けものフレンズR 足跡を辿って   作:ナンコツ

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※これは第三話ちくりん Bパートの続きです。
まだAパートとBパートを読んでいない方は、先にそちらをお読みください。


第三話 ちくりん Cパート

 辺り一面に竹の生えた竹林地帯「アヅアエン」。

 ジャイアントパンダちゃんの気持ちを知るためとはいえ、ともえちゃん達は最もきけんなフレンズであるアムールトラちゃんの前でとつぜんねむってしまいました。予想もしていなかった行動にうろたえながらも、アムールトラちゃんはとりあえずともえちゃんに従ってねむることにしました。

 どれくらいねむっていたのでしょうか?辺りが夕ぐれに近づいたころ、ボスが大さわぎしていることにともえちゃんは気づきました。

 

「キケンキケン……キケンキケン……!」

 

 何がきけんなのかと周りを見回すと、イエイヌちゃんがとつぜんさけびます。

 

「あれですあれ!セルリアンです!」

「セルリアン!?」

 

 イエイヌちゃんが指さした方を見ると、ちょっと太めの竹のように長く青い物体がぴょんぴょんとジャンプしながらこちらに近づいてくるではありませんか。大きさは周りの竹より少し小さいくらいでしょうか。

 

「ずいぶん細長いセルリアンだね……。」

 

 と油断してはなりません。セルリアンが近くで着地すると、ものすごいしょうげきで地面が少しグラつきます。

 

「ひゃあ!」

「うえっ!?なんだなんだ!?」

 

 寝ていたレッサーパンダちゃんとゴマちゃんもさすがに飛び起きました。

 とんだだけでこれだけ地面がゆれるなんて、こんなものにつぶされたらどうなるか分かりません。すぐににげなければならないでしょう。しかし、こんなきけんなセルリアンに立ち向かった子がいます。

 

「ガアアアゥッ!」

「アムールトラちゃん!」

 

 アムールトラちゃんです。自分に近づくセルリアンをテキと思ったのかすばやくとびかかり、こうげきをしかけながらにげます。彼女の生命力に気を取られたセルリアンは、ずしんずしんと音を立てながら彼女を追いかけてゆきます。

 

「ジャイアントパンダちゃん!起きて!セルリアンだよ!」

「う~ん……セルリアン?」

「グズグズしてるとふみつぶされるぞ!にげろ!」

「わ~。にげなきゃ~。」

 

 レッサーパンダちゃんとゴマちゃんは、寝ぼけまなこのジャイアントパンダちゃんをなんとかして起こします。

 

「ともえさん!にげましょう!」

「……あたしはのこる。」

 

 ともえちゃんは一歩も動きません。まさかアムールトラちゃんを助けるつもりなのでしょうか?

 

「ダメです!つぶされちゃいます!」

「ベイビー、ニゲルンダ。」

「でも、そしたらアムールトラちゃんが食べられちゃう!あの子をほうっておけないよ!」

 

 ともえちゃんは強く言いはなちます。他の子からすれば、アムールトラちゃんは恐ろしい子なのかもしれません。でも、ともえちゃんにとって彼女はフレンズの一人、助け合う友達なのです。

 

「んなこと言ったって、どうやってたおすんだよ!」

「レッサーパンダちゃん。たしか木登りがとくいなんだよね?」

「え?あの……そうですけど。」

「竹を登ってあのセルリアンのいしを見つけてきてほしいの。ゴマちゃんにも手伝ってほしいんだけど。」

「ええっ!む、むりですぅ~。こわいですぅ~。」

 

 レッサーパンダちゃんはおびえて泣きだしてしまいました。無理もありません。失敗したらあのセルリアンに食べられるかつぶされてしまうのですから。

 

「ごめんね……無理を言ってるよね。でも、レッサーパンダちゃんにしか頼めないんだ。」

「そんなこと言われても……。」

「おれだってこわいけど……でもレッサーパンダがおそわないようになんとかがんばるからさぁ。」

「レッサーパンダちゃ~ん。なんとかしてあげようよ~。」

「……で、でも……。」

 

 レッサーパンダちゃんはなかなか動きません。見かねたゴマちゃんは、おびえる彼女の代わりをつとめることに決めたようです。

 

「いいよもう。一人で行く!」

「気をつけて、ゴマちゃん!」

 

 ともえちゃんの言葉にゴマちゃんはサムズアップでこたえながら、セルリアンを追いかけます。

 

「その間に、あたし達はあの細い竹を切っておくの!ブキになるから!」

「折るだけならできます~。おまかせくださ~い。」

 

