酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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そろそろ読んでくださってる方々の我慢も限界を迎えそうになっている気がしたので、ペッて出してみました。
みんな、待望の更新だ。咽び泣いて喜ぶが良い。




調子に乗りましたごめんなさい。





逆転の鬼

「両目をくり抜け」

 

 思い掛けない言葉だ。長いこと生きてきた妖生でも一度も言われたことのない言葉だ。

 

『両目をくり抜け』

 

 いやいやいや。馬鹿。

 なに急に言いだすのさ。やめてよ、もー。

 

 

 ガタガタガタ。

 

「貴様のソレ、覚妖怪のように目が関係しているのだろう? 天狗の中にも千里を見通す眼を持つ者がいると聞いたことがある。予想だと『物を透視できる程度の能力』だと踏んでいるが……なんでも良い。その目をくり抜けば能力も使えまい?」

 

 使えまい? じゃねえ! なに名推理しましたみたいなドヤ顔しとんじゃワレぇ! 思いっきり外れてんだよ推理もお前の中身の無い頭のネジもなぁ!! 

 

「待ってください。そもそも私がイカサマをしている証拠なんて……」

 

「いいや証拠は持ってる。お前の能力の性質上、透視させる物を見なきゃいけないんだろ? 賭ける直前、お前はいつも器を凝視している。特別な目を持つ妖怪の特徴だ」

 

 いや、そんなん見るに決まってるやん。何言うとんねんこの駄アホ。

 もういいから家に帰って出直してこい。その恥ずかしい妄想を晒すな。

 

「色々言いたいことはありますが…………なら、私は見ないで賭ければ良いことです。後ろを向いて賭けますので、目をくり抜く必要は無いですよね?」

 

「いや駄目だ! 貴様の目が複数の物すら透視できるかもしれん。なら、貴様自身すらも透視して背後を見て賽を確認できてしまうだろ?」

 

 怖!? 何その理論、やっぱアホだよコイツ! 目ん玉裏返せってか!? 発想が突飛過ぎて意味わからん!

 てかその理論だと私が器を凝視する云々関係ないじゃん! 

 

 クソっ。コイツどんだけ私の目くり抜きたいんだよ!!

 

 

 はぁー……もういいや。まだ遊び足りない気分だけど、気分は満たされた。

 止めよう。これ以上ここにいたら命が危ない気がする。そもそも目ん玉くり抜く時点で安全も何も無い。

 私はお金程度で済むリスクの掛かった火遊びがしたかっただけなんだ。ストレスの発散が出来るような、ほんのちょっぴりな刺激が欲しかっただけ。

 

 なのにそれが、いつの間にかに自分の目ん玉をくり抜くとか言う謎のリスクを負うことになっちまった。

 やってられるか! 私は帰るぞ。危険も何も無い筈の賭博で誰が好き好んで自分の身体売ってまでするかっての!! 

 

「帰ります。そんな理不尽な話、許せるはずがありません。まったく……ここの品位を疑いますね」

 

「逃げるのか?」

 

 ッ……コイツ。一々私の気を逆撫でにするような事言いやがって。

 

 ふぅー……ふぅー……。落ち着け私。この男にどう思われようと別に良いじゃないか。私の誇りは、私と私の大切な者達がが知っていればそれでいい。こんな赤の他人……もとい他鬼なんてどうでもいいのさ。

 

 よし。帰ろう。

 

「…………」

 

「逃げると言うことは嘘を吐いたって事で良いんだな?」

 

「お前がそう思うのであれば、どうぞご勝手に。お金もいりません。どうせお酒を買うのが目的だったので」

 

「そうか……」

 

 土蜘蛛さんが買ってくるであろう500両分のお酒があれば当分は酒に困らない筈。元々そこまでお金に頓着している訳ではないので、こんな大金あっても困るだけだ。

 もうここに用は無い。私は立ち上がりここから去ろうと後ろを振り返った。

 

 だけど。

 

「はいそうですかで逃すわけねぇだろうが!!」

 

「あぐっ」

 

 いつの間にか後ろにいたらしい二人の鬼に阻まれ、どころか思いっきり突き飛ばされてしまった。

 

「ここまでコケにされたんだ! 金だけじゃ足りねぇ…………それ相応のモンを思い知らせてやる! おい!」

 

 男の声に呼応して、後ろの方でバタバタと騒がしい音が聞こえてくる。その中に聞き覚えのある声も混じってて私は慌てて振り返った。

 

「くっ、放しなさい!!」

 

「パルスィさん!」

 

