ストーリーとしては考えていたけど、全体の都合上カットしたお話をお送りします。
尚、これは悪魔で短編という扱いなので、読まなくてもストーリー上は問題ありません。
お時間が空いた時にどうぞ。
短編については通常よりもストーリーは短いので週一連載を頑張ります…。
天野小夜編
キャン!キャン!
出会いは突然だった。私はいつものように家の近所を走って基礎体力を付けるランニングトレーニングをしていたのだが、その道中、この子犬と出会った。
犬種はチワワで、全身を真茶色の毛で覆われていた。大きさから言ってまだ子犬のようだった。その子犬のうるんだ瞳が真っすぐ私の方を見ていた。
かわいい。私はその視線に釘付けになった。
私は昔から動物が好きだった。犬でも猫でも鳥でもなんでも。理由は単純。かわいいし、人懐っこいから。
どんなに臆病でも、乱暴さんでも、心を開いてくれればすぐに友達になれる。そんな素直な所にも私は惹かれたのかもしれない。
「おいで」
私はしゃがんで、この子犬に手を差し出した。子犬はすぐに近寄ってくれた。近寄って私の掌を舐める。ちょっとくすぐったい。
「君、何でここにいるの?飼い主は?」
私は辺りを見渡したが、飼い主らしき人影は見当たらなかった。ふと、首のあたりの毛をかき分けるとそこに首輪があることに気付いた。よく見ると、文字が彫ってあった。
「ベック…?」
キャン!
大きな返事。それがこの犬の名前で間違いなかった。
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そのままにしておくのがどうしても出来なかった私は家までベックを連れてきた。
「キャー!凄いかわいい!」
「ベック、こんにちは。初めまして。愛矢です」
「睦月、飼おう!飼おう!飼うのです!」
なぎさちゃん、愛矢さん、舞花さんはすぐに気に入り、順々に抱っこをしていた。睦月さんはどうも複雑な表情をしていてなぎさちゃんの飼おうという言葉にもすぐには頷かなかった。
「睦月さん?」
「いや、まぁ言いたいことは分かるが、内、一応ペット禁止ってルールあるから…」
「だから何よ!こんなかわいい迷子を見捨てるっていうの!?それでもライダーな訳?」
聞き捨てならないと舞花さんが割り込んできた。
「いや、そこまで言っては…」
「じゃあ大丈夫よね?」
「いや、えっと…」
私を含め、全員の眼差しが睦月さんの目を見ていた。その圧力に参ったのか、
「はぁ、飼い主が見つかるまでだぞ」
最終的にはOKしてくれた。
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「ペロ吉、散歩行くよ!」
この日から、ベックとの生活が始まった。トレーニングは一時中断して、その時間が全てベックと遊ぶ時間に変わった。散歩のとき、誰がリードを持つのかはじゃんけんで決めた。今日は愛矢さん、明日がなぎさちゃん、明後日が舞花さんでその次が私、最後が睦月さんだ。
その道中に、睦月さんがポスターを次々と貼っていく。ベックの写真を中央に大きく載せ、側に『迷い犬を保護しています』という言葉とクインテットの電話番号が書かれている。
「気持ちは分かるけど、俺たちのペットじゃないんだから。ベックのお世話と同じく、飼い主探しも真剣にやらないとな」
睦月さんは犬はあまり好きじゃないのかなと思っていたら…
「よっしゃぁ!取ってこ~い!」
全然そんな事は無かった。あれだけペロ吉を預かる事には低姿勢だったにも関わらず、公園まで来てみれば誰よりも楽しく遊んでいた。
「ちょっと睦月、いい加減に私に変わってよ」
しびれを切らして舞花さんが飛び出してきた。
「まだまだだって。行くぞ!ほら!」
睦月さんは再びボールを投げた。ベックはそれを空中でキャッチした。
「よし!じゃあ戻ってこ~い?」
だけど、ボールを咥えて向かった場所は睦月さんではなく…え?私?
「ベックも、睦月よりも小夜と遊びたいってさ」
「うっ…う~」
睦月さんが寂しそうな声を余所に、ベックは尻尾を振りながら私をじっと見ていた。
それを見たら、私も嬉しくなった。
「じゃあ、行こうか」
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それから4日経った頃だった。
「いよいよ今日ね」
「うん!」
今日は私がリードを持って散歩をする番だった。そこにー、
「ベック!」
「えっ?」
一人の女性が現れた。彼女の名前は永山 若葉(ながやま わかば)。隣町でアクセサリーショップを経営してる人で、ベックの本来の飼い主だった。
「ずっと心配してたんです。保護して頂いて本当にありがとうございました」
彼女が言うには、私がベックと初めて出会ったあの日、病院で予防接種を受ける日だった。だけど、怖くなって逃げ出してしまったということだった。
そんな事を睦月さんと話していたが、正直私にはどうでも良かった。いつか、こういう日が来る事は分かっていたけど、それがこんな前触れも無くやってくるなんて。
「とにかく、見つかって良かった」
最後に睦月さんがそう言って締めくくった。そして、それに続く言葉に私は衝撃を受けた。
「だけど、返すのはもう少しだけ待ってくれませんか?」
「えっ?」
「今日は、小夜―そこでベックを抱いている女の子ですが―が初めて散歩をする予定だったんです。彼女は誰よりもかわいがっていて、それで、せめて散歩だけはちゃんとさせてあげたいと思うんですよ。いけませんか?」
すると、若葉さんは微笑んで、
「いえ、そういうことでしたらもう少しだけ、そちらに預けようと思います。小夜さん、思い切りベックと遊んでやってください」
私は、心から二人に感謝した。
最後の一日、と言っても特別な事はない。四日間そうしていたように近所の公園へ行き、ボールやフリスビー(睦月さんが買ってきた)で遊ばせる。そんな何気ない日常だったからかな。これから、それが出来なくなると思うと、自然と涙が溢れてきた。
「ちょっと小夜、何泣いてるのよ!」
私が泣いてるのに気付いた舞花さんが私を小突いて来た。だけど、そんな舞花さんも目に涙が。
「ほら、しっかりしなよ!永遠の別れじゃ無いんだから!」
クゥーン…
ベックが私の涙を舐めた。それはくすぐったくて、とても温かかった。
まるで、泣かないでって言ってるかのようだった。そんな様子を見て、私はギュッとベックを抱き締めて言った。
「大丈夫だよ。ありがとうね。またきっと会う。約束する。だから、あなたも私と約束して」
そして、泣き笑いのまま私は続けた。
「注射から、逃げちゃダメだよ」
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「今まで、本当にありがとうございました」
ベックは若葉さんに返した。そして若葉さんはベックを抱いたまま私の所に近付いてきた。
「あなたが、ベックを見つけてくれたんですよね。本当にありがとうございます。これはほんのお礼です」
そうして渡してきたのはペロ吉に良く似たキーホルダーだった。
「私、ここから少し離れた町で小物屋をやってるんです。これは、私が作った世界で一つのベックキーホルダーです」
「そんな、こんな大切な物」
「いいんです。私にとって、ベックは宝のようなものなんです。それを助けてくれたんだから、私もそれに相応しいお礼がしたかった。それだけですから」
そうして私に微笑むと、睦月さん達に目を向けて言った。
「今まで、ベックを大切にして頂いて、本当にありがとうございました」
そしてペロ吉は本当の飼い主、若葉さんの元へ帰って行った。
「別れは寂しいけど、あなたと過ごした四日間、私は絶対に忘れません」