大学前期の期末試験は手応えは悪くなかった。思い過ごしだったら恥ずかしいから言わないが、単位は何とか取れたと思う。
そして迎えた夏休み。記念すべき最初の日は、舞花達がずっと行きたいと言っていた海へ行った。泳いだりビーチバレーをしたりと(舞花のチームの圧勝だった)非常に充実した1日だった。
その帰り道の事だった。駅に向かう道中にある店の窓から夏だからなのか、蝉の姿をしたモンスターが現れた。
ミラーモンスター、ソノラブーマ。
睦月と晴人はレンゲルとブレイドに変身して、戦っていた。2vs.1の数の利で初めこそ有利に戦っていたのだが、
「ぐうううううう」
「クソッ!これはキツいな…」
二人は今、ソノラブーマの発する超音波に苦しめられていた。
そして動きを封じた所でソノラブーマは飛び立ち、その爪で二人を引掻いた。
「ギャア!」
「クッ!」
二人に爪での斬撃を与え、さらに睦月に向かって爪の追撃が来た
「やろ!」
睦月はそれをラウザーで防いだが、その直後に再び超音波を出した。
「がぁぁぁぁ!!」
先ほどの超音波のダメージが残っている時にさらに近距離での超音波。その攻撃に睦月は悲鳴を上げた。そこに爪での攻撃を二発三発と与え、睦月はその場で崩れ落ちた。晴人は何とかラウザーでの斬撃を与えようとしたが、超音波で麻痺した状態での攻撃は軽々とかわされ、代わりに肘での打撃が当たりその場に倒れた。
そして、ソノラブーマは少し離れた所にいたなぎさと愛矢と舞花と小夜の4人に目を向けた。二人と同様に超音波で苦しんでいた4人は一拍遅くモンスターに気付いた。
「ひっ!」
「来ないで、来ないでなのです!」
「――――!」
3人がモンスターの接近に身がすくむ中
「何?こんなか弱い女の子があなたは好みなの?」
舞花は麻痺してる体にも関わらず歯を食いしばって立ち上がり、モンスターを睨みつけた。
「えい!」
舞花は、手に持っていた小石を投げつけた。しかし、それが効く訳が無く、長い爪が舞花に降り注がれた。
「―――――!!」
舞花はギュッと目をつぶった。
「ダメ!」
その攻撃はかすめ、地面に突き刺さった。
舞花が目を開けるとそこには、
「小夜―」
見ると舞花は地面に倒れていて、小夜が彼女の脚をつかんでいた。
小夜は、しびれる体を何とか持ち上げて、彼女の脚に飛び乗ったことでバランスを崩し、結果爪が当たらずに済んだのである。
次は攻撃を当てようと再び爪を持ち上げた時だった。
モンスターの背中に衝撃が加わり、前のめりに倒れた。睦月が、レンゲルラウザーを投げつけたのだった。
「晴人!」
「分かってるよ」
睦月の掛け声を合図に晴人は一枚のカードをスラッシュした。
『♤6 THUNDER』
「次に痺れるのは貴様だ」
ラウザーの切っ先から電撃が発射し、モンスターの体を包んだ。
モンスターが動けなくなった隙に睦月はラウザーを広い、思い切り打撃を加えて小夜達から引き剥がした。
「よくも彼女たちに怖い想いをさせたな」
『♧5 STAB』 『♧6 BLIZZARD』
『ブリザードクラッシュ』
「これはそのお礼だ」
そして足から冷気を出しながらモンスターを挟み蹴り、ソノラブーマは爆発四散した。
それを見届けた後、二人は変身解除した。
「凄い・・・」
舞花がそう呟いたと思えば
「かっこいい!凄い!」
「えっ、えぇ!」
満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。
「いや~睦月が戦うのって初めて見たけど、こんな感じなんだ~。如何なるピンチでも困ってる人がいたら立ち上がる!まさに正義のヒーローって感じよね!!」
「は、はぁ・・」
いきなりのテンションに睦月は面食らった。
「ねぇお願い!私もそれにならせて!戦わせて!」
「えぇ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ダメだ。絶対にダメだ!」
「え~?何でよ~?変身できない訳じゃないでしょ?クローバーとスペードがあるんだから、ダイヤとハートだってあるわよね?その一つをちょうだい!お願い!」
帰ってからずっと舞花はそんなお願いをしていた。
「そんなに意地悪しなくても良いんじゃないの?」
そこで晴人は口を挟んだ。手にはダイヤとハートのカード、さらに変身用のバックルも持っていた。
「お前、それ…」
「やっぱりあるじゃない!使わないなんてもったいない。その内の一つを私に~」
「ダメだ。お前も余計な物持ってくんな」
バックルを手に取ろうとする舞花を抑えながら睦月は言った。
「あんだよ。本人がやる気になってんだから良いだろ?人数が増えるに越した事はないし。それにこいつの言うとおり、今はこの2つのデッキは置物同然になってる。だったら一つ位」