 見ればパルスィさんが他の鬼に捕らえられていたのだ。

 何故、どうして。関係ない筈のパルスィさんが捕らえられているのかわからない。

 

 私は鬼の男を睨んだ。

 

「何のつもりですか」

 

「前々からパルスィは鬼でもないくせに姐さんに近付いてて目障りだったんだ。だが、不正を働く無作法な輩を招いたとありゃぁ、姐さんもコイツを嫌うだろう」

 

 あおもう! 私は何もイカサマしてないってのに好き放題やりやがって! コイツ本当にいっぺんシメたろか!? そんな力無いけどさ……。

 

 それよりもまずいなぁ。完全に逃げるのが出遅れてしまった。あっちがシツコイなら最悪、追っかけっこでもして逃げるつもりだったけどパルスィさんが人質に取られたらそれもできやしない。

 鬼の癖にやり方が陰湿だ! 

 

「……私に何をさせるつもりで?」

 

「何、そう難しい事じゃ無い。お前が俺達に噓を吐いたって言う納得の証が欲しいだけだ」

 

 鬼の男の意地の悪い粘着質な性格。それが垣間見えた時、私の中でその鬼に対して不快感と共に違和感があった。

 しかしそんな考えは後だ。今はそれどころでは無い。なんだか危ない気がするんだ。凄く嫌な流れ……例えるなら閻魔の奴に判決を下される直前。今すぐにこの場から離れたい。

 

 そして私の思った通り、理不尽な命令(判決)が下された。

 

「そうだな。お前がその額に付けた角を折れ。そんで泣いて土下座しろ。お前が偽物の鬼であることをこの場で証明し、謝罪してもらおうか」

 

 

 鬼の角とは単なる付属品では無い。むしろ鬼の中では命の次に大事な身体の一部と言える。私はお酒の方が大事だけど。

 では何故鬼の角がそんなに大事なのか。それは角が最も妖力が集まる部位であり、角こそが鬼を表す上で欠かせない物だからだ。むしろ、角が無ければその者は鬼と認識して貰えない。

 力のない私でも、この角がある限り皆が私を鬼だと認識してくれるのだ。実際、地底にいる妖怪達は皆私の角を見て鬼と認識してくれた。

 それほど角は大事な物。鬼の象徴と言っても過言ではない。

 

 だから鬼に角を折れと告げるのは、鬼にとって最大の侮辱である。それは自分が鬼である事を否定することだから。鬼の誇りを、意義を、存在事態を捨てる事と同義だから。

 冗談でも絶対に言ってはいけない最大の禁句だ。

 

 それを目の前の鬼は私に言った。

 

 到底許せることではない。

 

 

「…………」

 

「どうした? 鬼に噓を吐いた事実を証明するのが怖いのか? 安心しろ。俺の言う通りにすれば殺すのだけは勘弁してやる」

 

 怒りで声すら出ないとはこの事か。なるほど。今まで一度も言われたことが無かったから始めての経験だ。

 角を折る? はっ……するわけ無いだろう!? 認めるはずがないだろう!? どこまで私を侮辱すれば気が済むのだろうかこの鬼はッ! 

 

「ふざけないでください。冗談でも笑えませんよ? 鬼に対して角を折れだなんて……鬼である貴方も言っている意味はわかりますよね?」

 

「偽物風情が言うじゃないか。ああわかってるさ。お前が鬼じゃないただの雑魚妖怪ということがな」

 

 …………オーケーオーケー。まだ慌てる時じゃない。私は至って冷静だ。私は普通の鬼と違って短気じゃないからね。それに雑魚なのは事実だ。

 怒って短絡的になれば命はない。私はいつだってこう言った危機を冷静に対処してきたんだ。

 

「まぁ、見栄えばかり意識したそんな華奢な角、折った処で何の価値もないがな」

 

 はっ? なんだとこの野郎! ぶち殺すぞ! 

 私の角はな、お前のブサイクな角と違ってメチャクチャ価値ある角なんだぞ! お手入れにどんだけ時間を掛けてると思ってんだ! おいそれと折って良い角じゃ無いんだよ! 張っ倒すぞ!? 

 

 

 あーもう! ストレス溜まるわ! 今すぐにでもここから逃げ出したい! パッパとここから立ち去ってお酒が飲みたい!! でも無理だよパルスィさんを人質にするなよ逃げられないじゃん!! 