 ジャイアントパンダちゃんはそのわん力にものを言わせ、手のひらにおさまるサイズの細い竹を次々と手刀で割ります。これで割った竹は全部で6本。これらを竹ヤリにしてみんなが持てば、ブキとして使えるでしょう。

 

「じゃあ、ジャイアントパンダちゃん。これ全部、ナナメにトガるようにしてくれる?あまった竹は食べてもいいよ。」

「いいんですかぁ!?」

 

 ジャイアントパンダちゃんは目をかがやかせます。竹と言えばもともとパンダの好物。食べながら仕事ができると聞いてやらない理由はないようです。

 ジャイアントパンダちゃんは先がトガるように気をつけながら竹を割り、竹ヤリの調整をします。どうやら彼女は本当にレッサーパンダちゃんの言う通り、“いざという時はビシッとやる子”のようです。

 

「よし!これを投げつけて、トガった部分をいしに当てればきっとたおせるはず!」

「わ、わたしがやりますっ!」

 

 レッサーパンダちゃんがまっさきに志がんします。先ほど泣いていた子がいったいどうしたというのでしょうか。

 

「やらせてください。わたしの代わりに行ってきたロードランナーさんを……助けたいんです。」

「そっか……。おねがいね、レッサーパンダちゃん!」

「レッサーパンダちゃ~ん、がんばって~。」

「う……うんっ!」

 

 レッサーパンダちゃんは意外と責任感が強い子だったようです。みんなの応援を背に受け、できたばかりの竹ヤリを持ってゴマちゃんの元へと向かいます。

 

「この調子で人数分作ろう!ゴマちゃんとアムールトラちゃんとレッサーパンダちゃんと……みんな助けなきゃ!」

 

 ともえちゃん、イエイヌちゃん、ジャイアントパンダちゃんは共にうなずきました。

 

 

 一方、ゴマちゃんはアムールトラちゃんとセルリアンからきょりを取りつつ、セルリアンをかんさつします。後ろに回りながら飛び、上を見上げてみるといしのようなものを見つけました。どうやら背中側にいしがついているようです。

 するととつぜん、セルリアンが後ろにジャンプしました。アムールトラちゃんのこうげきをかわすつもりだったのでしょうか。ゴマちゃんはなんとかかわしながら竹にしがみつきます。

 

「あぶね~……。」

 

 ふぅと一息ついたところに、下からレッサーパンダちゃんの声が聞こえてきます。

 

「ロードランナーさん!」

「レッサーパンダ!」

 

 ゴマちゃんが目にしたのはレッサーパンダちゃん……とその手に持った竹ヤリです。

 

「……なんだそれ?」

「このトガった部分をいしに当てればたおせるはずってともえさんが!」

「ふーん。けど、いしはあいつの背中の高いところにあるから、ちょっととおいかも……。」

「わたしが木登りで近づいて投げつけますっ!」

「おお、なるほど。」

 

 レッサーパンダちゃんは言うが早いか、あっという間にゴマちゃんを通りこすはやさで竹を登り、片手で竹につかまり、もう片方の手で竹ヤリを持って狙いを定めます。なかなかに器用な子です。

 

「えいっ!」

 

 こんしんの力を込めて投げつけますが、ねらいは外れてしまい、竹ヤリは落っこちてしまいました。ゴマちゃんは飛びながら竹ヤリをキャッチし、着地します。

 

「おしいぞー!」

「が、がんばります!」

 

 レッサーパンダちゃんはすみやかに竹を下り、ゴマちゃんから竹ヤリを受け取ります。

 そこへようやくともえちゃん達が合流しました。

 

「レッサーパンダちゃーん!ゴマちゃーん!アムールトラちゃーん!だいじょうぶ~!?」

「ともえ~!心細かったよ~!」

 

 ゴマちゃんはいきなりともえちゃんにだきつきます。ともえちゃんはゴマちゃんをねぎらうようにだきかえし、背中をぽんぽんとたたきます。

 

「ありがとゴマちゃん。じゃ、みんな行くよ!」

「はい!」

「がんばります~。」

 

 イエイヌちゃんとジャイアントパンダちゃんの両手には竹ヤリがにぎられています。二人はこれをゴマちゃんと、アムールトラちゃんに投げてわたします。これらをブキにして6人はセルリアンに立ち向かいます。果たしてみんなはこのセルリアンをたおすことができるのでしょうか?

