次の連続更新は……夏休み後ですかね
うひゃひゃひょひょーい(゚∀゚)
これだから博打は止められねーぜ!
見よ! この貯まりに貯まったお金達!
千両? 二千両? それ以上かってくらいの金貨が私の目の前に!
「貴女、なんでこんなに強いのよ …………未来でも見えてるの?」
後ろで驚いているパルスィちゃん。ちょっと前まで私は博打に弱いと思われていたから、こうして見返せて嬉しい。
あ、お酒が無くなった。
「ちょっとそこで落ち込んでる土蜘蛛さん。申し訳ないのですが、その辺りでお酒を買って来てくれませんか?」
私は地霊殿で盗み……もとい貰ったお酒を呑み切ってしまったので、先程私の横で見事に予想を外した土蜘蛛に声を掛ける。
実はさっきまで賭けていたお酒なのだが、流石に金貨が増えすぎて全賭け出来なくなってしまったのだ。
まあ、今のところ私にお金が集まってるからね。総じて他の皆はお金が減るよね。ごめん。
てわけで呑まないのも勿体無いからそのお酒を呑んでいたわけだけど………こんなお酒一本で足りるはずがないって。
「…んだと? お前、人の金巻き上げといて良い度胸だなぁ………鬼だか知らねーが、舐めてると痛い目見るぞ!!」
「あ、百両は貴方が貰っていって構いませんよ。取り敢えず千百両分のお酒をお願いします」
「待ってろ。すぐもってくる」
さて。土蜘蛛さんにお使いを頼んだからお酒は良いとして…………なんだろ。後ろから私を批難するような視線が……うん。私は気にしないよ。
それよりお酒の目処は立った。後は賭けの方さ。
…………賭けに参加していた周りの殆どの妖怪達が悲惨な状態になっている。多分、次は私以外誰も参加しないと思われる。
「………うーん。どうしましょうか。正直、私はまだ賭け事を続けたいのですが……」
俯いたままぶるぶると首を振る彼等。そうですか無理ですか。わかりました。
まあこの通りなわけよ。さっきからどんよりとした空気が漂いかけていたけど、今の勝負で皆手持ちが死んだらしい。
周りで見てる人達もビビって賭けに参加する様子が見えないし……やべ、詰んだ。
「…………?」
その時、視界の隅で他人事のように負けた妖怪達を苦笑しながら眺めている胴元の鬼のおっちゃんに気付いた。
そう言えば、この賭博場は丁半以外の賭博は無いのだろうか…………いや、あるだろ。向こうで花札や他にも色んなゲームが行われているのが見える。
「すみません胴元さん。」
「ん? なんだ嬢ちゃん。それにしてもあんた強いな。一体、どんなトリックを使ったんだ? よかったら俺にも教えてくれよ」
胴元のおっちゃんに話しかければ、彼は面白そうに応じてくれた。
実に親切だ。やはり会員制と言うのも相まって、鬼でも客相手にはこうして気前よく応じてくれるらしい。
よし、ならこのまま要望を言ってしまおう。
「いえ、特に何かしたわけではないのですが…………それより、ここって『大小賭博』ってありますよね?」
「あん? …………そりゃあ、勿論あるが……」
「次はそれをお願いします」
私が要望を告げると、その瞬間に何故か私の周りが静かになった気がした。
いや、気がしたじゃないわ。静かになってるわ。だって他の賭け場所だと大いに盛り上がってるのが聴こえてくるのに、ここだけ騒ぎ声どころか物音が全くしないんだもん。
え? 私何かヤバいこと言った?
「……っ、ちょっとアンタ止めときなさい」
「? 何故ですかパルスィさん?」
「何故って………アンタが何してるか知らないけど、さっきのと今からやろうとしてるのとじゃ、状況が全然違うのよ?」
…………?
駄目だ。パルスィちゃんの言っている意味がわからない。何? どういう事? なんでただ博打を続けようとしてるだけなのに止められるの?
……謎だ。他の場所では普通に賭け事が行われているって言うのに。さっきから静まり返ってる事と関係があることは何となくわかるけど…………
大小賭博ってそんなにヤバいゲームだっけ?
「………いいぜ嬢ちゃん。お前さんがやりたいってんなら俺は止めねぇ」
なんか突然の針の筵状態にどうすればいいかわからなくなっていたら、胴元のおっちゃんが助け船を出してくれた。
良かった。別に『大小』が禁止な訳じゃないんだね。
「だが、わかってると思うが、俺等相手にイカサマは禁止だ。これはここの決まりであり『約束』だ。それがわからない訳じゃねぇよな?」
「ええわかってますよ。イカサマは禁止。当たり前ですね」
イカサマとは『嘘』の行為であり、相手を『陥れる』行為でもある。そんな真似、鬼の私がする筈がない。
確認のためだと思い、そう告げられた言葉を復唱する。
…………が、何故か胴元おっちゃんが好意的だった顔を止めて睨み付けてきた。
え、なして?
