ここはサンドスター火山。頂上の噴火口には水晶の塔がまるでサンゴのように枝分かれして立っています。サンドスターが頻繁に噴出するこの火山では、サンドスターすらも結晶化してしまうようです。ガラスの中にプリズムのような光がきらめき、美しく透き通るそれは、まさに自然が作りだしたガラスのオブジェです。
このサンドスターに近づくフレンズが一人いるようです。黒い縞模様の混じった黄色と白の髪と尻尾。そう、アムールトラちゃんです。どこにも居場所のない彼女は、たまにここへ来ると心が安らぐようです。
アムールトラちゃんは中途半端な存在です。粗暴かつ乱暴にして凶暴。誰とも交わることができないためにフレンズとはいえません。かといってセルリアンのように心がないわけではないのです。なぜならこうして、サンドスターの結晶に胸をときめかせることがあるのですから。
「ガぅ……。」
ふと、アムールトラちゃんはポケットを漁り始めました。そこから取り出したのはぐしゃぐしゃの絵と新しい絵。どちらもともえちゃんからもらったものです。
アムールトラちゃんはあの子のことが少し気になっていました。ひょっとしたら、あの子を通してフレンズと仲良くする、ということもできるのでしょうか?
「ぶるる……。」
アムールトラちゃんは首を横に振りました。やはり、彼女にはフレンズと共に暮らすという選択肢などないのでしょうか。
すると、アムールトラちゃんは何かの気配をビンカンに感じ取りました。物音、空気の流れ、ニオイ……感じた理由は様々でしょうが、それに従って後ろを振り返るとそこには小型セルリアンの群れがいました。
「グルルルル……。」
アムールトラちゃんは牙をむき、臨戦態勢に入ります。
その頃、ともえちゃん達は記憶の手がかりを得るため、さらに先ほど起こった地震の影響を受けているかどうかを調べるため、サンドスター火山に向かっていました。しかし、ジャパリトラクターが相変わらずの遅さのためどんどん日が傾いてゆきます。地震によって景色が変わったということもなく、木々と草原が火山に向かって延々と続いています。
その道中、ともえちゃんはふと気になったことをイエイヌちゃんに聞きました。
「ねえ、イエイヌちゃん。ひょっとしてラモリさんがイエイヌちゃんの元の飼い主さんなんじゃない?」
「えぇっ!?ホントですか?」
「お兄ちゃん言ってたでしょ?キザでノリがよくて、ヒトをベイビーって呼ぶって。ラモリさんと同じじゃない?」
突如湧き上がった、大胆過ぎるともえちゃんの推理。確かに、ラモリさんはともえちゃんをベイビーと呼びますし、今までも場の空気やノリに合わせて行動したことがあります。ことわざや格言もいくつか教わりました。
一見、突拍子もない推理のように思えましたが、意外と説得力がありそうですね。
「なるほど~。こりゃひょっとすると、ひょっとするかもよ?」
「うー……。でも分からないです。なでてもらったり、遊んでもらったりすれば分かりそうなんですけど。」
「うーん、どれもラモリにはできないかぁ……。」
「ねえラモリさん。イエイヌちゃんとボールで遊んであげてよ。」
「ムリダヨ。見テノ通リ、手モ足モ出ナイカラネ。」
「ずるいぞ!はぐらかすな!」
ゴマちゃんはラモリさんを不満げになじりますが、ラモリさんは基本的にフレンズと会話する権限を与えられていないため、だんまりです。
一方トラクターでは、カラカルちゃんが体の不調を訴え始めました。
「なんかちょっとダルいわね~……。」
「急だね。やっぱりあそこで抱き合ったのがまずかったのかな。」
キュルルくんは心配そうにカラカルちゃんを見ます。抑えていても、やはりサンドスターRの影響が少なからず出ていたということでしょうか。
でもカラカルちゃんは、心配をかけまいと努めて笑顔で振舞います。
「へ、平気よこれくらい!」
「無理しなくても……。ん?」
ふと、キュルルくんの目に何かつめたい粒が飛び込んできました。どうやら空から降ってきたようです。
「雨?」
「いや……雪!?」
「雪ダヨ。ドウヤラ、コノジャパリパーク中ニ、雪ガ降ッテイルミタイダヨ。」
ボスは全ラッキービーストとネットワークを介して情報を共有することができます。そのネットワークを通じて、このエリアの異常を知ったようです。
サンドスターによって天候がある程度管理されているジャパリパークで、こんなに急に雪が降ることなど本来ありえないはずなのですが……。一体、ジャパリパークに何が起こっているというのでしょうか?
