まだAパートを読んでいない方は、先にそちらをお読みください。
スケッチの場所を求めてやってきた竹林地帯「アヅアエン」。
ジャイアントパンダちゃんがねどこにしている公園でともえちゃんにとつじょ、いへんがおこります。
「……。」
「と、ともえさんひょっとして……?」
「え?なにかあったんですかともえさん?」
「あ、実はいろいろあって……。ともえは自分の記おく探しをしてて、スケッチにかんけいあるとこにくるとなにか思い出すみたいなんだよ。」
「記おく……?わすれっぽい人なのですね?」
ともえちゃんは、まるで頭の中のもやが取れてなにかがめざめるような、ふしぎな感覚におちいります。
――鬱蒼と茂った竹林の中。鳥がさえずり、竹の葉の隙間から漏れる木洩れ日が地面を照らしている。
ともえは偶然にも竹の遊具が置かれた公園にやってくる。ベンチには眠りについたジャイアントパンダが一人。その寝姿がどこか愛らしく思え、彼女は公園と共にスケッチする。
ともえがスケッチを描き終えると、後ろから小さな青い球体のような物体……セルリアンが襲ってくる。
「たす……!」
ともえは助けを呼ぼうとして口をつぐんだ。あのフレンズを起こして挟み撃ちにされれば、自分等ひとたまりもない。敵を増やしてはならないのだ。他人からすれば杞憂でしかないように思えるが、彼女はそれほど自分以外の者を信用していなかった。
追い詰められたともえは、近くにあった竹を折り、即席の武器を作る。彼女は知っていたのだ。セルリアンはいしの部分を壊されると、自らも砕け散ってしまうことを。
「えいッ!」
ともえは気合と共に竹槍をセルリアンのいしに突き刺す。いしは砕け散り、それを追うようにセルリアンもまた砕け散ってしまった。
全身全霊の一撃を見舞い疲労したともえは、肩で息をつきながらも勝利を確信する。
「やった……。一人でもやれたんだ……。」
ともえは満足そうに微笑む。
すると、ジャイアントパンダは寝ぼけたのか寝返りを打つ。それを見たともえは、彼女が目を覚ます前に速やかにその場を後にした。――
一連の記おくを思い出し、ともえちゃんははっと目を覚まします。
「そんなことがあったんだ……。」
「今度はどんなことを思い出したんですか?」
「んと……。あたし、ここでジャイアントパンダちゃんをスケッチしたみたい。でもその後セルリアンにおそわれて……。」
「にげたのか?」
「ううん。そこにあるような、細ーい竹を折って竹ヤリにしてやっつけたみたい。」
ともえちゃんの指さしたところには、確かに周りと比べると細くたよりない竹がこじんまりと生えています。こんなものでもブキになるのですね。
「ジャイアントパンダさんには助けを求めなかったんですか?」
「うん。なんか……こわいって思ってたみたい。」
「こわい?あんな寝てばっかのやつが?」
ともえちゃんはだまってうなずきます。イエイヌちゃんとゴマちゃんは思わず首をかしげてしまいました。それもそのはず、今ではフレンズ大好きで、逆に好きすぎてフレンズをこわがらせてしまうほどのともえちゃんが、昔はフレンズ嫌いだったというのですから。これも記おくそう失のせいなのでしょうか?
ところで、親友を“寝てばっか”と評されたレッサーパンダちゃんは一言ゴマちゃんに物申したいことがあるようです。
「こほん。あのですね、ロードランナーさん。ジャイアントパンダちゃんは、ふだんはあんな寝てばかりですけど。いざって時はビシッと決めるんですよ。」
「ほんとかなぁ~?」
「うーん……。なんだかあたし、この子のことがすごく気になってきたよ。」
ともえちゃんはジャイアントパンダちゃんと目線を合わせます。しかし、ジャイアントパンダちゃんは全く目を覚ます気配がありません。一体、何が彼女をぐ~たら生活にかり立てるのでしょうか?ともえちゃんはしばし思案します。
「……あたしもマネして寝てみよっかな。おやすみ。」
「っておい!いきなり寝るやつがいるかよ!次の記おく探しは!?」
「今のあたしはジャイアントパンダちゃん~。今のあたしはジャイアントパンダちゃん~。」
「えぇ……。」
ともえちゃんは突然、パンダちゃんのマネをして寝っ転がってしまいました。まだ日の高いお昼なのにもかかわらずです。
呆れたゴマちゃんにはイエイヌちゃんしか頼れる人がいません。
「イエイヌ!なんとか言って……。」
「今のわたしもジャイアントパンダさん~。今のわたしもジャイアントパンダさん~。」
「えぇ……。」
なんということでしょう。イエイヌちゃんも大親友のともえちゃんに従い、ジャイアントパンダのマネをしてしまいました。
こうなっては、会ってそれほど間がありませんが、もはやレッサーパンダちゃんと協力する以外に二人の目を覚まさせる方法はありません。
「レッサーパンダ!二人を起こして……。」
「ぐぅ~……。」
これは悪夢でしょうか。この場の誰もが、ジャイアントパンダちゃんのようにそこら中に寝っ転がってお昼寝を始めてしまったではありませんか。
このおかしな光景にゴマちゃんは開いた口がふさがりません。一方でボスは無言です。そのサングラスの向こう側ではどんな表情をしているか、まるで読み取れません。
「こ、こ……こんなの……。」
ゴマちゃんはありったけの声でさけびます。
「こんなの絶対おかしいよーッ!」
ジャイアントパンダちゃんの気持ちを知るためとはいえ、ともえちゃん達の行動は大変にたいはい的でした。草むらや遊具に寝っ転がってすやすやとねむり、時々寝返りを打ってはまたねむり……。気づけば日はとっぷりと暮れてしまっています。まだこんなことを続ける気なのでしょうか?
