酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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私今年就活生なんですが、3月から本格的に始まるので、その影響でもしかしたら暫く更新出来ないかもしれません。なので、いつもよりちょっと早めに更新します。

今回のはあんまり笑う要素が無いです。てか酒呑じゃないけどさっさと宴を始めろ








再会の盃

 霊夢はお祓い棒を振りかぶり、背後に無数の陰陽玉を出現させる。

 込められた殺意の霊力。向けられる敵意と殺気。一つでも触れれば身体が崩壊を起こすだろうソレを前にして、しかし酒呑は不動を貫く。

 

 コンマ数秒に満たない世界で、霊夢は更に怒りを爆発させた。自分を脅威と見做していないのか、構えもせず魔理沙を離そうともしない酒呑に、嘗められたり煽られたりする以上の屈辱を与えられた。

 

 ならばお望み通り何もさせずに殺してやる。霊夢はお祓い棒を酒呑に向けて振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

「ダメよ霊夢」

 

 振り下ろす半ばで、霊夢の腕を誰かが掴み止めた。

 同時に、全ての陰陽玉が突如空間に出来た玉と同じ数の切れ目に吸い込まれる。

 

「もう、異変は終わりました。これ以上のいざこざは、幻想郷の賢者として看過できません」

 

 甘く妖艶で柔らかな声。なのに不思議と場を支配し強制力を持たせる女性の声。

 後ろから霊夢の腕を掴み、お腹に腕を回して抱き寄せるその存在は、幻想郷にいる誰もから認知され畏怖される。それが味方であろうと敵であろうと、決して心を許してはいけないと思わせる魔性。

 

 この場において酒呑童子と唯一張り合える存在感を持った彼女────

 

 八雲紫がゆっくりと霊夢を背後に退げて、地上と地底両方の間に君臨した。

 

 

「これより宴の席。どちらも今は一度矛を納めては如何かと………そうですわよね、地底の管理者殿?」

 

 紫はそう言って今まで静観していたさとりに目を向けた。その姿はあくまで地上と地底のトップ同士で話すスタンスだ。決定権は地底の管理者。間違っても、ただのとある鬼一匹が地底のトップでは無いと皆に告げている様であった。

 

「…………そうですね。紫さんの言う通りです。私も事を更に荒げるのは本意では無い。そこにいる地上の方の狼藉も、今だけは許しましょう」

 

 さとりも紫の言葉に応じる。肯定的な発言だが、しかし彼女のサードアイは常に紫を注意深く観察していた。一体どう言うつもりだと警戒し、彼女の真意を知ろうと躍起になる。

 

 それがさとりの目が心を覗けない相手に対する反応と唯一知っている紫は満足そうに頷いた。

 

「そう言う事です。さあ地底の皆さん、どうぞ今宵は宴を楽しんでいってください」

 

 そう言って紫は一同を先程まで霊夢達がいた部屋に促した。

 当然、誰も動かなかった。ほんの一瞬前まで争っていた状態だ。どんな阿呆でもいつまた襲われるかわからないこの緊張状態を忘れ、楽しめと言われて素直に宴を楽しめる者はいないだろう。

 

 だから。

 

 

 

 

「やっとですか………いい加減お酒が恋しくなってきた所です。此方も良いお酒を持ってきましたからね………さあ、早く宴を始めましょう?」

 

 

 そんな事が平然と出来るのは、意図した上でそんな事を気にしない大物か。

 はたまた本当に気にしていないとんでもない阿呆だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐ろしく殺意の篭った何かが私に向けられた時、死を覚悟した。

 あ、死ぬ☆────って。

 

 

 やだ怖い。そんな怖い顔しないでよ霊夢ちゃん。ね? だからそんな一瞬で妖怪を退治できそうな物騒なお祓い棒と、一瞬で妖怪を滅却するような霊力の塊を仕舞ってさ? お姉さんと楽しいお話しない? 

 うん。する気がねぇのな。知ってた☆

 

 ………いやだぁぁぁ!!! 死にたくないぃぃぃ!!! 助けて皆ぁ………って離れるんじゃねぇ弥助に豪児ぃ!! 私から距離を取るな! せめて魔理沙を避難させてから離れろ! 早苗は一緒に居てくれてありがとぉ! でも今は逃げて! あれ、完全に殺る気だから!! 多分、鬼じゃないと死ぬレベルで危険な物だから!! 

