Metal Breaker   作:山田太郎=焼肉NT

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普遍的非日常(3)

テレビの電源を切ると、ちょうどと言っていいほどのタイミングで高校から電話がかかってきた。

やはりというべきか、先程のニュースを学校側も把握していたようで、今日からは教科を短縮し行うとのことだ。

登校すると、案の定クラス内は先程のニュースの話題で持ちきりだった。

 

「おい、聞いたか?とうとう俺たちにも召集がかかるらしいぜ」

 

「いやそれでも一年生の俺たちが召集なんてあり得ないだろ」

 

そんな会話を耳にしながらも私は自分の席に着く。

 

それからしばらく時間が経ち、授業が始まった。

 

「皆さんにお知らせすることがあります。もう既に知っている人もいるかもしれませんが、このたび防衛高校にて新たなカリキュラムが導入されることとなりました。あなたたち一年生は基本的には後方支援を担当してもらいます。」

 

担任の言葉にクラスメイト達はざわめき出す。

 

「先生!俺たちも最前線で戦うことになったりするんですか!?」

クラスメイトの一人の質問に対し、担任は少し考えた後、こう答えた。

 

「・・・・・・、それはまだ分かりません。今は前線を下げながら防衛ラインの再構築を進めているらしいのですが、最悪、その防衛ラインすらも超えられた場合は・・・・・・。」

 

その言葉に誰もが口を閉ざす。

 

「とにかく、まだ決まったわけではありませんから、しばらくは今まで通りの授業を行います。さあ、早く準備をしなさい。」

 

しかし、現実とはそう甘くはないものである。前線は2ヶ月と数日後に崩壊し、生徒全員に対して召集命令が下されることになった。

教室には重苦しい空気が立ち込めており、誰一人として言葉を発しようとはしなかった。

 

それもそうだろう。自分達は入学して一年も経っておらず、知識も経験値もまるでない、付け焼き刃未満の状態で戦場に放り出されるのだ。不安になるなと言う方が無理がある。

私自身、自分がどのように行動するべきなのか分からず困惑している。恐らく他のみんなも同じ状況なのではないだろうか。結局、この日は誰も何も話すことはなく、解散となった。

 

明日から本格的に後方支援活動が始まるのだろうか?私は漠然とした思いを抱きながらも家路に着いた。

 

翌朝、起床してから身支度を済ませ、朝食を食べ終えるとすぐに学校からの通達が届いた。

どうやら、各種資材を前線基地へと運び出すための護衛として私達が召集されるようだ。

道中、ヒビキと合流した。

 

「なぁ無荘、シェルターの外ってどんな感じかわかる?僕いまいちわかんないんだよねぇ」

 

「私に聞かれても・・・・・・」

 

確かまだ座学では習ってない範囲だったかな、私は教本のデータを確認した。どうやらシェルターの外はシェルターに入ることのできなかった外人がテロリストとして旧市街地などを不当に占拠し街を構築しているようだ。

 

「うーん、ようわからん」

 

「そんなんだから座学の成績が右肩下がりなんだぞ」

 

ヒビキを適当にあしらいつつも、教本の内容が本当なのだとしたら、私達はそのテロリストを果たして撃つことができるのだろうか。私はそんなことは今考えるべきではないと思考を切り替えて指定された集合場所へと向かった。集合場所には既に多くの生徒が集っており、各々雑談を交わしているようだった。

 

しばらくすると、担当の兵士が現れ、簡単な挨拶をした後に物資輸送に関する説明を話し始めた。

 

「えー、今回の物資輸送に関してだが、我々防衛軍は現在、後方での防衛線の構築と前線の立て直しを行っている最中である。従って君たちはこの場で護衛対象の車両を守り抜いてもらいたい。」

 

「何か問題が発生した場合には現場における責任者の指示に従ってもらう。では、早速だか装備の受け渡しを行う。少し型の古い物ではあるが最新の物と性能的な違いはさほどない」

 

濃い緑の強化スーツと防塵防毒使用のヘルメット、授業でも使ったことのあるギアの同型機に小銃が装備された物が一人一人に支給された。

ヒビキは強化スーツの着心地があまりよくないのか、ぴょんぴょんとその場で跳ねたり何らかの型を一通り行っているようだが、それでもしっくり来ないようで首を傾げている。

 

