酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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次の話は頑張って書いても20日後以降


鬼の襲来
東方地霊殿、始まり。


「ほえー……これが地底世界ですか! 思ったよりも明るいんですね」

 

「天井にくっ付いてるあの光が原因なんじゃないか?」

 

「んな事どーだっていいわよ。さっさと異変の元凶を祓って地上に帰るわよ。私はあの温泉を使って参拝客を増やしつつ賽銭を巻き上げる準備をしなきゃなんだから」

 

「それ、諦めて無かったのか……」

 

 とある日の事だ。突然地底の天井に大きな穴が出来た。

 何が原因でそうなったのかは不明のまま。しかし地底の者たちはあまり気にしていなかった。

 いくら天井に大穴が開こうが、それで彼等に何の支障もない。どうせ地上には行かれないのだ。いや、地上に行ったとしても嫌われ、差別され、結局何処かの誰かに祓われる。

 誰も地上に期待を抱かない。関係ないから。 

 

 騒ぎ立てるのは精々が何も知らない木端鬼くらいのものだろう。

 

 

 地上から嫌われ、いつの間にか無いものとして忘れ去られた地底の世界の妖怪達。

 そんな嫌われ者達を追いやった地上から、三人の少女達が現れた。

 

 

「この世界の何処かに異変の首謀者がいるのよね?」

 

「ま、そうだろうな。とりあえず聞き込みから始めるんだぜ。てわけで、お先だ!」

 

「えっ? あ、ちょ、魔理沙さーん!?」

 

 白と黒色の装束に黒い尖り帽子。その下にある金の長髪を輝かせた快活そうな少女が、手に持つ箒に跨り天へ飛び出した。

 魔理沙と呼ばれたその少女は緑色の髪をした少女の制止も聞かずに、地底の旧都の方へと飛び去っていく。

 

 小さくなっていく彼女を、珍妙な巫女姿の二人の少女が見送った。

 

「ありゃー……魔理沙さん行っちゃいましたよ霊夢さん。どうしますか?」

 

「別に好きなようにすれば良いじゃない。元々私一人で異変を解決する気だったんだから、別に早苗もどっか行っていいわよ」

 

 この3人に協調性というものは無いのだろうか。その場に第三者の者がいればきっとそう思った事だろう。

 霊夢と呼ばれた、腋が開いた白と赤の巫女衣装を着た黒髪の少女は、早苗と呼ぶ少女をその場に残し、彼女も魔理沙を追いかけるように飛び去っていく。

 

「二人とも居なくなってしまいました……神奈子様に二人を監視するよう言われて来たのに………あれ? 私、どうすれば?」

 

 残された早苗は一人途方に暮れた。

 

 

 これは地底から地上へと溢れ出てきた悪霊を止める為、それらを任された地上代表の3人の少女達による『地霊殿異変』解決の話。

 そして後にこの三人の誰かが、地底を………そして幻想郷をも巻き込む大事件を起こす話でもある。

 

 

 

 

 

 

 

「地上と地底の不可侵条約?」

 

「ああ」

 

 場所は変わって旧都の最も高い位置にある酒呑の部屋に、部屋の家主と勇儀はいた。

 

 圧倒的な実力を見せつけ、彼女のカリスマ性と勇儀の号令によって旧都の支配者が酒呑に代わった。その代替わりは数多くの反発こそあったが……しかし、勇儀の命令と配下の鬼たちによって決定することとなった。

 誰も頼んでいないのに。

 

 

 酒呑は数日間動けない身体で日々を過ごし、止める隙も与えられずこうして旧都の支配者になった。

 そんな彼女は今、与えられた役職をすぐにでも辞めようと地上への移住を計画している真っ最中である。

 

 

「………私はそんなこと知りませんが」

 

「まあ気持ちはわかるが…………こればっかりは鬼の約束だしなぁ」

 

「地底の管理者にお願いしても駄目でしょうか?」

 

「絶対無理だね。覚のやつは首を縦に振らないだろうし、そもそもこの約束は地上と地底の妖怪達が結んだものだ。当然、上にいる幻想郷の頭の固い連中………あー、賢者達が許さないだろうさ」

 

「…………せっかく、地上への穴が空いたのに…」

 

 そんな移住計画は計画を立てる前に頓挫したわけだが。

 

 悲しい事に酒呑はこの地底の世界から逃れられない。それがこの世界のルールというもの。移住出来ないという事はつまり、彼女はこの荒くれ者蔓延る地底の世界に一生住まなくてはならない。