「ダメだ」
睦月はハッキリそう言った。
「何で?」
「危険だからだ。ライダーは遊びじゃない。本気の殺しあいだ。それに巻き込みたくないし、第一今までだって俺たち二人で何とかなってただろう?」
「いや、そうか?今日の戦いだって、割と危なかったぜ?なぎさ達のボディーガードってな感じで変身させても良いと思うんだけどなぁ。その点舞花は最適だ。あの蝉の攻撃を受けても立ち上がれるレベルで動けたんだからな」
「そうそう!そうでしょう?」
「とにかく、ダメと言ったらダメ」
そう言って睦月は2つのデッキとバックルを手に持った。
「これは置物で結構。俺が預かっておく」
睦月はいそいそとそれらを置きに部屋に戻った。
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翌日、、舞花達4人と晴人を連れて睦月はレントへ向かった。舞花を変身させないという意見は間違ってると思わないけど、ソノラブーマを倒せたのは彼女のお陰でもあったし、ダメダメと強く言い過ぎたかなというのもあったので、お礼とお詫び代わりだ。
レントに来て機嫌を直したのか、彼女は思い切り遊んでいて、自分が変身したいと言うことは無かった。
その帰り道の事だった。
最寄り駅まで歩いていた時、突然女性陣4人が立ち止まって、
「睦月、これ…」
キーン キーン キーン キーン
4人よりワンテンポ遅れて睦月と晴人にも聞こえてきた。
「これは…」
「来たな」
辺りを見渡すと、近くに店の窓が見えた。
「そこだ!」
「キャッ!」
睦月と晴人がそれぞれ二人を抱えて横にとんだ直後、その場所にモンスターが飛んで来た。
「!」
「こいつは」
その正体は以前にも戦った事のあるモンスター、メガゼールとギガゼールだった。
「こいつがいるってことは…」
「ご名答」
モンスターがいるのとは反対の路地から一人の男が近付いてきた。仮面ライダーインペラーに変身する佐野満だった。前方にはモンスター、後方にはインペラー。そして左右は家屋と竹林に囲まれていて、完全に挟まれてしまった。
「今日こそは君たちを倒させて貰うよ」
そう言って佐野はカードデッキを掲げた。どこからともなくベルトが現れ彼に巻かれていく。
「睦月さん、あれって…ベルト?何か違うような」
他のライダーを目にするのが初めてだった愛矢達は戸惑いを見せた。
「お前らはあの竹の方に行ってろ。行くぞ、晴人」
「おう」
二人もそれぞれのバックルを腰に当て、ベルトを巻いた。そして三人は同時に叫んだ。
「「「変身!!!」」」
『♧Open Up』 『♤Turn Up』
二人はレンゲルとブレイドに変身し、それぞれがメガゼールとギガゼール、そしてインペラーに相対した。
「お前は怪物を倒せ。俺はあの男を倒す」
「倒すって、相手はライダーだぞ?魔女や怪物とは勝手が違う。一回戦ったことがある俺がやった方が・・」
「だからだよ。お前、ライダー―というより人間―との相手は苦手だろ?俺ならその辺りにまだ耐性があるからよ」
それもそれでどうかと思うけど・・
「さっきから何をごちゃごちゃ言ってんだ?」
『SPIN VENT』
「そっちから来ないなら俺らから行くぜ!」
そう言ってガゼルスタッブを装着した佐野と二体のモンスターはそれぞれ飛び出した。
「話し合ってる場合じゃねぇな。それで行くぞ」
「しょうがない」
ブレイドラウザーを構えた晴人は佐野に、レンゲルラウザーを構えた睦月はメガゼールとギガゼールを相手にした。
二体のモンスターを一度に相手にするのも大変だが、それ以上に大変なのはなぎさ達だ。佐野に待ち伏せられたのは周囲に竹林がある以外は特に抜け道が無い場所だ。そのせいで彼女たちは竹林の方へ移動してもらうのが精一杯。彼女たちに敵が近づかないようにして戦わなければ。
「いや~驚いたよ。お前ら二人だけかと思ってたのに女の子4人が同伴とは。うらやましいな~。お前、一体何考えてんだよ?」
「別に?デートとかそんな深い意味はねぇが?」
「そうかよ!」
そういうと佐野はガゼルスタッブを横に動かし、ブレイドラウザーを流した。
「なら、確かめてみようか!?」
『ADVENT』
先ほどメガゼールたちが出てきた窓からモンスターが一体飛び出してきた。それは、茶色と緑の体色に羊のような角を持ち、メガゼールと同様に二又の槍をもっていた。
ミラーモンスター、マガゼール。
それが真っ先に竹林に隠れていたなぎさ達に狙いを定めた。
「キャァァァ!!」
彼女たちの叫び声で睦月も気が付いた。
「まずい!今すぐにぐわぁ!」