そんなヒビキを横目に私はギアの設定を変更しているが、どうも上手くいかずイライラを募らせていた。クソッタレ

私の苛立ちを感じ取ったのであろう、先ほどまで姿の見えなかった弘人が話しかけてきた。

 

「無荘、何やってるの?」

 

「いや、ちょっとUIが見辛くて・・・・・・」

 

「ああ、そういうことか。それならあっしに任せてくれよ、こういうの得意だからさ」

 

「じゃあ、お願い」

 

それからしばらくすると設定が完了したようで、ようやく見やすくなった。

 

「ありがとう、助かった」

 

「いいよいいよ、それよりも、そろそろ出発の時間だから早く準備を終わらせないと」

 

「そうだね」

 

「ヒビキはちゃんと準備できたのか?お前のことだ、絶対に何かやらかしてる」

 

「大丈夫、多分、きっと、おそらく」

 

なんともアテにならない答えを聞きながらも私はギアを装着し、そしてそのまま私達計78名は物資を載せた装甲車と共に前線基地へと向かった。

 

初めて見たシェルターの外はあまりにも人の住める環境とは思えなかった、草木はなく赤土が剥き出しになっており、時折砂と金属の粒子が混じった風が吹く。道などは無くかろうじて人が通るための轍が残っている程度の代物でありその両脇には倒壊していないのが奇跡な程ボロボロになったビルが立ち並ぶ廃墟であった。シェルターの外はテロリスト達が独自に街を築いていると教本にはあったが、この終わった大地で人は果たして生きていけるのだろうかと疑問を覚えたものの、私達はただ黙々と装甲車についていき物資の輸送を行った。

 

目的地の前線基地まであと半分といった所まで進んできていた。道中テロリストと遭遇しないため大半の人の気は完全に緩み切っていた。そんな中、ヒビキが声を上げた。

 

「無荘、あれ、なんだと思う?」

 

ヒビキは前方を指差していた。そこには比較的新しい人工物であると思える建造物があった。

 

「うーん、なんだろう、多分アレじゃない?ほら教本の」

 

「あー、テロリスト達の街の?」

 

「そう、そこら辺の廃墟に紛れ込んで生活してるとかじゃないかな?私達みたいに」

 

「なるほど、あり得るかも、とりあえず報告しておく?一応」

 

私は「うん、そうしよう」とだけ返事をした。しかし、特に問題は起こらず呆気なく前線基地に到着した。基地といってもテントやコンテナのような簡易的な建物が立ち並んでいるだけで、とても前線基地と呼べるようなものではなかった。

 

「よし、君たちご苦労だった。物資の搬入が終わり次第シェルターへ帰還してもらう。それまで各自待機するように」

 

そう言い残し補給班の人は去っていった。

私達は物資を降ろした後、護衛班を交代して帰路に着くことになった。しかしいざ帰還という時に砂嵐が発生したため帰りは行きよりも時間がかかるらしい。

私はそんな不運に見舞われた帰りの護衛班に手を合わせつつも装甲車内でヒビキと先程見た不自然な人工物について話していた。

 

「ねぇ、無荘、あの街ってやっぱりおかしいよね」

 

「確かに、あんな街で人はどうやって生活しているんだろう」

 

「それに、テロリスト達も全然襲ってこなかったね。普通もっとこう、なんていうかピリピリした空気があるはずなのにさ」

 

「言われてみればそんな感じもするけど、でも私達に敵意を向ける理由もないから気にする必要も無いんじゃないかな」

 

「そうかな?それよりも早く帰って風呂に入りたい」

 

「同感だわ」

 

そんな時だった、前方から爆発音が聞こえたと思えば、すぐに悲鳴と怒号が響き渡った。

 

「敵襲!全員戦闘態勢には・・・・・」

 

装甲車のドアを開けて外にいた護衛班の1人が叫ぶ。

私は同時にギアを纏い、小銃の安全装置を解除した。

ヒビキは何が起きたのかわからないままギアを装着しようとしているが上手くいっていないようだ。私がヒビキに駆け寄り、手伝おうとしたその時、再び爆音と銃声が響いた。それと同時に私たちの乗っていた装甲車が吹き飛ばされる。