 

 いや、それならまだ彼女にとって良いことだろう。本人は良くないと声を大にして言うだろうが、まだ良いのだ。

 しかしその条約がある限り、妖怪達は幻想郷と地底を行き来できない。つまり、何をしても住む世界の違う者同士では会う事は出来ないという事。

 

 それは、地上にいるであろう華扇、透花と一生会うことができない事と同義。

 

 鬼の四天王召集を兼ねて地上の探索をしようとしていた酒呑にとって、明かされたその事実はまさに青天の霹靂とでも言える事実かもしれない。

 

 

 

 

 …………と勇儀は思っていた。

 

「私は……どうすれば……」

 

「私もアイツらを探したいのは山々なんだが……こればっかりはなぁ……」

 

 二人がいる部屋に重苦しい雰囲気が漂う。

 

 勇儀は残りの家族に会えない事実に打ちのめされているだろう酒呑を見てただただ己の無力感に苛まれた。

 勿論勇儀だって他の四天王達との再会を望んでいる。しかも酒呑が帰ってきた今、地底に引き篭もらずに地上に出るのも吝かではない。むしろ、酒呑の下に四天王を再集結させ、新たな妖怪の山を再結成したいとすら思っている。

 

 そして酒呑もまた考えは大体一緒だった。

 いつ殺されるかもわからないこの恐ろしい地底からさっさと抜け出して、己を守り世話をしてくれる家族と再会し、静かな場所でひっそりと酒を呑みながら、自堕落で穀潰しな生活を満喫しようと願っていた。

 

 

 二人の想いはとりあえず一致している。

 なのにそれが出来ない。

 

「…………しばらく様子を見るしかないね」

 

 重苦しい空気に耐えかねてか、勇儀は努めて朗らかに語り掛けた。

 

「ああでも、そんなに悲しむ必要はないさ。現状どうしようもないけど、打つ手はある。萃香が帰ってくればアイツは喜んで母さんの手伝いをするだろうさ」

 

 勇儀の口から出てきたのは、現状ここには居ない萃香の名前だった。

 しかも勇儀の口ぶりでは、まるで彼女が居れば地上に出れるようではなかったか。

 

 何故? 酒呑の中で疑問が生まれる。

 いや、そもそもの話……萃香は今何処にいるのか。酒呑が勇儀から聞いた話では、地底に来る際は彼女も皆と一緒について来たらしい。なら、地底の何処かにいるのか。

 

「そうです勇儀。今、萃香は何処にいるのですか?」

 

「それは私にもわからないな。地底の何処かにいるのか、地上にいるのか……あいつは掴み所がないからね」

 

「そうですか……おや?」

 

 ふと、部屋の外から何やら騒がしい雑音が酒呑の耳に届いた。どうやら屋敷内からではなく屋敷の外で騒がしい様なのでそこまで気にすることでは無いのだが……次第にその騒音が大きくなっていく。

 それは普段は喧騒をあまり気にしない勇儀ですら気になる程の騒ぎであった。

 

「ん? 表の様子が騒がしいねぇ。何かあったのか……ちと見てくるよ。母さんも来るかい?」

 

「………いえ、喧嘩なら貴女一人で事足りるでしょう。任せました」

 

「了解だ。じゃあ行ってくる」

 

 そう言って勇儀は部屋から去った。一人残された酒呑は窓の外に目を向ける。

 

 ここ最近の彼女は部屋に篭りっきりで、一人になれば必ず窓の外を眺めていた。元々あった屋敷を建て直して新たに作られた酒呑の部屋。勇儀の傘下にいる賭博場の鬼達、特に弥助が罰として作らされたこの部屋は、酒呑の要望通り地底の殆どを見渡せるように出来ている。

 

 酒呑は騒がしい場所に目を見遣った。

 

「なんだこの人間!? 強え!?」

 

「へっ! やるな人間! 今度は俺が相手だ!」

 

「いい加減にしなさいよ。何匹いるのよ? もうまとめて掛かって来なさい、めんどくさい。丸ごと祓ってやるから」

 

 眼下では珍妙な巫女姿の可愛らしい少女が鬼共相手に無双していた。

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………ふぅ」

 

 それは中々ぶっ飛んだ光景だった。筋肉の塊達が少女に迫る様子もアレだが、それをバッタバッタとなぎ倒す少女の姿は異様である。

 

