仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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皆様、先週は無断で休載してしまい本当に申し訳ありませんでした。

現在、リアルで実習やらレポートやらその他諸々で忙しく、中々投稿する時間が取れませんでした。

もしかしたら来週も投稿できないかもしれませんが、その時はご了承ください。

では、第二十話をご覧ください。


二十之巻 小さき夜

 「睦月さん、起きてください」

 

 次の日、早々に小夜に起こされて睦月は目を覚ました。

 

 「ん…どうした?小夜?」

 

 「舞花さんがどこにもいないんです」

 

 「えっ?」

 

 睦月は体を起こし、部屋を出た。

 

 「舞花?」

 

 初めに舞花と小夜の部屋を見たが、確かに居なかった。続いて他の空部屋も見たがもぬけの殻だった。

 

 「散歩にでも行ったのか?」

 

 らしくは無いと思ったがそうとしか考えられなく、アパートを出たとき、地面にカードが散らばっていることに気付いた。

 

 「!」

 

 睦月はそれを見て唖然とした。それは自分の部屋に置いてあった筈のハートのカードデッキだったからだ。

 

 「(嫌な予感がする)」

 

 その予感はカードを調べたときさらに強まるのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 睦月はすぐに晴人に電話を掛けた。しかし―、

 

 「ダメだ。出ない」

 

 こういう時に限って連絡が取れないとは不運にも程がある。

 

 「睦月?」

 

 ただ事でないことを感じたのか、なぎさと愛矢も駆けつけた。

 

 「何かあったの?」

 

 「舞花がいなくなったんだ」

 

 「迷子なのですか?」

 

 「迷子ならまだ良いんだけど…」

 

 「えっ?それってどういう…」

 

 「とにかく、二人も来てくれて良かった。二人も舞花を捜すのを手伝って欲しい」

 

 「もちろんなのです!」

 

 「何だかよく分からないけど、もちろん!」

 

 愛矢も力強く頷いた。

 

 「それじゃあ二手に別れて―」

 

 ここまで言った時、睦月は戸惑った。

 

 落ちていたハートのカードデッキには、Qのカードが失くなっていた。カードに封印されている怪物のことは詳しくは分からないが、一度リモートで解放したことがあるのでその恐ろしさは知っていた。舞花は、何らかの原因でQに封印されている化け物と何かあったのではと直感していた。

 

 故に、戦いになると予感していた。睦月は良い。だけど小夜は?戦うべきか迷っている彼女に戦いを強いるのか?

 

 そんな心情を察してか小夜は言った。

 

 「睦月さん、私は大丈夫です。舞花さんがどこに行ったか分からない以上、手分けして探した方が良いに決まってます」

 

 「いや、でも…」

 

 「これから戦うか戦わないか。私にはまだ答えは出せません。だけど、戦う力があるのに、舞花さんを助けないでやめるのは嫌なんです。だから私を信じてください」

 

 「小夜…」

 

 本当に優しい娘だなと思った。戦いに対する恐怖心もまだあるだろうに人の為に頑張れる。その想いはライダーそのものだ。だから言った。

 

 「絶対無茶するなよ」

 

 「はい」

 

 「愛矢、小夜に付いていってくれ」

 

 「うん」

 

 「なぎさちゃんは俺と一緒だ」

 

 「了解なのです」

 

 そして手分けして舞花を探した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「舞花さ~ん!」「舞花さ~ん!」

 

 愛矢と小夜は呼び掛けながら辺りを探した。どこに行ったのか全く見当が付かない以上、手当たり次第だった。

 

 2つ隣の駅まで探した時には、既に日が暮れていた。

 

 そこにある繁華街を探していた時だった。

 

 「ギャァァァァァ!」

 

 メイン通りの外れから男性の悲鳴が聞こえた。二人は顔を見合わせて、もしやと思い頷き、その場に駆け寄ってみると、腰が抜けたようにへたりこんでいる男がいた。そして、彼の見つめる先には―、

 

 「一体…一体何だってんだよ!」

 

 「今日は本当にお世話になったわ。だけどもう飽きちゃった。たまにはおしゃれでもして楽しもうとも思ったけど、やっぱり私は戦う方が性に合うみたい」

 

 「舞花さん!」

 

 黒いドレスワンピースを着飾った舞花の姿があった。愛矢の呼び声に反応し、顔を彼女らに向ける。

 

 微かにランの香りがした。

 

 舞花からは何かを感じた。何か異様な気配の様なものを、舞花の姿をしているが、舞花では無いような。

 

 「あなた…一体?」

 

 「あなたたち、私の知り合いなの?フフフフ…面白そうね」

 

 そして舞花の体は怪物に変貌していった。

 

 長い爪と硬い銀の装甲を持った左腕、紫の触手のようなツタを持つ右腕、それ以外の胴体や脚は血のようなどす黒い赤い体で覆われ、頭部には紫の花弁、中央からは顔がついた中頭が伸びていた。

 

 ランの香りが先ほどよりも強くなった。

 

 ハートのカテゴリーQ、オーキッドアンデッド

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 傍にいた男は驚いて逃げ出した。それをオーキッドアンデッドはツタで捕まえ、首をそれで締め上げる。

 

 「グググ…」

 

 「逃げるなんてつれないわね。先に誘って来たのはそっちでしょ?本当に今日は楽しかったわよ?最後まで楽しみましょ?ショウさん♡」

 