一方、アムールトラちゃんはセルリアンと格闘中でした。寄せ来る小型のセルリアンの攻撃をかわし、飛び、的確にいしを砕いて数を減らします。1体でも倒すのに骨が折れるセルリアンですが、アムールトラちゃんは見事にその全てを倒してしまいました。
「ハァ……ハァ……ぐッ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……。」
アムールトラちゃんの呼吸はさほど乱れておりませんが、苦しそうに自分をかき抱いてうずくまってしまいました。その急な痛がりようは、何か発作を起こしたかのようです。
早く心を落ち着かせようと再びサンドスターの結晶に目をやると、噴火口から黒いもやのようなものが出ていることに気づきました。不思議に思うアムールトラちゃんでしたが、その直後に目にゴミのようなものが入りました。彼女は思わず目をこすりましたが、再び上を見上げると……。
「ガァル……。」
ぱらりぱらり――。
小さな雪が降りしきっています。雪を見たことがないアムールトラちゃんには、それがサンドスターの結晶と相まってとても美しいものであるように感じられました。
その繊細で可憐な雪の舞踏会に見とれていると、またしても敵の気配を感じ取ります。
「グルルル……。」
牙をむき再び臨戦態勢を取ったアムールトラちゃんでしたが、今度のセルリアンは今までのものとは様子が違うようです。
黒い四脚の巨大なセルリアン……。大きなセルリアンには今までにも出会ったことがありますが、あのセルリアンからは途方もない力を感じます。
アムールトラちゃんはぶるると身震いさせながら、セルリアンに威嚇を始めました。
辺りはすっかり夜中。降りしきる雪が作りだした雪明りを頼りにしながら、ともえちゃん達7人は火山のふもとにある湖に到着しました。雪のせいか薄く氷の張った湖の周りには針葉樹が生え、田園風景のようなのどかな景色。こんな天気でなければ、もっと美しく映えたかもしれません。
ともえちゃんは一生懸命、スケッチと風景を見比べながら何かを思い出そうとします。
「どう?ともえ?何か思いだせない?」
「うーん……。ごめんねみんな。やっぱり何にも思い出せないよ。こんなところで倒れてたことすらわかんない。」
「君ハ間違イナク、ココニ倒レテイタヨ。」
ラモリさんは断言します。どれほどスケッチに近くても、やはり黒い島がなければどうにも決め手に欠けるようです。
これから黒い島を探して水場という水場を探さなければならないと考えると、どうにも気の重い話です。
「仕方がない。切り替えよう。今はこの、雪をなんとかしなきゃ。」
「ささささむっ……。なんで雪なんて降るんだよ、さむぅ~。」
「ラッキーさん。これって……。」
「非常ニ危険ダヨ。サンドスターロウガ、カツテノフレンズ狩リノ頃並ミノ濃サニ上昇シテイルヨ。」
「なんだそれ?今度はサンドスターロウかよ?」
キュルルくん曰く、サンドスターロウとは、元々この火山で放出されていた物質です。サンドスターロウにはセルリアンを強化、再生させる作用があるそうです。しかし、それ以外にも異常気象を引き起こすなどの未知の作用があるのかもしれません。
「この天気がサンドスターロウによるものだとしたら、一刻も早く山頂に向かって様子を見に行かないと。」
「お兄ちゃん。あたし、ジャパリバイクで先に行くよ。」
「待チナ、ベイビー。雪ガ積モルトマズイカラ、念ノタメニタイヤチェーンヲ取リ付ケテカラ行コウ。」
すると、キュルルくんが目を輝かせてラモリさんの前に躍り出ます。何でもやりたがる5歳児のような、とても子どもらしい反応です。
「ぼく!ぼく!ぼくにやらせて!」
「イイヨ。手伝ッテ。」
「うわぁい!ぼく一度、タイヤチェーンつけてみたかったんだ!」
キュルルくんは意気揚々と、ラモリさんが座席のカバーから取り出したタイヤチェーンを、指示を受けながら取り付けてゆきます。
