酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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こじつけ理論2



令和初日目でランキング100位に載りました! ありがとうございます!ランキングに滑り込みで入れたのは一位よりも嬉しいです。

勢い余って投稿しちまったよ



とある桃鬼の独白

生まれた時から、私は私に住むもう一人の存在を認識していた。

こう言うと何だか私の中にもう一人の私がいるみたいに聞こえるけどそうじゃない。正確には私の中に一人の鬼が住んでいたのだ。

それに、鬼と言っても別に怖い存在じゃない。それどころか優しくて親しみの籠った……家族のような存在だ。

彼女の名前は酒呑。私の大切な鬼である。

 

酒呑は不思議な存在だった。いつもは私の中に住み、私に何かしら話し掛けてくる。でもたまに私の体から出て本来の姿に戻ったら私の世話をしてくれる。

 

酒呑以外の存在を見たことがあまり無かったから見た目の良し悪し等は詳しくなかった。それでも、彼女の姿は普段私の中にいるのが勿体無いと思えるくらいに綺麗だ。

仄かに光を帯びた金色の髪も、綺麗な碧い瞳も。額から伸びた二本の角も。私の衣服とは全く違う煌びやかな衣も。その見た目に劣るどころか、美しさをさらに引き立てる気品の良い所作も。

全てが私達人間と違う。汚らしい私達と違って触れることすら躊躇わせる神聖な存在。一目で格が違うとわかるその存在感。

 

そんな彼女を私はずっと見ていたいと思った。そんな彼女に私は憧れたのだ。

 

 

酒呑はあまりにも人間離れしている。たまにやって来る世話係の村人達と比べても明らかに彼女は異質。だから酒呑が私の身体を使って、村の住人から身を隠していた事も疑問には思わなかった。

むしろ、私だけが酒呑を見ることができる人間だと思っていた。例え来る人皆から嫌な目で見られようと、羨ましがっているのだと勝手に思い、幼いながらに優越感を覚えていた。

 

酒呑と同じ、それでいて周りの人達にはない頭に生えた角。この角こそが私の誇りだ。

酒呑に憧れた私は幼いながらに彼女を目指した。彼女のようになりたいと、酒呑に似た私だけが彼女に近づける唯一の人間なんだと。だから私は彼女を目指した。

 

 

だけど、五歳を過ぎた頃か。初めて会わされた両親と言う赤の他人に連れられて村の人達の前に立たされたとき、初めて人と言うモノを理解し、私の立場を正しく理解させられた。

 

彼等は私と同じ存在ではない。私は彼等と全く違う生物だと。

私を見て畏怖する目。敵意の目。哀れみの目。様々な感情が私に向けられていたが、一つだけはっきりしていたことが一つ。まるで別の生き物を見るような目で私を見ていた。

 

形は同じだ。手足はあって、鼻や口や目もある。髪もあれば耳もある。

でも彼等に無くて私にはある、頭に生える角。たったこれだけが、明確に私と彼等が違うものであると理解させられた。

 

その時に初めて会った実の両親達も、やはり違うと思った。明確な血の繋がりなど感じなかったし、むしろ酒呑に親と言われてもそれがどういった存在か理解できなかった。

 

周りにいる者、皆が違う。

私はこの中でただ一人の異物。幼いながらに本能がそう理解した。そう認識したからこそ、私は世界が怖くなった。

 

その日に何があったのか知らない。けれど私はいつものあの倉に押し入れられ、外に出ることを禁止された。酒呑が何か怒っていた様子だったから、あまりいいことでは無かったのは確かだろう。

 

お世話をする人は次第に監視する人に変わり、雀の涙程の食事も渡されなくなってしまった。酒呑が食料を持ってきてくれなければ今頃私は餓死している。

 

村の人達は私を殺す気でいた。いや、居なくなれば良いと思っているだけかもしれない。殺したいなら直接私を殺せばいい。そうしないのは彼等が心の底では人外である私を恐れたから。

殺したいというより、この村から出ていかせる。それも直接ではなく、自主的に。餓死で死ねば儲けもの。そうでなくとも、いつかは出ていく。

 

私はこの村の誰にも必要とされていなかった。私は村の住人になれなかった。仲間はいなかった。

世話係のあの目。あれは羨んでいる目ではなくて、私を蔑んでいる目だとこの時になって初めて気付いたのだ。

 

 

それに気付いた時、私は何よりも酒呑に見捨てられることを恐れた。

今までは酒呑がいれば良いと思っていた。他の人間は要らなくて、酒呑さえいれば私は構わないのだと。

 

でもそれは本当は逆で。

村の人達から見れば、私こそが要らないものなのだと認識させられた。私はこの村では一番の弱者。むしろ忌むべきものだと。

 

酒呑以外いない…………必要とされていないと気付いて、この関係が永遠のもので無いと理解してしまった。

 

