酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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こじつけ理論






初めて酒呑がマウント取れた話

「おい××! その器を俺に寄越せよ! おいお前等、そいつを押さえ付けろ!!」

 

「いや!! 離して!! 大体私はそんな名前じゃない! 華扇って名前があるの!」

 

やあ皆( ・∀・)ノ。元気にしてるかい? 私は元気だ。どのくらい元気かというと、目の前の存在達を一片の欠片も残さずこの世から消し去りたいと思ってるくらい元気だ。

 

あ、ちょっ。ゴラぁクソガキ共!! うちの華扇にその汚ぇ手で触るんじゃねぇ!! ぶち殺すぞ!!

 

「はん! 何がカセンだ。お前は××だろ………綺麗な装飾だな。こんな丁寧な木彫り、見たこと無い」

 

「いーやー! 返して!!」

 

 

 

華扇が生まれて十年の月日が経った。未だに彼女を取り巻く世界は厳しく、村の住人からの風当たりは強くなる一方だ。

それは大人だけでなく子供からも例外ではない。

 

子供とは良く言えば素直で、悪く言えば影響されやすい。それでいて我儘で、残酷。いや………理性を持たない、野生動物に近い。

大人が何か否定すれば子供達はそれが己より弱いものだと考える。子供は本能的に自分より弱い存在を識別し、自分の方が上だと自己主張を始める。

 

好き嫌いとかそう言う感情的な話ではなく、野生に近い本能がそうさせるのだ。

 

今のように、華扇は村の子供達から虐められている。しかもそれはまだマシな方。実の双子の弟はそれに輪をかけて華扇への虐めが酷かった。

それでも普段の華扇は上手くそれらを受け流している。華扇は他の子供に比べて頭が良く、悪さをされるとわかっていればそれに対処できる処世術を身に付けていた。

 

でも今の彼女は違った。数人の子供達に組み伏せられて涙を流しながら、それでも奪われた『枡』を取り返そうとしていた。

その枡は確かにこの島国では類を見ない、木彫りが施された綺麗な枡だ。だけど、それだけ。

何故それほどまでに必死になってそれを取り返そうとするのかわからない。普段の彼女なら事前に大事なものは隠し、それでも盗られたら諦めるだけの分別も付いている。大人に近い思考を持っていた。

 

なのに何故、今更になって子供のように喚き散らし取り返そうとするのか。それは

 

「それは酒呑から貰った大事なものなの! だから、お願いだから返して!!」

 

「だからしゅてんて誰だよ! 知らねーよそんなやつ!」

 

 

それは、私が先程華扇に渡した枡だからです。

 

ああああぁぁぁぁぁぁぁ…………やっちまったよ馬鹿野郎。なんで私はいつも変なところでミスするかな。そのせいで尻拭いを華扇がする嵌めに………ごめんよぉぉおおお!!!

 

 

それは、ここ数年お酒を飲んでいなかった私の状態に起因する。

華扇に憑り付いている時は実体を持たないからお酒は飲めないし、華扇の相手をしている時に目の前でお酒を飲む訳にもいかない。

でも、禁酒は長く続く訳じゃないのさ。我慢にも限界があったんだ。

 

 

最近、華扇も自由に動けるようになった。そんな彼女にそろそろ鬼として盗みの一つくらい覚えさせようと、食糧倉庫に行ったわけさ。

盗みは順調だった。華扇は一人でどの食材がバレずに簡単に盗めるか考えて盗んでいた。いつもはそれを私がやっていたから、それを見ているだけとなった私は暇になってしまった。

 

それが間違いの始まりだ。暇になった私が特に考えず辺りに目を凝らしていれば、特に意図せずお酒を見付けてしまった。

根っからのお酒中毒者である私は迷わず手に取った。何せかれこれ五年はお酒を飲んでいない。日に五本はお酒を空ける私が我慢してきた分、躊躇いなくそれを手にするのは仕方のないことだった。

 

 

 

本邸から外れた離れの倉に戻った私達は、見つかる前に早速盗んだものを食べ始める。

華扇はその生まれ故か上品に食べ始めたのを横目に、私は久しぶりに秘蔵の盃を取り出した。

 

「ふふふっ」

 

「酒呑、どうしたの? とてもご機嫌なようだけど」

 

盗んだ酒を嬉々としてその盃に注いでいる私を不審に思ったのだろう。なにせこの時ばかりは鉄面皮の私でさえ頬を緩める瞬間なのだから。

 

「ふふっ。華扇には教えてあげましょう。この盃にはね、特殊な力が備わっているのです」

 

「へぇ~。どんな?」

 

