酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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更新速度と自分の作成ペースが合っていない。
何が言いたいのかと言うと、ただでさえ誤字も多いのに意味がわからない文章の書き方が増えた。

くそう、限界だ! 私、更新できひんわ!







来訪者

その日は何時もとまったく変わらない日だった。

妖怪の山に溢れる多種多様な種族の妖怪が好き勝手に生活し、まさに妖怪にとっての楽園だ。

河童は何やら鉄でできた物体を弄り、狸は化かし、天狗は拐い、鬼は略奪を繰り返す。その他の覚や猫又、土蜘蛛と言った妖怪達も思い思いに騒ぐ。妖怪にとっての楽園であり、周辺の村や都市にとっては悪夢の光景だ。

 

人間への被害はこの国の西部分全てに及び、特に天下のお膝元である平安京は、妖怪の山に最も近い大都市とあってかその損害は計り知れない。

 

そしてとうとう人間達による『妖怪の山』首魁の酒呑童子討伐の命が下された。

 

 

 

「おい酒呑! 聞いて喜べ。人間共がなにやら差し入れを持ってきたぞ!」

 

夕暮れの妖怪の山山頂に建てられた本堂。その一室で窓から見える夕日を肴に一杯飲んでいた酒呑の所に萃香がはしゃいで駆け込んできた。

 

酒呑は返事もなしに入ってきた彼女をやんわり嗜めた後、告げられた報告に眉を顰めた。

 

「……人が差し入れ、ですか? 討伐か何かではなく?」

 

「ああそうだ! アイツ等私達を恐れるあまり、とうとう献上物まで勝手に持ってきたのさ。たぶん、略奪されるのが嫌だったんだろうね」

 

献上された品の中に萃香の好きなお酒でも入っていたのだろう。水を入れるだけで無限に湧く瓢箪を持っている癖に、それでも酒があれば喜ぶのは無類の酒好きの証だろう。

 

酒があれば酒呑も大喜びしてその場所に出向くのだが、しかし今回は喜ぶどころか納得のいかない声色で萃香に尋ねる。

 

「その人間達は何者ですか? 格好は?」

 

「人間達は修行僧のようだね。まあいいだろ? そんなことは自分の目で確認すれば良いさ! それより早く行こう! 勇儀が勝手に始めちまうよ!」

 

未だ動こうとしない酒呑の腕を掴み無理矢理引っ張る萃香。その力に抗う術もなく、酒呑は仕方なく付いていくのだった。

 

 

連れられてやってきたのは山の中腹部。かつて勇儀と酒呑が戦った跡地の隣には天狗達の住みかとなる屋敷が立てられており、その中で住人の天狗や鬼と言った山の上位の者が集まり宴会を行っていた。

 

「ああ!!? おい勇儀! お前勝手に始めたな!?」

 

「おお萃香、母さん。悪いけど先に始めちまったよ! つってもまだそんなに時間は経ってないよ。今からでも全然楽しめるさ!」

 

そんな騒ぎの中心でお酒を片手に騒いでいるのは見知った鬼の勇儀と、五人の見知らぬ人間であった。

 

鬼や天狗と言った上位の妖怪に囲まれているにも関わらず、人間達は笑顔を絶やさない。勇儀に気に入られたのか一人の人間は一緒に酒飲みすらしている。

 

その集団の輪から離れた位置には二人仲良く並んで騒ぎを見守る華扇と透花の姿が見られる。騒ぎには参加していないが、余程良い酒があるのか自前の食糧と共に自分達の分を確保している様子が見られた。

 

騒ぎの中に飛び込んでいった萃香を見送った酒呑は、離れた位置にいる二人の下に近付いた。

 

「華扇、透花。これは一体、どう言った騒ぎなのですか?」

 

「酒呑。来たのね。ご飯とお酒は酒呑の分も確保しといたわ」

 

「とっても美味しそう………酒呑様も早く食べよ……?」

 

「え、ええ。ありがとうございます。それで、彼等は………」

 

疑り深いとは言い難いが、それでも鬼の中でも常識的な考えに理解を示す華扇と、酒呑に師事しかつ普段は彼女の言葉があるまで待機する透花が、二人揃って疑問も抱かずに献上された物を食べようとしている。

 

それが酒呑には異様な光景に思えた。

 

「酒呑が心配してるような事は今のところ特にないわよ? 彼等にいただいた分のご飯やお酒にも毒は入ってないようだし」

 

「(コク)………入ってたら今頃勇儀達は、倒れてる」

 

「そうですが………」

 

確かに酒呑の目から見ても貰った物に毒などの罠があるようには見えない。しかし、それ以上にこれほど豪華な食事とお酒を一介の修行僧が持っているだろうか? 大した量ではないようだが、それでも質は極上。

一目見てかなり高尚な僧もいるとわかるが………だとしてもここまでの質を?