酒呑は私と同じように角はあったけど、私に出来ないことの数々が彼女には出来た。

私は酒呑みたいに飲まず食わずで生きられない。一応、酒呑も食べ物は食べているけど、それは極たまに………ある種の娯楽で食べてるようだった。

私は酒呑みたいに妖の術を使えない。酒呑曰く仙術と言って、全く珍しいものでは無いらしいけど、とにかく色んな事をして私を驚かせる。

 

明らかに私とは違う。私と違って一人で何でも出来て、他の者から一切の協力も必要としない、強く孤高な存在。

私と一緒にいるのは単なる気紛れか、それとも同族だからか。

多分、酒呑に取ってみれば私は愛玩動物のようなものなのだろう。偶々鬼の見た目をした私がいたから、偶々飼ってみた。それだけの存在。

 

そんな上位者の彼女が私を見捨てた時、いよいよ私は本当の独りぼっち(弱者)になってしまう。

 

 

人間は言わずもがな、酒呑にも鬼と言う括りがある。酒呑以外に見たことはないが、この村の外には鬼がいっぱいいるらしい。

酒呑は私を鬼だと言う。でも私は鬼の姿ではあるが、彼女のように優れた力を持っていない。何でも器用にこなせる訳でもなく、色んな知識を持っているわけでもない。

彼女のように鬼だと言う確信が持てなかった。むしろ全く人と変わらない、弱く哀れな存在だ。

 

もし酒呑が私を鬼だと勘違いして拾ったなら。私が酒呑が思っている華扇と違っていたのなら。

 

それに酒呑が気付いた時、私は見捨てられる。

 

訪れるかもしれない未来がとても怖かった。

 

 

私は見捨てられないように、とにかく酒呑の言うことを聞いた。力では役に立てない。元々鬼として完成している酒呑に、力の弱い私が何かしたところで足手まといだから。だから知識でいつか役に立つ為に、色んな知識を酒呑から聞いて覚えた。

将来、この村から出ようと彼女は言う。その時に彼女の足を引っ張らないよう、せめて知識だけは彼女と同じ位置に居なくては。

 

 

知識を求め続けた。この島では使われないらしい遠い大陸の文字を学び、酒呑が持つ文献を頼んで読み漁り、わからなかった時は彼女に聞く。

そうして知識を集めて、私は自分の状態について一つの事実に気付くことができた。

 

私は鬼だ。いや、鬼擬きと言えばいいのか。本来ならあり得ない、人から産まれた鬼であった。

鬼とは基本、自然発生するものだ。亡者の怨念や動物の亡霊。それらが集まり生まれる。人の身で鬼になるものも希にあるが、それは積もり積もった生物の念が合わさって変化したもの。

そこから考えると産まれの段階で私はあり得ないのだ。突然変異で生まれた私は、鬼としての様々な機能が備わっていなかった。

 

そして次に名前だ。名とは重要なもので、その存在のあり方を指す。名によって存在の格と言うものが変わるほど、名前は重要だ。

昔から存在そのものを表し、力が与えられる名前を真名と呼ぶ。

 

妖怪の真名の殆どが生きていた頃の名前だ。そこから妖名が名付けられ、長い年月を掛けて畏れが集った妖名が真名を上書きして力を付けていく。

ここで私の産まれが関係してくる。私は生き人としての名が無かった。だから、名付けられた妖名が強い影響を与える。

 

××。つまり、名も亡き者。居ない者。

この名が私の力を縛る原因。

 

 

私はこの事実に気付いた時、自分の産まれを呪った。何故、人の子として産まれてしまったのだと。私は××なのだと。彼女から貰えた華扇と言う素敵な名前ではなく、××なのだと。

一度付けられた名前は早々変わらない。いくら酒呑が強い鬼であろうと、世界が認めたものを彼女一人で上書きすることは出来ない。

 

方法は無いのか。この名前さえ変えることができれば、私は彼女が付けてくれた名前である華扇として生きられる。鬼として、名付けられた者として、名実ともに彼女の…………になれる。

 

文献を読み漁り、何か無いかと遮二無二探した。寝る間も惜しんで探して体調を崩し、酒呑を怒らせてしまうくらいには探した。

 

そして私はとうとうその方法を探し当てた。なんでも、酒を注ぐだけであらゆる傷や万病、果ては呪いなどにも効く薬に変える枡があるらしい。

そして飲んだものを鬼に変化させる副作用があるのだとか。

 

私が探しているものはこれだと思った。

名前の効力は謂わば呪いと同じだ。つまり、呪いにも効力のあるその枡の力を借りれば、一時的にとは言え呪いを撥ね返せる。私はその瞬間名前による縛りから解かれる筈。

突然変異の身体も、この枡の副作用が解決してくれる筈。

 

 

その枡は何処にあるのか。

曰く、伝説の鬼神が数々の宝具を持ち、その一つにその枡があるらしい。

 