私は運良くドアから吹き飛ばされたが、ヒビキだけは装甲車ごと吹き飛ばされた。私は慌ててヒビキの元へと駆けつける。幸いにもヒビキの怪我は大したことは無いようだったが意識を失っている。私はヒビキを背負うと急いでその場から離れた。

 

しばらく走ると敵の姿が見えた。最初はテロリストの襲撃かと思っていた、でも、私はこの護衛任務で少し期待していたのかもしれない。こんな荒廃した世界を作った原因の"侵略者"に会えることを。

 

侵略者「コマンド」それは人類の敵。

侵略者は突如として現れ人類に対して攻撃を仕掛けてきた。

侵略者の外見は様々だが、共通していることがいくつかある。まず、その全てが生物ではなく金属で形取られた生物あること。次に、その全てが強力な兵器を所持すること。そして、最も特徴的なのは無機物を侵食し同化することだ。

 

小型のコマンドは私達を見つけるとすぐさま襲いかかってきた。

私はヒビキを地面に寝かせると、小銃を構えた。

 

「ヒビキ、気絶してるだけなら早く起きてよ」

 

ヒビキは私の言葉に反応しない。

私はヒビキに呼びかけながら敵を撃つ。しかし、一向に当たる気配はない。それもそうだ、私は射撃がどうも苦手なようで、ギアのアシストがあっても50m離れた窓に掠りもしないのだ。

私はヒビキを庇いつつ小銃を撃ち続けるが当たらない、予備の弾はヒビキの分も含めて150発、しかし無情にも弾切れを起こす。ギアの装備はサブアームであるナイフが一本、これだけだ。

 

「クソッ、こんなのでどうしろと」

 

私の焦燥を嘲笑うかの如く、敵はこちらに向かってくる。私は神を信仰しているわけではないが、神が遂に私を収穫しに来たかと考えた、がどうやら神は私のことが嫌いらしい。

 

「無荘、ヒビキは大丈夫なのか!?」

 

小型のコマンドを後ろからグレネードで吹き飛ばし豪快に弘人はやってきた。

 

「ヒビキは無事、だけどヒビキを庇いながら戦うには厳しいかも」

 

「わかった、ここは俺に任せろ、無荘はヒビキを連れて逃げてくれ」

 

「でも、他の皆んなは」

 

「・・・・・・し、分からん、でも殆どが逃げている。一応後方の部隊に連絡はした、この位置まで全力で逃げろ。そうすれば助けが来るはずだ」

 

弘人から座標データが送られてきた。ギアの全力で走れば10分も掛からないだろう。

 

「殿は任せてささっと行け!」

 

私はヒビキを抱えて、全速力で逃げる。

後ろでは爆発音が響く、しかし弘人が撃ち漏らした一部が私達へ向かってくる。

 

「くそっ、しつこい!!」

 

私はそう叫びながらも走り続けた。

 

「ここまで来れば安心かな?」

 

あれから10分ほど走っただろうか、後方の部隊が回収にやってくる場所の付近までやってこれた。人の気配は感じられるがそれらしい人物らは見当たらない。

集合地点を間違えたのかと考えたが、そんなはずは無いと思いたい。

すると突然、目の前に何かが落下してきた。正確にはギアを着た人が。

その人物はゆっくりながらも立ち上がると私達に近づいてくる。私は驚きつつもヒビキを守るように立ち塞ぐ。

 

「ま、待って待って無荘!私!唯!東雲唯だから!ほら!同じクラスの東雲唯だよ!!覚えてない?私達友達だったじゃん!!!」

 

唯は必死に訴えかけてくる。

 

「え、あ、うん。ごめんなさい、人違いです」

 

「そんなぁ〜〜」

 

唯はその場に崩れ落ちた。

 

「嘘だよ、忘れるわけないでしょ」

 

私がそういうと彼女は顔を上げ笑顔になった。

 

「よかったー忘れられたかと思ったよぉ」

 

唯は涙目になりながら抱きついてきた。

 

「ちょ、ちょっと離れてくれないかな、恥ずかしい」

 