 小夜は急いでバックルを腰に巻き付けた。

 

 それを見て、愛矢は驚いた。

 

 「ちょっと待って!戦うつもり!?無茶よ!」

 

 「だけど、あの人も舞花さんも放って置けないわよ!変身!」

 

『♢Turn Up』

 

 小夜はギャレンに変身し、ラウザーを引き抜きツタにめがけて発砲した。銃弾を受け、男性を離し、自由になった男は転がるように逃げ出した。

 

 「愛矢さんは早く睦月さんに知らせてください!それまで何とか止めてみます!」

 

 「そんな―」

 

 愛矢は何とか止めようとしたが、小夜の姿を見て止まった。仮面に隠されていて表情は見えないが、彼女の想いがひしひしと伝わってきた。

 

 そうか、今の彼女は、変身してるときの睦月さんと同じなんだ。

 

 そう思った愛矢は、

 

 「分かった。すぐに呼んでくるから、無理はしないで!」

 

 そう言い残し、公衆電話を探しにこの場を去った。

 

 「行かせない!」

 

 オーキッドアンデッドはツタを伸ばして愛矢を捕らえようとしたが、それを小夜はラウザーの射撃で弾いた。

 

 「あなたの相手は、私です!」

 

 「ふ~ん、こんな小娘がね~」

 

 小夜は黙ってラウザーの銃口をアンデッドに向けた。

 

 「良いの?私はあなたたちの友達じゃないけど、この体は間違いなく友達のもの。私へのダメージはそのまま友達の体へ蓄積されるわよ」

 

 「えっ…」

 

 小夜の引き金に掛かった指の力が緩んだ。

 

 「フフフフ…誰が変身しても変わらないのね。優しいと迷う。そして一気に弱くなる」

 

 オーキッドアンデッドの鞭の攻撃が小夜に襲いかかった。小夜はビルの壁にぶつかってずるずると崩れ落ちた。

 

 「まぁ、あなたの場合は元から弱いんだけど」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 愛矢からの電話を受け、睦月となぎさは駆けつけた。そこには、ギャレンに変身し怪物に掴みかかって戦っている小夜の姿があった。

 

 「舞花さんを…返してください!」

 

 「お断り!」

 

 それをオーキッドアンデッドは腕を払って引き剥がす。

 

 「あなたもしつこいわねぇ。その勇気だけは誉めてあげる。でももう終わりよ!」

 

 オーキッドアンデッドはツタによる鞭の攻撃を繰り出した。

 

 「変身!」

 

 『♧Open Up』

 

 レンゲルに変身した睦月はそれをラウザーで弾いた。

 

 「大丈夫か、小夜!?」

 

 「睦月…さん…」

 

 「話は愛矢から聞いた。あれが」

 

 「はい、舞花さんです」

 

 「へぇ、あなたもいたの。久しぶり。いえ、初めましてになるのかしら?」

 

 「訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇぞ!お前を倒して舞花を返して貰う!」

 

 「ダメです!ダメ!」

 

 ラウザーを構えた睦月を小夜は慌てて止めた。

 

 「どうした。小夜?」

 

 「あの人は今、舞花さんの体を使っています。攻撃をすれば、舞花さんの体が傷付くと言ってました」

 

 「なっ…」

 

 「あらあら、早々にばらしちゃってつまらない。何も知らないあなたが戦って、最後に傷ついたこの娘の体を見て発狂する姿を見るのも一興だったのに」

 

 「・・・・・・」

 

 「その娘の言うとおりよ。私を倒せば、この体は元に戻る、けど、それまでこの娘の命がもつかしらね」

 

 「グッ…」

 

 睦月は飛び出すこともできず、ただ唇を噛むだけだった。

 

 「何もしないの?だったらこっちから行くわよ!」

 

 オーキッドアンデッドは大きく振りかぶってツタの鞭を繰り出した。睦月はとっさにラウザーでそれを弾いたが、弾いたツタがラウザーに巻き付いてしまった。

 

 「守るだけじゃ私は倒せないわよ」

 

 そのままツタを横に引っ張り、睦月は壁に思い切りぶつかってしまった。

 

 「睦月さん!」

 

 「人の事気にしてる場合?」

 

 ラウザーに巻き付いてたツタをほどき、今度はそれを小夜にぶつけた。

 

 「小夜!」

 

 さらにそのツタを首に巻き付け小夜を吊し上げた。

 

 「守ってばっかの戦いも飽きたから、もう終わりにしましょう。まずあなたから殺してあげる」

 

 「クソッ!待ってろ、今助けに…」

 

 キーン、キーン、キーン、キーン…

 

 ―まさか

 

 ビルにある小さな窓からモンスターが飛び出した。

 

 それはサルのような見た目で、顔と額合わせて3つの赤い目を持ち、右手には銃を持っていた。

 

 ミラーモンスター、デッドリマー

 

 ドヒュンッ ドヒュンッ

 

 デッドリマーは早速右手に持ってた銃で睦月に向かって発砲してきた。

 

 「こんな時に…」

 

 睦月はそれをラウザーで防ぎ、隙を見て突き出した。だが、それはジャンプしてかわされ後ろを取られ、背中を撃たれてしまった。

 

 「ガハッグッ、ゴア」

 

 睦月はその場で膝をついた。

 