その一方で、ボスの方も何かを行うらしく、ジャパリトラクターに乗り込みました。
「コッチモ、除雪用ノアタッチメントヲ取リ付ケルヨ。」
「あたっちめんと?」
「ああ!それもやりたいのに!」
「無理シナイデ、キュルル。ソレハコッチデヤルカラ。」
ボスはジャパリトラクターの運転席で何かを起動させます。すると、今まで引っ張っていたトレーラーがウイーンガコーンと音を立て、ゆっくりと重々しく開いたではありませんか。
「すっごーい……。」
「でしょ!?でしょ!?これだけのアタッチメントやパーツを運びつつ、荷台の上にフレンズや物も載せて走行できるジャパリトラクターは強靭にして無敵!まさに動く車庫!ロマンの塊!男の子味!」
「キュルル、手ヲ休メナイデ。」
ボスは自分に備え付けられたライトをつけ、中に入って行きます。ともえちゃん達三人とカラカルちゃんも見学がてらついてゆきます。
トレーラーの中はトラクターに使うパーツやら部品やら予備のバッテリーやらでいっぱいです。動く車庫と表現するのも納得できます。
「中はこうなってるんだねー。」
「すごいでしょ。こんなごちゃごちゃしてなかったら、寝床にいいと思ってたのに。」
カラカルちゃんは悔しそうに言いました。
ボスは除雪に使う大きなショベルのアタッチメントを頭に乗せ、悠々とトラクターのフロント部分に持ってゆきます。見かけによらずものすごいパワーを持っているようです。
ボスのアタッチメント運搬作業を見ている間、ふと、ともえちゃんは細長い棒が転がっていることに気づきました。先が金属質で少しトガっていて、少しくらいの石や岩なら砕くこともできそうです。
「あれ?これは?」
「ストックだって。山を登る時にキュルルが使うつもりだったみたい。いざって時に武器になるかもしれないし、持ってってもいいんじゃない?」
「そうかもね。ちょっと借りちゃお。」
セルリアンと対峙した時のことを考えた場合、フレンズには牙やツメが、キュルルくんはサンドスターRという武器がありますが、ともえちゃんには何もありません。そうなると護身用の武器は必要になってくるはずです。キュルルくんもきっとよろこんで貸してくれるでしょう。
ともえちゃんは、そばにあったヒモを体に巻き付け、ヒモで押さえつけるように背中にストックを差しました。これならバイクを運転していても、必要な時に使えそうです。
一方、キュルルくんと作業を行うラモリさんは、トラクターで作業していたボスから何か通信を受け取ったようです。
それによると、トレーラーは重く邪魔になるため、一旦ここに置いていくことに決めたようです。キュルルくんはひどくがっかりしたようですが、今は急ぐ時なのでやむを得ないでしょう。 こうしている間にも、雪は深々と降り積もってゆくのですから……。
それぞれの車は改造を終え、その見違えた姿をともえちゃん達の前に現しました。
ジャパリバイクのタイヤとサイドカーのタイヤには金属のチェーンが巻かれ、黄色くてかわいらしいボディに、にぶい光を放つゴツいタイヤのミスマッチさが逆にクール。ちょい悪バイクです。
猫を模したジャパリトラクターが手に持つアタッチメントは、かわいらしい車体に似つかわしくない荒々しいショベル。後部にもブレードのついた除雪用のアタッチメントが取り付けられ、ワイルドさが増しています。
雪国仕様になった二台のその様変わりぶりを、キュルルくんは目を細めながら眺めます。
「うーん、これは壮観だね。」
「お兄ちゃん。早くいこーよ。」
「わかったわかった。ちょっと待ってよともえ。」
さっさとジャパリバイクに乗り込んだともえちゃんに急かされ、しぶしぶキュルルくんはジャパリトラクターに乗り込みます。
改造をしている間にも雪は降り続け、辺りはすっかり雪化粧をしています。こんな状態でうまく車は進めるのでしょうか?