「テメェ………良い度胸だ」
鋭い目を私に向けたまま、おっちゃんは懐から二個の賽を取り出して、合計三つの賽を器に入れた。
いや、だから目が恐いって! 何急に!? 情緒不安定なの!?
なんなのさホント! こう言うところだよ!! なんか気に入らない事があるとこうやってすぐキレるから鬼は嫌いなんだよ!
おっちゃんが器を叩き付ける。以外にもその大きな音に私の体がちょっと跳ねた。
「勝負だ……」
「あ、はい」
おっちゃんに見られながら………いや、なんか色んな周りの人達にも注目されながら掛け金を前に置く。
「大に、十両……」
「…………」
無言だ。私とおっちゃん以外に誰一人として物音立てずにこのやり取りを眺めている。
凄く居心地が悪い。さっきからマジで何なんだ。や、どんだけ見てんだよ。ここは賭博場だよ? 観戦してるだけじゃなくて賭けしろよ。
私の心の声など誰にも届くはずがなく、皆が注目する中でおっちゃんは蓋を開けた。
中にあった賽の目は…………3と2が二つで合計7。つまり私の敗けである。
「あー……駄目でしたか」
「……ふん」
思わず声が漏れると、胴元のおっちゃんは私が負けたのが嬉しかったのか勝ち誇ったような顔を向けてくる。その顔もさっきまでの張り詰めたような怖い顔つきではなく、ちょっと怖いなぁ程度の顔付きに落ち着いていた。
「まだやるか?」
「ええ。まだまだこれからですよ」
冷えきった空気はいつの間にか無くなっていた。
周りにいる妖怪達から話し声がし始め、段々騒がしくなっていく。その間も何回か賭けが行われ、私が勝ったり負けたりしていると何人かの者達も参加するようになった。
「ダブルに100両」
「おいおい、賭けに出たな嬢ちゃん」
いつの間にやら丁半賭博と同じくらい気安く話し掛けてくれるようになったおっちゃんや、勝負が決まる度に一喜一憂する参加者の妖怪達で大いに盛り上がるようになっていた。
「1が一つと、4が二つ……ちっ、悪運の強い嬢ちゃんだな」
今回の賭けは私の勝ち。ダブルで百両賭けたので11倍になって返ってくる。つまり、先程の百両に加えて千両私の持ち金が増えたのだ。
良い調子だ。段々勝てるようになってきた。やはり賭博は勝てないと面白くない。
……うん。もう
「さあ勝負! 次は何の数字を賭け────」
「11にオールベット」
あまりにも楽しくなりすぎて思わずおっちゃんの言葉を遮ってしまった。
ちょっと焦り過ぎた。でもしょうがない。このゲームでは初めての全賭けだ。ちょっと緊張しているんだ。しょうがないしょうがない。
………だからさ、そんな怖い顔しないでよ恐いから。声遮ったのは悪かったさ謝る。ごめんてマジで。反省しているから。だから急に真顔になって黙るの恐怖だから止めて。
「…………ッ! バカ!! 何考えてるのよ!? アンタ、自分が何しようとしてるのかわかってんの!?」
「? 私はただこの賭けを続けようとしているだけですが……?」
「そういう事言ってんじゃない! 何してるか知らないけど、それを今やるのは────」
「うるせぇ!」
突然、胴元のおっちゃんの怒鳴り声が私達の会話に割って入って強引にパルスィさんを黙らせる。そのまま彼は勢いよく蓋を開け、結果の内容を確認した。
……うん。やっぱり、勘の通り11だ。
「お前……」
勝つには勝った。でも、どうもその勝ちを喜べる雰囲気ではなかった。
それもその筈で、胴元のおっちゃんの声色は優しさや親しみとはかけ離れた、先ほどのような……いや、先程以上の恐ろしい雰囲気があったからだ。
いや、だからどんだけ心狭いんだよこの鬼。地雷がわからんわ。
「………何でしょうか?」
「何もクソもねぇ! テメーやりやがったな……このシマで、しかも俺達相手にイカサマを仕掛けるとはいい度胸じゃねーか!! 殺される覚悟はあるんだろうな!!?」
「……はぁ?」
何言ってんだこのオッさん。誰かイカサマしたのか? 私には誰もイカサマしてるようには見えなかったぞ? 見間違いでしょ。やめて欲しいわ、冤罪で罪を着せようとするの。
見た感じまだそこまで歳を取っているようには見えないけど、やはり耄碌していたか。変なところで怒るとは思っていたけど、そこまで頭がヤラレてるとは思わなかった。
とは言え仕方ないかも知れないけど。この耄碌ジジイに疑われるようなことをしたソイツも悪いよ。見ればわかるじゃん。この鬼、絶対面倒くさい奴だって。
まっ、疑われるような事をしたソイツが悪いね。諦めて叱られな。私だったら絶対に嫌だけど。年寄りほど頑固で説得の難しいモノは無いからね。
さてさて、一体何処の妖怪がそんな可哀想な事になってしまったのか…………
………おん?
