ある者は、大きなことを成し遂げるために力を与えて欲しいと神に求めたのに、謙虚さを学ぶようにと弱さを授かった。
ある者は、より偉大なことができるようにと健康を求めたのに、より良きことができるようにと病弱な体を与えられた。
ある者は、幸せになろうとして富を求めたのに、賢明であるようにと貧困を授かった。
ある者は、世の人々の称賛を得ようとして権力を求めたのに、得意にならないようにと失敗を授かった。
求められたものは何一つとして与えられなかった。
周りからは火薬の臭い、肉の腐った臭いが漂っている、この臭いを嫌と言うほど知っている。
吐きたくなるようなナニかが焼ける臭いが漂っている中、周りにいる人間、いや
仲間が化け物に食われていてもその仲間もろとも殺す。
脚を千切り、臓腑を引きずり出し、武器が無くなれば己の拳、脚で。
仲間がまた一人、二人、三人目と死んでいる中で一人の女は笑っていた、こんな世界を笑っているのか、それともそれは自身に向けてか。
「アハハ・・・、死んだ・・・また死んだ。いまので何人死んだの、アハハ・・・。」
今に目を向けたくないためか、女は首筋にアンプルを突き刺した。
そしてこの女の周りにも化け物が集まってきていた
「私のお迎えはあなた?残念ね、あなたじゃ私のお迎えには足りないわ。」
次の瞬間、化け物はスクラップへと成り果てていた、化け物をズタズタにした人物を女は知っていた
「遅かったね○○○。その辺でおっ死んじまってるかと思ったわよ?って痛い痛い!!死骸の脚で叩かないで!」
「早く武器を持て、そして立て、こちらの部隊は壊滅した、ここで生き残ったのは俺たちだけだ。」
女は武器を持ち、安全装置を解除し、目だけを男の方を向け、姿を確認する
「だったらたら逃げていい?」
と半分冗談で男に聞くが、男は女の方を向かずに、こちらに向かってくる化け物を目で追っていた
「逃げたら殺す、死んだらもう一回殺す」
「うわ、容赦な、冗談なのにどうして?」
「冗談いっている暇があったら一匹でも多く倒せ」
「ヘーイ」
しかしながら二人で殲滅ほど敵も甘くは無い
女は右手に機関銃とショットガンを合わせた様な武器を持ち、軽々と数メートル跳躍、
化け物を倒すと左手に持ったビームランチャーで直線状に並んでいた3体をまとめて吹き飛ばした。
「だぁもぉ!多い!」
女は武器の弾切れに気付き、予備弾薬ベルトを探しつつ、男の方へ眼だけを向けた
「十時方向を片付ける、それなら他の部隊と合流できるやもしれん。」
男は剣のような武器を鞭のように変化させ一帯を薙ぎ払う
「残りの弾薬が心もとないからこっち手伝ッ、がはっ!」
地中からいきなり出現した化け物、大きさは全長50m位だろうか。
「(空母型か、不味いな・・・)」
この化け物は空母型と呼称されているが、空母の様に艦載機を発艦するのではなく、空間を歪め、A地点とB地点繋げて他の化け物を呼び出すというもので、
男はすぐさま攻撃を仕掛けたが、すでに時遅く、空間が歪み、黒い穴が開いていた。
「(まだ、本体を倒せば)・・・・!?」
本来であれば小型種がゴキブリのように出て来るはずだが、そこから出てきたのは
「オリジン!?」
出てきたのは、この世界を阿鼻叫喚地獄に変えた化け物のうちの一体、円柱状の掘削機のような右腕、左腕には岩盤溶解に使われるレーザートーチのようなものを装備しており、足が戦車の履帯のようになっている化け物がそこにはいた
出現と同時に背中のハリネズミの針を全てミサイルに変えたような器官を赤く発光させ、ミサイルをばら撒き、一瞬にして辺り一面を火の海に変えた。
「くっ・・・」
男は近くにあった中型を盾として利用し難を逃れたが、ミサイルに巻き込まれたであろう女の姿が見えない、そんな中化け物の背中から新しい針が生えてきており、予想よりも速い第二射に男は焦っていた。
瞬間、男の視界は
極彩色に染まった
君は、こんな所でくたばるにはまだ早い人間だったようだな。
男は薄暗くジメジメとした空間で目覚めた、起き上がろうとしたが右腕と左脚の感覚が無いことに気づいた。
「ゲホッ・・・ガッ・・・」
横にいた所々に血の付いた医療用のエプロンを付けた男に声を掛けようとしたが、男の喉から出てくるのは声ではなく、咳と赤黒く変色し固形化した血だけであった。
「無理もない、あの戦場での長時間戦闘だ、喉が焼けてしまったんだろう。あぁそうそう、右手左足は腐る前に僕の判断で切断した。」
「戦況は・・・?」
エプロンをゴミ袋に入れた男はタブレット端末を渡してきた。あるニュースサイトに掲載された記事にはこう書かれた。
トウキョウ戦線崩壊
隣国によるトウキョウに向けて無警告による二発の反応兵器使用
防衛ラインの崩壊により、戦力をシズオカからナゴヤまで後退
首都であるキョウトの首都機能をコウベに移行
九州にて海外から受け入れていた難民の一部が暴徒化、民間人と軍との三つ巴状態に
これにより国民の国に対する不満感は一層増した
「中々に酷いものだろう?君はあの日から一か月昏睡していた、そしてトウキョウ戦線で生き残ることができた唯一の人間だ。」
男はポケットから一本の試験管を取り出した、中には人間の脊髄骨格のようなものが入っていた
「君にはこれから、僕の代わりにトウキョウまで行ってもらう。」
男が壁を叩くと、「ガコン」という音とともに、叩かれた壁からナニかつるりとした鎧のようなものが出てきた。
「反論は一切聞く気はない、これから君は僕の手足として馬車馬のように働いてもらうし、その外殻は死してなお君を地獄へといざなうだろうが。」
「・・・かまわん、地獄、は、すでに、味わっている」
男は渡された試験管の中身を飲み込むと、銀色の糸のようなものが無くなっていた右腕と左脚の断面から伸びて新しい右腕と左脚を構成し始めていた。
「それはコマンド・・・あぁあの化け物どもの名前ね、あいつらのコアを加工して作られたものだ、使用者自身の体を半分コマンドと同じように変えてしまうが、君はそれと同じことを以前行っているだろう?」
新しく構成された腕と脚はよく馴染む、体毛が抜け、視界からは色と形が失われ、意識を保てなくなり、心臓の音は静かになっていく
「おや、もはや人の形を保てなくなってきたか。やっぱりコレを用意していてよかった。」
もはや男には目の前の人物がなにを言っているのかがわからなくなってきていた。
「・・・はぁ、今回の君にはそれなりに期待していたが、所詮は
妄執は未だ付きまとう、決められたレールを外れ、新しいレールを敷くために、それは呪いか祝福か、あるいは祈りか。