昨日今日と驚くことばかりが起こる。
鏡の中の世界に行ったかと思えばそこにいたライダーに"侵入者"と言われ攻撃をされ、さらにそこにとてつもない力を秘めた女性が乱入。何とか逃げたその直後に晴人が接触。彼がスペードのライダー、ブレイドに変身し、実は彼はライダーの事を既に知っていた事が判明。
これだけで十分腹一杯なのに、魔女が自分の住んでいる世界ではなく別世界の存在だという。ということはつまり、なぎさや愛矢が異世界の人間であることも同時に意味していることになる。
恐らく、この二日間を越える驚きはこれから先無いだろう。
「よくSFとかでパラレルワールドっていう言葉を聞くだろ?恐らく魔女はそれから来たんだろう」
パラレルワールド…並行世界…確かに一度は聞く言葉だが、それは創作の中での話だ。2002年現在、それがあると科学的に証明されたわけじゃないし、そんなものは…
「あり得ない。本当にそう言い切れるか?」
睦月の考えを察知した晴人が言う。
「じゃあお前が変身してるライダーはどうなんだよ?鏡の世界は?魔女は?こんなにオカルト染みたモノが溢れてるってのにどうしてパラレルワールドだけは無いと言い切れる?」
そう言われるとぐうの音も出ないが。
「じゃあ質問だ。魔女が別の世界からやって来たと思う根拠は?」
睦月は訊ねた。
「まずはお前に攻撃してきたというあのライダーだ。あのライダーは鏡の世界にいる怪物を操っていて、お前の事を"侵入者"と呼んでいた。間違いないな?」
「あぁ。俺はこの目であのライダーがサイの化け物を操っているのを見た。だけど完全じゃない。同じころイカの化け物―お前が倒した奴の事だが―もいたんだが、そいつはあのライダーでも操れないようだった」
睦月は答える。それを受けて晴人は続けた。
「まず必要なのはそいつが言ってた"侵入"、それがどういう意味なのかを考えることだ。だってそうだろう?ライダーなんて千差万別だ。どうやってお前個人を"侵入者"特定することが出来たのか」
確かにそうだ。
「俺はこう考えた。"侵入者"かどうかの基準。それは鏡の世界にいる怪物を操る能力の有無なんじゃないかってな。俺たちのライダーには、知っての通り怪物を操る力は無いし、もちろん下僕にすることも出来ない。出来るなら、戦ってる間に何かしらの兆候が見えた筈だからな。そして、そのライダーが怪物を操る能力の無いライダーに変身するお前を"侵入者"と言った事を考えると、怪物を操る能力を持っている事がこの世界のライダーの常識だと取れる」
晴人はさらに続ける。
「つまりまとめると、この世界には元々怪物とライダーは存在した。しかし、怪物というのは鏡の中に生息してる奴らの事でライダーとはその怪物をある程度操れる存在であると言うことだ。逆に言うとその力を持っていない奴は全て異世界からの"侵入者"。具体的に言うと俺とお前。そして容姿が怪物と似ても似つかない以上魔女もまた別の世界の住人だと言えるって訳だ」
なるほど。それなら筋が通る。しかし―、
「仮にそうだとして、何でそれが現れたのが5月22日周辺だと特定できる?」
「捕食の違いだよ」
「捕食?」
睦月は首をひねった。
「魔女の目的が捕食のように、鏡の化け物の目的も捕食だ。だが、魔女は怪物と違い人を自分の空間に閉じ込める。あの空間を捕食場だと仮定するとお前の話を基にするとそれはかなりの大規模なもの、つまり、一度に大量の人間を食うために作られたものだと推測できる。だが、5月22日にお前の前に現れた魔女はなぜかお前だけを誘い込んだ」
そうだ。だから睦月は先ほど否定したのだ。集団洗脳の事件を追えば魔女に会えるということに。
「俺は、こう読んだ。お前のいた場所のすぐ近くにスーパーがあったよな?お前がバイトしてる。あの魔女は元々そこを狙ってたんじゃないかってな。しかし、たまたまお前が近くにいたもんだから撃退された。そう考えると、魔女が大量の捕食を目的にしてるっていう予想は逸脱しないだろ?だから、魔女が異世界から現れた日はお前が初めて敵対した5月22日じゃないかって思ったんだよ。それを裏付けるように5月22日以降に洗脳関係のニュースがまだ小さいが記事に載るようになったしな」
