酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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ここからは完全にそうだったら良いなぁーって言う願望で書いてきます。ハッキリしていないキャラの戦い方とか完全にオリジナルなので、そう言うの無理!!という方はごめんなさい。
原作ではちゃんと戻しますので………






お酒、良くない

「ん…………。ここは、どこでしょう?」

 

お早うございます。お酒大好きっ子鬼こと、酒呑です。今しがた深い眠りから覚めて朝を迎えたら、寝る前と景色が変わっていたニョ。

 

いや、マジでここどこ。と言うより、アレ? 九尾は何処行った? …………なんか前もこんなこと言ってたな。迷子多くないか私。

うーん、わからん。たしか、そろそろ傷も治って動いても問題無いくらいには回復していたような気がすることは覚えているんだけど…………もしかして、もう去っちゃったかな。

 

残念だ。まだ一度もモフモフさせてもらって無かったから、一度くらいあの毛並みの良い尻尾と耳を触りたかったんだけど………

 

「まあ数日の仲ですから、挨拶もなしにいなくなるのも仕方ないですかね…………痛っ」

 

起き上がろうとした直後、鋭い頭痛が私を襲った。

 

て言うか痛い。なんだこれ。すんごい痛いんだけど。ズキズキする。まるで二日酔いのような痛みだ。私、二日酔いになったこと無いけど。

 

「いたた…………グスッ」

 

それにしても痛い。痛すぎて涙が出てくる程だ。

あとなんだろう。病気かな。さっきからどうしようもない喪失感が半端ない。私の心から何かがスッポリ抜け落ちたような、そんな錯覚がする。

おかしいな………。特に失ったものなんてない気がするんだけど。強いて言えば、あの狐くらい………

 

「うう………あああぁぁ」

 

それよりなんだよ。さっきから涙が止まらないんだけど。なに、私。どうした。本当に病気か? 疲れているのかな。

うーん。一度、知り合いの妖怪に見てもらった方がいいかもしれない。最近会ってないから何処にいるかわからないけど、それを探すのも意外と醍醐味か。

 

…………ああ、くそ。涙が止まらない。なんでだ。なんでこんなに悲しいんだ。

わからない。なんでこんなに胸が締め付けられるような想いをしないといけないんだ。

 

…………もう、やめよ。深く考えるのは止めてふて寝しよう。そうしよう。

ちょうど周りは()()()()()()()()。吹き抜ける風に太陽の暖かい光は日向ぼっこには丁度いい。さっさとお昼寝でもしよ。

 

 

………そう言えば、あの九尾。名前が無かったな。流石に遥か格下の私が名前を付けるのはどうかと思ったけど………コーンって鳴くのが可愛かった。だから、コン。(コン)って名前を付けてあげたかったんだけど………もう、関係ない話……か……

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日後。私は大陸の地を発った。

あの地にいると無性に悲しくなって、それがなんだか辛くて、私は心機一転して故郷の大陸から離れた。

目指すは新天地。なにやら東の海の向こうには大陸よりかなり小さい島があるらしい。私はそこに向けて足を動かした。

 

久しぶりに乗った船は快適だったとは言い難く、酷いものだった。荒れる海、船の乗り心地は最悪、長い航海故の食料問題も無視できない。

人間が渡来する船に乗り込んだはいいが、最終的に私以外の人間は死んでしまった。

 

 

そうしてやって来た島は意外と大きかった。島、と言うから小さなものを想定していたのだけど、着いてみれば特に大陸の光景とまったく変わらなかった。

 

だが全体は変わらずとも見慣れない光景は多々ある。人々の文化や、その土地の植物。新しい土地と言うのは知らないものが沢山あるからワクワクするものだ。

これだから旅は止められない。

 

しかし新しい土地に来てやはりと言うか必然と言うか、困ったことが一つ。この島(国?)の言語が全くわからないのだ。

大陸同様、漢字を使うのは同じなのだが、独自の文化に発展したのかかなり違う言語が使われている。これでは何もわからない。

妖怪と言えども、言語は大切だ。言霊(ことだま)と言って、言葉には大きな力が宿ることもあるくらい、言語は大変重要なことである。

 

さしあたって、当面は勉学から始めなければ。

 

 

 

 

「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

 

「はぁ………お腹でも空きましたか?」

 

やはり知識を得るには、それを与えてくれる者を得なければならない。先達の者に教えを請う以外にやり方などない。それは文化は違えど同じなのだ。

 

「あうー」

 

「はい、おねんねの時間ですね。わかってます………全く、いくら村長の子供とはいえ、こんな気持ちの悪い………」

 

「あうあー」

 

 

ちなみに、おわかりいただけているだろうか? 私は今赤子の面倒を見ているわけではない。じゃあ何をしているか? 言わせんなよ恥ずかしい。

 

…………はい。そうです。私が赤子になっているのです。

いやー。これも妖怪の神秘ですかね(*´・ω・`)bグッ。なんと私、赤子の体に憑依しているのです。もうかれこれ千年以上は生きているのにまさかの幼児プレイ。最高ですね。