 「痛…こんなやつ相手にしてる場合じゃないのに」

 

 ふと横を見ると、なぎさと愛矢が何とか小夜の首からツタを外そうとツタを引っ張っていた。

 

 「小夜を…離して~!」 「離すのです~!」

 

 「なぎ…ささん…愛矢…さ…ん、逃…げて」

 

 「フフフフフ…アッハハハハハハハ」

 

 なぎさと愛矢が必死になってツタを外そうとしてる光景が滑稽だからかオーキッドアンデッドはただ笑うだけで何もしなかった。

 

 それを長く見ていたいからかわざわざ小夜が窒息しないギリギリの強さで締め付けている。

 

 チャンスは今しかない。あいつが本当に絞め殺してしまうよりも先にサルを倒して、小夜を助ける。

 

 「おりゃぁ!」

 

 睦月はラウザーを横に凪ぎ払った。しかしデッドリマーはジャンプしてかわし、器用に尻尾をビルに伸びるパイプに巻き付け壁に張り付いた。

 

 睦月はそんなモンスターに向かって思い切りラウザーを突いたがそれは壁をジャンプしてかわされた。だがそれで良かった。

 

 空中なら身動きは取れない。

 

 突いてリーチが長くなったラウザーをデッドリマーの軌道を追うように振り、ラウザーによる打撃を与えた。

 

 衝撃で思い切りコンクリート床にぶつかる。

 

 「よし!」

 

 睦月はすぐに小夜達の元へ向かおうとしたが、

 

 「キエェェェェェェェェェ!!!!」

 

 先ほどの攻撃で逆上したデッドリマーが銃を辺り構わず乱射してきた。

 

 狙いは定めてなく、ただ辺り構わず乱射していた。

 

 「!」

 

 「ウワッ!」 「キャッ!」

 

 次の瞬間、小夜の拘束が解かれた。小夜はその場で膝をつきむせる。

 

 睦月はふとオーキッドアンデッドの方を見ると、ツタは右腕を庇うようにして添えられており、そこから小さな煙が出ていた。

 

 ―もしかしたら―、

 

 「小夜!左腕だ。左腕の腕輪を狙え!」

 

 「えっ?えっ?」

 

 「それを外せば恐らく舞花は解放される!」

 

 出会った時から気になってはいた。あの見た目からはおよそ似合わない金の腕輪。そこに入っていた空のカード。今にして思えば、あの怪物は右腕のツタによる攻撃しかしておらず、左腕は全く動いていない。さっきのデッドリマーの銃撃だって、わざわざ右腕のツタで防がなくても左腕で十分対処できた筈だ。それをしなかったということは、左腕にもしものことがあれば困る事情があるから。ならば狙うの左腕の中でもは空のカードが入っているあの腕輪だ。

 

 もっと早く気付くべきだった。ならばと睦月はオーキッドアンデッドの方へ向かおうとするが、

 

 「キエェェェェェェェェェ!」

 

 デッドリマーが後ろから飛びかかってきた。睦月はそれをラウザーで防ぎ、そのままモンスターと距離を取った。

 

 「(やっぱり、こいつを倒さないと先に進まない)」

 

 オーキッドアンデッドまでの道は近くて遠かった。

 

 「(小夜の所に行かないように上手く、そして早く倒さないと)」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「キャッ!」

 

 睦月に言われてから、小夜は左腕を狙ってラウザーを撃っていたのだが、外れるかツタで弾かれるかで全く当たらず、逆に返り討ちにあってしまった。

 

 「そう簡単に撃たせると思った?弱点が分かったからと言ってもあなただけじゃ何もできない」

 

 「うぅ…」

 

 小夜はうめきながらも何とか立ち上がった。

 

 「小夜、カードよ!」

 

 「えっ?」

 

 横から愛矢が叫んだ。

 

 「睦月さんは、いつもカードを使いながら戦ってたでしょう?あなたも同じならそれが出来るはずよ!」

 

 「そうか!」

 

 「させると思う?」

 

 オーキッドアンデッドはすかさずツタの鞭を小夜に放った。

 

 「キャァ!」

 

 愛矢はキッとアンデッドを睨むとそのまま突進していった。

 

 「何を!?」

 

 「あんた、いい加減にしなさいよ!」

 

 何とか両腕をアンデッドの左腕に伸ばし、そこについてるラウズアブゾーバーを取ろうとした。

 

 「これさえ取れば、解決でしょ!?」

 

 「その通りなのです!」

 

 さらにそこになぎさも加わる。

 

 「フフ…勇気だけは見込んだモノだけど!」

 

 「キャッ!」 「うわぁ!」

 

 「圧倒的力不足」

 

 そしてオーキッドアンデッドはツタを伸ばしながらジリジリと近付いた。

 

 「あなたたちなんて恐れるに足らないけど、虫けらみたいにブンブンしてるのもウザいわね。ターゲット変更。あなたたちから先に殺してあげる」

 

 そして、右腕を挙げツタの鞭を構えた。

 

 「なぎさちゃん!」

 

 愛矢がとっさになぎさに覆いかぶさるようにして庇った。

 

 「ダメですそれは。愛矢!」

 

 「死ね!!」

 

 『♢2 BULLET』

 

 ツタの鞭は横から飛んできた弾丸によって大きく逸れた。アンデッドが銃の飛んできた方向を見ると、そこにはラウザーを構えてた小夜の姿があった。

 