あっと睦月は声を上げた。なるほど。確かにこの考えなら魔女が別の世界からやって来たことも、より効率的に探すなら5月22日以降に起こった洗脳関係の事件を調べることがベターだということにも納得だ。昨日の話からそこまで推測できる晴人に睦月は感心した。見た目頭悪そうだがかなり賢い。
しかしそうなると、一つの疑問が解決されるがまた新たな疑問が生まれる。睦月はそれを口にした。
「お前が言いたいことは分かった。だが、そうなると疑問が一つ」
「?」
「俺が持っているベルトだよ。俺の前にベルトが現れたのは、5月15日、魔女が現れるちょうど一週間前だ。とすると、魔女が現れたのは偶然ではなく前から予期されていたことだと分かる。このベルトと魔女、この二つにどういう関係があるんだ?見た目的にはむしろこの世界に元からいたライダーの方に近いっていうのに」
「俺もそれは思ったが今の段階では何とも言えないなぁ。数あるパラレルワールドの中でもこの世界を選んだからにはそれなりの理由があるのだろうが、それを推理するには情報が少なすぎる」
睦月は晴人の話を聞きながら、ベルトが目の前に現れた日に見た夢を思い出していた。
『君こそが絶望に囚われている子達を解放することができる唯一の存在なんだ』
夢で男はこう言った。あの男は魔女が現れる一週間前からその存在を、正体を、この世界に現れることを知っていた。一体何者なのだろうか・・・?
「まぁそれは置いといてだ」
晴人が考えを遮るように言った。
「洗脳事件の裏に魔女ありって事が分かってくれたなら早速行動開始だ」
「当てでもあるのか?」
「当たり前だろ。そんなのとっくに調べてあるに決まってるじゃねぇか」
そう言うと晴人は懐から手帳を取り出した。
「色々とそれっぽいのがあったぜ。飲むだけで幸福になれる水を扱った新興宗教、一度入ると何かを燃やさずにはいられなくなる炎のビル、自殺支援サイトKill」
どれも物騒だ。
「まぁしかし、この3つはここから少し遠い所にあるから無理だ。だから今日は一番近いここに行こうと思う。呪われた体育館だ」
「呪われた体育館?」
「オカルトサイトに最近投稿されたモノだ。大学から一キロ程離れた場所にある廃校になった中学校があるんだが、5月24日から、立ち入り禁止になっているにも関わらずそこに侵入する人が急増したらしい。しかも皆―正確には4人が―飛び降り自殺で亡くなっている。皆、自殺をするほど追い詰められてはいなかったという話だ。時期を考えても、魔女が現れた時期と一致する。今日はそこを調べに行こうぜ!」
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そして睦月と晴人の二人は問題の中学校へやって来た。廃校になったとはいえ、そうなったのは一年ほど前らしく、校門の一部のペンキが剥がれ落ちていることを除けばあまり廃れている風では無かった。
「で?体育館はどこにあるんだ?」
「この学校の裏門のすぐそばだ。そこの鍵は壊れていてな、裏門からなら自由に出入りできるんだ。自殺した4人も、そこから侵入したらしい」
そんな会話をしながら、二人は裏門をくぐり、体育館の前に来た。本校舎と同様にまだそこまで廃れた感じはなく、まだまだ現役で使えそうだった。
「本当にここに魔女がいるのか?」
「さぁな。ここはあくまで居そうな場所ってだけだからな。本当に偶然の事故ってだけの可能性もあるから何とも言えん」
晴人は体育館の入り口ドアに手を掛け、横にスライドさせてドアを開けた。西日が体育館内を照らし、中が茜色に染まる。
「ん~、特に変わった感じは・・・!?」
睦月が辺りを見渡すと、ちょうどステージの反対に位置する体育館の二階、そこから一人の少女が身を乗り出していた。
「やめろ!変身!」
『♧Open Up』
急いでレンゲルに変身した睦月は少女が床に激突する寸前で何とかその身をキャッチした。
「おい、大丈夫か!?」
返事はないが死んではいない。どうやら気を失っているようだった。そして彼女の首もとを見ると―、
晴人が睦月の元に駆け寄った。
「おいおい、すげぇタイミングだな。ちょうど自殺する瞬間とは」
「いや、これは自殺じゃない」
睦月は静かに言った。
「あぁ?」
「彼女の首もとを見ろ。妙なタトゥーがあるだろ?思い出したんだ。大学に現れた魔女、あれに洗脳された人たちも同じようにタトゥーが彫られてあった」
