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庭をぐるッと回って歩いていると、そこにはこの豪華な建物に似合う大きな門が見えてきた。その門で立ち塞がるように立っているのは、門番に似合う屈強な鬼。
普段の私なら速攻回れ右するところだけど、既に私は門の内側にいるので余裕で屋敷の中に向かおうとする。
塀を乗り越えて入ったからね。当たり前である。
残念だったねぇ?
「ここが入り口よ。因みにちゃんと門番のところに行って許可を取っておきなさいよ。じゃないとバレたときに殺されるわ」
「え゙」
おいおいマジかよ。聞いてねえぜパルスィさん。それは詐欺ってもんじゃないかい? ええ?
因みに彼女の名前は水橋パルスィと言うらしい。さっき聞きました。
橋姫と言う種族で、確か嫉妬を司る妖怪だったか。妖怪の山にも、川に掛かった橋に河童と一緒に住んでいた覚えがある。
さて、そんな余談はさておき最大の関門だ。どうしようか。どちらかと言うと私はあまり鬼に関わりたくないのだ。
先程まで散々なことを言っていた私だが、私は本当に鬼が嫌いな訳ではない。私自身が鬼なのだから、それは絶対だ。ただ、一つの動作で生死が分けられるというか、ドンチャン騒ぎが苦手というか…………
認めよう。ぶっちゃけ怖い。
同種族だというのに会話ですら恐怖でドキドキしてしまう私。そんな私が不法侵入している屋敷の門番に賭博したいとか言えると思うか?
言えるかよちくせう。
「? 何をしているの? 早く行きなさいよ」
「い、いえ……おこられないかなぁと」
「そんなの知らないわよ。ほら! 早く行きなさい!」
わわわ! ちょっ、押さないで!
油断していたところを突然強く押されたのが運の尽きだった。つまずいて勢いよく飛び出た私は、その門番の鬼の前にこの身を思いっきり曝してしまった。
屈強で、かなり年老いた鬼だ。厳つく融通の利かなさそうな顔。皺枯れていて、それでも鋭く衰えを感じさせない眼光が私を貫く。
端的に言って、ばっちし目が合ってしまったという事だ。
「なんだ貴様は……見ない顔だ。貴様、何処からここに侵入した!」
「あ、えっと……」
ふぎゅぅぅ!!! 怖い怖い怖いぃィぃィ!!!
ほらやっぱり怒られたぁ! だから言ったじゃん! めっちゃ怒鳴られたじゃないですか! つぅか見ない顔見ない顔うるさいんだよ! 私今日何回その言葉聞いてると思ってんだ!! 聞き飽きたんだよそのセリフ!!(逆ギレ)
「ここは認められた者しか入れない場所だ。どこの鬼か知らないがここに入ることは儂が許さん!」
「………」
「何か言ったらどうなんだ。ああ?」
それに声が大きい。うるさい。もうこれだけでこの鬼が私の嫌いな典型的鬼であることがわかる。しかも年寄りの鬼は大体ここから説教染みた長い話が始まるのだ。
「ダンマリか……ここ最近の若い鬼は駄目なやつばかりだ……鬼の誇りと言うものを理解しておらん。大体貴様は何者なのだ、名乗りもせず……儂の記憶には貴様のような鬼は……」
予想通りと言うか、私の年寄り臭い鬼が年寄りらしく説教をし始めたなぁと思った直後の事だ。
私の顔を覗き込んでまじまじと顔を見られていると、突然鬼の様子が変わる。
「…………ばかな。あり得ない…………いや、だがここまで似ているなんて……?」
なんだコイツ。急に焦り出したんだけど。てか顔近い。離れろ。
「突然何ですか貴方は。人の顔を覗き込んできたと思ったら勝手に焦りだして………そんな貴方に説教される覚えは無いんですよ私は」
「うっ………」
怒鳴ってきたかと思えば説教し始め、人の顔を見ればまるで死んだ者の幽霊に出会ってしまった様に驚く鬼。
そんな目の前の鬼の態度に、私は段々気分が悪くなっていた。
