愛矢が初めて睦月達にオムライスを作ってから、料理は彼女の担当になった。焼き魚、麻婆豆腐、カレーなど彼女が作る料理はどれも美味しく、彼女の作る料理が毎日の楽しみだった。特に美味しいのが洋食で、それは和食や中華とは一線を置く美味しさだった。目玉焼きは絶妙な黄身加減だし―一度食べてから朝は目玉焼きが日課になった―、スパゲッティはソースをトマトから作るこだわり仕様で程よい酸味がいいアクセントになっている。
今日は睦月の給料日なので、ハンバーグにしようとなぎさと一緒にスーパーに出掛けていた。
その帰りだった。家の前にある茂み。そこが突然光だした。
「何?あれ?」
それを見てなぎさは慌てていたようだった。
「何でもないと思うのです。さ、早く家に帰るのです」
何でもないのに光る訳がない。愛矢は好奇心に駆られ、光の方向に向かって走り出した。
「愛矢!」
なぎさは慌てて追いかけてきた。
軽い興味だった。光の原因をチラとでも見たら帰ろうと思っていた。しかし、愛矢が目にしたのは、予想だにしない光景だった。
光が徐々に収束していき、一人の少女を形作って行った。そしてそれを晴人、そしてレンゲルに変身していた睦月がただ黙って眺めていたのだった。
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「睦月・・・さん・・・」
しばらく茫然と見つめた後、彼女は静かに口を開いた。
「愛矢、ええと、これは・・・」
あまりにも突然な事、それも一番見られてほしくないモノを見られて、睦月はしどろもどろになった。しかし、その反応こそが、愛矢の求めた答えだった。
愛矢は買い物袋もその場に落とし、そのまま駆けだした。
「愛矢!」
なぎさは急いで追いかけた。睦月はサッと晴人を見ると、
「彼女を頼む。俺の家に運んでおいてくれ」
そう言って、鍵と先ほどグリーフシードから出て来た少女を晴人に預け、睦月も二人の後を追った。
そしてたどり着いたのは公園―晴人が初めてブレイドに変身した場所―だった。愛矢はベンチに崩れるように腰を下ろした。
「愛矢・・・」
「来ないで!」
近づこうとする睦月に向かって愛矢は声を張り上げた。
「ねぇ、何なの?さっきのは・・あの光は何?私は家の前で倒れてたんじゃなかったの?私も、そうやって生まれたの?ねぇ、答えてよ。知ってるんでしょ?私って、何者なの?あなたは一体、何をしているの?」
ここに来るまでに、どう言うべきか悩んだ。彼女は怪物に閉じ込められてた人で、愛矢も同じなんだとかそういうことを話そうとも思ったが、彼女の状態を見て、何が正解なのか分からなくなった。
やがて、なぎさが一歩前に出て言った。
「愛矢、あなたは、魔法少女だったのです」
「なぎさちゃん!それは・・・」
「睦月、もう愛矢には本当のことを話さないといけないと思うのです。そうしないと、きっと、分かってくれないのです」
「魔法・・・少女・・・?」
愛矢が静かに聞いた。
そしてなぎさは、全てを話した。キュウベエという名前の生き物と契約を交わして魔法少女になったこと、魔女の事、そして、レンゲルの事、知っていることの全てを。
「魔法少女・・・魔女・・・?何それ?じゃあ、睦月さんが政府の命令で鏡の中にいる怪物と倒してるって話は・・・」
「ごめん。嘘だったんだ。鏡の中に、確かに怪物は存在するが、それを秘密に退治しろなんて命令は受けてないし、そのつもりもない。俺の目的は、魔女になった人たちを救う事なんだ」
愛矢は、天を仰いで、乾いた笑い声を上げた。
「そう、そうだったのね。おかしいと思ってたのよ。秘密で退治しろと言ってる割には一般人だった晴人さんを簡単に仲間に入れちゃったし、今思えば、彼に事情を話すのも、わざわざ私たちのいない所で話す所も不自然だったしね。そっか・・・私は魔女・・鏡の怪物と変わらない怪物・・・人間じゃ・・・無かったんだ・・」
「愛矢、それは・・・」
「だってそうでしょ!!!!??あなたたちの話の通りなら、私は魔女として、怪物として!何の罪もない人たちを殺してたってことでしょ!!?あなたのことだって殺そうとしたってことじゃない!!!なのに何で・・何で私を助けたのよぉ・・・」
