Metal Breaker   作:山田太郎=焼肉NT

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普遍的非日常(2)

その後の授業も滞りなく進み、放課後になった。

 

「(確か来週には適正検査があったかな)」

 

私は荷物をまとめて帰宅する準備をしていた。

今日は特に予定も無いので真っ直ぐ家に帰るつもりである。

私は荷物をまとめ終えると、教室を出て昇降口に足を向けた。

昇降口を抜けると、ちょうど下校しようとしていた人物がいた。あれは確か教室で一瞬目の合った男子生徒だったかのだろうか。彼も私の存在に気付いたようで、脱兎の如き勢いでその場を立ち去ってしまった。

 

「なんだろう、変な人」

 

私は首を傾げながらも、そのまま帰路についた。

私は自宅に到着すると制服を脱ぎ捨て、普段着に着替えて一息つく。

 

「ふう・・・」

 

私はベッドの上に横になると、天井を見つめながら物思いに耽っていた。

 

「そういえば、あの人の顔どこかで見たことあったんだよねぇ・・・誰だろ」

 

私は記憶を辿りながら考え込んでいたが、結局思い出せずにいた。

 

「まあいいか、そのうちわかるでしょう」

 

私はそう呟くと再び眠りに就いた。その後も大したイベントは起こらず、一週間が過ぎようとしていた。

いつものように登校の準備を始める。朝食を済ませると身支度を整えて玄関を出る。通学路の途中にある停留場に着くとそこには既に数人の生徒が待機していた。

 

「ムソウちゃん!おはよう」

 

「おはようございます」

 

東雲さんに声をかけられると同時に電車が到着したため乗車することができた。乗客が多い時間帯であったため少しの間車内で圧迫されてしまったが、何とか耐えることができたようだ。車内ではいつもの他愛のないことや授業の話をして盛り上がっていたが、突然電車が急停止したことにより会話が途切れてしまった。何事かと思い前方を覗くと黒煙が漂っており、どうやら事故が起きたらしいことが伺えた。

 

「これは酷いな」

 

他の乗客たちも動揺しているようだった。

安全が確保されないため乗客全員が降ろされることに為ったため、私達も一つ前の停留場に降りることになった。

暫くすると救急車などが到着しており、負傷者が運び出され始めた。

私はそれを傍観していたが、救急隊員に運ばれず、黒い袋のようなものに入れられて行く男性を見た。全身が爛れており、まるで火で炙られた後のような感じだ。

私はその光景を見て背筋が凍るのを感じていた。

 

「また外人のテロだってさ」「こわ~い」

 

周囲の声を聞いている限り、あの袋に入れられていた男性は路面電車が止まった原因のテロ、その主導者なのだそうだ。

 

「外人なんてさっさと外でのたれ死んでしまえばいいのに」

 

誰かが言わずともそう聞こえてきてくるような雰囲気であった。

私は気分が悪くなったので急足で学校にたどり着くと、自分の席に座って俯いていた。クラスメイトは皆、昨日と同じように他愛のない話をしながら時間を潰しており、私は一人取り残されたようにそこに居続けるしかなかった。

暫く経つとチャイムが鳴り、担任の教師が入ってきた。

 

「みんな席についてくれ、今から朝の会を始めよう」

 

このクラスになってまだ三日程度しか経ってないがもう聞き慣れた声が耳に入ってくる。教師の声は良く通るため、クラスの喧騒の中であってもはっきりと聞こえるのだ。私は憂鬱な気持ちのまま朝の会を聞くことになった。教師は連絡事項を伝えると最後にこう告げてきた。

 

「最後に、今日は適正検査がある、忘れている奴はいないと思うけど気を付けておけよ、じゃあこれで終わりにしようか」

 

そういうと教室を出て行ってしまった。

教室内は一斉にざわめきだす、そして教室の扉が開かれ、スーツ姿の男性たちが教室内へ入ってくる。恐らく政府の役人か退役した軍人だろうか、見た目だけでは判断はできないが。彼らは生徒達に一礼した後、教壇に立ち一通り生徒を見渡して口を開いた。

 

「君たちはこれから様々な訓練を受けることになるが決して浮かれることのないように、訓練は決して楽なものではありません、ですがその先にあるものは必ず貴方たちの役に立つものです、我々はそのための協力は惜しみません、どうかその努力に恥じぬよう励んでください」

 