もう勢いだ。いい加減溜まりに溜まったこの悪感情を一度吐き出さなければと思っていたし、この際この鬼には色々言ってやる。
「大体、私はそこのパルスィさんに誘われたんです。さっき聞きましたが、彼女はここの支配主のお得意さんなんでしょう? 彼女の機嫌を損ねるような真似して良いんですか?」
「なんかしれっと責任を私に押し付けてきたわねコイツ。まあ確かに私が誘ったのは事実だけど」
とりあえず勢いで責任をパルスィちゃんに押し付けてみました。後悔はしてねえ。
あ、ちょ…………そんな目で見ないで。そんな侮蔑の目で見られると変な性癖に目覚めそうになっちゃうから。嘘だけど。
「な、なんだと? パルスィ…………貴様が誘ったのか」
「成るように成れ、ね…………ええそうよ。勇儀には私が言っておくから、そこの鬼を許可してあげて。私が責任を持つわ」
言いたいことを言い切ってあとは全てパルスィちゃんに任せたら、なんかいい感じに彼女が話を進めてくれた。
わーいわーい。なんかゴリ押ししたらパルスィちゃん(マブダチ)が庇ってくれたよ。ラッキー! これで漸く賭博場に入れるね! 仮に駄目でも、責任は全部パルスィちゃん(親友)が背負ってくれるらしいし!
…………ん? なんか今、私の知り合いの名前が出なかった? 気のせいかしら?
「…………わかった。貴様がそこまで言うなら儂は何も言わん」
「問題は解決したみたいですね。それじゃあ早く行きましょうパルスィさん」
「もう何も言わないわ………。妬ましいって感情すら出てこないわよ」
許可をもらったので私は溜め息を吐くパルスィちゃんの手を引っ張り、屋敷の中に入っていく。後ろから、『他人の空似か? ……しかし、でもまさか……』とか気持ち悪く呟く年寄りの声が聞こえたが無視した。
さてと………。
やって来ました賭博場! いやぁ、大いに盛り上がってるねえ!
いっちょ遊んでやるぜ!
その鬼は不思議な存在だった。
「パルスィさん。あそこに行ってみましょう。とても面白そうです」
そう言って私の手を引っ張るのは、先程知り合ったばかりの酒呑と名乗った鬼。
彼女はとても不思議な鬼だ。物腰も柔らかく丁寧で、見た目も豪快な鬼とは思えないほど綺麗に着飾ってその美貌を晒している。その癖、見た目から想像できない程の行動力と鬼の豪快さもまた持ち合わせている。
「貴女、お金は持ってるの?」
「一応持ってますよ。先程私をストーカーしてきた鬼から偶然財布を盗ることが出来たので。軍資金はバッチリです」
「そんなに余裕があるならわざわざ不法侵入なんてしなくても良かったじゃない。妬ましい……」
彼女は争いが嫌いらしい。先程まで追いかけられたというストーカー相手にも手を出さなかったのだとか。その癖、しっかり相手の持ち物を盗むのだから抜け目ない。
さっきのやり取りもそうだ。
彼女は確かに不法侵入をした。それがバレて追い返されそうになったときも、私が冗談で言った言葉を聞き逃さず言い訳に使われてしまった。言い訳に使われるつもりで言ったわけではないが、言ってしまったことは事実。否定出来ない。
しかし、そんな嘘も同然のような発言を平気でするなんて鬼らしくない。私が冗談で言ったと言えば彼女は嘘を吐いたと言うことで、門番の鬼に襲われていただろう。
嘘か本当かで言えば限りなく嘘に近い本当。そんなことを平気で告げる彼女。その後も一切詫びることなく平然としていることから、鬼の剛胆さも伺える。
鬼らしくないのに、何処か鬼らしい。矛盾しているようで成り立つ存在。それが酒呑と言う鬼だった。
長いこと地底に住んでるけど、私は一度もこんな鬼は見たことがなかった。
「丁半博打……あそこにしましょうか」
「まあ、シンプルだけど人気な賭け事よね。やったことはあるのかしら?」
「無いですね。でもやり方は知っています。」