 

 フーッフーッ。

 …………よし。落ち着け私。状況は複雑なようで至ってシンプルだ。

 まず、私が逃げ出さなければパルスィさんは今のところ危害を加えられる様子はない。つまり、今私が求められているのは二択の内一つだけ。

 両目をくり抜いてイカサマをしていない事を証明し、私の誇りと存在を守り抜くか。

 角を折ってイカサマを認め、誇りと存在を否定するか。

 

 

 最悪だよ。なんだこの理不尽な二択。馬鹿じゃねぇの? 

 まず両目をくり抜くのがあり得ない。絶対痛いよ。激痛で死ぬわ。死なないにしても、両目を失ったら今後の生活に支障が出るわ。

 じゃあ角を折るかって言われた…………無理だね。痛いもん。こっちも激痛です。知ってっか? 鬼の角って硬くて頑丈だけど、その分敏感なんだぜ? 折れたら多分痛いじゃ済まないレベルで痛いんだぜ? 

 それに誇りはともかく、鬼としての象徴を折るのは流石の私も許容出来んのだ。

 どれぐらい受け付けないかって言うと、そこら辺の気持ち悪い男に股開いて○○○(ピ──)させられるくらい無理。生理的に受け付けない。そんなレベルです。

 

 おいおいおい、やってらんねーよなぁ? なんでただ賭博を楽しみに来ただけなのにこんな理不尽な二択を迫られているの? どっちも選べるわけないじゃん!! 

 

「どうした。さっさと決めろ。瞳を潰すか、角を折るか。なんなら俺が決めてやろうか?」

 

 あああああああああ!!! 時間制限とか聞いてねーよ! 

 

 早くしないと。じゃないとコイツに決定権が委ねられてしまう。そんな事になれば片方どころか最悪両方の選択をさせられるかもしれない。

 でも決断できねぇぇ!! いや、ぶっちゃけどっちにするかは決めてるけど! でもそれを実行する為の決意がまだ固まってないというか……。

 早くしないとまずいのはわかってるけど、でも自傷行為なんて早々できないからね!? 

 

「あと10秒で決めろ。10……9……」

 

 うおおおおお!!? カウントダウン始まったぁ!? 

 

「8……7……」

 

 うるさいわ! こっちは必死に覚悟決めようと頑張ってんだよ!! なんなん!? 本当になんなん!? 

 

 あーもう! 酒が足りない!! 酒を寄越せいつまで時間掛かってるのさあの土蜘蛛は! こんな決断、飲んでなきゃやってられないってのに!! 

 

「6……5……」

 

 OK、もう知らん! こうなったら秘蔵中の秘蔵である私のお酒を呑んでやる!! いいんだな!? どうなっても知らんぞ!!? 

 

「4……3……」

 

 と、取り敢えず栓を開けて……と、取れないいい!!! 

 

「2……」

 

 あとちょいで栓が取れ……って危な!? 勢いで栓に付いてる分のお酒が飛び散る所だった。このお酒は一雫落とすだけでも勿体無いんだから、危ない危ない……。

 

「1……」

 

 って1秒切ってる!? 今から一雫分正確に取ってたら間に合わないよ! ど、ど、どうしよ!?

 

「0」

 

 栓に付いたやつ適当に舐めるしかねぇぇぇぇ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひっく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。もう10秒たったぞ」

 

 

 

 ん…………おあ。ようやくですか。

 

 ふぁ……ッ、ッと…………よく寝ました。

 

 しかし…………それにしても、随分待たされた……。まさか、ここまでとは…………。

 

 いやはや、あの女神が言っていた事もあながち間違いではなかったですね。

 

 

 

「おい! 聴いているのか!!」

 

 ん……? ああ……忘れてました。そう言えば、今はこっちの私がピンチでしたね。

 

 起き抜けなものだから、ちょっと寝ぼけていました。

 

「ん…………はい。聴いてますよ」

 

「ふん。ならさっさと答えろ、まったく…………本当に鬼の風上にも置けない奴だ。たかが栓に付いた酒の水滴まで舐めるなんてな。卑しい奴め…………さあ、もういいだろ。決断は終わったか?」

 

 なんだコイツ。うざい奴ですね。ブッ飛ばしてやろうかしら? 

 ……おっと、そう言えば今は賭博中だった。危ない危ない。

 

「…………わかってないですね貴方は。お酒は一滴残さず飲み干してこそでしょう? …………本当に貴方はお酒を……もっと言えば鬼と言うものをわかっていない」

 

 それにしても、先程の様子からわかっていた事ですが…………この鬼、駄目ですね。

 こっちの私が嫌うわけだ。見た目こそ年老いて見えるが……まだまだ若輩かな? 精々500かそこらでしょう。まあ、数万年を生きた私にはどんな輩もガキだが。

 

 まったく……鬼も堕ちたものです。いくら地底に引き篭もってるからとは言え…………流石に落ちぶれ過ぎでは? 