愛矢は歯を食いしばり、静かに涙を流した。
それを見て睦月は、何て声を掛けたらいいのかまた分からなくなった。
太陽が徐々に西に沈んでいき、夜のとばりが降りようとしている。しかし、誰も動こうとしなかった。
なぎさは小さく震えていた。彼女は震えを抑えようと、右腕を左手で強く握った。
―ダメ・・この考えはダメ・・・もし、それを吐き出しちゃったらもう・・・―
なぎさは何度か小さく深呼吸し、それを抑え込むと、愛矢に向かって言った。
「愛矢。なぎさも、同じなのです」
「えっ・・・?」
「なぎさも愛矢と同じで、魔法少女だったのです。―そして、愛矢と同じで魔女になったのです」
「―――――!」
「そして、愛矢と同じで睦月に助けてもらったのです。なぎさは、睦月に助けてもらって感謝しているのです。助けてもらったことに対して、何の文句もありません」
「―何で・・そう言えるの?」
「睦月は、なぎさを独りにしなかったから」
「独り・・・?」
「実はなぎさには、魔法少女になる前の記憶が無いのです。どんな家に住んでいたのか、お父さんやお母さんはどんな人だったのか、そういうのが全部抜け落ちているのです。覚えていることは、独りぼっちだったこと」
「――――――――」
「誰にも会わないで、誰とも喋らないで、たった独りでずっと魔女と戦っていたのです。暗くて、怖くて、それでも頑張って。だけど、無理で。そして気が付いたら魔力切れか何かで魔女になっていたのです」
「―――――そんな・・・」
「でも、睦月に助けられてからは違うのです。睦月は、なぎさの側にずっといてくれました。それはとても暖かくて、明るかったのです。それに、睦月に初めて会った時、睦月はなぎさのことを人間だって言ってくれました。その言葉だけで、なぎさは満足なのです」
そしてなぎさは愛矢の下に近づいた。
「なぎさは、愛矢のことを悪い魔女だなんてこれっぽっちも思っていないのです。愛矢は、とても優しくて、頑張り屋で、いつもなぎさや睦月のためにおいしいごはんを作ってくれる愛矢なのです。それとも愛矢には、なぎさが悪い魔女に見えるのですか?」
愛矢は、涙を流したままそっと顔を上げた。そこには、優しく微笑んだなぎさの笑顔があった。愛矢の、一番好きな顔だった。
愛矢の中で、何かが少しずつ溶けていくのを感じた。それを感じながら、愛矢はゆっくりと首を振った。それを見て、なぎさは満足そうにうなずき、
「じゃあ問題ないのです!愛矢、一緒に帰るのです!」
「・・・・・・うん」
愛矢は頷いた。
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愛矢は、家路に歩きながらそっと言った。
「睦月さん、さっきは、ひどいこと言ってごめんなさい」
「いや、謝るのは俺の方だ。俺が何も考えていないのが問題だった」
そして睦月は、家に着く前に話さなければいけないことを、しかし、とても言いづらいことをおずおずと切り出した。
「あのさ、愛矢、なぎさちゃん・・・」
「大丈夫よ。今日助けたあの子には、魔女の事はしばらく黙っておくわ」
察したように愛矢は言った。
「えっ・・・?」
「自分が誰なのかっていうのは知りたいかもしれないけど、目が覚めたばかりで混乱している時にそれを話すのはさすがに酷よね。私も、今日は辛かったし。だから、しばらくは黙ってるわ。だけど―、」
「あぁ、分かってる」
睦月は頷いた。今まで睦月は、魔法少女や魔女に関する記憶が無いのなら、それにこしたことはないと思っていた。永遠に、秘密にできればいいと。
だけど、それは不可能だ。秘密はいずればれる。だから、どこかで明かさなければならない。
それは彼女たちにとってとても苦しい事になるだろうけど、それはきっと、なぎさや愛矢、睦月とクインテットの皆と一緒なら乗り越えられる。
手を繋ぎながら歩くなぎさと愛矢の姿を見て、睦月は強くそう思った。
続く
最近、投稿する時間が遅くなってるな・・・。
毎週連載の約束が守れるように精進するのでこれからも応援よろしくお願いします。