そういった後に退室していった。

その後直ぐに生徒達はそれぞれの荷物を持ち、体育館に移動を開始した。

私は体育館に行くために更衣室に移動する必要があった。着替えを終えた後でやっと体育館に到着したのだが既に大半の生徒が待機していて、私も列に加わることになる、暫くすると適正検査が開始されるようだ。適正検査は主に身体検査と空間把握、所謂直感能力と呼ばれるものを確認する試験を行うようだ。

先程説明があった通りに適正テストは厳しいもののようで私を含め何人かの者は緊張してしまっていた。適性のなかったもの達は残念がっているがそれでも落ち込むことはなく前向きになっている様子であった。

 

「次の方こちらに」

私の前に並んでいる生徒たちはそれぞれに返事をして順番に検査を受けていった。暫くした後に私の番が来たため前に進み出る。私は検査担当の女性職員の方を見ると軽く挨拶をした。結果としては問題なく合格することができて一安心することができたが

 

「夢未さんはもう少し落ち着きというものを覚えるべきです」

 

と言われたことに対して少々ショックを受けた。それから数分後には検査が終り、適正の合ったものは後日詳しい資料が届くということなので、それまでは特にやることも無く暇になってしまう。どうしたものかと悩んでいるうちに、今日の所は解散となったため帰り支度を始めたところ声を掛けられる。東雲さんが迎えに来てくれたのだ、彼女に話しかけると嬉しそうに

 

「ムソウちゃん一緒に帰ろ?」

 

という誘いを受けてしまった、正直なことを言うと断る理由は無いので了承することにした、二人で停留場までの道を並んで歩いていた時に東雲さんは何か言い辛そうにしているのか少し顔を伏せていたが突然決心した表情を見せ、こう言ってきた。

 

「・・・・・・私ね、さっきの適正検査クリアしたんだけどね、本当なら凄く嬉しいはずなのに何だかね、少しだけ、少しだけ怖いんだ。私、本当に大丈夫なのかなって、だから、その、えっと、ごめんなさい」

 

私は東雲さんの不安を取り除くべく、彼女の手を取りしっかりと目を見てこう言った。

 

「大丈夫だよ、きっと上手くいく。それにもし失敗したとしてもその時は私も何かできる事がないかやってみるから心配しないで?」

 

彼女はそれを聞いて驚いたような表情を見せた後、笑顔で「ありがとう!」と言ってきた。

いつものように私は自室で目が覚める。そしていつものように学校へ行く準備を始める。朝食を食べながらテレビをつけると、丁度ニュースをやっていた。

 

『昨日発生したテロリストによる襲撃事件により政府は防衛軍を派遣し、犯人グループを拘束しました』

 

「またテロかなぁ」

 

と独り言を言いつつトーストを口に運ぶ。私は普段あまりニュース番組を見ることはないのだが、最近はこういった事件が多い気がする。テロの首謀者と思われる人物を逮捕したという情報が流れ、その翌日にテロが起きる。この繰り返しである。

テロを起こすのは決まって外人で、目的は平等な権利とシェルターへの移住権を求めているらしい。ただテロをしても意味が無いだろうと思っている。そもそもこの国は日本人以外を認めていないからだ。テロを起こしたところでそんなものが認められるはずもなく、むしろ悪化する可能性の方が高い。そもそもシェルター内で外人が暮らせたとしても扱いは変わらないだろうし差別が無くなるとも思えないのだが。まあ私が何を言っても無意味だろう。教室内の生徒達の大半はテロリストの話をしており、時折「あいつら馬鹿じゃねえの」とか「なんであんな奴らがシェルターに来れるんだよ」などと言った声が聞こえてくる。中には「テロなんて起きない方がいいに決まっているけど万が一の時は俺達がシェルターを守るぞ」と言っている者もいた。

ホームルームが始まる前に先生が教室に入ってきて話し始めた。

 

「席につけー、ホームルーム始めるぞ」

 

担任がやってきたため教室にいた生徒は自身の席へと戻っていく。

 

「そうだ、山先、後で連絡しとく事があるから職員室に・・・・・・山先?」

 

誰かが名前を呼ばれたようだが、返答がないため皆に笑われていた。それも当然であろう、なぜならその山先という人物は頭を机の上に伏して寝ているからである。

 

「おい、山先! 早く起きないと遅刻にするぞ」

 

と言われてようやく目を覚ましたらしく慌てて立ち上がった。

 

「すみません、ちょっと眠くてボーっとしてました。」

 

「まったく、次からはしっかりしてくれよ? ほら、出席取るから席に着け」

 

「はい、分かりました。」

 

と言い自分の席に着いた。それからは担任の教師が連絡事項を伝えていき、最後にこう告げた。

 