 

「煩い!! 貴様に鬼のなんたるか等わかったような口を利くな!! いいからさっさと決めろ!」

 

「そう怒鳴らないでいただけますか…………。煩いのはともかく、面倒くさい鬼は嫌われますよ?」

 

 はあ……もういいですか。こんな堕鬼は無視しましょう。時間が勿体無い。

 さて、なんだったか。両目をくり抜くか、角を折るか…………ふん。まったくしょうもない命令を突き付けられたものですね。こんな物無視しても良いですが……一応、あっちはここを仕切る胴元だから。ルールには従わねばなりませんか。

 だいたい、こっちの私も悪い。流石にあれはやり過ぎだ。いくら能力の影響だからとは言え、少しぐらいは能力を自分でコントロールしてもらいたい。ま、そう仕向けたの昔の私の所為なのだが……。

 

 おっといけない、脱線してしまった。これだから中途半端な解放は……ああ駄目だ駄目だ。すぐ脱線してしまう。

 

 さっさと用事を済ませねば。

 

「ん…………両目をくり抜けばイカサマをしていないと証明できるのでしたね?」

 

「ああ。貴様にそれが出来る根性があればな。もっとも、偽物のお前には無理だろうが」

 

「そうか。ならばいいです」

 

 男の話を聞き流しながら、私は目に指を添えてゆっくりと指先に力を込めていく。

 

 

 

 

 

 

 ブチリと小気味良い音が頭の中で響いた。

 

 ああ。心地いい痛みだ。眠気がよく取れる。

 

 

「なっ!?」

 

「まったく……お気に入りの一張羅が汚れてしまう」

 

 おっと片目じゃ駄目でしたね。もう一つもか。

 

「ッ…………」

 

「なにをそんな驚いているのですか? 両目をくり抜けと言ったのは貴方でしょう? まったく…………まあいいです。さあ、これで私がイカサマをしていないのは証明できました。続きと行きましょうか」

 

 勿論これで終わらせるつもりはない。こっちも参加料として両目を支払ったんだ。それ相応のたいかはこの賭博場から貰おうじゃないですか。

 

「ほら、続きを。さっさと賽を振って下さい……っと、その前にパルスィさんを解放してからにしてくださいね」

 

「まだ…………やるってのか」

 

「当たり前です。でなければ割に合わない」

 

「…………」

 

 何を黙っているのでしょうかね。さっさと振って欲しい。時間がないんですから。

 

「…………いいだろう。だが、パルスィの奴はそのままだ」

 

「何故?」

 

「決まってんだろ。お前を逃がさねえ為だよ!!」

 

 カランコロンと音がした。どうやら胴元の鬼が賽を振ったらしい。

 ふむ……今更ながら、目が無いととても不便ですね。

 

「さあ! 勝負!」

 

 さてさて。賽の目はなんでしょうね。大か小か。ダブルかトリプルか。10? 11? それとも…………5かな? 

 

 

 

「5に千両」

 

「ッ…………ばかな……」

 

 さあ大博打だ。1の目が一つに2の目が二つか、1の目が二つに3の目が一つ。

 1/36の確率です。当たれば賭け金の30倍が返って来ますね。

 

 さて、どうなる? 

 

「……そんな自棄な賭けが……当たるとでも?」

 

「当たると思っているからこうして賭けているわけですが? それに今の私に千両なんて端金です」

 

「……そうかよ」

 

 さっきまでの私なら全賭け(オールベット)でもしたんでしょうかね? あの時は博打大好きな生粋の狂人(ギャンブラー)ですから……どうなるか私でもわからないんですよね。

 

 ま、私は所詮常識的な鬼なので、精々細々と賭けていきますよ。

 

「さあ。結果は?」

 

 さあさあ。どうなる? 

 

 

 

「…………残念だったな。3・5・1の9だ」

 

 

 

「ふむ……そうですか。それは残念です」

 

 そうか、外れましたか。

 残念ですね。本当に。

 

 ま、仕方の無い事ですがね。所詮賭博は運。豪運を持っていようが、外れる時は外れます。

 

 仮に何かしなければ。

 

「あと一個1の目が出れば当たってたのですが……。ふむ、本当に残念です」

 

「…………」

 

「残念。本当に惜しかった」

 

「何か、言いたげだな」

 

 落ち込んでいると、なにやら胴元の鬼から声を掛けられました。

 表情は目が無いので見えないが、彼の声色は何処と無く硬い。それに、何か言いたげと言われても私はこれといって言いたいことは無いのに…………。

 

 私には、むしろ貴方が何か言いたそうにしているように感じますが? 

