?

 しかし、キュルルくんはウインクして答えます。

 

「大丈夫。いくつかのサンプルと資料がトレーラーに入ってる。資料が残ってれば、研究はできるよ。」

 

 キュルルくんはこういう可能性を想定して資料の所在を分散していたようです。それを聞いたともえちゃんは少しほっとしたようです。

 すると、ボスがやってきてキュルルくんに話しかけます。

 

「キュルル。サンドスター火山ニ、ナニカ異常ガアッタカモシレナイ。火山ヘ行コウ。」

「うん。……ぼくも同じこと考えてたよ。」

 

 今度はラモリさんがともえちゃんに話しかけます。

 

「コネコチャン、僕達モ行コウ。」

「うん。どのみち、火山に行かなきゃいけないもんね。」

 

 こうしてみんなの目的地は火山に決定しました。

 突如起こった地震、最後の手がかり……。旅はいよいよ大詰めを迎えようとしています。

 

 

 

終わり




まずは皆さんお疲れ様でした。
キュルルは生えてるのか生えてないのかわからなかったので、現在の情勢で有利な方にしました。
ちょうど、この容姿で生えてないことに違和感を感じるようになっていたのではあったのですが。

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