 

「二人とも、少し―――」

 

「おお! 貴殿があの酒呑童子殿か! お会いしたかった!」

 

酒呑が何か言う前に突然後ろからそれを遮る声が届いた。

振り返ればそこにはかなり年老いた人間が笑顔を浮かべて彼女に近付いて来ていた。

衣服や佇まいから見て、この山に訪れている僧の中でも一番偉い坊主だとわかる。

 

「ささやかな物ですが、我々の贈り物は気に入っていただけましたでしょうか?」

 

「…………ええ。これ程の量の食糧を集めるのに、貴方達も大層苦労なさったでしょう。ありがとうございます。それで、どう言った要件でこの山に?」

 

酒呑はその男を警戒していた。

別に男が胡散臭いだとか、態度がわざとらしいとかそう言う嫌な部分は今のところ見えない。

だが何故だろう。酒呑の今まで生きてきた経験が、気を抜くなと警報を鳴らしているのだ。

 

そんな酒呑の心情を知ってか知らずか、男の僧は嗄れた声で身の上を話し始めた。

 

「我々は東の国からやって来た旅の修行僧であります。以前京の都に訪れた時、貴殿方の話を聞きこのような品をご用意しました」

 

「ほう………私達の噂を聞きましたか」

 

「はい………修行僧と言えど、我々も命が惜しい。ですが、旅を続けるためにこの山を越えねばなりませんでした。だから、せめて穏便に山越えを果たせるよう準備させて貰ったのです」

 

男は自分の身の上を話していく。

目の前にいる鬼の噂を話し、命を獲られたくなかったと馬鹿正直に語る。それは一歩間違えれば相手の気分を害すほどだ。自分達が恐いからと正直に話し、贈り物を送って媚を売る厚かましさ。

 

しかしそれは実に鬼の好みでもある。自分達を恐れ、それを正直に話し供物を渡す人間。

他の鴉天狗や河童ではこうはならない。なにせ彼等にも誇りはある。鬼より弱いから恐い等と死んでも言う筈がない。

狸等は騙す為にそれくらい言いそうであるが、彼らの言葉が上辺だけだと鬼も理解している。

 

既に勇儀と萃香は人間達を気に入ったらしい。仮に献上物が無ければ拐う位の事はしたかもしれない。

 

「そうですか………なら、早くこの山を越えて立ち去る事をお勧めします」

 

「そうしたいのは山々なのですが……」

 

酒呑が遠回しに山から出ろと言えば、男は申し訳なさそうにお供の修行僧と勇儀達を見た。

そこでは飲んでは食って騒ぐ阿鼻叫喚の嵐。鬼はともかく一緒に飲んでいる人間は、本当に修行中の身なのかと問いただしたい程鬼達と意気投合している。

 

その様子を見て、酒呑は今夜中に彼等を追い出すことを諦めた。

 

「はぁ…………わかりました。貴方達の寝床は確保しておきますので、今夜は泊まっていきなさい」

 

「申し訳ありません。奴もまだまだ若輩の身なもので………貴殿の御厚意に感謝します」

 

「気にしないで下さい。悪いのは此方ですので…………ああ、そうだ。貴方の名前を聞いても良いですか?」

 

「む。そう言えば自己紹介がまだでしたな。これは申し訳ない。私だけ貴殿方の名前を知っているのは失礼に値しますしな…………私の名前は、源頼光。どうぞ、よしなに」

 

 

 

 

その後も宴は続き、末端の妖怪から続々と酔い潰れていく者が増える。酒に強い鴉天狗や鬼ですら思考を飛ばしかけている。

未だ酒に呑まれていないのは酒呑や鬼の四天王と言った力のある鬼や、鴉天狗の長だった天魔、大天狗、側近の者のみとなった。

 

そして驚くことにあれほど一緒に飲んでいた人間達も酔い潰れていなかった。

 

「お前さん達強いなぁ。鬼にも負けない強さとは恐れ入った!」

 

「ああ、気に入ったよ。ここまで強い人間は初めてさ!」

 

勇儀や萃香すら認める程の上戸。彼女達のペース負けることなくここまで付いてきた。

そしてとうとうお酒も殆ど無くなり、そろそろ宴も締めとなる頃。

 