「あっ、ゴメンね」

 

「いや別にいいけども。ところで、さっきはなんで落ちてきたの?まさかとは思うんだけど、あの小型のコマンドに追いかけられてたりとかじゃないよね」

 

「・・・・・・いや〜、ちょっと辺りを見渡そうと廃ビルの屋上まで壁登りしてたらうっかり落ちちゃって」

 

唯は照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。

 

「いやいやいや、普通は登らないでしょ」

 

「いや、だって、なんか高いところに行きたくなって」

 

「いやまあいいけどさ。それより早くここから離れよう、まだ小型コマンドがいるかもしれないし」

 

「そうだね、じゃあさっさと行こうか」

 

私達はその場を離れようとした。

 

「おい、お前たちそこで何をしている」

 

背後から声をかけられ振り向くとそこには防衛軍の兵士が立っていた。

私達は兵士に事情などを説明し、回収して貰おうしたが

 

「ふむ・・・・・・事情は把握したが、今はシェルターに戻ることができないんだ。すまないな、恐らく君たちはここの防衛に回されるだろうな」

 

「どういうことですか?」

 

「実は今、シェルターは侵略者とテロリストどもの襲撃を受けていて、帰還することが出来ない状況なんだ。申し訳ないが、シェルターに向かうことは諦めてくれないか?」

 

「そんな、どうにかならないんですか!?」

 

私は思わず詰め寄ってしまった。すると、唯が私の肩を掴み引き離された。

 

「まあまあ落ち着きなって無荘、とりあえず安全な場所まで移動しよう。ね?」

 

私は冷静さを欠いていたようだ。

 

「す、すみません、取り乱しました」

 

「いや、構わない。我々もこんな事態になるとは思っていなかったのだ。だが、これは現実だ。受け入れなければならない。我々はここで侵略者を迎え撃つしかない。そしてこの作戦が終われば、シェルターに戻れるはずだ。それまでの辛抱だよ」

 

「分かりました。ありがとうございます。それで私たちはどうすれば?」

 

「少し待っていてくれ、確認してくる」

 

そう言うと彼は何処かに電話をかけ始めた。

 

「あぁ俺だ、補給部隊の生存者を、・・・・・・何?まて!おい!クソッ!妨害か!」

 

「どう、したんだろう」

 

「分からない、でもあまり良い感じではないみたいだけど」

 

すると後ろから別の兵士が血相を変えて走ってきた。

 

「報告します!シェルター守備部隊がテロリストの襲撃により陥落寸前とのこと!救援要請も出ています!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

私達は言葉を失った。そんな時だった、地面から若干の揺れを感じる。

 

「な、何?地震?」

 

「違う、と思う。多分、侵略者が近づいてきているんじゃ」

 

そう言った途端に空に大きな穴が開きそこから巨大なコマンドの頭部が覗いた。

その大きさは頭部だけでも20メートルはあるだろう。

 

「おいっ!早くこっちへこい!!」

 

兵士がそう叫び、手招きをしているが私の足は動かなかった。いや、正確には動けなかった。恐怖で身体が動かないのだ。

その時、私はヒビキを抱き抱えたまま座り込んでしまった。

 

(ああ、ダメだ私)

 

私達がそうこうしている間にもコマンドはこちらに向かってきていた。もうすぐそこにまで迫っている。

 

「おい!!早く来い!!」

 

そんな私を見かねてか兵士の1人がコマンドと比例すると豆鉄砲のような小銃を撃ち続けている。だがコマンドには大して効いていないように見える。するとコマンドは細かく身を震わせると同時に地中から這い出して姿を現す。その様子はまるでトンネルを作るためのドリルが芋虫になったかのような姿をしていた。その姿はまさしく怪物である。

その怪物を一言で表すなら、『超巨大ワーム』であろう。

その化け物は口の中にある鋭利そうな牙を回転させながら突進してきた。それは一瞬の出来事だったが、ゆっくりと時間が流れているような感覚に襲われた。そして、気がついた時には目の前にまで近づき、

そして―――。

――ドンっという音と痛みと共に私は目を覚ました。

 

その痛み自体はなかった。ただ、それと同時に全身に強い痛みが走る

 