 「二人は絶対に殺させません!ハァ!」

 

 さらに小夜はラウザーの銃を連射した。先ほどとは明らかに銃弾の威力が上がっていた。これによってアンデッドは少し後退した。

 

 「良いわよ小夜!そのままあの腕輪を撃って!」

 

 「クっ!そうさせないわよ!」

 

 アンデッドは銃弾の攻撃に耐えながらツタをなぎさ達のいる方へ伸ばした。

 

 「うわぁぁぁぁ!」

 

 「なぎさちゃん!」

 

 「撃たないで!」

 

 オーキッドアンデッドはなぎさを人質にして攻撃を止めさせた。

 

 「汚いわよあなた!なぎさちゃんを返しなさい!」

 

 「殺し合いにルールも何もないでしょ!?勝てばいいのよ!」

 

 「キャぁ!」

 

 鞭の攻撃がまた小夜にさく裂した。

 

 「何か、カード・・」

 

 小夜はこの状況を打破できるカードを探すためにラウザーを開いた。しかし―、

 

 「(GEMINI? THIEF?どれを使えば?)」

 

 さっきは適当に選んで当たったから良かったが、まだカードを全然把握できていない小夜に必要なカードを選ぶなんて言うのは無理な話だった。

 

 「はい、隙だらけ」

 

 「キャ!」

 

 鞭の衝撃によって小夜は倒れた。辺りにカードが散らばる。

 

 「小夜!(これ以上はもう無理だ!)」

 

 デッドリマーと戦っていた睦月は、取りあえず凍らせようとBLIZZARDのカードに手を掛けた。しかし、一瞬目をオーキッドアンデッドに向けた瞬間をデッドリマーは見逃さなかった。

 

 ズキュン!!

 

 「アガッ!」

 

 銃弾をカードを持っていた右手に受けてしまい、睦月はカードを落としてしまった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 小夜が倒れたすぐ側にSCOPEのカードがあった。

 

 「これで終わりよ」

 

 自分は英語が苦手だからそれの正確な意味は分からない。だけど、鞭も迫ってる、なぎさちゃんも人質に取られてる今、もう迷ってる暇は無い。

 

 小夜はカードを手に取って、アンデッドの鞭の攻撃を反射的に転がるようにして避けた。

 

『♢8 SCOPE』

 

 すると、不思議な感覚を味わった。アンデッドが左腕に付けているラウズアブゾーバー、その狙いが先ほどとは違いより精度高く狙いが定まり、なぎさがいるのも関係ない。彼女に当たらないようにして撃つ軌道が手に取るように分かったのだ。まるでレーザーポインターの付いた銃のシューティングゲームをプレイしているかのような。

 

 その感覚を信じて、小夜は一発発砲した。

 

 その銃弾は吸い込まれるようにしてラウズアブゾーバーに近づいていき、見事的中。遂にオーキッドアンデッドの左腕から離れ、宙を舞った。

 

 「あァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 オーキッドアンデッドの体が緑色に光り、全身が細く歪んだ。そして舞花の体からオーキッドアンデッドの体が引き剥がされた。

 

 「アグッ!」

 

 舞花はその場で倒れ、アンデッドは反対方向に投げ出された。

 

 「やった…」

 

 「舞花の体を取り戻せたのです」

 

 「凄いぞ!皆!」

 

 デッドリマーを抑えながら睦月は言った。

 

 「皆、舞花を連れて早く離れろ!後は全部俺が…」

 

 「貴様ァァァァァァァァ!!!」

 

 立ち上がったオーキッドアンデッドは今まで発した事の無かった声色で小夜に迫った。

 

 「よくも!よくも!よくも私の体を~!!」

 

 何度もツタの鞭を打ち付け、最後はそれを小夜の首に絞めた。

 

 「もう遊びは終わりよ。あなたを粉々にしてやるわ」

 

 「小夜!」

 

 睦月は迫ってきたデッドリマーをラウザーで弾くと、そのままラウザーをアンデッドに向かって投げた。

 

 「キャッ!」

 

 それは見事ツタに当たった。小夜はその場で激しく咳き込む。

 

 「邪魔すんじゃないわよ!」

 

 辺り構わずツタを繰り出した。

 

 「うわぁ!」

 

 「あなたはそこの猿と遊んでなさい。それとも、あなたも私に殺されたい?」

 

 そして今度は睦月の首を絞め始めた。

 

 「だったらお望み通りにしてあげる」

 

『♢4RAPID』

 

 そんなアンデッドの背後に向かってマシンガンのような攻撃をした。

 

 小夜だった。

 

 適当にスラッシュしたカード。それはラウザーの弾丸の充填速度を上げる効果を持っていた。故に今のラウザーはマシンガンのような攻撃が可能だった。

 

 「睦月さんを離してください!」

 

 「バカな娘。さっさと逃げれば良いものを」

 

 アンデッドはツタを離し、再び狙いを小夜に定めた。

 

 「待て!相手は俺d…」

 

 「ウッキャァァァァァァ!」

 

 デッドリマーが飛び出してきた。

 

 「うわぁ!」

 

 そののし掛かりを受け、睦月とデッドリマーは地面に倒れ、二人でもみくちゃになった。

 

 「(クソッ!こんなのを相手にしてる場合じゃないのに!)」

 