あれ? なんか、私見られてない?
「こっちを見ろ! これ以上シマ荒らすってんなら貴様をひん剥いて回すぞ!」
は?
え? なに? これ、私が疑われてるの? この耄碌ジジイに?
……
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
ヤベー奴だとは思ってたけど、確信したわ。コイツ、サイコパスだよ。よくこの可憐で清楚で清く正しい酒呑ちゃんにそんな疑い掛けられるな? 真性のキチガイじゃん。
何も悪いことどころか怪しいことすらしてないのに疑うとか有り得なくね? 冤罪ダメ! 仮に私が怪しく見えても私は一切怪しくないからこれは完璧向こうが悪い。どんな状況でも冤罪を掛ける方が100%悪いんだよ! 知らねーの!?
「貴方は何か勘違いしています。私はイカサマなどしていません」
「だったら今の結果や前のお前の勝ちをどう説明できるんだ!」
「そう言われても……私はただ己の勘に従っただけですが。賽の目が11だと勘に従ったら勝った。それが賭博と言うものでは無いですか?」
常識を疑うような質問をしてきたので、馬鹿にでもわかるように当たり前のことを告げた。
そしたら更に耄碌ジジイはキレた。いや、逆ギレするなよ。お前が質問してきたんだろうが。
「キレたぜ……ここまでコケにされたのは初めてだ。女だからと調子に乗りやがって!」
ジジイは怒り任せに床を叩いた。当然ただの畳が鬼の力に耐えられる筈もなく、畳の床は陥没。どころか穴を開けていた。
ふぅ……そうか……
うん。まずい事になった。
あばばばばば。お怒りでござる。超怒ってまする。やばい。冗談抜きでヤバい。
なんなの!? なんであのクソ鬼ガチギレしてるの!? 情緒不安定なのもいい加減にしろよ! それで胴元任された鬼か!? 老害ほんと○ね!
「少し落ち着いてください。確かに私は賭けに勝っていますが、それも偶々私の運が良いからです。それに私がイカサマをしている証拠が無い」
「しらばっくれるな! こんなに勝っておいて運だと!? あるわけ無いだろうが!! 嘘も偽りも程々にしとけよ………じゃねーと、その嘘で塗り固められた偽物の角をへし折るぞ!」
………あ?
「今、なんと?」
「その角へし折ると言ったんだ偽物! 鬼が嘘を吐くわけがない。そう思わせるのがお前の目的だろう? 騙されたぜ。だが、もうお前が鬼じゃないことははわかった。その目障りな角、さっさと外せ!」
何言ってんの? いや、マジで。
鬼じゃない? 角が偽物? 誰のが? ……私の角が?
ああそうだ。確かに私は鬼っぽくは無い。それは認めよう。力は無いし、強いわけでもない。鬼と言われれば首を傾げるのもわかるし、鬼じゃないって勘違いされるのもわかる。
そもそも私は鬼が嫌いだしね。弱者を虐げるような行為をナチュラルにやるからホントに嫌いだ。
だけど、私が鬼であることに変わりはない。いくら私が鬼っぽくなかろうが、鬼を嫌おうが、それは揺るぎのない事実だ。否定しようのない絶対だ。
だからこそ私にも私なりの鬼の誇りはある。鬼としての生き様がある。それを否定され、馬鹿にされるのは私でも我慢ならない。
命の危険を感じ始めたからもうそろそろ止めてこの場から去ろうかなって考えてたけど………流石にムカついたわ。こっちが下手に出ればこの老害、調子に乗りやがって。
いいだろう。私に喧嘩を売ったこと、後悔するなよクソオヤジ。後で泣いて謝っても私は絶対に許さないからな。
「お前は能力か何かで、この器を透視して中の賽の目をを見てるんだろう?」
「なら話は簡単だ。その両目を今この場でくり抜け。そうすれば貴様が本当にイカサマをしていないと信じてやる」
嘘。うそうそ。嘘です。申し訳ございません。マジ冗談っすよ〜。
あはははは本当に冗談キツイなぁ旦那ぁ〜。それにしてもいい髭してますね。何処の剃刀屋で剃ってんすか? よっ、男前!
だからそんな怖いこと言わずに仲良くしましょうよ、マジで。私、旦那のこと尊敬してるんすから。
ねえ、止めて。マジで許して。ひぃ! 近づかないで!! ごめん調子に乗った! 身分不相応な立場で生意気言ってさーせん! 何だよ鬼の生き様って、食えんの?(笑) 誇りとか埃の間違いだろwwwww
いや、ホントに勘弁してつかーさい。私、痛いの駄目なんですぅ! 指に出来たささくれとかでも泣いちゃうような可愛い乙女なんですぅ! そんな可哀想な女の子に両目くり抜けとか、どんな鬼畜野郎ですかぁ! ……あ、そうですね。確かに鬼でした。
こ、殺されるぅぅぅぅうううううう!!!!
埃です