 その珍景を眺めながら酒呑は無言で酒を煽った。

 

「いいからさっさと首謀者を出しなさい! どうせこの馬鹿みたいに高く建てられた屋敷の頂上にいるんでしょ!」

 

「首謀者って何のことだ!? 頭は今お疲れなんだ! お前の事なんか相手してるほど暇じゃねーんだよ!」

 

 年相応の少女らしい高らかな声が響いた。

 むろん酒呑の所までその声は届かなかったが、彼女が腕を上げて酒呑がいる部屋に指を指そうとしていたのを見て彼女はスッと身を引く。アレは関わってはいけない気がする。酒呑の長年の勘がそう告げていた。

 

 なにやら何処ぞの誰かと勘違いされている気がするのを酒呑は感じながら、それを否定してくれた弥助の野太い怒声を心の中で応援して…………やはり懲りずに酒を煽った。

 

 

 

 

 

 

 

「うへぇ……うじゃうじゃいるな。倒しても倒してもキリがない。萃香もそうだったけど、鬼ってのは黒いアレみたいに暗いところで繁殖するものなのか?」

 

『おい魔理沙。ヒック……私等鬼をあんな気持ち悪い虫と一緒にするな。大体、私のは分身だぞー』

 

「どっちでもいいわよ。て言うより魔理沙も手伝いなさいよ。鬱陶しいのよこいつ等」

 

「断るぜ。そもそも私の魔法は多人数を想定して作ってないし、そーゆー肉弾戦相手と相性悪いんだ。まったく……興味本位でこんな『弾幕ごっこ』も知られてない田舎に来るんじゃ無かったぜ」

 

 鬼達相手に無双し続ける霊夢を観戦しながら、宙に浮いている陰陽の模様が入った玉とお喋りをする魔理沙の姿があった。

 一目散に旧都に向かった魔理沙だったがその先で一悶着あったのか途中で霊夢に追い付かれたらしい。今は追いついて来た霊夢に面倒事を投げてゆっくりしていた。

 

『にしても本当にうじゃうじゃいるなぁ。ひい、ふう、みい、ヒック………あの騒ぎ大好きな連中がこんなにも必死になって騒ぎを収めようとするもんかねぇ? 勇儀の身に何かあったか?』

 

 浮いている玉……幻想郷の賢者である八雲紫が霊夢達の為に地底をよく知る者のアドバイスを得られるよう配慮した、通信機能がある陰陽玉である。

 その玉から鬼達の様子に違和感を感じ取った少女の声が上がった。それは、毎日のように鬼達と接していなければ分からない様な些細な違いなのにだ。

 

 まあそれもその筈で。

 通信先にいるのが鬼の伊吹萃香だからなのだと言うだけなのだが。

 

 むしろ、よく知っているからこそ八雲紫は彼女をアドバイザーとして選んだのだろう。

 

 

 

「おいおい。騒ぎがあるってんで駆け付けてみりゃぁ、知っている声が珍妙な姿になって私の安否の心配だぁ? 気持ち悪いったらありゃしないね」

 

 だからこそ、幻想郷の賢者は判断を間違えたのかもしれない。なぜなら彼女が地底世界について詳しいという事は、逆もまたあると言う事なのだから。

 

 

 彼女の姿は魔理沙の目にもはっきりと見えていた。明らかに他の鬼とは存在感が違う。鬼を正しく突き詰めればこのようになるのだろうと思わせる鬼の中の鬼。

 人から産まれた華扇や、極めて特殊な条件で発生した透花と違う。

鬼の中でも例外とされる萃香や、その弱さたるやある意味で鬼の常識を遥かに圧倒的なまでに逸脱した存在である酒呑とも違う。

 

 真っ当な鬼として現れ、順当に鬼の力を上げ、生粋の鬼として最強に成り上がった鬼。

 

 

 星熊勇儀がそこにいた。

 

「勇儀姐さん!!」

 

「ふーん………あんたがこいつ等の親玉かしら?」

 

「あん? 私が? 馬鹿言っちゃいけないよ。それより、人間のくせに随分と強いねぇ。いいじゃないか。喧嘩しよーぜ?」

 

 好戦的な笑みで勇儀は霊夢に目を向けた。獰猛で、何もかもを屈服させる暴力的な覇者の気配に彼女は勇儀の力量を推察する。

 強さ的にかつて霊夢が戦った萃香と同等か。勇儀を見て霊夢は、地上から来る前に萃香から聞いていた、自分と同等の力を持った鬼が1人いると言う言葉を思い出していた。

 

