第8話をご覧ください。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃいなのです」
なぎさに魔女になった人を救うことを宣言してから一週間が経った。あれから何度か魔女を探しに外出したりしたが出会うことは無かった。
しかし、何も変わっていない訳では無かった。まずこの一週間で、今持ってるカードの効果を全て調べ、クラブについては必殺のコンボも全て把握した。他のスートにも必殺コンボがあるとは思うが、全て持ってると戦うときにカードがかさばって取り出すのが大変だと思ったのでそのままにしてある。今のところ、クラブだけでも特に不便は無いのでそのスートのカードだけを普段持ち歩き、他は家に置いていた。
また、睦月は大学、なぎさは留守番という生活もすっかり慣れて、なぎさを日中一人でいさせることの心配も薄れた。最近ではなぎさは家の掃除や洗濯をやってくれているのでとても助かっている。睦月もまた、なぎさのためにと自炊することが多くなった。二人で夕食を食べることが睦月となぎさにとっての一番の楽しみになったのだった。
もちろん、学校から帰ってから買い物、料理としなければいけないので、写真サークルは休むようになった。しかし、これはむしろ都合が良かった。今や晴人だけでなくサークル全体にOREジャーナルの記事が渡っているため、ボロを出さないためにもしばらくはサークルの人とは話さない方がいいだろうと考えたからだ。
講義終了のチャイムが鳴った。後はもう帰るだけだ。睦月は急いで帰り支度をしていた。
「(今日は何にしようかな。昨日は肉だったから今日は魚かな)」
家路に着くまでの帰り道。そこで夕飯の献立を考えながら帰ることが日課になった。
それにしても―と、睦月は考える。
「(元々俺は人付き合いっていうのは必要最低限のこと―事務的な連絡とか―しかやってなくて、サークルでの飲み会とかもほとんど参加したことなかったのに、何でなぎさちゃんとの夕食が楽しみになったんだろう)」
睦月は一人軽く微笑む。
「(久しぶりだな。こういう感情。いつ以来だろう)」
ここまで考えた時、ふと、あの時の記憶が甦って来た。
『笑わせるんじゃねぇよ。俺は、お前を友達だなんて思ったことは一度も無いんだよ。それが分かったらさっさとどっか行け』
ここで睦月はハッと我に返った。
「(ダメだな。嫌なことを思い出した)」
睦月は静かに自嘲し、家へ帰ろうとした時だった。大学の裏門へ続く道。そこにたくさんの人がゆっくりと歩いていくのが見えた。
目をうつろにし、ただまっすぐ同じ方向に向かう姿はどう見ても正常では無かった。
「何だよ、これ。一体どうなって・・」
辺りを見渡すと、同じ学部の顔なじみがいることに気付いた。
「おい、これは一体何だ? 皆どこに向かってるんだ!?」
「おぉ、三葉か。今から俺たちはとても素晴らしい場所に行くんだ。天国よりも素晴らしい場所へ。そこで俺たちは大いなる力と一つになれるんだ。そうだ、お前も来いよ」
そう言い、彼は薄ら笑いを浮かべながら側を通り過ぎた。その時、睦月は彼の首元に不思議な模様のタトゥーが彫られていることに気が付いた。見ると、他の人物にもそれが付いていた。
「(これで人を操っているのか、だとすると)」
睦月は人々が向かう方向へ走り出した。そして、大学の裏門を通って少し行った場所にある小さな食堂にたどり着いた。そこは一昔前に閉店した店だった。そこに大勢の人が集まっており、皆ただぼうっと食堂の壁や天井を眺めていた。
やがて、一番前にいた男が一歩前に出て皆の元に振り替えると言った。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。これより儀式を行う。皆の中には命を捨てることに対してまだ迷いがあるモノもいるだろう。しかし、恐れることは無いのです。人の本質は体ではない。心なのです。魂なのです。今よりその魂は、新たなるものへと進化を遂げるのです」
うぉぉぉぉぉぉと、大きな歓声が上がった。死ぬことについて恐怖を感じている人は皆無だった。
「では準備を始めよう!」