「キュルルー!こんなの役に立つのかよー!」
「まあ見ててよ。そおら、御覧じろ!これがジャパリトラクターのゼンリョク!はっしーん!」
車体に似合った大きな駆動音と共に、トラクターが発進します。
すると、後部のブレードが雪をかき出し、整地しながら進んでいきます。さらに積もりすぎた部分は前部のショベルがかき出すので、死角はありません。
「すっごーい!」
「きゃわーん!まるで穴掘り名人ですね!」
「やるじゃん。」
「キュルルニ続クヨ。」
余すことなく発揮されるトラクターのパワーにみんな惚れ惚れ。トラクターのおかげで楽々バイクを走らせることができたのでした。
雪と格闘しながらも進み続け、ようやく山頂が見えてきた時、黒い何かが暴れているのが見えました。どうやら何かを追いかけているようです。
「キュルル!あれ、アムールトラじゃない!?」
「ホントだ!」
なんと、アムールトラちゃんが黒いセルリアンと戦っていたのです。見たところ、やはりサンドスターロウを吸収しているのかセルリアンの方がペースを握り、アムールトラちゃんは逃げるのが精いっぱいで反撃がしづらいようです。
キュルルくんはトラクターを止め、カラカルちゃんと共にバイクへ走ってきました。
「お兄ちゃん!どうしたの?」
「アムールトラだ!アムールトラがセルリアンと戦ってるみたいなんだ!」
「たいへん!助けに行かなきゃ!」
「分かってる!でも、火山の様子も見に行かないと!」
火山とアムールトラちゃん、どちらも一刻を争う事態です。どちらかに偏らせるよりは分散させた方が効率がよさそうです。
「なら、あたしがアムールトラちゃんを助けに行く!」
「ベイビー。」
ラモリさんはともえちゃんの提案に異を唱えます。
以前、ともえちゃんはラモリさんと約束をしていました。『セルリアンとは戦わない、出会ったら逃げる』ということを。でもアムールトラちゃんを救出したいともえちゃんは、ラモリさんと目を合わせ、何とか説得を試みます。
「……ごめんね、ラモリさん。今だけ。今だけは見逃してよ。」
「危険ダヨ。キュルルニ任セタ方ガ効率ガイイハズダヨ。」
「そうかもしれないね。でもあたし、望まれて生まれたわけじゃなかったこととか、オリの中に入れられてた話聞いて、もうあの子をほっとけなくなったの。あたしはアムールトラちゃんと友達になりたい。あの子に一人じゃないって教えてあげたいの。」
ともえちゃんは、アムールトラちゃんに過去の自分を重ねていました。誰も信じられず、一人ぼっちで暮らし、さまよう日々……。今の自分にはたくさんの友達がいますが、アムールトラちゃんには誰もいません。
クサリにつながれ、オリに入れられ、外に出た後も誰とも関わらない。そんな、心と体をすり減らすような生活を過ごし続けることを、ともえちゃんはよしとはしませんでした。
自分のことは嫌いでもいい、かまれたって構わない。それでもともえちゃんは、アムールトラちゃんのそばにいてあげたい。それだけなのです。
「それとも、ラモリさんは、友達を見捨ててどこかへ行くようなヒトを信じられるの?」
「……。」
ラモリさんはしばし沈黙します。何かを計算しているのでしょうか?そのサングラスからは何も伺えません。
やがて、ラモリさんは意を決したように返答を出します。
「分カッタヨ、コネコチャン。君ガ満足スルマデ、君ニツイテイコウ。」
「ラモリさん、ありがと!」
ともえちゃんはぱっと明るい笑顔になりました。
「なら私達も……。」