 他人の言葉など普段は一切気にしない霊夢ではあるが、この時ばかりは霊夢も多少の警戒は覚えた。

 

「なるほどね。あんたが萃香が言ってた、鬼の四天……なんたらってやつね」

 

「四天王だよ。そこまで言ったなら最後まで言いなよ、ったく………まあいいや。鬼の四天王が一人、力の勇儀とは私のことってな。…………それで人間。お前の名は?」

 

 霊夢に名前を尋ねながら構える勇儀。

 出会ったばかり、名乗りあげたばかりだというのにもう戦闘態勢。今にも飛び出して霊夢に襲い掛かりそうな程だ。いや、霊夢が名前を告げれば一目散に飛び出し襲い掛かるだろう。それをしないのは鬼の流儀に反するから。

 

 名乗ったら喧嘩。鬼とはそう言うものだ。

 

「喧嘩っ早いわねぇ。物騒な事」

 

「お前だけには言われたくないぜ」

 

「うっさい魔理沙…………まあいいわ。そっちの方が都合が良いし」

 

 霊夢も勇儀に応える様に手に持つお祓い棒を構えた。

 

「でも、そうね…………これから祓う妖怪に教える必要ある? 意味ないじゃない。一銭の価値にもならないわ。教えても死ぬんだから」

 

「無作法なやつだなぁ…………ま、いっか! その強気は気に入った! 名前はお前さんが命乞いしてる時にでも聞いてやるよ!」

 

 喧嘩の売り文句に買い文句。どちらも相手に負けるどころか殺し合いそのものにすら忌避感を感じさせない。

 霊夢の全く物怖じしないその態度が戦い前の高揚感を勇儀に与えた。

 

 我慢も限界だとばかりに勇儀は霊夢の挑発に乗って飛び出そうとした。元より戦うことは前提である。安い挑発、戦い前の駆け引き、大歓迎だが結局のところ早く喧嘩したい。むしろそれが全て。

 彼女はその思いのままに飛び出そうとする。

 

 だが、飛び出そうとした直前で勇儀は自分に飛来する何かに出鼻を挫かれるのだった。

 

 向かってくる何か。それは一際輝く星だ。

 魔力の塊が星の形となって勇儀に飛来し、着弾。瞬間その星を中心に爆発が起こり、勇儀を呑み込んだ。

 

 

 

 

「何よ魔理沙。アンタの手助けなんて要らないわ。引っ込んでなさい」

 

「引っ込むのはそっちの方だぜ霊夢。漸く大将のお出ましなんだ。私に任せろって」

 

 勇儀に奇襲を掛けた魔理沙は箒に乗って悠々と空を飛んでいた。

 勇儀の喧嘩に割って入る等と言う愚行、地底の誰であっても………それこそ彼女の上である酒呑であったとしても、恐れ、心の中で泣き叫びながらその場から逃げ出すだろう行い。

 そんな行為を起こした魔理沙は全く気にした様子もなく、その顔にただ自信アリと言った表情で霊夢に引っ込めと宣った。

 

「じゃあ勝手にすれば? どうも勘だとここは違うっぽいし、私は先に行くわ」

 

 そして、霊夢も魔理沙を助けるわけでもなくそのまま勇儀を任せて去っていく。

 

 そんな、今のやりとりを見ていた鬼達は青ざめた。あの人間達は何をやっているのだと。

 近くで観戦していた野次馬の妖怪達はその場から一目散に逃げ出した。巻き込まれて殺されると。

 

 ついでに陰陽玉を通してこの場から離れた地上の場所で眺めていた萃香は爆笑した。

 

「はぁ……何のつもりだい? 萃香………久しぶりに会ったと思ったら、私の喧嘩の邪魔をするなんて。人間に偽装するってのも許せないのに………返答によっちゃ、ただじゃおかねーよ?」

 

 土煙が漸く晴れて姿を現した勇儀に傷一つ付いてはいない。

 ただ苛立ちを露わに萃香の声が聞こえる魔理沙を睨んでいた。

 

「私をあんなガキみたいな奴と一緒にするな」

 

『私をこんな黒白と一緒にするなよ〜。ヒック……いくら勇儀でも怒るぞ〜?』

 

「あん? なんだい二人分の声が聞こえるな。どういう………ああ、なるほど。その陰陽玉か。はっ………鬼の四天王とも言われたお前さんが随分人間と仲良くなったモンだな」

 