やったことはない。そう宣う彼女だがその表情に一部も気負う様子はなく、相変わらず何を考えているのかわからない無表情だ。
会ったときからそうだった。ずっと表情を変えず、その癖、行動力は人一倍強い。良い意味で目立っており、悪い意味で危なっかしい。
兎にも角にも彼女から目が離せず追ってしまうのだ。一緒にいて気が休まらない。
それならさっさと離れろと言われるかもしれないけど、自分でも何でこんなめんどくさい鬼と一緒にいるのかわからないんだ。
私の腕を握る力は弱く、簡単に振りほどける。なのに何故か彼女の世話を焼こうとする自分がいて、彼女の拘束から逃れる気を起こさせない。
まったくもって、妬ましい。
「なるほど。参加に1両、賭け金も1両からですか。高いんですね」
「むしろ参加者を絞ってるんだからそれぐらいするわよ。それで? その盗んだ財布にはいくら入ってるの?」
「…………2両と三文」
「ギリギリ一回参加できる程度ね。ま、下町に住む奴の財力なんてそんなもんか」
財布の中を覗いてみたが、本当にギリギリ一回賭けられる程度しか持っていなかった。と言うか、酒呑は自分のお金を持っていないのだろうか? 今までどうやって生活してきたのだろう。
そう思って彼女を見ていたが、酒呑はその場から動かず一向に博打に参加しようとしない。ずっと丁半博打の様子を見ているだけ。
最初はやったことがないからとルールを確認するために観察しているのかと思っていたがそうでもない。そもそも、丁半博打なんて二つのサイコロの目の合計の数を
当てれば賭けた分の倍、外せば流れる。何回も確認するほど難しくない。
「ねえ、いい加減参加しなさいよ」
「……まだです。まだその時ではありません」
焦れったくなって声を掛けてもそんな返答が返ってくるのみ。
いい加減待つのが飽きた私は酒呑を急かそうと更に声を掛けようとして。
「そろそろですね」
それより前に彼女が動いた。
負けて落ち込んだまま帰る土蜘蛛と交代するように酒呑は賭博の中に入っていく。
「おっ。今度は別嬪な嬢ちゃんじゃねーか。良いねぇ」
胴元の鬼が嬉しそうに声を掛ける。それにつられて他の妖怪達も彼女を見て色めき立つ。
「見ない顔だな。嬢ちゃん、ここは初めてかい? なんなら俺らが手取り足取り教えてやるぜ。色々とな……」
「それは結構よ。私がついているから余計な心配はしなくていいわ」
「あん? …………ちっ、パルスィかよ。ってことはお前さんの連れか? つまらんねぇ」
その中でも鬼達は同族と理由でか酒呑に声を掛けてきたが、私の顔を見るなり嫌そうに離れていった。
一瞬気分が悪くなるが、彼等から伝わってくる嫉妬に私は溜飲を下げた。ここで怒っても仕方がないし、彼等の嫉妬が痛いほどわかってしまうから。
「…………?」
「ほら、さっさと賭け金出しちゃいなさいよ。参加したからにはいくら喚こうともその1両分だけなんだし」
「そうですね」
私たちのやり取りを不思議そうに見ていた彼女に発破をかける。
なんと言うか………この子には知って欲しくないと思ったのだ。私の予想だと、彼女は今まで旧都に住んでいない。そう思わずにいられないほど、ここのルールを知らなすぎる。
そんな彼女に今の旧都の…………もっと言えばこの地底に蔓延る陰鬱とした現状を知って欲しくないと思ってしまったのだ。
参加者達全員が1両を出したのを確認した胴元は、二つのサイコロが入った壺を振る。そのまま勢いよく振り下ろし、サイコロに蓋をするように畳の上に叩き付けた。
「さぁ張った張った! 丁か半か!!」
胴元の声に従って右回りに参加者達が各々の予想を告げながら賭け金を上乗せしていく。
その間ずっと無言で彼等の様子を見続ける彼女は相変わらず何を考えているのかわからない無表情。あまりにも堂々としすぎていて、逆に私がソワソワしてしまう。