「じゃあ…」
「あぁ、どうやらお前の予想は当たっていたらしい」
そんな話をしている間に体育館がどんどん歪な空間になっていくのが分かった。
「魔女の登場だ」
その魔女はとても歪な風貌をしていた。曲がりくねった螺旋階段の上にそれに釣り合わない大きさで何もかかれていない球体。左右には腕ではなく、スニーカーを履いた脚が伸びていた。
階段の魔女 Stant(ステアント)
「何だぁ?この幼稚園児が作ったようなのっぺらぼうは?」
「魔女は皆こんな風だよ。とにかくやるぞ!」
「ヘッ!了解」
晴人もまた、ベルトを巻いた。
「変身!」
『♤Turn Up』
左右に仮面ライダーレンゲル、そしてブレイドが並ぶ。
「それじゃ、今日は共闘で行くぜ!」
そして二人は飛び出して行った。
魔女は脚を大きく広げ、何もなかった場所から4つの歯車を出した。
「ん?何だあれは?」
いや、それは正確には歯車では無かった。魔女の頭部に付いている球体。そこから無数の脚が伸びていて、歯車に見えただけだった。それを魔女は一気に発射した。
二人は反射的にそれをかわしたが、歯車はあちこちに反射し、再び二人を襲った。
睦月はそれも何とかかわしたが、尚も歯車は襲いかかってきた。
「チッ、めんどくせぇな」
対して晴人は悪態をつきながらカードを取り出した。
『♤2 SLASH』
晴人はラウザーの攻撃力を上げ、歯車を叩き斬ろうとした。しかし―、
「なっ!?こいつは…グハッ!」
物凄い速さで回転している脚の遠心力によって斬ることは叶わず、逆に押し負けてしまった。
「ならこれだ」
『♤7 METAL』
晴人は体を硬化させた。しかし、それでも歯車を防ぐことはできず、降っとんでしまった。
「がぁぁ!」
睦月はかわしながら呼び掛けた。
「晴人!」
「大丈夫だよ。だが気を付けろ!見ての通り、こいつの気味悪い歯車は受け止めたらダメだ!かわし続けるしかねぇ!」
「だったら―、」
睦月は♧の7のカードを取り出した。黒猫の魔女の時の様に体を液状化させて一気に近づこうとしたのだ。しかし、カードをスキャンしようと少し目を放した所を階段の魔女は見逃さなかった。死角から睦月の所へ歯車が飛んできて、それがまさにスキャンしようとしていた右腕に当たった。
「あがっ! しまった!」
さらに最悪なことに、その歯車が床に反射し、そのまま睦月の懐に突っ込んできた。歯車の軌道に逆らうことはできず、睦月はそのまま体育館の壁に激突した。
「ガハッ!」
「まずいな、これは・・・」
睦月は思わず呟いた。二人もいて、未だに魔女に一太刀も浴びせていない。無限にバウンドする歯車に翻弄されて、完全に防戦一方だ。おまけに先ほどの攻撃でGELのカードも落としてしまった。これでは突破も難しい。
「手詰まり・・か・・・?」
「いや、まだそうとは言い切れねぇぜ?」
「えっ・・?」
睦月はふと晴人を見た。晴人はこの状況を非常に楽しんでいるようだった。ブレイドに変身しているため表情は見えないが、笑みを浮かべていることが容易に想像できるほどに。
「今の攻撃でハッキリした。この歯車は武器じゃねぇ。使い魔だ」
「えっ・・・?何でそれが分かる!?」
「お前の手首に当たったあの歯車。そのまま床をバウンドしてお前自身を攻撃しただろ?それはおかしいんだ。あの角度で床に当たれば、本来ならお前のいる場所とは逆方向に飛んでいくはずなんだ。それにそもそも永遠に速度を保ったままバウンドするなんてあり得ねぇんだよ。摩擦とかで普通は減速する。俺らがこうして立てるんだから、摩擦は普通に働いているはずなのによぉ」
「いやでもそれは、ここは魔女の空間だから独自の物理法則が働いているだけだとも・・」
「馬鹿野郎!独自の物理法則を持ってるならここは最早完全に別世界だ。そんなものを作れるほどのエネルギーを持ってるなら、そもそも魔女なんてもんは一体も倒せねぇんだよ。お前が2体も倒した以上、魔女の空間っていうのは俺らの世界をベースに作られてるっていうのを考えるのが自然だ。つまり、物理法則もそのまま魔女の世界にも当てはめられる」
「・・・・・・・・」
「相手が無機物ではなく意思のある生物なら話は別だ。いくらでも仕掛けられる!」