そう言うと男は側に会ったバケツを取り出し、中に入っていた液体を頭から思い切り被った。店内に甘い匂いが充満する。砂糖水だった。それに倣うように他の人も体に様々な物をかけ始めた。
彼同様に砂糖水の者もいれば、全身に小麦粉をまぶしている者、ケチャップやマヨネーズをかけている者など様々だった。自身の肉体を味付けしているのだ。
その時、空気が変わった。店内にいたはずなのに壁や天井が無くなり、大きな広場に変わっていった。睦月はこの変化に見覚えがあった。予想が確信に変わった。
「魔女の・・・結界」
目の前に大きな『黒猫』のようなモノが現れた。しかし、普通の黒猫の様に黒の体毛に覆われ、頭に耳が付いているだけでなく、顔がピカソの様に二つの表情を一つの顔に表していて、片方が笑みを、片方は涙を流して泣いている表情をしていた。そしてその『黒猫』には、尻尾の代わりに花―黄色の水仙―が生えていた。
黒猫の魔女、キャバイブ
黒猫の魔女は長い牙で洗脳された人を噛み砕こうと口を大きく開いた。
「まずい!」
睦月は間一髪でその人たちを牙からかわさせた。
「新しい魔女、俺が助けてやる」
睦月はベルトを取り出し腰に巻いた。
「変身!」
『♧Open Up』
魔女は、前足を大きく振りかぶって睦月を引掻こうとした。睦月は何とかレンゲルラウザーで受け止め、攻撃の軌道を変えた。魔女はその後も何度も前足を繰り出してきた。睦月はそれを時に躱し、時に受け止めた。戦うよりも前に、魔女を一般人から離すことが先決だった。
しかし、自身の狩場を守りたい本能からなのか、あまり大きく動いてくれなかった。そして、しびれを切らした黒猫の魔女が最悪の手を取った。尻尾のように生えていた水仙から花粉を噴射したのだ。そしてその花粉がいくつかの塊になった。
「マジかよ」
その塊は動く花の怪物に形成されていった。なぎさの言っていた、「使い魔」の誕生である。鞭を思わせる両腕のつるを威嚇なのかブンブン振り回している。それらが一斉に襲い掛かって来た。
鞭による軌道の見えづらい攻撃。これを全て躱すのは不可能だった。容赦なく降り注ぐ鞭による攻撃を受けて、睦月は後退を余儀なくされる。一本の鞭がレンゲルラウザーに巻き付いた。そのままグルんと一本背負いの要領で振り、睦月を大きく投げ飛ばした。
「・・・・・・!!」
思い切り地面に叩き付けられ、一瞬呼吸ができなくなる。そして黒猫の魔女は操られている人たちの元に近き、一人の男をつかんだ。使い魔は睦月の前に立ちふさがる。さながら守衛といったところだ。
「このままじゃマズい」
睦月は急いで1枚のカードを取り出した。
『♧7 GEL』
睦月の体は液体化した。
「はぁ!」
そして地面に飛び込むと、体は水たまりの様に変形し、地面をスイスイ泳いでいき、使い魔の防衛を突破した。
♧7のGEL。これは体を一時的に液状化させ、あらゆる攻撃を無効化、また、どんな隙間にも入り込むことができる能力である。自身の意思で元に戻ることが可能だが、3分経過すると自動で元に戻り、また全身を通常ならあり得ない状態に変えるので体に負担が大きく、それをスキャンすると最低でも24時間は液状化できなく、さらに液状化中はこちらから攻撃ができなくなる―他のカードをスキャンすることもできない―と製薬は多い。だが、今回のような布陣の場合は効果てきめんだった。あっという間に魔女の下に行くと、そのまま大きくジャンプし、
『♧6 BLIZZARD』
レンゲルラウザーを大きく口を開けた魔女に向け、冷気を噴射した。
口内の温度が急激に下がったことに魔女は驚き、持っていた男性を放した。さらに身もだえし、今までほぼ同じ場所に留まっていた魔女が大きく後退した。これでようやく一般人との間に十分な距離ができた。
「新しい必殺技を試してやる」
と、睦月は3枚のカードを取り出した。
『♧4 RUSH』『♧6 BLIZZARD』『♧8 POISON』
『ブリザードゲノム』
レンゲルラウザーに冷気が纏った。睦月はジャンプし、空中でそれを大きく振りかぶり魔女の額に突き出した。
突いた先が凍り付き、さらに猛毒を流し込んだ。冷気をまとったラウザーでの外的な攻撃と毒による内側からの攻撃によって魔女は背面から倒れ、その体は地面に吸い込まれた。