 ふと地面を見ると、オーキッドアンデッドから外されたラウズアブゾーバーが見えた。

 

 その時、睦月の頭の中に何かが流れた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 『剣崎…俺のキングフォームを見ろ』

 

 俺の左腕にはあの金の腕輪が付いていた。自分には覚えの無い記憶だ。だけど、懐かしい遠い記憶。

 

 『睦月…強くなったな』

 

 俺の目の前に仮面ライダーギャレンがいる。だけど、小夜の時とは少し違う。全身が金色で覆われているし、背中には翼の様なものが付いている。そして左腕にはー、

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「小夜!左腕にその腕輪を付けろ!」

 

 「えっ?」

 

 睦月には全く覚えが無かった。だけど、あの情景は何故か信じられた。だから言った。

 

 「そこにクイーンのカードを入れてジャックをスラッシュするんだ!」

 

 「えっ?は…はい!」

 

 「まる聞こえ」

 

 オーキッドアンデッドが小夜に向かってきた。

 

 「んん…」

 

 小夜はすぐにまだRAPIDの効果があるラウザーの銃弾を放った。

 

 しかし、そのダメージに怯む様子はなく、ツタで銃弾もろとも弾かれてしまった。

 

 「キャッ!」

 

 「小夜さん!」

 

 愛矢はラウズアブゾーバーの落ちてる方へ向けて走り出した。

 

 「これを小夜さんに届ければ…」

 

 「だ~か~ら~」

 

 アンデッドはツタで愛矢ごとラウズアブゾーバーを弾き飛ばした。

 

 「あぁ…」

 

 「愛矢!」

 

 「何かこちらが不利になるかもしれないっていうアイテムを誰が使わせるっていうの?」

 

 「(難しいか…)」

 

 アンデッドとの戦いを見て、睦月は顔を歪めた。とは言えこちらも、咄嗟にラウザーを投げてしまったので今は慣れない素手での戦い。立体的に動いているモンスターとは相性が悪かった。

 

 そんな中、睦月達もアンデッドも誰も気が付いていない事態が起きた。舞花が目を覚ましたのである。

 

 「(あれ…?私…)」

 

 しかし、体はまだ思うように動かなかった。目の先には、ギャレンを圧倒するオーキッドアンデッドがいた。

 

 「(あの怪物…確か、私の頭の中に浮かんだ…そしてそれが私の中に入ってきて…)」

 

 舞花はゆっくりと、自分に何が起きたのか思い出していった。

 

 「(そうだ。私はあの時変身しようとして…だけど…失敗して…あいつが…じゃあまさか…)」

 

 今度は視線をアンデッドではなくギャレンに向けた。

 

 「(あの娘が…助けてくれた?)」

 

 「キャァァ!」

 

 アンデッドの攻撃を受け、再び小夜は倒れた。それでもまた立ち上がろうとする。

 

 「まだやる気なの?もうあなたの体はボロボロの筈よ」

 

 「それでも、皆を守れるなら私は闘う!」

 

 その言葉に舞花は目を見開いた。

 

 「(どうしてそんな言葉が言えるの?昨日、あんなに酷い事を言ったのに。あなたの事、嫌いだったのに)」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私は出会った時からあの娘の事が好きでは無かった。話し掛けても無関心でいつもオドオドしていて何がしたいのかが分からない。私は、そんな会話ができない子が苦手で嫌いだった。だからあの時、小夜と同じ部屋になった時は本当に嫌だった。

 

~一週間前~

 「部屋を分ける?」

 

 「そ、理由は単純。5人は狭い!」

 

 「あ~、それは私も感じてた」

 

 「でも、勝手に他の部屋なんか使って怒られないですか?」

 

 なぎさはそう尋ねた。

 

 「それなら大丈夫。ここのアパートの大家さんと俺は昔からの顔馴染みでな。他の住民が出払って、俺だけが残るって決めた時その人から他の部屋も好きに使っていいって鍵をくれたんだよ」

 

 「大家さんなんていたの?」

 

 すかさず私は突っ込んだ。

 

 「そりゃいるよ。ここアパートだよ?」

 

 「でも、そう言えば私も会ったことない…」

 

 愛矢もまた、まだ見ぬアパートの大家に興味を示した。

 

 「あ~、それはな、あの人元々フットワークの軽い人でしょっちゅうどこかに出掛けてたんだよ。で、ここのアパートが俺だけになるって決めた時に、後は任せたとか言って海外旅行。それで今はチベットにいるんだよ」

 

 「自由な人なのです」

 

 「というか、一介の大家がそれでいいの?」

 

 私となぎさは呆れたように言った。

 

 「まぁそういう訳だから、部屋は使ってOK。5人だから3:2で別れて二部屋使うでいいでしょ」

 

 「で、どうやって別れるのです?」

 

 「くじ引き…とかですか?」

 

 ここでようやく小夜の口が開いた。

 

 「いや、それでも良いんだけどまず愛矢!」

 

 「えっ?私?」

 

 名指しされると思わなかったのか少し動揺した。

 

 「お前は変わらず俺の部屋だ」

 

 「えっ?それは構わないけど、何で?」

 

 「愛矢はいつも料理作ってくれてるからなぁ。出来ればそのままでいて欲しいんだ。他の部屋でも料理はできるけど、いくら自由に使っていいって言っても料理までそこでするのはさすがにどうかなと」