「そうだ、今日の午後からはパワードスーツの装着訓練があるから適正検査で合格判定を受けた奴は全員参加するように」

 

午後になり体育館に集合した私達は担当の教官を待っていた。しばらくすると教官と数名の教師がやってきた。

 

「よし、みんな集まったな。これからお前達に装着してもらうパワードスーツについての説明をする。まずはこれを見てくれ」

 

と言って端末を操作すると私達の目の前に大きなスクリーンが現れた。

 

「パワードスーツの細かい名称は様々あるが、一纏めにギアと呼ぶことが多い」

 

「ギアは手足の延長のような役割を持つ物で、主に生身では扱えないような大型火器を扱うために開発、運用されている。またギアはスーツを着用しなければ操作することができない、この話の後でスーツは配布される。」

 

「次にスーツの機能だが、基本的には侵略者は体から鱗粉のように金属の粒子を目に見えて分かる形で放出しており、これを吸い込んでしまうと最悪死に至る。これを防ぐためにスーツは必ず着用しなければならん。」

 

「最後にギアの説明だが、基本的にギアの操作は操縦桿とフットペダル、この二つだが、これに加えてスーツを介して読み取った操縦者の脳波を読み取り操作を補助してくれる。だからといってそれに頼ることはおすすめできない、初期型は完全な脳波操縦型だったが、動きが過敏だったり、僅かな恐怖心を読み取り動かなくなったりなどの事故が多発したために現行機は80%のリミッターが設定されている。しかしそれでも完全に制御できるわけではない、あくまでもサポート程度だと考えておいた方が良いだろう。」

 

「以上だ、質問はあるか?・・・・・・ないようだな、ではスーツに着替えた者から第三グランドに集まるように」

 

そう言い残すとその教官は去っていった。

 

スーツを受け取った私は更衣室へと向かう。

意外にもスーツは着心地が良く、多少の遊びがあり窮屈感もないものだった。

 

「・・・・・・ちょっと、胸の辺りが苦しいような」

 

声のする方へ顔を向けると東雲さんがいた。なるほどあれだけ無駄に胸が肥えているからそうなるのだ、羨ましくはないぞ、全くもって無いとは言わないが、いや本当に。

その後他の男子生徒も集まり、いよいよグラウンドへと向かった。グラウンドに向かうと既に何人かの生徒が集まっていた。

 

「集まったな、これからギアを使って歩行訓練を始める。ギアの数は多くないから・・・・・・二人、いや三人一組のグループを作ってくれ。」

 

言われた通りに生徒たちが動き始めた。私はというと最初東雲さんと後一人加えた三人で組もうと考えていたものの、そんな考えは甘かったと実感することになる。それは、既に東雲さんは私以外の人と組んでいたからである。周りを見渡すもほとんどが組み終わっており、残りは数人ほどしかいない状況で途方に暮れていた。

ふとこちらに歩いてくる二人の男子生徒の姿があった。一人は逆立った髪型が特徴のヒビキ、後一人は。確か山先と言っていたような。そんなことを考えていると、ヒビキが私を見つけたようで小走りに駆け寄ってくる。

 

「無荘さ〜ん、遅れたけど今から何が始まるんだ?」

 

「三人一組でグループを作って歩行訓練、聞いてなかったのかしら?」

 

「いやー、突然の尿意には勝てなくてさ〜」

 

ヒビキは周りをあらかた見渡した後、私の方を見る。その表情には明らかに何か企んでいることが丸わかりである

「それで、どうやら余っているのは僕達だけみたいだけど、どうする?」

そう言って手を差し伸べてくる。正直、ここで拒否すれば面倒事に巻き込まれるのは間違いないため仕方なく了承した。

 

「あー、自分も含めてですよね」

 

「もちろん、君を含めてだよ」

 

「分かりました、っと、自分は山先弘人。よろしくお願いします」

 

「ええ、よろしく頼むわ」

 

私含めた三人は自己紹介を済ませた後、教官にグループを作ったことを報告した後、ギアと起動キーを受け取りに向かった。

 

「僕、実物は初めて見たけど、意外と小さいな。」

 

確かに、私が受け取ったものは全高2m程だが、これはあくまで待機状態での大きさだ。起動すれば2.5m程の大きさになるらしい。

 

「まず最初に誰から乗る?自分は最後でも構わないですよ」

 

弘人が言う。私としても別に早く乗りたいわけでもないし、ここはヒビキを最初に乗せよう。ヒビキの方を見ると少し緊張している様子が見える。まぁ無理も無いか、初めて使うものなのだから。