マガゼールを相手にしようと後ろを振り向いた瞬間に背中を槍で切り裂かれた。
「ぐぐぐぐ・・・」
その場で崩れたことで襲い掛かるさらなる槍の追撃はラウザーで何とか抑えたが、それによって横になりながらの防御。睦月は完全に身動きが取れなくなった。
「おいお前!無抵抗な女の子相手にするんじゃねぇよ!こっち来い!」
何とかマガゼールの気を引こうとそう叫んだが、そんな挑発に乗ることなくじりじりとなぎさ達の元に近づいていった。なぎさ達は、完全に恐怖で固まってしまっていた。
その時―
「私に任せて!」
舞花は立ち上がり、マガゼールと相対した。
「まさか、こんなに早くチャンスが巡ってくるなんてね」
そう言って、舞花が取り出したのは、睦月が持っていたもう一つのバックルだった。
「お前、何でそれを!?」
変身したいと彼女は言ったが、睦月はそれを拒否した。しかし、それでもどうしても諦めきれなかった舞花は睦月の隙をついてバックルとデッキを一つ持ち出していたのだった。一度変身して、活躍すれば、睦月も認めてくれると信じて。
「―――――――――」
舞花はバックルにダイヤのAを差し込んだ。彼女が選んだのはダイヤのようだった。そしてそれを腰に当てようとした時だった。
「!千翼、危ない!」
「えっ? キャ!」
睦月が今まで相手にしていた内の一体、メガゼールが睦月を飛び越え、舞花に向かって体当たりをしたのだ。それによって舞花は横に飛ばされ、バックルを手から離してしまった。
メガゼールとマガゼール。二体のモンスターの対象は舞花になった。
「あ・・あぁ・・あ・・・」
これは舞花も予期していなかった事で、立ち上がりもせず目を見開いたまま後ずさるだけだった。
「舞花に近づくな!」
愛矢が竹林から飛び出し、メガゼールの脚に飛びついた。しかし、それもモンスターの足を止めることに繋がることは無く、軽く払い、舞花の元に飛ばしてしまった。
「二人に手は出すなです!」
愛矢が蹴られたことがきっかけでなぎさもまた竹林を飛び出した。そして二人に前に立ち、両腕を広げ、二人に近づけまいとする。その小さな腕は震え、目には涙を貯めながら。
「こりゃまずい!」
「何言ってんだよ!」
晴人は3人の元に行こうとしたが、それも佐野によって阻まれてしまった。
「お前は俺との相手で一杯一杯でしょうが」
嘘だろ?このままだと3人が死ぬ。せっかく魔女という呪縛から救い出してこれからって時に。
「なぎさ!愛矢!舞花!逃げろぉ!」
どこにも逃げ場はない。そんなことは分かってる。だけど、こう叫ぶくらいしか、今の睦月にはできなかった。
その時だった。
「やめてください!!!」
そう叫び、3人になお近づこうとするモンスターに石をぶつけた少女がいた。
小夜だった。
手にはダイヤのAが入ったままのバックルがあった。
「小夜、それ・・・」
「これ以上、友達に手を出さないでください!」
彼女はそう言って、腰にベルトを巻いた。
「変身!」
そして震える手でバックルのレバーを引いた。
『♢Turn Up』
目の前に青い光のゲート―オリハルコンエレメント―が現れ、それが小夜に吸い込まれていった。
銀と赤の鎧に全身を包まれ、クワガタのように二本の角が生えたような仮面。小夜は仮面ライダーギャレンに変身したのだった。
ギャレンに変身したことでメガゼールとマガゼールは彼女に狙いを定めた。
小夜は少し後ずさったが、腰に銃―ギャレンラウザー―があるのに気付き、取り出した。
「フン!」
そして彼女は発砲した。二体のモンスターに当たり、少し怯んだ。
しかし、決定打にはならなかった。モンスターは少しずつだが彼女に近付いて行った。
「クッ!」
小夜は後ずさりながらも変わらず発砲を続けた。しかし、一体に集中して当てればもう一体は無防備になる。飛び道具はあるが、彼女は少しずつ追い詰められていた。
仕舞には、メガゼールとマガゼールは槍を構え、小夜の弾丸を弾くようになった。
「あ、あぁ・・あああ・・・」
そして一気に距離を詰めると槍を小夜に突き出した。
「キャッ!!!」
そして彼女の体は思い切り竹に当たり、その衝撃で強制変身解除した。
「痛い・・・!」
ふと前を見ると、目の前には槍を持った二体のモンスターが尚も小夜にじりじりと近づいていた。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
小夜の悲鳴が辺りにこだました。
続く
<キャラクタープロフィール⑤>
天野小夜(あまの さや)
年齢:15歳
身長:157.3cm
体重:45.1kg
血液型:O型
性格:優しい
将来の夢:医者
趣味:なし
好きな場所:登下校道
好きなモノ:動物