 

 「なるほど。うん。分かった」

 

 「で、他の皆は…くじ引k…」

 

 「愛矢がそうならなぎさも同じ部屋が良いです!」

 

 なぎさが愛矢に抱きつきながら言ってきた。

 

 「いや、なぎさちゃん、そんな勝手は」

 

 「いや、私はそれでも構わないよ。愛矢となぎさって仲いいからね」

 

 嘘だ。

 

 「私も、別にそれでも」

 

 「そう?悪いね。じゃあ千翼と小夜は隣の部屋ってことで」

 

 「うん!了解」

 

 嘘だ。本当は了解なんてしたくなかった。小夜と一緒になれば話しかけても無反応。そんな不毛な時間が流れることは目に見えている。そんな風になるのは嫌だった。だけど、私は睦月を除けば恐らく一番年上だ。そんな理由でわがままを言って皆を困らせるのはもっと嫌だったから私は渋々了承した。

 

 私は、小夜と二人きり、無言の時間を過ごすのが嫌だったし、そのことを小夜に知られるのも嫌だったので、寝る時を除いてできる限り睦月たちと一緒にいるようにしていた。私は、小夜の事を全く知ろうとしなかった。彼女の事を、心のどこかでは完全に拒絶していた。

 

 だから、彼女が私が変身するはずだったライダーに変身した時は、驚きよりも怒りの感情の方が大きかった。どうしてこんなおどおどした弱い子が変身したんだ。こんな子よりも私の方が絶対に相応しいのにと。

 

 その感情が抑えきれなくて、遂にあの時、あんなことを言ってしまった。

 

 『無理に決まってるわよ。普段からうじうじしてるような人が戦うだなんて無理に決まってるわよ。さっきだって、ただ銃をバンバン撃ってただけで全然攻撃出来て無かったし。あ~あ、やっぱり、私が変身するべきだったのよ。あの時変身出来なかったのは、最大の失敗だったわ』

 

 そして私はこの子よりも私の方がライダーには相応しいと証明するためだけにハートのカードと腕輪を盗んだ。そして結果はどうだ?失敗して、怪物が甦って、最悪な状況を作ってしまった。

 

 そんな私を、小夜、あなたはどうして助けてくれたの?

 

 「馬鹿だな、私」

 

 理由なんて、本当は分かってる。彼女の事を少し見下してもいたからその一面にしっかりと目を向けなかっただけで。

 

 彼女は、私やなぎさや愛矢、それにもしかしたら睦月よりも、優しくて自分でも気づいていないほどの勇気を持っている人だからだ。

 

 だから、私がセミの怪物に襲われそうになった時も、皆が動けない中彼女は勇気を持って助けてくれた。

 

 変身したのだってそう。私たちを守るために怖いのを我慢してあんなに強い怪物に立ち向かっていったじゃない。私なんか、変身すればテレビでよく見る世界を守るスーパーヒーローになれると、そんな安直な理由で変身しようとしていたのに。

 

 本当にライダーに相応しいのは私じゃない。小夜、あなたよ。

 

 なら、私がするべきことは一つしかないわよね。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「ハァ…ハァ…」

 

 小夜は遂にべったりと地面に体を付けてしまっていた。

 

 「フフフフ…ようやく限界が来たって感じかしらね」

 

 そしてオーキッドアンデッドは右腕を大きく振り上げた。

 

 「これで、終わりよ!」

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 「なっ!?」

 

 舞花がオーキッドアンデッドに飛び乗り、その首を両腕で羽交い絞めにした。

 

 「なっ、何を!?」

 

 「小夜!今のうちに早くあの腕輪を付けて!」

 

 「舞花…さん…」

 

 「そんな所で寝てちゃダメよ!私たちが眠る場所は、いつも一緒でしょ!?」

 

 「くそっ!離せ!」

 

 「離すかぁァァ!!」

 

 オーキッドアンデッドも舞花自身も知らなかった事だが、アンデッドと彼女との融合を無理矢理引き剥がしたために、彼女の中にはまだ少しだけオーキッドアンデッドの力が残っていた。

 

 「小夜!早く!」

 

 「はっはい!」

 

 小夜は立ち上がってラウズアブゾーバーを掴んだ。

 

 「えっと、クイーン…クイーン…あった!」

 

 『♢ ABSORB QUEEN』

 

 「次はジャック!」

 

 『♢ FUSION JUCK』

 

 すると金のクジャクのようなオーラが出てきて、それが小夜の体を包んだ。そしてギャレンの姿が変わっていった。

 

 前身は赤と金で覆われ、背中には翼が生え、ラウザーの銃にも金の短剣が付いた。

 

 「(あの姿は…)」

 

 その姿は睦月が見た姿と全く同じだった。

 

 「おのれぇぇ!」

 

 「キャッ!」

 

 一瞬力が緩んだすきにアンデッドは舞花の拘束を振りほどいた。

 

 「新しい力を手に入れたようね。だけど、それがひ弱なあなたじゃ宝の持ち腐れよ!」

 

 アンデッドは小夜に向かって突進していった。小夜は冷静にラウザーを向け、発砲した。

 

 「なっ!?あっ!あぁ!!」

 

 小夜の頭は冷や水でも浴びせられたかのようにすっきりと澄んでいた。何をするのが最適解か。自然と頭に入ってくる。

 