 

とは言え、私は別にこの赤子の身体を使ってどうこうしている訳ではない。むしろ逆。私はこの赤子に憑り付いただけで何も出来ない。

この赤子にも意思はあるし主導権も赤子にある。私は本当にただこの赤子に憑り付いているだけだ。

 

何故こうなったのか。それは数ヶ月前までに遡らなければならない。

いくら言語の違いや文化の違いがあろうと私は変わらない。何時ものように村や都市に繰り出してはお酒や食糧を盗むだけ。

 

そんな日課となった不法侵入の折りに、ふと私は導かれるようにとある村の大きな屋敷に入った。

その屋敷は盗みには丁度よく、出産を間近に控えた女性がいる家だった。その為、家の者達は常に忙しなく動き気配を消している私に全く気付かない。

これはありがたいと思い、私はすぐに食糧のある倉庫を探そうと思ったのだが。私はとある赤子を視界に入れてしまった。

 

その赤子の頭になんと、小さい角が生えていたのだ。

まさかの同族の誕生である。しかも種族の違う人間と人間の間で生まれ落ちた。なんと珍しいことか。

私は思わぬ出来事に遭遇して少しばかり舞い上がった。何せ鬼の誕生だ。同じ鬼として喜ばない訳にはいかない

 

私はその顔をよく見ようと赤子を注視し……そして気付いてしまった。

この赤子は駄目だ。長く生きられない。そう気付いてしまった。

 

私は鬼であるが仙術を扱う異端の鬼だ。だからこそ鬼の事を熟知した上で、鬼の生命の気を敏感に感じる。

もうこの赤子は死ぬ。そうなってしまった原因はわからない。人と人の間に突然変異で生まれた故なのか、それとも何処の誰かの作為的な物なのか、もしくは単純に環境なのか。

現状ではわからなかった。

 

加えて可哀想なことに、この鬼の赤子は今誰にも見向きもされていない。多分、角が生えているせいで忌み子扱いされたせいなのか、それともこの子以外にもう一人双子の赤子が産まれかけている為に単純に手が回っていないか。

放っておけば今日中に死ぬ。

 

鬼とは生命力の高い生き物だ。鬼との子を設けない限り、鬼の出生は基本的に、劣悪な環境か自然災害に人々の思念が合わさって生まれる。その為、鬼はどんな状況でも生きられる生命力の高い者が多い。

 

しかしこの赤子は違った。

生命力は著しく低く、誰の助けもなければ確実にこのまま死ぬ。生きるのが辛く、苦しい程に弱い。

 

この私のように。

 

 

私の決断は早かった。

この鬼の赤子を助ける。この身体に憑依し、仙術で私の気を常に送り続けて健康を維持させる。出来ない筈はない。私は普通の鬼と違って弱いため、本人への抵抗も少ない。更にこの子は同族故に親和性も高い筈。

 

私はすぐにこの赤子に憑り付いた。

 

 

「うー」

 

それ以降赤子は何の病気に掛かることもなく健やかに育っている。それでも身体が丈夫だとは言えないが、後数年も経てば身体もある程度丈夫になり、私がいなくても生きていけるようになるだろう。

 

だがやはりと言うか………この子を取り巻く環境は決して良くない。

その最たる物の一つがこの角。人には決してあり得ない、額に生えた二本の角が原因で忌み子として周囲から煙たがられている。

救いなのはこの村の村長の子供と言う立場か。一応、最低限の扱いは受けている。しかしそれ以外は特に何もない。

 

乳は与えられるがいつも双子の弟の後。大陸に比べて質素な食生活のせいか乳母の乳の出もそこまで良い訳でもないから、満足な栄養を得られていない。

衛生面も良くない。老廃物はそのまま、身体も二日に一回しか洗われない。

他にも色々と足りていない。この子の両親もこの子が気味悪いのか、扱いもやはり忌み子のそれ。名前すら忌むべき名前を使われている。

 

いくら健康になったとは言え、それは人間の赤子程度に良くなったくらいだ。このままでは死んでしまう。

 

「ご飯の時間ですよ~」

 

「んゃー」

 

その内、私はこの赤子の身体から離れて彼女の世話をするようになっていった。普段はこの子の中にいるが、誰もいないときは外に出て乳母の代わりを行う。それ以外方法は無かった。

不幸中の幸いと言うべきなのか、この子は誰にも見られていない。誰もがこの子を忌み嫌い、居ないものとして扱う。この子にとっては悲しいことだが、育てないといけなくなった私には都合が良かった。

 

「華扇、華扇。いない、いない、ばぁー」

 

「ぶー!」

 

「ふぎゃっ! ………だ、駄目ですか。いないいないばーは嫌いですか」

 

この子の名は華扇。私が名付けた立派な名前だ。

華扇は私に良くなついた。拙いながらに色々と彼女の相手をすれば、私のやることに華扇はいちいち反応を返してくれる。

…………あれ、気のせい? 私が構われてないか?