「いや、イエイヌちゃんはぼく達と一緒に来て欲しい。ラッキーさんと話し合ったけど、大事なものがなくなってるかもしれない。その時、頼りになるのは……。」
キュルルくんはイエイヌちゃんを指差します。その指先を見て、イエイヌちゃんも何かを察したようです。
「私の鼻、ですか?」
「ひょっとしたら、パークの危機かもしれない。協力してほしい。」
キュルルくんは頭を下げてイエイヌちゃんにお願いしました。イエイヌちゃんの返事は迷いなく素早いものでした。
「分かりました。ヒトのために尽くすのが、私の本分ですから。」
「ありがとう。」
こうして、しばらくの間キュルルくんと過ごすことになったイエイヌちゃん。彼女は名残惜しそうにともえちゃんの顔を眺め、申し訳なさそうに頭を下げます。
「ともえさん。大事なところであなたをお守りできないことが口惜しいですが、どうかご無事で。」
「ヘーキヘーキ!ゴマちゃんも一緒だし!」
「あっ、あんまりアテにしないでくれよ~。」
急に話を振られたゴマちゃん。寒さもあって声が上ずっています。それを心配したのかキュルルくんも提案を出します。
「代わりにラッキーさんを連れてってよ。ぼくがいない間、ジャパリトラクターが役に立つかもしれない。」
「ありがとう、お兄ちゃん。」
「話は決まったわね。私、キュルル、イエイヌは火山の山頂を見に行く。ともえ、ゴマすり、ラモリ、ボスはアムールトラを助けに行く。いいわね?」
「ロードランナーね。」
ゴマちゃんはツッコミを入れながら、タンデムシートからサイドカーに乗り換えました。
こうして、キュルルくん、カラカルちゃん、イエイヌちゃんは山頂へ走り、ともえちゃん、ゴマちゃん、ラモリさんはバイクで、ボスはトラクターでアムールトラちゃんを救出へ向かいました。
それぞれの戦いが今始まります。
山頂にたどり着いたキュルルくんはサンドスターの結晶には目もくれず、その下にある噴火口を見に向かいます。そこで見たものは、彼をひどく驚かせました。
「ああーっ!やっぱりだ!フィルターが壊れてる!」
「フィルター?それはどういうものですか?」
キュルルくんの説明によると、火山の噴火口にフィルターをかけて、サンドスターロウをサンドスターに変換していたそうです。ですが、今はそのフィルターが壊れてしまっているため、フィルターをかけ直さなければなりません。
サンドスターRでは埋め合わせることができず、自力でなければ直せないもののようです。
「この辺りに四神が置かれているはずだから、それを所定の位置に置けばいいんだけど……雪が積もってるからなぁ。」
「ということは探し物ね。イエイヌ、できる?」
「わんっ!お任せください!……と言いたいのですが、まずどういうニオイか分からないと。」
「そうだね。とりあえずアタリをつけて掘り出そう。」
「でしたら任せてください。穴掘りは得意ですから。」
辺りは暗く、山がすっぽりと雪に覆われてしまっている以上、探し物はイエイヌちゃんの鼻だけが頼りです。
キュルルくんは元々四神が置かれていた所へ案内すると、イエイヌちゃんは丹念に地面のニオイを辿ります。すると、何やら反応があったようです。
「この辺りから、少し変わったニオイがします。掘ってみますね。」
「ご、ごめん。何から何まで……。」
「平気です。それより、褒めていただけるとうれしいです。」
「ありがとう、イエイヌちゃん。」
「あなたがいてくれて助かったわ。」
イエイヌちゃんは尻尾を振って気持ちを伝えながら、雪を掘り進めます。やがて地面が見えてきた時、一枚の欠けた石板が雪の中から顔を出しました。