「ふぁ~……。」
ふと、ジャイアントパンダちゃんはむくりと起き上がりあくびをします。このあくびに気づいたともえちゃんもあくびを一つかきます。
「あ~、みなさんお昼寝ですか~?遊び疲れたんですね~。」
「ジャイアントパンダちゃんおはよ~。あなたのことを知りたくて、あたし達もパンダ生活をしてみよっかな~って……。」
「ふあ~、大変ですね~。よっ……と。」
ジャイアントパンダちゃんはおもむろに立ち上がり、とぼとぼと歩き始めます。気になったともえちゃんは声をかけました。
「おでかけですか~?」
「はい~。ジャパリまんを食べに~。」
「あたしもついて行っていいかな~?」
「どうぞ~。」
どうやらお食事タイムのようです。ともえちゃんはみんなを起こし、ジャイアントパンダちゃんといっしょにご飯を探しに歩きだしました。
ジャイアントパンダちゃんのゆっくりと歩きながら竹林のおくへと向かいます。しかし、ジャイアントパンダちゃんの歩みは本当にゆっくりなので、ひょっとしたらたいして進んでいないかもしれません。
ともえちゃん達もその歩き方につられながら歩いていると……。
「あ、ジャパリまんのニオイがします。」
「そろそろですね~。」
イエイヌちゃんの鼻に反応があったようです。さらに歩いてみると何やら歌のような放送が聞こえてきます……。
「石焼キ~ジャパリ~、石焼キ~ジャパリ~。サアサアオイシイデスヨ~、オイシイオイシイ石焼キジャパリマンデスヨ~、出来タテノホッカホカデスヨ~。」
なんとラッキービーストがワゴンを引いているではありませんか。石がぎゅうぎゅうに詰まったワゴンの中には、ジャパリまんがいくつか入っています。
「ボス、二つもらいま~す。」
ジャイアントパンダちゃんは、ワゴンに積まれたジャパリまんを二つ取りました。
「ラッキーさん、あれって?」
「ジャパリマンヲ作ッテ売ルコトニ全テヲソソグ、通リスガリノジャパリマン売リダネ。ヒトノオ客様ガイタ昔ハ、キット売リ子トシテ働イテイタンダネ。」
「一ついただきます。」
「ともえさんの分も。」
「一つくれよ。」
レッサーパンダちゃん、イエイヌちゃん、ゴマちゃんも同じようにジャパリまんをワゴンから取ります。それでも売り子のボスは気にせず放送を続けます。
「今デハヒトガホトンドイナイシ、フレンズガ勝手ニジャパリマンヲ持ッテ行クカラ、ジャパリマン配給係ミタイニナッテイルネ。カレハコワレルマデズット、アアシテジャパリマンヲ作ッテハ売リニ行クコトヲ、クリカエスンダロウネ。」
「ふーん、なんだかかわいそう……。」
「ソウ思ウナラ、残サズ食ベルコトダヨ。」
ボスのサングラスがきらりと光ります。
ともえちゃんはイエイヌちゃんからジャパリまんをもらうと、売り子さんへの感しゃを忘れずにジャパリまんをほおばりました。
売り子さんからもらったジャパリまんはまさに絶品です。出来たてをうたうくらいなので中身はとっても熱いですが、お肉のジューシーさも、タケノコや玉ねぎといった野菜のバランスも、塩分の具合も申し分ありません。ジャイアントパンダちゃんでなくても気に入って通い続けてしまいそうです。
おいしいジャパリまんにみんなが舌つづみを打っていると……。
「ガルルゥアアアアァァァァッ!」
どこかからとつぜん、何かがほえたける声が聞こえました。
「今、あっちから声が!」
「ジャパリまん売りさんが行った辺りかな?」
「仲間ガ……ピンチカモ……シレナイ。」
ボスの声を聞いたともえちゃんは、不安を感じました。ふだん自分のことを口にしないボスが仲間のピンチをうったえるのは、きっとよほどのことが起こったのでしょう。
「行くよ、ラッキーさん!みんなは待ってて!」
「ともえさん、わたしも行きます!」
「お、おれも~。」
「ジャイアントパンダちゃん、わたし達も!」
「は~い。」
ともえちゃんもボスもほうってはおけないと、みんなは音のした方へ走ってゆきます。
平和な竹林にとつぜんのおたけび。一体、何が起こったというのでしょうか?