 今、彼女と仮面ライダーギャレンは、完全に一つになった。

 

 「(小夜…)」

 

 その美しい姿に睦月も安心した。

 

 「ウキャァァァァァァ」

 

 「おっと!」

 

 向かってきたデッドリマーをギリギリのところで躱す。

 

 「あんたも何見惚れてるのよ!?ほら、さっさと倒しちゃいなさい」

 

 舞花がラウザーを投げてよこした。

 

 「ありがとう。舞花!」

 

 そして受け取ったばかりのラウザーでそのまま再び向かって気たデッドリマーを斬りかかった。

 

 「睦月!これも!」

 

 舞花が先ほど落としたカードも投げた。いつの間にか拾ってくれていたのだ。

 

 「何から何までありがとう。舞花!」

 

 『♧6 BLIZZARD』 『♧3 SCREW』

『ブリザードゲイル』

 

 そして右腕を向け、あちこちを飛び回ってるデッドリマーに吹雪をぶつけた。見る見るうちにモンスターの体は凍り付く。

 

 「これで終わりだ」

 

『♧2 STAB』

 

 そしてラウザーの先端に力を籠め、凍った状態で向かってくるデッドリマーに向かって思い切りラウザーを突き出した。そしてモンスターの体は粉々に砕かれた。

 

 小夜はまだ全てのカードの効果を把握していないし、英語も苦手だから推測もできない。だけど、今回の戦いで適当にスラッシュしたカードからどれをスラッシュすればいいのかが分かった。

 

『♢2 BULLET』 『♢6 FIRE』 『♢4 RAPID』

『バーニングショット』

 

 小夜の背中の翼が開いた。

 

 「おのれ!」

 

 そしてアンデッドの放ったツタを飛んでかわした。

 

 「なっ!?」

 

 そして銃口を構えて、炎弾を何発も連射した。

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 炎が何度も爆発し、遂に爆発四散した。

 

 「あっあぁ…」

 

 アンデッドは小さく痙攣し、腰についていたバックルが開いた。小夜はその近くに降りた。

 

 睦月は小夜に近づき、空のカードを渡した。

 

 「小夜、お前が封印しろ」

 

 「はい」

 

 小夜はオーキッドアンデッドのバックルにカードを落とした。緑の光に包まれ、その体はカードに吸い込まれていき封印された。

 

 小夜はバックルを閉じて変身を解除すると、そのままグラット倒れこんだ。

 

 「小夜!?」

 

 慌てて舞花が支える。

 

 「さすがにダメージが大きかったんだな。すぐに家に帰ろう」

 

 小夜の体を睦月が担いで家へ向かった。その間、舞花は今まで見たことのない複雑な表情を浮かべていたが睦月は気にしなかった。

 

 あまり、悪い感情を思ってるようには見えなかったから。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 夢を見ていた。ここは知らない場所?いや違う。ここは私が住んでいた家だ。

 

 階段を急いで駆け上がり、自分の部屋に入ると、そこの一番大きな窓のふちに“それ”はいた。

 

 「キュウベエ、お願いがあるの!」

 

 私の中にあった小さな闇。どこへ行っても辺りを見渡しても何もない。その闇に潰されないように私は睦月さんに会った短い間過ごしていた。

 

 その闇が晴れていく。そして私の中で一つの答えが生まれる。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 小夜のダメージは♡9のRECOVERで回復させた。小夜は安心したのかそのまま眠った。

 

 時刻は深夜。なぎさも愛矢もとっくに眠ったが、睦月は眠れなかった。

 

 「(あの時見た光景は何だったのだろうか)」

 

 小夜にあの腕輪の使い方を教えた時に見た情景。とても幻とは思えなかった。睦月は初めて変身した時の事を思い出した。あの時の自分は、あれでの戦い方を体で理解していた。やはり自分は前にも一度変身している?だけど、あのベルトが現れた時期と魔女が別世界から現れた時期がほぼ一緒ならそれはあり得ないし、第一そんな記憶はない。では、あの時見た情景は何だったのだろうか。

 

 「(だけど、それよりもまずは小夜のことか)」

 

 これからも、小夜を戦わせるかどうか。だけど、それはもう睦月の中では考えはまとまってた。やはり、戦わせるのは止めた方がよさそうだ。今日の戦い、あれは小夜のおかげで何とか乗り切ったがこれからもそうだとは限らない。あれは死んでいてもおかしくなかった。そもそもようやく魔女という運命から解放させたのにまた苦しい目に遭わせるのはやはり自分の本望ではない。もしも、まだ小夜がまだ迷っているようなら、ちゃんとやめるように伝えよう。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 「睦月さん、ちょっといいですか?」

 

 驚いて振り向くと、そこには小夜が立っていた。

 

 「小夜!まだ寝てなきゃダメだろ!傷は治したけど、疲れはまだあるんだからさ!」

 

 「はい、だけど、聞いてほしいことがあって。外、いいですか?」

 

 睦月は小夜の表情を見てただならないものを感じ取り、一緒に外に出た。

 

 「それで、話って?」

 

 「あの、知らなかったらごめんなさい。だけど、正直に答えてください」

 

 小夜は大きく息を吸うと言った。

 

 「私は、魔女…だったんですよね?」

 

 最初、小夜が何を言っているのか分からなかった。あまりにも唐突だったので、睦月の思考は一瞬止まった。

 

