魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP16 未来への一歩

  

 

「さて、オールマイト。

 

 

 ──何か言い残すことはあるかい?

 

 

 部屋に入り、着席を促され、そのまま流れるようにお茶を出され……開口一発目で根津から遺言を聞かれたオールマイト(ver.トゥルー)は、出された茶に口をつけることなく、流れるように座ったばかりのソファーから床に膝を落とした。

 

 

 

 

「……大変、申し訳ありませんでした……!」

 

 

 

 落とした膝は自然と正座となり、そのまま美しいジャパニーズ・DOGEZA──じゃなく土下座を行い、渾身の謝罪を述べて──……から、思考を始める。

 

 

(うーん。私、なにをやらかしたんだろう?)

 

 

 げに恐ろしきはそのポーカーフェイスだ。その表情たるや、今にも首を括るか腹でも割いて詫びを入れかねない悲壮感やら決死感を相手に抱かせるだろう。

 

 

 その裏側で、とりあえず記憶を辿り、思いつくものを上げていく。

 

 

 

 まず、大前提。

 

 『受け持つはずの授業に出ていない』──いない、のだが……これは偏に、根津校長に止められたからだ。

 

 道中ヒーロー活動をしてきたものの、午後の授業の時間にはちょっとギリギリだけど十分間に合っていたし、間に合った時間でいろいろと指摘されたことを生かすために何度もマニュアルを読んでいた。

 

 そして、よぉしいくぞ! というタイミングで根津がひょっこり現れて『活動限界』を理由に待ったをかけたのだ。

 

 

(まだ結構、余裕があるんだけどなぁ……?)

 

 

 しかも実習の内容は救助訓練。基本的に何事もなければ、教師はただ見ているだけだ。だから十分に授業中は維持できると思っていたのだが……根津がなにやら活動時間を計測(計算?)していたらしく、実際あと二十分も保たないとのこと。

 

 オールマイト自身はまだだいぶ余裕があるにも関わらずそう言われたので、内心で大いに首を傾げていたのだが……根津に強く止められた上に、彼が言うならば間違いないだろうと折れたのだ。

 

 

 じゃあなんだろう、とチラリと根津を見る。その小さな体から、なんか見えちゃいけない、赤黒いオーラみたいなものが幻視できた。

 

 

(うん、オコだね。それも激──……あっれ、本当に私、なにやらかしたんだろう?)

 

 

 身に覚えが、本気でない。

 

 ……ひょっとしたら、自分が知らない内にやらかしているのかもしれないが、流石に遺言を聞かれるレベルでのやらかしが、本当に思い浮かばなかった。

 

 他の誰かなら誰か違う人との勘違い……とかあるのだろうが、根津校長に限ってそんな凡ミスはないだろう。

 

 

「ふふふ、ダメじゃないかオールマイト。理由もわからないのに謝罪なんてしたら、相手を逆に怒らせるだけだぜ?」

 

(うわぁーい、心読まれてるぅ……)

「も、申し訳ありません。出来ればその、私がなにをやらかしてしまったのか、お教えいただけないでしょうか……?」

 

 

 

 ……まず深い、それは深ーい、ため息が聞こえた。

 

 小柄な体からあふれ出ていたオーラが、一旦、鳴りを潜める。

 

 

「……そりゃあね? ボクも実際大変だと思うよ。『平和の象徴としてのヒーロー活動』そして、『雄英高校の教師としての労働』……いきなりの二足草鞋で慣れていないが故の苦労や心労もあるんだろう。それでも最近は教師の方にも注力して、いろいろと勉強したり他の先生に相談したりしてるのも聞いているよ」

 

「…………」

 

 

 

 けどさぁ……!

 

 

 

「君ねぇ……! 教師として、生徒との約束くらいは守ろうよ……しかもこの件に関しては君が一方的に迷惑をかけてる立場なんだからさぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 『生徒との約束』

 

 『一方的に迷惑』

 

 

 ハッとする……それだけ聞けば、オールマイトも流石に気付いたようだ。

 

 

「ま、まさか……早乙女少年……ですか?」

 

 

 

 オーラ・全☆開

 

 

 

「『食事は誰かと一緒に食べた方が美味しいですから』って、それはもうメチャクチャ健気に君のことを待ってたんだよ!? 時間になっても来ない、連絡も付かない君を心配してわざわざボクのところにまで来て……! 結局一口も食べなかった食事を申し訳なさそうにランチラッシュに返して……っ落ち着け、落ち着くんだボク。生徒は平等生徒は平等生徒はあああああああ……