 

まあ、あれだ。つまりは華扇はとても可愛いと言うことだ。このクリクリな目も、ほにゃほにゃした顔も、伸び始めてきたピンクの髪も、ニョキっと飛び出た小さい角も。全てが可愛い。

何故人間達はこの可愛さがわからないのだろうか。

 

「華扇ー。ほら、酒呑ですよ。しゅ、て、ん」

 

「シぃ……て」

 

「しゅ、て、ん!」

 

「しぃて!」

 

舌ったらずな声で呼ばれるのが堪らない。最近は(ry

あれ? この考え、前もしなかったっけ?

 

まあ、いい。華扇は私が思っていた以上に順調に育っていった。

一歳を超えた辺りでヨチヨチ歩きも出来るようになったし、言葉も少しだけ喋れる。限りなく健康児と言えるだろう。

 

しかし順調な成長とは裏腹に、この子を取り巻く環境は一向に良くならない。

 

この村はそこまで土地に恵まれた場所ではなかった。畑の約半分が駄目になるのは当たり前。飢饉の憂き目にもあった。

が、毎年不作といえるこの村でも今年は更に不作の年になってしまった。

 

ちなみにこれは何が原因があるからと言うわけではない。仙術で調べたが地脈も安定している。特に呪われていると言った『負』の影響も見えない。

強いて原因を挙げるなら自然が原因だろう。まだ一年目なのと年間を通してのこの地の天候は知らないが、私から見ても今年は雨が多く、駄目になる田畑は多かった。

一年目はまだ良かった。しかし、それが2年間連続で起これば村は立ち居か無くなる。既に備蓄はなく、次の年も飢饉にあえば、村の全滅すら危ぶまれる。

 

だが相手は自然。彼等がなんと願おうと意思のない自然相手には何の意味も持たない。

運がなかった。仕方のない事だった。そう諦めるしかない。

 

それでも、人間とは何かと理由を付けたがる生き物だ。居もしない龍神を奉り、その年が不作だと御供え物が悪かったせいだと理由を付けるように。

 

不幸なことがあればその理由を作りたくなる。仮に証拠も根拠も無かろうと、その不幸を何かのせいにしたくなる。

 

「あの忌み子のせいだ」

 

華扇が5歳を迎えてしばらくの頃だ。切っ掛けは使用人の些細な言葉だった。

忌み子。殆ど忘れ去られた存在となっていた華扇が、その一言で存在が明るみに曝された。

 

村は連続の不作で元気がなかった。負の感情に傾いていた。だから、華扇の事を思い出して以降、誰もが華扇のせいと理由を付けるようになった。

 

やれ、土砂降りのように雨が降り続けるのは忌み子のせい。

やれ、病人の数が日に日に多くなるのは忌み子のせい。

 

華扇に元々入る枠が無かったが、居場所すら無くなっていった。

 

「しゅてん………みんな、怖い」

 

「そうですね………」

 

特別何かされたわけではない。だけど、日に日に高まる華扇への言葉は酷くなる一方。

 

「ちちうえも、ははうえも。みんな、わたしをやな目で見てくる」

 

彼女の肉親である父親と母親も、彼女の頭から飛び出た角を見るたびに華扇を睨み付けて暴言を吐いていた。

今の彼女に誰も味方はいない。知り合いも友達も、親も、誰も。

 

わかっていたことだ。いや、わかりきっていた事だ。鬼になるものは皆忌み嫌われる。大陸の方でも人里生まれの鬼はこういう扱いを受けるのだ。

むしろ、それを乗りきってこそ鬼は一人前と言われる。

 

「しゅてんは………」

 

「…………」

 

「しゅてんは、私を見捨てないよね?」

 

さて。どうするべきか。

一人前の鬼として育てるなら、ここで私は華扇を見捨てなければならない。それが先達の鬼としてやるべきこと。

私はもう華扇を人間として育てるつもりはない。それこそ彼女には酷だから。いつか鬼として一人でもやっていけるよう育てるつもりだ。

 

だから、私は無意識にだろう伸ばしてきた華扇の手を振り払った。

 

 

「あっ」

 

そして―――

 

そのまま彼女の小さな身体に抱き付き、ぎゅうぅっと抱き締めてあげた。

 

「大丈夫。いつまでも私は貴女の味方ですよ」

 

当ったり前じゃないですかぁぁああああ!!! こんな可愛い子、今更見捨てる方がどうかしてるわ!! て言うか、幼い頃から育ててたから正直私の愛娘だと思ってます、はい。

駄目ですかね? 私が母親じゃ駄目ですかね?

 

ああ、華扇。華扇、可愛いよ華扇。ペロペロ。

 

「大体、貴女を見捨てるなら最初から面倒を見てませんよ」

 

「ふぇ……しゅ、てん…」

 

 

妖怪と人は決して相容れない。妖怪は人に求め、人は妖怪を拒絶する。今も昔もそれは変わらない。例え未来であっても。

 

この子がある程度成長したらこの村を出よう。この島国を旅し、華扇に色々な景色を見せよう。

 

私は心にそう誓った。

 

 

 


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