私は酒呑に鬼神について聞いてみた。彼女は知らないと言うが、私は直感だけど酒呑は知っていると思って根気よく聞いた。

何度も何度も尋ねてみると、ようやく酒呑は渋るようにだがその伝説について話してくれた。

 

「鬼神ですか…………何度も言うように、私はあまり詳しく知りませんね……ただ、大陸にいた頃は何度か聞きました。曰く、神出鬼没。お酒をこよなく愛し、盗みを働く。それでいて腕っぷしは最強。昔はその力で大陸を支配していたとか……。眉唾な話ですがね。少なくとも、私は会ったことがありません」

 

鬼神について話していたときの酒呑は、鬼神そのものを嫌っていそうな様子だった。

今思えば、あの時の彼女はただ恥ずかしがっていただけだと気付いたのは、村を出るときになってからだ。

 

 

そして、あの日。村を出る切っ掛けになったあの事件。

それはいつもの日常だと思っていた。早く大人になるために食料をいっぱい取って大きくなろうと沢山食事を取っていたいつものお昼時。

 

私は最初、あの枡を見て目を疑った。

酒呑が無造作に床に置いた枡。四角い木の入れ物は、外側に茨の紋様が施された見事な器だった。それと同時に感じる強い鬼気。

私が文献で見た枡の絵と瓜二つだったのだ。

 

あまりにも雑に放置されていたから、最初はよく似た偽物だと思った。でも後から酒呑に尋ねれば、正に私が欲していた物そのものだ。

 

目的の物だとわかっていても、あまりにも呆気なく見つかってしまったものに頭が追い付かなかった。震える手でそれを持てば、明らかに見た目以上の重さを感じる。

 

凝視し続けていたせいか、酒呑に私がその枡をねだっていると勘違いされてしまった。

だけど、そんな事が気にならないほど私はその枡が手に入った時嬉しかった。

 

 

もう私を縛るものは何もない。××と言う名前も、私を敵視する村の奴等も、実の親と語る偽物達も。

私の世界は私と私の酒呑が見る世界だけだ。他は全てどうでもいい。

 

酒呑から貰った名に、私を鬼に戻してくれた枡の名から新たな名を付ける。

 

『茨木華扇』

 

この日、私は本当の意味で酒呑の家族になれた。

 

そして。

 

 

 

 

「本当によかったんですか?」

 

酒呑と共にあの村から出てしばらくした頃、彼女からそんな問い掛けをされた。

未だに酒呑の領域にまで辿り着けない私の頭では彼女の考えはわからない。だから首を傾げれば、酒呑は言葉を付け足してまた尋ねる。

 

「茨木華扇………良い名です。茨と言う過酷な状況の上にいて尚、自分を見失わない美しき扇…………あの村からも、あの忌み名からも解放された貴女にとても合っている」

 

 

 

 

「ですが、その名はこれからも貴女に困難をもたらすでしょう。茨を越えてその頂に立とうと、その棘は深く突き刺さり、年月を掛けて貴女に再び牙を向くかもしれない…………後悔とは、遅くになって突然やって来るものです。もう一度深く考えて、やり直したいことはないか確認することは大事ですよ」

 

やはり酒呑の言っていることは私には難しく、わからないことが多かった。それでも、私に後悔はない。これからもこの選択を後悔することは無いだろう。

 

だから大丈夫だと彼女に告げれば、彼女は「そうですか……」と感情の見えない声で頷いた。

 

 

 

 

大人になった今でも、この時の酒呑が何に対して言っていたのか理解できていない。

 

鬼神と言う、神をも越えた力と、森羅を理解した叡知に、数多の秘宝を手にして操る鬼の頂点。全てを兼ね備えた酒呑の考えは、私には遠く理解の及ばない次元にある。

 

でも私は今になって後悔している。何故あの時、酒呑の言葉をもっと深く考えなかったのか。何故、彼女の役に立とうと努力した結果、それすらも彼女の重みになっていると気が付かなかったのか。

 

確かに自惚れていた部分はあった。酒呑率いる自分達『妖怪の山』は最強で、何者にも負けない集団であると誤解していた。

自分達は浮かれていたのだ。どんな敵が来ようと私達鬼の四天王には敵わず、そうでなくとも酒呑さえいればどうにかなると全てを侮っていた。

 

酒呑が物憂げに窓の外を眺めているのも、私達と悲しげに会話するのも全て、私の……そして彼女の思い過ごしだと思っていた。考えすぎだと思っていた。

だから現状に甘えて、酒呑が語る注意に気付かなかった。

 

今なら思う。あの時の自分を殺してでも酒呑の言葉をちゃんと聞かせておけば良かった。そうすればこんな悲劇は訪れなかった。

 

私は酒呑の亡骸を抱えながら、そう思わずにはいられなかった。

 

 




…………本当は4月が31日まであると思って間違って投稿設定してただけだけど
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