声のした場所にかけつけたともえちゃん達が見たものは、散らんしたジャパリまん、たおれたワゴン、おびえるラッキービースト、そして……。
「アワワワワ……。アワワワワ……。」
「あれって……フレンズ?」
黄色と白のかみに黒いしましまのトラもようがきざまれており、黒いベストとワイシャツを着込み、しましまのしっぽのついたフレンズがそこにはいました。フレンズならば恐らくは、ほにゅう網ネコ目ネコ科ヒョウ属のアムールトラちゃんのはずです。彼女はジャパリまんをガフガフとほおばっています。
「あっ……き、気をつけてください!あれは……。」
イエイヌちゃんが言い終わる前に、ともえちゃんはすばやくスケッチブックを開きます。こんな時でも彼女は平常運転です。
「めっちゃ絵になる~!」
「と、ともえさん!」
「そいつビーストだぞ!」
「ビースト?」
売り子のラッキービーストをにがしてあげつつ、ビーストについてボスが解説します。
「ビーストトハ、サンドスターニヨッテ生マレル時ニ、ナンラカノ原因ニヨッテリセイヲ失イ、トウソウホンノウガ暴走シテシマッタフレンズダヨ。」
「そいつは近づくものになんでもおそいかかるんだ!あぶねーぞ!」
「でももともとはフレンズだったんでしょ?だったらこわくないよ。ねっ?」
「ウ……。」
ともえちゃんはアムールトラちゃんの頭をなでなでします。
一方で、アムールトラちゃんはともえちゃんの行動にとまどっているようです。自分を見てもにげないなんて、こんな子は今まで見たことがないと思っているのかもしれません。
「あれ~。あれってビーストさんですか~?」
「み、みなさん!なんでビーストといっしょにいるんですか!?」
遅れてきたジャイアントパンダちゃんとレッサーパンダちゃんもおどろいています。アムールトラちゃんは本当ならあぶないフレンズのようです。
「だいじょうぶだよ~。おとなしくってかわいいフレンズだから。」
「ほんとか……?」
そう思ったゴマちゃんはこわごわアムールトラちゃんに近づきます。しかし、彼女が近づくとアムールトラちゃんはいかくし始め、今にもとびかかりそうな体せいを取ります。
「グウウゥゥゥ……!」
「ひっ。」
「ビーストちゃん!動いちゃダメ!」
ともえちゃんがたしなめている間に、ゴマちゃんはすばやくイエイヌちゃんの後ろにかくれました。
「ところでラッキーさん、これってなんのフレンズ?」
「アムールトラダネ。アムールトラハ、トラノ中デモ北国ノ出身デ、毛ガフサフサデ長イノガ特チョウナンダ。」
「ほんとだ~。ふさふさしててあったかそ~。」
スケッチをしながら、ともえちゃんはアムールトラちゃんのかみをなでてあげます。なでられた本人は特に何もすることはなく、なすがままにされているようです。
「なんだかヘイキみたいですね~。安心しました~。」
安心したジャイアントパンダちゃんはふたたびねむりにつきます。
「ぐぅ……。」
「こんなとこでもねるのかよ……。」
「……よし、できた!はい、これあなたにあげる。」
ともえちゃんはアムールトラちゃんに完成したスケッチをわたします。彼女はしげしげとスケッチを見ています。その表情からは気に入ったかどうかは分かりません。
やることを終えたところで、ともえちゃんはそろそろパンダ生活にもどるようです。
「じゃ、おやすみ~。」
「おやすみなさい~。」
「すやすや……。」
「じゃあ死んだふりってことで……。」
「……?!」
一斉にばたりとねむりにつくフレンズ達にアムールトラちゃんはぎょうてんしてしまいました。テキの前でにげもせずねむってしまうなんて、自分には理解できません。なんだかこわくなったアムールトラちゃんですが、とりあえずともえちゃんのマネをしてねむってみることにしたようです。
こうして、全く違うフレンズ達が集団でねむるという、きみょうな光景が広がることになってしまいました。これからどうなることやら……。
続く
あまりにも長かったのでパートを3つに分けました。
満を持してビーストことアムールトラちゃん登場です。最終回の扱いがアレだったので、さすがに救済したくなりました。頑張って助けます。
でもいきなり周りが全員意味もなく眠り出したら、そりゃ怖いよなぁ……。