 

 あわわわわ! わわっ! わっ!!? ぴぎぃ、殺しゃないでぇぇ!!! 

 

 あまりの殺意に失神しそうだった。むしろ失神してた気がする。なんか記憶が曖昧だ。

 だからいつの間にか博麗霊夢さんの恐慌を止め、私を助けるように私達の間に入ったその姿に私は涙を禁じ得なかった。

 

 

 

 

 

 

 ゆかりんきちゃぁぁぁぁぁぁぉあああああああ!!!!! 

 

 さすゆかですよ! ゆかりんマジ神! ホント救世主!! もう抱いて! やっぱ出来る女は違うねぇ。

 同性なのにいつ見ても見惚れるくらい綺麗な姿。妖艶でゾクゾクする甘い声。セクシィーで大人の余裕を見せ付けるその姿は美女のお姉さんって感じ。まるで私みたい。

 ………う、嘘じゃないよ。私だってあれくらい………本当だって! 

 

 まあそんな私に勝るとも劣らないくらにエッチなお姉さんのゆかりん。

 私の古い友達なんです。最近ご無沙汰だったけど、まさか私がピンチの時に助けてくれるなんて………。

 いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど流石ゆかりんですねカリスマが半端ない。言葉一つでこの場を支配するみたいな。誰にも拒否権を与えないこの横暴さと、それが許される彼女の度量。

 やっぱりこのカリスマ欲しいわ。これあれば私ももしかしたら鬼の頭として上手くやっていけるんじゃね? 

 あ、実力込みのカリスマですか………さいですか………。

 

 

「やっとですか………いい加減お酒が恋しくなってきた所です。此方も良いお酒を持ってきましたからね………さあ、早く宴を始めましょう?」

 

 そんなゆかりんのお陰で漸くお酒が飲める。ほら皆も早く宴の席に着きな! せっかくの御好意を無碍にしちゃあかんよ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり本物、なのですね」

 

 だって思ったら目の前に突然目の覚める様な美人さん。勿論皆大好きゆかりんである。

 

 ちょっとビックリした。人5人分くらい離れてた筈なのにいつの間にか結構近くにいるんだもん。しかもめちゃくちゃ綺麗なお姉さん。心臓が飛び出るかと思ったよ。

 

 えっ……どうしたのゆかりん? 

 

 

「お久しぶりです酒呑殿。相も変わらず御健在の御様子で………私、安心しました」

 

 ああ、挨拶か。なるほど、そう言えばしてなかったね。なんかさとりちゃんとトップ同士の会話みたいな事してたから圧倒されて忘れてたよ。

 

 てか私はそこまで昔だと思って無いけど、あっちからしたら千年も会ってなかったんだよね。なのに変わらぬ美貌………しゅごい。

 

「はい、お久しぶりです紫さん。貴女も千年前と変わらないご様子。こうして再び会えて、とても嬉しいです」

 

 いやー。流石に千年も会ってないってわかったら会話するのも結構緊張するもんだけど………意外と大丈夫だったね。しかもお互いの再会を喜び合えること自体がとても嬉しい。

 

「………いつどの様に幻想郷に来た、なんて不粋な質問は致しません。ですが、一つだけ質問を………何故、このタイミングなのですか?」

 

 ゆかりんは何処からともなく隙間を出現させて、そこから取り出した扇子を広げて口元を隠し私に質問してきた。

 

 ……相変わらず絵になる。何考えてるかまるでわからない怪しげな表情をするゆかりんの口元が見えなくなるから、更に怪しげで胡散臭さが増している。だけど、それがカッコいい。

 なんとも意味のわからない漠然とし過ぎて珍妙な発言も、その仕草で意味あり気に見えて逆に様になる。ぶっちゃけマジで何のことかわからない。

 多分、これを聞いているほとんどの人が意味を理解していない。

 

 でも友の私ならわかる。それってそーゆー風に見せるだけのポーズで、本当は怪しさなんて一つもない純粋で優しいゆかりんであることを!! 