 

 

 とうに日がくれた竹林。そこではセルリアンとともえちゃん達の戦いが続きます。

 竹ヤリを投げては拾い、たたきつけ、つきさし、それでもセルリアンは動じず、ともえちゃん達をふみつぶしにかかります。この戦いの様子をボスはだまって見ていました。

 

「……。」

 

 動物は本来、せっきょく的に争おうとはしません。それぞれのなわばりをおかさないように、あるいは近づかせないようにきょりを取り、どうしてもという時にしか戦いません。

 ですが、ともえちゃん達は今、力を合わせてセルリアンをたおそうとしています。それもみんなからおそれられているアムールトラちゃんを助けるために……。

 

「ドウシテミンナ、ニゲナインダロウ……?セルリアンハキケント、分カッテイルハズナノニ……。」

 

 ボスには分かりませんでした。生たい系をおかさないように見まもるべきか?それとも共に戦うべきか?

 セルリアンはフレンズの命をおびやかすテキではあります。しかし、これを自然さい害とみるなら、自分達ガイドがかいにゅうしてはならないのではないか?それは生たい系にえいきょうをあたえることになるのではないか?それにこたえてくれる主人は、今はどこにもいません。

 

「ケンサクチュウ……ケンサクチュウ……ケンサクチュウ……ケンサクチュウ……。」

 

 ボスは必死にこたえを探します。探しすぎて体がヒートアップし、ぶるぶるとふるえ出します。これではしょりが追いつかずにこわれてしまうでしょう。

 ですがしかし、それがスイッチとなりました。

 

「……定義ニ従イ、緊急処理モード起動。」

 

 とつぜん、ボスの体がもえるような赤色に変わり、しっぽから何でもつかみ取れそうなアームが生えてきました。一体ボスに何があったのでしょうか?

 

 

 その一方で、ともえちゃん達の戦いは続きます。ともえちゃんはもう一度、竹ヤリを投げつけます。

 

「えいっ!」

 

 しかしそのきょりは半分にも足りません。

 ここまで竹ヤリでセルリアンの根元をこうげきしていたパンダちゃんとアムールトラちゃんも、息が上がりはじめています。いっしょに竹ヤリを投げつけていたイエイヌちゃんとゴマちゃん、レッサーパンダちゃんもつかれが見えてきました。

 これ以上はもうげんかいなのでしょうか。あきらめの文字が頭にうかびはじめたその時です。

 

「トモエ!ドクンダ!」

「えっ?ラッキーさん……?」

 

 後ろからとつぜん声をかけられ、おどろくともえちゃんをしり目に、ボスはすばやく竹ヤリをアームで拾います。そしてそのまま、レッサーパンダちゃんにもおとらないはやさで竹を登ります。ふつうならツメも立てずに木を走るなどできるはずがありませんが、ボスの足はまるで竹にすいついているかのようにくっついています。

 ボスは竹のてっぺんまで登ると、セルリアンの方を向き直し、竹ヤリを持ったアームの角度を調整します。

 

「ターゲットロック……角度調整……軌道修正……。」

 

 サングラスに表示されたデータをかくにんしながら、ボスはセルリアンのいしにねらいを定めます。

 

「照準固定完了。発射。」

 

 ボスは勢いよく竹ヤリを投げつけました。竹ヤリはねらいあやまたず、セルリアンのいしに命中。いしはパッカーンとくだけちり、セルリアンもくだけてしまいました。

 

 

「はぁ……はぁ……。」

 

 ともえちゃんがかたで息をしているところに、真っ赤なボスが目の前にやってきました。

 

「……コレキリダ。」

「えっ?」

 

 ボスのむき質な声がひびきます。たしかにそれは今までどおりの感じです。しかし、今のボスの声はいくらかあたたかみを感じます。まるでヒトのようです。

 

「コンナ無茶ハモウコレキリダ。マタセルリアンニオソワレテモ、ボクガスルノハヒナン指示ダケダ。セルリアンニ会ッタラ、絶対ニニゲルコト。ワカッタナ、トモエ。」

「そんな……。」

 

 ともえちゃんはやくそくできない、と思いました。これからも友達がきけんな目にあうことはきっとあるでしょう。それを見て自分は、セルリアンに食べられそうな友達を見捨ててにげなければならないのでしょうか?そう考えるとやくそくはできません。

 しかし一方で、ボスの考えも分かるのです。ボスの役割は自分達ヒトをガイドすること。そのためにヒトの安全をゆう先することは、ガイドの一番の使命なのです。それにそもそも、ともえちゃんの行動はあまりにも周りをふりまわしすぎていました。そのことは反省すべきかもしれません。