 

 

 

 なお、その健気さにやられた教員は根津だけではなく、確認できただけでも数名いる。

 

 息を荒くしてハグしようとダイブしたところを取り押さえられた18禁ヒーローや、雄英の外にまで響いただろうボイスを両腕で必死に押さえつけたラジオDJ。醜態を晒すまいと自らセメントの中に沈んだ者などが筆頭だ。

 

 

 オールマイトが慌ててスマホを確認すると、確かに三件ほど天魔からの着信履歴がある。記憶を辿れば、タイミング悪くヴィランの捕縛や交通事故の対応をしていた時間だ。ヒーロー活動中で気づけなかったのだろう。

 

 

 

 片や罪悪感で、片や教育者としてのいろんな葛藤で、それぞれ頭を抱えて呻くという意味不明な謎空間が形成される。

 

 

 

 ──それを打ち破るように。

 

 ……それを、あざ笑うかのように。

 

 

 

 新しく導入された警備システムの警報が、雄英高校()()に鳴り響いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 前方にある広場に突如として黒い靄が湧き出し、そして埋め尽くしていく。

 

 そこから間を置かず、一人二人と……剣呑な、荒々しい雰囲気を纏う者達が続々と靄の中から姿を現した。

 

 

 一桁はあっという間に二桁へ、そして、A組の人数も軽く超えて……2倍3倍と。瞬く間に、誰もいなかったはずの広場は埋め尽くされてしまった。

 

 やがて、50を軽く超えた人数を吐き出した黒い靄は範囲を狭めていき──最後に二人、一団の中央最後尾に現して、完全に消えた。

 

 

 

 距離はある。視線など、感じるはずもないのに。

 

 

 ──ゾクリ……と。

 

 誰かの背筋が、怖気に震えた。

 

 

 

「な、なんだよあれ。まさか、また『もう始まってる』パターンか……?」

 

「うるせぇぞクソ髪。センコー達の様子見てわかれやボケが。……あのクソ男女が、答え言ってたろうが」

 

 

 切島の上擦った声に、流れる様に毒塗れの言葉を返すのは爆豪。

 

 苦々しい顔はそのままギリ……と奥歯が軋むほどに、強く噛み締める。そして、睨みつける様な鋭い目で見た先には……()()の背中があった。

 

 

(クソが……!)

 

 

 教員も含めた誰よりも早く悪意を察知し、そして、当然の如く戦列にいるその姿に……爆豪は明確な差を感じてしまった。

 

 

 

『外見特徴、完全に一致……先日早乙女君が撃退したヴィランで間違いなさそうですね。しかし、この数は……』

 

「先日は偵察、今回が本命なんだろう。13号、生徒達を引率して出入り口付近まで後退、そこで防御陣形だ。その後の指揮は任せる」

 

『後退……? 校舎まで避難した方がいいんじゃないですか?』

 

「そうしたいのは山々なんだがな……あの靄が完全に消えた。連中の中に黒靄の個性がいないだろう。恐らく、俺の……個性(抹消)を警戒してるんだろうな。USJの外に出られると俺の目が届かん。

 生徒達を人質に取られでもしたら、それこそ拙い」

 

 

 

 相澤は首に掛けていたゴーグルを目に、そして、首に幾重にも巻いていた捕縛布を伸ばし、指に挟む。

 

 ……教師から、ヒーローへ。その意識を切り替えた。

 

 

 

「俺が突っ込んで時間を稼ぐ。生徒達を頼むぞ、13号」

 

「……まっ、待って下さい相澤先生! あの人数を相手に一人で時間稼ぎなんて無理です! ただでさえイレイザーヘッドは市街地での戦闘や奇襲が主だって……」

 

 

 緊張のせいだろうか、緑谷の声はどこか悲鳴のように高く、微かに震えてすらいた。

 

 その声に、相澤は苦笑を浮かべる。自身をアングラと分析しているイレイザーヘッドは、ヒーローとしての世間認知度は極めて低い。にも関わらずよく調べている……ヒーローオタクは伊達ではないようだ。だが――

 

 