 

 つまりこれは久々のやり取りをしようって事ですね。わかりました、師匠!! 

 

 私も出来るだけ表情筋を動かして、いつも強張っている口角を上げて頑張って笑みを作る。

 

「紫さん。貴女なら……貴女だけなら気付いているのでしょう? 千年と長い時が満ち、私は目覚めた。それは様々な方々による思惑が遂に明かされたと言うこと…………私は、ただその流れに殉じたまでですよ」

 

 千年寝てた私がなんで今頃になって起きたのかわからないけど、まあそれは拉致った人達の思惑であって彼等の考えが漸く叶ったのでしょう。まあ解放された私には関係ないけど目を覚ますことは出来たので、とりあえず今は自堕落な生活を目指して頑張っています。

 

 って意味です。

 意味深過ぎて思ってる事と言っている事がぶっちゃけ全く違うこと言ってるように聞こえるけど…………ゆかりんは何故かこれを理解してくれるんだよねぇー。流石師匠。貴女の訓練のお陰です。

 妖怪たる者、常に己の思惑を相手に見せず語るべしと言う教訓………今でも覚えてますよ!! 

 

「なるほど………では、貴女はこの幻想郷でなんの欲望を見せてくれるのでしょうか? まさか………かつてのようにこの世界の支配、などとは言いませんよね?」

 

「ふっ、そんなまさか。私の望みは安泰にある…………この世界の支配など、興味ありませんよ」

 

 私もゆかりんと同じ様に懐から大事な扇を取り出して、見せびらかす様にしながら口元を隠した。

 

 見て見てゆかりん。実は前から自慢したかったんだよねーこの扇。これ、友達から貰った扇なんだ。なんと友達の羽をわざわざ抜いてもらって作られた扇なんです。凄くない? てか綺麗じゃない? 

 白銀の羽を一枚一枚綺麗に並べて出来上がった羽根扇。友好の証としてあの娘自身から貰ったこれは、美しさだけじゃなくて機能性も抜群。ちょっと扇いだだけでかなりの強い風が起こせる一級品。疲れず涼しい風を起こせるから夏場に持ってこい。

 

 どうよこれ。いいでしょ。ゆかりんと悪の令嬢ごっこする為に態々誰にも見せずに隠していたのさ!

 

 

「…………なんとも、良い扇を使っているのですね」

 

「ええ。私の大事な宝物ですとも」

 

「そうですか…………わかりました。貴女の意見、しっかりと聞かせていただきました」

 

 そう言ってゆかりんは目を細め…………私から視線を外して別の方に目を向けた。私もつられてそっちの方に目を向ける。

 

 視線は私の斜め後ろ。相変わらず小さくて可愛いさとりちゃんがいる。そんな彼女は私を見て呆れた様な表情をしていた。

 あっ。これ、私がゆかりんと思わせぶりな話をして実はくだらない事しか話していないのバレてらぁ。心読めるもんね。

 

 ああ、折角の貫禄が………ここは一つ煽てて皆に告げられるのだけは阻止しなくては。

 

「ささ、さとりさん。どうぞお先に………既に席も用意されている事ですし、地底の管理者殿には上座に座っていただければ」

 

 そそくさと道を譲って彼女を促す。ちなみに今も私の思惑がバレているので更に呆れた表情をされたが………関係ないね。私は全力で媚びを売るよ! 

 

 

 

 

 

 さて、本当に長くなったが宴である。

 皆渋々と言った様子で席に着き、ゆかりんの乾杯の音頭と共に静かに始まった。歓迎されてないしされる気も無いのか私以外誰も乾杯の言葉を告げていない。本当に宴かと疑わしくなるね。

 

 ちなみに早苗と魔理沙は保護者や友人の方々に返した。無論睨まれたがそれに関しては全面的に此方が悪いので仕方がない。

 さっきは気付かなかったけど、早苗をあんな危険な地底に長く引き留めた事はやはり良く無かったのだ。親達もきっと早く帰ってくる事を願っていただろうに、私が早苗の我儘を良しとしたせいで………駄々を捏ねられたのは言い訳の内に入らないのだ。大人がしっかりせねば。