睦月はただ感心していた。今まで魔女は地球に風が吹くのと同じようにただいるからいる、空間は魔女が作ったモノとしか考えてなく、それ以上を考えようともしなかった。しかし晴人はこの状況でも“何でここにいるのか”“この空間にはどういうルールがあるのか”、そういったことを冷静に分析し、反撃に繋がる糸口を必死に模索していたのだ。ただ闇雲に戦っていた睦月とは違って。
「お前・・・一体何者だ?」
「ん? あぁ、言い忘れたが、俺、今の大学に来る前に別の大学にいたんだよ。中退って奴だ。だけど、前の大学では物理を専攻していて、空間についての研究していた。だから、こういう未知の場所っていうのは、テンションが上がるんだよねぇ!」
ヒュッと晴人は口笛を吹いた。それを見て睦月の口から自然と笑みがこぼれた。
「おい晴人、教えろ。この状況はどうやったら打破できる?」
「ヘッ!やっとやる気を出したか。なら、作戦を伝える!戦闘中だからな、手短に行くぞ!」
「それじゃ、協力プレイ、リベンジマッチと行こうぜ!」
「おう!」
そして再び、二人は突進していった。
歯車、いや、使い魔は先ほどと同様にバウンドを繰り返してそれぞれの目の前に現れた。
(「あいつは死角からの不意打ちが好きだ。だから初手はあえて躱しやすい正面から狙ってくる」)
睦月は特攻前に事前に手に持っていたカードを一枚スラッシュした。
『♧6 BLIZZARD』
(「だから、それは躱さず、お前の技で一体凍らせろ!」)
続けて晴人がこれもまた事前に手に持っていたカードをスラッシュさせた。
『♤5 KICK』
(「お前はそのまま、俺は♤5の力でジャンプ力を上昇させ、そこを一気に突破する!」)
晴人は睦月が凍らされた使い魔に近づき、そのまま回し蹴りを与え、砕いた。
(「そうすると、初めに俺に近づいてきた使い魔が俺たち二人を狙って追いかけてくるだろう。そいつに―、」)
『♧8 POISON』
(「お前の毒を浴びせろ!」)
毒は効果があったようだった。脚に掛かった毒によって使い魔が苦しみ、回転速度が遅くなっているのが分かった。
(「あいつらはあらゆる物理攻撃を弾く。なら当たるだけで効果の出るやつが一番効果的だ」)
残り二体の使い魔が二人の左右上から同時に襲い掛かって来た。
(「そうなるとあいつらもなりふりかまっていられねぇ。別々に動いていた奴らが俺たちの下に集まってくるはずだ。そうなったら―、」)
『♧9 SMOG』
(「まずは目くらまし!」)
『♤9 MACH』
晴人はカードをスラッシュしたのち、睦月のレンゲルラウザーをつかんだ。
(「スピードで一気に突破する!」)
そして二人は張ったばかりの煙幕を抜けた。
(「煙幕目くらまししたから、まさか煙幕から抜けるために煙幕を張ったとは思わない。だから煙幕にそのまま入っていって、お互いに衝突するって寸法だ!」)
二人はそのまま魔女の下にまっすぐ走っていった。
(「魔女だけになってしまえばこっちのものだ!魔女が何をしようが関係ねぇ!敵が一体って状況になれば、俺の切り札が使える!」)
魔女は再び両脚を広げた。
「無駄だぜ!」
晴人はラウザーを開き、カードを一枚取り出した。
『♤10 TIME』
(「物理法則が俺らと同じってことは時間の流れも同じってことだ。つまり、このカードも使える!」)
そしてラウザーを魔女に向けた。すると魔女は両脚を広げたまま動かなくなった。『♤10 TIME』、これはラウザーを向けた相手の時間を一分だけ止められる効果を持っていた。しかし、時間を止めている間、ブレイドはずっとラウザーを対象に向けなければならないので本人の動きがかなり制限されるという、『♧7 GEL』と同様にかなり癖のあるカードだった。それを晴人は最高のコンディションを整えて使った。
「今だ!一発かませ!」
「了解!」
『♧4 RUSH』 『♧6 BLIZZARD』 『♧8 POISON』
『ブリザードゲノム』
睦月は大きくジャンプし、ラウザーを構えて魔女の体の中央部に突き刺した。魔女はどこから出したのか分からない奇声を発し、そのまま床に崩れ落ちた。
魔女の空間は消え去り、元の体育館に戻った。睦月は先ほど落とした♧7のカード、そしてグリーフシードを拾い、変身解除した。晴人も同様に変身解除した。