頼光が突然名乗り出て、宴を終わらせる前に少し時間が欲しいと願い出た。

酔った鬼達がなんだなんだと囃し立てる中、彼は荷物から大きな樽を持ってくる。

 

最後にと、ここまで飲まずに取っておいた極上のお酒。そう告げられた彼の言葉に皆が喜び湧いた。

 

「はっはぁ! 魅せるじゃないか頼光!」

 

「極上の酒とはなんなのだ!? 早く飲ませてくれよ!」

 

早く早くと急き立てる鬼達に、頼光は冷静かつ迅速にそれぞれの盃に酌で注いでいく。

 

「これは八幡大菩薩様から授けられた『神変奇特酒』と言う物です。これは極上の味だけでなく、飲んだ者に力を与える素晴らしいお酒と言われております」

 

鬼や天狗の分を配り、最後に自分達の分も注ぎ終わる。

その一部始終を監視していた酒呑は特におかしな所は無いとわかり、配られたその酒を見つめた。

 

毒はない筈だ。あの樽に毒を入れた動作は見られなかったし、彼等も同じ酒を注いでいた。これで事前に毒を入れていた可能性も低いだろう。

 

だが自滅覚悟で私達を騙す可能性が無いわけでもない。いや、それなら最初から全ての献上物に毒を盛っていた筈だ。

 

彼等がどう言った思惑でこのような行為に及んでいるのか理解できない。純粋に好意を示したくて? そんな馬鹿な。人間が妖怪に利益を与えるような事はしない筈だ。

 

飲むべきか飲まざるべきか……。

 

「華扇。貴女はその酒を一度百薬枡に入れてから飲みなさい。透花は、飲むフリをしてできるだけ飲まないようにしなさい」

 

「酒呑……?」

 

「いいからッ」

 

小声で隣の二人に注意を促す。それしか取れる方法がなかった。

今更場を盛り下げるような行為は出来ない。それをすれば二人以外の鬼達から反感を食らう可能性が高いから。

 

酒呑はこの酒に何か力を感じていた。それが彼等の言う力を与えるものなのか、それとも違うものなのか。

わからないが、何故か酒呑はこのお酒に親和性を感じていた。まるで身近にあるような、どころか自分に近い何かを感じる。

 

それが彼女の琴線に触れるのだ。

 

「さぁ、最後の一杯だ!」

 

勇儀が音頭を取る。

その合図と共に皆が酒を飲んだ。

 

「ゴクッゴクッ…………プハァ! なんだいこのお酒! 滅茶苦茶美味しいじゃらいか! ヒック!」

 

「くぅ~~ッ!! 強い酒だが、それ以上に、美味い!! こんらお酒が……ヒック。この世に、あっひゃなん、ヒック………あ?」

 

外野が騒ぐ中、酒呑もお酒を飲み干す。

 

確かに美味い。数々の量、数多の種類の酒を今まで飲んで来た酒呑だが、このお酒はその中でも上位に食い込む程の美味しさ。

仮に勇儀の持つ星熊盃を使ってランクを上げれば、一番になるだろう可能性を秘めている。

 

 

しかし、なんだろう。美味しいには美味しい。ただ、何かが変だ。

 

(なんでしょう? 視界が揺れている気がする。身体が熱い………考えが何時ものように、まと……まらない……? ッ! まさか!!)

 

酒呑がお酒の異常に気付いたとき、既に彼女の頭は地面に向かっていた。

 

 

 

 

そして。

 

「なん、だぁ………こりゃ……力が入ら、ない?」

 

「ぐっ………鬼道丸? 凱僂太? おまえたち………つぶれちまったのかい?」

 

「ば、かな……一体何が……」

 

先程まであんなに騒いでいた鬼や鴉天狗達はその酒を飲んだ直後に気絶したように床に倒れ、勇儀や萃香、天魔も意識はあるが身体に力が入らず這いつくばっている。

 

それだけじゃない。

 

「酒呑さ、ま……?」

 

「…………」

 

酒を飲まなかった透花も、口が酒に触れただけでベロベロに酔ったように顔が赤く染まり、床に手を付いて倒れるのを何とか堪えている有り様。

隣の酒呑もフラフラと頭が揺れ、いつ意識を失ってもおかしくない。

 

一番まともなのは華扇か。酔ったように顔が赤いのは他と変わらないが、それでも意識はしっかり保ち今の状況に一早く気付いた。

 

「酒呑!? 透花!! 勇儀、萃香! …………貴様ら、毒を盛ったな!!」

 