 それに魔理沙なんて此方側のせいで右脚を失ったのだ。彼女のような年端もいかない人間の娘相手に、勇儀が大人気ない対応をしたのが駄目。

 

 つまり全面的に私達が悪い。

 

 

 という訳で、他の地底の方々と違って地上の方達から最悪の印象を抱かれている今、私の周りに殆ど誰もいない。勇儀と護衛の2人。そして────

 

 

「先程も言いましたが………お久しぶりです、萃香」

 

「……ああ…………本当に久しぶりだ。酒呑」

 

 久しぶりに再会した鬼の四天王の一人である萃香がいた。

 

 

「驚きましたよ。まさか地上に居るとは…………あまり心配はしていませんでしたが、勇儀から行方不明と聞いていたので貴女をずっと探していました。なのにずっと見つけられなかった…………見つけられないわけです」

 

「いやぁ、面倒を掛けたねぇ。でも、私の方こそ驚いたよ。まさか帰ってきていたなんてな」

 

 久しぶりに会ったけど特に萃香は変わりなかった。………いや、変わった事はあるか。

 

 ほんのり顔が赤い。つまり、酒に強い筈の鬼である萃香が、宴を前にして既に酒を飲み、酔っているという事を意味する。これは今までなら考えられなかった事だ。

 

「こう言った行事は蔑ろにしない貴女が………まさか、始まる前からお酒を飲んでいるなんて。楽しみは取っておくのが好きでは無かったのですか?」

 

「…………ふん。いいじゃないか別に。昔と今は違う」

 

 萃香の言葉に、近くで驚いた反応をする者が数名いた。一名はまだ私がいた頃の萃香を知らない弥助。

 

 そして残りが、なんか呼んではいないんだけど元部下としての種族的な立場からか、おっかなびっくり私の所にやってきた鴉天狗と河童の妖怪二人であった。

 初めましてだから河童の方は見たことが無いのは当たり前なんだけど………何故だろう。天狗の方は何故か他人な気がしない。誰かに似ているのか? 

 

 まあ、それはいい。後回しだ。今はするべき事がある。

 

 

「さて萃香。それと、改めて勇儀も。寝てただけなので私は正直そうでも無いのですが………萃香や勇儀には千年もの月日を待たせてしまった…………。そのお詫びと、再会を祝して」

 

「ああ」

 

「そうこなくちゃな」

 

 私がなみなみと酒が注がれた盃を掲げる。それに合わせて、萃香と勇儀も酒が入った其々の物品を掲げる。相も変わらず水を得た魚のように私の音頭に呼応する家族達に嬉しさが込み上げて来て………されど2人ほど足りないこの酒呑の場に僅かな悲しみを感じながら。

 

 

「「「乾杯」」」

 

 私達はお互いの酒を軽く叩き合い、勢いよくそれを呑み干した。

 鼻を突き抜ける様なクセの強く、芳醇で濃厚な風味。アルコールの苦味と辛口な日本酒独特の味。かなり高級な酒であるが、贅沢にもそれを一口で飲み切る。

 

「ふぅ………美味しい」

 

 思わず声に出してしまった。しかし、そう思わずには居られないほど美味しい。寂しく独りで呑むのとは違う、家族との乾杯である。美味しくないわけがない。

 

 ただ、先程から刺さる二つの視線を除けばの話であるが。

 

「………ところで先程から気になってはいたのですが」

 

『ビクッ』

 

 再会の酒の一口を十分に楽しんだ私は、ずっとこちらを見続けている二人の少女を放置し続けるのも申し訳なく思い、其方に目を向けた。

 

 

「お二人は初めましてですよね。酒呑と言います。どうぞよしなに」

 

「ヒッ」

 

「あややや……」

 

 私の言葉に二人は悲鳴をもって応えた。

 ………ただ挨拶しただけなのに悲鳴は流石にショックだった。かつての上司、それも鬼の四天王と元妖怪の山のトップがいる状況で恐がるのは仕方のない事だと思うけど………私は何か粗相とかしたくらいで怒ったりしないから普通にして欲しいんだけどなー。

 

 それは勇儀も思ったのか、嗜めるように彼女達に話しかけた。

 