『おい!この野郎まだ生きてやがる!』

 

恐らく私を蹴ったであろう人物が私の付けていたヘルメットを外す、口の中にジャリジャリとした感触が不味い空気と共にやってくる。

 

「ゲホッゴホッ。・・・・うぐっ!」

 

『お、お前ら!そいつも殺せ!殺しちまえ!!』

 

誰かに何か命令を出した男は興奮しているのか息遣いが荒い。他の奴らも同様に、いやそれ以上に息が上がっている。見た感じシェルターの人間には見えない、恐らくコイツらが教本にもあったテロリストどもなのだろうか。私は起き上がろうとするが体が上手く動いてくれない。それに何故か体中が非常に痛む。

それでもなんとか立ち上がって逃げようとするが、体に力が入らないためうまく立てない。

それどころか視界すらぼやっとしていてよく見えなくなっている。

すると突然誰かに髪を掴まれそのまま体を持ち上げられる。

 

『お前たちのせいで俺たちはこんな惨めな・・・・・・!なんで惨めな生活を送らなきゃ行けないんだ!』

 

私の頭を掴んでいる男は怒りに任せて私の顔を地面に叩きつける、目の前が白くなると共に鼻を中心に熱と痛みが走る

 

痛い

 

熱い

 

痛い

 

熱い

 

何度か叩きつけられたのち、疲れたのか手を離される。

そして、顔を掴まれ無理矢理立たされ、今度は壁に押し付けられる。

 

「・・・・・・!、!・・・・」

 

声が出ない。

すると男の手が私の首元へと伸びてくる。

さっきの叩きつけの影響か頭に血が集まり思考が回復してきたのか私は咄嗟に男の鳩尾に膝蹴りを食らわせようと試みるが避けられてしまう。しかし、避けたことにより体制が崩れたためチャンスだと思い、もう片方の足で壁を蹴り頭突きを食らわせ拘束から逃れる。

周りの男達は何事かを呟いているようであったが、何を言っているかまでは聞き取れなかった。しかし何かしらの言語のようなものであることだけは分かった。

男達は懐から各々武器を取り出すと一斉に襲いかかって来た。

私はそれを必死になって避けるものの所々掠り傷が出来ていく。幸い致命傷を負ってはいないようだがこのままではいずれ捕まるかもしれないと思った矢先であった。

ヒュンっと風を切る音が聞こえたかと思うと男達が次々と倒れていく。突然のことに呆気に取られていたが、すぐさま思考を切り替えヒビキや唯が周りに居ないか激痛を引きずりながらも探し始める。どうもあの2人の姿はないらしい、だとすれば逃げたということなのだろか。とりあえず今はここから逃げることが最優先事項だと考え体に鞭を打ちシェルターに向かって体を引きずる。

一歩一歩の歩みが遅いせいなのかなかなか進まない、それが更に焦燥を募らせる。ようやく瓦礫の山の一つ分進んだ辺りだろうか、不自然に倒れている人影のような物を見つけたのは。人間というものは恐ろしいものほど確認して安心したがる性があるが、こういう場面のことをいうのだろう。そうであってほしくないと思いつつも恐る恐ると近づいてみる。

そこには見覚えのある顔があった。

 

「・・・・・・ねぇ、唯・・・!ねぇしっかりしなさいよ!!」

 

声を掛けても返事がない。体を揺らしても芯がないかのようにユラユらと揺れ動くだけである。何度も名前を呼ぶうちに段々と涙が出てきた。今までの人生で一番泣いた気がした。泣き喚いても何も変わらないことは分かっていたが止めることは出来なかった。

どれくらい経った頃だったろうか、私は唯だったものを背負い再びシェルターを目指し始めた。

無茶無謀と言われても咎める者はここには誰もいないのだ。だからといって死ぬつもりなど毛頭ない。

ただひたすら前へ歩く。途中何人かの死体があったが無視をして進む。死体を見る度に吐きそうになる気持ちを抑え込みとにかく歩いた。しばらく歩いているとまた人影が見えくると同時にどこからか声が聞こえてくる。

 

「やあ、おはよう、こんにちは、こんばんは」

 