「やったな」
晴人はそう言って、手を差し出した。
「おう!」
そして睦月と晴人はハイタッチした。
“戦いたい”、ただそれだけの理由で変身した晴人には不快感を持ったし、それは今も残っている。だけど、彼の戦闘での頭の回転の早さ、そしてカードの効果を最大限に発揮させる応用力にはただただ感心するばかりだった。彼と一緒に戦えばもっと強くなる、睦月はそう感じた。
「さてと、魔女を倒したはいいが、彼女はどうしようか?」
晴人は自殺未遂をし、気を失っている彼女を見て尋ねた。
「俺たちが他のライダーから目を付けられてる以上、目立つ行動は避けたいけど、このままにはしておけないだろう。救急車だけ呼んで帰ろう。彼女をグリーフシードから解放するのはその後だ」
「だな」
晴人は近くの公衆電話で救急車を呼び、その場を去った。
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二人はそのままアパート近くの茂みに来た。
「誰もいないな?」
「あぁ、さっさと解放してやろうぜ」
睦月はグリーフシードからREMOTEの力でその中で眠っている少女を解放しようとしていた。三度目とはいえ、慣れない。緊張する。
「おい、早くしろよ」
「分かってる。せかすなよ。じゃあ、行くよ」
晴人は頷いた。
睦月は大きく深呼吸して、カードをスラッシュした。
『♧10 REMOTE』
カードから一筋の光が伸びて、それがグリーフシードに当たり、輝きだした。そしてそれが一人の少女を形作った。睦月は彼女を優しく受け止めた。
彼女は水色の長い髪にオレンジと水色のパーカーを着た、高校生くらいの少女だった。彼女もまた、なぎさや愛矢と同様に眠っているようだった。
「さてと、それじゃあ部屋に運ぼうか。なぎさちゃんはともかく、愛矢にはどう説明しようか・・」
ガサッ
「!!?」
そう考えていた時だった。二人のいる茂みの後方から大きな物音が聞こえた。振り返ると、
「あ・・・!」
そこにはなぎさと、買い物袋を持ったままただ茫然と立ち尽くす愛矢の姿があった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔女が現れた学校に警察の出入りが慌ただしくあった。晴人は救急車だけに通報したが、最近頻発してこの学校で自殺事件が起こっていたため、警察が念のため捜査に当たったのである。
「覚えてない?」
救急車の中、そこに自殺未遂を犯した少女、そして二人の警察の姿があった。検査の結果特に異状は無く、彼女は救急車が到着するより前には既に目を覚ましていたため、軽い事情聴取を受けさせられていた。
「はい、私が何であの場所に行ったのか全く記憶が無いんです。私はただ、この前を歩いていただけで、本当なんです!何で、あんなことをしたのか・・・」
彼女はそのまま涙を流し、体を小刻みに震わせた。
「すいません、これ以上聞くのは・・」
車内にいた医者がそう声かけた。
「そうだな。ありがとうございました」
警察を二人残し、救急車は病院へ向かった。検査では異常は無かったが、一応一日入院させるらしい。
「塚田さん、似ていると思わないか?」
警察の一人、須藤雅史が相方の刑事に問いかけた。
「何がですか?」
「この近くの大学で起きた生徒昏倒事件にですよ。規模は違いますが、どちらも原因不明で倒れていて、もちろんその後の検査でも異常は見られない。そしてどちらも通報者が不明」
「あっ・・・確かにそうですね」
そして口には出さないが須藤にはもう一つ気にかかることがあった。これらの事件は5月22日、つまり、神崎士郎が侵入者を捜せと言ってきた後から起こった。起こったと言ってもまだ二度目だからただの偶然という可能性もあるが、この原因が世間では行方不明事件と扱われている事件と同じだったら?つまり、これらの事件が“侵入者”、そして“10の怪物”の仕業だとしたら?
須藤はどうしてもその可能性を拭いきれなかった。
続く
<補足説明>
蟹刑事・・・じゃなくて須藤雅史は、一刻も早くライダーバトルを再開させようと、“侵入者”と“10の怪物”について警察の力で調べようとしています。
そのため、コネなどを利用して警視庁の捜査一課に転属しました。