「おいおい。母さんが話しかけてるんだぞ。お前達もちゃんと自己紹介しろよ。昔から言ってるよな? 私はお前達を盟友と思っているが、そうやって相手によって態度をコロコロ変える臆病で狡猾な性格が大っ嫌いなんだ」

 

「………ってこのお馬鹿勇儀。何を脅しているのです。そんなこと言ったら益々この娘達が怖がるじゃないですか………気を悪くしたらごめんなさい貴女達。ほら、勇儀も謝りなさい」

 

「「いえいえいえ!! 滅相も御座いませんッ!! 本当に気にしてないですからどうか頭を御上げください!!!」」

 

 流石に本人を前にして暴言を吐く勇儀を嗜める。何言ってんだこの駄鬼は。見ろ、首を振ってるけどメチャクチャ小刻みに震えてるから。本当に申し訳ない。

 

(あばばばばばは!!! まさか伝説に聞いていた鬼の親玉が目の前にいるなんて!!? あの星熊勇儀を叱り付けるとかマジじゃん!! ヤバイヤバイ!!)

 

(くぁwせdrftgyふじこlp)

 

(射命丸の奴が狂ったぁぁ!!? ちょっと! 私を一人にしないでよ!!)

 

 悲しいかな。かつて力と恐怖で妖怪の山を支配した鬼は、個人を超えて種族と言う枠の規模で怖がられているのか。私は恐怖政治を敷いたわけでは無いのだけど。

 どうしようか………魔理沙に使った精神安定の術も人間にしか使えないし。一応、妖怪に効く奴もあるけど………見た感じ、彼女達は私より圧倒的強者っぽいから使っても効かないと思うんだよね。

 これは彼女達が私に慣れるのを根気よく待つしか無いか……? 

 

「へ、へぇ。わ、私は河城にとりって言います。見ての通り、河童やってます」

 

「ああ、河童の方でしたか……どうですか? 昔のように何かを作っているのでしょう? 何かいい物でも作れましたか?」

 

「い、いえ! そんな、鬼の方々にお勧めできるような物は何も………はい」

 

「なんでも良いんですよ? なにせ、千年も私は居ませんでしたから、ね………貴方達河童のもの作りには興味があるんです」

 

 昔は色んなものを作ってたよなー。大陸から伝わった火薬の使い方も彼女達はそれよりずっと前に編み出していたし。全自動お酒造りのカラクリも彼女達が編み出してからは重宝したものだ。

 確か、雷の電気や水車の動力を使って動かすんだよね。その発想には私もよく度肝を抜かれた。

 

「そ、それだったらこんなのがありますよ」

 

一瞬、おっかなびっくりと言った様子で語り始めたにとりさん。しかし河童をよく知る私は知っている。これが仮初の姿であることを。

 

 

 

「今、私が使ってるのが光学迷彩スーツは他の同族達でも作れない私唯一の作品なんだ。これがあればどんな場所でもその場の景色に溶け込んで透明になれる優れものでさー。しかも匂いや妖力も隠蔽する優れもの!! 例え白狼天狗の奴等でもこれを着れば私を見つけることは不可能だろうね。背景をカメラで撮ってリアルタイムで液晶画面に映す発想は従来の光学迷彩と同じだけどこの子は違う。一つ一つの画面を球状にする事であらゆる角度から見てもその背景を映す。しかも画面はマイクロレベルまでに小さくしてそれを────」

 

 そして尋ねてみれば予想通り、聞いても私の頭では全く理解できない彼女の発明発表が始まった。水を得た魚の様に喋る勢いは止まらず、聞き手の事を考慮しないその演説は私のよく知る河童と全く変わらない。

 

 しかしそれよりも、だ。

 

 

「だから消臭薬品を科学の力で凝縮しつつその効力を損なわない方法を編み出したわけ────」

 

「にとりさん」

 

「ひゅい!?」

 

 悪いとは思いつつもにとりさんの話を遮って私は声を掛けた。

 

 

「──………あっ! いや、えっと、今の口調は違くて、あの………なんでございますでしょうかぁ!?」

 

 話を遮れば突然にとりさんが情緒不安定な口調になった。が今はどうでもいい。それよりも、私はとても………とても無視できない気になる言葉を耳にしてしまったのだ。

 

「透明になれる………誰にも見つからない、ということですよね?」

 

「へっ? ……あ、はい。それが何か………」

 

「その道具。私にも作ってくれませんか? 勿論、タダでとは言いません。それ相応の報酬を約束しましょう」

 

 

 誰にも見つからない。

 

 それはなんて……………なんて甘美な響きなんだ!! 是非とも欲しい!! それがあればこっそり家から抜け出すことも、地底から抜け出すことも出来るじゃないか! 凄い!! 