そんな彼女が睨む先。そこには妖怪達と違って全く酔った様子も見せず、自分達の荷物から甲冑や刀を取り出す五人の修行僧だった男達の姿があった。

 

「ふん………馬鹿な妖怪達だ。我々人間が敵であるお前達に善意でこのような事をしていたと本気で思っているとは」

 

「ん、だと………きんとき、テメェ……」

 

「全ては芝居だとも気付かずにな。所詮畜生の鬼と天狗と言うことか」

 

武装しながら倒れた勇儀を馬鹿にしたように見下ろしているのは、最初に坂田金時と名乗った男。

他の男達も倒れている彼女達を侮蔑の目で見下ろしている。

 

「うそ、だ………お前達は、私達の為に……」

 

「そんな都合の良いことがあるわけないだろう。嘘偽りの行為だとまだ気付かんのか」

 

「そんな…………お前達を、信じていたのにッ!!」

 

萃香は男達に騙されたことに悔しそうに嘆いていた。

彼女はこの宴で彼等と友人になっていたと思っていた。なのにそう思っていたのは自分達だけで、彼等は騙すために口八丁で友人になると嘘をついていたのだ。

 

僅かな時間とはいえ信じていた者に裏切られた事実が、萃香にショックを与えた。

 

「何故、だ……我等はこうして身体が動かないのに、何故貴様ら……」

 

「言ったであろう。あの酒は飲んだ者に力を与えると。ただ妖怪には猛毒に等しい、神から授かった神聖な酒だがな」

 

「くっ……だからか……」

 

天魔はまんまと罠に嵌められた事に己の迂闊さを呪った。

妖怪としての力も、独自に発現した能力も酒のせいで使えない。身体が動かなくなった事も考えると、どうやら酒を飲んだ妖怪の力を奪う効力があるらしい。

段々、口を開くことすら難しくなっていた。

 

そして男達は完全武装すると倒れた鬼の四天王達の前にそれぞれ立った。

手に握った刀であれば、妖怪としての力が失われた鬼程度の首は簡単に落とせてしまうだろう。

 

この場で唯一、神酒を百薬枡である程度中和させた華扇は皆を助けるために動いた。しかし、

 

「こやつ、まだ動けるのか」

 

「くっ、どけぇ!」

 

それは近くにいた渡辺 綱によって阻まれてしまう。

動けるとは言っても、強すぎる神酒は華扇の動きを阻害し続ける。

鬼としての力も大幅に落ち、加えて人の身の渡辺 綱は神酒を抜きにしても強かった。

 

助けるどころか、後退し遠くなる一方。

 

最後に源頼光が顔を俯かせた酒呑の前に立ち、鞘から刀を抜き放つ。

他の者も準備は整い、後はその刀で鬼の首を切り落とすだけ。

 

男達は首を落とすために、鬼達の身体を押さえ付けようとして―――。

 

 

「おい」

 

低く重い声が、男達の動きを止めた。同時に、酒呑の前に立っていた頼光は危険を感じてその場から飛び退く。

直後、彼が立っていた床が陥没し、畳が跡形もなく弾け飛んだ。

 

 

「汚い手で我等に触れるな」

 

いつの間に回復していたのか。先程まで神酒に意識をヤられていた筈の酒呑が、珍しく表情を崩して怒りも露に男達を射殺すような目で睨んでいた。

 

そのかつて無い存在感に男達は四天王達の存在すら忘れて酒呑に目を奪われ、酒呑をよく知る四天王や天魔は彼女の初めて見た怒りに固唾を呑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やべぇやべぇやべぇ! 酒呑ちゃんピーンチ!! 頼光達めっちゃ武装して強そうだし、頼みの綱の勇儀達は倒れてるしで完全に詰んだぁ~………!!

ああああああああ!!! もう、やっちまったよ私!!皆が酷いことされそうだったからカッとなって怒ったけど…………やばみ。皆私のこと見てる。めっちゃ私注目されてる。絶対人間達に『なんだアイツ弱い癖にしゃしゃり出て……』とか思われてるよ!! これだから慣れない事はすべきじゃないってあれほど………怒ってるよね? 空気読まないことして怒り心頭ですってか? ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい。土下座するから! 地面に額ぶち当てて靴でも何でも舐めて土下座しますから許してぇぇえええ"え"え"え")

 

そんな張り詰めた空気の中、酒呑だけは平常運転で一人勝手に焦っていた。

 

 

 

 




ああああああああああああああ


次の話書いてないわ

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