フード付きの丈の長いコートを着た人物だった。フードを深々と被っているため顔の輪郭すらわからない。それどころか、何も感じない。殺気や生気と言った生物が持ち合わせているはずの気を、アレはそれら一切を発していない。それどころか生きているという感じが全くしない。アレは人形かマネキンといった方が納得できるほどだ。

 

「少し驚かないで聞いてほしい。君が背負っているそれを降ろしていって欲しいんだ。それを持って帰られると少々厄介なことになるんでね」

 

「嫌だ、って言ったらどうするの」

 

そう問いかけるとどこからか聞こえる声は一瞬唸り声を上げると、よしわかったという言葉が返ってきた。

 

「少々予定にはなかったが、ここに降ろして行く荷物が二つに増えるだけだ」

 

その言葉が言い終わるや否や目の前のマネキン野郎が何かを抜刀する構えを取ると姿が消える。

私は咄嵯に後ろに飛ぶが全身に鈍い痛みが走る。

何かとてつもなく大きな物体で横殴りされたようだった。例えるなら冷蔵庫のような物で殴られたような感覚に近い。あまりの衝撃に体が動かない。

何とか視線だけを動かしさっきのマネキン野郎を探すが、既にその姿はなかった。

あと一回でも直撃をもらえば恐らく私の体は耐えきれないだろう。

あまりにも脆い自信の体を恨みつつも思考を巡らせる。あれを食らわないにはどうすればいいか。

防御は駄目、回避?あんなに速いものを躱せと?

攻撃して相殺?武器も無しにどうしろと。

考えている間にもどんどんと相手が距離を縮めてくるような錯覚に陥る。

どうしようもない絶望感が私を襲う。

もう諦めてしまおうかと思ったその時、ふとある考えが浮かぶ。あまりにも突拍子もなく大博打で馬鹿馬鹿しい方法だ。だけど、もし、もし仮にこの考えが上手くいったとしたら、生きて帰れるのだとしたら。

私は一か八かに賭けることにした。

最初の一発を食らった時、なぜか追撃を行わなかった。根拠はないが、もしかすると相手の武器はその大きさが故に武器自身に振り回されているのではないのだろうか。ならば、一撃目さえなんとかすれば相手に一撃ぐらいは与えられるだろう。そんなことを考えているといつの間にか相手はすぐそばまで来ていた。

全ての動きがやけにゆっくりに見える。まるでスローモーションのようにゆっくりと。

全身の関節が錆びついたかのようにゆっくりとしか動かない。

回避か

防御か

否、あえて受け止める。

私は覚悟を決め、目を瞑り、歯を食いしばり、両手を広げて、奴の攻撃を待った。

そして、地面に叩きつけられた衝撃が体中を駆け巡り意識が飛びかける。それでも掴んだそれを決して離さない。

 

「驚いた、まさかこんな所にブレイカー保有者がいるとは。それも適合者のオマケ付きで。」

 

やがて視界は真っ赤に染まっていく、口の中には血の味が広がっていく。全身が金属のように冷たくなる感覚と共に徐々に自分の体温が失われていく。このまま自分は死んでしまうのだろうか。

だがまだだ。これではまだ死ぬ訳にはいかない。

薄れゆく意識の中、必死の思いで手を動かし握っていたものを引き抜くとそのままソレを突き立てる。

それは、ただの錆び付いた鉄パイプだった。

それを一思いに突き立てる、しかしその触感を確かめる間もなく私は、私でなくなった。

 

「うっ・・・・・・ぉえっ・・・・・・げぇ」

 

それは最悪の寝起きだった、名前を知っている誰かと親しく喋っていた何か。

何も出来ずに衝動に駆られる何か。

それを思い出そうとすると頭が痛み、猛烈な吐き気と喉の渇きに襲われる。

そんなことを数十回と繰り返しているうちに、何を思い出そうとしていたのか忘れていく。

 

「(・・・・・・明日は、何するんだったっけ?)」

 

頭を冷やすために洗面台に移動する、不意に鏡に写った自身の顔の酷さに思わず苦笑いを浮かべる。

鏡に写る自分の体に浮かぶ斑点模様、それらが朝日を反射し、自らを主張するかのように銀色に輝いていた。

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