「なんと、この盃に入れたお酒を大変美味しく変化させる力があるんですよ」

 

そう、この盃は注いだお酒のランクを上げる効力を持っている摩訶不思議な盃。これも瓢箪同様、気付いたときに私が持っていた物の一つだ。愛用している盃と違って、これはその効力故に普段は滅多に使わない。なぜならこの盃の欠点として、入れたお酒の時間が経つに連れてランクが落ちていくと言う面倒な制約があるから。

ゆっくり飲みたい私としては、この欠点はいただけない。

 

でもまあ、今日は久々のお酒だ。ご褒美として使うのも悪くない。

私は入れたお酒を早速飲み干し、その味を堪能する。

 

「ふーん。すごい物なの?」

 

「凄い物です」

 

「大事なものなの?」

 

「ええ。とても大事なものです」

 

華扇の言葉に特に気にした事を考えずそう返した。

 

「……じゃあ、これは?」

 

華扇は他にも私が持っていた物が気になるのだろう。盃を懐から取り出す時に手前にあって邪魔だったから取り出しておいた一つの枡を華扇は私に問いただしてきた。

 

「ん? その枡は、なんだったか………ああ、思い出しました。それはお酒を計るときに使われる物なんですが、それにも特殊な力が備わっていましたね」

 

「………大事なもの?」

 

「ふむ……私は使ったことがありませんが、『茨木の百薬枡』と言ってかなり貴重な物だった筈ですよ? 確かその枡に入れたお酒を病や怪我に効く良薬に変える力があった気が……」

 

「そうなんだ………」

 

返事をしながらその枡を眺める華扇。なにやら気に入った様子で、ずっとその枡を手に持って眺めている。

 

「………気に入りましたか?」

 

「凄く綺麗……」

 

「…………よかったら、あげましょうか?」

 

「いいの!?」

 

その時の華扇の食い付きは凄まじかった。目を輝かせて此方を見つめる様子から、相当気に入った事がわかる。

 

「え、ええ」

 

「やったぁ!!」

 

普段は大人しい華扇が珍しく子供のように喜んでいるのを見て、私も嬉しくならなかったと言ったら嘘になる。

実際私は使わないから華扇に渡した方がいいだろう。この子は鬼と思えないほど体が弱いし。

 

 

そう適当に考えて渡した枡が、まさか華扇の重石になるなんて思わなかった。

 

華扇は食事の間、ずっとその枡を手に持っていた。と言うか、その枡に飲み物を入れて飲んでいた。

何が嬉しいのかその枡を何度も使い続け、遊んでいた。

 

そんな可愛らしい華扇に目を奪われていたから、私は自分のご飯を食べ終わるのが遅くなってしまった。

本来なら既にご飯も食べ終えていた頃。未だに華扇の可愛い光景を肴に一杯やっていた。

 

そんなときに奴等はやって来た。そう、華扇の双子の弟と村の子供達。最近、華扇にちょっかいを掛けに度々離れの倉に訪れる彼等が、間の悪いことにやって来てしまったのだ。

 

気配を感じた私達は慌てて食べていた物を風呂敷に詰め込んだ。その風呂敷は私が仙術で編み出した風呂敷だ。その風呂敷には包んだ物と一緒に小さくなると言う術を編み込んである。私が色んな道具を持っているのもこの術のお陰である。

 

そんな便利な風呂敷で小さくした食糧やら何やらを隠し、私が華扇の中に消えたのと同時に奴等が入ってきた。

そこからは普段と変わらない筈だった。華扇は何時ものように彼等のちょっかいをのらりくらりと躱していた。

 

そんな余裕のある彼女に華扇の弟とその周りの子供が悔しがっていた時だ。目敏くも彼等は華扇が持っている枡に気付いてしまったのだ。

 

そうして冒頭の出来事が起きたわけである。

 

はいそうです私の責任です。私がお酒なんて飲まなければ、ゆっくり楽しんでなければ、こんな事態にはならなかったんです。

…………ごめんねぇぇぇ華扇んんん!!! 私が悪かった! 全部私がいけないの! だからその枡は諦めていいから! 私が後でそいつらから盗んで取り返すから!