 

「まずは待機状態から主機を起動する。」

 

弘人が配布された資料を確認しながらヒビキに指示を出している。ヒビキは弘人に言われるまま、ギアに乗り込み、起動キーを差し込む。するとヒビキの目の前にホログラムの画面が表示される。

 

「次に左右のマニュピレータアームの操縦桿をしっかりと握り、自身の方に引くことで両脚のロックが解除される。後はギア自体を立たせればいい、オートバランサーがあるから派手な転倒の心配はないぞ」

 

ヒビキはゆっくりと立ち上がり、そのまま直立不動の姿勢をとる。

 

「お、おお・・・・・・、すげぇ!立ってる!」

 

「落ち着け、次に普通に歩くみたいに足を動かしてみろ」

 

ヒビキは右足を前に出し、左足を引きずるように動かす。

そして一歩踏み出す。

 

「うぉっ!?」

 

バランスを崩し倒れそうになるところをなんとか踏ん張った。

その様子を見ていたクラスメイト達が笑い始める。

 

「気にするなよ、初めてでそこまでやれれば十分だ」

 

ヒビキはギアをさっきとは逆の手順で待機状態に戻していく。

 

「次は夢未さん、やってみてくれないか?」

 

「分かったわ」

 

ヒビキから起動キーを受け取ると先ほどと同じように操作、それから私、弘人と順調に進んで行く。そんな中

 

「ギャァ!」

 

一人の生徒がふざけてギアを操縦したためか、足を滑らせギアから転倒してしまった。幸い怪我は無かったようだが、この光景を見た周りの生徒からは嘲笑の声が上がる。

 

「おいおい、大丈夫かよ」「ダサすぎじゃねぇのあいつw」

 

ああいった物は見ていて気持ちい物ではないな。

 

「それでは、全員揃ったところで歩行訓練を行う。最初はゆっくり歩くことから始め、徐々にスピードを上げてもらう。」

 

教官の指示で始まった歩行訓練は順調に進んだとは言えなかったが、それでも全員が何とか歩けるようになっていた。

 

「よし、今日のところはこれくらいにしておこうか。明日も行う予定だから遅れないように」

 

そう言い残し教官は去っていった。

全員が肩から息を吸うように呼吸をしている中、弘人だけは平然としていた。

 

「ひ、弘人は・・・・・・、疲れてないのか・・・・・・?」

 

ヒビキがそう聞くと弘人はわざとらしく返答した。

 

「ただの痩せ我慢ですよ。本当は今すぐにでも座り込みたい気分です」

 

その言葉を聞いたヒビキは苦笑しながら言った。

 

「そっか、なら俺も頑張らないとな」

 

そして、歩行訓練開始日から六か月が経過したある日のこと、私はいつものように朝の身支度を済ませてからニュースを見ていると、どうやらスタジオが慌ただしくなっており、緊急速報としてアナウンサーが何かを伝えようとしていた。

 

『えー、たったいま入った情報によりますと、政府並びに防衛軍による緊急会見がたった今から始まるとのことです。』

 

テレビ画面に映された映像には政府の人間と思われる人物が映し出されていた。

 

『国民の皆様、本日はこのような時間に集まっていただき誠に感謝しております。早速ですが、今回の要点だけを説明させていただきます。近々侵略者による大規模攻勢があり得る事が確認されました。これは過去類を見ない程の大規模なものです。ですが現状の人員では不足していると結論が出されました。そのため足りていない人員を補充するために学徒兵制度を導入することになりました。』

 

そこで一旦区切り、再び話し始める。

 

『現在、我が国の防衛軍は慢性的な人材不足に陥っており、このままでは近いうちに防衛ラインの維持すら困難になりかねません。そこで政府は防衛軍の人員確保の為、防衛高校の生徒を対象に徴兵制を実施することに決定しました。更に、成績優秀者を中心に来年度からは防衛軍への入隊を希望する者は防衛軍への入隊を許可することになりました。』

 

ここでまた一度切り、今度は別の人間が話し出した。

 

『続いて、現在の戦況についてご報告いたします。現在は防衛軍が善戦しているため侵攻速度こそ遅いものの、防衛ラインは徐々に後退しています。しかし、防衛軍だけではいずれ限界が来るでしょう。国民一人ひとりの協力が必要となります。どうかよろしくお願い致します。以上を持ちまして、政府からの発表を終了いたします。』

 

テレビの電源を切ると、ちょうどと言っていいほどのタイミングで高校から電話がかかってきた。おそらくさっきのニュースと関係があるのだろう。


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