 「ま…魔女?」

 

 「睦月さんは、私は怪物に囚われてる所を救出したって言ってましたけど、あれは嘘だったんですよね。本当は私自身が魔女で、睦月さんがそこから救出してくれた。そうですよね」

 

 「待て、お前、まさか…」

 

 「はい、全部思い出しました。自分が魔法少女だったことも、何でそれになったのかも、魔女になってしまったことも全て」

 

 冷たい夜風が二人に流れた。その心地よさを感じる暇はもちろんなく、睦月は小夜の事をただただ見つめていた。

 

 「そうか。全部思い出して。ごめん。嘘ついて」

 

 「いえ、それは良いんです。全部私のためについた嘘なんだって分かってますから。だけど、その上で決めたことがあるんです」

 

 「決めたこと?」

 

 「私、ライダーを続けます」

 

 睦月は大きく目を見開いた。それに構わず小夜は続ける。

 

 「私、魔法少女になりましたが、その後、自分が本当になってよかったのか、ずっと悩んでいたんです。そして、その答えが出せないまま魔女になった。だから、睦月さんから与えてもらった命で、その答えを見つけたい。そのために私、ライダーになって戦いを続けたいんです」

 

 「待て待て待て、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか!?今日の戦いを見ただろ!?危険だぞ。本当の殺し合いなんだぞ!俺は、皆が魔女で苦しい想いをしたって知ってるから、もうそういう世界には巻き込ませたくなかったのに」

 

 「はい、それはごめんなさい。だけど、私が決めたことですから」

 

 「でも、もしも何かあったら…」

 

 「そんなこと、私がさせないわよ」

 

 物陰から別の声が聞こえて、睦月は驚いた。そこには舞花が立っていた。

 

 「私が、全力でサポートするわ」

 

 舞花がいたことは小夜も知らなかったみたいで、彼女も慌てていた。

 

 「千翼さん、あなた、いつから!?」

 

 「悪いけど、全部聞かせてもらったわ。あなたが魔女だったことも全部ね。ということは睦月、私も魔女だった。そういうことなのかしら?」

 

 「あっ…」

 

 小夜は魔女だった。とするなら、彼女と同様に怪物に囚われてる所を助けたと言っていた舞花も本当はそうだったという結論になるのは当然の事だった。

 

 睦月は声も出なかった。その無言が肯定を意味していることは言うまでもない。

 

 「やっぱりね。だけど、私にはまだピンと来ないわ。何で魔法少女になったのかも、魔法少女になってどうしたのかも全く思い出せないのよね」

 

 「舞花…俺…」

 

 「良いのよ。何も言わなくて。何であなたが嘘を言ったのかも分かってるから。それよりも、ありがとう。助けてくれて」

 

 「いや…そんな」

 

 「とにかく!」

 

 舞花は小夜の肩をガッツリ掴んだ。

 

 「この子のサポートは私に任せて!絶対に死なせたりしないから!」

 

 まさかこんなことになるとは思わなかった。小夜は争いは好まないタイプだったのに戦うと言い出すし、舞花は自分がライダーになることはきっぱり諦めた様子で、それどころか小夜を見る目が明らかに変わっていた。

 

 「本当に良いんだね?」

 

 だけど、そういう性格だと知ってるからこそ小夜の決意は相当なモノだと分かっていた。だったら、それを尊重させるべきかもしれない。

 

 だって小夜は、自分が魔法少女だったときの過去と向き合おうとしてるんだから。

 

 「はい」

 

 迷うことなく小夜は頷いた。

 

 「だけど約束してよ。絶対に死んだりしないって」

 

 「はい」

 

 「というか、私が死なせないわよ!ギャレンは私と小夜でなるんだから!」

 

 舞花がそう高々と宣言した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そこで話は終わり、3人は自分の部屋へ戻って行った。

 

 「小夜、これからもよろしくね!」

 

 「…無理しなくていいのよ」

 

 「えっ…?」

 

 「魔女だったこと。例え覚えていなくても、それを知って平気な訳無いじゃない。私だって、怖かったんだから」

 

 小夜の目には涙をが貯まっていた。ずっと、我慢していたんだ。

 

 「私、ちゃんと見てたんだから、魔女の事話してたとき、声が少し震えていたの。今は誰もいないんだから、一緒に泣こ?」

 

 小夜はそう言って手を伸ばした。その手はとても歪んで見えた。

 

 私の強がりな嘘なんて、小夜の優しさの前ではお見通しだったんだ。

 

 気がつくと、二人で抱き合いながら一晩中泣いていた。

 

 少しでも辛い事実が洗い流せるように。これから、クインテットの皆と本当の笑顔で過ごせるように。

 

 

続く




<レンゲル裏話>
第16話のサブタイトルを解説します。

あれは、ジオウのエグゼイド編のオマージュで、ドイツ語で書かれた文章をローマ字読みしたモノでした。

書き直すと、
ein Madchen als Diamant ausgewahlt

となり、「ダイヤに選ばれる少女」という意味になります。

ドイツ語は大学でも履修していなく、ネットの翻訳サイトを適当に写しただけなので、文法等の間違いについては目を瞑ってください(懇願)



それはともかく、レンゲルでのダイヤのカテゴリー8は非常に面白いのでお楽しみに!

次回は久しぶりのゲイツサイドです。

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