 

 

 

「いい加減に、しろ!!」

 

「あぅっ!!」

 

はっ? このガキ、とうとう私の可愛い可愛い華扇を殴りやがった。

私は我慢の限界だった。もう知らない。知ったこっちゃない。いくら温厚と言われた酒呑様でも堪忍袋の緒が切れたってもんよ。

 

「おい、人間」

 

私は倒れた華扇を庇うように顕現する。すると、突然現れた私にガキ共は驚いたまま身体に動きを止めていた。

 

「しゅ、酒呑!?」

 

「な、なんだよコイツ…………ど、どっから湧いて出てきやがった……」

 

「私の名前は酒呑。よくも私の華扇を殴ってくれましたね…………その罪、身をもって味わうがいい」

 

いくら私が最弱な部類の小鬼とは言え、それでも鬼。ガキ共を大人げなく泣かせるのに苦労はしなかった。

 

「ひぎゃあああ!!」

 

「角付きだ! やっぱり××も角付きの仲間だったんだぁ!!」

 

拳骨を食らった子供達の泣き叫ぶ声が外まで轟く。私は泣いて逃げ出した彼等を放置して華扇が殴られた箇所を診ていた。

 

だがその間に騒ぎが伝わってしまったらしい。外の様子が騒がしくなり、気になった私は外に出てしまった。

 

外にはこの村の大人達がワラワラと集まり、私を取り囲んでいた。

 

「で、出てきたやがった!! 子供達が言っていたのは本当だったのかっ」

 

「くそっ、何故『角付き』がこの村にいる!」

 

「共にいるのは××……やはり、奴が手引きしたのか。だから早くに処分すれば良かったとあれほど……」

 

大人達は私と華扇に向けて武器を構えるやいなや、怒鳴り声と共に敵意丸出しで威嚇してきた。

しかし武器もその虚勢も鬼の前では何の意味も持たないことを理解しているのだろう。大人達は酷く緊張した様子でそれ以上何か仕掛けてくることはない。

 

敵意と共に明確な畏れを感じた。

 

「…………」

 

………ちなみにだが、意外と私はしっかり状況判断を出来ているようで結構焦ってる。

突然武器を持った人間が私達を取り囲んでいるのだ。普通、ビビる。て言うか、普通に怖い。

いくら人間とは言え、武装した集団だ。怖くないわけ無い。

 

アイエーー!? なんで武器向けてくるの? 止めて! 私は無害な鬼よ!?

 

 

と言うか、普通に不味い状況です、はい。まだ私一人なら何とかなる。流石に千年間も生き続けていれば、戦い慣れていない村人が武器を手に持ち襲い掛かってきたとしても、それに対応できるくらいの護身術は身に付けているさ。

 

でも、華扇を護りながらとなると話は別なのだ。うん。

私には他の妖怪が持つようなブッ飛んだ能力は持っていない。仙術を扱うが、私が未熟なせいか敵を薙ぎ倒せるような術はないのだ。

だから、今戦闘を望んでいないのはむしろ私の方なのだ。

 

膠着状態。敵は私を恐れて近寄っては来ない。だからこそその恐怖を利用して、私は強者の姿勢を保つことでこの状況を打破できる作戦を考えねばならない!!

 

そんな折にようやくと言うべきか、集団の中から人を割って前に出てきた男が一人。多分だけど、私にとって救いの交渉人である。

 

「そこな鬼よ。要件を聞かせていただきたい」

 

「ち、父上……」

 

この村の代表である村長、つまり華扇の父親だ。

 

武力ではなくちゃんとした話し合いが出来そうなことに助かったと思うのと……………同時に、「はぁ……やってしまった……」と言う思いが渦巻いております。

 

取り囲まれた時から理解していたが、随分事が大きくなってしまった。もう、以前のように華扇がこの村で生活するのは不可能に近い。

 

ああ……ごめんねぇ華扇。本当にごめん。これは貴女が決めるべきことなのに、決める前に私が普通を破壊してしまった。

 

「……この娘は我が同族です。此度のそちらの暴走を私は良しとしません」

 

「………なるほど」

 

私は強者の姿勢を崩さないために強気な物言いで話した。もし弱いことがバレたらたちまち襲われちゃうからね。

ただ流石村の長と言うべきか、私の強気オーラ(見せ掛け)に怯えを一切見せない。そればかりか、華扇の父親は周りの泣いている子供達とボロボロになった華扇を一瞥しただけで事態を把握したらしい。

 

「ならば、その鬼子を連れて疾く去るがいい」

 

「ほう………鬼相手に随分上から物を言うんですね? わかっていますか? 自分達が今どのような危機に面しているのかを」

 

「……仮にもし貴様が我々の村を襲うなら、それは最初にやっていただろう。それをしないと言うことは、それが出来ないと言うことだ」

 

………ババババレてる!? 私が弱いことにこいつ、気付いてやがる!! 把握能力が私の予想を上回り過ぎてるんだけど!