使い魔は消え、同時に結界も消えた。
「ふぅ」
睦月は一息つくと変身を解いた。そして側に落ちていたグリーフシードを拾った。ふと横を見ると、洗脳された人たちは皆気を失って倒れていた。皆息があり、命に別状はなさそうだ。
睦月は念のため、救急車を呼んでその場を去った。
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睦月が立ち去って間もなくして救急車がやって来た。集団が倒れていたというのもあり、警察もやってきて捜査が行われた。
捜査に来ていた刑事の一人、須藤雅史が被害者のリストを見ながらつぶやいた。
「被害者のほとんどはこの大学に通う学生ですか・・」
「はい、しかし、被害者の中にはこの近所に住んでいる人もいたようで、ここの学生を狙った犯行では無いかと」
と、側にいた刑事が答える。
「それにしても妙ですね。集団で倒れていたっていうのだけでも十分驚きですが、それに加えて全員砂糖水やらケチャップやらソースやらをかけられてました。なぜ、そんなことになったんだ?」
「目が覚めた被害者に話を聞いてみたのですが、なぜ調味料を体に被ったのか、そもそもなぜ自分が大学にいたのか全く覚えてないと」
「ふむ、通報者もいなかったという話ですし、何とも奇妙な事件ですねぇ」
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「ただいま」
「お帰りなさいなのです。睦月、今日は遅かっt・・・」
なぎさは睦月が持っていたグリーフシードに目を奪われた。
「睦月、それって・・・」
「大学の近くに魔女が出たんだ。で、何とか倒して手に入れた」
「それで今日は遅く・・。じゃあ、」
「あぁ、ここに囚われた、魔女になってしまった魔法少女を救おうと思う」
そして睦月となぎさは寝室へ移動した。解放した魔法少女を布団で受け止めるためだ。
「なぎさちゃんは離れてて」
その言葉に従いなぎさは一歩後ろへ下がる。それを見届けると、
「変身」
『♧Open Up』
そしてグリーフシードと♧10のカードを取り出した。
闘いのときと同じくらい緊張していた。またなぎさの時のように自身の罪に絶望してしまうのではと思ったからだ。
だけど―、と、睦月はなぎさから魔法少女の話を思い出した。
魔法少女は皆、希望を願って変身し、多くの人を絶望や呪いから守ったという。その信念は、仮面ライダーと全く変わらない。そんな少女たちが、自身の意思とは関係なく化け物になり今度は呪いを振りまく存在になるなんてかわいそうではないか。
そう思い、睦月はまた一度決意する。もし魔女の記憶を覚えている状態で解放してしまったなら、全力で救おうと。なぎさに差しだした手をまた出そうと、そう決意した。そして、―
『♧10 REMOTE』
カードから出る光の筋をグリーフシードに当てた。なぎさの時と同様にグリーフシードが明るく光る。
そして、その光の中から少女が現れた。その少女は狙い通り、布団の上に静かに着地する。
彼女は見た目小学校高学年から中学1~2年くらいの少女だった。手足は細く、小柄な少女だ。黄緑色の長い髪を持ち、サイドの髪は一本の三つ編みで束ねてあった。
睦月は今度は忘れないように変身解除した。目が覚めた途端に思い出すということだけは避けたかったからだ。
程なくして、少女は目を覚ました。
「気が付いたか」
その声に一瞬ビクッと肩が反応し、睦月の方を見た。
「ここは・・・?」
「俺の部屋だよ。近くで倒れてたからここまで運んだんだ。君、名前は?」
彼女はゆっくりと起き上がり、言った。
「愛矢・・・徳山 愛矢(とくやま あや)」
続く
<解説と補足①>
今回、GELのカードが初めて登場しましたが、皆さん、「あれ?」っと思ったことでしょう。「GELにこんな制限あったかと」
そうです。本来はありません。この制限は私で作りました。体を液状化させるっていうチート能力が何の制限も無しで使えたら「もう全部これでよくない?」って感じになるのでそれを避けるためです。
他にも、TIMEとかそういうチートだろと思われる能力にはある程度の制限を付けるつもりでいるのでよろしくお願いします。