 勇儀の顔が嫌悪感で歪む。

 当たり前だ。何せ、勇儀はあの一件以来人間が大っ嫌いなのだから。そんな大嫌いな人間とツルんでいる萃香が許せないのだ。

 

 その殺気だけで人を殺せそうなほどの気迫。直接向けられていないがそれでも彼女の迫力を前に、修羅場をいくつか超えてきた魔理沙をして僅かに足を引いた。

 

『はっはっはっ! まだそんな事言ってんのかい勇儀! 相変わらずだなぁ……ホントお前は変わんない奴だよ。良い意味でも………悪い意味でもな』

 

「おい止めろよ。私が相手なんだからもう茶化すな」

 

 そんな勇儀の殺気を画面越しとは言え直接浴びせられているのに萃香はそよ風を吹きかけられた様。むしろ火に油を注ぐ様な挑発を行う始末。彼女にしてみれば………鬼にしてみればこれくらいの口喧嘩、日常茶飯事だ。

 何年もの月日が経とうが今更それは変わるまい。

 

「………はっ。お前さんも相変わらず変わんないなぁ。いつもいつも私を苛立たせようとしやがって」

 

『……およ?』

 

 ただ一つ変わった事と言えば、その口喧嘩に勇儀が乗らなかった事だ。怒りがさらに湧き上がるどころか、さっきまでの殺気だった様子すら消え失せ、彼女の顔には余裕すら感じさせた。

 

「なあ萃香。お前は変な奴だよ。羨ましいくらいに自由だ…………だけど、今回は裏目に出たな。私はお前が可哀想で仕方がない」

 

『あっ? なんだと?』

 

「幻想郷の支配下にいるお前には教えるつもりは無いよ。でも、そうだな……………」

 

 いつもと違う勇儀の様子に驚きながら、突然の理不尽で屈辱的な哀れみの感情を向けられて少し苛立つ萃香に、勇儀は挑発的な笑みを送った。

 

「帰ってきな萃香。もしかしなくても、お前がビックリすることがあるかもだぞ?」

 

 直接的で竹を割ったような性格。曲がった事が大っ嫌いな勇儀。

 そんな彼女が曖昧で、よくわからない言葉を返してきた。

 

 その事実が、博麗神社で映像を肴に酒を飲んでいた萃香の顔を最も歪ませた。

 その顔は、隣で一緒に観戦していた萃香の古い友である紫が、ここ数千年は見たことがない程の表情だった。

 

『────────』

 

「………なあおい。私を無視するな」

 

「ん? ああ…………そう言えばお前さんにはあの巫女との喧嘩を邪魔されたんだったな」

 

 萃香との会話に集中していたのか、忘れ去られていた魔理沙。

 いくら彼女達にしか知らない話で蚊帳の外だとは言え、魔理沙本人を目の前にしてここには居ない者に意識を割かれるのは気分の良いものでは無いだろう。

 まして、今存在に気付いたとばかりの勇儀の反応は、元々負けず嫌いで自信家である魔理沙が怒るのに十分だった。

 

「私の名前は霧雨魔理沙。鬼の四天王だかなんだか知らないけど、私がすぐに倒してやるぜ!」

 

「お前、強そうには見えないんだけどなぁ…………まあ、いいか」

 

 魔理沙は高度を取り、彼女が持つ魔法道具『ミニ八卦炉』を勇儀に向ける。

 

 勇儀もそれに呼応して拳を固く、硬く、堅く握り

 

 

 

 ──────勇儀は駆けた。

 

 

 鬼達が脇に寄って開いた道を一目散に駆け抜ける。力任せなその突撃は空気を裂き、土埃が上がるよりも早く宙を跳び────そして彼女は音を置き去りにした。

 怪力乱神。かつて酒呑によって称えられたその力は、物理を壊し、理を超え、世界を乱す。

 

 

 

「後悔するより早くに殺してやるよ」

 

 

 一瞬にして空中にいる魔理沙の目の前に現れ、その固く握られた拳を彼女に向かって振り下ろした。

 

 

 

 

 




魔理沙の強さって幻想郷で言えばどの程度何ですかね? 弾幕ごっこ抜きの勇儀とのガチ殺し合いに、人間の魔理沙がどの程度まで耐えられんの?

主人公補正とかあってよくわかんないんですが、どなたか教えて

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