「お嬢様、ここがお住まいになります」
「うわぁ、すっごく大きな建物」
じいやさんの車は、あの白亜のお城を正面に見た、湖畔の細い道を少し進んだところにある、こちらもまた白くて綺麗な大きな洋館へと向かった。
遠目に見た感じでも相当に大きくて、ひょっとしたら私たちの寮よりも大きいかも。
その建物の玄関ホールの前は、車を回せるように屋根付きのロータリーになっていて、そこに車を寄せると、赤いスーツを着た男の人が、畏まって車のドアを開けた。
「お帰りなさいませ、スペシャルウィーク様」
「え? あ、はい。た、ただいまです」
思わずそう答えると、その男性はにこりと微笑んでから、私のそれほど大きくない旅行鞄をじいやさんから受け取って先に立って歩き始めた。
そしてここもやはり大きくて重そうな玄関扉を開くと、その男性は私に頭を下げて畏まった。
それに私もちょこんとお辞儀をして中を見ると、そこには何人ものメイド服姿の女性たちの姿が。
『おかえりなさいませ、スペシャルウィーク様」
「は、はいっ!!」
全員がお腹に手を当てて優雅にお辞儀するのに合わせて、私は驚いたままで素っ頓狂に返事をしてしまう。
緊張に身体が強張ったわけだけど、とりあえずこのままここに居ても仕方がないので中へと足を踏み入れると、再び先ほどの男性が私の前へと出てきて頭を下げた。
「スペシャルウィーク様、お部屋の準備は整っております。この後はセンターの方へと向かわれると承っておりますが、このまま行かれるようでしたらお荷物をお部屋へとお運びしておきますが、どうなさいますか? 少しお部屋でおくつろぎになられますか?」
そう柔らかく言われても、私は緊張のあまりなんと言っていいのか思い浮かばず、咄嗟に。
「け、結構でございますので、このまま失礼します。うわぁあああ、じゃなくて、このまま向かいますので、荷物をおねがいします。よろしくお願い申し上げます!」
言ってから頭を勢いよく下げたのだけど、その男性は特に動じた風もなくにこりと微笑んだ。
「畏まりました。ではお気をつけておでかけください」
「あ、あああありがとうございます。い、いいいいってきます」
そう言って、くるりとUターンして急いでじいやさんの待つ車へと飛び乗った。
ドアを閉めてくれたじいやさんが車を発進させると、先ほど出迎えてくれた人たち全員が、玄関ドアの前に並んでこっちに向かって頭を下げてって、えええ!?
な、なんでこんなに丁寧なの?
多分私は相当驚いた顔をしていたのだと思うけど、ルームミラーでこっちを見ていたじいやさんが愉快そうに笑った。
「大分驚かれたご様子でございますな、お嬢様。無理もありません。なにしろ全てが急で、全てが今までとまるで違うはずですからの」
「はい……本当にびっくりしました。まさかあんなにきれいな宿舎だったなんて……。私礼儀とか、作法とか全然わからないんです。あそこで暮らしている他の種牡ウマ娘の皆さんに迷惑をかけちゃうかもって、本当に怖くなりまして……」
その私の言葉に、じいやさんはほっほっほと愉快そうに笑った。
「その心配はご無用ですよ、お嬢様」
「え?」
みんな私と同じような感じということかな?
とか、そう言われると思っていたのだけど……
「あの家は、お嬢様だけの御自宅で、他は使用人だけで、種牡ウマ娘の方は一人もおりませんからの」
「え? えええええええええええっ!?」
私の絶叫が車中に響いた。