 

「いえなにも。それより早く続きをお願いします」

 

「…………ックソ!!」

 

 苛立ちのような声が聞こえたのと同時に、なにか硬いものが床に叩き付けられる音が私の耳に届きました。多分、彼が賽を振ったのでしょう。

 

 さて、次です。どうしましょうか。さっき負けたので、ここは少しでも勝ちに行きたいですね。

 この手の賭けは大か小かで賭けるより比較的揃いやすくまあまあ倍率も良いダブルなんかが負けないと私は思ってます。まあ、持ち金が多くて長く続ける前提の話ですけど。

 だから、負けないようにするならダブルなんですよね。

 

「ふむ……」

 

「…………」

 

 そういった事を含めて私が次に予想する目の数は…………。

 

 

 

 

 

「15に三千両」

 

「…………ぬぐっ!」

 

 勿論大穴狙いに決まってますね。

 だって私は生粋の賭博師(ギャンブラー)ですからね。

 

「さあ、結果は?」

 

「クソッ…………お前っ、本当は見えてるんだろう!? 見えてるからまだ続ける気なんだろ!!」

 

「はて、何のことですか? もしかして……当たってましたか?」

 

「な……い、いや違う! 2・4・5の11の目! はずれだ!!」

 

 突然の振動と共に、目が無い私に見えている等と見当違いな叫びを上げる胴元の彼。

 もしや当たったのかと思ったが……なんだ、当たるどころか掠りもしませんでしたか。残念。

 

 まあ、私の持ち金はさっきの全賭けのお陰でまだ三万両程あります。気長にやりましょうか。

 

 

 

「13に五千両」

 

「……外れだッ」

 

 

 

「6に三千両」

 

「外れだっ!」

 

 

 

 

「11に一万両」

 

「…………クソッ、クソッ! 外れだっつてんだろ!! 大外れだよ!!」

 

 

 

 ふむ……なかなか当たらないですねぇ。気長にやるとさっきまで言ってましたが、残りが一万両近くになってしまいました。ちょっと考えなし過ぎましたか。

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 それにしてもどうしたんだろうか。胴元の鬼の様子がどんどん悪くなっていってる気がしますね。息も荒い。

 私には関係ないので無視しますが。

 

「お前……一体なにが目的だッ。なんでこんなッ…………」

 

「はい? そんなの、賭けが好きだからに決まってるでしょう? 大穴狙いの大博打……考えただけでゾクゾクしませんか?」

 

 楽しいなぁ。利益が出るかもわからないことに代償を払って挑むこの行為。賭けとは本当に面白いものです。

 

 でも……駄目ですね。なんだか飽きてきてしまいました。お金が少なくなってきてしまいましたが、所詮こんなお金は泡銭。思い入れも何もないので、今一緊張感に欠けますね。

 

 …………ああ、そうだ。

 

「まだ、やるのか」

 

「ええ、勿論。あ、それと胴元さん。少し良いですか?」

 

「……なんだ?」

 

 ううん。やっぱり声が硬い。とても悲しいことですね。酷い……こんなにも私は誠実であろうとしているのに……。

 

「私、なんとなくまだ貴方に疑われているってわかるんです。目が無くなったせいかな……貴方の感情がいつもより少しだけ強く感じるんです」

 

「……ああ、そうだ。俺はまだ貴様がイカサマをしようとしているんじゃないかと疑っている。いや、確信している!」

 

 うんうん。正直ですね。正直なのは良いことだ。

 でもやっぱり残念ですね。私は楽しく賭けをしたいと思っているのに、私だけしか今のところ楽しんでいない。

 やっぱり皆んなで賭博は楽しみたいでしょう? 

 

「だから提案があるんです。私がイカサマなんてしてないって証明するための提案が…………これを聞けば貴方も私を認め、楽しく賭博が出来るでしょう」

 

「……なんだ、その提案ってのは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の賭けに私の覚悟を賭けましょう。手持ちのお金全てに…………鬼の誇りにして象徴でもあるこの角。それらを賭けます」

 

 さあさあ、楽しもう。私の全霊を以って、今この瞬間を。

 

 

 

 

 


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