 

 欲しいと思ったら即行動、即交渉。欲しい物が在れば私は妥協しない。

 

「えっ、でも、これ一点もの……」

 

「作ってくれますよね?」

 

「は、はい! 誠心誠意作らせていただきます!!」

 

 おねだりすれば彼女は快く首を縦に振って頷いてくれた。

 

 わーい。了承を得られたやったー。え、今いたいけな河童を脅してなかったかって? 

 ………そんなことないにょ? 私はただお願いしただけだし。へ、変な言い掛かりはやめてよね!! それより、次の自己紹介しよう! そうしよう! 

 何故か作る為の費用が、とか労力と時間が………とか顔を青くしてぶつぶつ呟いているにとりさんを放置して、私はもう一人の鴉天狗の女の子に向き合った。

 

「それで貴女は………見たところ鴉天狗のようですが………何処かで会ったことありませんか?」

 

「…………(ぷしゅぅ)」

 

 しかし鴉天狗ちゃんは返事をしない。まるで屍のようだ……………いや冗談ではなく、この子マジで魂が抜けてない? 大丈夫? なんか揺すっても反応しないし、体調でも悪いのか? 

 

 ちょっと心配になって私は彼女の顔を覗き込んだ。

 

 うーん………この鴉天狗の姉ちゃん。どっかで見たことあるんだよなぁ……。でも、こんな可愛い子に会ったら絶対私は忘れないし、勘違いか? 

 でも何処となく誰かに似ている気がするんだよねぇ。私がいた頃に大天狗をやっていた誰かの面影が………。

 

 確か、名前が……しゃ、しゃ………

 

「射命……まる。そう、射命丸」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッはい!! ………………え?」

 

 

 お、なんか返事した………って、あれ? 今、射命丸の名前で返事したよね? え、おんなじ名前なの? ふむむむ…………。

 

 確かに、射命丸に顔立ちが似ている。彼女を人間で言う10代くらいの若さまで若返らせたらこんな感じに………いや、それより彼女の娘の文が成長した方が丁度こんな感じになる気がする。小さくてほにゃほにゃしていた彼女が成長するなんて全然想像出来なかったけど、こう似ている女の子を見るとスッと想像できた。

 

 

 ………てか、文じゃね? 

 

 

 

「もしかして………文なのですか?」

 

「────ッ、覚えていただき………感激の極みです。幼少の頃、貴女様に相手をしていただいた射命丸文で御座います」

 

 

 私の問いに、彼女は明確な答えを以って返事を返した。

 

 ………ああ、なんて事だ。

 

 

「…………そう、ですか」

 

 すっかり忘れていた。いや、頭では理解はしていても意識はちゃんと理解していなかったのだろう。

 千年前、と言う長い時間と認識の差を私は全く理解していなかった。

 

 私が知る者達はみんな姿形が殆ど変わっていなかった。妖怪だからと言われればそれまでなのだが、それでも私は会う者達に多少の変化が見えていてもそれ程気にはならなかった。

 

 でも幼かったあの文が妖怪として立派に成長した姿で現れて、初めて千年の月日を実感できた。

 

「大きく………美しく成長しましたね。私はとても嬉しいです」

 

「ありがとう、ございますッ。貴方様にそう言っていただけるなんて………この千年思いもしませんでした」

 

 感極まった様子で応える文。文は私の事を幼かった頃しか知らない筈だけど、幼かったなりに彼女もあの時のことで思うことがあったのだろうか。

 

 感慨深い、とはあまり言えない。何故なら他の者達にとっては千年であっても、私はつい最近の出来事として記憶にあるのだ。

 

 昔の知り合いと会えば会うほど、私が置いてかれた様な感覚を覚えてしまう。まるで()()()()みたいじゃないか。私だけ一人昔のまま。

 

