あ、その、え~っと、皆さん初めまして……じゃないか。ナミチスイコウモリです。ナレーションをしていたおねえさんがどこかへ行ってしまったので、私が代わりをすることになりました。どこ行っちゃったのかなぁ……。
それはともかく。あのサンドスター火山での出来事から数日後。アソ……キュルルくんがやってきたのはのどかな平野。ロバちゃんとブタちゃんの畑が広がっています。あの後、二人のお野菜を仕入れたいっていうオオミミギツネちゃんの注文があったおかげで、お野菜をたくさん持って行かなきゃなきゃならなくなったんだって。
でも、手持ちのお野菜にも限りがあるから、そろそろ畑に種を植えてまた作らなきゃ。そこで畑を耕す必要があるみたい。とくれば、ジャパリトラクターの出番ってわけ。
まず、ロバちゃんは耕してほしい畑を教えてくれたよ。
「えっと、この畑を耕したいのですけど。」
「任せて!ラッキーさん。確か耕作用のアタッチメント、あったよね?」
「マカセテ。トレーラーヲ開ケルカラ、待ッテテネ。」
ボスはジャパリトラクターを操作して、けん引していたトレーラーのフタを開けたよ。重々しく開いたトレーラーから、キュルルと一緒にロータリーのアタッチメントを運びだしてトラクターのリア部分に取り付け。ツメみたいにトガッてる丸いのがたくさんついてて、その後ろに平たい板がついてる大きなものだったけど、これがどう動くんだろ?
出来上がったジャパリトラクターは、後ろの部分だけやたらゴツくていかめしい車になっちゃった。キュルルくん曰くツメのついたローラーで地面を掘って、掘り返した土をすぐ後ろについてる均平板で平らにする仕組みなんだって。
「で。次は耕運だよね?」
「ソウダヨ。」
「じゃあ、ぼく!ぼく!ぼくにやらせて!」
キュルルくんシュバッと立候補。それからは、ボスから受ける手ほどきをめっちゃ真剣に聞いてるよ。そんなにやりたいんだね~。
あの子が悪目立ちするせいで一人だけ興奮しているように感じるかもしれないけど、実はロバちゃんとブタちゃんもちょっぴり興奮してたんだ。
「なんだか楽しみだね、ロバちゃん。」
「ちょっとドキドキします。」
ジャパリトラクターの発進を心待ちにする二人。ま、無理もないよね。こんなおっきな機械、初めて見るんだもの。
みんなの期待を背負って、ついにジャパリトラクター前進!ガチャガチャガリガリギュルギュルと聞くに堪えない音を出しながら荒れた畑の中に着くと、ロータリーを降ろしていざ耕運開始。
するとまあ、なんとも見事なこと。ロータリーのツメがぐるぐる回るたび、草の根ごとざっくざくと土を掘り返しちゃった。
「うおー!すごいすごい!ざっくざく掘れてるよ!」
「わあー!すばらしいです!」
「こんなの見たことありませぇ~ん!」
自分達で掘るよりもダンゼン早いトラクターのおシゴト。ヒトってこんなすごいもの使ってたんだね。
え?土を掘り返したらそのままほったらかしかって?心配ご無用。均平板でざーっと平らにしてならしちゃうから。
「タイヤのアト、残さないようにしなきゃ。」
「僕ニマカセテクレレバ、アトモ残サズ確実ニ、耕運シテミセルヨ。」
「大丈夫!ぼくだって、一筆書き得意だもん!」
キュルルくんはコースを考えながら、トラクターを進めて耕していったよ。
最初こそなんかぎこちない感じだったけど、操作するたびにどんどんノウハウを吸収してこなれてゆくキュルルくん。そのおかげでジャパリトラクターの通ったところは、み~んなまっ平らに整地されちゃった。確かにすごいけど……。
「なんだかうるさいですね……。」
「私達、もっと静かにやりたいです……。」
「確かにちょっとうるさいかも……。」
耳をふさぎながらトラクターを見学するフレンズのみんな。耳がいいと大変だよね~。私はこんな身体でよかったよ。
「ロバちゃん、ブタちゃん!どうかな?すごい効率でしょ!」
「そうですね~。とても助かります~。」
「ずっとお任せしたいくらいですぅ~。」
「あははっ。そうでしょそうでしょ?これぞジャパリトラクターの本領!」
みんなに褒めちぎられて、すっかり舞い上がっちゃったキュルルくん。あんまり調子に乗らない方がいいんじゃない?
「もう、クワなんて比べ物にならない効率!これぞ農業改革!文明の利器の力!このまま畑を広げて、もっともっと大きな、大農場にしちゃおうよ!」
「キュルル。フレンズノ生活ニ、アマリ干渉スルノハ、ヨクナイヨ。」
ほらね。ボスに怒られた。
カラカルちゃんも何か言ってやってよ。
「おーい、キュルルー!別の畑を見たり、リョコウバトを迎えに行かなきゃいけないのも忘れないでよー!」
「分かってるってばー!」
カラカルちゃんの言葉にも生返事。キュルルくんはのびのびと羽を伸ばして、耕運作業を楽しんでるみたい。なんか、素のキュルルくんってあそび好きな子って感じだよね~。
でもこれ、一応おシゴトだと思うんだけど、こんな調子でいいのかな?
「あっはははー。うわーい!たーのしー!ふふふ。」
……ま、楽しそうだからいっか。
おしまい
12話のあとがきで「別人の可能性を匂わせた」と書きましたが、それにしたって公式のキュルルがあまりにも救いがなく、その上本作でも散々な目に遭った子でした。
なので、せめて楽しく過ごしているところを書こうと思い、12.1話を作りました。
けもフレファンの合言葉「たーのしー」もあんまり入れられてなかったので、その埋め合わせの意味も。