最後になって漸く酒呑の番がやって来た。
「さあお嬢ちゃん。どっちに賭ける?」
「そうですね………では、
「……ふん。丁側が足りねぇな。おい誰か、もっと賭け金を上げねぇか!」
全ての予想を聞き終えた胴元は賭け金の額を合わせるために、丁を予想した者に声を掛ける。
丁半は基本参加者側の賭け金で回っている。一方のお金が足りなければこうして胴元が声を掛け、更に賭けさせる。
今の場合だと丁側が50両程足りていないのだ。これでは賭けが成立せず始まらない。
しかしもっと出せと言われても、丁側の妖怪達も既にかなりの額の賭け金を出している。これ以上更に上乗せすれば、彼等の生活にも響くかもしれない。
どうしたものかと丁側に賭けている者たちは渋い顔で考えている中、私の前にいる酒呑が胴元に声を掛けた。
「すいません……賭け金が足りないんですよね?」
「ん? ああ………なんだ? 嬢ちゃんが出してくれんのか?」
「ええっと………掛け金は無いですが……これで代用できませんか?」
彼女は突然懐に手を入れると、一体何処に仕舞っていたのか検討もつかないほどの大きさの酒瓶を取り出した。
一瞬、50両分も代用できるお酒があるかとツッコミそうになったが、その銘柄を見て私の開きかけた口が閉じられる。
「おいおい……そりゃぁ『幻月』じゃねーか。どうやって手に入れたんだ?」
「つい先程、地霊殿に用事があって……その時にさとりさんからこのお酒を拝し……戴いたのです」
「なに!? あの地霊殿の主がお酒を!?」
胴元の驚きの声が響く。
声こそ漏らさなかったが私も同じ気持ちだ。何せあの地霊殿の主が他人に、しかも鬼にお酒を渡すなんて到底思えない。
まさか酒呑が地霊殿の主の知り合いだとは夢にも思わなかった。しかし、だとしたら何故今まで誰も彼女の事を知らなかったのだろうか。
「それでどうなんです? このお酒では掛け金になりませんか?」
「あ……ああ…………良いだろう。仮に文句があるやつがいれば、此方で換金すれば良い」
「そうですか。なら勝負成立ですね」
「そ、そうだな…………では始めるぞ。皆の者、準備はよろしいか?」
胴元が蓋をした椀に手を掛けた。
当たれ、と願う者。お酒に興味を向ける者。ただ楽しそうに眺めている者。
皆の注目を浴びながら、胴元の鬼は勢いよく椀を開けた。
「3・5の丁!!」
次の瞬間、幸運に顔を緩める者と悪運に落ち込む者で別れた。
「ふぅ………」
酒呑が勝ったのを理解した私は溜めていた息を吐き出し、今さらになって緊張していたことに気付く。
まったく、普段より心臓に悪い賭けだった。あの地霊殿の主から貰った物を平気で賭けるとか、この鬼は阿呆なのだろうか。仮にそれがバレたとき、一体彼女やそのペット達からどんな仕打ちを受けるかわからないと言うのに。
「まあ結果オーライね。これで軍資金も出来たことだし、次は今のような冒険はしないことね」
「いえ、まだです。このお酒がチップになることはわかりました。ならこれからもこのお酒は使うべきです」
…………はっ?
「本当の博打はこれからですよね」
え? えっ?なんて?
ヤバい、気を抜いていた。彼女の発言の意味を理解できなかった。
お酒を、使う? 何の? …………まさか、見た目とは裏腹にとんでもない爆弾が括り付けられているそのお酒を賭けると言う意味じゃないわよね?
最悪、地霊殿の連中が報復に来るかもしれないレベルの爆弾を…………
この鬼は今、どうする
「じょ、冗談よね?」
「冗談ではありませんよ。今の私ならなんだか行ける気がします。次も
『…………はっ?』
貯まったお金とお酒を目の前にドンと置く馬鹿。
その光景を見て、他の連中も呆然と声を漏らした。
「これで百両分ですよね。さあ次の賽を振って下さい。私の予想では3・4の半だと思うんですよ」