 いろいろと言いたいことはあります。ですが今は、自分達を助けてくれたボスに感しゃし、その見返りにおねがいを聞いてあげるべきでしょう。ともえちゃんはそう感じました。

 

「そうだね。わかった。」

「ワカレバイインダ。」

 

 そのこたえを聞いて安心したのか、ボスはアームを引っこめます。すると自分の色もみるみる青色にもどってゆきました。どうやらこれで元通りのようです。

 

「はぁ~、つかれました~。」

「ひと安心です~。」

「ふぅ~。」

 

 一番がんばっていたジャイアントパンダちゃんとレッサーパンダちゃん、ゴマちゃんは真っ先にたおれこみ、そのままねむってしまいました。

 

「もうみんなでねちゃおっか~。」

「そうですね~。」

「がうぅ……。」

 

 つかれ果てたみんなはなかよくねむってしまいました。

 せんしの休息、今はそっとしておいてあげましょう。きっとよい夢をみていることでしょうから……。

 

 

 翌日、アムールトラちゃんはどこかへ去ってしまったようでした。

 しかし、ともえちゃん達はその後もけい続してパンダ生活を続けます。朝は遅く起き、ジャパリまんをかじりつつねむり、お昼になってもまだ寝続け、またジャパリまんをかじり……。のぼったばかりだと思っていたお日様は少しずつかたむき、気がつけば夕方になろうとしています。

 

「あ~……。ひょっとして、もうすぐ夕方かぁ~。」

「ともえさん、いかがでしたか?ジャイアントパンダさんの気持ち、分かりましたか?」

「うん……。とりあえず、ひとつだけ言えることがあるよ。」

 

 ともえちゃんはさとりを開くかのように目をつむり、深呼吸をして一言。

 

「あたし達、こんなことしてちゃだめだよ!」

 

 ともえちゃんはとうとう気づいてしまいました。

 

「やっと気づいたのかよ……。」

「やっぱりジャイアントパンダさんのくらしは、ジャイアントパンダさんにしかできないことなのですね。」

「これもきっと、“フレンズによって得意なことはちがう”ってことだと思う。少なくとも、あたし達はできないし、やっちゃいけないことだった。」

 

 ともえちゃんは体の大きさやとくぎやしゅうかんだけでなく生活そのものですら、それぞれのフレンズにしかできない“フレンズによって得意なこと”だと解しゃくしたようです。ひょっとしたら、ジャイアントパンダちゃんの生活はジャイアントパンダちゃんにしかできない生活なのかもしれませんね。

 

「ジャイアントパンダちゃん!あなたほめられちゃったよ!」

「ふあ~い。ありがとうございます~。」

 

 ほめたのかどうかは分かりませんが、これ以上ここにいても仕方がないことはともえちゃんも理解できたようです。

 

「ということで、あたし達そろそろ行かなきゃ。」

「そうですか。ではまたいつか。」

「あっ、でもその前に……。」

 

 ともえちゃんはスケッチブックを開きます。

 

「やっぱり二人のスケッチもしなきゃね!めっちゃ絵になる~!」

「じゃあ、寝姿でお願いします~。」

「おながいします~。」

「だいじょーぶ!め~っちゃ、まかせて!」

 

 ジャイアントパンダちゃんと共にくらしてわかったこと、そして昨日、泣き虫のレッサーパンダちゃんが見せてくれたゆうきを見た時の感動。その全てをスケッチブックにぶつけるかのように、ともえちゃんは二人のスケッチを進めます。

 やがてスケッチをかき終え、ともえちゃんは満足した様子で完成したスケッチを二人にわたします。

 

「はい、どうぞ!」

「わあ、ありがとうございますっ!ジャイアントパンダちゃん!あなたの絵だよ!かわいいよ!」

「え~……わーかわいい。」

 

 二人はとても気に入ってくれたようです。これで思い出がまた一つ増えましたね。

 しかし、ともえちゃんがかき終えたころにはすっかり日がくれてしまいました。もうすぐ夜になってしまいます。

 

「でももうすぐ暗くなっちゃいますね。」

「どうする?」

「う~ん……。」

 

 ともえちゃんはしばらく考えます。でも、すぐに答えは出ました。

 

「寝ちゃおっか?」

「はい。」

「うん。」

「どうぞ。」

「おやすみなさい~。」

 

 ということで、旅の続きはまた次回。

 

 

 

終わり




非常に長くなってしまって申し訳ないです。
ボスの設定を体色青でサングラスをつけているだけにしましたが、「ラモリさんは赤色で尻尾がアームになっている」という設定がやはり捨てがたく、緊急時にこうなる設定にして採用しました。

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