 

「ああ……本当に。千年の月日が経ってしまったんですね」

 

 悲しい。悲しいけど………。

 

 

 

 同時にとても申し訳ないと思ってしまった。

 

 久々に会った勇儀を見て、苦労を掛けたと思った。でも、それだけだ。

 妖怪の山を放っぽり出した華扇や透花に萃香の残りの四天王に腹を立てた。それぞれの理由なんて考えずに。

 

 浅はかな事この上ない。私は馬鹿だ。大馬鹿だ。千年経てば本人の気など幾らでも変わる。物事の殆どが移り変わる。

 私は、千年経った今でも私が帰る場所を残していてくれた勇儀に泣いて許しを乞い、許して貰えた上で感謝すべきなのだ。離れていった3人に怒るなど烏滸がましい。地に頭を付けて誠心誠意謝るべきなのだ。

 

「──………勇儀」

 

「なんだい、母さん?」

 

「──………萃香」

 

「……なんだよ酒呑」

 

 

 私の頬を熱い何かが伝った。

 

 

 

 

 

「本当に、ごめんなさい………本当に、申し訳ない。貴女達に、一体どれ程の責任を押し付けていたのでしょうか」

 

 私は知らず知らずの内に涙を流していた。

 

 

「えっ……ちょ、母さん!!?」

 

「はぁ!? 何泣いてんだ酒呑!! 止めろ、私達は別にそんなんじゃ…………おい射命丸!! お前何しやがった!!」

 

「ひぃ!? あややや!! 私は何もしていないですってば!!」

 

 ああ………本当に、私は良い家族を持った。私には勿体ない家族を持った。

 

 本来なら罵詈雑言を浴びせても誰も怒らないだろう。いくら見合っていなかったと言え、私は組織の長である立場を捨てて突然消えたのだ。普通は、こんなにも暖かく迎えてくれないのに。

 

 二人は怒るどころか私を気に掛けてくれる。なんて良い家族なんだろうか。

 

「文のせいではありません………ええ、ごめんなさい。お酒の席だと言うのに突然湿っぽくなってしまって。文もごめんなさい。ほら、久しぶりなのです。私の近くに」

 

 納得のいってなさそうな2人を宥めて、私は文を手招きさせる。

 おずおずと近くにやって来た小鳥ちゃんを抱き寄せて、私は昔のように彼女の頭を撫でつつ片腕を彼女の背中に回す。

 サラサラと透き通る黒髪が私の指の間を抜けていく。フワフワとした黒い羽はいつであろうとも触り心地が最高だ。美しい女性に成長しようとも、私の中で変わりはない。

 

「覚えていますか? 昔の貴女をよくこうやって撫でていたのですが……」

 

「はい………酒呑様………」

 

「それは重畳………萃香も此方に。久しぶりに飲み比べといきましょう」

 

「よくわからないけど………まあ、いいか。私としてもリベンジしたかったんだ。今日こそ勝ってやるよ酒呑」

 

 背中の翼を撫でるのをやめて、私は懐から秘蔵中の秘蔵のお酒を取り出す。地底でも最高ランクのお酒だ。普段の私なら後生大事に取っておくレベルのお酒なのだけど、私にとっても久しぶりの再会。

 こんな大事な時に飲まずにいつ飲むのか。

 

 私は萃香と、隣にいる勇儀にもお酒を注ぐ。私は飲み比べは好きではないが、二人は飲み比べが大好きなのだ。なら、千年待たせた詫びとして二人の好きな事をさせて上げるのが、私がやらなければならない義務であろう。

 

 

 

 

 未だ、私の野望は遠いままだ。

 それでも、私が可愛がっていた鴉天狗の文と鬼の四天王の二人目をこの手に取り戻したのだ。それは大きな前進である。

 

 早く残りの二人を見つけ、そして盟友の天魔を加えてまた宴を開こう。ドンチャン騒ぎの楽しい楽しい宴だ。美味しいお酒を飲んで、美味いご飯を食べて、可愛い子を侍らせる。

 

 酒池肉林!!! そして始まる自堕落な生活!!! 

 

 その為にも早く帰ってきてぇ!! 華扇、透花ぁ!!

 

 

 

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