「──減点だ緑谷。ヴィランの目の前で、味方の弱点を堂々と叫ぶな。あと、よく覚えておけ、『ヒーローは一芸だけじゃ務まらん』。「苦手だからできません」なんて甘ったれた考えは捨てろ。

 

 それにな……」

 

 

 

 相澤はそういって隣……13号とは逆位置にいる生徒に視線を向ける。

 

 自分と同じく、いや、自分以上に──『黒』を纏う、その姿を。

 

 

 

 

「……()()()()? 早乙女」

 

 

 

「もちろん。

 ……ふふ、よかったです。実は、勇んで前に出たのに『お前も下がれ』って言われたら、ちょっと格好悪いなぁって考えていたところでした」

 

 

 

 声に緊張感はない。それどころか笑みを浮かべて、冗談すら交えている。

 

 姿勢も自然体だ。気負いも力みもない。だがしっかりと、意識の切り替えは行われていた。

 

 

 

 

「……確か、『オーダー』。だったか?」

 

「セリフはまだ草案段階ですけどね? ですが──『オフコース(かしこまりました)』」

 

 

 

 相澤の言葉に、天魔はどこか芝居掛かったような仕草とともに、恭しく、僅かに首肯する。

 

 ……さながらそれは──いや、正しくそれは、『願いを聞き届けた魔女』そのものであった。

 

 

 

 その返答に満足そうに笑い──駆ける。鋭く、低く……獲物を狩る黒豹のような疾走で、イレイザーヘッドはヴィランの群れへと突貫した。

 

 

 瞬く間に離れていくその背中に、教え子たちの不安やら心配やらの視線が向けられる中、掌を向けるのは魔女だ。

 

 

 

 

 

「『オーダーメイド・フルサポート(貴方の為の全力支援)』──ターゲット『イレイザーヘッド(相澤先生)!』

 

 

 

 

***

 

 

 

──デュフフフ、いいれぇしゅっ、いいですかサオトョメ氏……

 

──もう。慣れない笑い方なんてするから……舌思いっきり噛みましたけど、大丈夫ですか? 

 

──ん"ん"っ、いいですか早乙女氏。攻撃魔法と回復魔法は以前お話しした通りでござるが、今回は少々難しいですぞ。その魔法は『補助魔法』と言いまして、お味方に対して『戦況を有利に進められるように』多様なサポートを施すのです。

 攻撃力を上げるために筋力強化、防御力を上げるために皮膚の硬化など、分野はそれぞれ多岐に渡りましてな。『誰にどれとどれが必要か?』や『効果時間の残りを把握して切れ目なく援護し続ける』と、かなりテクニカル分野となりますぞ。

 

──? その人に必要な援護を全部まとめて、状況が終わるまでかけちゃいけないんですか?

 

 

 

──……。

 

  え、ちょっと、それは、あれ? ──あれぇ?

 

 

 

 

***

 

 

 

「……んだよこれ、早くも計画ご破産? オールマイトいないじゃん。対象討伐でクリアなのにそもそもその対象いないとか、ふざけんなよおい」

 

 

 

 ガリガリと首を掻き毟る異様な男は、ギョロリと隣にただ立つ大男を見上げる。

 

 

 ……異常なまでに発達した筋肉と、頭部には剥き出しの脳味噌。感情はおろか意思さえほとんどない『人形(オモチャ)』。この計画のために寄せ集めたチンピラ全員を合わせても、足元にも届かない最強戦力。

 

 

「さてどうする……って、考える間もなく始められてるし。すごいなぁ、不利な戦場でも迷わず突っ込んでくるとか、カッコいいなぁ。さっすがヒーロー。

 

 ──ただのバカだろ。調べてあるっての。個性消すチート野郎には、個性じゃない遠距離武器。ただの運動神経の良いオッサンにすればいい」

 

 

 

 嘲笑いながら、手配した兵隊たちに予め伝えていた指示を出す。

 

 嗜虐的な笑みを浮かべた連中は、大まかな狙いをつけるだけでいい『ばら撒くタイプ』の銃火器を構え、銃口を向け──

 

 

 

 

 

「は……?」

 

 

 しかし銃声は、一つとして響かなかった。

 

 代わりとばかりに響いたのは、破砕音と打撃音と……手駒たちの汚い悲鳴だけ。

 

 

 鋭く駆けてくるイレイザーヘッドが突然消えた……そう錯覚してしまうほどの急激な超加速で距離を詰め、銃器を持った連中を打ち飛ばしたのだ。しかも、ご丁寧に全ての武器を破壊して。