「これ、でしょうか?」
「これだよ!これがあと3枚あるはずだ!」
「やったわね、イエイヌ!これならバッチリ?」
イエイヌちゃんはウインクをしました。その得意げな様子にカラカルちゃんもニッコリです。
「でも少し欠けてるな。地震のせいかな。」
「どうすんの?直せる?」
「それをぼくに聞く?」
キュルルくんが念じると、欠けた石板はみるみる四角形の形に復元されます。どうやらこの石板はサンドスターRで直せるようです。
「ぼくはこれを元の場所に置くから、二人は残りの四神を探して。」
「うん!」
「わんっ!」
イエイヌちゃんがニオイを覚えたため、探すコツはつかみました。これなら、直にフィルターの修理も終わりそうですね。
キュルルくん達が苦心する一方で、ともえちゃん達の方も苦しい状態でした。
アムールトラちゃんとセルリアンの戦いが激しく、こちらを見向きもしません。近づこうにも雪に気を付けなければならないため、スピードを出せません。
「セルリアンをおびき寄せなきゃ!」
「セルリアンハ、太陽ノアル方ヘ向カウ性質ガアルソウダヨ。ライトヲ向ケレバ、誘イ出セルカモシレナイ。」
「そうなんだ。よーし。」
ともえちゃんは照らしていたライトを何とかセルリアンに向けようと何度か方向を変えながら進みます。
すると、ようやくセルリアンの視界にライトが入り、セルリアンがそれに注目し始めました。
「やったぜ、ともえ!」
「後はこっちに近づいてくれれば……。」
ここまでは手はず通りですが、アムールトラちゃんはそんなことを知りません。スキを見せたセルリアンに向かって再びパンチを繰り出します。
「ガウゥッ!」
野生解放しているのか、するどいパンチがセルリアンをえぐります。しかし、セルリアンの方もサンドスターロウを吸収してすぐに復元を行ってしまいました。これでは元の木阿弥です。
バイクのライトよりもアムールトラちゃんのかがやきの方が気に入ったのか、セルリアンはアムールトラちゃんの方に向かいます。
「おい!結局こっちこないじゃん!」
「アムールトラちゃーん!逃げてー!戦っちゃだめー!」
ともえちゃんの叫びも空しく、アムールトラちゃんは戦いをやめようとはしません。
すると、セルリアンの振り回した足がアムールトラちゃんを大きく吹き飛ばします。
「がっ……!」
宙を舞い、雪に埋もれたまま動かないアムールトラちゃん。このままではセルリアンの餌食になってしまいます。
「アムールトラちゃん!」
ともえちゃんはもう居ても立っても居られず、バイクを降りて走り出していました。そして何とか雪に埋もれたアムールトラちゃんの体を掘り起こしました。
しかし、アムールトラちゃんの周りに来てしまったからには、今度はともえちゃんがセルリアンに襲われる番です。セルリアンは二人まとめて食べようと足を振り上げます。
思わず目をつぶったその時、バイクのものより強い光がセルリアンを照らしました。トラクターに乗ったボスです。ボスはセルリアンを照らすと、『ついてこい』と言わんばかりにゆっくり旋回し、下山します。セルリアンはそれに追従して歩き出しました。
なんとか助かった……ほっとした様子のともえちゃんの前に、ゴマちゃんがやってきます。
「ボスが引き付けてる間に行こう!アムールトラはおれが運ぶ!」
「うんっ!」
ともえちゃんはアムールトラちゃんをゴマちゃんに預け、急いでバイクに向かいます。
バイクの乗り方を変え、ゴマちゃんは運転席に座り、サイドカーにはアムールトラちゃんとそれを介抱するともえちゃんを乗せます。