あ、でも攻撃はしてこないのね? マジか。ラッキー。

 

………まあ攻撃してこないのは良いけど、その代わり別の問題が出てしまったな。

よりにもよって、連れて去れ………か。

 

どうやらこの男は完全に華扇を捨てる気である。わかりきっていたことではあるけどさ。鬼である私が彼女の味方に付いた時点で、彼等にとって華扇は鬼と変わらない。

元より忌み子として扱われてきた華扇が、完全に敵対する位置に付いたのだ。今更この村に留めておく気は無いだろう。

 

でも、本当にそれでいいのだろうか? 華扇にこんな形で村を出ていかせて本当にいいのだろうか?

いつか出ることはないわかっていたが、それはもっと穏便に、成熟した大人になってから村を出た方が良かったんじゃないか。

 

 

「…………」

 

私は黙ることしかできなかった。華扇を連れて出るべきなのか、それともコイツらを脅してもう少し華扇をこの村に置いておかせるべきなのか。

私には決断できない。それをするのは華扇である。だけど、まだ華扇は決断も出来ないくらい幼い。ならば私が決断してやるか?

 

駄目だ。堂々巡りだ………。

 

「父、上……」

 

「華扇……?」

 

「××か……」

 

私が何も言えず悔しがっていたら華扇が私を制するように前に出てきた。

えっ? どうしたの? もしかして実の父親に暴言でも吐くのだろうか? そういえばさっき村から出てけ的なことを目の前で言われちゃったし、流石に怒ったのかな? それとも、捨てられたことが悲しくて……黙らずにはいられなかったとか…………?

 

…………うわぁぁぁぁ!! 華扇、ごめんよぉぉおおお!!!

 

「私はこの村から出て行くべき……?」

 

「そうだ××。貴様は生まれたときから忌み子。故に、村から出るのは必然だった。むしろ、ここまで育ててやった私の恩情に感謝するといい」

 

む……今のはカチンとキタゾ。何が生まれた時から忌み子だ! 華扇はこんなに可愛いのに! むしろ、お前の息子豚みたいに太ってるけど育成失敗しちゃったんじゃない!?

 

やーい。お前の息子家畜顔~。

 

「そう……」

 

「華扇……」

 

耐えるように肩を震わせて俯く華扇。地面に顔を向ける彼女の感情は幾許か。その表情は怒っているのか、泣いているのか。

 

あまりにも痛ましく見える華扇に、私は思わず彼女に手を伸ばして抱き締めようとして。

 

「なら、私は人間の私を捨てる」

 

それよりも前に、いつの間にか取り返したのだろう枡を手に持ち、これまたいつの間にか注いだのだろう並々入ったお酒を一気に飲み干した。

 

「…………へ?」

 

私が止める暇もなく、お酒を飲み干した華扇。

ゆっくりとその手に持った枡を戻し、顔を正面に向ける。

ようやく見えた華扇の横顔。頬はお酒のせいか上気し、心なしか彼女の顔付きが大人びて見えた。

 

「…………え?」

 

その時、私たちの周りの空気が変わった。

寒気が辺りを支配し、まだ太陽も出ている筈なのにこの場所だけがとばりが下りたように暗さが増す。

周りの村人達も突然の事態に慌てふためいている。

 

しかしそんな事に一切興味も示さず、華扇は拳を握り締めると何故か地面に向かって振り下ろした。

直後、地面が割れた。

 

「…………はっ?」

 

大地が割れた。比喩ではなく、こうパッカリと固形の脆い物が割れたように大地が引き裂かれたのだ。

 

「「「わああああああああ!!!?」」」

 

その場にいた物達は堪ったものではない。何せ立っている地面が割れたのだ。幸いと言うべきか、亀裂の中心にいた人間以外は地面が揺れる程度の被害しかなく、立っていた者もふちに捕まることで何とか落ちることを防いでいた。

 

「………ふえー……」

 

わたし? わたしはねぇー……華扇の後ろで尻餅付いてるよ。

腰が抜けたんじゃばかたれ! だって目の前の現象もそうだけど、地面が揺れたんだよ!?こう、グラグラと!! ひぃぃぃ地震怖い! 大陸にいた時はこんな大きな揺れは滅多に無かったから尚更怖い!!

 

「私は、もう××じゃない。私の名前は華扇……茨木 華扇だ」

 

混乱の中、華扇はただ一人仁王立ちしていて慌てる実の父親に向けてそう宣言していた。

その顔は病弱な様子など一切ない、強さの象徴とも言える真の鬼の姿であった。

 

 

 

 

あれぇー? えー…っと………。

おかしいな? ここは私が悲しむ華扇を慰めてカッコよく人間達に啖呵切るところじゃないのぉ?

 

え、違う? あっ、そうですか………。

 

 

 

 

 

 

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