 

 個性『抹消』──視認した相手の個性を使用できなくする個性。個性ありきの社会では反則級の代物だが、逆を言ってしまえば個性を消すだけだ。身体能力は常人の域を出ず、戦闘能力は決して高いとは言えない──……

 

 

「……どこがだよっ、くそ! お前ら囲め! そいつはイレイザーヘッドじゃない! 個性で畳み掛けろ!」

 

「お、おう! ──って、なんで個性がっ、ぎゃぁ!?」

 

 

 

「残念、俺は間違いなくイレイザーヘッドだよ。……だがまぁ、そう判断してもおかしくはないか」

 

 

 

 ──淡々と。

 逆立つ黒髪が怪しく揺れ、黄色いゴーグルの向こうから、赤い眼光が仄かに鬼火のような光を見せている。

 

 ……苛烈に。

 捕縛布が伸びる。個性が使えずに棒立ちになった――最早『マト』でしかないヴィランたちを容易く拘束し、五、六人を一塊にして別の一団に叩きつけた。

 

 

 銃器組と合わせ、二十強。ヴィラン勢は早くも脱落者を出し、数の利で勝ち誇っていたヴィラン勢を動揺させるには、十分すぎる戦果だった。

 

 

 

 

 

(前の時よりもムラが少ない……もう俺個人に関しちゃあ、十分現場で使えるな)

 

 

 片足で飛び上がり、大柄の異形型ヴィランを蹴り飛ばす。体重差で軽く五倍はあるだろうが、十数メートル飛んで、飛んだ先で数名を巻き込んだ。……発動型の個性を相手に、胴体頭部への本気の打撃は控えた方がいいだろう。

 

 相手もただやられるだけではない。無闇矢鱈に攻めず、事前情報にあったイレイザーヘッドの個性が切れるまで若干距離をおいて囲み出した。

 

 ──だが、目を閉じることで解除される抹消の効果は……事前情報の時間を大幅に超えてもなお、揺らぐ気配すらない。

 

 

(……『どんなヒーローになりたいか』──俺がこの問い掛けをすること自体、あんまりないんだが、な……)

 

 

 『高校卒業後、即プロ』……それが基本である各高校ヒーロー科において、三年間の早い段階で将来の明確なビジョンを決めさせるのは当然のことだった。尤も、個性の関係で大凡の方向性はどの生徒も大体は決まっているのだが、それをより鮮明かつ具体的なものにし、それに必要なことを教え学ばせていく。

 

 相澤にとって、回数的に珍しいその問い掛け。それもあってか、『即答』されたのは初めての経験であり、しかもその答えすらも全く予想できず、思わず呆気にとられてしまったのも、教師人生で初めてのことだった。

 

 

 

 ……そして、その答えの第一歩として創られた魔法。それこそが、現在相澤に施されている『オーダーメイド・フルサポート(貴方の為の全力支援)』である。

 

 

 基本は身体能力系の大幅な強化──とは言っても、肉体の負荷を考慮すればその系統個性の下位クラスでしか発揮できない。人並外れた身体制御ができる相澤でなければ、むしろ極端に上がったスペックに振り回されかねないだろう。

 

 

 だが、身体能力強化(それ)はあくまでも付属効果に過ぎない。この魔法のなによりも凄まじいのは、個性関係で生じるデメリットの軽減ないし無効化だ。

 

 相澤の場合であれば……強化魔法継続中は、例え数時間でも『瞬きが必要なくなる』。

 

 

 

「……ああ、本当に」

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 教師になる前に出会っていたら、きっと今頃……いや、確実に、自分はヒーローとして現場の最前線にいただろう。

 相棒として、黒衣の魔女と肩を並べて。まあ尤も、おそらく引く手数多だろうから、自分のとこに来たかどうか少々怪しいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『──先生。実は『どんなヒーローになりたいか(それ)』、もう決めてあるんです』

 

 

 浮かべた笑顔は、その美女めいた外見に反し、少年のように無邪気なものだった。

 

 

 

 

 『()()()()()守り支えるヒーローに、私はなります』

 

 

 

 

 ──おかしいと思いますか? 矛盾してるって、思いますか?

 

 ふふ……だから、ですよ?

 




読了ありがとうございました!
ギリ生きてます……!

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