「アムールトラちゃんを安全な所へ……。」
「下山スルヨ。湖ノ辺リナラ、セルリアンモ手ヲ出セナイヨ。」
「そうだね。お願い。」
ラモリさんはバイクをスタートさせます。バイクは自動運転で先へ進みます。無事に湖まで辿り着ければよいのですが……。
その頃、ようやくキュルルくんは最後の四神を設置することに成功しました。
すると、噴火口がみるみる細かい網目状のネットのようなもので覆われてゆきます。
「わあ!すごいです!」
「これでサンドスターロウが漏れることはないはずだ。」
「見て!雪も止んだみたい!」
カラカルちゃんに言われて空を見上げると、確かに今まで降り続いていた雪はぴたりと止んでいることが分かりました。
しかし、同時に空から小さなセルリアンが飛来して来るのも見えてきました。地上からも同じサイズのものが何体かやってきます。
「こんな時に邪魔なヤツらね!」
「仕方がない。数も大きさも大したことないし、倒しながら進もう。」
「大したことない、ですか?」
イエイヌちゃんは少し不安げにキュルルくんに聞きます。するとキュルルくんは、心配無用とばかりににこりと笑いました。
「うん。大したことないさ。ぼくとカラカルならね。」
「見せてあげるわ!」
そういうと、カラカルちゃんはしゃがみながらセルリアンを待ち伏せ、呼吸を抑えてセルリアンをしっかりと見据えます。
「野生解放!」
それが射程範囲に入ると目を光らせて野生解放をしつつ、素早くジャンプ!あっという間にセルリアンに乗っかり、いしを破壊します。野生解放とは、フレンズの能力を飛躍的に高める、フレンズ特有の能力です。使う時にサンドスターを消費するらしいので、多用は出来ません。
ぱっかーんとセルリアンが砕ける前に、素早く次のセルリアンへ。その次へ、その次へ……。次々と空のセルリアンを潰してゆきます。
このジャンプ力と敏捷性はまさにカラカルのもの。高いところにいる獲物でさえ、カラカルはその脚力でジャンプし、自慢のツメと牙で捕らえてしまうのです。
他方で、地上のセルリアンはキュルルくんが触りさえすれば、数秒で破壊することができます。
「すごい……息ぴったり。」
「イエイヌちゃん。キミはぼくが護るよ。だから、安心してともえの元におかえり。」
「キュルルさん……。」
ヒトに『おかえり』と命令されたイエイヌちゃん。以前なら、素直に聞くべきか反抗してキュルルくん達と共に戦うか迷ったかもしれません。
でも、今のイエイヌちゃんは違います。彼女はともえちゃんとこれまでの旅から教わりました。ヒトやフレンズと助け合い、困難を乗り越えることを。その先に生まれる喜びを。そして、自分にやれることを精いっぱいやることを。
「ありがとうキュルルさん。でも!」
イエイヌちゃんはキュルルくんを背負いました。
「急ぎましょう、キュルルさん。私が足になりますから。」
「イエイヌちゃん……。うん、行こう!」
そのまま破竹の勢いでセルリアンを減らし、とうとう全滅させた三人。向かうところ敵なしです。
それぞれ場所は違えど、目的地はみんな同じ湖。果たして、ともえちゃんとキュルルくんは無事に合流することができるのでしょうか?
続く
けものフレンズR1話をうpしたぞ!→けもフレ2最終回
話を作るのもだいぶ慣れてきたな!→2000年問題
この物語もいよいよ大詰めだな!→けもフレわーるど
…………。
公式にことごとく揚げ足取りされた気分ですが、ここまで来たらもうやるっきゃない。